午前10:18 中央パトロール本部庁舎 9階統合管理官執務室

エリはベルカ州でのクーデター騒動に関する情報収集を進めていた。
さらにクラナガン市内の聖王教会施設や関係組織の拠点には監視のために人員を配備していた

「今のところは市内は平和だけど、いつ何が起きるか想像もしたくないわね」

彼女のセリフはクラナガン捜査局の幹部なら誰もが思っていることだ
ベルカ州で暴れている聖王教会関係者がいる。
クラナガン市内でも暴走する人間が出ることはあり得る話である

『クラナガン市長はクラナガン緊急事態管理局に万が一の状況になることを想定して準備態勢を発令の検討を開始したと』

クラナガン緊急事態管理局はクラナガン市内の危機管理などを行なっている部局。
市長をトップとして必要なら港湾パトロールの部隊も運用して対応する市内の危機管理の最後の砦。

「サンディも無茶を考えているのかもしれないわね」

想定して準備を行うために準備を行うということは大きな動きになっていく
クラナガン市はミッドチルダ連邦の首都である。首都防衛は最優先事項である
そこで危機管理のために市内に港湾パトロールの部隊展開をする用意に入るのだ
事前にある程度の部隊展開をしておくことで臨機応変に対応する。
ちなみにクラナガン市長には災害対応などの限られた範囲ではあるが港湾パトロールの部隊運用が認められている
軍事的活動になった場合はミッドチルダ連邦大統領に運用権限が移管される

『ピーピーピー』

発信者はクラナガン市長のサンディ・マウントからだ

『エリ、元気かしら?』

「私たちは市内の治安維持を最優先に行います。何か危険なことを考えているのですか?」

『ゴギーから連絡があったわ。スタントン州から離陸した航空機が無線に応答していないと』

エリはその情報に驚いた。彼女でもその情報は初耳だったからだ。すぐに情報端末で情報を確認した。
確かに連邦空軍がF/A-18Eをスタントン州にある連邦軍基地からスクランブル発進していた

「こっちではまだ把握していないわ。さすがは連邦軍に知り合いが多い市長様ね」

『何か最新情報をつかんだらすぐにこちらにも情報をまわして』

エリはもちろんですと返答した。クラナガン捜査局のトップは複数存在している。
軍事的オプションについては大統領が最高司令官である
ただし警察権限や災害救援については安全保障協定を結んでいる州のトップである州知事
クラナガン市長は少し特殊な権限を保持している。クラナガン市はミッドチルダ連邦の首都だ
そのため部分的軍事オプションを含む権限行使が可能となっている

『ところでラジェットは大丈夫なの?機動六課組のエスコートをさせられるなんて本人は嫌がりそうだけど』

「市長の考えは当たっている可能性は高いですね。彼が黙って損な役割をまわされることを納得しているとは思えません」

『彼が誰かを撃ち殺さなければ良いけど』

「仕事とプライベートの分別はしているはずです。おそらくですが」

『とにかく問題を増やさないでもらえると助かるわ。こちらとしてもね』

クラナガン市長という役職にいる以上、トラブルは極力避けたいと考えるのは当然である
それも機動六課組関係のトラブルはできれば無い方が良い

「ラジェットは機動六課組と一緒に港湾本部基地に向かっているはず。機動六課組のメンバーの中には暗い過去がある」

つまりいつ狙われるかはわからない。だからこそ武装ヘリを護衛に着けているのだ
おまけに機動六課組は時空管理局の暗い闇の一部を知っている。だからこそ警護が必要なのだ
暗い過去があるということは命を危険にさらす。そういう状況になることは多いことも事実である
だからこそ警護がつけられることになった。彼らが新たな時限爆弾になることを止めるためには必要なのだ

『ラジェットも内心では不満を言いたい立場でしょうね』

「ベルカ自治区時代に聖王教会に良い感情を持っていないことは事実ね」

ラジェットはベルカ自治区時代に聖王教会に対して敵対組織に爆弾を提供していた
しかしある時を境に数多くの事件事故などの情報をクラナガン捜査局などに提供
そうすることで司法取引が成立。最初の数年は監視下に置かれていたが今は捜査部のナンバー2の立ち位置にいる

『それでも仕事なら嫌なことで任務を全うする。有能な人材としては高く評価できるわね。仕事に私情は持ち込まない』

どんな任務を任されたとしてもラジェットは任務なら遂行あるのみだ。
それが正しい任務ならどんなにリスクが高い任務であっても任務遂行を行う
だからこそ最優秀と評価されてシエルの次に捜査部の指揮権を預かる立場の人間とされている

「ラジェットは極めて優秀であることは私だけでなく、だれもが認めている。違いますか?」

『確かに。だけど機動六課組の教導官役をやるなら殺さないか心配ね』

「任務遂行のためなら、どれほど嫌なことでも遂行する。私情を入れて捜査をしないことが求められるのが我々です」

どんなに嫌な相手であっても冷静にトラブル対応することが求められる

「ところで本当に退役時空管理局員向けの再就職を促す部署の設置は本気なの?」

『市内で退役時空管理局員の生活保護申請者は大幅に増加しているから対策は必要よ』

そんなことはクラナガン市内の治安維持を行っているクラナガン捜査局の幹部、誰もがわかっている
大量リストラされた退役時空管理局員が多すぎるが差別的な視線で見られることから再就職に苦労している
もちろん差別をすることは許されない。犯罪行為をしている者ならしっかりと捜査を行い裁判を受けさせる
裁判で罪が確定したら刑務所に収監させる。

「でも市内で生活保護を申請している大量リストラされた退役時空管理局員はかなりの人数になることは?」

『こちらでもまだ統計データを計算しているけどかなりの人数になるわ』

時空管理局地上本部首都防衛隊に属していた時空管理局員の大部分が退役している
本来であれば時空管理局が運用している厚生年金を受け取ることである程度は生活できるはずだった
しかし、本来受け取るはずだった年金などの運用を任せていた投資ファンドや年金機構が運用に失敗
その影響で受け取れるはずのお金がほとんどない状況になっている
そのためクラナガン市内に在住している退役時空管理局員は生活保護を申請している。
クラナガン市法では生活保護が最長連続で36ヵ月、つまり3年間と定められている
36か月で再就職を見つけないと生活保護対象者は路頭に迷うことになる

「彼らが生活費を稼ぐために犯罪に走ることは十分考えられる。犯罪も増加傾向にあるから懸念材料にはなる」

クラナガン市政府だけの問題ではない。
同様のケースは次元世界連合の多くの次元世界国で問題になっている
この波が穏やかになることは簡単ではない。徐々に大きな波になるかもしれない

『クラナガン市内の治安維持は最優先で対応を。エリ・ミズノ統合管理官。何か応援があればすぐにこちらに連絡して』

サンディ・マウント市長は必要なら大統領に軍事的オプションによる行動を要請すると伝えてきた

「もちろんです。サンディ・マウント市長はクラナガン捜査局の部隊を動かす権限が限定的ではありますので」

時にはどんな無茶なリクエストを要請することもありますとエリは答えた

『それと市内に少しでも危険な状況になりそうなら即時市政府に連絡を』

市長は市内で大きなトラブルになることを恐れていたのだ
それも当然と言えばそうかもしれない。今は何としても被害を最小限にすることが求められる


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東区東部区域 港湾パトロール本部基地 北部区域 港湾パトロール飛行場 駐機場

ラジェットと機動六課組が乗り込んでいたCH-46が無事に港湾本部基地に到着した。
ここからはヘリではなく車で移動する。ヘリで移動すると強襲されることが想定される
市内中心部でもヘリを撃墜されたら問題なので直接中央本部に向かわなかったのだ

「はやて・八神達。気を付けておけよ。ここでは特に歓迎されることはないからな」

ラジェットははやて達に伝えると彼女たちはあまり良い表情をしなかった
当然と言えばそうかもしれないが。自分たちが真実を明らかにした結果、時空管理局の規模は大幅に縮小した
だからこそ現役時空管理局員であっても機動六課組への視線はかなり厳しい
そこにSUVの車が5台が近づいてきた。黒色の車だがラジェットはその車を見てため息をついた
その車のことについてはよくわかっているからだ。証人などを守るために使用される防弾仕様の車である
対物ライフルを使っても1発で貫通することはない装甲車仕様の車。
CH-46の後部ハッチが開くとラジェット達はいくつかの車両に分かれて中央本部に向かう

「ラジェット・ハングリー捜査官。車を用意しました。5台とも防弾仕様の車です。できれば無傷で返してください」

防弾仕様の車はかなり値段がする。修理するとなっても修理代だけでも大変だ
経費で落ちるが、行政組織には予算というものがあるのだから仕方がない
そういうことですべての手筈はできている。あとは問題なく無事に中央本部に到着できるかである
いつ攻撃を受けるか想像もできないので、常に警戒態勢を敷く必要がある
5台の車に分かれて乗車をすると港湾本部飛行場を出発した
基地内は安全であるが、基地の外に出たところから緊迫の現場に急激に変化する
いつどこの組織の構成員が強襲してくるか想像もつかない
それだけに警戒レベルは最重要で行うことが求められる

