午前10:20 東区東部区域 クラナガンハイウェイ4号線(東線) 西行

ラジェットは機動六課組と一緒にSUVで中央本部に向かっていた
運転はしていない。運転席と助手席には港湾パトロール海兵隊員が警備のために乗り込んでいた
ちなみにアサルトライフルであるH&KG36を装備している。
ラジェットが乗っている車両にはなのはとフェイトとはやてが同乗していた
ちなみにラジェットはS&W M39をいつでもホルスターから抜けるようにロックを解除していた

「警備が厳重ですね。私たちは狙われているからですか?」

フェイトがラジェットに質問した

「俺たちはいつ死ぬかわからない任務を任されている。だから常に警戒しているだけだ」

『中央本部からSA11。応答を』

「こちらSA11。現在中央本部に向かっている。内容はどんなものだ」

『またしても問題が生じた。次元世界連合安全保障理事会でベルカ州での軍事行動が承認された』

そちらにも攻撃が行われる可能性も高いことから警戒されたしとのことだった
はやて達が狙われていることを意味していることはすぐに察した

『聖王教会関係の通信を傍受した。教会騎士団過激派が何かアクションを起こす恐れがある。警戒されたし』

そんなことはわかっている。そのために港湾パトロール海兵隊員が警護に当たっている
いつ何が起きるかわからないことぐらいわかり切っていることだ

「何か不審な通信を傍受してこちらに影響するような通信内容なら即時報告を」

『了解した。港湾本部にも通達を出しておく』

無線交信を終えるとラジェットはため息をついた。
トラブル発生はほぼ確実にあることが理解したからだ
最悪の場合は自らの命を投げ出さなければならないような状況があるかもしれない
何が起きるか想像できないことが最も恐ろしいことなのだから

『連邦政府は次元世界連合安全保障理事会で承認されたため港湾パトロールの部隊と連邦軍を動かすと発表』

『また連邦政府は州緊急事態管理法をベルカ州に適用することも公表しました』

州緊急事態管理法は連邦政府が緊急事態だと認定した場合、州の権限を停止。
連邦政府権限を最優先事項として処理することを連邦法で定めている
つまり州政府では対応できないようなトラブルが発生したときに行動を起こすときにこの連邦法の承認が必要だ
この連邦法の承認なくして強引に連邦政府が州政府に対して介入するのは基本的には禁止されている

『ベルカ州知事は州緊急事態管理法の適用を速やかに承認すると』

『これによりベルカ州政府の州自治権は一時的に連邦政府に委ねられることに』

「連邦政府も無茶なことを要求してくるだろうな。聖王教会本部は今に大きな攻撃を受けるだろう」

ラジェットはベルカ州の聖王教会本部だけでなく、
次元世界連合全加盟国にある聖王教会関係施設への強制捜査が行われることは予想が出ていた

「どういうことや?」

はやて・八神はまるで状況を理解していなかった。指揮官としては優秀とは言えない
指揮命令を行うにはその時の世論や世界情勢を常に把握していなければならない
そうでもなければ大きな代償を払うことになるのだ

「はやて・八神。お前は部隊の指揮官をしていたなら常に情勢把握をしなければならない」

ラジェットは情勢把握ができない者は指揮官としては評価は低いと辛口の評価をした

「聖王教会はどうなるのですか?」

なのは・高町の質問に今はどの程度の聖王教会関係者が反政府活動しているかで状況は変わると回答した
彼の言葉はかなり当たっていた。聖王教会に対する風当たりはかなり厳しい
今後、次元世界連合の聖王教会調査委員会によって徹底的に調べられる
過去に不正行為があったかどうかを入念に。そこが最も厳しいところだ

『次元世界連合安全保障理事会は次元世界連合全加盟国に聖王教会の調査を行うように指示を出しました』

『また時空管理局に関しても各国で調査を行うように指示が入っています』

要請なら加盟国では断ることはできる。
だが指示となると調査をしないわけにはいかない

「本当に苦労するだろうな。聖王教会は。時空管理局も同じだが。どちらにしても自業自得だ」

『港湾本部からSA11。警戒態勢を維持しろ。何が起きるかわからない』

港湾本部からの無線で状況はおおよその見当はつく。
あちらが警告するということはかなり危険であることを示している

「何か見落としがあるのか?」

『SA11が乗り込んでいる車に少しずつ接近するワゴン車がある。車両ナンバーを照会したところ、前歴がある人物の車』

具体的な情報がラジェットの携帯情報端末に送られてきた
顔認証システムで照会したら退役時空管理局員がレンタルした車だった
おまけにその退役局員の事案を担当したのがフェイトだった
これはかなり危険なことを想定される。彼女への復讐を考えているかもしれない
クラナガン捜査局が証人保護の名目で機動六課のメンバーを預かるなら、何が何でも守るしかないのだ

「こちらに接近してくるワゴン車両に乗り込んでいる人物についてのあらゆる情報を俺の携帯情報端末に送ってくれ」

『了解した。速やかに情報提供を行う。名前はジラード・ディスロイト。41歳。退役する前は地上本部首都防衛隊に所属』

フェイトが着目した不正項目は特定の業者から金を受け取り、通常よりも高値で物資を購入していた
物資納品をしていた業者はかなりの利益を得ていた。今はその会社は倒産していた
負債総額は200億ミッドにもなる。この業者が時空管理局に収めていた物資で得た利益は総額3000億ミッドにもなる
通常価格の物資納入金額の数倍で時空管理局は納入費用を支払っていた。
明らかな法外な金額であることは間違いない。
摘発したフェイトは追及して関与していた局員を起訴するまで踏み切った
しかし裁判は開かれることなく不起訴処分として処理された。理由は簡単だ
他の不正行為に関する情報提供が見返りだ。ジラード・ディスロイトは10件以上の不正行為の摘発に貢献した
不名誉除隊になるはずだったが、普通除隊で退職金と年金を受け取ることはできた

「どうやらかなり危険な展開になりそうだ」

もしフェイトに対する復讐のためにこちらを狙っているなら、
いつでもこちらから何らかの攻撃することができるようにラジェット達は準備をした
ラジェットはホルスターから銃を抜いた。いつでも発砲できるように用意も行った

『中央本部からSA11へ。港湾パトロール海兵隊から危険判断指数が高まったとの連絡がありました』

危険判断指数が高まれば、文字通りに現場で危険な状況になることを示している

「危険判断指数が高まる原因は何だ?」

『港湾本部からの連絡によると退役時空管理局員の一部が危険な行動を起こすために準備をしているとの情報があった』

退役時空管理局員の生活は次元世界連合全加盟国でかなり厳しい状況。大量リストラや給与の大幅削減。
さらに退役時空管理局員が受け取るはずだった年金資金の運用、
それらが失敗したことで受け取れる年金は削減されている
だからこそ、高齢でも年金だけでは生活することができないという事態になっている
生活苦から犯罪組織や反政府組織などに参加する者もあらわれている
退役時空管理局員には職務をしっかりと行っていたのに、今になって何もかも失って天から地に落ちる
悪夢と言っても良いだろう。

「一部の悪意を持った退役時空管理局員が作ったシステムが崩壊してこうなるとはな」

ワンワールドグループ企業は退役時空管理局員が創設した企業だ
時空管理局に物資を納めるワンワールドカンパニー・銀行のワンワールドバンク
証券会社のワンワールドストックブローカー。投資ファンドのワンワールドファンド。
保険会社のワンワールド保険。警備会社のワンワールド警備など
時空管理局と密接な関係があった企業は何度も言うがすべて倒産した
ワンワールドグループ企業が抱えている負債はあまりにも多すぎて数字にすることが難しいほど
影響を受ける人物や企業の数もかなりの数字になる。
あまりにも多すぎて状況確認に極めて時間が必要になることは周知の事実だ

『中央本部からSA11。まもなくそちらにパトカーが応援に入る』

「いつでも発砲できる状態で行動するように通達を」

ラジェットは様々なシナリオを想定して行動内容を考えていた
常に最悪の事態を想定すればどんな状況でも対応することができる
それが最も重要なのだ。迅速かつ的確な反応ができることが捜査部捜査官に求められる

「公的資金の注入が認められなかった影響は大きいだろうな」

通常ならワンワールドバンクのような大規模金融機関が破綻した場合、
あまりにも影響がひどいことになるため連邦政府や州政府が公的資金を投入される可能性があった
だがそれがされなかったということは破綻させることが既定路線であったことを示していた
ワンワールドバンクはあまりにもJS事件が起きるまでは最も大きな銀行だった
それが破綻したことでほかの金融機関はワンワールドバンクの顧客を奪い合っている
またワンワールドバンクが融資をしていた融資先の中には『まともな融資先』と『不良債権になる危険な融資先』
この2つに分類することができていた。融資をしても不良債権になった融資先は引き取り手がなく、
他の金融機関も誰も継続融資としなかったことから破産した企業は多い
一方で『まともな融資先』についてはワンワールドバンクから債権を低価格で買い取り融資を継続して行っている
これにより次元世界連合加盟国では金融機関が激しい競争が行われている
新たな融資先を見つけることにだ。今まで時空管理局に物資を納める企業は形式上は競争入札だった。
だが実態は随意入札である。そのため物資納入企業はワンワールドカンパニーとなっていた
今は時空管理局に物資を納入する業者は完全に競争入札で決まることになった
そのため、新しい企業が創業されている。
価格と品質の両方を競わせている競争入札により時空管理局の物資調達費用は削減された
それらの企業に金融機関は融資を行っている。銀行にとっては新たな利益を得ることができる企業である
もちろん競争入札制なので、入札でほかの企業との戦いで納品負けをすることもある
銀行はそういうリスク査定をしなければならない。
もし入札負けをすると銀行は利益を得ることができなくなる
最悪の場合、融資した資金の回収も難しくなる。

「ワンワールドカンパニー関係で逃げている連中は多いだろうな」

ラジェットのセリフは当たっている。
ワンワールドカンパニー関係で次元世界連合全加盟国の法執行機関から追跡されている人物は多い
捕まれば刑務所生活が待っている経済犯罪になることを分かっているから逃げているのだ

「俺たち捜査を行う立場の人間はいつ殺されるかわからない立場であることを分かっている」

だからこそ銃の携帯を常に行っている。いつでも反撃することができるように
備えを万全にすることが求められるのだ。
少しでも狙われることが想定されるなら家族にも手が伸びることもある
だからこそ警戒はどんな状況であっても行わなければならないのだ

『聖王教会に対する強制捜査が次元世界連合全加盟国で行われることを受けて各国の法執行機関は動き出しています』

『今後の動き次第では大きな流れが変わることも想定されます。妨害工作があれば国際機関の資格はく奪の検討も』

国際機関として認められるには次元世界連合の総会化安全保障理事会の承認が必要だ
どちら1つの承認でも良いが、どちらが否決決議を出したら国際組織としての資格は認められない
国際機関になるには組織の透明性が求められる。時空管理局でも過去について徹底的に調べている
不正行為がないかどうか。あらゆる角度から検証している。もし1つでも何かあれば強制捜査を行う

『次元世界連合は時空管理局の予算についても厳しい予算案で対応すると表明しています』

JS事件までは時空管理局は様々な名目で各次元世界国から予算を要求していた
絶対的な態度を示していたことから予算要求を拒むことが難しかった
しかし次元世界連合が立ち上がってからは大きな流れが変わった
時空管理局の予算については次元世界連合に管轄が移った。そのため時空管理局の予算は大幅削減された。
様々なコストカットを行う第一歩として時空管理局員の大量リストラと給与基準の引き下げだ
人件費の削減を大規模に行われて、給与基準では最大50%カットを行った
人件費の削減により時空管理局の予算は大幅縮小することに成功したのだ
各次元世界国の地上警察権限は各次元世界国に返還された。
返還された警察権限だが。各国が創設した警察組織の給与基準は返還前の時空管理局員と比較すると大幅削減された

「お前たち機動六課組はまだ良い方だな。証人保護という形で守られるからな」

もし警護がつけられないと関係者を殺しに回るかもしれない
時空管理局の闇を知っているから。真実が暴露されたら時空管理局の立ち位置は大きく変わる
今その大きく変わる分かれ道にいるのだ。真実を証言されたら時空管理局が崩壊するかもしれない
だからこそ機動六課組は狙われている。時空管理局の闇の部分に関する情報が洩れたら自らの身辺にも影響する
大量リストラされた退役時空管理局員にはそういう考えを持っている者は多いはず
だからこそ時空管理局は『危険物である機動六課組』を一時的とはいえ外すことが必要と考えたのだ
仮に時空管理局に所属している段階で殺されるようなことになれば身内が疑われてしまう
ますます情勢が悪くなるだけなのだからそうなる前にパージする必要があった

「俺たち捜査部捜査官はお荷物を任されて苦労するだけだ。いつも面倒を背負うのは現場の俺たち」

迷惑な話だとラジェットはため息をつきながら話した

『中央本部から各員へ。市内に存在する聖王教会の施設への強制捜査を許可する。強制捜査は迅速に行え』

あとは何が出てくるかが最大の懸念事案だ。
聖王教会の不正に関するものを掘り出すことができたら、かなり面倒なことになる
しかし捜査をしないという選択肢はあり得ない。何としても不正行為は摘発しなければならないのだから

「いよいよパーティーが始まるな。どんな展開になるかはまさに運命の分かれ道だな」

クラナガン市内には数多くの聖王教会関係施設が存在する
医療機関や小中高の学校もあり、すべてを調査するにはかなりの時間が必要だが文句を言っている暇はない
問題がないかどうかを調べなければならない。調べると口では簡単に言えるが実際に行う時には苦労は多い
ラジェットはニュース専門チャンネルでテレビを見ていた。情報収集は重要である

『現在ベルカ州証券取引所では平均株価が10%下落。一方で商品取引所では石油などの先物取引価格は急上昇』

『ベルカ州内に電力供給を行っているベルカパワー社は州内の電力供給には万全の態勢をとっていると』

ベルカパワーは以前は聖王教会が全株式を保有していた。
しかし聖王教会の財政に問題が出たことから証券取引所にすべての株式を売却した
現在の筆頭株主はベルカ州政府になっている

「州政府はもうお手上げだな。ここまで事態がこじれるとはだれも想像していなかっただろう」

『聖王教会本部は教皇のカリム・グラシアが先ほど記者会見を開きました。クーデター騒動には一切関与していないと』

『しかしそれが正しいかどうかについて、不信感を持つ政府機関の政治家は多くいることは事実です』

いくらカリム・グラシアが関与していないと発表しても不信感を完全に追い払うのは難しい
だからこそ次元世界連合は聖王教会に対して警戒している。いつどうなるかわからない。
聖王教会は強制捜査を避けようとしても次元世界連合からの捜査を断るのは危険すぎる

『港湾本部から各員へ。ベルカ州に向かって2機のC-130Jがベルカ基地からベルカ州西部地方に向かっている』

港湾パトロールの無線をラジェットは傍受していた。
もちろん機密情報についてもアクセスできるようになっている
機動六課組がここにいるため、詳細な情報は流されていないがある程度の情報は流れてくる
ラジェット達の命もかかっていることや港湾パトロールとの連携が重要である

「いよいよ攻撃の鐘がなるか。できれば最小限に被害が収まればいいんだが。どうなるか想像したくないな」

状況が悪化する状況の中で何か1つでも好転できることがあれば良いのだが、
それを期待することはかなり難しいと言わざる得ない

「港湾パトロールの実力が試されるところだな。問題はクーデター行為を行った連中が魔力爆弾を持っていなければ良いが」

もし魔力爆弾があれば大きな被害が出てしまう。
魔力爆弾は核兵器と違って放射能汚染などを起こすことはない。
ある意味ではクリーンな大量破壊兵器と言える。もちろん魔力爆弾の研究・製造は国際条約で禁止されている
各次元世界国では魔力爆弾を探知するために人工衛星などを使って常時監視している
ミッドチルダ連邦ではクラナガン捜査局と連邦国防省が監視を行っている
ラジェットは携帯情報端末を使ってベルカ州の状況を確認した
ベルカ州西部地方では無人偵察機が常に監視している。人工衛星からも様々なセンサーを使って見張りをしていた

「何とかなれば良いがな」

今はわずかな可能性に賭けるしかないのが現実である


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南区北部区域ハーディー地区5番街5丁目10番地 地区パトロール事務所

ユラザーク・ギャスシーが立てこもっているワンワールドバンクの支店では少しずつだが混乱を見せつつあった
アルシオーネは状況打開策が今もないことに頭痛を感じていた
このままでは人質の生命にも影響することが想定される

「まったく状況が動かないのは問題ね」

このままの状態が続くと犯人と人質の精神に影響が出てくる
もし錯乱でもされたら大きな影響が出ることは間違いない。人質が殺される可能性も出てくる

「かなり危険な展開になりそう」

銀行強盗がここまで追い詰められているのに抵抗するということは覚悟ができているという事だろう。
だからこそこちらも手の打ちようがないのだ。こちらが強硬手段に踏み切れば自爆するかもしれない
だが何もしないというのも難しい。少しは動くことが求められる
アルシオーネは状況確認をしながらもある報道番組を見ていた

『時空管理局は今年の予算案を次元世界連合に提出しました。昨年に比べて大幅予算カットが行われる数字になりました』

『次元世界連合は先ほどその予算案の審議を行うための準備に入りました』

時空管理局は去年に比べてかなり低い予算になっていた
何度も言うが人件費と物資納入費用の大幅カットに成功したのでかなり予算を圧縮できたのだ
時空管理局の予算は次元世界連合安全保障理事会と次元世界連合総会で審議されることになっている
2つの会議で審議されて問題なければ時空管理局の予算としてようやく承認される
大幅な時空管理局予算の削減に繋げることができるのだ

「時空管理局の動きを監視するしかないわね。もし少しでも危険な流れを感じたら次元世界連合に通達をしないと」

退役時空管理局員の結末はかなり悲惨である
生活をするための資金を受け取ることができないから何でもしようとする

『退役時空管理局は声明を発表。退役時空管理局員への年金支給に関しては厳しい情勢であると表明しました』

退役時空管理局は名前の通り、退役時空管理局員に関する情報収集を行う部局だ
厚生年金を運用している次元医療厚生局だが。あそこも大きな問題を抱えている
時空管理局債での時空管理局員が退役後に受け取るはずだった厚生年金資金の運用に失敗した影響は大きい
だからこそ今は大きなピンチに追い詰められている

『退役時空管理局員に支給されるはずだった厚生年金の受取額が削減されたことに退役局員から多くの苦情が』

当然である。年金を受け取ることができないとなると退役後の生活が成り立たなくなっている
だからこそ大きな問題を抱えることになっている。
年金だけでは生活ができないこともあり、アルバイトをする退役時空管理局員は次元世界連合全加盟国で存在している
ミッドチルダ連邦は好景気であることから、比較的容易にアルバイトなどの再就職ができる
しかし一部の次元世界国では景気が悪いところがあることから再就職が難しいところもある
また退役時空管理局員というだけで再就職をしたくても断ることも増加している
リスクを回避を行うためである。再就職として受け入れした企業から機密情報が漏れたら大変だからだ
そういうことを考慮に入れると再就職を拒む企業は存在することは事実である

「退役時空管理局員も大変ね。再就職をしたくてもできないなんて」

ミッドチルダ連邦の景気は好景気なのに再就職が難しいのはかなり嫌な話だ
ちなみに差別行為を行うことは機密情報を扱わないのであれば、そのようなことは国際条約で認められていない
差別行為を行ったら裁判で負ける確率はかなり高い
仮に再就職ができたとしてもかなり厳しい肉体労働に割り振られる
管理職に就くことはまずないだろう。だからこそ大変なのである
再就職したくてもできないというはざまに揺れている

「立てこもりをしているユラザーク・ギャスシーもかなり追い詰められているからどうなるか想像もできないわ」

今後の展開は想定することはできない。
今は通信妨害などを行っているので魔導師の力を行使しても通信はできない
ただ、世の中には完ぺきという言葉はない。必ずどこかに穴はあるのだから
その穴を早期に見つけて素早く漏れを止めないといけない

