楯無は警備室に入ると俺にいきなりそう言った

「私の大切な妹に何をさせるつもりなの」

「お前の大切な妹には護衛をさせている。セシリア・オルコットのだが。何か不満でもあるのか?」

「傷つけないと約束したわよね?あなたはいったい何を考えているの?」

楯無は完全なシスコンだ。妹である簪を先頭から遠ざけようとしている
また楯無は戦場を見てきたのだから。妹にそんな思いはしてほしくないと考えているのだろう
だが簪は俺と同じで傭兵扱いだ。戦闘になればつらい道を歩むことも増える
そんな血まみれの道を歩む覚悟はできているのかと俺は迫った
簪は覚悟はできていますとはっきりと答えた
有能な人材になることは時間をかければわかってくる
覚悟がなければこの傭兵家業は務まらない
いつ死ぬかもわからないのだから。だから家族とは距離を置く必要がある
まぁ簪の姉は楯無だ。簡単につかまるようなことはないだろう
それでも脅迫の材料に使われることは容易に想像できる
だからこそ時には実の家族でさえも切り離すだけの度胸と覚悟が求められる
彼女はそれを承諾したから俺は今後も簪を鍛えていくつもりだ

「簪は将来有望な人材だ。きっといい傭兵になるかもな」

「あなた!私の妹を守るといったはずよ!」

「ああ。守るさ。契約は履行する。だが戦場ではどうなるかは想像もつかない」

戦場では些細な行動であってもけがをするようなことになるかもしれない
そのために時には厳しい任務を経験することは良いことだ
厳しい任務を経験していればいざという時に素早く行動を選択できる
人間の力量を図るには時には子供を追い込むことで分かる場合もある

「簪は有能だ。姉である楯無がいなければもっと早く開花したかもしれないが」

「私のせいで大切な妹が力を出せないと?」

「お前だってわかっているはずだろ。姉という大きな壁を壊すのは簡単なことではない」

「それはあなたのことを言っているのかしら。織斑一夏にとって織斑千冬は最大の壁であったと?」

「否定はしない。それに俺にはほかにもいろいろと裏がある。お前が想像できないくらいにな」

俺と千冬姉の存在はあまりにも特殊なのだ。
デザイナベビーのような形で生み出された存在である
もし俺がその計画を知らなかったらこんな形になることはなかっただろう
フェンリル先生に俺には特殊な人間であることを知らされた時に決めたのだ
もう俺は誰の誘導も受けるつもりはないと。自らが得た情報で自らの歩む道を選ぶ
必ず歩む道を自らの頭で考えてだれにも誘導されることなく決断を下していく
たとえ血まみれの道であっても俺が決めた道なら後悔などすることはしない