新暦76年4月1日午前10:00(月曜日)

クラナガン市南区北部区域ビューロー地区2番街 クラナガン捜査局中央パトロール本部庁舎10階 捜査長官執務室
クラナガン捜査局はクラナガン市政府の下部行政組織の警察行政組織だ
だが空母や駆逐艦や巡洋艦の他にも潜水艦を保持している軍事部門、
それらを抱えているクラナガン捜査局の下部組織である港湾パトロールがある
その他にクラナガン市と近隣州の空港施設の警察業務を担当している空港パトロール
そして最大の組織はクラナガン市内の警察行政組織である中央パトロールがある

『今回のJS事件について一部関係者から時空管理局の暗部とも言われる部分が根強く存在すると』

『ジェイル・スカリエッティが起こした様々な犯罪に関して時空管理局が古くから関与があったとの報道も』

「マスコミは好き勝手に報道しているね」

捜査長官執務室には現捜査長官をしているユウ・ミズノ捜査長官、
さらに捜査長官の補佐を担当している首席補佐官のエテルナ・ジンガーがいた

「それがマスコミというもの。違いますか。捜査長官」

彼女の言う通りだ。
マスコミは様々な人々が面白く想像できるような、そういった報道が大好きな生き物の様なものだ
誰だってくだらない番組よりも好奇心がそそられるネタが大好きだ

「それにしても時空管理局は悲劇だね。今まで様々な悪事に加担していたことを知ったのだから」

「長官。今こそ我々にとって好機ではありませんか。時空管理局は多くの権限を握っていました」

そう時空管理局はさまざまな次元世界国に対する政治・経済に関する権限を握っていた
最もうまみがあったのは司法の領域だ。自らが好き勝手に裁判の権限を握っていたのだ
JS事件のおかげで時空管理局は新たに誕生した国際組織である次元世界連合の下部組織になる
次元世界連合は時空管理局が管轄下にしていた多くの次元世界国で構成されている行政組織だ
国際組織として時空管理局が正しく機能しているかどうかをチェックする
つまり犬に首輪をつけるようなものだ。今までは好き勝手にしていた犬にしつけをする
ただそれだけの話だが、今までとはまるで状況が異なってきている
まず時空管理局の規模の大幅縮小。
時空管理局の管轄できる領域は次元空間を使った犯罪と無人次元世界の警察部門のみ。
裁判の権限は剥奪されてすべて各次元世界国に返還されることになった
これらの改革により時空管理局は大きく変わりつつある
まずは人員の大規模リストラだ。
さらに管轄範囲が大幅に縮小されたことで様々なコストの監視も含まれる
今までは時空管理局で使われる物資はある特定の企業を通じて供給されていた
ワンワールドグループという企業グループだ。グループには物資納品をしていたワンワールドカンパニー。
おまけに金融関係の企業もいくつかあった。さまざまな次元世界国で活躍している銀行のワンワールドバンク
証券会社のワンワールドストックブローカー。投資会社のワンワールドファンド
保険会社のワンワールド保険。そして警備会社のワンワールド警備。
このワンワールドグループは時空管理局に関するあらゆる部門に関わっていただけに、
次元世界連合が誕生して厳しく内部調査の真っ最中だ。
次元世界連合加盟国はさまざまな観点からワンワールドグループ企業の捜査を進めている

「ところで機動六課組に関してはどのように扱うおつもりで?」

「エテルナ。それを決めるのは政治家の仕事。我々の使命は犯罪捜査」

まぁ少しは時空管理局のクラナガン市内で起こした犯罪の捜査を行うけどと少し笑っていた。
確かに楽しいことになる事は間違いない。今後の事を考えるとなおさらだ
今までクラナガン捜査局は時空管理局が禁止した銃火器など、
質量兵器を厳しい基準を設けられたのでそれを何とか乗り越えて扱ってきた
だがスカリエッティが開発したAMFによって魔法がすべてではない事を立証した
これは本当の意味で好機だ。今の機会を逃す事はできない
今ならあらゆる無茶が押し通る。今までの苦労に比べると格段に手間が省けるというものだ

「時空管理局の地上本部は解体。新たにクラナガン市内に設置される時空管理局本部に統一される」

今まで本局と地上本部の2つに分かれていたのが1つになる。
だが権限は大幅に縮小されて規模も人員も大幅削減。いわゆる大量リストラになる
地上を管轄していた時空管理局の警察部門はほとんどすべてが廃止対象へ。
次元空間部門に関しては現状維持ではあるが、規模は大幅に縮小される
どちらにしたところで時空管理局の規模縮小は既定路線。

「次元世界連合事務総長であるラビット・ボードさんはどのような行動に出るでしょうか?」

「今まで時空管理局が幼い子供であっても戦場に投入してきた。ひどい扱いだよ」

彼らにきちんと教育を受けさせるべきなのにと捜査長官は言うがそれは事実だ
幼い子供でもリンカーコアの魔法ランクが高い者はどんな人材でも採用してきた
例え元犯罪者であっても司法取引で罪を完全に白紙にして戦力に投入する
ましてやまだ親の保護下に置かれるべき子供なら余計に。

「それは言えていますね。だから以前次元世界連合の全加盟国が結ぶようにとした条約を後押ししたのですか」

子どもの権利条約。
子供には教育を受けさせて強制的に戦場に投入する事を禁止する国際条約。
捜査長官である彼が強く後押ししてきた条約だ。
すでに次元世界連合全加盟国で法で定められて運用されている
17歳以下の子供に関しては就労に制限をかけることを定めている。
また、小学校・中学校での教育を必ず受けさせるように促すことも規定されている。
時空管理局などの青田買いによって就労年齢が大幅に引き下がり、その結果子供の自由を奪っていた。
この条約は次元世界連合加盟世界・次元連合関係組織に対しては国内法で子供の権利に関して定めるように促している。
時空管理局や聖王教会も例外ではなく、17歳以下の子供の就労に関して制限するように通達を出すことが決まっている。

「捜査長官も意外と策略家ですね」

エテルナの言葉にユウ・ミズノは誉め言葉だと思って受け取るよと答えた
そしていくつかの確認を終えるとさっそく話し合いをしに行こうかなと彼は言った
ユウ・ミズノ捜査長官はこれから西区にある次元世界連合事務総長のラビット・ボードと会談をするのだ
エテルナは車を用意しますと答えると携帯電話で1階正面玄関に捜査長官用の車を手配した


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中央パトロールが管轄するクラナガン市は極めて広い面積だ
市行政区が入る領域は南北300km×東西1400kmの長方形に似た形状。
大陸部分は市領域の西側の南北300km×東西200kmであり、
残りの南北300km×東西1200kmは海となっている。
海域にはいくつかの島々が点在している。市内南西部にはクラナガン自然保護区が存在する。
自然保護区は70kmの正方形状の形をしている。
長方形のクラナガン市と重なっているのは南西部の東西10km×南北10kmのみ
クラナガン市南西部にクラナガン自然保護区を加えると、
長方形の左下に別の正方形が重なっているかのような構図。
そんな広い領域の中で殺人などの重罪行為に対する捜査を担当するのは中央パトロール本部捜査部である
捜査部のトップである捜査部首席捜査官はシエル・ミズノ首席捜査官だ
捜査部には3つの係がある1係と2係と3係。別のどの事件でもどの係が担当しても問題はない。
捜査部捜査官は科学捜査のプロだ。人員は1係が6人。2係は8人。3係は9人在籍している
彼らはあらゆる事件にも対応できるように鍛えられている。
また港湾パトロールでさまざまな軍事訓練を受けてきた。
そのため指揮官としても有能な人材だ。彼らがいなくては解決できなかった事件は数多く存在する
ちなみに中央パトロールには南区北部区域にある中央パトロール本部。
クラナガン市の大陸部門の治安維持は中央パトロールがしているが、
市内全域を担当しているのは中央パトロール本部
中央区を担当しているのはセントラル分署。北区を担当しているのは北分署
東区を担当しているのは東分署。南区を担当しているのは南分署。
西区を担当しているのは西分署。次元世界連合がある西区のクルック地にはクルック分署が設置されている
6つの分署を統括しているのは中央パトロール本部である。
中央本部のすぐ近くにはクラナガン市政府機関の建物が数多く設置されている
ミッドチルダ連邦の首都であるため、中央区中央区域に連邦政府機関の数多くの建物が設置されている


