私が海岸の町に戻るとすぐに周囲の状況を確認した
今のところ戦略自衛隊や国連軍によって周囲の安全は確認されている
彼らにとっても、カオリちゃんのことは大きな問題だ。日本国内で大災害を起こしてほしくないというのが本音だ
そのためならどんなことでも飲むだろう。予算だろうが人員配置だろうが
国内に爆弾を抱えているのはヨーロッパ地方以上にわかっているのだから

「何もなければ良かったんだけど。こうなった以上すべては身を流すしかないわね」

何もなければ良い。それはルミナの願いだけでなく誰もが願っている事だ。ただしその願いは簡単なものではない
日本政府もネルフに情報が漏れたことが分かってかなり焦っていることは私にも伝わっていた
政府も爆弾が爆発しない事を願っているのだ。そのためなら手段を選ばない事は分かっていた
だが、どうすれば良いのかについては誰にもわかるものではない。それが分かるのは彼女だけだ
いや、『彼』だけなのかもしれない。しかし、それを伝える事は私には許されたことではない。
彼女が気づくしかないのだ。ようやく勝ち得たものであることであることも気づく必要がある。
そうでなければ意味がないからだ。

「平和に過ごしてほしいけど」

私の家から旅館は良く見える。ここから観察するしかない。見張るのではなく見守るのだ
大切な『生みの親』でもある彼女のことを守り続ける。それが私の使命なのだ。彼女に与えられた存在意義なのだ
あの時には守る事はできなかった。ただ見ている事しかできず、『彼』が苦しんでいる時もただ見ている事しかできなかった
ようやく彼女は幸せな時間を得ることができたのに、それを壊そうとする人間が多すぎる。
守ろうとしている人間はかなりの少数だ

「どうしてこんなことに」

彼女が感じるはずだった平穏は嵐に変わっていた。ただの嵐ではない。まるで台風のような嵐だ。
平穏を感じる事はできない。それはあまりにも悲しい事だ。

「我が主。あなたの望みのままになることを私は切に願います」

私はいるはずのない神様に願うかのように願掛けをした。神様など存在するわけがない事は私はよく理解していた
彼女自身が神様なのだから。神のために願うなど彼女にとっては望まれていない事だ
いかに神様が無力な存在なのかはよく分かっているからだ。神様は残極な存在でしかない。
希望を与えてくれるものだと考えられているが、実際はその逆のことでしかない。

「希望など存在しない事をネルフの連中は知らないのだから」

碇ユイや碇ゲンドウが望んでいるような結果は絶対になることはあるはずが無い。
それを望むことは彼女にはあるはずが無い。今の彼女にとっては害にしかならない存在だからだ
どんなに彼らが望んでも彼女は望まない。再会などは特にだ