『中央本部からSA33。現在の状況報告を』

「膠着状態が継続中。いつ何がわからないため行動制限が出ている」

行動制限。それは少しでも不審な行動を見せると何が起きるかわからないことを示している
これは警告である。被害を最小限にしなければならないから突入の準備は少しずつ始めている
実際に強行突入するにはタイミングを完全に読まないといけない
厳しい判断をアルシオーネはしなければならない

『警戒態勢を維持しつつ、慎重な行動選択を行え。危険の流れを感じたらすぐに報告をするように』

つまり現場状況をすべて報告することを求めているのだ
危険な流れが始まったら即時動けるように態勢作りは行うことを容認していることを示している
警戒態勢を維持するということはそういう事を示している

「立てこもりも犯人と人質の精神状況に影響が出るから早期解決したいけど」

緊迫した状況が長時間にわたって続くと精神状況に混乱が出る可能性は高い
だからこそ早期解決が求められる。マスコミによる報道が続くことも好ましいことではない
こちらの手の内が漏れてしまうから。他の退役時空管理局員と連携されては迷惑な展開になる
今のところ、立てこもり犯がいるワンワールドの支店の内部から外部への通信はすべて傍受している
少しでも妙な通信が行われたら、速やかに強行突入に踏み切るしかない
突入の準備はすでに大筋でできているが、あとはいつどのようなタイミングで行うか
これが最も難しいことである。ベルカ州でのクーデター騒動で情勢はかなり難しい。
それは法執行機関の関係者のだれもが理解している。次元世界連合にまで影響が出ているのだ
穏やかに解決することはあり得ないだろう。
立てこもりをしているユラザーク・ギャスシーにもいくつかの疑惑があるという情報は入っていた
ただ、疑惑というだけの段階で確定したものではない。時空管理局の予算要求時に過剰な要求を行った
そのような疑惑があるため、時空管理局犯罪捜査局が捜査を行っていたのだ
時空管理局犯罪捜査局からはできれば生かして身柄確保を求められていた
何度も言うがこの状況でそれを達成するのはかなりの困難が想定される
身柄確保どころか人質の安全も保障できないとなると簡単に解決することはない

『中央本部からSA33。立てこもり現場であるワンワールドバンクの支店内での状況変化があれば警戒を』

もうこの無線連絡は聞き飽きたが中央本部も指揮命令系統の統括に忙しいのだろう
時間があまりにもかかりすぎていることを懸念しているのだ。犯人と人質の精神的な問題がある
いつかは耐えきれなくなるのだから早くけりをつけないといけない。
だが生かして身柄を確保するのは簡単ではない。銀行の窓は防弾仕様だ
拳銃では意味がない。対物ライフルを使っても即時制圧は難しい
状況変化を期待するのはかなり困難である。

「まったく、今日1日で立てこもり事案が何件も発生するなんて迷惑な話」

アルシオーネはこれ以上問題が起きないことを願っていた。
立てこもり事案の解決は難しいのだ。何もかも考えずに自爆行為をするかもしれない
死なれてしまうと真相を調べることができなくなる。今はこの状況を何とか乗り切る道を選択しないと

「自爆だけはしないでほしいわね」


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中央区南部区域サウスサーストン地区5番街付近 クラナガンシティバンク サーストン支店 現場指揮拠点

シエナは4人の立てこもり犯の情報を見ていた。
交渉のテーブルにつかせる材料があれば良いと思っていた
現場にいる中央パトロールのパトロール捜査官や刑事たちは早く解決するために動きたいと
誰もが同じようなことを考えていた。しかし現実は厳しい状況にあるのだ
他の法執行機関や次元世界連合などの国際機関からもかなりの注文が入っている
犯人は殺すことなく生かして確保するようにと。
射殺をするなら少しは手間がかかるが生かして確保よりは楽である

「横やりが入ると面倒ね」

『中央本部から各員へ。機動六課組の移送作業は順調であるが障害になるトラブルが予見される』

中央本部は小さな異変であっても不審なことを見つけたら、
即時報告するようにと中央パトロールの全職員に連絡した。
ラジェットが同行している機動六課組にどんな攻撃がされるかはわからない
もしもの場合に備えて警戒しないといけない。

「ラジェットも面倒をつかまされて大変ね。機動六課組が狙われることは当然だから。護衛役をするのは大変ね」

捜査部捜査官のだれもがラジェットの今の状況を把握しているため苦労していることはわかっている
もしけが人を出すようなことになれば彼の評判に影響が出てくる
ラジェットの実力が試される時だ。もっとも、彼が有能な捜査官であることは誰もがわかっている
判断能力は部隊指揮命令についても評判は極めて高い。ゆえに信頼度も極めて高い

「こちらは動きがないから大変ね。それにしても連邦行政機関が介入してくるとは」

突入の準備はすでにほぼ完了している。しかし先ほどの強行突入の一時停止指令に従うしかない。
連邦行政機関の指示を無視するわけにはいかないのだから
今はここを乗り切るしかない。連邦行政機関が介入してくると指揮命令系統が少し複雑になる
それらの影響を最小限にすることが最も重要であり、連絡を密に取り合う必要がある
お互い息を合わせて行動しなければならない

「SA24から中央本部。現在待機中であり指示を求む」

『こちら中央本部。引き続き待機の状態を維持せよ。現在、連邦行政機関と調整中』

調整中ということはそれなりの時間が必要であることだ
ますます現場は苦労する立場に追い込まれる。
立てこもり犯や人質のことを考えるとさっさと決着をつけたい

「時間がないことを考慮して突入部隊の配置作業に入ることを求めます」

シエナは許可が出た瞬間に一斉に踏み込めるように準備をしようと考えた。
許可が出たら速やかに突入して制圧する。それが必要であるということを計算してだ

『それについては承認するが先走った行動は控えるように』

準備を行えることは良いことだ。突入許可が下りたらすぐに一斉に動く
相手にスキを与えないことが重要である。
立てこもり犯が何を仕掛けてくるかわからない以上、準備は入念に行わないといけない
4人の立てこもり犯の狙いは借金を白紙にしろということはわかっている
それだけ追い詰められていることは確かである。おそらくまともな金融機関以外からも金を借りているのだろう
そうでなければここまでリスクのある行動を起こすとは思えない

「立てこもり犯が降伏する道は選ばないわね。そんなことをしたらいつかは殺されるかもしれない」

マフィアや反政府組織から金を借りていたらそんな組織はどんな手段を使っても融資をしていた金を回収するはず
命を引き換えにしてでもすることは明らかだ。もしそんなことがないならただ自己破産をすればいいだけの話だ
それを選ばず犯罪に走るということは後ろ暗いところから金を借りていることは十分考えられる

「自業自得とはいえ何の罪もない人たちを巻き込まないでほしいわね」


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北区南部区域イーストカタラウガス地区2番街3丁目13番地401号室

カリーが殺人現場に到着した。ラテックスの手袋を着用すると室内を調べた
死亡したアラスード・べリウスは金銭関係でトラブルを抱えていることはわかっている。
遺体はベッドルームにあった。殺されている態勢を見てカリーは少し不審に思った。
ベッドで横になりながら殺されている。自殺するには少し奇妙な体の位置である
ただ彼には6億ミッドも破綻したワンワールドバンクから融資を受けていた。
死亡することで得る利益は生命保険で保険金は1億ミッドしか受け取れない
残りの5億ミッドをどうするつもりだったのか。そのあたりについても入念に調べる必要がある

「自殺か他殺かは今の段階では不明だけど硝煙反応を確認したらわかるかもしれないわね」

殺されたアラスード・べリウスは手にリボルバーを持っていた。
側頭部に穴が開いている。自殺の可能性は濃厚だが念のため検死で確かめないといけない
カリーは被害者の手を綿棒で触れさせて硝煙反応を調べた
自殺なら硝煙反応が出るはずだ。だが結果は思いもよらないものだった
銃を持っている手に硝煙反応はついていない。自殺ではないというのが濃厚だ
もちろんラボで様々な分析をしなければならないが。銃弾で死んだのに硝煙反応が手から出ない
彼が使ったと思われる銃はS&W M10である。装弾数は6発。

「硝煙反応なしか。殺しの可能性が濃厚ね。ただし東部に埋まっている銃弾の線条痕を照合してみないと」

それは北分署のラボで行うしかない。検死ラボで頭部にある銃弾を摘出してもらって照合する
線条痕を照合してどんな記録が出てくるかで今後の対応方法が変わってくる。
仮に過去にも別の事件で使用されていたら、その事件についても調べなければならない
銃の流れを調べることでいろいろと分かることもある。

「カリー!調子はどうだ?」

声をかけてきたのは北分署刑事課のデイル・スプリングだ
彼は港湾パトロール海兵隊で現在は予備役に移行している。
海兵隊にいた頃は特殊部隊に所属していた。戦闘のプロフェッショナルだ

「殺しの可能性は高いけど、ラボで詳細に調べないと正式な判定はできないわ」

「銃弾は大きな証拠だ。線条痕で何かわかるだろう」

デイルの捜査能力はかなり高い。北分署刑事課の刑事の中でも優秀と評される
アラスード・べリウスは時空管理局勤務時代にはいくつかのトラブルを引き起こしていた
最も大きなトラブルは物資納入業者とかなり親密な関係があったことだ。
つまり業者から金を受け取っていたという疑惑があった。
しかしその物資納入業者はワンワールドグループ企業が破綻すると連鎖破綻した
元々その企業はワンワールドカンパニーと密接な関係があったからだ
時空管理局犯罪捜査局が捜査をしているが倒産した企業の社長はすでに足取りがわかっていない。
どうやら逃走した後だった。現在は次元世界連合の全加盟国で指名手配を食らっている
見つかり次第、即時身柄拘束を行い時空管理局犯罪捜査局に引き渡すようにと

「裏が深いかもしれないわね。捜査はかなり難しい展開になるかもしれないけど」

他次元世界国の法執行機関との連携が必要となるとなおさらだ
今、最も重要な証拠である遺体は検死ラボで検死官に解剖してもらわないと話が前に進まない

「検死官はまだ時間がかかるの?」

デイルは北分署のフォン・タイアンス検死官がこちらに向かっているとカリーに伝えた
遺体を検死してもらわないと何も始まらない。

「死因ははっきりしているとは思うけど、プロに調べてもらわないと」

頭部に穴が開いているのだ。原因はほぼ正解かもしれないが、それを決めるのは検死官が調べてからだ
もしかしたら死後に何者かに銃弾を撃ち込まれたのかもしれない。あらゆる角度から調べるのが鉄則。
ちなみに捜査部捜査官はクラナガン捜査局の前身組織であるクラナガン捜査部の頃に分析官の資格を習得
そのためある程度は分析官としてほぼ同じ力量を持っている。
今は各分署のラボがあり、それぞれに専任の分析官がいる。
彼らに証拠品の分析を依頼するのは当然のことである。

「検死官の判定を待つまでは殺しとみて調べましょう」

カリーは室内を徹底的に調べることにした。何か現場に不釣り合いな物がないかどうか
これも捜査マニュアルにある基本である

「それにしても、かなり多くの写真があるわね」

部屋のあちらこちらに時空管理局に在籍したころと思われる写真が飾られていた
退役時の階級は少将だった。退職金はかなりもらっていたが資産運用で大失敗した
失った金を取り戻そうと必死なのだ。彼にも生活がある。
その生活に必要なお金は資産運用でほとんど失った。
借金が返済できなくて追い込まれた結果、最後の選択をしたということが考えられる
しかしこれはあくまでも推論に過ぎない。
借金していたことは事実だが、危険なところから借り入れをしていたことは正確な情報かどうかはわからない
それを確認することは最も重要である。内容によっていろいろと状況が変わってくるのだから

『ミーミルパワー社はクラナガン市内にある魔力精製炉発電所の発電設備に問題が出るのではと警告』

『クラナガン市外から電力調達を行うことを検討に入っていると公表しました』

クラナガン市内には魔力精製炉発電所が4か所設置されている。
1つの発電所は最大で6000万KWも発電できる重要電源だ
魔力精製炉発電所は惑星汚染排出がほとんどないクリーンな発電所である
しかしAMF装置が開発されたことによって魔力精製炉発電に頼ることは危険で分散型電源作りをしている
今は火力発電所が少しずつ増加している。水力発電所は国内にかなりの多くの水力発電所がある
火力発電所は惑星汚染物質除去装置によって温暖化物質などを排出することはほとんどない
また発電所は基本的に州内で消費される電力は同じ州内で発電することになっている
州外から電力供給を受けているときは危険であることを示している

『クラナガン市内にある魔力精製炉発電所の一部でトラブルが出ていることはわかっています』

『関係者からはほかの発電所にも影響が出ることは十分考えられるとしてバックアップ体制づくりに入っています』

『一方でクラナガン捜査局は魔力精製炉発電所に対する発電妨害をテロ行為と判断すると』

「当然ね。発電の妨害をするということは市内のエネルギー供給の安全保障にもかかわるし」

ミッドチルダ連邦の首都で停電騒動が起きれが大問題だ
それを阻止するためにはいろいろと準備をしておくことが重要である

『連邦準備銀行は政策金利を6.5%に引き上げることを審議していると公表しました』

現在の政策金利は6%となっている。さらに政策金利を0.5%も引き上げることを議論していた
今日だけで何回目の政策金利引き上げになることだか。
もし政策金利の引き上げが行われたら通貨ミッドにさらなる買いが入ってくる
ミッド高が続くことは良い面もあれば悪い面も存在する。難しい判断が必要になるかもしれない
難しいところである。景気が良すぎると政策金利を引き上げて金融引き締めを行う必要がある

『次元世界連合が認証した銃やミサイルなどの軍事兵器開発製造企業の株価は高値で推移しています』

『10社の株価は急激な上昇を示しています。一方で質量兵器監視機構は新たに5社から申請があったことを公表』

現在、兵器の製造と売買を承認するべきか審議を行っているとのことだった。今後の流れで大きく変わってくる。
銃やミサイルなどの質量兵器の製造販売などは質量兵器監視機構の承認がなければ国際条約違反。
質量兵器監視機構の承認を得るには極めて厳しい審査が待っている
兵器の密造・密売などに関わっていないかどうか、様々な角度から検証が必要になる
そのため兵器開発にはかなり厳しい審査を受けることが義務付けられ、抜き打ち監査も行われている
少しでもトラブルがあれば製造研究の資格を失うことになる。それだけ兵器製造には厳しいルールが課せられている

「停電にならないと良いけど」

魔力精製炉発電所で発電される電力はクラナガン市内の電力供給でかなり大きな数字になる
1か所だけならまだ問題は最小限で済むが複数の魔力精製炉発電所が停止すると大問題に。
市内全域で停電。つまりブラックアウトになるかもしれない
1度でもブラックアウトになると再起動するにはかなりの時間が必要になってくる
そういうことは許されないので電力会社は安定供給が求められる
ブラックアウトになれば様々な事件や事故が発生する可能性が高まる
現実に発生するとクラナガン捜査局などの法執行機関の仕事は大幅に増加する
対応するのに時間がかなり必要になることは確実で、すべての事案に対応するのは難しくなる

「まぁ、今はこの事件の捜査に集中しましょう。北分署のラボで証拠の分析を行わないと」

そこからが本格的な捜査が始まるのだ


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部オペレーションルーム

『市内では目立った停電などの情報は確認されていません』

シエルはそこで市内の安全保障上の脅威になるかもしれない情報の収集と分析を行っている。
今は1つでも脅威が発生することを止めることが重要だ。騒動が発生すると市民は混乱するかもしれない
そうなることを押さえることが最も求められるところである

「ギブリ、ベルカ州とクラナガン市内の電力供給に問題がないか調べあげて」

ベルカ州西部地方ではクーデターの影響で電力供給に影響が少しずつ出てきている
反乱を起こした過激派の連中が電力供給を止めることで脅しの材料としているのだろう
ベルカ州西部地方には石炭などの化石燃料とするウエストベルカ火力発電所が1つ
ウエストベルカ魔力精製炉発電所が1つある。ウエストベルカ火力発電所の最大出力は4000万KW
ウエストベルカ魔力精製炉発電所の最大出力は6000万KW。2つの発電所を合わせると1億KWになる
ベルカ州内にとっては重要な電源である。少しでも発電できなくなるような状況になると素早い対応が必要に
まずは2つの発電所と送電網の接続をカットする。急激な電力供給の変化に対応するために重要な作業だ
さらに代わりになりうる発電所から電力供給を行うことでブラックアウトを避ける

「クラナガン市内でも影響が出ることが想定される。だがこちらの装備とは接続されていない。業務には影響はない」

ギブリの報告にシエルは少しほっとした。
もしこちらのシステムに影響が出ると安全保障上の脅威になる
首都の治安を守るクラナガン捜査局が機能しなくなることは許されない
その時、あるニュース速報が入ってきた。クラナガン市長であるサンディ・マウントが記者発表を行っていた

『クラナガン市政府は市内に存在する聖王教会施設に対する強制捜査に必要な手続きを迅速に行う』

『また近隣州政府と連携することでミッドチルダ連邦の首都の市政府として安全保障に最大限取り組む』

クラナガン市長がそのようなことを表明することは市民が安心して過ごせるように
それが市長としての当然の責務である。混乱が起きたらどうなるか想像できない
今は市民には安心してもらうことを願うしかない。
マスコミの報道によってパニックを起こすことを止めなければならない

「市長は大変ね」

市長がベルカ州で起きていることを避ける方法を考えていることはシエルはわかっている
市民を守ることが市長の職務と責務があるのだから当然である

「ギブリ。市内に不審なことがあることを考慮して情報収集を行って」

シエルはそういうと捜査部オペレーションルームを退室した
ギブリはその指示に従ってあらゆる情報収集を再開。

「ベルカ州で戦闘が間もなく始まるか。クーデターを起こした連中はかなり厳しい立場になるだろうな」

おまけに聖王教会騎士団の過激派がその中核を担っていることはわかっている
聖王教会に対する強制捜査も同時に行われる。国際機関として今のところは聖王教会は認定されている
反発したら国際機関としての立ち位置を失ってしまう。
クーデターに聖王教会が絡んでいることが確認されたら良いことはない
むしろ不名誉の『経歴』が付くことになってしまう

『クラナガン市内の安全保障の観点からクラナガン捜査局に聖王教会の関係施設の警戒を要請しました』

『次元世界連合安全保障理事会が決議した聖王教会施設への強制捜査のために最大限の動きを行う予定です』

クラナガン市政府も対応に追われているのだ。それは連邦行政機関も同じである
連邦国防省はベルカ州に連邦軍を派兵している。港湾パトロールと連携を密にしながら共同作戦で実行していた

『連邦国防省もベルカ州に連邦海兵隊を派兵すると公表。ベルカ州政府は州内の治安維持に最大限の協力要請を』

どこも急いで行動している。時間的な余裕を与えないことが最も重要なことである
隙を見せると実力行使を相手が行うことは容易にわかる。だからこそ急ぐ必要があるのだ

『SA25から中央本部。ノースウエストクラナガン貨物ターミナルでの貨物チェックを継続したいが人員不足』

サイノス・プロナード捜査官はさらなる人員手配を要請してきた。
それは当然である。貨物ターミナルには膨大なコンテナがあるのだ
全ての確認作業を行うには人員と時間が必要だ。だが時間もなければ人員も不足している
状況把握に時間がかかることはサイノスは十分にわかっていた
急がなければならない。もし違法な物が市外に流れるようなことになれば武器拡散につながる
武器だけでなく麻薬なども拡散することになってしまう。

「ここですべて違法な物を押収しないと俺たちの捜査が間抜けなものだと立証するようなものだな」

ギブリの言う通りだ。市外に持ち出される前にすべて押収しなければ犯罪組織の資金が増えることになるだけ
犯罪組織が自由に使えるお金が増えると犯罪の発生確率が上昇する
ひどくなる前に抑え込むのがクラナガン捜査局や多くの法執行機関の重要な任務だ
次元世界連合の聖王教会調査委員会は、教会が過去に不正行為をしていなかったかを常に調査している
今は安全保障理事会で強制捜査の実行を全加盟国に認めている
すでに多くの次元世界国政府の法執行機関が聖王教会関係施設の強制捜査を実行している

