「ユイ、お前は気づいているのではないか。彼女のことを」
その言葉は彼女の行動をとめるのに十分な威力があった。彼の言うとおり彼女にはある予想ができていた。
その予想はあまりにも彼女自身、そしてネルフにおいて重大なことでありそれを口に出すことはなかった。
「彼女が、シンジの「バカな事を言わないで下さい」
ゲンドウのセリフを彼女はみなまで言わせることはなかった。
彼の言葉はユイの予想とほぼ一致しているものであった。彼にも少なからずだがその答えを出せるほどの情報を持っていた。
彼女ほどではなかったが。碇ユイはあの時の記憶を少しだけだが持っていた。
そのときの当事者である彼の気持ちを理解しているからこそ、彼女の考えている結論は最も当たって欲しくないものであった。
だが彼女を調べれば調べるほど、結論への答えではないが道筋が見えてきてしまう。
「シンジは死んだんです」
「私たちの自己満足のために私たちが・・・・・・・殺したんです」
ユイはゲンドウに振り返ることもなくその言葉を悔しそうに言うと退室した。
司令室に残ったのは部屋の主である碇ゲンドウと苦い空気であった。
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「まったく、あんなところで寝ちゃだめじゃないの」
猫たちと戯れていた私だがどうやらその途中でお昼寝を始めてしまい。ただいま、体調不良を発症中でした。
おかげでお父さんに抱き上げられ部屋につれて帰ってもらって、布団の中の住民だ。
お母さんの雷が私の上で鳴り響いていた。体温計が微熱を示していたことから通り雨の予定が暴風雨に様変わりしていた。
よって私がちょっとでも聞き流そうとしようものなら素晴らしいお言葉が飛んできていた
「ごめんなさい」
「・・・・・今度からはちゃんとしなさい。じゃないと本当に風邪をひくんだから」
気をつけなさいよと私に言うとお母さんは部屋を後にした。
お母さんは怒っているけど本当は私のことを一番心配してくれていることを私を良く知っている。
そうでなければ私のことを探しにくることはなかっただろう。
ちょっといなくなったぐらいで心配しているのは多分私の変化に気づいているからだろう。
碇レイの首を絞めて以降、私はお母さんたちとあまり会話をしていない。正直何を話そうかと迷ってしまう。
自分の愚かき行動を見られたことで私はまた捨てられるのでないかと思ってしまった。
でもお母さんたちはそんなことはなかった。その反対に私のやったことに一切触れることはなかった。
私を気遣うかのように。
だから、私は願ってしまったのだろう
いつかすべてのことを話せる日がくることを
そんな日がきてほしいと
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「ネルフにどうやら情報が漏れたらしい。保安諜報部が彼女の行確を申し出てきたよ」
行確、つまりは行動確認だ。彼らなりに言えばだ。実際は拘束と変わらない
蒼崎がピラミッドを見ながら彼女に言うと彼女は驚きの表情を浮かべ彼を見つめた。
彼女の表情をちらりと見ると再び視線を窓の外に向けため息をついた
「我々に残された時間はそう多くないということだ。すべては彼女しだいだよ」
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「そう。わかったわ」
ルミナの家では私が彼女からの連絡を聞いていた。
『ネルフの影は?』
ルミナの言葉に私は苦笑してしまった。どこへ行こうと彼女の心配事はネルフでも私たちでもない。
ただひとつ。彼女の存在について。それは彼女の真相を知ってから変わることはない。
「幸いなところ。連中はまだこっちには来てないわ。戦自からもそういった報告も上がっていないことだし」
だから今のところ大丈夫よというが、彼女は『そう』と一言をつぶやくと電話を切った。
他人から見れば愛想の悪い人と思うだろうが私にとってはそれは彼女が心配で仕方がない。
彼女の行動であることは良くわかっていた。ネルフの動きの早さ、それは私たちの想像以上のものであった。
ネルフはすでに渚カオル殺害未遂事件の容疑者として彼女を射程に捕らえている。
それは私たち監察局にとって想定外であった。
もし、このまま彼女の身柄がネルフに拘束される事態に及べば、この世界そのものの存在の不安材料になりかねない。
「何もなければ、・・・・・一番なんだけど」
外の光景を見ながら、私はそう呟いていた
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布団に入りゆっくりと休んでいたが、外から入ってくる夕日に私は目を覚ました。
外からは夕日色に染まった光が私の部屋に入り込んでいた。
布団から出ると、部屋の最も外側に設けられている広縁(広い縁側)にあるロッキングチェアに座った。
そこからはいつもの夕日が見えている。いつもこの部屋から見える綺麗な夕日。
ただ、私にはその時、いつも以上に綺麗に見えた。
なぜなのかはわからない。なぜか、いつも以上に・・・・
世界が再び動乱の渦に飲み込まれる前。それは嵐の前の静けさのように静まり返っていた。
しかし、嵐の前の静けさは唐突に終わりをつげ本当の嵐が襲ってきた。
その先がどうなるのか、今は誰にもわからない・・・・・・