海岸の町 旅館別館 私の部屋

私はお母さんとお父さんに部屋に入ってもらってドイツ行きの話を言った

「今度、すべてを清算するためにドイツに行こうと思うの。これ以上誰も傷ついてほしくないから」

その言葉に2人は黙ってしまった。確かに突然の話だが、もう誰も傷ついてほしくないというのは事実だ
次に狙われるのは私の家族かもしれない。そんなことになったら私は自らのコントロールを失う。そう思ってしまった。

「大丈夫なのか?」

お父さんの質問に私はルミナさんにも協力してもらって軍の輸送機でドイツまで行くと伝えた
民間機では何かあった時対応できないから

「心配しないで。私の居場所はここだから。この町は私にとっては生まれ育った場所とおなじのようなものだから」

「カオリ」

お母さんは私を抱きしめた。お母さんはこういった。あなたがいつかこういう選択をする時が来るのを一番怖かったと
耐えきれりことができれば嬉しいけど、もしだめでもここに戻ってきてとも。ここには大切なものがたくさんある。
この町とこの町に住んでいるすべての人。そして家族だ。私にとってはそれは永遠に変わる事は無いだろう

「何かあればすぐに連絡しろ。俺達はお前がどこにいようと迎えに行ってやるから」

「お父さん」

私はとっさに嬉しくて2人に抱き着いた。お父さんもお母さんも私の事ばかり考えてくれている
あの時の家族ごっごとは違う。幸せが満ち溢れている。最高の場所だ
その後もいくつか話をしてから今日のところはここまでにしましょうとお母さんが言ってくれたので
私はおやすみなさいと言って今回の話し合いを終えた
一応布団を敷いて、すぐに寝ようと思ったのだが。なぜかすぐには寝付けなかった
きっとこれからする事に私は緊張しているのだろう。正義なんてどうでも良い。知りたいのは真実だ
誰がどうしてこうなってしまったのか。私にはそれを知る必要があった。そのうえできちんと決めるのだ
真実に蓋をして生きていくわけにはいかないという事を最近自覚してきたのだろう
いくらどんなに過酷でつらい過去でも、生きてきた証なのだから

『ピーピーピー』

携帯電話に着信が入ってきた。相手はルミナさんからだった

「何かありました?」

『ドイツ行きの切符だけどできるだけ早く用意するから心配しないでね』

「ルミナさん。そこであの時の真実が分かるんですか?」

私の心の中でどこか穴が開いているその部分、あの『儀式』の事を
そして悪夢のような光景を引き起こしてしまった私の真実を

『それは、思い出さない事の方をおすすめすわ。今の思い出の方が好きでしょ』

それはそうだが。私には罪と向かう事が必要なのではないかと思い始めた
今まで無視し続けていた過去と。ルミナさんはあなたが幸せに暮らせる事が私達にとって何よりも喜ばしい事よ

「いろいろとご迷惑をかけて」

『これだけは分かっておいてね。この町はあなたのことをずっと見守っている事を。ここが故郷なのだという事も』

少し大げさかもしれないけどねと言うと彼女は電話を切った
確かに大げさだと思う。でもここは私にとって故郷だ。それだけは忘れない。もう2度と手放してはいけないものなのだ