『聖王教会の報道官は先ほど聖王教会本部で記者発表を行いました』

『報道官は次元世界国の法執行機関の強制捜査には最大限の協力を行うと』

安全保障理事会で承認した強制捜査を拒否したら後ろ暗いことがあるかもしれないと思われてしまう
ここは素直に強制捜査に協力しておくことが正解である。

「クラナガン市内にも数多くの聖王教会関係施設はかなりある。全て調べるのはかなり時間がかかるだろうな」

膨大な貨物コンテナを全て調べることは不可能だ。ある程度選別をして不審な貨物を中心に調べるしかない
多くの人員が必要な作業は難しいことは誰もが理解している。不可能を可能にするしかないのだ
ため息をつきながらも調べごとを続けていたが港湾パトロールの通信を傍受した
通信は港湾パトロール本部からベルカ基地に向けてのものである

『港湾本部からベルカ基地へ。ベルカ州西部地方に連邦海兵隊と共同作戦のために部隊を動かす』

港湾パトロール海兵隊がベルカ州基地から西部地方のクーデター騒動が起きている戦場に向かう
いよいよ戦闘が始まることになる。今後の展開がどうなるか。
それはすべて決着がつかない限り終わらないだろう

「連邦海兵隊も動き出したらもう止める者はいないな。ベルカ州で内戦が展開されるか。どういう結果になるのだろうな」

ギブリはレーダー情報を確認した。
ベルカ州の北側と西側から連邦軍の輸送機がベルカ州西部地方に向かっていた
港湾パトロールの輸送機もベルカ基地から発進して西部地方に向かっていた
港湾パトロールと連邦軍の共同作戦が開始される。

『クラナガン捜査局はクラナガン市内にある聖王教会関連施設の強制査察に踏み切ることを公表』

『またテロ警戒レベルをオレンジに変更すると』

テロ警戒レベルとは名前の通り、
クラナガン捜査局の管轄区域でテロ行為が行われるかどうかを示している指標だ
オレンジということはテロ発生の可能性が高いということになる
同時に防衛警告指標であるデフコンレベルをデフコン2に変更すると発表した
デフコン2は最高度に準じる防衛準備状態。保有する全艦船・航空機に対して出動準備態勢に入る
もう戦闘を行うことを示している。最高レベルのデフコン1が発令されると戦争行為が発生した時に公表される

『連邦財務省は5年後に償還されるミッドチルダ国債の発行を行うべきか審議に入ると』

ミッドチルダ連邦国内の通貨供給量を一時的でも減らすために国債を発行することで対応しようというのだ
国債を発行するということは借金を作ることになる。
今のミッドチルダ連邦政府の財政は黒字なので国債の発行の必要性はないに等しい
それでも国内の通貨供給量を減らすためには効果があるかもしれないと見込んでいる
借金をする必要がまったくないのにそれをすることは異常なことである

『発行する場合の上限は5000兆ミッドとしています。ただ、経済アナリストからはその規模では意味がないと』

バブル経済にならないようにするつもりなのだろうが。今の国内の経済はかなりの好景気だ
多くの州証券取引所での株価は好調だ。連邦政府が行う引き締め政策に効果が出るには時間が必要だ
また本当に金融引き締めの効果が出るかはやってみないことにはわからない

「連邦財務省は必死だな。このままの好景気が続くと危険な方向に向かうかもと詳しい者はわかっているな」

バブル経済になる前にストップをさせないといけない。
多少強引な方法を使ってでもそうするつもりなのだ

『港湾本部からベルカ基地へ。クーデター関係者は可能な限り生かして確保せよ。ただし危険であれば防衛を認める』

防衛を認める。それは戦闘で殺すことを認めるということだ。
確かに生かして身柄を確保できれば最高かもしれない。現実的に考えると甘いが
彼らが簡単に降伏するはずがない。死ぬ気でこちらに対して攻撃をするだろう
それを止めることが仕事である。戦死者を出すのは仕方がない


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クラナガン自然保護区 中央区域 クラナガン自然保護センター庁舎 4階取調室

エイミーはグレイ・キョラースの事情聴取を再開していた

「あなたが行った行為に関することを何もしゃべらないつもりならこちらも考えがあるわ」

彼女は強気で取り調べを行っていた。密猟行為を行ったことははっきりしている
銃の違法所持に密猟行為。あと1つで三振法で仮釈放なしの終身刑か死刑だ
裁判の結果次第では死刑判決が待っているのに何も証言しない。
状況が悪いことを分かっていないにもバカと言える。ここまでこじれたらもう一生檻の中。

「喋れば取引をしても良いわ。内容次第では三振法は外せるかもしれない」

「・・・・・・・・・・・・」

「証言しないなら覚悟しなさい」

エイミーは何度も追及するが効果はまるでなし。完全黙秘だ
刑務所に逃げてしまえばいいと考えているのかもしれない。数億ミッドの借金があるのだ
おそらく非合法なところからも借り入れをしていることが疑うことができる
もしそれが事実なら刑務所で一生過ごした方が殺されることはない
死刑判決を受けたら話は別になるはずなのだが。
金を借りている犯罪組織に捕まったら拷問を受けることは容易に想像できる
拷問を受けるくらいなら逃げる道である刑務所の方がまだ良いと考えているのだろう

「あなたは死刑になる重罪を侵しているのよ。覚悟はできているの?」

徹底的に追及するが奴は喋ることはない。それと口を開くような様子もない
いったい何を恐れているのか知りたいところだ。

「あなたにとって選択肢は2つ。すべて自供して刑務所に行く。もしかしたら執行猶予になるかも」

でも何も証言しないなら過去をすべて掘り出して真相を暴かれるとエイミーは伝えた
何か隠しているようなことが1つでも見つかったら、さらに掘り下げて裁判にかけられる
仮釈放なしの終身刑か死刑のどちらかになると。外にいるより刑務所を選ぶのは珍しい

「・・・・・・・・・・・・・・」

エイミーはもう1度、取調室から退室した
今の状況では何も証言してこない。追い詰めるために三振法についても説明してもだ
つまりそれだけ街にいるよりも刑務所か死んだ方が良いと考えている
最後の決断ができている。死刑になる覚悟もある。

「カール。何もしゃべるつもりはないみたいよ」

「ああ。どうやら覚悟はできているらしい。死ぬ道を選ぶ方が良いと。拘置所に移送するか?」

エイミーはカール・カッソンヌ刑事と話し合いをした
2人はもう取り調べでは何も証言しないなら裁判が行われるまでの時間は市内の拘置所に収監させるかと話をした

「ここまで押してもダメとなると拘置所に移送するしかないわね」

完全黙秘を貫くなら仕方がない。銃の不法所持と密猟行為で逮捕して裁判にかけることになる
この時点で2ストライク。あと1つで三振法が適用される。
今後については検事局の腕の見せ所になる

「とにかく拘置所に移送して。警護はしっかりつけて。強襲される恐れがあるから」

エイミーはそういうと中央本部に戻ることにした
あとは分署に任せた。


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南区北部区域ハーディー地区5番街5丁目10番地 地区パトロール事務所

ステラとマイアはトレーク・エミズに関する情報を再確認していた
時空管理局犯罪捜査局には連絡をしている。今こちらに向かって捜査官が向かっているとのことだ
時空管理局在籍時代に不正に関与しているなら彼らにも捜査権はある

「それにしても退役時空管理局員関係のトラブルが多すぎるわね」

ちなみにステラはクラナガン捜査局に入局する前は時空管理局本局戦技教導官をしていた
ステラの弟が快楽殺人者に襲われたが中央パトロールに犯人は確保された
弟も大きな傷を負うことはなかった。その出来事で時空管理局に見切りをつけた
なのは・高町とは戦技教導官時代に何度も会っていた。ステラは時空管理局のことを少し恨んでいた
『真実』を知ったことで余計に。捜査部捜査官としての捜査能力は極めて高い
現在は時空管理局在籍時代に目にした不正行為の摘発を数多くしてきた

「主ステラ。またしても時空管理局の黒い事案に出会いましたね」

マイアはリィンフォースツヴァイと同じでユニソンデバイス。
マイアは捜査官補佐であるが時には個人的プレーで捜査を行うケースも存在している
ステラの名前で捜査を行った場合にすぐに見破られるためである
マイアの名前を利用して陰でこっそりと捜査を行ったことは珍しいことではない

「まぁ、最近ではこういう事案はかなり増えているから仕方がないけど。私は時空管理局をやめて正解だったわね」

ステラは自らが時空管理局に見切りをつけたことは最適な判断であったことを分かっている
次元世界連合の全加盟国では過去に時空管理局関係で不正がなかったかの調査や監査が行われている
件数がかなり多いためすべて調査するには数年の時間が必要だと言われている

「それにしても時空管理局犯罪捜査局の捜査官は早く来てほしいわね」

いつまでものんびりと待っているわけにはいかないのだから

『ピーピーピー』

ステラの携帯電話に着信が入ってきた。
相手は時空管理局犯罪捜査局の捜査官であるリドカイ・ヘランスからだ

「リドカイ。あとどれくらい時間がかかるの?」

『もう少しで到着する。こちらで逮捕状は用意した』

簡単に言えば身柄引き渡しをしろということだ。こちらの手を離れることを意味している。
ステラは声には出さないが面倒なことに巻き込まれることをすぐに察した
時空管理局犯罪捜査局が身柄引き渡しを求めるということはかなりの大物であることを示している
通常の手順なら共同捜査になるはずだからだ。共同捜査ではなく容疑者の引き渡しを求める
こういった場合は背後に大きな陰謀があることが想定される

「相変わらず、強引ね。それとも何か私たちに手土産でもあるのかしら?」

『良いものを用意した。武器密造組織ベリアルに関する情報だ』

ベリアルはミッドチルダ連邦国内で3割のシェアを持つ武器密造組織だ
ミッドチルダだけでなく他次元世界でも活動する犯罪組織である

「それは嬉しいお土産になりそうね。シエル首席がその情報の内容次第で取引に応じるかもしれないわ」

『絶対に良い取引になる。ベリアルの拠点のリストを用意した。クラナガン捜査局の管轄内に10か所以上』

クラナガン市内にも数か所あることを確認したとのことだった。
それは土産話としては良い内容だ
ステラは期待して待っているわと返答して通話を終えた時、特別な無線連絡が入ってきた

『クラナガン市内にあるノースクラナガン魔力精製炉発電所の出力が完全に0になりました』

ついに0になってしまった。ただしまだ市内には3か所の魔力精製炉発電所がある。
これらの3か所の発電出力の合計は1億8000万KWにもなる

『クラナガン商品取引所ではクラナガン原油先物価格が1バレル7600ミッドに。経済アナリストはさらに上昇すると』

『ノースクラナガン魔力精製炉発電所を運営しているミーミルパワー社はほかの発電所を運用するので停電しないと』

ミーミルパワー社は多くの次元世界国で電力発電所や送電網を保有するグローバル企業である
ミッドチルダ連邦国内でも多くの州で発電・送電・配電事業を行っている

『ミーミルパワー社を含むミーミルグループは証券取引所に非上場企業であるため証券取引所に影響は少ない』

次元世界連合の全加盟国で活動しているグローバル企業であるミーミルグループ企業は非上場企業である。
非上場企業ということもあり内情はあまり知られていない。

『ただし商品取引所の原油先物価格に影響が出ることは確実です』

マスコミの報道は当たっている。
魔力精製炉発電所が停止するということは他の火力発電所などを使って調整しなければならない
そうなると原油価格などのエネルギー資源価格に影響が大きく出てくる

『ミーミルパワー社は緊急記者会見を行い、クラナガン市内と近隣州に対する電力供給に影響はないと発表』

もし停電が発生したら影響はかなりの規模になってしまう。
仮に発生したとしても影響は最小限にしなければならない。
クラナガン捜査局のあらゆるシステムには停電してもバッテリーで数日は運用できるように設計されている
法執行機関と軍事組織の運用は停電になっても影響が最小限になるようになっている

『サーストンペトロリアムとドッジエネルギーの株価は前日に比べて2倍に上昇』

2つの企業はグローバルで活動しているエネルギー企業だ。
サーストンペトロリアム社は第2位のエネルギー社。ドッジエネルギー社は第3位のエネルギー社となっている
2つの企業は発電事業を行っている。クラナガン市内と近隣州に送電網は持っていない
しかし火力発電所や魔力精製炉発電所を市内や市外に保有している。
電力供給契約をする時、需要者は電力会社を利用者は好きに選択することができる。
各州の州商品取引所で売買されて、それらで決まった電力価格は指標となっている
今までは魔力精製炉発電という極めて安定的で安価な電力供給が行われていた
しかしAMFの開発によって魔力精製炉発電にすべてを託すのは危険であることから、
商品取引所で変動する電力の取引価格は大きな変動することが増加している
また電力価格の上昇なども多くの州や次元世界連合のほぼすべて次元世界国で発生している
だからこそ各次元世界国では火力発電所や水力発電所などの電源分散化が行われている
魔力精製炉発電だけに頼るのではない新しい発電所の建設ラッシュが行われている
それによりその発電所で使われる石油や天然ガスや石炭などの化石燃料。
また自然エネルギーである水力や風力や太陽光。そのほかには地熱発電などの開発も活発に行われている
新しい送電網の構築も行われている。まさに開発ラッシュが続いているのだ
そのため多くの次元世界国での景気は好景気である。だが急激な好景気はバブル経済になる事が想定される。
だからこそ各次元世界国政府はバブル経済にならないように金融引き締め政策を行っている
各次元世界国では利上げや通貨供給量を削減するためにあらゆる手法で対応している

『ミッドチルダ連邦準備銀行は政策金利を7%に大幅引き上げの検討に入ることもあり得るとすると公表』

『バブル経済になる前に急激な好景気を抑えるためにあらゆる手法を行うと』

中央銀行であるミッドチルダ連邦準備銀行ができる政策は多くはないが運用次第には大きな流れが変わる
政策金利の引き上げだけでなく、あらゆる手段を使って国内の金融引き締めのために他にも金融政策が重要。

「長期金利がさらに引き上げられたら住宅ローンの金利向上につながるわね」

ステラは政策金利が今後も緊急的に引き上げられることは間違いないだろう
経済を平穏にするための用意は少しずつ準備している
ただの好景気なら良いがバブル経済になることは止めなければならない

「この状態が継続すると国内経済が嫌な状況になるかも。退役時空管理局員は今の生活すら困窮している状態だから」

退役時空管理局員が生活苦になってしまえば手段でも言いから生活費の確保のために必死である
ミッドチルダ連邦国内だけでもかなりの退役時空管理局員が生活保護制度を受給している
同じようなことは次元世界連合全加盟国で起きている出来事だ。
犯罪を実行してでも生活費を稼ごうとすることは多くの法執行機関は理解している
おまけに退役時空管理局員の中には時空管理局に在籍していたころに犯罪行為に関与した者も存在する
そういった疑惑がある人物の捜査は時空管理局犯罪捜査局だけでなく多くの法執行機関が捜査を行っている
ただあまりにも捜査対象事案があまりにも多すぎる。
すべての疑惑を捜査するには何年も時間が必要になるとされている

「時空管理局でトラブルがある現役時空管理局員と退役時空管理局員の疑惑事案を捜査するのは苦労ね」

時空管理局犯罪捜査局とクラナガン捜査局は常に連携して対応している
退役時空管理局員が時空管理局在籍時代に不審なことに関与していたことは周知の事実である
次元世界連合全加盟国で時空管理局や退役時空管理局員が関与したと思われる不正行為は何万件にもなる
正確な数字を出すにはかなりの時間と労力が必要にされていると知られている

「それにしても時空管理局の闇が次々と白日にさらされて苦労しているわね」

ステラは私は早く時空管理局を除隊して正解だったと感じていた
今後、時空管理局の闇の部分に少しずつ操作という名の光が当てられる
多くの関係者があらゆる角度から捜査されることは彼女はよく理解していた

『退役時空管理局員が不正行為に関与したかを考慮に入れて時空管理局犯罪捜査局が捜査を行われるでしょう』

ステラは携帯情報端末で報道番組を見ていた
今や時空管理局の様々な不正行為について、マスコミは派手に報道していた
ミッドチルダ連邦以外の次元世界連合全加盟国でも同じような状況が続いている
各次元世界国でもミッドチルダと同じで多くのマスコミが時空管理局の不正について派手に騒いでいた
1つの不正や疑惑を見つけるとさらにマスコミは派手に報道している
マスコミというのはスキャンダルなネタが最も面白がって報道するものだ
時空管理局に多くの権限があったころは時空管理局の顔色をうかがいながら報道していた
彼らから少しでも目をつけられると妨害工作は行われてしまった。
それだけに時空管理局を称えるような報道が中心になっていた
しかし今は時空管理局は様々な権限を失い規模も大幅縮小された
おまけにスキャンダルなネタの宝庫となっていることから派手に騒いでいるのだ

「時空管理局を除隊して正解だったわね」

ステラは正しい判断をしたと感じていた
彼女がクラナガン捜査局に入局するときにあらゆる角度から身元調査が行われた
入局したころは時空管理局には多くの権限と権力を握られていたため、スパイではないかという疑惑があったのだ。
もちろんステラはスパイ行為に関与していないが、
当時の時空管理局とクラナガン捜査局との関係では疑われるのは当然のようなことである
今でこそ捜査部捜査官として高い評価を得ていた。
だが中央パトロールに入局したときは冷めた視線や態度をされることが多かったことは事実。

「主ステラ。私も時空管理局を抜けて正解だったと思います」

『中央本部から各員へ。クラナガン魔石燃料工場からフローレンス州の魔力精製炉発電所へ魔石燃料を輸送する』

魔力精製炉で使用される魔石燃料輸送には連邦軍や港湾パトロールの部隊による警備が義務付けられている
魔力精製炉発電で使用される魔石燃料は低濃縮魔石燃料が使用される
一方で魔力精製炉が搭載されている航空母艦には高濃縮魔石燃料が使用される
いくら低濃縮魔石燃料であってもリスクが高いため最大限の警戒が必要なのだ
もし低濃縮魔石燃料が強奪されて、反政府組織が濃縮度合いを高めてしまうと魔力爆弾が作れてしまう
魔力爆弾として使用するためにはいろいろと手間と時間と資金が必要だが、いつどうなるかはわからない
だからこそ次元世界連合全加盟国政府機関と国際魔力エネルギー機関が常に不審な動きがないかを調べている

「やっと輸送に関する許可が出たみたいね。予定よりも1日も遅れているからこっちの調整も考えてほしいわ」

ステラは魔石燃料の輸送手順には多くの行政機関と輸送会社との調整が必要であることを十分わかっている
1つの予定が崩れると再調整するのは簡単なことではないこともわかっている
ただでさえ今は貨物列車の運行ダイヤは通常時に比べて乱れている
魔石燃料の輸送には厳格な輸送ルールがあるため、少しでもダイヤが乱れると運行が見送られるケースが多い
これはJS事件以前から定められていた規制だが、事件後はさらに厳格なルールが定められた
そのため輸送計画の調整をするのは簡単なことではない
中央パトロールでも警備のために人員を割くことが規則として定められている
また輸送計画についての情報が開示されるのは身辺調査で安全であることが確認された職員だけだ
捜査部捜査官にも情報が開示されてくるようになっている。
元々捜査部に入るためには厳しい身辺調査を受けなければ入部できない