「SA11から中央本部。これより機動六課組を中央本部庁舎まで移送を開始する」

『こちら中央本部。安全確保を最優先として対応するように。そちらの状況はヘリなどを使って監視する』

ヘリからの監視によることで不審車両を発見したら即座に警護車両がガードに入る
5台の車は基地の外につながっている道路を走行していった。基地内であってもガードがつけられている
ラジェットもどういう連中が動いているかがわからないため慎重に行動していた
防弾仕様の車であるため、サイドウィンドウは外から中をみえないようにフィルターが貼られている
1台目と5台目は中央本部査察部の職員が乗り込んでいる。ラジェット達は2台目と3台目と4台目に乗り込んでいた。
彼らは警護されながら中央本部に向かうことにしていた。安全第一がモットーだ
少しでも危険があるようなら変更して中央本部に向かう
5台が港湾本部基地の出入り口ゲートに到着すると非破壊検査で安全を確認。
問題がないことを確認すると基地の外に出るとクラナガンハイウェイ4号線(東線)に向かった
警護車両はさらに増強されてパトカーも追加された

「SA11から中央本部。港湾本部期からクラナガンハイウェイ4号線に向かっている」

『こちら中央本部。万が一に備えて早期警戒管制機を投入して魔導師による先制攻撃がないか監視中』

「了解した。少しでも異変があればすぐに緊急無線で連絡を」

こちらは最重要警護対象者を移送しているのだ。
安全確保を最優先にする。そうしなければいつ強襲されるかわからない
ラジェットも自分の命が大切だ。それだけに常に警戒しなければならない
少しの油断が状況悪化につながるのだから。慎重な対応が必要である


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中央区南部区域 クラナガンハイウェイ10号線(南北線) 南行

ジャネットは銀行強盗現場で押収された証拠品をもって中央本部に向かっていた
現場で回収された銃弾のライフルマークを照合するためである。
そのほかにも証拠分析をすることも重要である

「いつ身柄を確保されるかわからないって困るわね」

10人の身柄はまだ確保されていない。できるだけ素早く対応したいが暴走されたら問題になる
もしこちらの行動が読まれて暴れられたら事態は大問題につながる

『次元世界連合安全保障理事会は聖王教会に対する強制捜査を行うことを許可しました』

『聖王教会は強制捜査を決議した安全保障理事会の判断に再審理を求めています』

「いよいよ聖王教会は追い詰められるかもしれないわね。抵抗したら教会は妨害工作をしたと思われるから大変ね」

ジャネットの言う通りだ。もし証拠隠滅などを行えば暗い過去があると判断される
そうなればさらに状況は危険なところをもっと深くなっていく
聖王教会の状況はマスコミにかなり叩かれている。
だからこそ聖王教会から距離を取り始める人物が増加している
それでも聖王教会在籍時代に犯罪を犯していないかを様々な法執行機関が捜査している
少しでも疑惑があれば取り調べを行っているので、
ベルカ州内にある裁判を受ける前に収監されている拘置所にいる人数はかなりになる
現役時空管理局員や退役時空管理局員にも厳しい捜査のメスが入っている
ミッドチルダ連邦だけでなく次元世界連合の全加盟国に存在している法執行機関が捜査を行っている

「聖王教会はトラブルの増強をしてどうするつもりなの?」

これ以上聖王教会の立場がなくなれば大きな課題になる
聖王教会の組織再編成にはかなりの時間が必要になるのだ
だからこそ1度、『組織のクリーニング』が必要であることは多くの人々は理解している

「組織を再編成するのは簡単にはいかないから苦労するでしょうね」

『中央本部から各員へ。東区南部区域キャロル地区1番街2丁目での不発弾処理のため、警戒せよ』

まだ不発弾の処理は終わっていない。それどころか現場周辺の避難も終わっていない。
ジャネットはため息をついた。不発弾の信管除去はかなり危険である
一歩間違えると不発弾が起爆することもあるのだ。それだけに安全確保は絶対に必要である

「不発弾の発見は本当に増加傾向にあるわね。最近は新しい住宅地が建設されているから仕方ないけど」

クラナガン市では郊外に住宅地が数多く整備されている。それに伴って住宅の売り出しも増加している
それだけに住宅ローンを使うケースが大幅に増加している。
住宅建設が増加することでクラナガン市内の経済は好景気に沸いている
住宅建設には数多くの建設会社が請け負っている。
さらに住宅が増えればクラナガン市内に移住するケースも増加
そうするとそこに住む市民は買い物などで商業地で買い物をするなど好景気の連鎖が続いている
ただし、退役時空管理局員に対しては少し状況が異なる。
過去に汚点が発覚したときにトラブルになるかもしれない
仮に住宅をローンで購入した場合、住んでいる退役時空管理局員が過去に汚点が見つかれば裁判にかけられる
金融機関はその人物に貸し付けた住宅ローンの融資額を回収できなくなる
融資したお金を回収しようとするが、簡単に事が進む事がない。
こういったケースが増えることを危惧して金融機関は退役時空管理局への融資は難しいと判断する
金融機関の多くが高給取りだった時空管理局にかなりのお金を融資していた
時空管理局というバックがあったことが最も大きな理由だ。今は状況は全く異なるが
金融機関から融資を受けていた現役時空管理局員や退役時空管理局の財産をほぼすべて差し押さえた
それでも融資額のすべてを回収できたわけではない。
最も悪い場合には融資額の数%しか回収できなかった事例もある
リスク管理ができていなかったと言われるとそうかもしれないが

「私たちは安月給で苦労しているから罰が当たったのね」

クラナガン捜査局の給与はかなり安い。
それでも正義感を持つ者が時空管理局では法執行機関では捜査はできなかった今までとは違って、
クラナガン捜査局員であれば魔導師であってもなくても治安維持や国防に加わることができる
そのため今はクラナガン捜査局に入局するために努力している者は多い
クラナガン市だけでなく、次元世界連合全加盟国で同じ考えをもって日々鍛錬をしている
魔導師であっても以前なら魔法行使をすることである程度は自分の体を守れた。
しかしAMFについての技術が拡散したことによって魔導師も銃弾で死ぬ可能性の確立は急上昇している
銃には銃で対応するしかないのに時空管理局と聖王教会には銃の扱い認証を許可されていない
次元世界連合で銃などの質量兵器の運用許可が出ない限りは使用することはできない

「時空管理局の魔導師も今は命をいつ落とすかわからないから苦労する確率が急上昇」

おかげで時空管理局に入局しようとする者は大幅に減少している
銃などの質量兵器の運用は次元世界連合の認証。さらに質量兵器監視機構という国際機関の認可が必要だ
質量兵器監視機構は銃や軍事物資の製造の監査を行っている。
ここが認可しない限りはどんな組織であっても、どんな企業であっても質量兵器の研究と製造が認められない
極めて厳しい審査であるため、認可を求める申請を出して許可が出るまでに短くても1年
長い場合には数年は必要になる。質量兵器監視機構は認可を出した後も製造工場や運用方法の監査を行っている
正しく製造されたものがブラックマーケットに流れることを抑え込むためである
抜き打ち監査で問題があると認可の取り消しが待っている。数年は製造審査を受けることはできない

『今日、次元世界連合は新たに10社の質量兵器製造企業に製造認可を出すと声明を発表』

ジャネットはラジオから流れたそのニュースに驚いた。
1度に10社も認可を出すとは今までなかったからだ。以前は質量兵器はほぼすべてミーミルグループが独占していた
しかし今では多くの企業が新しい顧客開拓に次々と申請を出すケースが増加している。
ただ監査は前にも述べたが極めて厳しいので簡単に認められることはなかった
それが1度に10社も認めるとは驚きだ。これにより価格競争が激しくなってくるだろう

『この認可を受けてクラナガン証券取引所に上場していた10社の株価が3倍に株価が急上昇』

『また認可された10社に部品などを納品している企業の株価も上昇しています』

10社は次元世界連合に加盟している150の次元世界国で活動しているグローバル企業だ
下請けとして参加している企業はかなり多いのでミッドチルダ連邦国内の株価だけでなく、
多くの次元世界国にある証券取引所でも、それらの企業の株価が急上昇するのは当然である

『一方でJS事件まで時空管理局に物資納入をしていた企業の多くが破産するなどの影響が今後拡大する恐れがあります』

企業の株価は上昇するものがあれば下がるものも存在する。これも企業活動の結果なのだから仕方がない。
時空管理局に物資納入も競争入札で大きな企業から小さな企業まで様々な企業が競争入札に参加している

「時空管理局の幹部に金を渡して高値で物資を納めていた企業の経営者たちは悲惨ね」

もちろん金を受け取っていた時空管理局の幹部も厳しい取り調べを受けている
多くの幹部は時空管理局犯罪捜査局が調べている。だが時空管理局の暗い闇の組織、HRが真実を消そうとしている。
全てを暴かれたら困る人物が多いのだろう。ただHRは時空管理局の規模が大幅縮小された影響で弱体化している
HRと接触があった関係者は必死なのだ。真実がすべて暴かれたらかなり困るのだろう
HRの関係者と思われる人物は半数近くが逃げている。時空管理局犯罪捜査局は追いかけている
全てを明らかにするために。闇をなくすことが時空管理局犯罪捜査局の存在理由なのだから
クラナガン捜査局も時空管理局犯罪捜査局と連携して対応している
闇に光を当てるために協力するのは当然のことである

