私と碇ユイさんとの話はこの冷たい墓地で今も行われている
彼女は少し涙を浮かべていた。でも同情などするはずがない
彼らが起こした行動で世界を壊すことになった
封印させておけば何も起きなかったのに。自らの好奇心のために全人類を殺そうとした
少なくてもかなりの人々は死んだことは疑いようのない事実だ
私は少しは再度生き残るチャンスを多くの人々にもたらした
ただし、彼らがどんな道を選ぶかは私にはすべてを把握していないことだ

「結局実験をしたかった。あなたは母親失格です」

『僕』は絶対に許すつもりはない。彼らのおかげで地獄の運命をたどった
それをいまさら謝罪だのバカげた話である

「あなたはただ救いが欲しいだけ。もしかしたら『僕』がいつかは許してくれると甘い希望を持っている」

そんなことなどこの先、永久にあり得ないと碇ユイさんにはっきりと伝えた
もう碇ユイさんを『母さん』と呼ぶことはあり得ない
彼らに協力する理由はないし、押し付けられることはお断りだ
ネルフやゼーレのメンバー達に不幸を私は届けてあげたいぐらいだ
ユウさんは例外である。ユウさんは私のために命を投げ出すこともいとわない
私のためならどんなことでもするというならむしろユウさんを私が守らなければならない

「あなた達ネルフは自分の名誉を上げることを優先している。いくらゼーレの裁判で証言台に立ったとしても」

彼らの罪が消えることなど死ぬまでないことは事実である
永久にその罪を背負って生きていかなければならない

「シンジ君があの儀式のときにどれほどの悲しみと辛さを感じたのか」

『僕』はあの儀式で苦しんだ。それでも人々に生きることを望んだ。
だから多くの人々がよみがえった。まさに神様だからできたことだ

「もう二度と私に関わらないでください。もうネルフやゼーレに関わるつもりはないのですから」

そういうと私はユウさんと一緒にその場から引き上げることにした
『僕』の墓の前から立ち去ろうとしたとき、『母さん』が私を引き止めた

「シンジは私のことをどう思っていたの?」

本当にこれで何度目の似たような質問なのだろうか
もう答えるのは面倒ではあったが、これ以上関わってほしくない
だからきっぱりと『僕』の答えを伝えた

「まだ幼いころの時間は良かったかもしれないですが。あなたは親としては失格です」

もう会わないことを願いましょうと私は答えるとユウさんと一緒に墓地から出ていった
あの墓は私なりの区切りのつもりである。碇シンジは死んだ
それだけを定めるためにあそこに墓がある

「それにしてもいつの間に墓を作ったのかな?」

「墓といってもただの名前が刻まれたプレートがあるだけです。『碇シンジ』は死んだという証のためにある」

それだけの話ですと私はユウさんに答える
区切りは大切である。だから何も埋葬されていない墓標があるのだ
何を調べても何も出てくることがないただの墓標である