『南分署から各員へ。セカンドサウスクラナガン空港にプライベートジェットが1時間後に着陸予定』

セカンドサウスクラナガン空港は南区南部区域にある滑走路が1本の小規模空港だ
騒音の関係から午前7時から午後8時までの間しか航空機は利用できない
主に小型プライベートジェット機が利用する空港である
ステラはその無線を聞いて携帯情報端末でどのような航空機が利用するかを確認した
サウスクラナガン港から沖合300kmにあるガラックス島から来た小型ジェット機であった。
利用者は市内を主な営業拠点としているノースクラナガンバンクという銀行の幹部が搭乗している
ノースクラナガンバンクは時空管理局関係で数多くの融資を行っていた。
どこの金融機関でも同じである。時空管理局はつぶれることがない組織だという信用度があった
そのため担保以上の金額を融資していた。
JS事件後は担保割れする不良債権を数多く抱えて回収することにかなりの力を入れていた
ノースクラナガンバンクでは最低でも数千兆ミッドもの融資をしていたが回収できたのは半分以下だ
不良債権があまりにも多すぎたこともあり、一定の金額を不良債権のために確保していた
ただそれでは追い付かない金額の不良債権であるため、株価は下落基調にある
クラナガン市準備銀行は万が一に備えるために緊急融資を行えるように準備している
最後の貸し手というものである。通常は国内の中央銀行であるミッドチルダ連邦準備銀行が行う
連邦準備銀行が動く前にクラナガン市準備銀行を緊急融資をするのは珍しいことである

「ノースクラナガンバンクもいろいろと大変ね。公的資金の注入は回避したいはず」

公的資金の注入を受けたら現経営陣は刷新される。
また金融機関の再建のために制約が出てくることは当然のことだ

「現経営陣の経営責任も民事裁判が待っているからそこも避けたい」

証券取引委員会による監査を受けて甘い融資基準をして損失。
それを生み出す原因であると判定されたら裁判を受けることになる
経済関係の罪状で起訴されるし経営していた金融機関からは民事訴訟を受ける
経営陣が保有している財産を押収されることになるかもしれない
刑務所に入らなくても書類送検や執行猶予での判決は受けることも想定される
今までの輝かしい経歴に泥を塗ることになるだけでなく、株主から損害賠償請求を受ける可能性は高い
刑事事案で罰せられるほかに民事でも訴えられて高額な損害賠償請求を受ける
経営陣には大きな損失が発生して名誉も失うことになる
ノースクラナガンバンクそのものにも不信感から預金の引き出しによる取り付け騒ぎに発展する
最も最悪のプランはノースクラナガンバンクが破綻してしまうことだ

「金融事件を扱うのは面倒なのに」

金融事案では会計帳簿の分析が重要だ。それにはかなりの時間と手間がかかる
早期決着につくことはまずありえない。最短でも数週間。長い場合は数年という時間がかかることもある
証拠が消される恐れが出てくるのだ。その時、ある情報が経済関係を専門に扱っている報道番組が放送した

『ノースクラナガンバンクはクラナガン市準備銀行に緊急融資を要請しました』

『融資の要請理由はノースクラナガンバンクからかなりの預金が他の銀行に動かすことが増加しているとのことです』

『預金の引き出しに対応するための緊急融資ということで、2000億ミッドを求めました』

融資を受けるために担保としてミッドチルダ国債を預けることにすると
緊急融資と言っても担保になる者が少しでもなければ問題が出てしまう
仮にクラナガン市準備銀行が融資を行って、その融資したお金を回収できないと問題になる
だからこそ、ある程度の担保になる資産を預かることが融資を行う時の条件であるとされている

「取り付け騒ぎにならないと良いけど」

連邦準備銀行に頼るのではなく、クラナガン市政府が運営敷いているクラナガン市準備銀行に緊急融資を求めた
連邦準備銀行に頼るということはかなり財務状況が悪いと評価される
ただクラナガン市準備銀行にとなるとある程度は自らでカバーできると評価されることになる
あくまでも万が一に備えての資金確保だと。クラナガン証券取引所では一定の株価下落はあるだろうが。
このケースで銀行が破産するほどの急激な下落はないと思われることも多い

『中央本部から各員へ。市内に存在するすべての銀行の警戒を行え。不穏な状況になることが想定される』

中央本部は取り付け騒ぎになることを押さえることに力を注ぐようにと指令を出していた
当然の反応である。もし1つ取り付け騒ぎが発生するとコントロールすることが難しくなる

『ニュース速報です。ミッドチルダ連邦準備銀行は政策金利6%から7%に引き上げると公表』

『1度に1%も引き上げるのは前例がありません。今回は国内の景気過熱を納めるためであると』

ミッドチルダ連邦国内の好景気がバブル経済にならないように徹底するためである
それにしても1度に1%も政策金利を引き上げるのは前例がない。
通常は0.25%ずつが一般的である。にもかかわらず1度に1%。
経済の急激な加熱。つまりバブル経済になることを阻止することを優先したのだ。
さらニュース速報は続いた

『またミッドチルダ連邦政府は3000兆ミッドの国債を発行すると』

『今回の国債発行はあくまでも金融市場に存在する通貨の量を一時的に減少させるためであると』

『ミッドチルダ連邦政府の現在の財政状況では必要のない国債発行であるが通貨供給量を削減するため』

ただ実際に効果があるかどうかはやってみないとわからない。
バブル経済にならないようにするための対応であるがどこまで効果があるかを確認するにはかなりの時間が必要だ

『アンナ・ランシング大統領は先ほど連邦上下院の予算委員会に速やかな議論と採決を求めました』

大統領が連邦議会に直接求めた法案が賛成で通過するには通常の法案とは少し異なる条件が必要になる
連邦大統領が求めた法案は連邦法で連邦上下院で3分の2以上の可決がなければならない
連邦議員が提出した法案は過半数以上の賛成で良いが大統領が直接議論と法案可決を求めたものは条件が厳しい

『連邦上下院の議長は緊急声明で大統領が求めた法案について迅速な審議が必要なことは理解していると』

ただし国債を発行することは必要性が急務ではない借金を作ることには慎重さも必要である
彼らの言う事にも一理ある。国債は借金だ。発行する必要がないのに行うにはいろいろと問題はある

『しかし今の連邦政府の財政に必要がないのに国債発行には議論が必要であると厳しい意見もあります』

『ミッドチルダ連邦準備銀行は急激な景気過熱の抑制にはさらなる踏み込んだ対応も検討すると』

この発表に連邦政府も必要に応じて政策を打ち出すと連邦準備銀行と連携すると公表した

『クラナガン市政府はクラナガン市準備銀行からノースクラナガンバンクに緊急融資を行うと発表』

『融資額は5000億ミッドを行い、市内の金融市場の安定化を試みるとのことです』

2000億ミッドの融資希望に対して、5000億ミッドの融資を行う
ノースクラナガンバンク以外の金融機関に対しても迅速に資金供給を行い安定化を実施するという意思表示である
クラナガン市内で取り付け騒ぎなどを抑え込むために最大限の努力する意思を金融市場に明確な回答を示した
クラナガン証券取引所ではノースクラナガンバンクの株価は一時的な下落を見せた
しかし、クラナガン市準備銀行が緊急融資を行うということで急激な下落は抑制された

『今回のノースクラナガンバンクの緊急融資について経済専門家からは時空管理局関係の融資が多いことが要因ではと』

『今後の経営再建のプランの中で時空管理局関係の債権回収に力を注ぐことが求められる』

マスコミはノースクラナガンバンクが抱えている時空管理局関係の融資状況が経営に影響出ていることを報道していた
これはノースクラナガンバンクに限ったことではない。多くの金融機関で同様の事案を抱えている
ミッドチルダ連邦は金融引き締めに必死だ。国内の通貨供給量の削減と政策金利の大幅引き上げ
さらに新たな政策が実行されることが想定される。
外国為替金融市場では通貨ミッドが急上昇してミッド高の展開になっている
通貨ミッドは国際通貨だ。国際貿易の取引で使われる国際基軸通貨である。
それだけに急激な為替レートの激しい値動きは問題になってしまう

「経済事件が多発しなければ良いのだけど」

ステラはJS事件後には多くの経済事件が発生している。
証券取引委員会やFBIが1日に何百件もの経済事件の捜査を必死に行っている
ワンワールドバンクを含むワンワールドグループ企業がすべて破産したことで、
次元世界連合全加盟国で現在確認されているだけで何十万件もの経済事件の捜査が行われている
あまりの事件件数に対応することが難しい状況になっている

「私たちにまで経済犯罪の影響が降ってこなければ良いけど」

経済事件は捜査が難しい。多くの関係者の利害関係が絡んでくるからだ
おまけに事件の資料を隠滅する行為も多発する。
それだけに経済事件では捜査を行う前に一定の証拠確保が重要になってくる

『中央本部からSA34。ハーディー地区にあるいくつかの無人ATMで警報が作動していることを確認』

クラナガン市内には数多くの無人ATMが設置されている。
ATMにはわずかな異常が発生したら自動的にクラナガン捜査局に警報が流されるようにシステム設計がされている
例えばATM荒しを行うようなことを確認する前に些細な異常で警報が作動することで強盗されないようにしている

「こちらSA34。これより現場に向かう。正確な位置情報を」

場所はサウスハーディー地区2番街にあるATMだ
無人ATMは市内にはかなりの数が設置されている。
ちなみにそれらのATMに入っているお金は過剰には入っていない
強盗などを想定して多くのお金を入れないようにしている

「これより現場に向かう。現場にパトロール捜査官は?」

ステラはパトロール事務所の前に止めていたSUVに乗り込むと緊急走行で現場に向かった
本来なら時空管理局犯罪捜査局の捜査官都の情報交換などを行うために誰かの待機が必要だ
マイアをパトロール事務所で待機させて引き継ぎ作業を行うように伝えていた

『南分署から各員へ。ハーディー地区のATM警報は強盗事案に発展しているのを確認。至急現場に向かえ』

ただのアラートではなく豪宕であることが確認された。
これでトラブルではなく強盗事件になる。強盗に器物破損。あと1つで三振法が待っている
さらに南分署からの無線で情報が入ってきた

『強盗行為をしているのは覆面姿の人物。性別や年齢は不明。顔認証での照合ができないので不審者がいれば職質を』

覆面姿となると街灯観測システムの監視カメラ機能を使って顔認証は難しい
もちろん顔認証だけでなくほかの体の部位の特徴を使って照合することはできるが時間がかかってしまう
だからこそ強盗事件などは早期発見・検挙が求められる。

「こちらSA34。現在ハーディー地区ATM荒し現場に急行中」

『南分署からSA34。パトカーが4台急行中。さらにバイクなども使って急行しているパトロール捜査官が5人向かっている』

早期の身柄確保を行えるように態勢作りを要請するとのことだ
現場指揮権が一時的にステラに任されたことでもある

「SA34からハーディー地区ATM荒し現場に急行している局員へ。現場で不審人物がいれば即時職質。安全確保を」

『フローレンス州政府は州独自の災害対応を専門とする政府機関を発足させる予定であることを公表』

『クラナガン捜査局とは連携して即時対応ができるように協議を行う準備をするとしています』

「国内の多くの州政府が時空管理局を信用していないことを態度で示しているわね」

基本的には時空管理局は大規模災害時には災害救援を行うための基地を次元世界連合全加盟国で一定数を残している
JS事件が起きる前にはあらゆる週に最低でも各州に1つは設置していた。
今は大部分が基地を廃止して地上災害対応部隊を解散することが増加している
代わりに各次元世界国政府や州政府などの行政機関が新しい部隊を編成して対応している

「それにしても時空管理局の信頼は全くなし。天国からすべての権限を失って地獄に落ちた」

次元世界連合で時空管理局の規模をさらに縮小する方向で議論が進んでいる
今でも次元世界連合全加盟国に一定規模の時空管理局基地が配置されている。
それも今後廃止する方向で議論が進んでいるが、利害関係の調整で苦労してくることはどの加盟国は理解している

「すべては時空管理局の暗い過去が悪いけど。大量リストラされた退役時空管理局員は大変ね」

何度も言うが、大量リストラされた退役時空管理局員は退職金はかなり少ない
おまけに年金運用を行っていた時空管理局内の部門では運用に失敗
多くの退役時空管理局員が受け取るはずだった年金の運用資金を失った
その結果は退役時空管理局員は生活苦に追い詰められている。
歳が高齢であっても年金だけでの生活をすることはできない。
だからこそ再就職をしようとしているが差別的な視線を浴びることは多い
真っ当な仕事では無理と判断して犯罪行為に走る人物はかなりの人数が確認されている
次元世界連合全加盟国で同様なことは日常的に起きている。一般企業にも企業イメージがある
もし不正行為に関与していたことが分かり、
その企業で勤務している退役時空管理局員だとわかればマスコミから騒がれる
企業のイメージとしては問題が発生するため、退役時空管理局員を採用するところは限定されてくる
何の不正に関与していない退役時空管理局員だとしても、世間の視線は厳しいものを浴びてしまう
再就職が難しくなってしまうのは当然の流れであるのだ

「また退役時空管理局員が関与していたことになったら最悪ね」

ステラはため息をつきながらも現場に緊急走行で向かっていた
さらに南分署に配置されているパトロールカーからの無線を傍受した

『SC4436から南分署。サウスハーディー地区2番街のATM警報ですが。無人ATMが破壊されている』

現場鑑識チームの派遣要請をパトロール捜査官は要請していた
これで強盗と器物破損は間違いない事実と判定される。問題は誰が犯行を行ったか
強盗犯は覆面姿であるため、身元確認はまだできていない
できるだけ生体認証などで照合して身元を割り出したい。
犯行を行った人物を特定できればすぐに包囲網が展開される

『こちら南分署。サウスハーディー地区2番街のATM荒しの指揮権はSA34が保持。そちらの指揮下に入れ』

『SC4436からSA34。現場鑑識のために交通規制などを実施したい。許可を要請する』

ステラはすぐに現場鑑識を行うために交通規制を行うようにと指示した
現場をできる限り証拠汚染がないように確保することは重要である
現場にいるパトロール捜査官はステラが交通規制を承認したので規制のための準備に入った
今日は雨は降っていない。しかしいつ天候が崩れるかはわからないので、
雨が降っているか降ってくることが予想される場合はシールド魔法装置を使って現場確保を行う時もある
シールド魔法装置を使うと魔法粒子による証拠は裁判では採用されない
魔導師が魔法を行使するときに現場に残留する魔法粒子はDNAと同じで識別することができる
だからシールド魔法装置を使用してしまうと混合するので現場の魔法粒子の証拠は裁判で証拠能力はない

「SA34からSC4436へ。現場で魔法粒子は観測されているか?」

『確認しましたが魔法粒子はなし。無人ATMは物理的に破壊されている。中の紙幣だけを強奪したと思われます』

「了解した。現場証拠保全を行いながらも、近隣にいる民間人に犯人が逃走に車などを使用していなかったか確認を」

車で逃走したなら車両ナンバーで追跡できる。犯人もバカではない
市内からはすぐに逃げ出すはずだ。市外に逃げられると近隣州の法執行機関に捜査要請をしなければならない
またFBIにも通達を出して指名手配をかけて早期身柄確保を行える体制づくりが必要だ

『ミッドチルダ連邦政府は連邦準備銀行と協議を開催。急激な通貨ミッド高を抑制するために為替介入に踏み切る可能性を』

ステラはATM荒しの現場に向かいながらもラジオでのニュース番組をチェックしていた
連邦政府は為替介入に踏み切ることで通貨ミッド高を一定の抑制させたいのだ
急激な為替変動は他次元世界との貿易で大きな問題になりえる
それを阻止するためにもミッドチルダ連邦の中央銀行である連邦準備銀行と連邦財務省がタッグを組む必要がある
連邦政府は金融市場安定化基金から資金を出して為替介入の資金とする
金融市場安定化基金は現在7700京ミッドもある。それを使って他次元世界国の通貨を大量買い注文をする
他次元世界国の通貨が買われると金融市場では為替介入が行われているとはっきりとした意思表明できる
国際金融市場にどれだけの効果があるかは介入してみない限りはわからないが、
何もしないよりかはまだ良い選択なのかもしれない
ただ好景気のミッドチルダにとっては少し冷や水を浴びせることでバブル経済になることを止める
経済の景気というのは好景気でも不景気のどちらに偏るのも問題である
うまく政府機関が急激な変動を抑えて真ん中あたりを進ませることが好ましい

「景気が良いのに退役時空管理局員は再就職ができない。犯罪率の上昇は法執行機関にとっては問題ね」

まったく困った問題である。

『ノースクラナガンバンクにクラナガン市準備銀行が5000憶ミッドを緊急融資を行うと発表直後に株価が下落』

正確には前日比と比べて15%も下落した。ノースクラナガンバンク以外の金融機関にも少し影響が出ている

『預金を他の金融機関に移す動きが一部で発生しているため、今後の影響が心配されます』

「ますます危険な状況ね。引き出しが殺到したら無人ATMに残っているお金が減少したら騒ぎになるわね」

騒動を納めることも中央パトロールの職務だ。
クラナガン市民と近隣州の人々を守ることがクラナガン捜査局の責務である
クラナガン市内で金融関係のトラブルが1つでも発生したら人々は混乱する
JS事件後にワンワールドバンクが破綻したときにはかなりの大騒ぎになった
ペイオフの影響で1000万ミッドまでしか預金は保護されない。全額の預金保護がされなかった。
1000万ミッド以上の預金をワンワールドバンクに口座を持っていた預金者は多くはないがそれなりの人数になっている
その時のことを多くの人々がわかっているからこそ、金融機関の経営がうまくいかなくなると混乱する

『港湾本部から中央本部へ。クラナガン魔石燃料工場から魔石燃料棒の輸送開始で危険なポイントが出るか確認を』

『こちら中央本部。すでに魔石燃料輸送で利用する鉄道路線の安全確保のためにトラブルになる地点は警戒中』

中央パトロールは魔石燃料の輸送のために素早く対応していた
鉄道路線で問題になるような場所は踏切などだ。
クラナガン市内だけを主営業範囲としている鉄道路線は高架工事がほとんどが完了している。
そのため道路との踏切になるようなところは存在しない。
しかし大陸縦断や横断している鉄道路線は貨物で貨物にはかなりの重量がある。
そういった路線を高架にすると貨物列車の重量の影響がいろいろと生じる
貨物列車にはさまざまな重量の貨物が積載されている。
高架鉄道にすることで地上の道路交通を踏切による交通渋滞が発生することはなくなる
だが貨物列車に積載されている様々な製品の重量計算を入念にしなければならない
クラナガン市政府は旅客鉄道は高架鉄道路線か地下鉄道路線にすることで開かずの踏切を作らないようにした
しかし完全に市内の鉄道路線を高架か地下にすることは貨物列車運行に支障が出る
最終的にクラナガン市政府は旅客路線は高架か地下路線にするために補助金を出して鉄道会社を支援した
貨物列車が運行路線に関しては地上鉄道路線にした。
貨物列車の運行本数は旅客列車ほど過密ダイヤにはならない
開かずの踏切になる道路との踏切は必要最小限にできる

「魔石燃料の輸送の調整はいつものことだけど大変ね」

中央パトロールには数多くのトラブルが発生している。
時空管理局と聖王教会に関係するあらゆる問題がクラナガン市内はもちろんだが
次元世界連合全加盟国でも同じような状況にある。
反政府組織が退役時空管理局員を取り込み、勢力拡大に大きな影響を与えている
だからこそ次元世界連合の全加盟国の警察や軍事部門では警戒態勢を敷いている
反政府組織が大きく発展するようなことになれば大問題になる

『南分署から各員へ。南区東部区域ポーク地区パトロール事務所で幼い女の子を保護。虐待と疑われる傷を負っている』

幼い子供への虐待行為は重罪行為に該当する。子供の両親を速やかに確保して事情聴取を行う
それが通常の手順である。児童虐待はクラナガン市法では17歳以下の子供であるなら懲役25年という厳罰だ
また市内の医療機関で少しでも虐待のような傷などを確認したら通報することが義務付けられている
1人でも幼い子供を守るための制度である。児童虐待事案は市政府機関の1つであるクラナガン児童局も捜査に参加する
中央パトロールとは強調しながら虐待事案に対応して少しでも早期に虐待事案を解決するために動いている