『中央本部から各員へ。東区東部区域サウスクラナガン港に中型漁船が入港予定。不審な動きをしていたことから警戒を』

不審な動きというのは沖合で麻薬や重火器の密輸に手を貸している可能性があるということだ
そんなものをクラナガン市内に持ち込ませるわけにはいかない
犯罪組織に利益をもたらす物は必ず摘発しなければならないのだから
ジャネットはその無線を聞いてため息をついた。最近は漁船を使った違法物の密輸が急激に増加している
クラナガン捜査局はあらゆる部署で警戒しているが、すべてを監視することは難しい
必ずどこかに抜け道ができてしまう。100%摘発するというのは難しいことはわかっている
それでもやるしかないのだ。法執行機関として当然の責務なのだから

「本当に密輸が増えるのは困った事案ね」

法執行機関の捜査に関わっている者なら誰もが同じことを考えているはずだ
麻薬や銃火器の密売で犯罪組織は組織運営に必要なお金を稼ごうとしている
今は競争が激しいため、組織間抗争も頻繁に発生している
抗争が起きるごとに中央パトロールは対応に苦慮するのが今の状況だ
マフィアやギャングは市内にはいくつも存在している。組織の規模は小さなものから大きなものまで様々だ

「本当に困った状況ね。マフィアやギャング達を潰すのは楽な仕事じゃないのに」

犯罪組織は完全に破壊させるには簡単なことではない
1つの組織を潰すには短期で片付かないからだ。組織の構成員をすべて刑務所に収監しない限り潰せない
残党が残っていたら再編成されるだけなのだから。いたちごっこが続くだけだ。
それに1つを潰しても他の勢力が乗り出してくるだけ。完全に破壊するのは不可能に近いことなのだ
ジャネットは少しは問題が減ってくれると助かるのだけどと思っていた時、緊急の無線が入ってきた

『港湾本部から全局員へ。緊急行動指令に関する訓練を行う。総員警戒態勢に入れ』

緊急行動指令が発令されるのは通常は市内で軍事的問題が発生した時だ
この指令が発令されるとクラナガン捜査局の全戦力の指揮権は連邦大統領に移管される

『中央本部から各員へ。レベル1の緊急配置に入れ。警戒態勢はレベル1の状態に配置せよ』

「またなの?訓練とはいえ、毎回レベル1の状態にするのは時間が必要なのに。おまけに時間も」

レベル1の状態には、このコードが発令されると、市内全域に緊急警戒態勢のため所属している全局員は緊急招集。
港湾本部には全艦を使用して海上に対して特別警戒態勢がしかれる。すべての港の船舶の入出港が停止される
空港本部は、クラナガン市内の各空港ターミナル等から人々を退出させ、航空機の離着陸が停止される。
震度4クラスの地震が観測された場合は自動的に発令される
すると次々と各分署から配置に必要な時間に関する報告が中央本部に入っていった
これもすべてマニュアルに従った行動である

『中央本部から各員へ。ノースクラナガン魔力精製炉発電所の発電出力がAMFの影響で減少中』

さらに無線からの情報によると、すでに魔力精製炉発電所に配置されている港湾パトロール海兵隊が警戒中とのことだ
どこからAMFが出ているかを特定しなければそのシステム破壊ができない
クラナガン市内には数多くの発電所があるので1つがダウンしても都市機能がマヒすることはない
だが何かの意図があって攻撃しているなら、いろいろと考えなければならない
どんな目的でこういった行動を起こしたかを追求しなければならないのだから

「停電にならなければ良いけど」

もし市内で一部とはいえ停電になれば大問題になる
おまけにクラナガン市の近隣州にも電力供給を行っている発電所は多い
1つのトラブルが連鎖することになるのでそれは許されない
送電網を管理運用している電力会社は停電にならないように迅速な対応が求められている

『港湾パトロールサウスクラナガン港分署から各員へ。海上で違法物資を積み込んだとされる船舶が間もなく入港』

市内で犯罪組織達が暴れまわるかもしれないので警戒するように通達をしてきた
麻薬を密売されることは絶対に許すわけにはいかない
クラナガン市内に麻薬が入ってくるルートは車・船舶・貨物列車が全体の8割近い
JS事件以降はクラナガン捜査局による摘発強化で簡単にクラナガン市内に密輸できない状況にある
供給量が減少すれば密売価格は上昇する。麻薬常習者は高値でも麻薬の買うために犯罪を起こしている
麻薬捜査課が密売人の摘発を急いでいるが、すぐに犯罪組織は新しい密売人を見つけて資金稼ぎをしている
犯罪組織の捜査と摘発というのはかなり難しいことは法執行機関に属する者はわかっていることである

「麻薬の密輸が増加したわね。おまけに密輸手口はかなり巧妙になっていくから摘発する立場は大変」


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部オペレーションルーム

フィリーはそこで小児性愛者で性犯罪を行ったログラス・バーボックの身柄は今こちらに向かっている
クラナガン市の北隣のマリネット州警察で捕まえることができた
市外に1度でも逃げてしまうと捕まえるのは簡単なことではない
それでもマリネット州警察が身柄を押さえてくれた。
精液は一致している。仮釈放なしの終身刑か死刑が待っている
児童虐待は重罪行為だからこそ。それと小児性愛者行為で捕まった人物は許されない
小児性愛者である事実がもしも他の強盗などの犯罪者からは許されないと見られる
犯罪行為の中でも小児性愛行為は許されることではないのだから
レイス・コーリック君はこれからつらいことが待っている。
性犯罪を受けたのだから当然である。性的犯罪の被害者は長期間にわたって苦しい気持ちを持ち続ける
簡単に回復することはあり得ないことなのだ。まして子供が性犯罪の被害にあったとなればなおさらだ
子供の心の傷は消えることはあり得ない。永久にわたってそのつらい記憶を背負わなければならない

「州警察に感謝しないといけないわね。この事件は何としても解決して犯人は刑務所で一生入れておきたかったから」

性犯罪者は絶対に刑務所に収監させて重い刑罰を与えてやりたいと思うのは法執行機関の職員なら誰もが同じだ
もちろん殺人犯も同じで自由にさせるわけにはいかない。その罪の代償をしっかりと支払わせる

『ベルカ州でのクーデター騒動ですが、反乱行為をした人物から犯行声明がありました』

『ベルカ州政府を解体してベルカ自治区時代に戻すようにとの声明が出ています』

『大統領は港湾パトロールに軍事的オプションを行うための準備命令を指示したと』

「武力衝突にならないと良いけど。ギブリ、ベルカ州内の偵察衛星画像を用意して」

「州内全域の監視をするのか?それとも一部に限定して撮影する。どっちだ?」

フィリーは州内全域の細心の偵察衛星画像を撮影するように指示した

「それとベルカエアライン24便の状況確認を。今どのあたりを飛行しているの?」

ギブリは少し待ってくれというとすぐに正面スクリーンと空間モニタの2つに分けて情報を表示した

「ベルカエアライン24便は今はノースクラナガン空港を基点に東に向かっている」

今は港湾パトロール飛行隊のF/A-18Eが2機が監視していた。
つまりいつでも撃墜する用意があることを示している。そうならないことを祈りたいが

「ベルカ州内の偵察衛星画像が出る」

正面スクリーンにベルカ州内の偵察衛星画像が表示された

「ベルカ州内で飛行している航空機はあるの?」

「連邦航空局が一時的な飛行禁止命令を発令している。魔導師も飛行魔法の行使は違法行為に該当する」

つまり今のところは州内で飛行するものはすべて法律違反に該当するということだ
理由は簡単である。ミサイル攻撃を行う時に民間航空機がいると識別が難しくなる
そのため飛行禁止命令が出ていれば攻撃を行いやすい

「いつでも港湾パトロールが動く用意に入っているのかもしれないわね」

「俺も同感だ。だが問題はタイミングだ。次元世界連合安全保障理事会が軍事部隊の活動に厳しく監視している」

次元世界連合の設立関係条約では戦争を起こすことを禁止している
自衛権の行使については容認されている。戦争と自衛。区別するのは極めて難しい
好き勝手に次元世界連合加盟国が戦争行為を起こさないためには必要なことでもある

「連邦政府は次元世界連合に軍事的活動に関して容認申請をしているかもしれないわね」

安全保障理事会の承認なしに大規模部隊を動かせば、後々困るようなことも想定される
それを避けるためにも根回しをする必要がある。手続きを1つずつ行っていくことが求められる

「安全保障理事会の承認が得られるのにどれだけ時間がかかるかが勝負どころね」

できるだけ早く対応をしなければいけない。時間的余裕もそれほどあるわけではないことも事実だ
ギブリはフィリーにどうするつもりだと質問してきた

「知り合いに連絡をしてみるのよ」

フィリーは携帯電話を取り出すと港湾パトロール海兵隊司令官のシルビア・フォーリアに連絡を取った

「フィリー・アクシオムです。お久し振りです。シルビア・フォーリア大将」

『久しぶりね。ベルカ州のクーデター事案についての連絡かしら?』

フィリーは港湾パトロール海兵隊に所属していたことがあったからこそ連絡を取ることができたのだ
そうでなければ連絡を取るのに時間がかかる

「状況はどのような感じですか?」

『今は連邦海兵隊と共同作戦の用意に入っているわ』

次元世界連合が軍事行動を承認したらすぐに攻撃開始の合図になるとも知らせてくれた
承認が得られたら即時攻撃のために部隊展開する。
港湾パトロール海兵隊はベルカ州の基地に派遣されていると。
承認が出たら即時攻撃を開始する。時間的余裕を相手に与えないことが求められる
少しでも空白の時間を与えてしまうとクーデターが成立する可能性がある