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部首席捜査官執務室

「相変わらずの強引さですね。統合管理官」

捜査部のトップをしているシエル・ミズノは中央パトロールのトップである統合管理官と電話会議をしていた
空港本部と港湾本部のトップは空港本部長・港湾本部長となっている。
中央パトロールだけは例外として統合管理官という役職名になっている
今の統合管理官はエリ・ミズノ統合管理官だ。
クラナガン捜査局の前身組織であるクラナガン捜査部時代から勤務しているベテラン。
クラナガン捜査部の時は副部長を務めていた。ちなみにユウ・ミズノ捜査長官とは家族だ

『次元世界連合事務総長である彼女の希望を無視するわけにはいかない。意味は分かるわよね?』

2人が話し合っているのは時空管理局機動六課に関する今後の取り扱いについてだ
時空管理局が次元世界連合の下部組織に移行して様々な部門が統廃合された
特に事務方の部門に関しては次元世界連合が選出した文民による対応に切り替わったことが大きい
今までは時空管理局の事は時空管理局での処理だったがそれらはすべて廃止になった
時空管理局の事務方部門に関しては次元世界連合の直轄担当部門に置かれることになった
これにより今までできていた時空管理局の予算関係は大幅に圧縮された
また時空管理局員の給与水準も引き下げられた。人員削減という名の大量リストラ。
時空管理局が予算を確保のために発行していた時空管理局債についても扱いは厳しくなった
今までは安定的な安全資産とされていたがその保証も失われた。
金融市場で取引される時の取引価格は額面価格に対して10%にまで値下がった
元々時空管理局債に関して大量に買い込んでいたのは退役時空管理局員が多い
その次にワンワールドグループ企業の金融部門関係の企業だ。
価格が暴落した結果、多くの企業では財務状況は大幅に悪化した
シエルはその資料を見ながらエリ・ミズノ統合管理官と電話会議をしていた
債権処理に関して次元世界連合の関係国際組織。
次元世界通貨基金が価格が大幅に値下がった時空管理局債が現在低価格で買い入れていた
国際金融市場に不要な混乱が出ることを抑制する事が第1の課題である
時空管理局債の償還するにあたって、現在発行されている時空管理局債の総額は100京ミッド近い額になる
これだけの額を次元世界連合が負担することになれば体力的に問題になる
そこで低価格で取引されている時空管理局債を大量購入して、少しでも少ない金額で償還しようというのだ

「まぁね。それで誰が受け入れに納得すると思っているの?こんな案には」

シエルが眺めているのは機動六課組に関する取扱いだ
時空管理局にとっても自らの闇を知っている機動六課組に対する扱いに困難を極めていた
簡単に言えばトカゲのしっぽのような扱いにとのことだ。
仕方がないと言えばそうだが、受け入れをするこちら側にとっては面倒になる

『だからあなたに頼んでいるのよ。急ぐの。即決してもらえない?』

「1時間もらえる?ラジェットと交渉をしてみるわ」

ラジェットとは捜査部1係の捜査官であり1係主任補佐官だ。
2係や3係にはそれぞれ主任捜査官という役職になっているが、
1係は主任補佐官であるラジェット・ハングリーが1係のトップだ。1係には主任捜査官が設置されていない

「事を穏やかに進めるには私の補佐の賛否を確認したいから」

『わかったわ。少しだけは待つけど、できるだけ急いで即決を』

少し待ってと言うとシエルは8階捜査部フロアにあるオペレーションルームに向かった
オペレーションルームには最新の技術が投入されている。そこには捜査部の作戦指揮が行える。
正面には映画のスクリーンのような大型スクリーン ]
左端:[ 各種情報端末・壁には複数のディスプレイ ]
右端:[ 市内全域の地図( 海洋部分も含めた市域 ) ]
そこにラジェット・ハングリー捜査官がいた

「ラジェット。機動六課組に関する報道の状況は?」

「良くはないな。マスコミに漏れるのも時間の問題だ。早速来たという事はこちらへの編入申請か」

察しが良いわねとシエルは答えた。

「その通りよ。だから直属の部下であるあなたに聞きに来たの。あなたならどう判断する?」

「俺か。大反対と言いたいところだが。問題を抱えている事は間違いない」

正面スクリーンには様々な報道番組が表示されていた。
どのメディアも時空管理局の暗い部分。通称:HRと呼ばれている暗部についてまで報道されていた
時空管理局の情勢はかなりのリスクがある。

「あなたは反対しないと?」

「俺はすべての情勢を見ている。リスクがない仕事なんて存在しない。おまけに時空管理局の現役や退役局員は悲惨だ」

退役局員に今まで支給されていた高給な年金に関しても、
その年金を運用を任せていた投資ファンドから金がもらえない情勢が続いている
理由は簡単である。現役時代に退役後に年金を受け取るため、
投資ファンドに預けていたのだが投資ファンドが運用に失敗。
それにより受け取れる年金金額はかなり少ないことになった
おまけに退役局員は銀行などから融資を受けて時空管理局債の購入に使った
当時は安定資産だったが今では火の車だ。
今の生活も受け取っている年金ではやりくりできなくなってしまった。
高齢になってもアルバイトをしなければならない所まで追い詰められている人間もいる

「これを見てほしい」

ラジェットは1冊のファイルを渡した
機密のハンコが押されたファイルだった

「どこでこれを?」

「情報は集まるものだ。幹部になれば多くの機密情報がな」

ラジェットが渡したファイルの題名はこう記載されていた
時空管理局機動六課に関する人事報告書だ。ラジェットに簡単にわたるような資料ではない
極秘中の極秘事項である

「捜査部のナンバー2を長期間してきたからあなたには豊富な情報と人脈が集まってくるわけね」

とにかく判断してほしいのとシエルはラジェットの機動六課組の調整に関しての決断を迫った

「上は何て言ってきている?おおよそ見当はつくが」

「エリは形だけこちらの意見を求めているけど、実質は決定路線でしょうね」

ラジェットはクラナガン捜査局の上層部が決定していることは理解していた
面倒な事はすべて押し付けてくることは十分把握していた。

「俺にはやて・八神をやらせてくれるなら説得はしてやる」

ラジェットはクラナガン市の北西方向にある旧ベルカ自治区。
今のベルカ州出身だ。彼には深い闇がある。
ベルカ自治区時代にベルカで生まれて、州政府へ移行を目的とする組織に所属していた時がある
彼はさまざまな情報をクラナガン捜査部に提供した。
その中には聖王教会に関する様々な不祥事に関する情報提供が条件とされていた
情報提供によって聖王教会や時空管理局の暗いそこの闇の事実を明らかに。
数年間は刑務所に収監される予定だったが保護観察下の状況下でクラナガン捜査部に加入
もちろん厳しい監視の目で見られることは分かっていたが、彼はさまざまな信頼を勝ち取ってきた
全ては罪なき人々を守るために行動をしたからだ

「わかったわ。このファイル。もらっても良いの?」

「好きにしてくれ。それに部下が知った情報は上司に報告する事が義務付けられているからな」

ラジェットの言葉を聞いてありがとうと言って捜査部オペレーションルームを出ていった
オペレーションルームの情報管制をしているギブリ・インディが質問してきた

「良いのか?あんな豪勢な手土産をプレゼントして」

「貸しがある知り合いは多くいる。あれくらいのことで俺がビビると思わないでくれ」

ラジェットはそう言うとある報道番組を空間モニタで見始めた
その報道番組はある特集を組んでいた。
JS事件に関するもので時空管理局の最高指導者とスカリエッティの関係。それも大々的に流していた。
スキャンダルは誰もが喜ぶネタである