『中央本部から南分署。南区東部区域ポーク地区事務所で保護された女の子に関する情報を速やかに報告せよ』

『現在身元確認作業を行っています。把握している情報は名前がエリナース・パドラッド。4歳』

住所として登録されているアパートの自宅に現在パトロール捜査官を派遣しているとのことだ
それ以上の情報は今のところ不明と南分署は回答した。
児童虐待でも性的虐待の場合は仮釈放なしの終身刑か死刑だ。
幼い子供への虐待は極めて厳罰に処されることになる。
これだけ重い罪だとわかっていても児童虐待の件数は減らない
被害を受けた子供達には重いショックを受ける。
乗り越えることは児童虐待では簡単なことではない
ステラが様々な情報を無線などを使って耳に入れながらも無人ATM荒し現場に到着した

「SA34から南分署サウスハーディー地区2番街での無人ATM荒しの現場に到着。現場鑑識チームはどれくらいで来るの?」

『現在向かっています。無人ATM荒し現場への到着は10分ほどかかると想定される』

「現場確保と規制線を展開する。現場指揮権はSA34が担当する」

ステラはしっかりと手順通りに作業を実行した
現場確保は事件捜査と裁判で使用する証拠確保のためには必要なことである
定められている手順通りに事を進めていた

『南分署からSA34。手順通りでの現場確保を行い、少しでも異常が確認されたら無線連絡を』

了解と南分署に伝えると現場保全などの作業のために次々と現場にいるパトロール捜査官達に指示した


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東区東部区域 クラナガンハイウェイ4号線(東線) 西行

レックスは交通事故現場の処理を行っていた。
片側5車線のうち事故の影響で3車線を交通規制をかけている
現場状況を記録して事故現場の詳細な情報をまとめていた。
パトロール捜査官と東分署の現場鑑識チームも事故処理を行っている
しっかりとした事故報告書を記録するために事故状況の詳細な情報が必要である

『SA11からSA30。応答を要請する』

はやて達とクラナガンハイウェイ4号線の西行を走行している車に乗っているラジェットからの無線だ

「こちらSA30。何かあったか?」

『まもなくそちらのポイントに入るが緊急車両という形で道を開けてほしい』

ラジェットはクラナガンハイウェイから地上の一般道に降りるのは危険と判断して優先車両として通行許可を求めた
レックスはすぐに準備に入ると返答した

「事故現場付近では車線規制などの影響で渋滞が発生している。速度が落ちた時に問題が発生する可能性あり」

車の速度が落ちたら攻撃される可能性が高まることが想定できる
警戒することは当然のことだ

『了解した。そちらの事故ポイント到達時間は10分前後だと思うが』

10分以内に交通規制の全面解除は難しい
しかし少しは交通規制車線の一部開放は可能であるのでそちらを優先にした

「車線規制に伴う交通規制があるから渋滞が発生している。念のため警戒しろ」

『了解した。できるだけ早く事故処理を頼む。俺も命は大切だからな』

ラジェットの発言にそれは当然だとレックスはよく理解していた
機動六課組という爆弾を抱えている。渋滞で狙撃されたらかなり不都合になる
リスク回避をするなら早期通過が最も望ましい。少しでも減速すれば攻撃を受ける可能性が出てくる

「こちらも最大限努力はする。ただし警戒はしておけ」

レックスは警戒することを継続するようにラジェットに無線で伝えると車線規制の解除ができないか調整に入った
今は仲間の命を守ることが優先事項だ。それもラジェットは捜査部の実質的なナンバー2。
もし何かラジェットの身に何かあれば公認候補を探す方が大変である
おまけにラジェットだからこそ次元世界連合やミッドチルダ連邦国内の法執行機関
ミッドチルダ連邦軍との連携にも影響が出てくる。
調整をするのは簡単なことではないので優先して通過させなければならない

『中央本部からSA30。クラナガンハイウェイ4号線(東線)西行の事故処理交通規制の早期解除のために動いてください』

レックスは忙しいと思いながらも機動六課組が狙われてトラブルが発生したらクラナガン捜査局の立場がない
何としても交通規制を解除するために動くことが求められている
誰もがそのことはわかっている。しかし交通事故処理を甘くするわけにはいかない
4台の玉突き事故だ。救急車はすでに8台存在する。救急隊員は負傷者の救護を行っている
重傷者はいないが首が痛いなどの症状を申告している者が数名いる。幸いにも大量出血などをしている者はいない
しかしできるだけ早めに近隣の医療機関に搬送することが必要であると判断できていた

「救急車で近隣のER搬送の態勢はどうなっている?」

『交通事故現場付近には4つのERがある医療機関があり、受け入れはいつでも問題ないと報告を受けています』

つまりいつでも救急搬送して治療を受けるための手配は完了している
あとは救急隊との調整だ。レックスはすぐに中央パトロール管制センターに無線連絡を入れた
交通規制情報を引き続きは継続するが規制の度合いを少し開放すると
現在は5車線のうち3車線を規制している。それを1つ開放することで通行可能な車線は2車線から3車線に変更
その情報を流すことにした。

「SA30から中央本部。こちらの交通事故で生じた負傷者の救急搬送を速やかに行いたい」

『再度情報を送る。すでに近隣医療機関ERでの受け入れ態勢はできている4か所のERに分けて搬送を』

「了解した。交通規制は最低でも30分は継続する」

『中央本部からSA30。クラナガンリサイクル第1工場の大型トラックが4号線東行きを通過する』

クラナガンリサイクル第1工場はミーミルグループの石油化学コンビナートにある処理工場に向かう予定だ
市内には2か所ある。この処理工場が主に処理するものは企業から出される工業排出ごみ
生活ごみはクラナガン市政府が運営している廃棄物処理工場で処理される。
クラナガンリサイクル工場には生活ごみが運ばれることはない
レックスはなぜ無線で連絡が必要なのか疑問に思った。別にいつものことなのだから

「こちらSA30。クラナガンハイウェイ4号線の東行きは問題ない」

『了解。トラックには大量の鉄のスクラップが積載されている。通過時に事故にならないよう警戒を』

もしトラックが事故を起こしたらさらに交通障害が拡大することを中央本部は警戒している
そのことは十分に理解できた。トラックに積載している鉄スクラップが漏れると通行に影響が出る
それを避けるために警戒することが必要になる

「トラブルにならなければ良いがな」

レックスはこれ以上こちらの現場でトラブルが起きることがないようにしたい
混乱する状況に追い込まれると大変になる。それは避けたい
それにもし積載物の鉄スクラップが落下したら交通規制をさらに展開しなければならない
余計に面倒がここで発生するのだ


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西区東部区域クルック地区5番街5丁目 中央パトロールクルック地区警備庁舎 3階分署地域情報センター

カレン・アリスト捜査官は現在のクルック地区の状況把握に対応していた

『次元世界連合の全加盟国政府は聖王教会施設に対する強制捜査を行うために法執行機関が動きました』

『各国の法執行機関では聖王教会が不正行為に関与していたとする証拠を確保したと』

『詳細な情報については現在公表できないとしながらも厳しい対応を行うとしています』

カレンはマスコミの報道番組を見ながらため息をついた。1つの不祥事が出てくるとさらに次々と出てくるのだ。
お荷物のような扱いを受けるのとは彼らはわかっているのか
それとも少し楽観主義なのか。現実は厳しい状況にあることははっきりとしている
聖王教会では次元世界連合加盟国に支部がある次元世界国では証拠隠滅と思われる行動が確認されている
彼らもこれ以上の厳しい内情の情報漏れは避けたいのだ

『次元世界連合安全保障理事会が承認した聖王教会の強制捜査による影響は今後も出るでしょう』

「お荷物と面倒をかけさせることに関してはプロね」

カレンの言う通りだ。問題が多すぎる
こちらは対応に追われている。元々市内の犯罪組織や反政府組織に対する対応に忙しいのに
さらに影響が広がると大きな問題になる

『クラナガン捜査局はミッドチルダ連邦軍と共同作戦をベルカ州で展開。聖王教会本部を押さえることを優先』

『またベルカ州西部地方でクーデターも対応。連邦軍はベルカ州の西隣と北隣にある基地から部隊を派遣する』

『すでにベルカ州では次元世界連合聖王教会調査委員会やFBIや州警察が州内にある法執行機関が捜査を開始』

聖王教会の不正行為に関与しているかをさらに深掘りを行って捜査をするとのことだ

『聖王教会の財務状況についてミッドチルダ連邦証券取引委員会が調査を行った』

結果はあまりにもひどい状況だ。予想数値よりもかなりの負債を抱えていた
これらの負債をどう処理するか。国際機関としては企業のように破綻するというのは難しい
再建案を作り出す必要はあるが厳しい歳入状況になっているので経費節約に全力を注がなければならない

『聖王教会が傘下にしているベルカ建設の財務状況が急激に悪化したことから破産申請を行うと公表』

ベルカ建設はベルカ自治区時代には自治区内の建設業務を全体の8割の事業を担っていた
聖王教会債が暴落したことで聖王教会が建設費を聖王教会債を使って支払いしていたのが直撃した
支払いの一時的な扱いで聖王教会債で受け取っていた債券価格が暴落したことで、
ベルカ建設の財務状況も聖王教会と同じで大幅に悪化。ベルカ州証券取引所ではベルカ建設の株価が大幅に下落
破産することがほぼ確実とされていたのでベルカ建設の株価は売りが殺到して株価がつかない状況になった

「聖王教会のトラブルがこちらに影響しなければ良いんだけど。彼らも自らの暗い過去を消すことに必死でしょうね」

聖王教会にとっては不正行為を現役職員が関与していたら国際機関としては最悪だ
教会は医療機関や教育施設を持っている。聖王教会そのものを破壊することは問題になる
もし聖王教会が運営している医療機関や教育機関に影響が出るとミッドチルダ連邦国内だけでなく、
次元世界連合全加盟国にも医療機関や教育機関があることで国際問題に発展するかもしれない
だからこそ厳しく監査を行って、『まともな国際機関』に生まれ変わってもらわないと困る

『中央本部からクルック地区分署。爆弾を設置したとの電話を受電。場所などの情報は不明』

どこからの脅迫であったかを逆探知が完全にわかる前に切られたとのことである
クラナガン捜査局の通信逆探知や通信傍受を行っている。逆探知は20秒もあればできる
場所が不明というのは詳細な情報がこちらにもれる前に電話を切った。そういう事であることが考えられる
次元世界連合や数多くの国際機関があるクルック地区と近隣地区での犯行予告電話は警戒が必要である

「こちらSA21。すでにクルック地区と近隣地区の警戒態勢は厳戒状況であるが継続して警戒に当たる」

『中央本部からSA21へ。最大限の警戒で対応するように。もし危険が少しでも感じられたら交通規制をかけろ』

すでにクルック地区と近隣地区の警戒態勢は厳格に置かれている
中央本部はあらゆる事態に対応できるように準備を求めていた
すでに近辺で爆弾が発見されている。唯一の幸運は起爆する前に解体することができたことだ
だがそんな幸運はいつまでもセットになることはない

「爆弾がまだあったら最悪ね。クルック地区と近隣地区で事件が発生したら問題の嵐になるだけ」

国際機関が破壊されたり、次元世界連合全加盟国の外交官にけがや死者を出したら、
クラナガン捜査局だけでなくミッドチルダ連邦政府にとっても大きな影響が出てしまう
そうなる前に抑え込むことが重要である

『イーストクルック地区5番街4丁目と8丁目の間の通りで不審物発見』

カレンはその報告にため息をついてしまった。
トラブルがさらに発生することがほぼ確実であるからだ
これ以上時空管理局や聖王教会関係のトラブルがなければ最高なのだが
時空管理局と聖王教会の立場が天からどん底に落ちた。その影響はすさまじいものがある
今後どのような展開になるかは検討もつかないほどに。甘い汁を吸うことができなくなった。
時空管理局に大量の物資納入の大部分を行っていたワンワールドカンパニーは破産した
そのほかのワンワールドグループ企業の破綻で多くの関係者が財産を失った。
影響はミッドチルダ連邦だけでなく他次元世界国にも出ている。
各次元世界国は事態を抑え込むことに苦労している。

「自ら自爆するならまだ良いのに関係者やまったく関係のない企業や個人にまで影響が波及するなんて」

影響はすぐに次元世界国の治安状況に出てしまう
犯罪発生率が高まるとその次元世界国の経済や安全保障政策にも影響する
リスクを最小限することが求められていることである

『ミッドチルダ連邦政府は急激な通貨ミッド高が続いていることを受けて連邦準備銀行と共同で市場介入を行うと』

『この発表を受けて為替市場に影響が出ることは間違いないと推測される』

「どうやってここまで拗らせるほどにトラブルを起こしてくれるなんて」

カレンはミッドチルダ連邦国の経済にどれだけの影響が出るか。
今は時間が必要なのだがそんな余裕がないことは間違いない

「クラナガン市準備銀行がノースクラナガンバンクに融資をしたら預金者は殺到するかもしれないわね」

すでにノースクラナガンバンクの預金引きおろしをする顧客は増加している
今後の影響は怖いところである。クラナガン市準備銀行が緊急融資を行っていることはリスクがある

「ノースクラナガンバンクへの緊急融資で預金者が感じる評判は良くないわ。きっと今頃慌てている顧客は多いはず」

今後の動きを預金の動きがどうなるかは予想できないとカレンは考えていた
ノースクラナガンバンクの店舗にあるATMから引き出しが増えれば財務状況が悪化することは容易に想定できる
カレンは情報端末を使ってクラナガン証券取引所の株価を確認した
確認したら状況はかなり危険なことになっている。
ノースクラナガンバンク以外にもいくつかの銀行の株価も下落している

『中央本部から各員へ。市内に存在する銀行の店舗で取り付け騒ぎが起きないか警戒せよ』

「いよいよ本腰を入れる気で対応するみたいね」

もし銀行で取り付け騒ぎが1つでも発生したら預金者は一気にほかの金融機関。
つまり安全であると信用度が高い金融機関に預金を移動させることが高まる。
クラナガン市準備銀行が速やかにノースクラナガンバンクに緊急融資をしたのは、
そういうトラブルを引き起こさないようにするためである。
マスコミを通じて十分な資金確保のできていると知れば顧客を安心させることができる
それが最大の狙いである

『クルック地区9番街3丁目と4丁目の間の通りで不審人物を確保。現在職質中』

カレンはその無線を聞いてすぐに通常は管制官が行う指揮命令を彼女自身が直接行った

「こちらSA21。不審人物の名前や危険物の所持を確認してクルック地区分署に報告を」

するとすぐに返答の無線連絡が入ってきた。

『名前はワイース・ヴェラット。時空管理局本部警備部門の職員。飲酒の影響でふらついている』

「念のため近隣医療機関に搬送して健康確認を。トラブルになる前に搬送するなどを行え」

『了解』

カレンは最悪のシナリオも想定して動いていた。ただの酔っぱらいならまだ良い方だ
だがもしもどこかの犯罪組織や反政府組織におとりと利用された場合を考えた上での判断である

「SA21から中央本部。クルック地区と近隣地区の警戒態勢は最大限の警戒を行うように要請する」

『こちら中央本部。すでに戒厳令を行えるほどの人員を手配している。現場でさらなる危険が発生したら即時報告を』

つまり中央パトロールはリスク管理ができている
人員をクルック地区と近隣地区に配備しているということはある意味では危険な状況になることを想定している
そういうことを意味していることにもなるが。だからこそ緊急事態が起きても即時対応できるようにしている
少しは安心できる情報だ

「何もなければ良いけど」

カレンの考えはクルック地区に配置されているクラナガン捜査局員のだれもが思っていることだ


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西区北部区域 クラナガンハイウェイ14号線( 大外環状線 ) 反時計回り路線

ジャスティは西分署に向かっていた。その道中にいろいろとトラブルはあったが
今は西分署のラボで雨水貯水トンネルで確保された遺体や証拠の分析など
やらなければならないことは多く存在する

「どうしてこんなにトラブルがあるんだろうな」

彼はため息をついた。JS事件後、時空管理局の権限はほとんど失った
今まで時空管理局が対応してきた様々な犯罪を各次元世界国の法執行機関が担当することに
担当する事件は極めて膨大な数になるので問題が山積する法執行機関は急上昇している

「事件事故の件数が大幅に増加したことは隠ぺい工作がなくなって誰もが安心してくれるかもしれないが」

時空管理局地上部隊の捜査部門では事件事故の中に時空管理局や聖王教会と関係がある人物が含まれていた時、
捜査を少し甘くしたり未解決として捜査を打ち切るケースが存在したことは次元世界連合の調査でわかっている
だからこそ今はそんなことを許すわけにはいかない。
事件事故があれば真実を明らかにするために捜査をやめるのはだめである
もし徹底的に捜査を行ったが、犯人を逮捕させることができなければコールドケース事案として、
その事案が進展するような証拠などが出るまでは捜査を保留扱いにする。
コールドケース事案にしても証拠が少しでも出てきたら再捜査を開始する
そういう事がミッドチルダ連邦法で定められている。
連邦法で定められているということは国内のすべての州で適用される

『西分署から各員へ。クラナガンハイウェイ14号線、反時計回り路線でトラブル発生の通報あり』

またしてもトラブルだ。
クラナガン市内の治安権限がクラナガン捜査局に完全移行されてから事件事故の通報は何十倍も増加している
これは市民がクラナガン捜査局のことを信頼しているという証でもあるが
対応する方はかなり大変である。件数が増加するということは人員もそれだけ必要になる
こういったことはクラナガン市だけに限ったことではない。
ミッドチルダ連邦国内全域だけでなく次元世界連合全加盟国の法執行機関すべてに該当する

『クラナガンハイウェイ4号線の14号線反時計回り路線のトラブルは落下物が多数あるとのことです』

高速運転をしているクラナガンハイウェイの道路の落下物は大きな事故などのトラブルを起こす原因になる
早期回収が求められる事案の1つである。

『WC3351から西分署。先ほどのクラナガンハイウェイ14号線の落下物事案に対応する』

『こちら西分署。通報によると落下物は少し大きい物であるという情報が入っている。回収時などの時は注意を』

落下物の物が大きいとなれば1台のパトカーだけで対応するのは難しいかもしれない
ジャスティは1度SUVを非常避難スペースに止めて車載情報端末で情報を確認した
落下物があるとされる現場はジャスティがいる場所からすぐ近くであることを車載情報端末で確認

「SA32からWC3351へ。こちらも落下物の現場の近くにいるので対応する」

『了解。支援感謝します』

『中央本部からSA32へ。クラナガンハイウェイ4号線反時計回り路線の落下物について通報が多数入っています』

交通事故発生させないようにするために全力で対応するようにとの中央本部からの無線指示である
通報が多数入っているということは落下物への衝突が想定されるため、早期回収を行わなければならない
ジャスティは落下物事案の対応に専念するつもりだったが、別の問題が発生したと緊急無線が入ってきた

『西区中央区域の一部で停電が発生。クラナガン捜査局が運用している様々なシステムや設備は正常に稼働中』

クラナガン捜査局が運用しているあらゆるシステムとネットワークは停電しても高性能のバッテリーが装備されている
停電事案が発生しても最大10日間は問題なく運用できる

「停電か。ついてないな」

停電の原因はわからないが民間人が利用する携帯携帯電話などの携帯情報端末の通信基地局にはバッテリーがある。
性能はクラナガン捜査局のバッテリーと同じである。最大10日間は正常に稼働する

「SA32から西分署。停電の影響はどの程度出ている?」

『民間通信回線に影響が出ている。問題がクラナガン光ファイバーネットワークに出ないように監視中』

クラナガン光ファイバーネットワークは以前はクラナガン市政府が管理運用をしていた光ファイバーネットワーク
今はクラナガン捜査局が管理運用を行っている。この通信網は民間企業でも利用できる
一部の回線はクラナガン捜査局の専用回線になるが、大部分は通信会社も利用している
国内全域で活動している通信企業のミーミルテレコムとミッドチルダテレコムの2社
彼らはクラナガン市内では独自の通信ケーブルを設置している。
今回の通信回線ダウンは2社が管理運用している通信回線である
緊急時にはクラナガン光ファイバーネットワークを利用できるようにクラナガン捜査局と協定を結んでいる
現在はそちらに通信回線を切り替えることで対応している。問題は電力だ。
電力送電網がダウンするとクラナガン市民は混乱するだろう。
影響を最小限にするためにも早期復旧が求められる