『フィリー。捜査部で分かった情報を私に直接伝えてほしいの。私の大切な部下を守るためにも必要だから』

フィリーが捜査部で集めた情報。それはクラナガン市内での聖王教会の情報だ
港湾パトロール海兵隊司令官がその情報にアクセスするには手順がある
その手間を省くためにフィリーを利用する。必要ならどんなことでも利用しなければ守ることはできない
大切なものを守るためには最新情報が必要なのだ

「聖王教会関係の情報でしたら港湾パトロール安全保障局の方が早いのでは?」

『いろいろと手続きに手間がかかることはあなたがよくわかっているわよね?だからこそあなたに頼みたいの』

ちなみに港湾パトロール海兵隊にも独自の情報機関が存在する
港湾パトロール海兵隊情報局。海兵隊の行動に関係する情報をあらゆる角度から収集している
それでもクラナガン市内の情報となると中央パトロールの方が早い

「わかりました。何か情報がありましたら即時報告を入れます」

そう伝えると期待しているわと返答があり通話は終了した

「港湾パトロール海兵隊司令官から情報の横流しの依頼か。代償がどうなるか想像もつかないな」

「ギブリ。クラナガン市内の聖王教会を調べあげて。あらゆる情報をね。必要なら私から査察部に話をつけるわ」

フィリーは市内で聖王教会がどう動くかを徹底的に調べることをギブリに伝えてオペレーションルームを退室した
ギブリは面倒なことを押し付けられたと思いながらも情報収集を始めた。


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部首席捜査官執務室

シエルはウルと協議を行っていた。議題はクラナガン市内で聖王教会が暴走する可能性についてだ
クラナガン市内でも何が起きるかわからないのだから、何か動きがあれば即時行動できるように

「ウル。港湾本部と情報共有は密に。私は行政機関と連絡を取り合って何かあれば報告してもらえるようにするから」

シエルが言った行政機関とはクラナガン市政府や連邦政府。
またクラナガン市近隣の州政府のことを示している。シエルにはそれだけのコネがある。
必要ならどんなことでも実行することができる政治家を動かせる人材をシエルは守備範囲にしている

「本気で動かすつもりなのかな?シエル」

ウルは本来の業務範囲を超えていることにリスクがあることを懸念していた
中央パトロールはあくまでもクラナガン市内が業務範囲である。
市外の法執行機関に土足で足を突っ込むのは通常では難しい
だがシエルには数多くの友人が多い。クラナガン市政府は連邦政府。近隣州政府など豊富な人材がいる
比較的容易に様々なことを行うことができる。例えば近隣州政府などの法執行機関に協力を打診するなど
管轄を超えたことを要請することも簡単にできるのだ

「私はクラナガン市内の治安を守ることを最優先にしているのよ。必要ならどんなことでも実行する覚悟があるわ」

「了解。港湾パトロールとは連携を取り合って情報共有を密にするよ」

今は市内で聖王教会にどんな動きがあるかは監視態勢に入っている
さらに監視体制を厳重にすることで問題が拡大することを抑え込むことが必要だ

「そういえばセントラルベルカバンクの状況はどうなっているのかな?」

ベルカ州を主な営業範囲としている金融機関であるセントラルベルカバンク
今はミーミルバンクが買収した。不良債権はかなりの金額になっている
抱えている不良債権は今も計算しているが、莫大な額になっている
セントラルベルカバンクから融資を受けていた人物は回収作業のために、
徹底的に財産の差し押さえが行われている。それでも現時点で回収できたのは半分以下になっている
これ以上の回収はかなり難しいというのが大筋の見方だ。聖王教会関係者の破産申請がかなりの人数になっている
人数だけでなく破産する理由の負債金額もかなりの金額に。
セントラルベルカバンクが聖王教会関係者に対して甘い融資基準で資金貸し出しを行っていた結果がこれなのだ
自業自得と言えばそこまでの話だが。
セントラルベルカバンクが抱えている聖王教会債や時空管理局債も極めて多い
だからこそ大変なのだ。後始末をするのは楽な仕事ではない

「連邦準備銀行が緊急融資に踏み切る段階に入る可能性はあるらしいわ」

連邦準備銀行はミッドチルダ連邦の中央銀行
政策金利などを調整している。もちろん最後の貸し手という役目もある

「連邦準備銀行が最後の貸し手として役割を果たすのは良いことかもしれないけど」

ウルは国民の税金の無駄遣いにならないと良いねと発言した
確かにその通りだ。緊急融資を行った場合は金融機関が破産に近い状態にあることが原則だ
おまけに負債額があまりに多い金融機関に緊急融資をするにはかなりのリスクを背負わなければならない
連邦準備銀行の公平性に関わることにもなる。難しい決断だが時には急がなければならないことも多い
タイミングを読み違えると経済的影響が大きい場合もある

「それとクラナガン市内に拠点を持っているマフィアやギャング達の監視を強化して」

通常、犯罪組織は大胆に行動することはない。
今は組織維持のために資金確保のためにどの犯罪組織も一緒である。

「市内のマフィアやギャング達に何か目立った動きがあるってことかな?」

「ウル。私たちはクラナガン市内で発生している様々なトラブルを解決するために存在するのよ」

そう、捜査部では多種多様な事案を取り扱って、そのトラブル解消を行う
必要に応じてパトロール部の刑事課や組織犯罪課と連携している

「了解。とにかく市内の犯罪組織について情報収集を行うから」

彼はそう言うとシエルの執務室を退室した。
シエルはすぐにホットラインで連邦国防省の友人に連絡した
連邦国防省の高官をしている人物である

「シエルだけど、ベルカ州に連邦軍の派遣についてどの程度の調整ができているの?」

『次元世界連合安全保障理事会の承認が得られたら即時部隊展開を開始する。もちろん港湾パトロールとも共同で』

「派兵人数はどの程度になるの?」

『連邦海兵隊を5000人ほど派兵する。すでにベルカ州近隣の州にある連邦軍基地では輸送機が待機している』

あとは承認待ちということだ。許可が出次第即時派兵を開始する
迅速な対応しなければベルカ州全体が混乱することが想定される
そんな事態はまだベルカ州政府が発足しただけに大きな問題に発展することも

「連邦国防省に何か動きがあれば情報提供してもらえるかしら?」

『問題ない。シエル首席捜査官に動いてもらったことで対応できたことも多いからな』

そう言うと連邦国防省の高官は通信を終えた
シエルは残る課題は機動六課組に関するものだけだと
そこが最大の問題事案である。簡単に進む事はあり得ない。
実行するためや準備には時間が必要であり、穏便に進めなければ『不発弾』が爆発することになりかねない

「クラナガン市内で犯罪組織が活発に動かないと良いけど」

そんな願いが叶うことがないということはわかっている
犯罪組織を殺すのは事実上不可能なのだから

「今は監視を強化するしかないわね」


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東区東部区域 クラナガンハイウェイ4号線(東線) 西行

レックスは中央本部に向かっていた。証拠の分析は港湾犯罪捜査部に任せている
こちらは今後のクラナガン市内でどれだけの麻薬が流通しているかを調べなければならない

「麻薬の密輸は命懸けだな」

体内に隠して麻薬を密輸するのはいつ死ぬかわからない危険なことである
生活に困っている者はリスク覚悟で密輸行為を行うケースは増加している
大量リストラされた退役時空管理局員もある程度の人数が関与していることが疑われている。
ただ体の中に麻薬を隠して密輸する行為を摘発するのは難しい
麻薬を隠していることを証明することが難しいからだ。
体の中にあると麻薬探知犬などの各種検査の網をすり抜けてしまう
もちろんそれで密輸できる量は多くない。ビジネスとしてはあまり難しい
だからこそ車や船舶を利用した方が大量の密輸ができる。もちろん摘発される可能性は高まるが

「それにしても市内でどの程度の麻薬が流れているかを確認しないとな」

マフィアやギャング達がどのぐらいしないで荒稼ぎをしているか
麻薬だけでなく銃の密売についても調べないといけない。

『東分署から各員へ。クラナガンハイウェイ4号線(西行)で交通事故との通報あり。事故は4台による玉突き』

応援に行けるものは休校するようにとの指示だ。
車載情報端末に交通事故関連情報が流れてきた。現場はここから20㎞先だ
それほど離れていない。レックスは支援するために急行することに

「SA30から東分署。交通事故の対応に入る。詳細な情報を車載端末に」

『了解。速やかに情報を送る』

車載情報端末に情報が送られてきた。事故は4台でどれもがセダンタイプの車のようだ
交通事故が起きるには何かトラブルがあったから事故が発生する
そのトラブルを見つけ出すことが交通事故捜査の基本である
もし落下物が原因なら落とし主に交通事故を引き起こす引き金なのだから責任が生じる