「時空管理局に恨みがあるお前にとっては楽しんでいるのか?」

「ギブリ。俺は恨みはあるがそれを公私混同するほど馬鹿な人間じゃない。俺は正義の味方なんだからな」

「よくもまぁ言えたものだな。シエル首席は気づいているが陰でこっそりとアルバイトをしているだろ」

「シエル首席が何も言ってこなければ関知しないという事だ。シエルに昔こう言った」

俺が起こした不祥事が火種になるようなトラブルが起こりそうならクビにしろとなとラジェットは言った

「お前は怖い奴だ。敵でない事が嬉しい限りだ」

ギブリはそう言うと引き続き情報収集を行った


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東区東部区域 時空管理局機動六課駐屯基地付近 地区パトロール事務所 情報センター

地区パトロール事務所は一定の広さの地区に1つは設置されている交番のよう中央パトロールの施設。
事務所の事を略称で地区事務所と呼ばれている。
担当業務は犯罪被害の届け出などや担当地区内と周辺地区の警戒を行っている
情報センターは地区パトロール事務所が担当している地区に設置されているある物、
それは街灯型観測システムと呼ばれている。
これには無線中継・監視カメラ・各種センサーで得られた情報は各分署の分署地域情報センター
さらに中央本部庁舎の中央パトロール管制センターに情報が送られている
何か不審な行動をする者があればすぐに危険物センサーが作動する

「おい。エルガ、少しは休んだらどうだ?」

声をかけられたのは中央本部捜査部1係の捜査官をしているエルガ・ジャーニーだ
彼は時空管理局機動六課駐屯基地の監視をしていた。

「今は連中を守らないとな。仮にも『正義の味方』だからな」

仮にもと付けられているのは、一応『機動六課』は真実を暴いたからだ
だが時空管理局内部では敵視されている。
今までの栄光をすべて潰して時空管理局の支配権を無くしてしまった
それゆえに機動六課に対する攻撃がある事が想定されている。
証拠隠滅のために手段を選ばないからだ。
そのため中央パトロールだけでなく港湾パトロールでも監視している
監視方法は対空レーダーや人工衛星などを利用しての監視だ
クラナガン捜査局は数千基の人工衛星を保有している
最も多いのは港湾パトロールが運用しているものだ。
その次に多いのは中央パトロールが独自に運用しているものだ
それぞれの人工衛星の基本的な機能は同一的なものである。
またスペースデブリになる事を避けるためとコスト削減のために、
定期的に宇宙空間でクラナガン捜査局は配備している人工衛星の推進燃料の補充を行っている
これによりスペースデブリの発生率は大幅に縮小と運用コストの大幅な削減に貢献している
クラナガン捜査局の運営資金はミッドチルダ国民が納めている税金だ
無駄遣いをすることは絶対に許されない。

「エルガ。機動六課組が時空管理局から狙われている事は事実だが、下手に介入するともめるぞ」

地区パトロール事務所にいる男性パトロール捜査官はエルガにコーヒーが注がれたマグカップを差し出した
エルガはマグカップを受け取るとコーヒーを飲んだ。

「今は保護対象のリストに入っている。それにここでトラブルを起こされるのはそっちも迷惑だろ」

確かにそうだ。機動六課駐屯基地の目の前で大きな騒ぎが起こされたら状況はかなりまずい
それを考えると警戒は厳重にするべきだ。
ちなみに機動六課には港湾パトロールの下部組織、港湾パトロール安全保障局に属する諜報員がいる
機動六課はもちろんだが時空管理局の内部情報は機密の回線で筒抜けになっている。

「まぁそうだが。だが連中も殺されるのを分かって出てこないだろ。野次馬がいるならなおさらだ」

機動六課駐屯基地のゲート付近には多くの反時空管理局派の人間がプラカードなどで抗議活動をしていた
誰もが今まで抑圧されていた感情を当てつけの対象にしていた
彼らにすべての責任はないのに。生きる時代を選べない事が最大の要因でもある

「退役時空管理局員からは恨みは山ほど買っている。殺されても正当化するはず。手段を問わず」

エルガの言葉は当たっている。時空管理局を事実上破綻させた最大の原因なのだ。
どれほどの時空管理局と関係者から逆恨みの目にあっている


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南区北部区域イーストハーディー地区6番街6丁目と7丁目の間の通り

ハーディー地区は以前から貧困街として有名だ。
元々は低所得者向けに安い賃貸マンション物件が数多く建設されていたことから
この地区ではある事が適正な市政府が認める基準を超えればある事が認められていた
市内で合法的に売春行為が市政府の認可を得れば合法で行える
売春に関しては犯罪組織が関与している事が多く。その関係で麻薬や銃火器の密売が頻繁に行われている
また近隣州では禁止されているが、特定の条件が満たされたらクラナガン市はカジノが合法だ
カジノに関しては市内にある4つの空港の近くでしか行うことは認められていない
しかし近隣州からカジノをするために数多くの人々が合法的にできるところに遊びにくる

「本当にやってくれると助かるんだけど」

アルシオーネ・トラヴィック捜査官がSUVの車内で無線を傍受しながら待機していた
彼女はこの辺りで最近増加しているある犯罪の摘発のためだ

『中央本部からSA33。応答せよ』

SA33はアルシオーネ・トラヴィックの無線識別コードだ
中央パトロールの職員には個別の無線識別コードが割り振られている
その無線識別コードを絶対に覚えることが求められている

「こちらSA33。何か問題でもあるの?」

『ある人物がその近くにいる。警戒せよ』

車に積み込まれている車載情報端末にその人物に関する情報が送られてきた
名前はジェレード・バロイン。52歳。男性で退役時空管理局員。
時空管理局の大量リストラで解雇された1人である。最後の階級は1等陸尉
彼はある疑惑を抱えていた。時空管理局の態勢は大きく変更された
本局と地上本部の2つに分かれていたが、今は時空管理局本部と統一された
時空管理局本部庁舎は西区東部区域クルック地区1番街7丁目・8丁目に50階建てのビルに設置された
時空管理局の関係者が絡んだ事件捜査には時空管理局犯罪捜査局が担当する
その時空管理局犯罪捜査局の捜査対象者になっていた。理由は簡単だ
時空管理局の金を横領したのだ。分かっているだけでも数憶ミッド
しかし今の資産額は数百万ミッドしかない。
横領した金のほとんどは時空管理局債の購入に使って運用していた
長年の資金運用は順調にできていたが、
JS事件によって時空管理局債が暴落したことにより大幅に取引価格は減額。
これにより時空管理局に金を戻すことができなくなった結果、不名誉除隊処分になる直前に大量リストラになった
不名誉除隊とは、事実上の懲戒処分のことを示していた。
大量リストラでは今までよりも多額の退職金を受け取ることができなかった
これもすべて大幅な時空管理局再編のためによる影響だ
以前はかなりの金額の退職金を受け取っていた。だが今の情勢は全く異なる
退職金はほとんど出ない。さらに年金もあまり期待できない。
それに関しては運用を任せている投資ファンドによって異なるが、
多くの時空管理局員はワンワールドグループ企業の1つであるワンワールドファンドに任せていた
そのファンドの今の投資運用額は以前よりも1割まで下がってしまった
つまり投資に失敗した。それだけの話だ。その影響で穴埋めもできなかった
まるで将棋倒しのように多くの不安材料が揃っていった
そしてついにはジェレード・バロインは完全に追い詰められて破滅した
すでに銀行から融資回収のために持っていた財産の大部分が差し押さえられていた
時空管理局が回収に乗り出した時にはもう資産は残されていなかった
今の住所はこの辺りに住んでいた。ハーディー地区と近隣地区は家賃が安い賃貸物件が多い
そのため資産が少ない人間が多くの人物が住んでいた。

「こちらで身柄を押さえますか?」

『SA33は待機せよ。行動をするな』

中央パトロールが下手に手を出して時空管理局犯罪捜査局ともめることは起こすとまずいのだろう
ちなみに時空管理局犯罪捜査局の捜査官は中央本部捜査部で研修を受けていた捜査官が任務についている
その関係で情報は常に連携されている。だからこそ簡単に手を出すわけにはいかないのだ