『中央本部から西分署へ。停電の影響で盗難や強盗事案が発生する可能性が高い。警戒されたし』

『こちら西分署。停電エリアは地区事務所に警備体制の強化を指示している』

『停電時に防犯装置などが機能しない影響も考えられるので警戒態勢を』

防犯装置は電力と通信がセットでなければ機能しない
防犯装置で警備会社に異常を伝える通信回線がダウンしたら警報が作動しても警備会社に警報信号が届かない
それだけに停電エリアのパトロールを強化するのは当然である

「強盗が起きなければ良いが」

ジャスティはそんなことを呟いてしまった。
停電中の強盗事案は捜査を開始したころには犯人が逃げていることが想定される
そうなると捜査をして犯人の特定ができた頃には市外へ逃走されている
クラナガン市外に逃げるとFBIなどの連邦機関の管轄になってしまう。
もしくは逃走先の州の法執行機関の担当になるのだ。
1度逃走されると見つけ出すには長い時間が必要になってくる
そうなる前に身柄を押さえなければならない。それはクラナガン捜査局員のだれもが理解している
逃げられる前に身柄を確保する。それが最も重要なことであるのだ


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部首席捜査官執務室

「それは問題ね」

シエルは港湾本部長であるリヴィナ・トラヴィックと通信で情報共有をしていた

『シエル首席捜査官。穏やかに事を進めるのはかなり難しいことになるかもしれません』

話の議題はアルシオーネが関与しているワンワールドバンクの支店にいるユラザーク・ギャスシーになる
問題は山積している。退役時空管理局員が生活するためのお金に困り、
おまけに権力を失った人物たちは恨みをどうにかするために犯罪行為を行う
良い結果になっているとはとても言えない。だがこれも自らが招いたこと
弁解の余地があるとは思えない。時空管理局勤務時代に不正行為に関与したなら捜査は必要である

「ところでベルカ州の状況はどんな感じ?」

『連邦軍がベルカ州の西隣の州に設置されている連邦軍基地から連邦海兵隊の空挺部隊が向かっているところよ』

「港湾パトロール海兵隊はどうなの?」

連邦軍の空挺部隊が向かっているということは港湾パトロール海兵隊も動いているはず。
それでもシエルにとってみれば詳細な情報を確認することは必要である

『連邦海兵隊との共同作戦だからベルカ基地からすでに輸送機で向かっている』

連邦軍と共同で一気に叩くことになっているようだ
クーデターを起こした反政府メンバーの制圧にどれくらいの時間がかかるかが重要だ
連邦政府は即時制圧の方向で多くの行政機関を動かしている。時間がかかると何が起きるかわからない
今のところ彼らの要求はベルカ州政府を聖王教会の傀儡政権にしたい。今更そんなことなど認められるはずがない。
だからこそ港湾パトロールがベルカ州に港湾パトロールベルカ基地がある
彼らにはベルカ州を守るという任務がある。

『ベルカ州西部地方では今は混乱が続いているようね。通信妨害を目的にE-767が展開中』

早期警戒管制機を運用して通信妨害を行うのは良いが問題はいろいろとある
今後の展開は予想することは極めて難しい。何が起きるかわからないからだ
最悪のシナリオも考えなければならないが、クーデター騒動を起こした反政府組織の制圧は重要になる
制圧さえ完了すれば港湾パトロールが主導権を握って騒動の決着をつかせることができるかもしれない

「それにしても今どきクーデターを起こすなんて驚きね」

『私も同意見です。ただ、こちらは常に最悪の事態が起きたとしても問題解決のために行うマニュアルがあるので』

「こちらもクラナガン市内で港湾パトロールが想定していることが発生した場合のマニュアルがあるのと同じね」

中央パトロールはクラナガン市内で大規模騒動が起きた時の対応方法を作成している
中央パトロールと港湾パトロールは管轄区域が違うだけでトラブル解決のためのマニュアルがある

『今はベルカ州の安全確保を最優先にして対応するわ。連邦国防省とも連携は密にして』

「それは当然の判断ね。今は問題が増えることは好ましくないという理由もあるから」

2人の意見はベルカ州にある脅威を早期に無くすことが求められることを理解しているからこその発言だ
安全保障の脅威は少なくすることがクラナガン捜査局の存在理由である。
そのためには必要な手はどんな方法を使って行動する


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西区南部区域サウスヒルズボロ地区2番街4丁目と8丁目の間の通り

エディ・サンチェス捜査官は不審人物が暴れている現場に到着する。
すでに西分署のパトロール捜査官が身柄を押さえていた

「SA38から中央本部。現場に到着。安全確保のために動きます」

『安全確保のために最優先で行動を。現在応援のパトロール捜査官が4名急行中』

エディはすぐに魔法デバイスで暴れていた人物の身元確認を行った
ある程度は予想できていたが大筋正解であった

「銃型魔法デバイス所持していた人物の身元判明。退役時空管理局員のエリバード・ツージ」

時空管理局地上本部に在籍していた。最後の階級は3等陸尉だ
麻薬を使用していることは腕の注射痕を見て明らかである
問題は何の麻薬を使用しているかが重要である。西分署のパトロール捜査官が身体チェックを行っていた
ポケットに粉末状の何かが入ったパケがあったので麻薬識別キッドで調べることにした
結果はコカインだ。それもかなり濃度が高いのか強い反応が出ていた
西分署のラボで分析を行うことが重要である

『こちら中央本部。SA38へ。ヒルズボロ地区にある自動車燃料給油所に向かってタンクローリーが接近中』

つまり安全が確保されないなら一時的に待機をしてもらうようにと、警告を出していた
自動車燃料は石油精製で得られたガソリンが使用される。
ちなみに車には排気ガスフィルターがあり、浄化されているので安全確保がされている
環境汚染になることは通常ではありえない。JS事件までは原油価格は低かったため燃料価格は安定していた
しかしヘッジファンドや投資会社が原油先物取引に多く参加したことで激しい値動きになっている
JS事件の前と後では全く異なる状況になっている。そのため自動車燃料価格は大きく値動きしている

『クラナガン原油価格は1バレル8000ミッドまで上昇』

ミッドチルダ連邦国内は豊富な鉱物資源や穀物資源などの多くの資源が存在する
さらに次元世界連合全加盟国では様々なリサイクルを行うことで資源の無駄遣いが無いような政策を行っていた
例えば鉄やレアメタルやレアアースなどといった希少鉱物のリサイクルもかなり高い数字であった
また電力発電では魔力精製炉発電が主力になっていたがJS事件後は状況が一気に変わった。
石油・石炭・天然ガスなどの鉱物資源開発が急上昇している
以前と違って資源開発が進んでいる。これはミッドチルダ連邦に限ったことではない
多くの次元世界国も同じ状況である。

『ミッドチルダ連邦政府は退役時空管理局員について過去に不正行為に関与していたかどうかについては調査を行うと』

『次元世界連合の時空管理局調査委員会も同様の声明を発表。不正行為には厳しく対応すると』

『連邦エネルギー省は資源開発企業が原油価格の上昇で備蓄原油の放出の検討をしているとの報告があったと』

石油や石炭などさまざまな資源開発についてはミッドチルダ連邦国内では、
連邦エネルギー省に増産や減産などを行う場合は届け出を出さなければならない
これは国内の資源価格の安定供給を行うためである。
もし届け出を行わなかった場合には連邦法で罰則がある

『クラナガン商務庁鉱物資源局にも安定供給に尽力すると報告があり、値動きが安定すると思われます』

クラナガン市政府機関にも連邦エネルギー省と同じような行政機関がある
そちらにも報告することが連邦法で定められている。ちなみにクラナガン市では多くの油田やガス田。
鉄鉱石の鉱物資源が豊富に確認されている。今は数多くの企業が資源開発を行っている。
それだけにクラナガン原油取引価格は市内の自動車燃料価格が決まる基準である
クラナガン原油価格は市内だけでなく、ミッドチルダ連邦国内の原油価格を決める大きな基準になる場合もある
なぜエディがそのような報道番組をチェックしているかは治安維持のためには常に最新情報が必要だからだ。
たとえ犯罪と直接結びつくとは思えない情報だとしても何かが作用して犯罪につながることもある
だからこそあらゆる情報を知っておくことが最も重要なのである

「今後の展開が恐ろしいな」

『西分署からSA38。騒ぎを起こしていた不審者の身柄は確保できたか?』

「現在パトロール捜査官が近くの地区事務所に移送中。なお身柄確保者が麻薬をやっていたのは間違いない」

エディはコカインの陽性が出たことを西分署に報告した
これからにエリバード・ツージの自宅の家宅捜索を行うための用意に入ると情報を送った
自宅にも麻薬があれば売人をやっていたかもしれない。
麻薬密売に関与していたなら犯罪組織とのつながりがあったかもしれない

『速やかに家宅捜索などを行って証拠確保を行うように。麻薬売人をさせていた犯罪組織の検挙まで行え』

つまり西分署は麻薬密売行為をさせていた犯罪組織の力を少しでも下げるために動けと言いたいのだ
そんなことはエディはわかっている。麻薬密売での資金が増えると犯罪組織は力をつけるだけである
犯罪組織に力をつけられるわけにはいかない。その前に資金源の供給を断たなければいけない

『中央本部からSA38。ウエストサイドの関係者からエリバード・ツージの銀行口座に5日前に500万ミッドの入金を確認』

これでウエストサイドとエリバード・ツージが関係していることは確認された
連邦法の犯罪組織対策法で情報開示やウエストサイドの拠点などの強制捜査の令状はとれる
ウエストサイドが証拠を抹殺する前に情報を押さえないといけない
彼らもバカではない。もうこちらが動いていることは把握しているはず
だからこそ素早い対応が必要なのだ

「SA38から中央本部。ウエストサイドに対する強制捜査のための令状手配を」

犯罪組織対策法で定められているブラックリストに登録されている犯罪組織なら素早く強制捜査の令状が出る
ブラックリストにはミッドチルダ連邦国内で活動している多くの犯罪組織が登録されている
登録される際には裁判所で審議が行われて登録される
もちろん登録されることを避けるために反対のために裁判に出ることも認められている。
実際のところはほとんどの犯罪組織は裁判で登録反対のために出廷することはほとんどない
審議にかけられるということはそれなりの理由があるため、
それと反対するとしても証明するための資料の提出が求められるからだ
犯罪組織対策法のブラックリストに登録されるということはそれだけの証拠がある
だからこそ登録されたとしても犯罪組織は無視の態度を決め込んでいる。
もし違ったとしてもそれを証明するのはかなり難しいことである
だからこそブラックリストに登録されるとはその犯罪組織は組織の情報が漏れないように必死になる

『中央本部からSA38。ウエストサイドに対する強制捜査令状の発行が完了。ウエストサイドの拠点に強制捜査を』

これで準備完了だ。あとは連中が証拠を抹消する前に押収できるかが最大の課題になる
市内のマフィアやギャングなどの犯罪組織の拠点は休むことなくクラナガン捜査局が監視している
少しでも奇妙な動きがあれば犯罪組織対策法で強制捜査を実行している
JS事件までは時空管理局地上本部からの妨害がかなりの回数を行っていた
これは犯罪組織や反政府組織が時空管理局とつながりがあったことを証明している

「犯罪組織の摘発は苦労する。連中も必死になって抵抗してくるだろう」

『西分署から報告。西区中央区域での停電の復旧に時間がかかる可能性があるとのミーミルパワーから報告あり』

ミーミルパワー社はクラナガン市内で送電網を整備して管理運用している。
この送電網はミーミルパワー社が運用している発電所で生じさせた電力だけでなく、
他の電力会社もミーミルパワー社の送電網を利用している
連邦法で送電網の設備を運用している電力会社が独占的に扱うことは認められていない
送電網を持っていない電力会社は彼らが発電所で発電した電力を送電網を運用している電力会社の送電網、
それを一定の手数料を支払うことで利用できるようにすることを連邦法で定められている
完全に独占することは認められないし独占禁止法で厳格な規則が定められている

「停電が長続きしなければ良いがな。早期復旧がないと強盗事案が増加する」

エディはため息をついた。問題が山積していることにだ
すでにノースクラナガン魔力精製炉発電所の発電出力が減少したことで、クラナガン市外から電力供給を受けている
これは別に珍しいことではない。発電所の定期検査で市内の発電所の発電能力が減少した場合に行われている

『中央本部から西分署へ。停電の原因についてミーミルパワー社から連絡あり』

停電の原因はクラナガン市内に張り巡らされている地下共同溝で火災が発生した影響であることがわかった
クラナガン市内では電気・ガス・上下水道・通信回線などのライフライン設備はすべて地下共同溝に設置されている
地下共同溝の情報はすべて機密扱いで、その情報を見ることができる者は限られている

『西分署から中央本部。現在消防隊が発火していた送電設備の消火作業は完了と連絡あり』

『こちら中央本部。停電による影響で事件発生の警戒を』

短時間でバックアップの送電設備を使って停電を解消するために電力会社は動くはずだが、
その停電が起きている短時間の間に事件発生が起きるかもしれない。
それゆえに警戒は怠るわけにはいかない

『令状で銀行口座を確認したところ、ウエストサイドのメンバーが関係がある企業の銀行口座に動きあり』

エディの携帯情報端末にその情報が送られてきた。
その企業は運送会社だ。その会社の銀行口座からに3000万ミッドの振り込みを確認した
何か違法な物を購入するために金を動かした可能性がある

「ウエストサイドは何を買ったのか確認しないとな。麻薬や銃を密売するつもりならかなり危険なことだ」

犯罪組織が何かを買うということは麻薬や銃火器を購入した可能性が高い
密売されたら市内に大きな危険をばらまいているのと同じだ

『連邦政府はミッド高を抑えるために金融市場安定化基金から700京ミッドを拠出』

『他次元世界国の通貨購入に踏み切ることを決定しました』

これによってミッド高を抑制する方向で話を進めるつもりである
しかし外国為替市場では多くの次元世界国の通貨が取引されている
1つの次元世界国だけの市場介入だけでどこまでの効果が出るかはわからない
実際のところはやってみないことには為替市場がどのように変動するかは想定できないのが現実である

『この情報を受けて通貨ミッドの値動きが少し勢いが弱まったところですが。今後の展開はわかりません』

『一方でベルカ州でのクーデター騒動ですが、ミッドチルダ連邦軍と港湾パトロールの部隊を派兵』

『クーデター行為にかかわった人物の身柄確保に踏み切ると連邦国防省は発表しました』

マスコミはベルカ州でのクーデター騒動に聖王教会関係者が含まれていることで騒いでいた
聖王教会による自治政権から選挙などで選ばれた政治家が動かす民主主義を行うことは当然だとも報道していた

「SA38から中央本部。ウエストサイドの拠点の監視はどうなっている?」

『現在市内にあるウエストサイドの拠点に強制捜査を着手。銃や麻薬の所持などで逮捕された人数はかなりになる』

引き続きウエストサイドの拠点と構成員の職質を行って安全確保に力を注ぐとのことである
治安に問題が出るような大きなトラブルを起こさないようにするために備えをしているということだ

「他の犯罪組織との衝突が起きる可能性はあるのか?」

『現段階では確認されていないが、警戒を呼び掛けている。念のため港湾パトロール安全保障局とも連携して対応中』

情報機関である港湾パトロール安全保障局と対応しているということはあらゆる事態に対応できる準備はしている
そういうことを示しているのだ。情報機関と連携しないと市内だけでなく近隣州にも影響が出るかもしれない
そこまで予想ができているという意味でもあるのだ。ある意味では心強い味方がいると言える
今はウエストサイドが他の犯罪組織と抗争を起こさせることはダメだ
組織の力を奪って抗争ができないように。
一時的でも良いのでクラナガン捜査局がストッパーになる形で動かないといけない


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東区東部区域港湾パトロール本部基地 中央区域 港湾パトロール本部庁舎 地下統合司令センター

アーク・レイリ統合軍司令官はベルカ基地のレパーズ・サットン統合軍司令官と情報共有をしていた

『こっちはベルカ基地に配置されている港湾パトロール海兵隊を1000人以上を派兵する』

すでに次元世界連合が承認しているので自衛権の行使という理由も存在する
つまり軍事侵攻するようなことは問題ないということだ
17,000t級魔力精製炉型潜水艦[ 艦船形式:オハイオ級原子力潜水艦 ]に搭載されている中距離弾道ミサイル
その潜水艦からの弾道ミサイルを発射することはできる。
17,000t旧魔力精製炉潜水艦には最大射程5000kmの中距離弾道ミサイルが24基搭載している。
弾頭はあくまでも高性能通常爆弾である。弾道ミサイル発射権限は連邦大統領にしか与えられていない
クラナガン捜査局であっても次元世界連合全加盟国が結んでいる国際条約で魔力爆弾の開発・運用は認められていない
つまり次元世界連合全加盟国で魔力爆弾の製造・研究・運用は禁止されている。魔力爆弾の威力は核兵器と等しい。
ただ違うのは核兵器と違って放射線などの放射能汚染を生み出さない『クリーンな大量破壊兵器』であることだ
クリーンな大量破壊兵器。結局のところは死亡者が出てしまう。戦闘に綺麗も汚いもない。
結局のところは犯罪者と言っても裁判を受けさせて法の下での裁きが必要なのだ

「こちらでは港湾本部基地に配置されている中距離弾道ミサイルの発射に備えての準備を行っているところよ」

ただし大統領の決断が出るまでは待機なのはわかっているわよねとレパーズに伝えた
港湾本部基地には10基の中距離弾道ミサイルを配備している。他の基地には弾道ミサイルは配置されていない
あとは港湾パトロール艦隊に属する17,000t級魔力精製炉型潜水艦の6隻に配備されているだけだ

『アンナ・ランシング大統領が発射を行うようなことはあるのか?』

「今のところはないけど、いつどうなるかはわからないわ」

レパーズはランシング大統領がすでに発射するための用意に入っているのかを知りたかったのだ
だが現状ではそういう命令や気配があることは確認されていない
弾道ミサイル発射は最後の手段なのだ。簡単な決断でするわけにいかないことは軍事関係者は理解している

『こんなことになることは想定されていたが、聖王教会過激派も無茶なことを。こっちの迷惑も考えてほしいな』

こういう事態の対応マニュアルは用意されているが実際に使うような機会が来るとはだれもが思わなかった
まさか聖王教会過激派が生まれて、本気でクーデターを起こすような極めてリスクの高いことをするとは。

「人工衛星と偵察航空機でベルカ州西部地方の魔導師の活動は監視しているけど」

2つをうまく運用することで正確な情報をつかもうと港湾パトロールは必死に行っていた
クーデター騒動を起こしたのがどれだけの人数になるかなど、
今後の地上戦になったときに備えて情報収集はしなければならない

『SA11から港湾本部。応答を』

そこにラジェットからの無線連絡が入ってきた。何か緊急事態が発生したのかどうか
気になるところであることは間違いない。

「アーク・レイリ統合軍司令官よ。ラジェット。何か問題が起きたの?」

『トラブルの可能性があるか通信傍受しているかの確認をしたい。港湾パトロール安全保障局に問い合わせを』

「すぐに行うわ。何か問題があるようなら迅速に行動を開始する」

『できるだけ急いでくれ。もしかしたらということもあり得るからな』

ラジェットは懸念していた。機動六課組を抹殺すればすべて片付くと思っているような危険人物、
そういう危険人物が集まって作られた組織などがあるのではないか。
もし狙われてたら最悪の結果になるかもしれない。問題を回避するために必要なことである
アーク・レイリ統合軍司令官はすぐに港湾パトロール安全保障局にラジェットに関連する情報が入っていないか
それについて詳細な情報が入っていないかを確認した

『現在、こちらでもあらゆる方法で情報収集を行っています。問題があればすみやかに報告する』

「ラジェットの命が絡んでいるのよ。おまけに彼には機動六課組の責任も半ば強引に丸投げしている」

何かトラブルがあれば私の責任になることが想定されると伝えた
港湾パトロール安全保障局は可能な限り情報収集を継続して確認すると

「あとは彼らの仕事ね。できれば何もなければ良いけど期待はできないわ」

そう。それは誰もが思っていることだが現実というのは厳しい。
いつ何か起きるかはいつでもわからない。
起きてしまったことには素早く対応できるが、未来を予想することはできない
だから備えを常にすることは重要なのである