『港湾本部から全局員に通達。ベルカ州でのクーデター騒動についてマスコミへのあらゆる情報漏れを行うな』

「ますます厄介だな」

つまり部隊を動かすことを気づかれないようにするための準備が最終段階を迎えている
そういうことを示しているのだ。今後どうなるかは想像もつかない

「部隊を動かすカウントダウンに入っていることは間違いないな」

『EC24874から東分署。交通事故現場では事故車両の部品が散乱している。至急交通規制を』

事故車両が交通事故によって部品が散乱しているということだろう
4台の車による交通事故なのだから事故車両の部品が散乱するのは当然である
クラナガンハイウェイの制限速度は時速120kmだ。事故車両の部品の上を走行したら二次被害が出てしまう
事故を増やすことは絶対に許されないため、交通規制をかけることは必要なのだ
まだどれほどの規模の事故なのかは詳細にはわからないが、連鎖事故を防ぐことは当然である

「SA30から東分署。クラナガンハイウェイ4号線西行の事故現場の交通規制を。道路情報版を使用して警報を」

クラナガンハイウェイには一定の間隔ごとに交通情報が表示される道路情報版が設置されている
事故があるとすぐにそこに事故などの情報が表示させることが最優先事項になっている
全ては事故の連鎖を生み出さないようにするためである

『東分署からSA30。すでに道路情報を情報版に表示している。消防隊と救急隊の事故現場到着は5分以内』

「救急車は何台向かっている?」

『現在、8台の救急車が急行中。さらに何か必要なものがあるならリクエストを』

「救急搬送先のERを先に絞り込んでおいてくれ。負傷者をすぐに搬送するために」

事前に搬送先の病院を決めておくことですぐに搬送することができる
けが人を死亡させないために必要であり、早急に搬送先の病院を決めるためにも当然のことだ

『了解した。事故現場付近にある医療機関に受け入れ要請を打診します』

負傷者の早期搬送が最も重要である。
事故の原因解決も行わなければならないが、人命はどんな物よりも大切なものである
とにかくけが人を病院に搬送しなければならない

「事故現場付近の交通規制は厳戒態勢に変更だ。完全に通行止めにしろ」

『そこまでする必要はないと思いますが』

「今は二次被害を出したくない。安全確保ができるまでは交通規制を継続して行え」

レックスは安全確保を最優先にしていた。もうこれ以上の問題をしないで起こしてほしくない
交通事故は捜査に時間がかかる。捜査をしながらも現場の道路を早期に通行可能にしなければならない
極めて難しい事案である。

『中央本部からSA30。クラナガンハイウェイ4号線(東線)西行の事故処理は1時間以内に完了するように』

「こちらSA30。了解した」

レックスは相変わらず無茶を言ってくると思っていた。
主要幹線道路なのだから早期通行開始が求められることはわかっていた
だが1時間ですべて処理するのは簡単なことではない。証拠採取と道路の清掃
安全確認を1時間以内に行う。厳しいが何とかするしかない

「本部は無茶な注文が多いな。いつものことだが」

レックスはワーニングライトとサイレンのスイッチを入れて緊急走行を開始した
すでに事故現場付近では車線規制の影響で渋滞が発生していた。
事故現場に向かうために路側帯を走行して現場に急行した
交通事故現場に到着すると5車線ある中で3車線に事故現場が広がっていた
現場には大量の交通事故によって生じた車の部品などが散乱していた。
1番乗りしたパトカーが2台がいた。パトロール捜査官4人が車線規制のための準備に入っていた

「SA30から東分署。事故現場に到着したので対応に入る」

『できるだけ早く車線規制解除のために動くように』

「了解した」

レックスは交通事故現場に到着するとすぐにパトロール捜査官に現場保全を行うことを伝えた
少しの渋滞は覚悟したうえで様々な角度から現場の状況を記録していく
交通事故の原因を調べるには現場の車の破損状況が重要なのだ
さらにどの位置にどの部品が落下していることを記録することも同じく重要である
現場写真を次々と記録していった

「ドライブレコーダーの映像を確認すればある程度は早く交通事故処理は片付くが」

ミッドチルダ連邦の車には必ずドライブレコーダーが装着することが義務付けられている
自動車事故の解明には最も有効なものだ。映像を見ればすぐに事故の原因がわかる
連邦法で国内で販売されて利用される車には絶対にドライブレコーダーの装備が義務付けられている
全ては事故原因究明のためである。そこに東分署の交通捜査課の刑事が到着した。
交通事故調査のスペシャリストだ。あとの証拠となる車の分析は彼らの方が詳しい


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中央区北部区域 上空2000m ヘリ

カリーは北区南部区域イーストカタラウガス地区2番街3丁目13番地401号室で発見された死体発見現場に向かっていた
まだ現場には到着していないが北分署の現場鑑識チームが鑑識作業に入っている

「死亡した人物はわかっているの?」

『指紋で識別できました。退役時空管理局員で名前はアラスード・べリウス。45歳。男性』

カリーは現場にいる刑事と通信をしていた。まずは事前に情報収集が必要だからである
退役時空管理局員が死亡した。何か裏があるのかもしれない

「死亡した人物の金融情報を調べて。それと過去にトラブルがあったかどうかについても」

『了解です』

退役時空管理局員が死亡したのは殺人かどうかの真偽は今はわからないが
確認作業を進めることは必要である。もし犯罪組織に殺されたなら金銭的な圧力があったかもしれない
つまり危険なところから金を借りていたということだ
念のため、確認作業が必要なため金融情報を調べることは重要である
カリーも自分の携帯情報端末を使用して死亡したアラスード・べリウスを確認した

「かなりの借金があるわね」

銀行などから6億ミッドを借り入れていた。融資を受けた理由は金融取引が主な理由である
時空管理局債を購入して資金運用していた。多くの時空管理局員や関係者が行っていた金融取引である
金融格付けで時空管理局債は『AAA』の評価が出されていたことから最も安全な金融商品とされていた
今はデフォルト債権という最低ランクになっている。だからこそ時空管理局債はもはや紙くず同然なの
融資をしていた銀行は多くの債務者に対して財産になりそうなものを差し押さえしている
少しでも不良債権になる金額を削減する。不良債権が増加し続けると金融機関の経営にも影響する
多くの金融機関はどこも必死なのだから。不良債権が増加すると株価や信用度も影響が出てくる
金融機関の株価と評判が悪くなると経営危機になる。悪循環の連鎖に入ると止めるのは簡単ではない

「融資を行ったのはワンワールドバンクね」

ワンワールドグループ企業は退役時空管理局員が設立した企業グループだ
その1つであるワンワールドバンクは退役時空管理局員を中心に融資をしていた
今はワンワールドグループ企業はすべて破綻してしまった
そのためグループ企業に勤めていた社員はほとんど退職金を受け取ることができなかった
企業の幹部社員でも本来受け取れるはずだった退職金はごくわずかしかなかった
生活をするにはかなり大変なことは当然である。カリーは保険関係の情報にも探りをいれてみた

「生命保険が掛けられているわね。事件事故問わずに受け取ることができる。受け取れる金額は1億ミッド」

それでもワンワールドバンクから融資を受けていた6億ミッドには全く足りない
ワンワールドグループ企業は時空管理局に物資納入をしていた企業。
銀行・証券会社・投資ファンド・保険会社・警備会社がある
どの企業にも時空管理局が深く関与していた。
だからこそJS事件後はすべてのワンワールドグループ企業が破綻した
多くの人物の人生が危険な方向に向かっている。会社員は生活のためにお金が必要だ
ワンワールドグループ企業に勤めていたというだけで偏見を持たれている
そのため再就職にはかなり苦労している。

「落ちるところまで落ちたものね。自分たちで作り上げて自分たちが主な原因でつぶれた」

まさに自業自得といったところなのだ。資本主義経済なのだから、弱いものは負けるしかない
もちろんある程度の支援を受けることもできる。貧しい者だからと言って見捨てられるわけではない。
犯罪者でなければの話だが。犯罪行為に関与していなかったワンワールドグループ企業の関係者もかなり困っている
ある意味で差別的な視線で見られてしまっている。

「保険金を手に入れるために誰かに殺された可能性がありそうね」

借りていた金融機関がまともなところなら命まではとらないだろうが
犯罪組織から借り入れをしていたらいかなる手段を使ってでも回収しようとする
JS事件後にはこういった事案と思われる事件はかなりの数になっている
犯罪組織が関与した事件捜査はかなり難しいことが多い。
証拠をすべて抹殺して事件捜査を行う頃には証拠が消されているからだ

「今はあらゆる角度から情報収集をしないと」


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クラナガン自然保護区 中央区域 クラナガン自然保護センター庁舎 4階取調室

エイミーはグレイ・キョラースの事情聴取を継続していた
しかし何もしゃべろうとしない。完全な黙秘権行使の状況である

「このままだと終身刑になるわよ」

その覚悟はできているのと脅しをかけるが何も反応を示さない。厄介な人物だ
犯罪組織に殺されるくらいなら刑務所の方が良い。そう考えているのだろう

「・・・・・・・・・・・・」

エイミーは1度、取調室を出る。もちろん見張りとして1人のパトロール捜査官を残してだが

「エイミー。どう思う?」

自然保護区分署刑事課のカール・カッソンヌ刑事の質問にかなり難しいわと返答した

「喋るくらいなら刑務所を選ぶ覚悟があるのよ。かなり危険なバックがあることは間違いないわ」

「送検するか?」

送検。市内にある拘置所に身柄を移すことを示している
送検されると拘置所に収監されてクラナガン市裁判局で裁判にかけられる
あとの量刑などを決めるのは検事と裁判所の判事次第である

