ユウさんは新聞を読んでいた
私はブラックコーヒーを飲んでテレビを見ていた

「ルミナさんもユウさんにも迷惑ばかりかけてしまって。ほとんど私のわがままですが」

私の身勝手で多く人たちを巻き込んでいる。でも今の私は『碇シンジ』ではないのだ。
水川カオリであり、1人の女性に過ぎないのだから

「ルミナさんはカオリちゃんのことを最優先で動いているからね」

同居することを伝えた時、傷物にしたら死ぬより怖い目にあわしてあげるって脅されたくらいだからと
ユウさんは苦笑いをしながら話してくれた
本当に過保護なのかもしれない。ルミナさんにとって最重要なのは私の安全なのだから
私は一応『神様に近い立場』なのかもしれないけど、
本心ではその『権限』を使うつもりはない
人が起こしたトラブルは人が解決するべきだからである
私が介入するのはどう考えてもルール違反なのかもしれない

「そういえば、カオリちゃんにこれを渡しておくよ」

ユウさんは私に小型の発信機を渡してくれた
何かあった時にすぐに発信機のボタンを押せば人工衛星や携帯電話の基地局を経由
ユウさんとルミナさんの携帯電話にその情報が伝わるとのことだった
本当に2人とも過保護なのかもしれないけど私はありがたく受け取った
何が起きるかわからないというのは正論である
少しでもトラブルを避けるためには防御策が必要だから
私が『神様』ならとんでもないことをしている
世界は誰かの犠牲の上に成り立つものだ。
誰もが救われるわけではない。必ず誰かが犠牲になってしまう
だから怖いのかもしれない。その犠牲になる人の中にユウさんが含まれているのではないかと
私は今のこの静かな時間を大切にしていきたい
鳥かごかもしれないけど、私にとっては大切な環境であることは事実である

「いつか。私は1人になるのかもしれないですね」

ルミナさんはきっと私と同じタイプの人の輪から外れた存在であることはわかっている
ただ予想が的中していたら、私はとんでもないことを言って傷つけてしまうかもしれない
それが恐ろしいから考えないふりをしている
でも1人よりも2人でいる方が安心できる
1人でずっと人間の輪から外れた存在で何十年。何百年もいるのはさみしい
せめて1人ぐらい私と『同じ存在』がいてくれたら、孤独でいるという感情は減るかもしれない
それだけでも私は少しは安心できる。それにこの地球という広い世界を見て回るというのも良いかもしれない
平和になっていくことを願って世界を見守る道を歩みたい
缶コーヒーを飲み終えると私は部屋に戻ることにした
部屋に戻ると私は勉強を再開した