『マリネット州政府から情報。ベルカ州からパイプライン輸送で送られてくる原油・天然ガスが減少中との報告あり』

マリネット州の西隣の州であるベルカ州からは石油・天然ガスがパイプラインを通じて供給されている
原油の輸送に鉄道などを使わずパイプラインでマリネット州に送ることでコスト削減につながるからだ
全てを貨物列車で運搬していた運行する列車を大幅に増強しなければならないので、
最小限にするために石油と天然ガスをベルカ州外に輸送するためにパイプラインで運んでいる
原油は1日に最大300万バレル。天然ガスは1日に最大300億立方メートルになる
ちなみにマリネット州でも豊富に石油・天然ガスなどの様々な鉱物資源の採掘が行われている
ベルカ州に頼ることはないが、パイプラインの輸送がベルカ州から送られてこないと
ベルカ州とマリネット州の商品取引所で先物価格が上昇することにもつながる
資源価格の上昇は大きな影響が出てくる。資源価格が上昇すると資源に関係する様々な石油製品の上昇につながる
影響は連鎖反応するかのように次々と出てくるのだ
すぐに別の何かの大きなトラブルの前触れなのかの確認作業を開始した
もし新たなクーデター騒動なら大問題になることは確実である
その時に連邦政府大統領府の報道官が記者発表を行うとの情報が入ってきた
アーク・レイリ統合軍司令官はその記者発表を確認することにした

『連邦政府はミッドチルダ連邦国内の州政府に対して原油備蓄基地の整備を行うように命令すると』

石油備蓄は連邦政府とクラナガン市は当然のことで行われている
しかしミッドチルダ連邦のほとんどの州では州政府による備蓄は実施していなかったが
今年に入ってからミッドチルダのほぼすべての州で原油や自動車燃料などの石油製品の備蓄を行い始めている
その影響はすぐに国内のすべての州に設置されている州商品取引所の原油価格に出ている
一時的とはいえ、商品市場から多くの原油などの奪い合いが行われるような状況になっているからだ
あくまでも一時的なことなので長期的な目で見ればいつかは安定してくることはわかっている
それでも投資会社などのヘッジファンドは預かっている資金を動かして商品取引市場に大きな影響が出てくるだろう
今後の展開には厳しく注視することが求められる。
連邦政府の石油・石炭・天然ガスなどの備蓄している鉱物資源を商品取引市場に出すことで、
市場価格の変動を抑えるために動くしかないケースも存在することは事実である

『一方でクラナガン市政府は連邦政府と連邦準備銀行が行う市場介入に協力する意思があると市政府報道官が発表』

クラナガン市政府には連邦政府が持っている基金などと同じものがある。
万が一に備えて外貨準備も保有している
市政府が抱えているものは他次元世界政府が発行した国債を中心に約500京ミッド
また財政黒字の時に積み立てを行ってきた財政基金が2000京ミッド。最悪の事態に備えて資金を抱えている。
財政赤字に入ったときは財政基金から赤字分を一定金額を限度に市政府予算に組み入れる

『クラナガン市政府が金融市場に対外債権基金の評価額500京ミッドの中で一部の債権を金融市場に売り出すと』

クラナガン市政府にとっても市内の過剰な好景気がバブル景気に発展すると事態の収拾することは難しくなる
バブル経済の反動を最小限にするためには金融市場から通貨供給量を少しでも減少させることが求められる
そういったことは連邦政府と連邦準備銀行の役割だが、クラナガン市政府はほかの州政府と異なり特殊な街である

「今は投資会社は資産運用会社が少しは冷静になれば良いけど」

急激な値動きになれば国内のあらゆる金融市場に影響が出て好景気から不景気に急速になっていく
変動の影響を最小限にするためにはあらゆる政策を実行しなければならない

『時空管理局の暗部とされていたHRという組織ですが、次元世界連合の調査で詳細な情報は不明なままです』

HR。それは時空管理局の暗い部分である。
さまざまな犯罪行為や時空管理局にとって都合の悪いことが起きるためにあらゆる方法で抹消してきた
まさに時空管理局のブラックホールと言っても良いだろう。
HRが多くの時空管理局にとって都合の良い世界を作り出すために汚いことを行っていたことは事実だ
時空管理局の規模と権限が大幅に削減されたことでHRは力を失っている
おまけにHRが関わったとされるくらい歴史が表舞台に出されてHRの関係者が拘置所で隔離されている
次元世界連合は真実を明らかにするために時空管理局調査委員会であらゆることを調べ上げている
どんな小さな暗やみであってオープンにして真相解明に全力を注いでいる
クラナガン捜査局もその調査に大きく協力している。
特に時空管理局と聖王教会の関係についても調べている
本局と地上本部の間で連携ができていなかったため、互いに連携しないで作戦を進めることもあった
連携していれば負傷者や殉職者を出すことがないこともあったはずだ
時空管理局の利権争いや権限の無断行使を行って犯罪を取り締まる側なのに実行する側になっていることもあった
本当に汚い組織である。今はあらゆる角度から時空管理局を調べ上げている
特にHRなどの根深い時空管理局の暗部の活動情報は入念に確認している
小さなことでも暗やみに光を当てることで闇の中を見ることができるかもしれないからだ

「マリネット州にベルカ州で採掘された原油や天然ガスのパイプライン輸送がカットされることになったら問題になる」

マリネット州でも原油や天然ガスの採掘は行われているので即座に影響が出ることはない。
だがマリネット州商品取引所での先物取引に影響が出ることは経済市場関係者なら理解する
影響が波及する前にトラブルを解消して問題解決をしなければならない

「ネース統合軍司令官、ベルカ州からパイプラインの安全確認確認と供給に問題が出ないかを早急に調べて」

アーク・レイリ統合軍司令官はマリネット基地の統合軍司令官のアクラ・ネースに伝えた

『すでに取り掛かっているわ。問題解決のために全力を注いでいるから短時間で解決できるかもしれないけど』


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中央区中央区域セントラル地区2番街 ホワイトハウス(ミッドチルダ連邦大統領府)

『次元世界連合事務総長のラビット・ボード氏は緊急記者会見を開催』

『聖王教会だけでなく次元世界連合全加盟国の時空管理局施設の強制捜査を指示しました』

次元世界連合全加盟国にある聖王教会だけでなく時空管理局の支部などの関係施設への強制捜査を認める
時空管理局は次元世界連合の下部組織であるので次元世界連合が強制捜査を認めたなら、
次元世界連合全加盟国は各国の裁判所に捜索令状を求めなくても強制捜査をすることができる

『この指示に現時空管理局長のジョセフ・ボナパルトは次元世界連合事務総長の指示に従って調査を行うと回答しました』

今でも時空管理局の現役局員の身辺調査は厳しく行われているのに、さらに厳格な基準で調べるのは簡単ではない
だがそれをしないわけにはいかないのだ。時空管理局は次元世界連合の傘下の組織なのだから
次元世界連合の命令を無視することは許されない。
ミッドチルダ連邦大統領であるアンナ・ランシングは報道番組を大統領執務室で情報端末で見ていた
室内には連邦軍統合参謀本部議長のアレストル・ハンパース大将。
国家安全保障問題担当大統領補佐官のマディソン・ビュローがいた
ミッドチルダ連邦の安全保障に関する協議を行うために集まっていたのだ

「連邦軍はすでにベルカ州西部地方に向かっているのね?」

「連邦海兵隊がベルカ州の西隣州の連邦軍基地と港湾パトロール海兵隊が東から挟む形で武力行使を開始しました」

アレストル・ハンパース大将の報告を聞いて、ランシング大統領は軍事侵攻は避けたかったと考えていた
クーデターを起こした集団は何としても身柄確保を行って法の下で裁判を受けさせなければならない

「ベルカ州のクーデターの影響で質量兵器監視機構が兵器の売買を認めた10社の株価は急上昇しました」

マディソンの報告にランシング大統領は当然のことだと理解していた
今後、武器の製造と販売を認めた企業には銃火器・軍艦・戦闘機などの様々な兵器が製造されて売買されるからだ
多くの次元世界国では承認を得た企業から大量の武器購入が行われることは間違いない
その企業の株価が急上昇するのは決まっている。魔導師でなければ時空管理局員として活動できない部門は多かった
特に防衛や警察などの法執行機関に関する権限の大部分は時空管理局が握っていた
今は地上の警察権限や自衛の軍事部門の設立が新たに発足した次元世界連合が戦争は認めないが、
自衛権行使という制約を守ることができれば軍の設立が可能である

「時空管理局の大量リストラの影響は大きいです。退職金や年金が受け取れず大きく動くことも」

退役後に受け取るはずだった年金も資金の運用に失敗してほとんどもらえていないということだ
生活費を稼ぐために犯罪行為に加担することはミッドチルダ連邦だけでなく次元世界連合全加盟国で同じ
多くの次元世界国では退役時空管理局員が不正行為に関わっていないかどうかをあらゆる角度から調査している
犯罪行為などの不法行為を行っていたものはあまりにも数が多すぎた
それだけに捜査が追い付かない状況になっている。ミッドチルダ連邦でもかなり厳しい状況だ
多くの警察組織が退役時空管理局員の身元確認を行っている
ミッドチルダ連邦では連邦捜査機関や州政府や郡政府や市警察など、あらゆる法執行機関が連携捜査をしている

「生活に必要な資金を失い、手段を問わずにお金を確保するために動く可能性は極めて高いです」

マディソンは大量リストラされた影響が極めて高いことを包み隠すことなく報告した
大統領はその報告を聞いて大きなため息をついた。何が起きるか想像できないからだ
クラナガン市内でもクーデターが起きるかもしれない。リスクを予見することは重要である

「大統領。連邦軍はすでにベルカ州西部地方でクーデターを起こした反政府メンバーの確保と治安維持に全力を注ぎます」

アレストル・ハンパース大将は何があろうとベルカ州のトラブル解消のために、
動かせる方法があるなら法で認められる範囲をフル活用して対応すると報告。
連邦軍と港湾パトロールの部隊が共同作戦を展開するということだ

「ベルカ州の安全を守るためには全力で行動を行うように」

アンナ・ランシング大統領はそう伝えると地下にある危機管理センターに向かった
大統領とともにアレストル・ハンパース大将とマディソン・ビュローも行動を共にした
危機管理センターはミサイル攻撃を受けても大丈夫のように通常よりも深い地下スペースになっている
連邦軍と港湾パトロールの部隊の指揮命令をすることができる最新システムが導入されている
連邦行政機関があるセントラル地区と近隣地区は専用の通信設備が整備されている
ここも共同溝と同じだがアクセスすることができるのは極めて少なくて限られた人物しか構造を知ることはできない

「大統領。クーデターを起こした反政府組織が声明を発表しました」

マディソンが携帯情報端末でその情報をすぐに確認して危機管理センターのモニターにその時の映像を映し出した
言うまでもなく彼らの狙いはベルカ州政府の解体と聖王教会の自治区に戻すことだ
はっきりとしたのはこの件に聖王教会で自治を行っていた幹部が絡んでいること
自らの自治区に戻すことで聖王教会自治区時代に得ていた利権を欲している

「どうします?」

「聖王教会の教皇を務めているカリム・グラシアに対して武装解除するように働きかけを」

聖王教会では上層部の人間が次々とFBIや州警察。
おまけに次元世界連合の聖王教会調査委員会によって取り調べを受けている
聖王教会が過去に多くのトラブルをもみ消してきたことが発覚したからだ
教会の運営に必要な資金も寄付や聖王教会が傘下に入れていた企業の利益から得ていた
その傘下の企業も大部分はベルカ州政府やベルカ州証券取引所に株式を売却した
一時的に資金を獲得することはできたが継続的な業務を行うには資金不足に陥った
聖王教会が発行していた聖王教会債はデフォルトに陥った。聖王教会債の残高は1京ミッドにもなる
JS事件が起きる前には安定債権と扱われていたので格付けランクは『AAA』だった
今は最低ランクになっている。聖王教会の財政は以前は100兆ミッドだった
事件後は寄付が大幅に減少したことで40兆ミッドになった。教会は様々な財産的価値があるものを売却
そこまでしたが今年の予算で20兆ミッドも不足している。聖王教会債の返済も滞っている
組織としてはかなり大ピンチになっている。
聖王教会はミッドチルダ連邦政府に破産申請をする方向で議論が進んでいる
ないものは仕方がない。どうにもならないならもう破産する道を選ぶしかないのだ
だからこそ聖王教会が自治権を持っていた時代に戻したいと考える過激派が存在する

「それと次元世界連合の聖王教会調査委員会にクーデターを実行したのは聖王教会過激派であることを連絡」

これで聖王教会本部についても強襲することが容認される可能性が高まる
ベルカ州中央地方ベルカ市の郊外にある聖王教会本部の強制捜査の実行を伝えておく
そうすることで聖王教会過激派の行動にブレーキを効かせることができるかもしれない
実行可能な作戦があるならあらゆる事態を想定して行動開始をしなければいけない

「次元世界連合安全保障理事会に聖王教会の活動停止命令を出すように審議を」

安全保障理事会で聖王教会の活動を停止させることで、クーデター行為で動いている教会関係者を絞り込むのだ
問題なく活動している聖王教会関係者には施設内で事実上の軟禁にする
別に現段階で新たな決議を求める必要性はない。
すでに安全保障理事会で各次元世界国の聖王教会支部への強制捜査の承認を得ている
ただ、ランシング大統領はバックアッププランを実行することを考慮に入れて、
必要なら別の作戦を練ることが求められることをよく理解していた

『ピーピーピー』

アンナ・ランシング大統領の携帯電話に着信が入ってきた。
通信発信者はアンナ・ランシング大統領の娘の1人であった。大統領の娘は2人いる。
どちらも港湾パトロールに所属して軍事活動の任についている
発信者は港湾パトロール海兵隊で大佐をしているセイリーン・ランシングからであった
もう1人の娘は港湾パトロール艦隊で少佐をしているアーリン・ランシングだ
アンナ・ランシングが大統領になったときにホワイトハウスに異動するように、
大統領権限を使って工作を行おうとしたが見事に失敗した
一時期は完全に連絡が断絶するほどの状況だったが今は改善している
それでも港湾パトロールで任務に就くことを選択した。
護衛がつくことが予定されていたが2人とも有能な指揮官であり戦闘兵である
むしろ護衛がつく方が余計に視線が行くことになる。
それを避けるために2人は港湾本部基地にある宿舎で共同生活をしている
基地内であれば簡単に侵入できない。2人の階級は数多くの勲章や階級は今までの歴戦の成果だ
大統領の娘だからと言ってそういう視線で階級になったわけではない。全て実力で上がった

「セイリーン。大丈夫なの?今連絡をして」

『今だから大統領に報告を』

母親のことを大統領と呼ぶときは仕事として連絡することが目的であることを母親である彼女は理解している
アンナ・ランシングは何かトラブルでも起きたのか確認すると、
これから戦闘に入ると母親であるアンナ・ランシングに伝えたのだ

「状況はどの程度なの?」

『こちらは間もなくベルカ州西部地方にC-130Jを使って入るところです』

C-130Jは港湾パトロール飛行隊第112輸送飛行隊が運用している輸送機だ。
港湾パトロール海兵隊は飛行隊と連携して共同作戦を実行することは頻繁にある
港湾パトロール海兵隊地上戦闘部隊に対して飛行隊は戦闘機や爆撃機を運用している
海兵隊独自で航空輸送機の運用はしていない。

『ベルカ州西部地方ではベルカ基地の港湾パトロール海兵隊がすでに先頭に入っていると報告を確認』

事実上の戦闘状態に入っていることは明白である
これはまだ未確認の情報ですが、州政府施設の警備体制の強化を実施中という報告も入ってきた
もし州政府施設がクーデターを起こした人物たちに抑えられtら大問題になる
そうなる前に抑えることは重要なことである

『ベルカ州西部地方では魔力精製炉発電所が停止しているので停電状態が継続中。電力供給は州西部地方は全くないと』

ベルカ州西部地方の電力供給の復旧にどれくらいの時間がかかるかはわからないことは事実だ
もともとベルカ州は魔力精製炉発電が主電源だ。今は火力発電所が大量に建てられている
今の技術なら火力発電所から惑星大気汚染物質や温暖化排出ガスの排出は専用のフィルターでほとんどない
仮に出たとしても厳しい環境保護装置のおかげで排出ガスはほとんどない

「停電復旧の見込みはどうなの?」

『ベルカパワー社によると不明と。送電ネットワークから切り離された影響で』

つまり送電設備に損傷を受けたか。
あるいはベルカ州西部地方に電力供給を担っている発電所か変電所がダウンしている
そういう事であることは間違いない。復旧にはかなりの時間がかかることは確かである
アンナ・ランシング大統領は何か新しい情報があれば報告してもらえるのか質問したが、
それはわからないと答えられると通信は終了した

『ベルカ州上下議会で最も最大議席を確保しているベルカ自由党が緊急の声明を発表』

ベルカ自由党は自治区政治から民主主義政治を求めて州内で武力活動していたベルカ解放同盟、
その武装勢力は武装解除することで大規模な恩赦などを受けて彼らが政治になった人物が中心に組織した政党である

『アルス・トーシン州知事は港湾パトロールベルカ基地に存在している爆撃機の準備を求めたことを発表』

連邦大統領が承認すれば空爆を即時展開するという意味である
州内の災害対応に関しては州知事の権限だけで行える
だが戦闘行為を行う場合には最高司令官である連邦大統領の管轄である

『ベルカ州商品取引所でベルカ州西部地方で採掘されている石油や石炭の先物価格が急上昇』

ベルカ州西部地方では豊富に石炭や魔力精製炉で使用される魔石燃料の採掘が行われている
州内で様々な種類の燃料を使った発電所の建設・稼働ラッシュになっている
魔力精製炉発電所に頼るだけでは電力の安定供給ができない恐れがあるからだ

『州内で採掘されている鉱物資源の先物価格が上昇すれば影響は連鎖することになるかもしれません』

資源価格が上昇すれば電気代やガス代も上昇することになる
おまけに自動車燃料代も上昇してくるので、様々なコストが上がってしまう
州内の経済に大きな影響が出ることから影響を最小限にするために州政府は様々な政策を実行しなければならない

『州政府が設立したベルカオイルカンパニーは独占開発のノースウエストベルカ油田とガス田の日産を増産すると』

ベルカ州内の原油価格が上昇するなら最大限州政府として対応しなければならない
ノースウエスト油田では日産最大200万バレル採掘できる。
ここで採掘された原油はパイプラインでノースベルカ湖付近にある工業地帯に運ばれる
ベルカ州内は自治区内から鉱物資源開発がほとんど認められていなかった。おかげで豊富な資源があった。
州政府に移行後は州政府などに開発権益費を支払うことで環境基準さえ守れば資源開発が自由にできる
州政府も独自の石油や天然ガスの開発を独占的に行っている
州内のエネルギー資源開発の中で安定供給を目指している。
民間企業にすべて任せていたら一時的な資源価格高騰が起きるかもしれないからだ
だからこそ州政府傘下の企業が必要なのである

『ノースウエストベルカ油田の減産の発表を受けてベルカ州商品取引所の原油先物価格が大きく上昇』

『また州内の電力供給を行っているベルカパワー社の株価は20%も上昇しました』

ベルカ州内の電力供給を行っているのはベルカパワー社がメインで行っている
以前は聖王教会の関係企業だったが、聖王教会の維持費用のためにベルカ州証券取引所に株式を売却した
今はベルカ州政府が筆頭株主になっている。
州内の発電はベルカパワー社だけでなくミーミルパワー社も発電所運営を行っている
そのほかにも発電事業を行っている企業は多く存在する。
ベルカ州内の送電網は近隣州の送電網とは常時連係しているわけではない
州内の発電能力で不足した場合は近隣州から電力供給ができるように送電網の構築ができている