「もう少し粘ってみましょう。逮捕して48時間はこちらで留置させることはできる」

その間に何か喋ってくれたらいいのだが。完全黙秘を行使するならもうお手上げだ

「終身刑になることもわかっていてなぜ証言しない?」

「カール。リスク覚悟で密猟をしているのよ。密猟はある意味では一大ビジネスだから」

クラナガン自然保護区には数多くの希少な動植物が存在している
珍しいものであることがわかればわかるほど、金持ち欲しがるために様々な手段を使って手に入れようとする
犯罪組織ではそういったものをブラックマーケットで取引している
そういったことで得た資金は新たにビジネス展開のために使っていく

「だが何も自白もしないなら組織を突き止めるのはかなり苦労するぞ」

「こういう時に良い情報ルートがあるわ」

エイミーの言葉にカールはまさか本気かと疑うような表情を示した。
彼女は諜報機関を動かすことを検討していたのだ。貸しがある人物や組織は多くある

「港湾パトロール安全保障局から情報を引き出しましょう」

彼女はそう言うと携帯電話で連絡した。
グレイ・キョラースと関係がある犯罪組織などの情報提供を求めた
犯罪組織について少しでも情報がわかれば捜査が大きく前進することもある
今はどんな助けにも縋りついていくしかないのだ

「中央本部捜査部のエイミー・ドンラックだけど、グレイ・キョラースに関係するあらゆる情報収集要請を発令します」

『具体的にはどのような内容を?』

「わかることすべての情報を集めてほしいの。できるだけ素早く最新情報を」

情報開示に裁判所の開示許可証が必要になる。今はそんな手順を踏んでいるような時間的余裕はない
なら情報機関を使ってありとあらゆる情報を集めることを最優先にした方が良い

『こちらで収集できる情報を集めます。ですが裁判では証拠に採用されないことはわかっていますか』

そんなことはわかっている。今は話を聞きだすきっかけになる材料が欲しいのだ
裁判では証拠として採用されなくても犯罪組織に対する捜査に貢献できるならあとはどうとでもなる

「犯罪組織を釣り上げることができるなら多少の無茶はこちらで処理するから」

『相変わらず無茶なことを考えているようですね。早急に情報収集を開始します』

エイミーはよろしくと伝えると港湾パトロール安全保障局の友人との通話を終えた

「本気で動かすとは捜査部の捜査官は無茶が好きだな」

「カール。私たちは街を守るために存在しているのよ。必要ならどんなことを利用してでも獲物を捕食する」

カールはさすがは捜査部捜査官だと感じていた
情報機関に情報提供を求めることは通常では行われることはない
だがそれを可能にすることができるのが中央本部捜査部捜査官である
たとえどこかの行政機関からの妨害工作があろうと強引に話を進めることができるのだ

『港湾本部から全局員へ。ベルカエアライン24便から無線コンタクトがありノースクラナガン空港に着陸すると』

ただし万が一に備えての警戒態勢を実行するようにとの通達だ。
つまりベルカエアライン24便が陽動なのではないかと懸念している
備えが万全であることが最も望ましいことはクラナガン捜査局の大部分の局員はわかっている

「トラブルが1つ減ったな」

カール・カッソンヌ刑事の言葉にエイミーはそれはわからないと返答した

「もし空港への針路をとったのがただのポーズなら最悪になるわ」

本当に空港に着陸してようやくトラブルが解決するのだ
今の段階では完全に不安が払しょくされたとは言えない
警戒は空港に着陸するまで継続しなければならない

『中央本部からクラナガン自然保護区分署へ。自然保護区の立ち入りを現時刻をもって全面禁止とする』

その無線を聞いてカールは珍しい指令だなと反応した
クラナガン自然保護区への立ち入りを全面禁止することは通常行うことはない
何かトラブルが生じる可能性があるからなのかもしれない。ただそれを今すぐ理由を探るのは難しい

「自然保護区の全面立ち入り禁止は珍しい。何か緊急事態でも起きたかもしれないから警戒態勢に入りましょう」

「良いのか?そんなことをして」

「上を説得するだけの材料は存在しているわ。問題ないでしょう。今は中央本部の指示に従うしかないわ」

こちらで勝手に解除要請を出す理由もないことだしとエイミーは答えた
中央本部の要請を断る理由は現時点では存在しない。今は指示に従うことが重要よと回答した

「それにしても何かあるのかもしれないわね。自然保護区の立ち入り禁止命令が出るとは通常では珍しいから」

「ほかにどうする?」

「カール。今自然保護区内にいる入場者に対して立ち入り規制をかけたことを通達。それと危険人物がいないかの確認も」

「了解した」

クラナガン自然保護区内にどれくらいの人物がいるかを調べることで、危険人物がいないかを再点検させる
少しでも過去に暗い経歴を持つ人物がいれば即時身柄拘束のために身柄拘束する
どうして自然保護区に来たのかなどを詳細に調べ上げる

「あとは現場の活動に期待しましょう」


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中央パトロール本部庁舎 3階・4階中央パトロール管制センター

「東区のクラナガンハイウェイ4号線西行での事故については救助作業が間もなく開始される予定」

ここにはさまざまな情報が集まってくる。
機密情報も取り扱うため管制センターの管制官になるには厳しい審査を受けなければなることはできない
さらに市内の情報を常に素早く分析することができる者でなければここでの業務に入ることはできない

「ベルカ州西部地方の衛星画像が送られてきた。複数の魔導師が集まっている可能性が濃厚」

現場では魔導師が発する魔法波長が人工衛星を使って観測されているからこそわかる情報である
何人の魔導師が現地にいることがわかれば対応方法も比較的容易に調べることができる
問題はそれを調べるのに時間が必要になることだ。今は時間との戦いであり素早い対応が求められる

「警報発令にどれだけの時間が必要になる?」

中央パトロール管制センターのセンター長であるフィガロ・アルマーダは具体的な情報を求めていた
警報とはクラナガン市内にある聖王教会関係施設に見張りをつかせるために発する警報だ
今は少しのミスは許されない。何とかして問題解決しなければならない
無理であろうと行わなければならないのだ

「すでにクラナガン市内にある聖王教会関係施設には警戒を指示しています」

つまり今のところは問題ないことは確かであることだが、
いつ暴走するかわからないことが最も恐れることになる
何が起きるかわからないことが危険予測を難しくする最大の要因なのだ

「ベルカ州聖王教会本部についても常に監視体制を強化。港湾本部とも情報共有を」

聖王教会本部から発信されるさまざまな通信傍受のための準備をするように伝えた
これはもし教会内部にクーデター協力者がいた場合に想定しての判断だ
法執行機関の幹部は聖王教会が暴れることを恐れている
もちろんそんなことをさせないために部隊配置を行っている
『訓練』という形だが緊急行動指令が発令されている
訓練から実践に切り替える用意はいつでも整っていた
実際に緊急行動指令が発令されたらそれは戦争の準備を行うのとまったく同じだ
いつでも作戦区域に部隊を派遣するため兵士を乗せた輸送機や爆撃機に戦闘機が行動開始する

「これだけははっきりさせておくが。我々はクラナガン市内の治安維持が任務である」

フィガロ・アルマーダは必要ならどんな手段を使ってでも治安維持を行えと命令した

『ピーピーピー』

フィガロ・アルマーダの携帯電話が着信を告げていた。発信者は港湾本部長のリヴィナ・トラヴィックだ

「リヴィナ。問題が発生したか?」

『こちらは忙しいわ。ベルカ州に部隊を派遣する影響をまともに食らっているから』

それは幹部なら周知の事実だ。
今はベルカ州で今後のことを大きく左右する運命の針が動き出している

「港湾パトロール海兵隊はどのぐらいの人数を派遣するつもりだ?」

『このまま変更がなければ1万人が派遣される。港湾本部基地だけでなくイーストフローレンス基地からも派遣される』

かなりの人数を派兵することになる。
1万人の海兵隊員を派遣するのはかなり重大な問題がある。
そういうことを示している。だが戦力の配分は慎重さが求められる
港湾パトロール海兵隊は予備役も含めると10万人だ。
ベルカ州に派兵するからと言ってもある程度は各基地に継続して残すことが求められる
地上作戦をできるのは港湾パトロール海兵隊だけなのだから

『海兵隊はすでに輸送機でベルカ州に向かっているから、あとは次元世界連合の承認待ち』

許可が出たら速やかに反政府組織の掃討作戦に入るとのことだ
簡単に掃討作戦というが実際はどうなるかは想像もできない。
1万人を先陣という形で派兵するがさらに必要になることも考えていろいろとプランを練らなければならない
軍事作戦のシナリオ作りは常にもしもに備えて準備をすることが重要である

「どういうシナリオを想定している?」

『最悪のシナリオも用意しているわ。クラナガン市内でテロ行為が行われることも考慮に入れての作戦も』

市内にある聖王教会や時空管理局関係の施設に見張りを出しているという意味でもある
最悪のシナリオになる前に抑え込むことが重要である事は多くの法執行機関の幹部はわかっている
だからこそ次元世界連合全加盟国の法執行機関でも同様の動きを見せている

「できれば市内でそんな事態にならなければ良いがな」

フィガロの言う通りだ。何もなければ良いのだがいつどうなるかは想像できない
もし聖王教会本部がクーデターに関与していると大きな国際問題になる
国際機関が自らの権限欲しさのために反政府活動をするのだから
そうなれば国際機関としての地位を捨てることと同じ
されに次元世界連合から敵対組織と認定されることにもなる
そうなると次元世界連合が設立された際に成立した国際条約の1つ
聖王教会騎士団活動条約が一時的に停止することになる。
この条約は聖王教会騎士団の活動に関する様々なことが定められている
条約が停止すると騎士団の活動そのものが違法行為と判断される

