午前10:22 東区東部区域 クラナガンハイウェイ4号線(東線) 西行

ラジェット達は順調に中央本部に向かっていた。
港湾パトロール海兵隊や飛行隊の護衛があるのだ。
それでも万が一に備えて対応できる用意はラジェットはできていた

「今のところ順調だな」

『聖王教会本部の報道官は再度、記者発表を行いました。強制捜査について協力するため受け入れに時間が必要だと』

ラジェットは携帯情報端末でマスコミの報道を見ながらため息をついた
どのような強制捜査が開始される時間を少しでも引き延ばそうとしていた。
いくら弁解をしても、すでに安全保障理事会で決議された強制捜査を止めるのは無理なことはわかっている
全ての理事国が強制捜査に賛成したのだから。それだけに無駄な抵抗をしても意味はない
むしろ強制捜査を拒否するような態度は逆効果にしかならない
素直に強制捜査に応じることと事実公表をしっかりと行うことが求められる
それが今は必要なことなのだ

『聖王教会は強制捜査の受け入れ準備を行いたいと表明』

『次元世界連合に緊急総会の開催を求めていますが、安全保障理事会で承認された案件を変更しないと』

次元世界連合の総会は次元世界連合全加盟国で審理が行われる
それでも強制捜査を中止や延期にすることはあり得ない。
不正に関与していたならそれを調べるのは当然の権利であり、権利の乱用などの行為に該当しない

「聖王教会は強制捜査で次元世界連合全加盟国で大きなトラブルが見つかるかもしれないな」

聖王教会の幹部人物の中には不正行為に関与したことの影響で教会から切り離されているケースは多い
不正行為の中には聖王教会債の発行による利益を得ている場合もあれば、
時空管理局の幹部との関係が根強くがあったことで時空管理局の不正行為に関与している者もいる
そういう事でミッドチルダ連邦だけでなく、他次元世界国でも聖王教会の調査が行われている
すでに身柄確保されている聖王教会に長い間在籍して上層部の中には次元世界連合による調査の結果、
数多くの不正行為に関与していたとされる疑念が1つでもあるなら身柄拘束を行い、事情聴取を行っている
不正行為に関与していたならまずは身柄を拘束して真実の扉を開けさせるために多くの法執行機関は動いている
何が起きるか全く想像することはできない。影響がどこまで波及するのか
聖王教会債だけでも大きな問題になっているのだ。
時空管理局債の残高100京ミッドもあり、安全な債権であることから多くの金融機関が資産運用で利用していたが
紙くず同然の価値しかなくなる状況で資金不足に陥った金融機関も存在している
ワンワールドバンクは時空管理局債やワンワールドグループ企業が発行した債券で資産運用をしていた
こちらも債券価格が暴落したことによってワンワールドグループ企業の資産はかなり失われてしまった。
ワンワールドバンクへ預金していた者はペイオフの影響で最大1000万ミッドまでしか保証されない
それ以上の預金に関してはすべてなくなってしまった。
ワンワールドファンドやワンワールド保険会社でもワンワールドバンクと同じようなことで資産運用をしていたので、
顧客から預かっていた資金や運用のために預かっていた保険料の9割も失われた。
これにより破綻してしまい状況は最悪にまで落ちた
だからこそ退役時空管理局員は犯罪行為を行って生活費を稼ぐしか道がないという状況に追い込まれた
本当にひどい話である。

『ワンワールドグループ企業の破綻の影響で退役時空管理局員は日々の生活に苦労していることが分かっています』

「お前たち機動六課組は良かったな。大量リストラで解雇されていないだけな」

ラジェットの言葉にははやてやなのはやフェイトたちは良い表情をすることはなかった
何度も言うが時空管理局を崩壊させるきっかけを生み出したのは時空管理局そのものであり、
崩壊のために『正義』を貫いた機動六課組は今の状況で時空管理局いると殺される可能性は極めて高い
時空管理局が持っていた権力は各次元世界政府に返還されて利権も失った
今の時空管理局が失ったものはあまりにも多すぎる。抹殺されていないのはまだ運が良い方である

『中央本部からSA11。そちらに向かって不審なバイクが5台で構成されるチームが向かっている。警戒されたし』

「了解した。万が一の場合には反撃はしても良いのか?」

『問題ありません。今は機動六課組の安全確保が最優先課題です。必要なら徹底的に行動開始を許可する』

つまりある程度なら無茶をしても良いということだ。それならこちらはいつでも攻撃することができる
もちろん正当防衛に該当しているならの条件付きではあるが
先に許可をもらえたことは迅速に対応することができる。
この無線を聞いて運転席と助手席にいる港湾パトロール海兵隊員もいつでも発砲できる体制に入った