『ベルカ州西部地方で起きたクーデターの影響で州西部区域の電力供給が停止。今後の動きについては協議を行うと』

『ベルカ州商品取引所の資源価格上昇を受けてクラナガン商品取引所でも石油や石炭などのエネルギー資源価格が上昇』

『JS事件後から少しずつエネルギー資源価格の上昇がありましたが、さらに上昇基調になると思われます』

その報道番組をアンナ・ランシング大統領は問題が大きくならなければ良いがと思っていた
国内のすべての州に設置されている州商品取引所での石油・天然ガス・石炭などの資源価格が上がれば、
物価の値上げになることが容易に考えることができる。

「ベルカ州は豊富な鉱物資源があるから、資源開発が大きく進んでいるようね」

それだけに聖王教会過激派は権力を取り戻すために必死なのだ
今までの自由にしていた自治政府による権力と権益が欲している

「でもベルカ州はクラナガン市とは近隣州だから農作物が数多く出荷されている。農作物の先物価格上昇の警戒を」

ベルカ州の主な産業は農作物の生産だ。
自治区時代からクラナガン市にとっては市民の食生活を支える重要なところであった
国内の経済に影響が出ることは間違いない。通貨為替に関する取引で大きな動きが出ることは間違いない
通貨ミッドのミッド高から状況が変わることは間違いない。
ミッドチルダ連邦政府が為替介入に踏み切ることで、どれだけの効果が出るかは実行しない限りわからない
為替介入を1度始めたとしてもどこまで効果が出るか。


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中央パトロール本部庁舎 9階統合管理官執務室

エリはクラナガン市内の治安状況を確認していた
エリの電話の相手はマリネットに設置されている港湾パトロールマリネット基地の統合軍司令官をしている人物。
名前はアクラ・ネース統合軍司令官である

「間違いないのね?」

『ベルカ州とマリネット州を結んでいる原油と天然ガスのパイプラインが機能停止。状況は深刻よ』

ベルカ州にとっては死活問題だ。ベルカ州から原油輸送するにはパイプライン輸送が重要だ
それが停止すれば原油採掘そのものも止めなければならず、原油価格の上昇にもつながる
素早い対応が求められる。パイプライン輸送による原油供給が断たれたとしても、
マリネット州オークレアミーミルコンビナートには2億バレルの原油備蓄がある
マリネット州では即座に石油製品の製造に影響はすぐには出ない
それでもマリネット州やベルカ州の商品取引所での原油価格が値上がりなることは間違いない

『マリネット州商品取引所の原油先物価格が上昇すれば、マリネット州の経済に影響は出ることは間違いない』

アクラ・ネース統合軍司令官の言っていることは確かな情報だ

「機能停止の原因はわかっているの?」

『ミーミルエネルギー社からの報告によるとパイプラインの運用システムへのハッキングであると』

こういうことは珍しいことではない。
不正アクセスで利益を得ようとする人物や組織が存在するのは事実なのだから
だからこそ電気・ガス・上下水道・通信回線などのライフラインの管理運用については厳重警戒がされている

『マリネット州にも石油や天然ガスが埋蔵されている。資源開発も進んでいるからどの程度の影響が出るかは不明だけど』

そう、マリネット州でも石油や天然ガスがあるためベルカ州からの供給が途絶えても長時間は無理だが、
ある程度は持ちこたえることはできるけど今後の展開は想像できない
実際のところは起こってみなければわからないというのが事実なのだ

「マリネット州議会の状況はどんな様子なの?」

『マリネット州知事からは州内の安全を第1で行動するようにとの要請を受けている』

州知事もこのパイプラインの機能停止による影響が極めて深刻なことであることはわかっている
影響がどれくらい出るかわからないことが危険である証なのだ
ただ、マリネット州内の電力供給でメインになっているのは水力発電所だ
州内には数多くの河川と豊富な水量があるため水力発電所が数多く設置されている
州内の電力供給量の50%は水力発電での供給が主力である
水力発電がメインであるため、他の州と比較すると需要者が支払う電気代はほかの州と比べると安価で契約できる

「ベルカ州とマリネット州を結んでいる鉄道路線はどんな感じなの?」

『今は単線で運行されているけど複線化の工事が進んでいる。鉄道を利用した貨物輸送は増加することは間違いない』

ベルカ州から近隣州へと移動する際に利用されている鉄道路線の大部分が単線であった
しかし今は複線化や信号場の工事が大急ぎで進んでいる。すべては貨物列車の運行本数を増強するためだ
ベルカ州では大きな発展が進んでいる。州内では多くの工場が建設されている
その工場で生産された製品は州内だけでなく近隣州に貨物列車などの鉄道路線を利用して州外に運ばれる
そのためベルカ州内では求人倍率が大幅に高まり工場で仕事を求めて多くの人々がベルカ州内で生活をしている
好景気どころかバブル経済になるのではないかとベルカ州政府は懸念している。
州政府としてできる範囲で金融引き締め政策を実施している
ベルカ州政府は増税に踏み切ることを検討していた。連邦政府は消費税を10%になっている
そのほかに州政府や郡政府や市政府が消費税を課税している。
クラナガン市の場合は消費税は市政府として10%を加算している
つまり連邦税と市税をプラスした消費税は20%となっている
クラナガン市政府が10%と高い消費税を設定しているのはクラナガン市内の景気があまりに良すぎるからだ
市法では景気が悪化した場合は市議会の半分以上の市議会議員が賛成したら、
即座にクラナガン市政府が課税している消費税を大幅に引き下げを行うことができると定められている
今はあまりにもクラナガン市内の景気が良すぎるのでさらに市消費税を上げる議論が市議会で存在する

「クラナガン市議会の財政・税制委員会は論争が激しいことはよくわかっているわよね?」

『マリネット州議会も同じの形になっている。増税することでバブル景気になる前にブレーキをかけさせようとしている』

ミッドチルダ連邦のほとんどすべての州で景気は極めて良好だ
バブル景気にならないように連邦政府はもちろんだが、州政府も対応に追われている
景気に少しのブレーキを効かせようとあらゆる方法を試そうとしている
連邦政府と連邦準備銀行は通貨供給量の減少などの金融政策を。
州政府などが最も有効なのは消費税などの増税だ。増税することで対応しようとしているが簡単には進まない
増税をするということは次の選挙で当選できる確率は下がってしまう。有権者は増税を望んでいるわけではない。
そんなことをすれば連邦議会や州議会などの様々な議会選挙で落選することを考えると政治家は難しい判断を迫られる。

「政治家にとっては難しい決断ね。不景気になるのは嫌だけど、景気をコントロールするための増税をすれば落選するかも」

エリは苦労するのは政治家の仕事だけどとある意味ではこちらは関知しないという様子で話していた

「とにかくパイプラインの機能停止を正常運転になるようにサポートを。そのために港湾パトロールがあるのだから」

そして私たち中央パトロールはミッドチルダ連邦の首都であるクラナガン市をあらゆる敵から守る
それが私たちができる戦いであると話した


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南区北部区域ビューロー地区1番街3丁目 クラナガン市政府第3合同庁舎 61階クラナガン市長執務室

サンディ・マウント市長は危機管理補佐官をしているゴギー・ビックと今後の市としての対応方法を協議していた
室内には市長首席補佐官であるクロウ・フォード。さらにクラナガン市財務長官のイオスコ・マコーム
都市開発長官のモンロー・ルースもいた。市財務庁と都市開発庁のトップだ
都市開発庁は市内のライフラインや道路や建物などの都市計画を担当している
クラナガン市では市政府の承認なしに住宅地の建設などを含む都市開発は認められない
不動産バブルを抑止するための行政機関である。

「市長。すでに消費税は20%となっているのでこれ以上の引き上げは問題になるかと」

財務長官のイオスコ・マコームは増税については否定的な立場だった

「そうね。これ以上の引き上げは市議会では無理ね。彼らも有権者たちに説明しなければならない」

クラナガン市のトップである彼女にもいろいろと金融政策や財政政策を行わなければならない。
バブル経済にならないようにしなければならい。人口が数億人のクラナガン市でバブル経済になれば大きな問題になる
反動は最小限にしなければ、市内の経済に大きな影響が出てくる。
人口が数億人の街であるクラナガン市で不況になれば、厳しい政策をしなければならない
クラナガン市だけの影響だけでなく近隣州への影響も出てくる。
クラナガン市長というのはほかの州の州知事や市長とは違って極めて大きな責任がある

「クラナガン捜査局の予算を増額する事で市上下院の司法消防委員会の議員が進んでいることについては?」

クラナガン捜査局の予算は連邦政府・クラナガン市政府・港湾パトロールの基地がある州政府が予算で成り立っている
クラナガン市が直接介入することができるのは主に中央パトロールについてだ
港湾パトロールについては連邦政府が多くの権限を握っている。軍事部門は連邦政府が権限を持つのは当然である。
ミッドチルダ連邦という国家を守るために組織されたのだから
もちろん災害対応などの権限については港湾パトロールの基地がある州には一定の権限が連邦法で認められている
しかし軍事作戦などを行うのは中央政府であるミッドチルダ連邦側にあるのが当然だ
クラナガン捜査局の予算を組み立てるときは大きな問題になることは珍しいことではない
JS事件までは時空管理局があらゆる方法で妨害工作を行ってきた。
それでも何とか存続させるために苦しい条件下であっても認めるために多くの政治家は動いていた
今は立場は大きく逆転して時空管理局の方が予算を決める時には、
次元世界連合の調査があり厳しい立場に追い込まれている。流れが大きく変わってしまったのは事実なのだ

「不動産バブルになる可能性はあるの?」

その質問に着工に向けての建設陽性が増加していることは確かですと、
都市開発長官のモンロー・ルースが報告した。建設は主に住宅などを中心したものだ
住宅だけでなく商業向けの店などの物件に関しても建設要請が増加していた

「市内では多くの建設認可を待っている件数はかなりになります」

建設を行うには都市開発庁の承認が絶対条件となっている。
都市開発庁はゴーストタウンにならないように厳しく審査を行っていた

「建設許可についてはバブル経済にならないように警戒しながらも、一定の建設許可を」

過剰な建設許可はバブルを生み出すことになる。
建設許可を大幅に削減すると都市計画に大きな影響が出てくる
微妙なバランスを維持することが都市開発庁が求められる。
少なすぎず多くなりすぎずのバランスが必要なのだ

「都市開発庁としてバブル経済にならないように一定の審査を行うという名目で調整を」

サンディ・マウント市長はそういうと都市開発長官のモンロー・ルースを退室させた
残る議題はクラナガン捜査局への予算についてだ。連邦政府との調整が必要な難しいかじ取りが必要になる
クラナガン市長は連邦政府と常に協調した歩みが求められる

「クラナガン捜査局の予算は去年に比べると減少傾向にある」

イオスコ・マコーム財務長官は来年のクラナガン捜査局の予算案を定めるために準備をするために来ていた
クラナガン捜査局の予算に組織構築や様々な装備品の新規購入は大幅に削減できる
すでに大部分は新規で割り当てる必要性は急ぎの物はほとんどない
今後は継続的な設備運用のために必要な予算編成を中心となる

「ユウ・ミズノ捜査長官も来年の予算は新規システム導入に関する編成は削減できると報告を受けている」

サンディ・マウント市長は港湾パトロールに在籍していたことからそういった情報は最新の物を入手していた
クラナガン捜査局の予算で今まで多くを占めていた新規物品購入費が大幅削減ができる状況。
そのため、今後は人件費や設備維持などを基本としたものが中心になる
ちなみにクラナガン捜査局の給与基準は低い水準になっている。
給与額が決まるのはクラナガン捜査局で取得することができる資格などによって資格手当がある
基本給は低いが住宅に関してはクラナガン捜査局は市内のいたるところに独自に運用しているマンションがあるので、
家賃や電気ガス水道費なども無料になっている。
そのため給与が低くても物価が比較的安いとされているミッドチルダでは生活は問題なくできる

「さすがはユウ・ミズノ捜査長官ね。あの方は常に政治的駆け引きを理解しているわね」

捜査長官という立場はさまざまな時に政治的行動を理解していないと務まらない
政治的駆け引きがうまくできない者は責任者としてはけり落されるだけである

「時空管理局に支払いしていた駐屯基地費用は大幅に削減されて少しは楽になったわね」

これはクラナガン市やミッドチルダ連邦政府や国内のすべての州。
さらに次元世界連合全加盟国の政治家の誰もが思っていることだ
今まで時空管理局にかなりのお金を払っていた。
どれほどの金額であっても言われると拒否することはできなかった
今の時空管理局関係の予算は次元世界連合で決定されることになっている
次元世界連合全加盟国の地上警察予算や国防予算は次元世界連合全加盟国に権利が返還された
そのため時空管理局の管轄区域は次元空間と無人世界だけに限定されている
時空管理局の予算は大幅削減された。人件費や物品購入費を中心とした予算関係を

『時空管理局の予算は大幅に圧縮されたことにより、各国の負担額は次元世界連合全体の負担額の割合と同等です』

サンディ・マウント市長は報道番組を空間モニタに映し出してみていた
相変わらずマスコミは時空管理局の様々な不正行為や不祥事について徹底的に調べて報道している
マスコミにとってスキャンダルは大好きなのだから当然ではあるが。
ちなみに次元世界連合加盟国が負担する予算は各国政府の経済状況により変化する
経済状況が悪いところは負担額は削減されるが好景気な国では負担額は少し多めになっている
それでも以前の時空管理局関係の予算は大幅に圧縮された。無駄な予算使用は一切認められていない
人件費や物品購入費が大幅に削減されたことが大きなことになるのだ

『次元世界連合総会で来年の時空管理局関係の予算について審議が行われるとのことです』

『ミッドチルダ連邦政府は来年の次元世界連合に支払う歳出は時空管理局全盛期時代に比べると最大半分以下になると』

『クラナガン市政府の来年の市政府予算についてクラナガン捜査局向けの歳出は大きく減少するということです』

「マスコミの報道精神は時空管理局という名の報道規制がなくなって自由なものね」

時空管理局が数多くの権力を握っていたころは報道規制が多くあった。
今のマスコミに報道規制というのはほとんどない。それだけに時空管理局をたたく報道が大幅に増加している
まるで以前の報道規制をかけていた時空管理局に対する敵対行動をするかのようにだ

『ベルカ州商品取引所では原油先物価格が1バレル9000ミッドに。今後値動きを期待してヘッジファンドが活発に』

『クラナガン商品取引所やマリネット州商品取引所でも石油などの価格が上昇基調に』

これにより電力価格についても上昇基調にあることが分かっている
今後の商品取引の動きによって消費者が支払う電力価格が増えることになるかもしれない

『フローレンス州商品取引所では原油価格が1バレル7000ミッドまで上昇。また天然ガス価格も上昇』

クラナガン市とフローレンス州の間は原油と天然ガスのパイプライン輸送が行われている
フローレンス州でも石油や天然ガスが豊富に埋蔵されている。フローレンス州内の需給数値はほぼ一致している。
クラナガン市とフローレンス州を結んでいるパイプラインは石油と天然ガスをクラナガン市に運ぶために利用している
またフローレンス州での消費量が多い場合はクラナガン市からフローレンス州に供給される

『フローレンス州証券取引所ではフローレンス州を主な営業拠点とするフローレンスバンクの株価が急上昇』

『フローレンスバンクで質量兵器監視機構が承認した武器開発企業の株式を40%を保有していることです』

フローレンスバンクがメインバンクとして武器開発製造企業の融資をしてきたことから筆頭株主になっている
今後フローレンス州証券取引所にフローレンスバンクが保有しているこの企業の株価を売却すれば、
大きな利益につながることは間違いないだろう。
フローレンス州はもちろんだが、国内や他次元世界国に銃などが販売されることで大きな利益が出る。
質量兵器監視機構が承認した10社の株価は急上昇。認可が下りる前と比較するとストップ高になっている
今後は大きな利益を得ることになるのは間違いない。
フローレンスバンクが融資して承認された武器開発製造企業の株式を証券取引所に売却することで大きな利益が出る
まさに彼らにとっては最高の宝物を手に入れたと同じ状況だ
フローレンス州にはクラナガン市近隣州で唯一時空管理局地上部隊の基地がある
以前はクラナガン市が首都であったことから多くの時空管理局の地上基地があった。
次元世界連合による改革で基地の大部分は閉鎖になり、クラナガン市近隣ではフローレンス州に基地があるだけだ
彼らの活動内容も改革によって大きく変わった。活動は主に災害対応に限定された
警察権限や防衛権などの権限はミッドチルダ連邦政府や州政府に移行されることになった

『フローレンス州に時空管理局の基地があり、暴走対策にイーストフローレンス市に港湾パトロールの基地があります』

『フローレンス州知事は時空管理局地上部隊の中に反政府よりの局員がいないかの調査を次元世界連合に要請』

ちなみに同様の要請はミッドチルダの時空管理局地上本部基地が設置されている多くの州政府から出てている
ミッドチルダ連邦だけでなく次元世界連合全加盟国の政府からも出ている
どこの国も不安なのだ。再び権力闘争による暴走があるのではないかと
次元世界連合全加盟国では時空管理局が再び暴走するのではないかと危惧している
歴史というのは繰り返すようなものなのだから仕方がない

「クラナガン捜査長官には警戒を呼び掛けるように指示を」

サンディ・マウント市長はそういうと会議を終了した


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北区西部区域 ノースウエストクラナガン貨物ターミナル パトロール事務所

サイノスは忙しく動いていた。
貨物列車の輸送に遅れは最小限にするようにとの指示も受けている
クラナガン市と近隣州の貨物列車の運行はかなりの本数になる
だからこそ遅延を起こすことは好ましいとは言えない

『中央本部からSA25。ノースクラナガン貨物ターミナルからベルカ行の貨物列車が向かう』

サイノスはすぐに携帯情報端末で確認した。貨物列車の主な積み荷は家電製品などは多くを占めている
さらにクラナガン市で製造された加工食品なども含まれていた
ベルカ州に住んでいる人々にとっては無いと困るものである
遅延を起こさないようにすることが最も求められる貨物列車の上位にランクされる

「こちらで簡易調査を行い問題なければすぐに発車させる」

念のため、一定の貨物列車に積載されているコンテナを調べたりは行う
問題がないと判断すれば迅速に出発許可を出す方向で話を進めていた
今は時間がないのだから当然である。今後のことを考えるとなおさらの話である
ただでさえ貨物列車の出発はここでの調査で遅れているのだ。
遅延は貨物列車の目的地である他の貨物ターミナルに影響が出てしまう
最小限にすることが求められていることはわかり切っていることだ

『できるだけ遅れは最小限にして出発させるように対応せよ』

中央パトロールはこれ以上の貨物列車の遅れが続くことは極力避けたいのだろう
そんなことはサイノスも十分理解している。それだけにパトロール捜査官や刑事で確認を行っていた
遅れを最小限にして何とかしなければならない。たとえ無理なことだとわかっていても実行することが求められる
困った問題である。さらにクラナガン市とベルカ州を結んでいる鉄道路線はベルカ州の経済活動が活発になって以降、
列車の運行本数は大幅に増加。以前は単線であり信号場も少なかった影響で運行本数に大きな制限があった
今は鉄道会社は複線化や信号場の増設などを行うことで運行本数の増加に対応しようと工事がかなり増加している
ベルカ州の人口や工場などの増加は鉄道路線を複線化などを行わないと運行可能本数をカバーできない
経済が発展するにはさまざまな貨物物資の輸送がなければ成り立たないのだから

「これは怪しいかもしれないね」

サイノスは入線してくる貨物列車の積み荷などの情報を携帯情報端末で確認したところ、
聖王教会と関係がある企業に供給される物資がいくつかあった。その企業は食料品の加工を行っている
貨物情報によるとその加工食品を作るための材料である。それ自体に特別問題があるわけではない。
サイノスが懸念したのはそのコンテナの輸送先の企業が聖王教会関係者が関わっていることだ

「調べてみるしかないね」

その懸念がある貨物列車の貨物についても確認したが、サイノスは他は問題ないと判断した
1つのコンテナを調べることにした。