「あなたは何もかも知っているのね」



碇レイがリビングのソファーに座りながら私にそう言った。ティアは彼女の言動に少し睨み付ける様に見ていた。
私は少し席をはずしてというと彼女はため息をつきながら奥にいるから何かあったら呼ぶのよと、リビングを出て行った

「それを知って、あなたたちに何の利益があるのかしら」

すべてを拒絶したあなたたちにそんなことを知る権利があると思っているのと続けて言うと反論せず黙り込んでしまった。
そうなのだ。ネルフ、かつての『彼』の関係者に『彼』のことを知る権利などとうの昔に失われているものだ。
そして、彼女を含めた『惣流・アスカ・ラングレー』『葛城ミサト』『赤木リツコ』『碇ゲンドウ』『碇ユイ』
私の中では抹消リスト上位にいる人物でもあった。

私がもっと前に自我をきちんと持っていればこんなことにならなかったのかもしれない。
だが、それは結果論でしか他ならない。そして仮定論だ。実際にそうなったかどうか保証などない。
あの方の分身であった私。かつてのあの方は今では『思い人』とよろしくやっているのかどうかは知らないが。
あの方がどうなったかさえ私にはわかるわけはなかった。魂は碇レイが持ち続けたがその魂ですら欠片の一部に過ぎない。
あの儀式に際、たしかに碇レイはあの方に成り代わった。あの方の魂自身が今の彼女を作っているのならばそれは皮肉なことだ。
彼の父に細々にされた魂が子供によってひとつに戻されたなど
その結果、すべてを失うことになることなど、

「ネルフは愚かで最低なことをした。それは・・・」

「それはあなた自身がよくわかっているはずよね。リリスの分身に近いものであったあなたなら」

私の言葉に、彼女はまるで恐ろしいものを見るかのように

「どうして」

彼女はリリスの子に近い立場であったことを知っていることに驚き、碇レイはそう私に質問を投げかける。
でもそんなことは別に関係ないのだ

「あなたに言う必要は、どこにもないのよ」

すべてを拒絶し、今を生き続けるあなたたちに何も知ることは必要ではないのだ

『人は愚かで、過去を振り返ることも知らぬ生き物である。過去がなければ生きていくことはできぬはずなのに』



碇レイは、その後監察局の監察官が保護していった。
ただ、その際に監察官である男性から受けた連絡に私は思わず驚きの声を上げてしまった。

「私に戻れと」

それは私に対する一時帰還指示。到底受け入れられるものではなかった。
ネルフに彼女の情報漏洩の可能性が疑われる状態で帰還しろなどどうかしている。
それでも、監察官はただ機械のように私にその言葉を伝えるだけだった。何の意思もないかのように。
ため息もつきたくなったがそれを堪え、了解と私も機械的な声で返事を返した。

リビングに戻り私は彼女にその指示を伝えた。
彼女は満面の笑みを浮かべ私が精一杯やってあげるからしっかり暴れてきなさいという『暖かい言葉』を貰った。
思わず彼女との友人関係やその他諸々についていろいろと考えそうになったことは私だけの秘密である。
もっとも、私は彼女に1度だって勝てたことはないのだが。
結局、私はまた守れないのではないか。そう思ってしまった。あの時のように



世界が再び彼女を中心として動き出そうとしている。今まで何も動き始めることはなかったのに。