『気になるのはミッドチルダ連邦国内の経済事案よ』

クーデターの影響で国内全域の各州に設置されている州証券取引所の株価や商品先物取引所の値動き、
それがかなり激しくなっている。乱高下がかなり激しいのだ
クラナガン市内で採掘されている原油価格も大きく値動きが続いている
株や商品先物価格が急激な上昇や下落が行われている。
だからこそヘッジファンドはそこを巧みに利用して利益を得ようとする
それも資本主義なのだから当たり前ではあるが。
強いものが、そして狡猾に動くものが勝利を手にすることができる

「クラナガン原油先物価格もかなり大きな値動きをしていることはこちらでも把握している」

クラナガン市の沖合や島々で採掘される原油の先物価格はクラナガン商品取引所で売買されている
特にここでの原油取引の数字は国内のすべての州に設置されている州商品取引所の原油価格の指標になる
クラナガン原油先物価格が急激に上昇すると他の州商品取引所の原油価格に影響がすぐに出る
だからこそ安定的な価格が最も重要なのだ。国内の各州の経済にも影響する
国内の原油消費量は1日あたり、約9000万バレル。他次元世界国で原油採掘が多くの国々で行われている
国内での原油生産量は約7000万バレル。残りの約2000万バレルは他次元世界国から輸入している。
原油採掘を行うには採掘現場の環境汚染をさせないことが義務付けられている。
また採掘現場は州政府などの厳しい検査を受けなければならない。
もし1つでも環境基準や採掘に関係する法律違反があれば原油採掘を行っていた企業は業務停止命令が出される
環境を守るためであり、採掘が終わった後もしっかりとした旧採掘現場の封鎖措置や環境保護活動をする。
連邦法でそれらの行動について義務付けている。環境保護活動をしなかったら新たな資源開発は認められない

『中央パトロールは市内の治安維持活動をしっかり行うように』

そう言うとリヴィナとの通信は終了した。リヴィナの最後のセリフに彼はため息をついた。
わかり切ったことをまるで念押しするかのように言う
それはクラナガン市内でテロ行為を起こすような様々な犯罪組織の監視強化を求めることだからだ
すでに手配はかけている。だがさらに厳格な対応をするように。面倒な話だが仕方がない

「市内に拠点を持つすべての犯罪組織や反政府組織の監視を強化しろ」

今できるのはここまでだ。
犯罪組織対策法のブラックリストにある登録組織の通信傍受を行うことも検討に入った
市内の安全を守るためには利用できるものはすべて使わなければならない

「何が出てくるかわからないところが嫌な話だ」


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南区北部区域ハーディー地区5番街5丁目10番地 地区パトロール事務所

アルシオーネはワンワールドバンクの支店に立てこもっているユラザーク・ギャスシーの対応方法を検討していた
このままでは状況は完全に身動きが取れない。犯人であるユラザーク・ギャスシーはもちろんだが
アルシオーネたちも同じだ。何か飛び切り驚くような切り札的なものが
だが現実はそれほど甘くない。失うものが何もない者ほど悲しい結末を選んでしまう

「今も膠着状態が継続中。立てこもり犯も自爆をしなければ良いけど」

銀行の中の状況は監視カメラの映像を転送してもらう形で注視している
少しでも何か動きがあれば対応できるように。でも今はどうする事もできない
ただし銀行支店の中から外部につながる通信回線はすべてシャットダウンしている
携帯電話などの無線通信にもジャミングをかけている。
唯一の通信は支店内からこの事務所につながる回線だけ。
それ以外はすべてカットしている。だが少しずつマスコミが集まりだしている

「マスコミのシャットアウトはもう無理ね。報道管制もこれ以上は無理でしょう。ベルカ州の問題に飽きているのかも」

ベルカ州でのクーデター騒動である程度はマスコミの視線はそちらに向いていた
マスコミというのはネタを追いかけてくる。飯の種なのだから当然ではあるが

「クリー・ヴランド。どう思う?」

クリー・ヴランド刑事は一時的に戻ってきていた。今後の戦略を練るためだ
何とかしないと問題は複雑になるだけ。ユラザーク・ギャスシーは60歳だ
説得できる材料を見つけようと家族関係の情報を調べたがすべて空振り
家族はいない。幼いころから時空管理局で仕事をしてきた
何か良い方法を見つけないと事態は悪化する。

「これ以上の先延ばしは無理だ。強行突入に踏み切るか」

それは誰もがわかっている。だからこそ何とかしてでも解決しなければならない
時間の余裕はないのだから。

「退役時空管理局員の末路がこんなひどい状況なんて最悪だな」

「もうどうしようもないわね。準備に入って」

アルシオーネは決断した。犠牲者覚悟での強行突入。もはや時間切れである
強行突入すれば必ずけが人が出てしまう。もしかしたら死者も出ることも十分考えられる
けが人はもちろんだが、死者を出すことは許されない。極めて難しいことだ

『中央本部からSA33。応答せよ』

アルシオーネの無線機に着信が入ってきた。彼女はすぐに内容を確認した
無線を求めてきた内容は簡単で、事件を早期に解決しろという圧力だ
できることならそんなことはわかっている。だが現実はかなり難しいのが実情である
人質をけがを負わせることなく救出することは立てこもり事案では最も難しいことだ
それを何とかするのが求められるのが最もつらいこともわかっている
彼女は決断を下すしかなかった。もう余裕が存在しないことは現場にいる誰もがわかっている

「仕方がないわね。犠牲者覚悟で行くしかないわ」

説得して何とかなれば最高なのだが、もう時間切れ。
人質になっている人たちの精神的影響も多くなる
何とかしなければ捜査官として失格である。知恵の見せ所だ

「アルシオーネ。かなりリスクがある」

クリー・ヴランド刑事の懸念はわかるが、もうどうしようもない
彼女は突入の用意を指示した。クリーはわかったと返答すると強行突入の部隊編成に入った
人的被害が出なければ良い方法など存在しない。もう何もかもが終わり

『中央本部からSA33。立てこもり事案が行われているそちらの現場から聖王教会騎士団に通信があったことを確認』

その無線連絡にアルシオーネは緊張した。状況が変わることになってしまう
今準備をしている強行突入の動きができなくなる影響があるためだ
聖王教会騎士団にコンタクトをとったということは何か思惑があるのかもしれない
この状況が継続すれば、情勢が複雑になることも考えられる。
市内にある聖王教会関係施設で動きを見せれば危険リスクが発生するかも。
恐れるべきトラブルの1つである。もしダメなら捜査部捜査官は失格だ
まさにアルシオーネは自分の捜査官としての力量が試されるところである

「SA33から中央本部。その通信内容の解読はできているの?」

『現在港湾パトロール安全保障局と連携している。通信内容は暗号化されていたが解読作業が進んでいる』

暗号通信ということは状況がさらに危険になっていることだ
暗号通信の通信妨害を行わなければならない。

「それにしてもなぜ聖王教会騎士団に通信をしたの?」

『まだ何もわかっていないが、立てこもり犯が聖王教会騎士団に連絡して何らかの行動を起こすかもしれない』

簡単に言えば何が起きるかわからないということである。
そういうのが最も恐れている状況ともいえる。通信内容を急いで確認しなければいけない
暗号通信と特にだ。わざわざ暗号通信にすることの内容なのかどうかを確認が必要であるからだ

『現在確認作業を行っています。解析が完了したら速やかにSA33に連絡する』

「最新情報は常にこちらに流すように通告。人質の命にも影響する」

了解したというと無線交信を終えた。暗号通信の内容を解読することが最も重要だ
いったい聖王教会騎士団にどんな内容の通信をしたのか。

「何が目的なのか急いで確認しないと」


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西区東部区域西区東部区域クルック地区1番街2丁目 安全保障理事会フロア

先ほど解散したばかりなのに再度理事国が招集されていた

「聖王教会から強制捜査の一時停止要請がありました。その件について再度審議を行います」

聖王教会代表から再度審議の要請があったのだ
少し前に決議が出されたが言い訳を聞いておくべきという判断が下されて再審が行われることになった

「我々聖王教会はベルカ州西部地方のクーデターに関与はしていません」

そう発言することはわかっている。しかしどの安全保障理事会の理事国は納得するはずはない
表面上は関与していないかもしれないが根っこではしっかりチームを組んでいるかもしれないからだ
そのため、聖王教会代表の意見に賛同する次元世界国はほとんどない
仮に賛同に回ったとしてもその理事国は何らかのメリットがあることで説得されたのだろう
議長国であるミッドチルダ連邦大使が聖王教会の意見と聞いた上で聖王教会の強制捜査について議決をとった

「賛成の理事国は手を挙げてください」

そういうと15か国の全会一致で聖王教会への強制捜査を承認した。これでもう最後の決定だ。
議長国のミッドチルダ連邦大使が現時刻をもって強制捜査のために部隊運用を伝えた

