「どういう意味なの?」

「あなたの決意が決まれば真実は明らかになるわ。でもあなたにはまだ決意ができていない」

私の決意。それを何を指し示しているのか理解できなかった
決意が必要なこと、それはおそらく『過去』の出来事だろう
私はあの過去から決別しようとしているがそれができないでいる。
いつまでも引きづられるつづけるジレンマを抱えているのだ

「私の決意は決まってる。私の居場所はここ。それ以上でも、それ以外でもないわ」

私がそう言うとルミナさんは悲しそうな表情で答えた

「本当にそれで良いの?過去を忘れたまま過ごしていても」

『過去』、あの過去はいつまでも私を引き離そうとしない。
まるで悪魔の時間のようだったあの過去の出来事から
いったいいつになればあの過去の出来事から引き離してもらえるのか。
私には到底想像もつかなかった。
しばらくしてルミナさんは誰かが迎えに来た車に乗り込むと、その場を立ち去っていった
残された私は、ただそれを見送ることしかできなかった。
何も返事もできないまま。まだ決別することができていないのだ。あの『過去』から

「いったいどうしろって言うの?この私に」

少しいらだちまぎれに独り言をつぶやいてしまった。
だが、確かにそのとおりだ。今の自分には碇シンジは存在しない
私は水川カオリなのだから。それだけはこれまでも、そしてこれからも変わる事のない事実だ

「もう1度行かないといけないの?本当に決別するためには」

過去から逃げ出し続ける自分に本心では飽き飽きしていた。
でも、それ以外に手段が見つからない自分にも苛立ちを覚えていた。
あの忘れられない『過去』、そしてあの過去以降の私の生活は楽しいものだった。
彼らが来るまでは。そして、銃で渚カヲルを撃ったまでは
私はいろいろなことを考えながら海岸へと向かった。
そこにはいつもの美しい光景が広がっていた。青い空に白い砂浜。
本当にあるいつもの光景だ。それが何よりも貴重に感じた


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私はその後、砂浜の近くの魚屋で頼まれていたお母さんから渡されたメモを渡した。
後は配達をしてもらえるので私の用事は終了した。
私は魚屋を出ると砂浜に下りた。そして、そこに座った
海から良い風が吹いてくる。

「今日も良い風が吹いてる」

「そうだね、カオリちゃん」

突然の声に後に振り返るとユウさんが立っていた。いつもどおりカメラを持って。
彼も普段どおりを装っていたが、何か少し違うように感じられた
ほんの少しだけだが。すこしだけ。僅かにだが雰囲気が違うように感じられた

「ユウさん、お願いがあるんです」

「なんだい?」

「私・・・・私をもう1度第三新東京市に連れて行ってほしいんです」

私は決めたのだ。もう1度あの街に行って
何もかもを決めようと。どうしてそう思ったのかは分からないが
突然やる気が出てきたのだ。人は不思議な生き物だから
そう片付けてしまえばそれまでだが。私にも目覚めるときが来たのだろう
本当に意味で目覚めるときが

「いいよ。君が願うなら、僕はどんなところにでも連れて行ってあげるよ」

彼は素直に了承してくれた。
私にとっては幸運だったのか。それともこれから始まる激動の運命の入口だったのか
それは今は分からなかった。ただ、目の前に進みたい。
それだけを考えていた。

「ありがとう。本当にありがとうございます」

「今度こそ、君を守りきるよ。必ず」

その言葉に私は勇気づけられた。ようやく決断できたのだ。
長い時間をかけて考えてきたことを。ようやく
その後の話は早い物だった。
ユウさんに車で旅館まで送ってもらうとお母さんに告げた

「私、もう1度第三新東京市に行って来ます。そして、もう1度はっきりと決めてきます」

「何を決めてくるの?」

お母さんは不思議そうではなく、何かを理解しているかのように質問をしてきた



「すべてを決めてくるの。ここに居る理由とこれからのことを」