「了解」

無線交信を終えるとアルシオーネは待機任務に就くことにした
アルシオーネは本当に厄介な連中達を生み出してくれたわねと思っていた
下手に貧乏くじを引きたくないのは誰もが同じだ。だが捜査をしなければならないことがある事は事実だ
見逃すことはあってはならない。待機中でも情報収集のために報道番組を空間モニタで見ていた

『ワンワールドグループ企業の破産を受けて、クラナガン証券取引所ではワンワールドグループ企業の株価は急落』

ワンワールドグループ企業の処理には多くの時間と金が必要になる。
金融部門を抱えているからもしかしたら公的資金の導入があるかもしれないと考えられていた。
だがミッドチルダ連邦政府が認めるはずはない。
次元世界連合は時空管理局の影響力を下げることを目的に設置されたからだ
その次元世界連合安全保障理事会は次元世界・次元空間の安全保障問題を話し合う理事会。
常任理事国であるミッドチルダ連邦を除いた14ヶ国は次元世界連合総会で選出される。議長は1ヶ月ごとに交代。
9ヶ国以上の賛成票により意思決定がされる。可決決議は総会決議と同様に次元世界連合加盟国に法的拘束力を持つ。
理事に選ばれた次元世界政府大使は非常招集に応じれるようにクラナガン市に駐在を義務付けられる。
ミッドチルダ連邦は唯一の常任理事国。他の14席については次元世界連合の総会で選出される。
14席のうち4席は特別理事国。残りの10席は通常の通常任理事国。
特別理事国は任期は4年。通常理事国が任期が2年
特別理事国が4席も設けられているのは2年では解決できない安全保障問題が出るかもしれないからだ
中長期的な視点で見ることも必要であることから特別理事国が設定されている
今のミッドチルダ連邦大統領はアンナ・ランシング大統領だ。
女性ではあっても政治的駆け引きはかなり上手であることは有名だ
彼女には2人の娘がいる。その娘達は港湾パトロールに所属している歴戦の兵士だ
一応シークレットサービスがついている。
だがほとんど港湾パトロール本部基地から出ることはないので安心だ
基地を出入りする人間や車は詳しく調べられている。
不審な人間や車が確認される事を縮小するため、港湾パトロールの各基地には住宅や商業施設がある
港湾パトロールはクラナガン市・北隣のマリネット州・南隣ラクロス州・西隣のフローレンス州。
北西側にある旧ベルカ自治区。今のベルカ州だ。
マリネット州・ラクロス州・フローレンス州・ベルカ州にはそれぞれ1つの港湾パトロールの基地がある
クラナガン市と近隣州の安全保障を担っているのが港湾パトロールなのだ

『一方で聖王教会も時空管理局と同じように発行していた聖王教会債についても焦げ付くことが予測されています』

聖王教会も1京ミッド近い聖王教会債を発行していた。
今までは安定的な債権だが今は取引価格は大幅下落していた
聖王教会も財政事情は最悪になっている。
今までは多額の寄付によって聖王教会の歳入は毎年100兆ミッドはあった
それが今年は40兆ミッドで予算を組まなければならない。
ところがどう頑張ったとしてもそれではカバーできない。
新しい聖王教会債を発行しようにも信用度が下がる
結果聖王教会債の発行ではよほど高い金利を付けた債権でなければならないが、
それでも引き受ける金融機関はかなり少ない
いくら金利が高いからと言って沈みかかっている船に乗り込むような命知らずはいない
それが助けになったとしてもだ

「本当にひどい話ね」

時空管理局も聖王教会も今や沈没しつつある船だ
様々な場所に穴が開いているのでもう沈むことを止める事はできない
ネズミのように逃げ出そうとしているが数多くいる。
だが次元世界連合全加盟国では時空管理局の強引な活動に関する捜査が行われている
絶対に見逃すわけにはいかない。時間稼ぎの余裕を生ませるわけにはいかない事を考えると余計に
今は余裕がない。何としても捜査対象者になっている人物に対しては徹底的な捜査が求められる

「現れたわね」

アルシオーネが監視していたのは最近になってハーディー地区で活動しているある組織のメンバーだ。
正確には聖王教会騎士団のメンバーがいたのだ。名前はファラス・ギレット。男性で29歳。

「どうやって炒めて食べてやるか考えないと」

炒めるというのは簡単に言うと徹底的に追及するとことを示している
そして食べるというのは逮捕するという意味でもある
だが実際に事を動かすのは簡単な事ではない。もしかしたら大きな問題になるかもしれない

『SA34からSA33。そっちで不審な動きはあるの?』

SA34はステラ・ドミンゴ捜査官の無線識別コードだ
彼女は以前は時空管理局に務めていた経歴があるクラナガン捜査局の中では少し変わっている
弟が快楽殺人者に襲われたが、中央パトロールに犯人は逮捕されたことをきっかけに転職
魔法ランクは [ S- ] であり、ユニゾンデバイス[ マイア ]と共に捜査している。
高町なのはとは面識がある。彼女が捜査部に入局するのは簡単な事ではない
一応敵対組織にいたのだから当然である。中央パトロールに入局した時に査察部によって
厳しい監査と内部調査で問題ないと判断を受けて75年に捜査部に異動した
ステラには直属の部下がいた。マイア・ドミンゴという捜査官補佐だ
彼女はユニゾンデバイスだ。古代ベルカ時代の遺跡の調査で時空管理局が発見された。
ステラが調査隊護衛で参加した際に保護したユニゾンデバイス。
身長は本来 [ リィンフォースⅡ ] と同じくらいだがそれでは仕事に差し支える。
そのため、いつもは成人した女性の姿である姿をしている。
ステラにとっては絶対の信頼を持っている最高のコンビと言われている。
マイアはステラが乗っているSUVの助手席で車載情報端末を操作。
周辺に設置されている街灯観測システムの観測情報を見ていた

「SA35と一緒ではないの?」

『助手席にいることは事実よ。何か問題でもあるの?』

アルシオーネはただの確認よとステラに伝えて無線交信を終えた

「何をしてくれるのか楽しみね」

ファラス・ギレットの行動を注視しているとある若い男性と接触した
その時に男性に金を渡しているのを確認できた。何を渡したのかはすぐに察しがついた
麻薬だと。これで逮捕することができる。

「SA33から南分署。ファラス・ギレットが麻薬を購入した可能性がある。確保の許可を」

『こちら南分署。身柄確保を許可します』

麻薬で逃げられる前に身柄を押さえておくべきだ。もしかしたら過剰摂取で死亡したら困る
真実が闇に葬られる事を避けるには必要な手法である
アルシオーネはエンジンをかけるとSUVの緊急走行で身柄拘束のために動いた
ファラス・ギレットの針路を妨げるように車を止めて腰のホルスターに装備しているS&W M39を抜いた

「中央パトロールよ!両手を上げなさい」

ファラス・ギレットは素直に従った。銃で撃たれるのは嫌なのだから、当然である

「SA33から南分署。こちらの現在位置に大至急パトカーを」

『こちら南分署。了解。すぐに手配する』

無線連絡を終えるとファラス・ギレットに手錠をかけた。
この手錠は魔導師でも魔法の使用ができなくなるAMF加工がされている。
もちろん銃弾も同じでシールド魔法などを貫通する。
AMFによって魔導師はある意味で最も危険性の高い仕事になった

『ピーピーピー』

アルシオーネの携帯電話に着信が入ってきた。
発信者は同じ係のエバック・アリオンからだ。彼はCIAの工作員として活動していた
彼は1係のエミーナ・アリオン捜査官と夫婦だった。だがCIAで工作活動するため表向きは殉職した
実際はCIA工作員として様々な諜報活動を行っていた。妻であるエミーナは殉職したと信じて墓まで作った
しかし、今年になって『蘇る』ことになった。もちろんエミーナとはかなり激しい言い争いに
だが生きて再会できたことに感謝をしていた。彼ら2人には娘がいた
娘も死亡したはずの父が生きていたことに戸惑いながらも、再会できたことに喜んでいた
もう2度と会えないはずだったのに再会できたのだから当たり前である

