展望台に到着するとすでに渚カオルが待っていた

「どういう用件があるのかしら?渚カオル君」

「じっくりと話をしたいと思いまして」

彼からそんなことを言われても、私は嫌な事だと感じていた
断ればどうせ学校で質問されるだけだ。それならここで話をした方が良い
護衛以外に話を聞いている人間はいないのだから

「シンジ君はどうしてあなたに頼ったのですか?」

「またその質問なの?彼は自らを咎人だと思っていた。でも世界を救う義務があるという考えも持っていた」

これは『私』の言葉だ。悲しみに暮れていてもどうしようもない
戻せるなら人々が自らの考えで生活している社会を『私』は望んだ
だからあの赤い世界から元に戻したのだ。
もう1度、人にやり直すチャンスを与えた。
過去を忘れず、いやそれを糧にして生活してほしかった
でも現実は平和な世界とはかけ離れていた
人々は争いばかりを起こしてしまった

「どうして止める事をしなかったんですか?シンジ君が自殺することを」

「何度も言うけど、それが彼の意思だから。彼の行動は悩んだ末の決断だった」

そう言い続けるしかないのだ。昔の『碇シンジ』は死んだのだから
今は第三新東京市立大学に通う女性学生に過ぎない
さまざまな検査をしても私を使徒であるという事は発覚しないように小細工はしている
ばれるはずがないのだが、彼は例外だ。影の部分を知っているのだから
ゼーレの事についてはよく知っている。だからこそ警戒するのは当り前のことだ

「シンジ君は満足のいく決断をしたと?」

「そうよ。彼は自分の存在理由に悩んでいた。私はあくまでも提案をしただけ」

そう言うしかないのだ
これが答えなのだ。たとえどんなに残酷な答えだとしても
もう私はあの時にすべてを捨てる事を決めた
新しい『私』の生活することを選んだのだから

「話がこれだけならもういいかしら?私も忙しいし」

その時私は冷たい視線を感じた

「伏せて!」

私はとっさに渚カオルを押し倒した。人を殺すための視線を感じたからだ
簡単に言えば銃口を向けられているような視線を。
私が彼を押し倒すと私のいた位置に銃弾が飛んできた

「あなたも行動を自重することを覚えるべきね」

渚カオルを引っ張る形で展望台に止まっている車の影に隠れた

「あなたを守るのは私の仕事じゃないんだけど」

私は愚痴るかのように言う。確かにその通りだ。
教育実習で通っている生徒とは言え、体を張って守るのは私の守備範囲ではない
警察に連絡しようとしたがジャミングがかかっていた。どうやっても消したい奴がいるようだ
私は少し悩んでしまった。足首に装備しているリボルバーを使いたいが、長距離狙撃をされている
どう考えても射程の範囲外だ。反撃する手段はない。それに彼の前で銃を使うわけにはいかない
私はただの一般人なのだから。表向きは