海岸の町 旅館の自室
私は自室でさっきの嫌な電話を忘れようとテレビを見始めた
大したニュースはやっていなかったが、ある話題が持ち上がっていた。それはネルフ解体案だ
それは良いニュースだがアメリカが拒否権を発動して、安保理決議は否決されたと報道されていた
私にとってはあまり良いニュースではない。私なら解体してくれるならうれしいが。そんなことを認められる事は無いだろう
ネルフにもパワーがある。政治的圧力という名のパワーだ

「どうしてネルフはなくならないのかしら」

『コンコン』

「はい」

『カオリ。少し良いか?』

それはお父さんの声だった。私はテレビを消すと何か用事でもできたかもしれないと思って良いよと言ってドアのかぎを開けに行った

「何か用事でもできたの?」

ドアを開けると少し深刻そうな表情を浮かべたお父さんがいた

「それがな。ちょっとお前に相談したいことができた。第三新東京市の教育委員会からの研修を受け入れてくれないかと依頼があった」

仕事として受け入れたいがお前に何かあったら大変だからなと思って聞きに来たと。お父さんは心配性だ。
私はもう過去は振り返るつもりはないと答えた。だからお父さんの好きにしていいよと答えた。
それに大きなお客様だしネルフ関係者が混じっているという可能性は低い
だから私は気にしないで良いよと答えた。お父さんはいろいろと悪いなと言うと私の部屋を出ていった

「ネルフ関係者が来るのかしら。あとでルミナさんに問い合わせておこう」

『トントン』

「はい。誰ですか」

『カオリちゃん。話は聞いたよ。良かったら少し話せるかな?』

ユウさんからも話があるようだ。ここは彼からも情報を聞いておいた方が良いと私は判断したのだ
私は再びドアを開けると、靴を履いてユウさんを出迎えると彼と一緒に中庭に向かった

「それで話っていうのは、さっきお父さんが行っていた研修に来る人間のことですか?」

「そうだよ。勝手にとは思ったけど僕の方で独自に調べておいたよ。ネルフ関係者が混じっている。名前は伊吹マヤ」

これが経歴書だよと言って彼女の顔写真付きの経歴書を渡してきた
どうやって手に入れたのかは聞かぬが花というところだろう

「また関わってくると?」

「可能性は否定できない。また手を出してくるかも。用心はしておいた方が良いよ。それに覚悟もね」

手を出してきて再び誘拐される可能性があるという事だろう。そんな事態は避けたいところだ。
さらにできる事なら彼女とは揉めたくない。彼女は優しかったからだ。ネルフという非道な組織にいながら正しく生きようとしたからだ
私はそれを『記憶』として知っている。だから揉めたくなかった。

「研修に来たらできるだけ部屋にこもっています。もう関わりたくありませんから。ネルフとは」