「ミッドチルダ連邦大使。聖王教会の強制捜査は迅速に行ってください」

他の理事国大使も同様な意見を伝えると安全保障理事会を終了した
これで少しの無茶をしても、武力行使を容認したのと同じである
ミッドチルダ連邦政府は連邦軍を動かす条件が整った。
次元世界連合が戦力部隊を動かすことを認証した。これこそが連邦軍を動かす最後の関門であった
承認なくして地上戦闘を開始したら条約違反になる。


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北区西部区域 ノースウエストクラナガン貨物ターミナル 1番線

サイノスは貨物ターミナルでかなり激しく捜索活動を行っていた
この貨物ターミナルにはかなりの数のコンテナが存在している
それらに麻薬や銃火器が貨物列車の貨車に積み込まれていないかを調べていた
多くの刑事とパトロール捜査官が動いていた。いつまでも貨物ターミナルにある貨物列車の運行停止は無理だ
最低限でも動かさないとクラナガン市だけでなく近隣州の物流にも影響が出てくる
今はまさに時間との戦いなのだ。必要ならどんな方法でも使って調べなければならない

『北分署からSA25。ミーミルクラナガン貨物ターミナルから5編成の貨物列車が運行を始める』

ミーミルクラナガン貨物ターミナルは東区のミーミルクラナガンコンビナートの区域内にある貨物ターミナル
ミーミルクラナガンコンビナートだけでも広さは南北50km×東西10kmになる巨大コンビナートである
毎日に大量の工業製品を製造している。もちろんそこで製造された工業製品は貨物コンテナで輸送されることが多い
そのため1日に何百編成の貨物列車がミーミルクラナガン貨物ターミナルで荷物の積み下ろしを行っている

「列車情報をSA25の携帯情報端末に送ってください」

『了解した』

サイノスの携帯情報端末に貨物列車の情報が送られてきた
5本の貨物列車だが、ここで再度貨物コンテナを積み込んでベルカ州に向かう
貨物列車は1編成当たり60両近いの貨車が連結されている。積み荷の中には自動車燃料のタンク車両もあった
車の燃料に使われるタンク車両があるとかなり迅速に対応しないといけない
確かにベルカ州でも石油が採掘されているし石油コンビナートはある
こちらのタンク車両が遅れても問題はないと考える者がいるだろうがそういうわけではない
ベルカ州で石油の埋蔵は州の北部と東部地方だ南部地方と西部地方には埋蔵されていない
こちらから送られる貨物列車のタンク車両はそちらに向かって供給されるのだ
だからこそ遅れるわけにはいかない。ベルカ州に住んでいる人々の生活に影響が直結する

「急ぎの貨物列車だね。こちらで遅らせることはできるのかな?」

『ただでさえ遅れているので最小限に抑えるように』

無茶なことだがそれでもやるしかない。任務なのだから命令には従う
穏やかな方向に話が進んでくれることを願っている。ここで活動している刑事やパトロール捜査官も同じだ

「自動車燃料が積み込まれているタンク車両が連結されているとなると急がないといけないね」

ただでさえベルカ州とクラナガン市が結んでいる鉄道路線のダイヤは乱れている
鉄道ダイヤの乱れは1つずれが生じると連鎖するかのように徐々にコントロールすることができなくなる
そうなる前に何とかしなければならないが。サイノスは頑張るしかないとため息をついてしまった


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中央区南部区域サウスサーストン地区5番街付近 クラナガンシティバンク サーストン支店 現場指揮拠点

シエナは最後の決断をすることにした。人質がいつまでも生かされているとは思えない
彼らも緊張しているはず。だからこそ早期解決が求められる

「SA24から中央本部。こちらは強行突入の準備に入る」

『了解した。すでにヘリでそちらにSWATを派遣している。指揮権をゆだねる』

つまり中央本部も強行突入の態勢に入っているということである
中央本部も早期解決を求めていることはわかっている

「本当に危険ね。犯人は4人もいるとなると余計に」

それも全員が退役時空管理局員であり魔導師でもある。捜査の方法はわかっている。
武力行使も十分に考えられる。立てこもり事案は早期解決が絶対条件だ。
時間が加算されていくと解決は難しくなる

『連邦準備銀行は金融引き締めの方針で動くことを検討していると発表しました』

今のミッドチルダ連邦はあまりにも景気が良すぎる。
そのため、バブル経済にならないようにすることが求められる
政策金利の引き上げを何度も行っているが、それでも抑え込むことが難しい状況にある
連邦準備銀行は自らが抱えている他次元世界国の国債を銀行や金融機関などを金融市場を通じて販売
ミッドチルダ連邦国内の通貨量を減らす政策に踏み切った。今のミッドチルダ連邦の政策金利は6%。
さらに金利を引き上げることも検討に入っていると公表されていた
政策金利を引き上げられると金融引き締めを行う。景気過熱を抑えることが重要なのだから

『連邦政府は連邦準備銀行と協議を行いました』

『新規国債の発行や準備預金比率の操作を行い、金融市場の流動資金を減らす方向で動くとの情報もあります』

国債を発行することで金融市場に流れている通貨量を一時的とはいえ減少させることができる
ちなみに連邦政府が発行している国債残高は30兆ミッド。
基本的に国債に頼る必要はないが長期金利などを調整する名目で一定量を発行している
国債は長期金利の目安になるから。
ちなみに準備預金とは民間金融機関が中央銀行に預けなければならない預金である
準備預金比率を引き上げることで民間金融機関は自由に扱える預金量が減少する
つまり市場に出ているお金の量が減少することに。これも金融政策の1つだ
今は金融引き締めに走ることを最優先にしなければならない

「連邦政府は金融引き締めに必死ね。つまり融資をしていた銀行は回収作業に躍起になるのも当然」

時空管理局債や聖王教会債で融資をしていたが2つとも債権評価額はほぼ0になっている
つまり銀行は融資条件として預かっていた債権の担保価値がなくなったから不良債権になってしまった
不良債権が増加したことで退役時空管理局員が創設したワンワールドバンクは経営破綻した
負債総額はとんでもない金額になっている。ワンワールドバンクだけでなくワンワールド保険も経営破綻
ワンワールドグループ企業の破綻で多くの次元世界国では大きな影響が出ている
大きすぎる企業が破綻するというのはその次元世界国の景気に対する影響は甚大だ
ミッドチルダ連邦はリスクは最小限にすることができているが次元世界連合加盟国の一部では不況の嵐になっている

『次元世界連合は一部の加盟国の景気悪化に伴う影響を考慮して次元世界通貨基金が緊急融資を行う用意があると表明』

次元世界通貨基金は各次元世界で使用されている通貨の為替相場の安定化を目的に創設された。
通貨の安定のために必要に応じて各国から出資された資金を融資し、為替相場の安定化を図るのを主幹業務としている
国際為替市場では安全な通貨としてミッドへの買い注文が殺到している
おかげで通貨ミッドはミッド高の状況にあるのだ

「退役時空管理局員に絶対の信頼を与えていたことが大きな問題ね」

シエナは退役時空管理局員への信用度があまりにも高すぎたことがそもそもの問題であると考えていた
安定的な退職金を受け取ることができた。そのため信用評価は高かった
退役時空管理局員はもちろんだが、現役時空管理局員に簡単な審査で融資をしていた
最も多くの時空管理局や関連組織。さらに時空管理局員にかなり甘い審査で融資を行っていた
全体の8割を時空管理局関係に融資をしていたのがワンワールドバンクだ。
ワンワールドバンクは退役時空管理局員が創設した企業のため、時空管理局とは密接な関係があった
だからこそワンワールドバンクを含むグループ企業が破綻したことで大きな影響が出ている

『次元世界連合はワンワールドバンクから融資を受けていた関係者や組織などへのあらゆる角度から調査を行っています』

「迷惑な企業ね。破綻しても負の遺産をばらまき続けるのだから」

彼女の言う通りだ。破綻して終了ならまだましである。
だがワンワールドグループ企業は破綻しても問題を大きくしている

『中央本部からSA24。現状報告を』

「現在強行突入の準備中。体制が取れ次第行動開始とするが」

『一時的突入停止を。連邦機関から横やりが入ってきた』

具体的には証券取引委員会からだと。どうやら立てこもり犯は何か興味深い情報を握っているのだろう
そうでもなければ彼らが突入停止を要請してくるはずがない
突入で殺されることを止めるためであることはすぐに察した

「SECが横やりを入れてくるなんて、少し迷惑な話ね」

『クラナガン捜査局の上層部からも突入の一時停止要請が入っている』

「こちらSA24。了解した。強行突入準備は継続して行うが突入は停止する」

状況はかなり厳しい。いくらSECの要請とはいえいつまでも時間をかけているような暇はない
リミットがあることはわかっているはず。証券取引委員会が何を探そうとしているのかを割り出すしかない
クラナガン捜査局と国内のあらゆる警察組織とは連携している
互いに情報共有することでミスがないようにしている

『SA24が担当している立てこもり事案にFBIが介入する恐れがあります』

銀行強盗事案では珍しいことではない。
問題なのは証券取引委員会とFBIが組んでいるかもしれないということだ
もし2つの捜査機関がタッグを組んでいるなら、他にも何かあるのかもしれないということだ

「バックには何か大きな企みがあるということなのか確認作業を大至急行って」

『中央本部からSA24。内容を速やかに確認する』

とにかく情報がなければ動くこともできない。
陰謀があるならなおさらだ。最新情報で裏付け調査が必要である
陰謀があるなら確認を行って状況把握が必要になる

「面倒なことになりそうね」