「アルシオーネです。緊急ですか?」

『ファラス・ギレットは時空管理局犯罪捜査局が追いかけていたことで内密で手配がかかっている』

そんな話はアルシオーネは何も聞いていなかった
通常なら捜査部にそんな情報が入ってくるはず。何もこちら側が把握していない事はおかしい

「それって陰で陰謀論でもあると?」

陰謀論というのは簡単に言えば諜報機関が手配していることを示している
アルシオーネの質問にエバックは今は何も言えないと。つまり陰謀論があるということだ。
問題はどの組織が絡んでいるかだ。ミッドチルダ連邦政府の中にはいくつかがある
CIA(中央情報局)・NSA(国家安全保障局)。さらに連邦国防省傘下に海上安全整備局がある
連邦政府直轄の諜報機関だけでもこれだけある。さらにクラナガン捜査局にも4つの諜報機関がある
港湾パトロール防衛情報局・港湾パトロール艦隊情報局・港湾パトロール海兵隊情報局・港湾パトロール飛行隊情報局。
これらの諜報機関は連邦大統領に対して国家安全保障のために様々な情報が大統領に報告される
大統領に国家の意思決定のために必要な情報を様々な政府組織との照らし合わせす。
これにより正確に国家に利益が出るように動かすために活動できるのだ

「わかりました。誰が引き取りに?」

『FBIの連邦捜査官が来る。身柄そのものはハーディー地区事務所に連行して留置場に入れておいてくれ』

つまり後始末は任せろという事だ。

「わかりました。FBIに貸しができるなら喜んで提供します」

『俺もそっちが何か困ったことがあればいつでも言ってくれ。こちらで動ける範囲で対応する』

エバックとの通話はそこで終わった。
FBIは聖王教会騎士団への捜査のメスを入れるために懸け橋になる材料、
それを欲しがっていることは予測できた。
FBIも国民に正義がなされていることをアピールするにあることは分かっていた
時空管理局が地上警察権を失う事で多くの権限が各国に権限が移管された
彼らは国民に時空管理局よりも正義がなされている。
それを明らかにすることで立ち位置を盤石のものとしていた

「面倒な案件になる事は間違いないわね。それに私達、捜査部に情報が降ろされてこない事も問題ね」

中央パトロール本部捜査部は国家機密を扱える資格を持っている。
そうでなければさまざまな作戦に参加する事はできなかった。
定期的に捜査部捜査官は港湾パトロール艦隊や海兵隊や飛行隊で訓練を受けていた
捜査部捜査官の全員が何らかの港湾パトロールの部隊に所属・訓練を受けて予備役兵として登録されている。
緊急時には軍事的な活動にも参加する事もある

「知り合いの連邦捜査官なら良いけど」

アルシオーネはファラス・ギレットをハーディー地区パトロール事務所に連行するように指示した
パトロール捜査官は了解ですとすぐに地区パトロール事務所に連行していった

「FBIに情報請求をするしかないわね」

簡単に話してもらえることはない。彼らにも機密というものがある
こちらからも情報提供する事で物々交換をするしかない
相手にも交渉のテーブルに着いた方が良いことを示す美味しい餌がなければ難しい
その餌を探し出すためにもファラス・ギレットの自宅の家宅捜索が必要だ
アルシオーネはすぐにクラナガン市裁判局に令状発行を求めた。
捜索令状に必要な情報は十分にある。こちらにはFBIのバックがあるなら協力してくれるはず

「FBIから情報を引き出せると良いけど」

ことが穏やかに進めるだけの人員が確保されていたら最高なのだが

「とりあえず地区事務所で待つしかないわね」

アルシオーネはそう言うととりあえずハーディー地区パトロール事務所に向かった


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南区北部区域ビューロー地区1番街3丁目 クラナガン市政府第3合同庁舎 61階クラナガン市長執務室

現クラナガン市長は今年の1月に市長選挙で市民から支持率80%もあるサンディ・マウント市長が就任した
彼女は以前は港湾パトロール海兵隊で司令官をしていた。そのため指揮命令系統について詳しいこと。
さらに目玉政策としてクラナガン捜査局へ権限強化でクラナガン市と近隣州への安全保障を確実なものにした
クラナガン市は近隣州との連携する事はさまざまにある。
それだけにクラナガン市だけの安全保障だけでなく、
近隣州との連携を取るなど政財界に盤石なものでなければ政治的駆け引きは苦労する

「市内にいる退役時空管理局員はかなりの数になります。新しい分野への雇用促進のための法案は必要です」

市長首席補佐官をしているクロウ・フォードの報告にサンディはトラブルになる事をすぐに理解した
クロウ・フォードは新暦64年にクラナガン市下院議会の選挙に出馬して当選。
10年間にわたって市下院議会議員をしたあと、サンディ・マウントが市長選に出馬時に市議会議員を退職
クラナガン市長選でサンディ・マウントが当選するとすぐに市長の首席補佐官に就任した
港湾パトロールの管轄区域は東隣りのスタントン州を除くと北隣のマリネット州・西隣のフローレンス州
南隣のラクロス州。そして北西にあるベルカ州が港湾パトロールの活動範囲になる
港湾パトロールとの連携する上でサンディ・マウント市長は組織内部の情報に詳しい。
クラナガン捜査局の部隊運用についても精通している事から詳しい
大量リストラされた退役時空管理局員の再就職に関してはクラナガン市だけでなくミッドチルダ連邦、
他の次元世界国でも大きな問題になっている。
退役時空管理局員は年金運用を依頼していた投資ファンドに預けていた資産を失った事で生活苦に
影響はすさまじいことに。クラナガン市では生活保護制度がある。
ただし生活保護を受給できるのは連続の場合は36か月までしか認められていない
退役時空管理局員はその生活保護の申請を行っている。その申請件数はかなりになっている。

「大量リストラされた退役時空管理局員の問題については最重要課題というわけね」

「市長。この案件には連邦政府も関与しています。おまけに内部監査で次々と摘発される退役局員も多い」

こちらだけが対応するには限界があるとクロウ・フォードは答えた
彼の言う通りだ。何もかもが予想外であり難しい最重要課題
それゆえに対応方法は難しい選択肢しかないのだ

「クラナガン市の問題はこの国の国際政治に影響することは分かっていますよね?市長」

今まではクラナガン市長を務めていたのは時空管理局側に優良でメリットのある法律を議会に提案。
市議会も今年1月の選挙までは時空管理局の影響力が強かった市議会議員が多かった

「今まではクラナガン市は時空管理局によってさまざまに利用されていた。それを改善することが私達の責務」

クラナガン市はいまや国際政治のど真ん中だ。様々な次元世界国の大使館が設置されている。
次元世界連合本部庁舎や関連国際機関庁舎が西区東部区域クルック地区や周辺地区に設置されている
そのためクルック地区を専門的に警戒している中央パトロールクルック地区警備庁舎がある

「クラナガン捜査長官には常に連絡が取れるように手配を」

「捜査長官のことです。いつでも連絡をしても問題ないと言うでしょう」

クロウ・フォード首席補佐官は捜査長官の事をよく理解している
捜査長官であるユウ・ミズノとはかなり親しい。
市下院議員の時にクラナガン捜査部を創設した時から関係があったのだ
クラナガン捜査部の創設のために市下院議員時代に大きく協力していた

「彼は優秀すぎるのは事実ね。私が海兵隊で司令官をしていた時、彼はいつも私に助言をしてくれた」

「例えばどんな助言ですか?」

サンディ・マウント市長は全部答えるのは無理だけどとクロウに答えた。
1つの例を出して人員的な損失を出さないように最大限の配慮をしてくれたと
捜査長官は政治的駆け引きは簡単なものだ。だからこそ捜査長官の任務遂行をすることができるのだ

