海岸の町 旅館別館
私はいつものように目を覚ました。
今日は朝から雨が降っていた。これではお散歩をしようというわけにはいかない
「雨は好きになれない」
私はベランダから見える外の光景を見ながら誰かに語り掛けるかのようにしゃべった
こういう日は退屈だ。元々何もすることがない私にとっては雨の日は部屋で閉じこもっていることが多い
食事の時は例外だけど。その時間以外は部屋でゆっくりと過ごしている
私はロッキングチェアに座って文庫本を読んでいた
この町には小規模ながらも本屋さんがある。雑誌などを売っていて子供たちにとっては漫画を買える貴重な場所だ
ネット通販が当たり前の世の中でも、この町では人と人との出会いを大切にしている
文庫本を読みながら私はある事を考えていた。私には知識だけはいっぱいあった
でもそれを活用しようと思ったことはない。神様が手を出してはいけない
そう心のどこかで思っていたのだろう。人が成長するのに神様が力を貸すことはいけない
彼ら自身が成長を目指すしかないのだ
『トントン、カオリちゃん。これから食事でもどうかな?』
部屋のドアをノックしてきたのはユウさんだった
私はすぐにロッキングチェアから腰を上げて立ち上がるとドアの方に向かった
「ユウさん。今から行きます」
私はすぐに服が乱れていないか鏡で確認すると外に出た
「お待たせしました」
ユウさんは少し元気がないようだけど大丈夫かなと心配してくれた
私は今日は雨だからと言うと別館と本館をつなぐ連絡通路を通り食堂に向かった
「カオリちゃん。なにかあったのかな?」
「どうしてですか?」
私は何か落ち込んでいるような表情をしていたのかなと思った
ユウさんはいつもは明るいのに今日は暗いよと言ってくれた
ユウさんに言われる程、私は落ち込んでいる。ようやくすべてを片付けたのに
「カオリちゃんは目標を失ったのかな?」
「どういうことですか」
「生きていくには目標がいる。それがなくなってしまったから落ち込んでいるのかもしれないね」
確かに人は目標があるから成長する。
ただ、何も目標を見出すことができずに過ごしているなら、死んだということと同じかもしれない
「私、この町を離れようと思うんです。でも心配しないでくださいね。自殺とかそういう無茶をするわけではないので」
私はある事を考えていた。それは街で大学生として過ごしたい。
私には知識だけはある。入手問題を解くぐらいは簡単だ。ただ、ルミナさんたちは良い顔をしないと思うけど
それでも自分の道は自分で決めて歩み続ける。それが遅いか早いかの違いだ
今の日本では飛び級制度があるため、高卒資格は試験で合格点を出せば卒業とみなされる
「ついに箱庭から大空に向かって飛ぶのかな」
「そうしたいですけど、ユウさんと会えなくなるのは」
私はユウさんとの関係を壊したくないに事も事実だ
ユウさんは自分は大学での警備の仕事がないか探してみるよと応援するかのように言ってくれた