第三新東京市 地下ジオフロント ネルフ本部

シンジの父としては彼女がシンジを本当に見殺しにしたかという点において不審に思っていた
シンジにした我々の行動はあまりにもひどいものだということはわかっている
到底許されるものではない。だからこそ水川カオリの事情聴取は慎重にする必要がある
ユイが大学で彼女を引き抜こうとした時に声にはせず、読唇術だけでしかわからないゼーレという単語
一般人の彼女が知るはずがない。つまりどこかでその情報に触れる機会があった

「あなた」

ユイの心配そうな声と表情に私は大丈夫だと返事をした

「彼女は本当に?」

「おそらくだが。シンジのことについてかなり詳細な情報を持っている」

「どうするつもりですか?」

ゼーレの幹部だった連中に所在については今のところ分からない。
まるでそこだけ切り捨てたかのようにゼーレの関係者の消息が分からないのだ
それは神の仕業なのかどうかはわからないが

「我々には彼女が持っている情報が必要だが。強引に進めるわけにはいかない。お互い協力的に話を進める」

昔の私なら手段を問わずにやっていたかもしれない。汚いこともしてきてこの立場にいるのだから
世の中、きれいごとだけで生きていけるほど世界は寛容ではない
だがシンジの関係者なら誠意を見せるべきだ。罪を認めるべきだ
世界の人々に対してネルフが正義の味方であるという工作をしたのは我々だが
あの『神の声』でもネルフによって正義がもたらされたという含みのある言葉
それによって我々は存続されているのだ。普通ならもう抹殺されているのに
シンジがもしその神なら我々はシンジによって救われたことになる
恩を仇で返すのは昔の私なら容易に行っただろうが今は違うのだ
真実を知ることが重要だ

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ネルフ本部留置施設

「君とは友好的に話をするようにと指示を受けているからね。拷問のような真似はするなと」

「非人道的な事ばかりしてきたネルフからそんな言葉が出るなんて。いったい誰の影響でしょうね」

私は加持さんからの言葉に驚いた。
非人道的行為をいくつも続けてきたネルフが今更私に攻撃を仕掛けてこないとは

「上が君に対しては交渉で対応するようにとのお達しでね」

「彼が言っていたこととは真逆ですね。必要ならどんな手段も利用する。冷酷な組織であり家族だと言っていたのに」

それは『僕』から見た父の印象だった。
あの時の親子関係は普通ではなかった。ただ碇ユイに会うためにしか利用できるかしか見えなかった
その事は今でも覚えている。鮮明に

「シンジ君の遺志を持っている君を攻撃すれば何が出るかわからない。君を恐れているんだよ」

「そうやって私から情報を引き出そうとする。本当は私なんてどうでも良いんですよね。ネルフが欲しいのは真実ではない」

その言葉に加持さんは困ったような表情をしていた。本気ではなくおそらく演技だろうが

「シンジ君は何かほかに言い残していないのかな?」

「あなた達は彼をどうしたいんですか?英雄だと言って他の子供たちのように英雄視させたいのか」

そう、私も見極めなければならない。彼らが『僕』に何を求めているのか