「捜査長官とは常に連携を。市内に何か安全保障上の脅威が確認されることを想定に行動できるように準備を」

クラナガン市政府第3合同庁舎の51階から60階には緊急対応センターが設置されている
緊急対応センターは大雨や地震などの大規模災害の対処するため、
市長が指揮命令できるような装備が設置されている。
不測の事態に備えて何名かの対応管制官が待機している
市長はそこでの警戒態勢にするようにと伝えた


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中央区中央区域セントラル地区2番街 ミッドチルダ連邦大統領府(通称:ホワイトハウス) 大統領執務室

アンナ・ランシング連邦大統領は国家安全保障問題担当補佐官のマディソン・ビュローと会議をしていた

「退役時空管理局員の今後の扱いはどのような政策をするつもりですか?」

マディソン・ビュローの質問にアンナ・ランシング大統領は必要なら厳しい対応の方法をすると
厳しい方策と言うのは事実上見捨てるようなことも選ぶという事だ
退役時空管理局員の身柄扱いに次元世界連合加盟全次元世界国の政府では頭の痛い議案だ
対応を一歩でも間違えると危険な方法に進むことになる。
退役時空管理局員が反政府組織などの犯罪組織に加入するというものだ
そんな事になれば各次元世界国の政権が大きく影響してくる
今はそれを乗り切るしかないのだ

「今は州政府が生活保護などのために動いているけど、州政府からは生活保護を申請者が多すぎて対応が難しい」

「連邦政府が対応に入るつもりですか?」

マディソン・ビュローの質問にそれは認められないと答えた
今まで好き勝手にしてきた時空管理局員を救済するのは国民が納得するはずない
仮に救済をするにしても、時空管理局所属時代に不祥事やそれに関与していた人間は外すべきだ
犯罪者まで救済をしていたら大問題になることは分かっている。
そのため時空管理局犯罪捜査局の捜査でクリーンであることが立証された人間だけしか救済できない
もちろんFBIなどの国内にあるさまざまな捜査機関でも再度確認の捜査を行い、
問題がない者だけしか救済するしかない

「とにかく退役時空管理局員の身元調査を全力で行うように国内すべての捜査機関に命令を」

アンナ・ランシング大統領の言葉を受けて、
マディソン・ビュローは分かりましたと答えると大統領執務室を退室した
残された大統領は今後取るべき道には数多くの重い課題があると考えていた

「問題なく事が進めば良いけど」

彼女は執務机の引き出しから1冊のファイルを取り出した
そのファイルには機密を示すスタンプが押されていた
ファイルの名前はこう記載されていた。『時空管理局の組織崩壊に対応する政策について』
今のこの状況にはまさにぴったりのものである。
プランは複数あったが今回の時空管理局の大規模縮小は本来の想定以上の影響が出ていた

「これの予想プランが的中することになるとはだれも思わなかったでしょうね」

ランシング大統領はそう言うと今後の情勢を見極めるために連邦軍の統合参謀本部議長に連絡した
今の連邦軍の制服組のトップである連邦軍統合参謀本部議長は港湾パトロール海兵隊で統合軍司令官をしていた
統合軍司令官とは港湾パトロールの各基地に設置されている艦隊や海兵隊や飛行隊の部隊を1つの軍として、
つまり統合軍と言う扱いにして連携した軍事戦略がとれるように設置されていた
さらにファイルには今後の行動マップに関しても記載されていた。
時空管理局をテロ組織と同等の扱いにすることで警戒態勢を常に把握することが求められていた


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中央区セントラルサウス地区1番街1丁目 中央情報局庁舎 1階ラウンジ

「ジャネット。わざわざ来てくれてすまないな」

捜査部1係に所属しているジャネット・パウワー捜査官、
父親のジャック・パウワーはCIAの諜報員をしているのでたびたび出入りしている
機密情報を通信回線で動かすのは傍受されたら最悪であることから紙媒体で保管されている
そのため諜報機関と資料を共有する時は直接会って話をするしかない

「仕事だから。利害関係の調整が難しいことは分かっています」

「さすがは私の娘。有能な人材だ。港湾パトロール海兵隊特殊部隊にいた時の決まりは家族でも抜けないか」

特殊部隊に入隊したらその身元はたとえ家族であっても知られることは許されない
表向きは別の部隊に配置換えされたという形をとっている。
だが実態は厳しい訓練を受けて認められた者だけが特殊部隊に入隊できる
自分の立ち位置を知る者はごく少数の人間だけ。
たとえ家族であっても、相棒をしていた仲間でも知られてはならない

「それでCIAがわざわざ私を呼び出すという事はよほどのことなんですよね?」

「ああ。今は父と娘と言う関係はやめておこう。今は仕事として対応するが、ある情報が漏れた可能性がある」

ファイルには題名が記載されていた
『聖王教会騎士団の不祥事に関する報告書』と記載されていた

「CIAが活動を?」

「表向きはFBIになる。こちらは分析をしただけだが」

FBIとCIAの組織間トラブルを避けて共同捜査を今後も続けていこうというのだ
そのために大きな第1歩である。諜報機関と連邦捜査組織との風通しを良くするためのことなのだろう
今まで時空管理局がほとんどの捜査部門を掌握していたことから、返還されたことは誰もが嬉しい

「とりあえずファイルは預かっていきます」

「ああ。シエル首席捜査官にはよろしく頼む。ところで今日は昼飯を食べないか。俺が中央本部に向かう」

「親子関係の確認と?」

「否定はしないがどうだ?」

ジャネットはこちらも仕事を抱えているから難しいと父親のジャックに伝えた
彼女はそう言うと地下駐車場に向かった。連邦行政機関がセントラル地区とその周辺に数多くある。
そして都会のど真ん中であることから大規模駐車場が設置できなかった
今は時空管理局地上本部の解体工事が進んでいる。すでに時空管理局地上本部の全体の7割が解体
残りの3割の解体と解体で出た解体部材の後始末は1年で完了する予定だ
跡地の利用に関してはまだ何が建設されるかは決まっていない
所有権の変更は時空管理局の土地から連邦政府機関に返還されることは決まってはいるが
ジャネットは地下駐車場に止めているSUVに乗り込んだ

「それにしても時空管理局が解体されて形になってきたわね」

今後の行く末に関してはまだまだ分からない事は多いが、波は高いというものだ
今は各次元世界国が再び時空管理局と言う波が防波堤を超えないように基礎作りを行っている
時空管理局と言う組織が大きな勢力になって動くことを止めるようと必死なのだ
地下駐車場から一般道に出るとクラナガンハイウェイ10号線(南北線)南行きを使って中央本部に向かった
クラナガンハイウェイは無料の高速道路である。市内には全部で14号線まである。片側5車線の道だ
市内の自動車交通事情を考えた時に地上道路から高架のクラナガンハイウェイに車を流すことで、
一般道路の渋滞を少しでも削減することが目的で建設された
また市内には数多くの鉄道路線が様々な路線があるので、
自動車を利用した通勤を削減する事で大気汚染による環境汚染を少しでも無くそうとしている
車の排気ガスには惑星大気汚染物質を除去するフィルターシステムが装備されている
このシステムは車だけでなく工場にも設置されているので環境汚染物質の排出ほぼ0になっている
特に発電部門では大きな影響がでている。今までは魔力精製炉を使った魔力精製炉発電所が数多く建設されていた
魔力精製炉発電所の精製炉にはミッドチルダ等で採掘された魔石がペレット状に加工。
燃料棒にして、それを集めた燃料集合体が挿入されている
魔石は化学触媒を付加した水につけると、複数の魔石と反応し高温を発する。
それにより水を水蒸気に変化させる。その後、蒸気はタービンへと送られ発電。
精製炉コントロールは炉内の反応抑制棒の挿入・引き抜くことでコントロール。
原料の魔石はミッドチルダだけでなく、他次元世界でも大量に採掘される。
各次元世界では一般的な発電方法となっていた。だがAMF装置で魔石の反応が大幅に熱源発生量が減少。
発電が停止することになる。そのため今は石炭や天然ガスによる火力発電はもちろんだが、
水力発電や太陽光発電など、多種多様の発電方法を組み合わせることで安定供給にすることになる
さらに石油・石炭・天然ガスなどのエネルギー資源価格はJS事件前に比べると大幅に高値で取引される
クラナガン市内には様々な所で石油や天然ガスが埋蔵されている。
かつては採掘量はあまり多くはなかったが今はその採掘が頻繁に行われている
クラナガン市内だけでなく国内のほぼすべての州で資源開発が進められている
特にこの資源開発がかなり激しく動いているのはベルカ州だ。
自治区時代は聖王教会が資源開発が禁止されていた。
今はベルカ州政府は環境破壊を最小限にすることで資源開発が認められることになった
またベルカ州では道路整備などの公共工事が何千件と言う件数で実施されている
ジャネットはラジオチャンネルをニュース専門チャネルの周波数に合わせた

