あの海岸の町に戻ってきたのは夕方だった
旅館に正面玄関に入るとおかあさんが私を抱きしめてきた。もう2度と離さないと言わんばかりに
その行動に私はとても嬉しかった。お父さんも私に近づいてきてよく帰ってきたなと声をかけてきた

「申し訳ない。相葉ユウさん。部屋の方はもう用意している。カオリの隣の部屋を開けさせた。娘のことを頼む」

お父さんはユウさんに頭を下げた。ユウさんはそこまで低姿勢にならないでくださいと言った

「僕もカオリちゃんのことが好きですから。彼女のためなら命に代えても必ず守り抜いてみせます」

「ユウさん!」

私は自分のためにこれ以上家族や大切な人が傷つくところ見たくなかった
もう傷つくのは2度としたくないからだ。

「必ず生きてみせるから」

ユウさんは私の髪を軽く撫でるように触った。とにかく私とユウさんは別館の部屋に移動するとそれぞれ自分の部屋に入った
私は部屋が綺麗に清掃されている事に気づいた。発砲して血が飛んだはずなのにそんな痕跡が残っていなかった
きっとルミナさんの手配であることはすぐに察しがついた。どこまでも手回しの良い事だ
私の生きていく場所はこの町なのだ。その事実はこの先も一生変わる事はないだろう
静かなこの町を私は愛していた。そして、この家族のような旅館の事も
平和で何人も誰もが静かに暮らしているこの町。平和だけが取り柄と言っても過言ではないだろう
だからこそ私はこの町から出る事を極力避けていたのだろう。でも今になってその感情は少しずつ変わり始めている。
第2東京市に行こうという考えを持ち始めた時から少しずつ。止まっていた私の中の時計が少しずつ動き出したのかもしれない
私の時計はあの時から動いていないはずだった。しかしみんなのことを見続けて少しずつその針が動き出した
まるでさび付いていたかのような時計に油が刺されてまわり始めた。それがどこにたどり着くかは今は分からない。
でもどこかにたどり着くだろう

「静かな時間に戻れば私はそれ以上望まない」

そう、私の願いはそれだけだ。この町で静かに過ごしていく。何人にも邪魔されない静かな時間。
誰もが当たり前のように望む時間。だがそれは私にとってはまだ遠い存在なのかもしれない。でもそれを望んでしまう


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カオリちゃんの隣の部屋を提供されたが、室内には大きめのボストンバックが置かれていた
慎重に中身を確認するとメッセージカードが入っていた。ルミナさんからのものでこう書かれていた
あなたを少しは信じてみる事にするわと。バッグの中身は銃火器だ。主に拳銃と予備の銃弾など、
さらに1台の携帯電話が入っていた。登録されている番号は1つだけ。
電話帳にはルミナとだけ書かれていた。どうやらこれは直通ラインのようだ。

「どこまでも慎重なんだから」

彼女らしいと言えばそうだ。彼女はいつも慎重だ。それこそが身を救うのだから当たり前といえばそうだが
戦場において最も重要なのは冷静な視線だ。僕はとにかくほとんどの銃火器を金庫に隠す。
他の人に見られるわけにはいかないからだ。幸いな事にこの部屋に設置されている金庫は少し大きめだったため
銃器は全部収めることができた。これで他の人にばれる事はないだろう
この銃器を見られるわけにはいかない。当たり前のことだが