海岸の町 旅館 私の自室

私は雨が降っている外の風景をロッキングチェアに座りながら眺めていた
しとしとと雨が降る光景をロッキングチェアから眺めるのはある意味では癒される光景だ
自然があるということでという意味でだが。
ようやく勝ち得た平和。今後をどうするかは私にもわからない
このままこの町で平和に暮らすも良いかもしれないし、
世界を眺めていくことも良いかもしれない
どんな決断でも私自身にとっては平和だと思っていた。
平和な世界が戻ってくれれば私はそれで満足だった
悲しみを少しでも減らして幸福が増える世界に帰ることができたのに
私は完全にそれを実行することができなかったのかもしれない

「幸せってわからない」

私は缶コーヒーを冷蔵庫から取り出して飲みながらつぶやいた
確かにその通りだ。幸せほどわからないものはない
人の価値観によって異なるのだから。幸せの定義とは
だからこそ、私が幸せだと思っていればそうなのだろう

『トントン』

私の部屋のドアがノックされた。

『カオリちゃん、少し良いかな?』

「ユウさん。少し待ってくださいね」

私は姿見鏡で自分の服装を確認するとドアをゆっくりと明けた

「何かありましたか?」

「少し話しておこうと思ってね。カオリちゃんの将来について」

いつかはその話をしないといけないと思っていたことだ
それが少し早まっただけである。私は良いですよと言うと彼を自室に招き入れた
私は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出すとユウさんに渡した

「ありがとう」

ユウさんは私に礼をすると話を始めた

「もしカオリちゃんが大学に行きたいなら君の希望する大学の警備員になる手はずを整えたよ」

確かに私はそんなことを心にどこかで思っていたのかもしれない
この箱庭から出て外の世界を見に行きたいと。でもまだ私には決断できていない
最終的にどうすれば最良の判断なのか
そしてもう1つ。ユウさんに迷惑をかけるのではないかと

「カオリちゃんが行きたい場所なら僕はどこまでもついていくよ。君を1人にはしない」

「こんな私でもですか?」

「カオリちゃん、君がどんな存在なのかについては人が決める事ではなく。自分で判断するものだよ」

「ユウさん」

「君がたとえどんな存在だったとしても、今はこの旅館で住んでいる女性ということを忘れないで」

「私はどうしたら良いんでしょう」

私にも答えられないことだ。いや答えを知った時に恐怖を感じるのかもしれない
私の存在がどれほど危険なものであるかということを明確にわかった時に
結果が分かれば何かが変わるかもしれないけど、
その結果によってはいろいろの人たちに影響が出るかもしれない
影響する人たちの範囲には私のお母さんやお父さんたち
そしてこの旅館で一緒に暮らしているみんなにだ
もしそんな何の罪もない『家族』にまで被害が出るようなことになれば私は耐える事はできない