『ベルカ州政府は新たに道路や電気ガス水道のライフライン整備の公共工事を増加する事を決定』

国内では都市部では電気ガス水道などは共同溝を埋設してそこに様々なライフラインを整備することにしている
こうする事ですぐライフラインのトラブル部分の修理が素早くできるようにとしている
ベルカ州では聖王教会が自治権を持っていた頃は大規模な開発が禁止されていた
特に環境保護を大きな名目として、石油や石炭や天然ガスなどの資源開発やその調査も認めていなかった
今とは現場は大きく異なる。今は州内に数多くの資源が眠っていることが分かってから、
環境基準を順守しながら開発が行われている

『一方でこのライフライン整備予算のために、ベルカ州政府が創設したベルカ開発銀行にさらなる資金投入をしようと』

基本的に州政府や市政府が独自に金融機関を運営する事は認められていない。
連邦行政組織である連邦準備銀行(FRB)以外には2つの行政機関にしか銀行業務を認めていない
クラナガン市準備銀行とベルカ開発銀行の2つのみだ。クラナガン市準備銀行はクラナガン市政府、
この銀行と言っても個人客を扱う金融機関ではなく、特定業務にしか使う事が認められていない
クラナガン市準備銀行の業務は金融機関・企業への緊急融資となっている。
市内に拠点を持つ規模の大きな金融機関が破綻した場合に一時的に救済を担当する

「クラナガン市準備銀行はワンワールドグループ企業の破綻処理にどういう形で関与してくるか」

ワンワールドグループ企業の金融部門を多国籍グローバル企業である
市内への影響を最小限にするために何らかの形で動かしてくることは予想できていた
最大の問題はその手法だ。下手に介入すると市民が納めてきた税金の無駄遣いになる
微妙な駆け引きが必要になる。すでにクラナガン市議会の上下院で今後の対応について協議中だ
国内すべての州議会や郡議会や市議会でも同じように協議が行われている真っ最中。
ワンワールドグループ企業が抱えている不良債権はかなりの金額だ
時空管理局債の100京ミッドよりも多い。分かっているだけでも1000京ミッドにもなっている
それだけの金額が不良債権となった事は大きなダメージになる
ワンワールドグループ企業の不良債権の大部分は社債である。全体の8割が社債が占めている。
不良債権が増えた最大の要因は返済するために、社債を発行して穴埋めをする
赤字を赤字で穴埋め。とめどなく社債の総額が増え続けるだけであった

「赤字が赤字を生み続けてついに経営は破綻ね。ワンワールドグループ企業の関係者は顔色を真っ青にしているわね」

ワンワールドカンパニーに物資を収めていた下請けの工場などでは発注を受けて納めた結果、
納品した後に振り込まれる先だった売上を受け取ることができなかった
その影響はドミノ倒しのように連鎖反応を起こしいている
手形の決済ができなくて、不渡りを出している小切手もそれなりの金額になっていた
この不渡小切手の残高は300京ミッドにもなる。おかげで中小企業にまで影響が出ていた

「不渡小切手に関して国内の全ての金融機関に対して調べるしかないわね」

1つ不渡りが出るとそこからさらに下の下請けにまで影響が出てしまう
連鎖倒産になるような事はできれば止めなければならない。
時空管理局へ物資を収めていたワンワールドカンパニーは時空管理局と契約する際、
競争入札をするのではなく随意契約で取引をしていた。
つまり少しでもコストを削減することができる競争入札を導入しなかったのは、
取引金額が増やすことでワンワールドグループ企業への天下り先を確保することが簡単にできた
JS事件後の時空管理局改革で時空管理局へ物資を収めるための品質が確保されていれば、
必ず競争入札にすることが義務付けられた。これにより時空管理局の物資調達コストは大幅に下がった
一方で天下りしていたワンワールドグループ企業の幹部達は素早い猫のようにさっさと逃げた
国内では今はFBIが捜査をしている。他次元世界国の警察組織も次々と摘発している

「爆弾にならなければ良いけど」

爆弾と表現したのはいつ何が起きるかがわからないからだ
天下りをしていた退役時空管理局員たちの身柄がJS事件後、すぐに失踪した
おそらく何らかの不正に関与していたからであるのは間違いない。
ワンワールドグループ企業が破綻すると知って責任追及されるのも逃げた理由の1つである
今後、どういう流れになるかはわからない。ワンワールドグループ企業の調査はかなり複雑で時間がかかる
それを上手く事を進めるためにさまざまな法律を上手く利用して対応する
必要ならどんな手段を使っても犯罪捜査を行う。
ジャネットが運転しているSUVはクラナガンハイウェイ10号線(南北線)に入り、南に向かった

『中央本部から各員へ。中央区南部区域でクラナガンセントラルバンクの本店で銀行強盗事案が発生』

発生した場所は中央区南部区域サーストン地区6番街2丁目だと
ちなみにサーストン地区と近隣地区は金融街として有名だ
クラナガン証券取引所・クラナガン商品取引所・クラナガン外国為替取引所が設置されている。
証券取引所と商品取引所はミッドチルダ国内にあるすべての州にそれぞれ1つずつ設置されている
クラナガン証券取引所はクラナガン市内を主な営業範囲の企業と多国籍グローバル企業の株式が上場。
商品取引所には各州に1つあり各州で採掘される石油・石炭・天然ガスなどの取引価格となっている
クラナガン外国為替取引所だけはミッドチルダ連邦国内で唯一クラナガン市にしか設置されていない
それらの取引所は24時間1年中いつでも稼働している
ミッドチルダが土曜日や日曜日であっても証券取引所や商品取引所に休みなどない
以前は石油や石炭や天然ガスの価格は高値ではなかったが、AMF装置が流通してからは状況が大きく変わった。
現在では取引価格は石油に関しては1バレルで6000ミッドにもなっている
JS事件までは3000ミッド前後で取引が行われていた

「強盗犯が退役時空管理局員だったら迷惑な話になるかも」

ジャネットは中央本部にクラナガンセントラルバンクの本店に向かう事を無線で連絡した

『こちら中央本部。支援をお願いします』

つまり現場に急行しろという事だ。クラナガンハイウェイの制限速度は時速120kmと定められている
その速度で現場に急行していった。ワーニングライトとサイレンのスイッチを入れて緊急走行をしていた
それでも速度は時速120km前後だ。事故を起こすようなことはできない。
時速120kmも出しているとハンドル操作を少しでも間違えると大きな事故になる
緊急走行でもこれが限界とされている。ちなみにクラナガン捜査局員は車の運転訓練を受けなければならない
それも定期的に。もし運転走行試験に落ちると、パトカーの運転は認められない
銃の取り扱いも厳しい訓練を受けて試験で合格しないと銃の所持は認められない
クラナガン捜査局では階級が上がるための試験があり、合格しなければ昇格する事はない
パトロール捜査官・刑事・捜査部捜査官。それぞれ3段階の階級がある。
グレード3が最も下の階級。最も高いのはグレード1。受験資格を満たすにはそれぞれ勤務経験と適性試験がある

