海岸の町 旅館
キール・ローレンツ議長が逮捕されたというニュースは私達の旅館でも生放送されていた
私の大切な娘の人生をぼろぼろにした張本人が捕まって私は少し安堵した
あの子の母親として、娘の重荷をようやく取れる事になると思っていたからだ
いや、そうなればと思っていた
「あなた」
「ああ、大丈夫だ。カオリは帰ってくる。ルミナさんに彼もついている」
ユウさんがどういう人なのかはよく分かっている。彼が個人的に話してくれた
彼がどこに所属していたかについて詳細に話してくれた。包み隠さずすべてありのままを打ち明けてくれた
だから信用しているのだ。娘のことを愛してくれているという事が分かったから
あの子は真剣に考えていた。1度だけ相談してくれた。結婚をしようかと思っていると
全てにケリがついたら、ネルフもゼーレもなにもかもあの子を縛るものがなくなった時に形だけでも結婚をしようと
その時のカオリの表情はよく覚えている。どこか恥ずかしそうにながらも嬉しそうに話していた
カオリもユウさんのことを愛していた。でもカオリは自分と関係すれば傷つくことと思っていた
誰かと近づきすれば自分のせいで傷つくかもしれない
だから前に進めないところもあるのだとあの子は言っていた
そんな重荷を背負わせた彼らのことを私達は許したくなかった
あの時、碇ユイさんがきた時に会わすべきかどうか真剣に考えた。
娘のすべてを奪った彼女に今さら何を言うつもりだと
全ては取り返しがつかないにもかかわらずだ
「そうね。ルミナさんも彼が一緒だからきっと」
私達の願いはただ1つだ
私達の宝物である大切な娘であるカオリが今後も幸せに暮らしていけること。
こんな小さな願いですらカオリにとっては難しいのだ
ささいなことなのに
----------------------------
第三新東京市ジオフロント ネルフ監察局
「ルミナ、今回のことはかなり各国は神経質になっているよ」
『どの国もゼーレの影響下にありましたから。当然の反応です』
僕はルミナと通信をしていた。確かにその通りだ。ヨーロッパ諸国は特にゼーレの影響下にあった
おかげで今回の逮捕劇にはかなり動揺が走っている。どの国も後ろ暗い所があるのだろう
だが彼女に傷つかれて永遠の誓いを破るような事はできない
まさに板挟みの状況なのだ
「君の意見は?」
『私は政治には「それでもだよ。ここまでのことをしたんだから」わかりました。キール・ローレンツの証言は必要でしょう』
彼女はこうも言った。問題はどこまで証言させるかだ。そして裁判は非公開の方が良いと
公開裁判にすればどうなるかはわかりきっている。密室でのやり取りはしたくないところだが
今回ばかりはやむ終えない