海岸の町 旅館の私の部屋

あの騒動から1週間ほど経過した。ユウさんは無事に退院してきて今はまた私の部屋の隣で暮らしている
私はドイツに向かう。ルミナさん達の手配で国連軍の輸送機を利用するとのことだった
そうすれば搭乗者記録は残らない。荷物としていくのだから
失われた過去を見つけるために旅立つときが来た。消えていたピースをはめるために
そして、すべての真相を知るために。もうあんなことはあってはいけない。
誰もが幸せの世界を作り出せたらどれだけの人々が救えただろう
そんな世界など存在しなくても目指す意思はある。必ずどこかで見つけ出すんだ

「それじゃ、お父さん、お母さん。行ってくるね」

私はいつも通りのお酒の注文をするために向かうのと似たような表情をしているつもりだが
みんなには違って見えたようで一人ずつ私を抱きしめてくれた。
そしてみんな同じことをという。必ず生きて帰ってきてほしいと
私という存在を認めてくれている唯一の場所。ここがどんなに小さな箱舟でも私にとっては最高の世界だ
あんな世界よりも今の世界のこの町の方が綺麗だ。
ゼーレの人間がなぜあんな世界を望んだのか。私はそれが知りたいのかもしれない

「必ず帰ってくるから。待ってて」

私はそう言うと旅館の正面玄関から出て駐車場で待っているルミナさんの車に乗り込んだ
後部座席に乗り込んだのは助手席にはユウさんが乗っていたからだ

「ユウさん、ルミナさん。すみません。いろいろとご迷惑をおかけして」

「気にしないで。君のためならどんな願いでもかなえてあげるよ」

私は死ぬなんて許しませんからねとわざと怒ったみたいに言った
ユウさんは分かっているよと苦笑いで返してきた。冗談だという事が分かっているのかもしれない
車を発進させると、海岸の町を抜けて国連軍の基地がある町に向かった
私はその間、ずっと外を見ていた。道路は海沿いの道できれいな海の色を眺めているとなぜか心が落ち着いた

「1週間で用意できるなんてすごいですね」

「そこは彼女の力。さすがは監察局に所属しているだけのことはあるよ。表向きは僕たちの乗る便は国連軍の輸送機」

「中身は何なんですか?」

「C-5輸送機が日本の基地に貨物を移送するために偶然にも来ていて、昼過ぎにはドイツに戻るために出発予定の輸送機だよ」

つまり貨物をこちらに移送してきて、その帰りも輸送機にのせてもらうという事みたいらしい

「いよいよだね」

「はい」

私は少し緊張していた。どんな結果になるのか心のどこかでは恐れているのだろう。
でも真実を知りたいという気持ちはある。難しいところだ
すると運転席で運転しているルミナさんがユウさんに渡しておいてと言った
私には何のことなのかさっぱりわからなかったが。彼から渡されたのは国連軍の協力者を示すIDだ
もちろん、名前については偽名になっていた。

「カオリちゃんは美人だから悪いとは思ったけど」

「だから欧州出身という事にしておいたわ。今回は髪の色をごまかす時間もないしね」

そうだ。私の髪の色は目立ってしまう。特に日本人とした場合だ。欧州出身の人間という事にしておけば怪しまれない