「さて、何が起きるか」


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中央パトロール本部庁舎 9階統合管理官執務室

『ミッドチルダ連邦政府は金融市場安定化基金から700京ミッドを使用して市場介入のために使用することを決定』

金融市場安定化基金の7700京ミッドから700京ミッドを使う。これにより事態の収拾が取れれば良い方だ。
実行してみない限りどのように通貨取引価格が進むかはわからない

『この報道を受けると同時に外国為替相場では大きな動きを示しています』

エリは大きなため息をついた。ついに連邦政府が外国為替への市場介入による影響が進む

『通貨ミッドがミッド高からミッド安に少しずつではありますが動き出しています』

『ミッドチルダ連邦政府は通貨ミッドが安定的なレートに収まることを考慮して介入を行うと表明』

いきなり700京ミッドをすべて使うのではなく、
少しずつ景気に水を差すようなことがないように慎重な介入を行っている
外国為替市場に影響が少しずつ出るようにすることで市場介入による行き過ぎた介入にならないように配慮しているのだ

『今回の為替介入によって通貨ミッドのミッド高を少しでも抑え込めることを期待していると』

外国為替で市場介入が過剰すぎると再度介入が必要になるので抑制することも重要だ
一方でクラナガン市政府ある政策の調整が必要であった
クラナガン市内では不動産開発などについての調整である
建設許可が過剰に出てしまうとバブル経済になってしまう。
それだけに不動産関係の融資に総量規制をすることが求められる

『クラナガン市政府は住宅や商業施設や工場の建設審査に関してバブル経済にならないようにすると』

つまり不動産開発のための融資に対する総量規制をかける方向で話が進んでいるとのことだった
今後の展開は国内の通貨供給量を減少させることも計算に入れなければならない
対外債権保有基金には8700京ミッドがある。それを金融市場に出せば通貨供給量をある程度調整ができる

『連邦政府は対外債権保有基金の他次元世界国政府の国債などを金融市場に売却する可能性があります』

「クラナガン市内の犯罪も減ってくれると助かるのだけど」

エリは現実にはそう簡単にうまくいかないことはわかっている
退役時空管理局員による犯罪発生率が国内だけでなく次元世界連合全加盟国で上昇中なのだ

「本当に迷惑な話ね」

『聖王教会はベルカ州西部地方で起きたクーデター事案には組織的に参加していないと表明しています』

『しかし多くの次元世界国政府は彼らとの関係や結びつきがあるのではないかと厳しい視線を持たれています』

「クラナガン市内で起きないでほしいけど、現実は厳しいわね」

『クラナガン市内の銀行で発生している立てこもり事件ですが現在も膠着状態が継続中です』

『現場では緊張した時間が続いています。人質の生命を第一にと中央パトロールは時期を見極めているようです』

『退役時空管理局員が犯行に関わっていることから相手は魔導師であると推察されます』

「マスコミは気楽なものね。こっちは対応に苦慮しているのに」

『一部の関係者によると立てこもり事案を起こされている銀行に借金があったことが動機だという情報があります』

「こちらの手の内まで漏れないように報道管制を敷くしかないわね」

時空管理局が多くの権限を持っていたJS事件までは時空管理局関係の不祥事はもみ消されていた
今は全くの逆になっている。多くのマスコミが時空管理局関係のスキャンダルを報道している
退役時空管理局員は報道によってかなり追い詰められている状況にあるのは事実である
不祥事に少しでもかかわっていたら激しい報道を受けて、自らの命を絶つ者まで現れるほどに
しかしそれだけ今まで時空管理局が不祥事を封印してきたことは真実なのだ
はっきり言ってしまえば自らが災いの種をまいていたのだから、自業自得だ

『時空管理局犯罪捜査局は退役局員でも、在職時に犯した犯罪行為には厳しい態度で対応すると』

『退役時空管理局員が何らかの犯罪行為に関与しているなら、あらゆる角度から捜査を開始』

『もみ消しは絶対に許さず捜査を行うとのことです』

時空管理局犯罪捜査局では過去に不正行為がなかったかすべての事件を再検証している
どんな行為であっても許さないという方向でクラナガン捜査局とも連携して対応している
また次元世界連合加盟国に存在する法執行機関とも連携するとしている

「時空管理局犯罪捜査局の捜査官は苦労しているわね。件数だけでもかなりになることだし」

エリは港湾パトロール安全保障局から回されてきた時空管理局犯罪捜査局が捜査するべき事案の報告書を読んでいた
時空管理局犯罪捜査局にはそれほど多くの捜査官がいるわけではない。
少数精鋭で膨大な時空管理局員が絡んだあらゆる不祥事について捜査をしなければならない
担当するべき膨大な事件件数に誰もがため息をつきたいだろうことは容易に察しがついていた
クラナガン捜査局も連携して対応する事案はかなりあることもエリが読んでいた報告書には記載されていた

