銃の手入れを終えると私はいつものように机の下に貼り付けた。いつ何時銃を取り出せるようにするためだ。
貼り付けたといっても、机の下にホルスターが装着されている。そこに挿入するだけのことだが
1日中銃を持っているわけにはいかない。もしそんなことをすればお父さんやお母さんが心配するだろうから

「それじゃ、夕食を食べに行きましょうか」

私はそう独り言を言うと食堂に向かった。途中でユリさんとすれ違ったが、忙しいのか声をかけられなかった
今日はよほど忙しいようだ。仲居さんたちの動きがいつもよりもきびきびしていた
私が食堂につくといつものカウンター席に着いた。いつもと同じように料理長が私専用に作られたメニューを出してきた

「ありがとうございます」

「気にするな。いつものことだ」

私は食事を済ませるとカウンターにおいて自室に戻った。そして携帯電話でティアさんのところに電話をかけた
ティアさんはすぐに電話に出てくれた

「ティアさん、カオリです」

『カオリちゃん?どうかしたの、こんな時間に』

「実はユウさんと旅行に行こうかって話をしていまして」

『旅行か、今はネルフも忙しいみたいだけど。それで目的地は決まってるの?』

「いえ、まだ詳細は詰めていないんですけど、先に話だけでもと思いまして」

『あなたのそういう律儀なところ。しっかりしてるわね。わかったわ。詳細な計画ができたら私にももらえるかしら』

「わかりました」

どの道そのつもりだったので問題はない。でも気になるのはネルフが忙しいという話題だ

「今ネルフは忙しいんですか?」

『そこに引っかかっちゃった。ごめんなさいね。詳しいことはまだ話せないの。話せる時がきたら話すわ』

ティアさんの分かりやすい返事に私は了解しましたとだけ伝えた

「それじゃ、また明日にでも会いましょうか」

『そうね。そうしましょう。それじゃ、また明日』

そうして通話は終わった。どこに行くのか楽しみで私はワクワクしていた
この海岸の町以外には第三新東京市にしか行ったことがないのだから


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翌日の朝、私は9時に目を覚ました
少し遅めだったが、昨夜は旅行のプランをいろいろと考えていて眠れなかったのだ
これではまるで小学生と同じだが、仕方がない。まだ広い世界を見たことがないのだから
私は布団をたたむと朝食を食べるために食堂に向かった
食堂には遅い時間というのに数多くの人がいたがカウンター席は開いていた
料理長がいつも通り私専用に作られたメニューを出してくれた

「いただきます」

「よく食えよ。今日はいつもよりも少し多めにしておいたからな」

料理長からのアドバイスに私は少しうんざりした表情を見せたが
気にした様子はまるでなかった。いつものことだ。
私は何とか完食すると食器をそのままに食堂をあとにした。
そして自室に戻ると外に出て行く準備をした。薄めの上着を羽織った
上着の下にはベレッタM92がホルスタに収められている。
さらに念のため呼びのマガジンをポケットに突っ込むと出かける準備は完了だ
もしものための供えは大切だとユウさんによく教えられているためだ
玄関の受付にはお母さんが立っていた

「お母さん、ユウさんの家に行ってくるね」

「旅行の計画が決まったらちゃんと教えるのよ」

お父さんからすでに話は通っているみたいだ
私は大丈夫、わかってるよというと旅館を出発した
まだ暑い日差しが照りつける。季節的にはこれから秋を迎えるはずなのだが。
その兆しは今のところまったくない。もう少し時間がかかるようだ
地球の地軸が元に戻るには。私にもできることとできないことがあるのだから
海岸の砂浜近くに着くと、子供たちが水着を着て海水浴を楽しんでいた
今日が日曜日だからだろう。そのせいで子供が朝から海水浴を楽しんでいるのだ

「たのしそうね」

私は思わず独り言を言うと、とにかくユウさんの自宅を目指した
ユウさんの家は展望台の上に位置している。少し距離があるが
食後の運動と思えばそれほど苦にはならなかった
到着した頃には11時ごろになっていた。旅館でのんびりしすぎたのが原因だ
私はドアをノックしようとしたとき、中で言い争っている声が聞こえてきた

『あなたはあの子のことを何も分かってない!あの子にはこの場所はふさわしいのよ!』

『それは君の先入観だよ!彼女は飛び立とうとしているんだよ!これからどこかに向かって!』

言い争っているのはティアさんとユウさんだった。
あの子っていうのはなんとなく私だと理解した

『飛び立った先に未来があるの?絶望しかなかったらどうするつもりなの!』

『そんなことはやってみないとわからないじゃないか!挑戦は重要だよ!』

確かにユウさんの言うとおり挑戦は大事だ
でもそろそろ私はドアをノックしようとした

『トントン』

「ユウさん、いますか」

『少し待ってね』

さっきまでの言い争いの声から一変して普段の声に戻っていた