海岸の町 ルミナの家
「そうですか。わかりました」
私は本部からの報告を受けていた
『ティア、彼はかなりまずいところまで潜るつもりだから。おそらく死ぬことになるだろうね』
「なぜそこまで」
渚カオルがそこまでして守りたいならなぜ追い詰めるようなことをするのかが私には理解できない
諜報員でもなければ、そういう訓練を受けたことはない。それに彼は仮にももとはゼーレの人間だ
裏切ったものがどうなるかの末路はわかっているはずだ。そんな人間がそこまで守りたいと思うなら
『世界の安定のためにも彼女には幸せになってもらう必要がある。彼はそういっていたよ』
私には引き続きこの町の警戒をするように指示された。局長自らの指示だ
いくら世界の安定のためとはいえ、リスクがありすぎると感じるのは当然のことだ
まだ子供たちに体験させるにはあまりにも危険な世界だ
ただ、あちらサイドの情報を入手するためには適任であることもまた皮肉なことに事実だ
だから嫌に感じるのだろうか。自分たちに無力さを感じてしまうから
「どうして人は静かで平和な時間を壊そうとするのかわからないわね」
私は平和であり続ける事を望んでいるのに、世界はそれは無理だと言っている
光りある所に闇があるのだから。光りばかりで包まれている場所などこの世には存在しない
楽園があれば最高なのだが
「カオリさん。あなたが望む平和の世界になれることを私は切に願っています」
ルミナと同じように願い続ける。それがこの世界のためであり彼女のためなのだから
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第三新東京市 ジオフロントネルフ本部保安諜報部 加持リョウジの執務室
「渚カオルがゼーレと接触したのか」
『はい。どうしますか?』
「今は放置しておいていい。ただし碇司令には報告を入れておく」
彼の護衛を担当している保安要員からの報告に無茶な事をすると
もうさっき伝えたから覚悟の上なのだろう。昔の俺と同じだ。いくつもの草鞋を履いている状態になっている
ゼーレ、監察局、そしてルミナさん。それぞれに思惑がある。ただ彼女としてはもう2度と関わりたくないだろうが
かつて誰かが言った。一度でも動き出した時計を止める事はできないと
もちろん逆戻しにすることなどできるはずが無い。なら進むしかないのだから
「またあんなことをさせるわけにはいかないからな」
俺はそう思いながらいろいろと手配を始めた。
渚カオルがゼーレと接触したことを知れば碇司令の警戒レベルは上がる
彼の場合利用価値があるとすることも考慮に入れておかなければならない。
組織のトップである以上厳しい決断も必要だ