僕はこの町に住んで初めて知った。
何もない事が幸せであることを
今まで血を流してきたのだからそう感じるのかもしれない
この町では平和な時間が流れている。犯罪はなく、揉め事と言えばちょっとした子供同士のけんか
まさに平和というのが絵にかいたような町だ
カオリちゃんにとっては最高の場所だろう
何人にも侵されない聖なる場所。そして最高の場所
だからかもしれない。ここの人がみんな優しいのは
誰もがお互いを知り、お互いの気持ちを思い合っている
そんな町だからこそ、彼女の箱庭として成立していた
今までは。

でもこれからは違う。大きな波が襲う事は容易に想像がついていた
ゼーレ、ネルフ、監察局。それぞれの意思がこの町に入ってくる
それがどんな結果を招き、悲惨な目に合うのか
誰も想像もしていないだろう。
僕はテレビを見ていた。マスコミは国際的テロリストの逮捕のニュースでもちきりだが
名前は明かされていなかった。名前が明かされたらせっかくの捜査が台無しになるというのが表向きの理由だが
実際のところはカオリちゃんを守るためだ
彼らから真実を漏れる事を避けるためだ
サードインパクト後に起きた神の奇跡。死者をよみがえらすという絶対にありえない事だ
そのため宗教界でもあの行為は神からの贈り物だというものもいる
神が新たに生まれたとして新興宗教も誕生している
警戒するべき組織が増えるばかりの状態なのが現状だ
彼女には今は静かな時間が必要だ。だが周囲はそれを許そうとしない
彼女には何の責任もないはずなのに。なのになぜ彼女にだけこれほどつらい運命を神は譲ったのか
もっと他にやる事があったのではないか。そう考えてしまう。
彼女には重すぎる十字架だからだ。僕だけではそれをおろす事はできない

「神様はどうして彼女を見捨てたんだろうね」

もし前の神様がすべてを見ていたならなぜあんな運命をカオリちゃんに与えたのか
悲劇しか生まない運命を。幸福と呼べる人生を与えられて当然のはずなのに
にもかかわらず彼女に与えられたのは地獄そのものだ。永遠に消える事のない傷
心の傷は一生かかっても治る事はできない
僕が彼女に支えになる事はできるかもしれない
でも彼女より僕の寿命は短い。永遠に生き続けるのだから
彼女にとって最大の苦しみを僕は取り除けない
もし僕にできる事があるとすれば彼女を支える事だ
僕にはそれしかできない。
カオリちゃんを見捨てることなく、生涯を過ごす
例え、どんな事になろうとも彼女のことは守り抜いてみせる
それが今の僕にできる最大限のことだ