海岸の町 旅館 私の部屋
その日の夜はなぜか寝付けなかった。だから私は寝間着から外出用の服に着替えると散歩をする事にした
ちょっとしたお出かけだ。砂浜まで行って帰ってくるだけ。それだけのことなのだが
私は中庭を抜けて玄関を通らずに脇を抜けて道路に出ると歩き始めた。
静かな夜だ。ただ、動物たちの声はする。この海岸の町の周囲には多くの動植物がいる
彼らは私を襲うような事はしない。理由は分かっているがあまり気にしない事にしている
神様なんていない方が世界のためだ。世界はそれぞれの意志で動いている。
神様がどんなに頑張ったところで、それを止める事はできないほどの強い意志もある
だから怖いのかもしれない。その意志に押しつぶされるかもしれないという恐怖に

「神様なんて、邪魔な肩書」

「あら、そんなことないと思うけど。カオリちゃん」

「ルミナさん!」

声をかけてきたのはルミナさんだ。それもバイクに乗っていた。
どうやら私は気づかなかったようだ。とんだおまぬけさんだ。

「ルミナさん、第三新東京市は良いんですか?」

「ええ、もう良いのよ。しばらくはね」

「それで、ネルフはどうなりますか?」

「そうね。しばらくはだんまりでしょう。局長も圧力をかけてくれているし、心配ないわよ。それでこんな時間にどうしたの?」

私は寝付けなくてとありのままを言った。私はただ、散歩をしたい気分だったのだ。
でも、プレッシャーがある。神様となる事の自覚はない。なのに目の前にはそれになれという現実がある
難しい問題だ。私にとっては、永遠に解決することない事だろう。

「バカね。あなたはあなた。神様なんて自覚する必要なんてないのよ。あなたはあなたのままであり続ければいいのよ」

「でも!」

「今はまだ解決できないかもしれないけど、いづれは、もしかしたら。ね?」

そんなことを話しながら砂浜に向かっていると目の前に大きな影が見えた
それは犬に見えたが

「犬じゃないわ!?」

ルミナさんの言うとおり、ニホンオオカミだ。もう絶滅されたとされていたが
サードインパクト後に再度生息が確認された絶滅危惧種に指定されている動物だ。

「動かないで!」

私はとっさにルミナさんの前に出た

「森に帰りなさい!今ならだれにも話さないわ!」

私が大声でそう言うと理解したのかどうかはわからないが。狼は去っていった

「あぶないわね。警察に報告しておくわ。人が襲われたらひとたまりもないもの」

「あの子にそんなつもりはないですよ。森から迷い出てきただけです」

「分かるのね」

「はい。あの子はそう言っていましたから」

私にはわかるのだ。動植物たちの声が。それが神様になってしまった宿命なのかもしれない。
だからできれば殺すような事はしたくない。安全に人と動物がお互い共存できればなによりなのだ