「やめて!」

私はしゃがみこみ、震えながら拒絶の言葉を放った。しかし彼女は追及の手を緩めることはなかった。

「碇君!」

彼女の言葉に私は突然立ち上がった。このときには私はもう何もかもわからなくなっていた。
ただ、守りたかった。今の自分を守りたかったのだ

「あなたがいなかったら」

「あなたがいなかったら、私はまだ水川カオリで居れるのよ!」

私は強い口調で言い放つと彼女の首に手をやり、首を

『締め始めた』

「何で邪魔するのよ!私はこの町で普通に生きて普通に暮らしたいだけなのに。どうして、邪魔をするのよ!」

「やっとなのよ!やっと幸せになれるかもしれないのに!あなたたちのせいで!」

「みんな、みんな、嫌い!ネルフなんて大っ嫌い!」

彼女は必死になっても私の手を引っかいたりして、手を離させようとしたが、私は力を緩めなかった
あとになって考えてみれば、私はようやく手に入れた幸せを守るために必死になりすぎていた。
今まで築いてきたこの町での水川カオリという自分。それを壊すことは私の存在価値を壊すのに同等であった。
私にとって碇シンジであったころの自分は心のどこかで捨ててしまいたいものであった。

徐々に彼女の顔色が青くなり始めた時、展望台の入り口に急ブレーキで車が止まる音が聞こえた。
私は一瞬そちらの方向を見た時、先ほどまでとは逆に私が青くしていただろう。

「「カオリ!」」

そこには、いるはずのない。私にとってかけがえのない今の両親がたっていた。
ルミナさんとともに

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私はお母さんとお父さんを見た時、ようやく自分のやっていることに気づき、そして何かが崩壊する音が聞こえ始めた。
自分の秘密を守るためとはいえ私は彼女を生命の危機にさらしてしまった。
その行為をお母さんとお父さんに見られてしまった。
私はまるで凍りついたかのように動けなくなった。
私が動けないで居るとお母さんが近づき、首にかかっている手をはずし、私を抱きしめた。
一方、レイはルミナさんによって保護された。

「カオリ、もう大丈夫だからね」

私はその後、まるで劇場のカーテンが下りるかのように目の前が暗くなり意識を失ってしまった。

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私はカオリを抱きしめた直後、大事な『娘』をここまで追い詰めた彼女『碇レイ』をまるで仇を見るように睨んでしまった。
もっとも、お父さんもそうであったということは後に聞いた話だが。
昔の話を聞いて彼らを恨んでいないといえばうそになる。でもそういうことがあったからこそ私たちはカオリに出会い。
今のこの生活ができていることも事実であった。この言葉にできない気持ちが私は嫌いだった。

「碇レイ、あなたを一時拘束するわ。いいわね」

ルミナさんがそう言うと彼女は素直の指示に従いルミナさんの家のほうに歩いていった。
私たちもその後すぐに自分たちの家にカオリとともに戻っていった
これからはじまるであろう激動の日々を思いながら

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「そうです。彼女はこちらで保護しましたので」

ルミナが自宅に戻るとレイの監視をティアに引き続き、直属の上司であり今回の問題の対処を依頼する人物に連絡していた。
連絡を受けた側は碇レイの行動にため息をつきながらも情報操作等はこちらでと返す。
身柄は後ほど引き取りに行くと通告すると通信を終えた。
ルミナは外の星たちが輝いている風景を見ながら電話の相手を同じようにため息をついた。
ここ数年、まるで行動のなかったネルフの行動。
私はこれまでも、そして、これからも彼女がネルフに巻き込まれることもなく。
そして『本当の真実』に気づくこともなく生き続けてくれればよかった。でもそれはすでにかなわぬ願いになりそうだ。
彼女はおそらく遠くない日にその真実に気づき悲しみにくれる様子が私には想像できてしまった。



いつか真実に気づいたとき、この世界が彼女を守り続けることを祈るほかなかった。
私には彼女ほど力はないのだから。
世界と向き合える力は私には・・・・・・・・・・
それでも私は願う。私は彼女と同じように暮らして・・・・・・・・・・・・・同じように大人になりたかった。
彼女を見ていたあの時からそして、



これからもそう願い続ける。