「到着には少し時間がかかるけど、現場確保は最優先で行うように伝えておくように」

じゃねとはそう言うと無線交信を終えて緊急走行に集中した


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東区東部区域 セントラルクラナガン貨物ターミナル パトロール事務所

セントラルクラナガン貨物ターミナルの敷地面積は南北5km×東西3km。
ここにはレール式の鉄道だけでなく高速鉄道として運用されているモノレール形式の列車も入ってくる
さらにこの貨物ターミナルには港湾パトロール本部基地まで伸びている鉄道路線がある
それだけでなくセントラルクラナガン港にも貨物線は伸びている
セントラルクラナガン港はクラナガン有数の大規模工業港。
大規模コンテナターミナルがあり、次元空間航行コンテナ船が使用できるコンテナ港でもある。
コンテナターミナルは広大で、数多くのコンテナ船がいつも停泊。作業も24時間絶え間なく続けられている。
レックス・トライベッカはある貨物列車が入線してくるという情報を聞きつけて待機していた

『トライベッカ捜査官。9番線にあの貨物列車が入線したのを確認』

セントラルクラナガン貨物ターミナル管制センターの管制官の報告にレックスは了解したと答えた
9番線に入線してくる貨物列車には危険物を積載している。正確にはミサイルや銃火器などだ
港湾パトロール本部基地に運ばれる予定なのだが。貨物列車の運行時間が少し遅れている。
そのため他の貨物列車の運行にも影響が出ている。国内の大陸には様々な鉄道路線が整備されている。
貨物列車を使った輸送は頻繁に行われている。海で貨物船を使った方が早い場合はそちらを利用する
でも大陸内に運ぶとなると貨物トレーラーよりも貨物列車を使った方が早い場合は列車を使う
貨物列車なら1度に大量のコンテナや貨車を引っ張ることができる
1度に100両近い貨車を運ぶことも頻繁に行われている
車で運べるのは1台で1つのコンテナだが。
貨物列車なら1編成で最高で100個のコンテナを運ぶことができる
惑星環境の事を考えると圧倒的にクリーンである。
国内の鉄道路線は都市内だけの路線と一定の旅客が確保される路線は電化されている。
しかし、鉄道路線で旅客が見込めないような長距離路線に関しては非電化路線となっている
そのためディーゼル機関車を使った輸送が頻繁に行われている

「セントラルクラナガン貨物ターミナル管制へ。こちらSA30。これより9番線に向かう」

9番線に停車している貨物列車は待機をと指示した
まずはある事を確認する必要があったので彼は来ていた。
タレこみがあったのだ。反政府組織が貨物列車に爆弾を仕掛けたという情報があった
その確認作業のためにレックスが来ていた
首都であるクラナガン市で銃撃戦などを起こさせるわけにはいかない
守るためには武器が着実に基地に運ばれなければ安心できないという事だ
ちなみに港湾パトロール海兵隊の兵士10名もこちらに来ていた。
セントラルクラナガン貨物ターミナルから基地までの護衛は彼らの担当だ。
今回はレックスも同行することになる。

「SA30から中央本部。港湾本部基地行きの貨物列車がセントラルクラナガン貨物ターミナルに到着」

これより警備のために同行すると無線で連絡した

『こちら中央本部。港湾本部基地への貨物列車警備のための同行を許可する』

常に戦闘準備をしておきながら同行するようにと。簡単に言えば安全を保つようにとのことだった
もし強襲されたらという事もあり上空にはMH-60Rが2機配置されている
トラブルがないことが最も理想的な事ではあるが。そんな理想論は通用しないことは分かっている
首都防衛の上では港湾本部基地は重要なポイントだ。港湾本部基地が襲われたら首都防衛に大きな影響が出る
クラナガン市内にある港湾パトロールの基地は港湾本部基地沖合800kmにあるリッチモンド島
サウスクラナガン港の沖合300kmにあるガラックス島。
この2つの基地が東から襲来されてくる敵勢力から街を守る要だ
クラナガン市の東隣にある州はスタントン州と呼ばれている。そこは連邦軍基地がある
ただし港湾パトロールも全く関与していないという事はない。
もしもに備えて各種レーダー設備や人工衛星中継基地などが設置されている
東からの攻撃に備えての対策だ。ただしレーダー設備に関しては連邦軍と共同運用となっている
人工衛星中継基地も本来であれば共同運用をするはずだったが、連邦軍は情報が混線する事を避けるべきと判断
連邦政府は連邦軍のために人工衛星中継基地のために独自のパラボラアンテナが整備した

「レックス・トライベッカ捜査官。最近は大変なようですね」

「JS事件で地上の警察・国防の権限が各次元世界国に返還された。時空管理局に暗い組織としてHRがあった」

それだけは事実だと認めるしかないとレックスは答えると海兵隊員からH&KG36を借りた
拳銃では少し力不足だ。アサルトライフルが必要になる。
クラナガン捜査局ではアサルトライフルとしてH&KG36を採用している。
拳銃は種類は好きに選ぶことができる。本来拳銃が異なるとマガジンの形や装弾数も異なる
だがそれではマガジンの共有で問題が出るとして改良したものを採用している
そのため、クラナガン捜査局で運用許可が出た多種類の拳銃のマガジンはすべて同じものが使用できる

『セントラルクラナガン貨物ターミナル管制から9番線の貨物列車運転手へ。出発を許可する』

貨物ターミナルの管制センターから発射許可が出るとディーゼル機関車が警笛を鳴らして出発した。

「SA30から中央本部。これより港湾本部基地行きの貨物列車の護衛を開始する」

『こちら中央本部。気を引き締めて任務に取り組むように。こちらでも警戒態勢は厳重にしている』

「東分署に連絡は行っているのか?」

ちなみにクラナガン市内の鉄道路線には一般人が利用する踏切ポイントはすべて立体交差事業化されている。
そのため踏切による開かずの踏切が発生する事がないように都市計画がされている
おかげで踏切による事故はほとんど発生していない。それでも警戒は必要である
レックスは安全確保がされているかについて確証が欲しかったのだ

『中央パトロール低軌道監視衛星の偵察衛星機能を使い映像で追跡中。今は天候が良いので問題はありません』

雲が上空になければ可視映像モードで監視することができる
さらに無人航空偵察機であるMQ-9(リーパー)が1機展開している
リーパーは連続警戒を28時間もすることができる。おまけに機体には人が乗っていない
つまり交代で機体の燃料がなくなるまでの間は常に監視ができる
人的損害が出ないとなると余計に都合が良い。貴重な人材を失う心配がないからだ
仮に被害が出たとしても最小限にすることも作戦指揮官としても当然の決断である
レックスの携帯情報端末に人工衛星から撮影されている映像が届けられていた

「何もなければ良いがな」

貨物列車はセントラルクラナガン貨物ターミナルの敷地から出発する。
セントラルクラナガン貨物ターミナルを出発するとすぐに港湾本部基地まで伸びている高架線路に入った
貨物ターミナルから港湾本部基地までは複線である。頻繁に貨物列車が出入りすることがある
通常時はそれほど出入りする事はないが港湾パトロール本部基地には造船施設が設置されている
港湾パトロール造船修理区という場所だ。そちらに部材などを運び込む時にも貨物列車は利用されている
その乾ドックが2つも設置されていて、今までは艦船の建造は港湾本部基地で行われていた。
ラーズグリーズ級航空母艦(艦船形式:ジェラルド・R・フォード級航空母艦)の建造と修理が可能な設備がある。
しかし民間企業でも建造について品質や建造記述の観点から任せた方が良いと判断されたことから
今は民間企業の造船ドックで建造が行われている。
港湾パトロール造船修理区は現在、修理などを中心に使用している

「ミサイルの警備はいつも緊張させられる」

火薬庫の中にいるのと変わらないのだから当然である
もしかしたら何か爆発物が設置されていたら大爆発する事に
それだけに輸送には極めて緊張した時間と慎重さが必要である


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