その日の夕方、お母さんとお父さん、そして旅館の人たちと出発の挨拶をしていた。
これでお別れというわけではないが、もしかしたらそうなるかもしれない
私は決めたのだ。長い時間をかけて決めた決断だった

「お父さん、お母さん、みんな、私、行って来ます」

「必ず帰ってくるのよ」

お母さんが私を抱きかかえながら言った
私はうんと頷いた。私の帰る場所はここしかない。
この街が私の本当の居場所であり、帰るべき場所なのだ
それはきっと変わることのない不変的な価値。

「カオリちゃん。これ、お守り代わりに」

旅館に勤めている女性の仲居さんから折り紙で折られた鶴を渡された。
私をそれを壊さないように大事そうに受け取ると上着のポケットの中に入れた。

「ありがとう。必ず帰ってくるから」

そう、みんなのためにも私は帰ってくるのだ

「カオリちゃん、そろそろ行こうか」

ユウさんが車の運転席から手を振って合図をしてきた。
そろそろ待ちきれない様子のようだ。彼にも何か考えがあるようだが、私にはそれは分からない

「今行きます。それじゃ、行ってきます」

みんなに行ってきますを言うと私はユウさんの車の助手席に乗り込んだ
SUV車の後部座席には大型のボストンバッグが積み込まれていた

「ユウさん。後部座席のあのカバンは何ですか?」

「もしものために用意した物だよ」

私はその言葉でカバンの中身を瞬時に理解した。
カバンの中身はおそらく武器倉庫のように大量の武器弾薬が収められているのかもしれない

「良いんですか?そんな物を持ち込んで」

「カオリちゃんのやりたい事が何かはわからない。だから持ってきたんだよ」

彼は念のためにねと言った



「ありがとう。ユウさん。私なんかに付き合ってくれて」


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SUV車は順調に第三新東京市に向かって走っていた。
空模様は以前に第三新東京市に向かったときと同様にどんよりとしていた。

「空模様はよくないね」

ユウさんが言ったとおりだ。いつ雨が振り出すか分からない
まるでこれから先に起こりうる嵐の前触れかのように

「そうですね」

「カオリちゃん、僕はたとえ君がどんな立場におかれようとも味方でいるつもりだから」

「信用しています。ユウさんのこと」

私は確かにユウさんのことを信用している。
彼は以前に語ってくれた過去の話。それが真実ならネルフに正義なんてものは存在しない
あるのは欺瞞に満ちた存在だけだ。平和なんて上っ面だけの
きっとルミナさんは、私が彼の過去を知っていることを知らないだろう
でも私は知っている。それでもそれを受け入れた。
どうしてなのかは分からない。理由なんて物は存在しないのかもしれない

「ありがとうそれと、ダッシュボードの中を見てごらん」

私はユウさんに言われたとおりダッシュボードの収納スペース中を見た
そこにはオレンジ色の袋に包まれた金属の塊をしたものが収められていた

「君に渡した物とまったく同じ物をもう1度用意しておいたよ。念のためにね」

ユウさんの心遣いに私は感謝した。
私はダッシュボードの収納スペースの中からとり出すと、それを眺めた

「また用意してくれたんですね」

それはベレッタM92、あの時ルミナさんに奪われたものと同じ型の拳銃だ
ユウさんはまた用意してくれた。たぶん彼も武装をしているのだろう
それはそれで心強いところだが。私にとっては不安材料にしかならない
もしどこかで検問に引っかかったら、そんな心配をしているとユウさんは言った

「もし検問があったら、ダッシュボードの収納スペースの中に隠して」

「見つかりませんか」

「大丈夫だよ。僕を信じて。君に不利なことはさせないから」


不安と欺瞞が入り混じった旅行となったが、これから先に波乱が待ち受けているのは間違いないことだ