「まぁ私たち中央パトロール本部捜査部も苦労しているのは事実だけど」

時空管理局から地上警察や国防などの権限は各次元世界政府に返還された
その影響はすでに大きく出ている。確かにデメリットもあったがメリットも多く存在した
時空管理局にあらゆる権限があった頃には各次元世界政府に無茶な予算要求をしてきた
その要求に各国は従うしかなかった。今の社会状況とは全く異なる
今は地上の警察権限や国防に関することは返還されている。
時空管理局の予算についても注文を付けることが当たり前のように行われている
少しでも予算の無駄遣いが無いかを徹底的に会計監査で調べられている
だからこそ時空管理局員も政治的駆け引きを学んでいるところが大きい

「クラナガン捜査局も予算は無駄遣いしないで最小限にしているから苦労も多いけど」

実は今年はまだ4月だがすでにミッドチルダ連邦政府に対して補正予算の申請などを行っている
港湾パトロールに関係する予算で一時的な問題が発生したからだ
連邦政府は厳しい予算申請に関して無駄遣いが無かったかを調べた
幸運なことに無駄遣いは確認されなかったので若干の予算を受け取ることができた
だからと言って少しでも削れるところがあるなら無駄な使い方をしないで、
余った資金は返還することが連邦法で定められている
予算の無駄な使用は組織を肥やすだけにしかならない。
だからこそ無駄な予算であると審議されて確定したら削るしかない

『クラナガン市財務庁は中央パトロールの予算について昨年の分で無駄な出費がなかったことを確認』

『来年の予算編成も無駄なところは削ることでクラナガン市上下院で審議するための用意に入るとのことです』

「早くも来年の予算編成ね。首席事務官と協議をしないといけないわね」

中央パトロールの事務方のトップをしている事務部首席事務官のリーザ・コンパーノと協議をするための資料作りを始めた
今年の中央パトロールの予算は80兆ミッドになる。
来年の中央パトロールの予算は少し減少させることができるとされている
無駄な予算使用は認めない。


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ベルカ州南東部地方 上空1万メートル C-37[ 航空機形式:ガルフストリームG550 ]

ミカは順調にベルカ州の空域に入った。もしもの場合に備えてF/A-18Eが2機、護衛についている
彼女はシエルと通信を行っていた

『ミカ。ベルカ州では今後激しい戦闘が起きることが想定されるわ』

「こっちでも報道番組はチェックしているから状況はわかっているけど、かなり危険ということなの?」

それは護衛に戦闘機が配備されていることから見ても明らかだ
問題はどれくらい危険であるか。そこの判定が難しいところである
それにベルカ州では聖王教会本部とクーデターを起こした過激派が混在している
状況は極めて危険であることは誰の目から見ても明らかだ
常に最悪のリスクを考えながら行動することが求められるところである
ミカは捜査部にとって、捜査部だけでなクラナガン捜査局全体にとって貴重な財産である
それを失うわけにはいかないのだから慎重に対応しなければならない
問題解決を行うには強硬手段に出ることは何としても止めなければならないのだ

『聖王教会からの妨害がいつ入るかわからないから警戒を。あなたなら予想はできているだろうけど』

ミカも次元世界連合の聖王教会調査委員長をしているノーザン・テリトリーの記者会見の情報は把握していた
彼が発表した内容には聖王教会と時空管理局の関係がかなり混在したものであると発表していたのだ
聖王教会と時空管理局は有効だったり密接した関係。
そのほかに両っ社の関係は険悪なものであったりと様々な状況であった
特に旧時空管理局地上本部ではレジアス・ゲイツとの関係が悪かったことから危険なものだった

『聖王教会調査委員会は教会内では一部の過激派が存在することは間違いないと発表』

『これによりベルカ州でのクーデター騒動に深く聖王教会本体そのものも関与しているのでは推測されるとのことです』

『安全保障理事会が聖王教会に強制捜査を行うということで真実が明らかになること期待すると声明を出しています』

『ミッドチルダ連邦上院議会はベルカ州聖王教会本部について連邦法執行機関で対応ができるか審議が続いています』

連邦政府にとっても聖王教会に関係について調べるのは難しい
『一応』は聖王教会は国際機関と認定されているが、
次元世界連合加盟国は各次元世界国にある聖王教会の支部での活動に問題があったのか疑念を抱いている。
次元世界連合でも連日の聖王教会の不祥事を派手にマスコミは取り上げている
影響は極めて危険な状況にあることは間違いない

「シエル。私の方でもベルカ州での情報収集は進めておくわ。トラブルになりそうな話があれば即時報告をするから」

ミカの言葉にシエルは無茶はしないでと伝えるとミカはシエルとの通信を終えた
今後の対応はかなり難しいものになることはわかっている。
もともと聖王教会が『まともな国際機関』であればよかったが状況はそんな感じなどない
安全どころか大きな不審な目で多くの人から冷たい視線を受けているのだから仕方がない

『アルス・トーシン州知事は州内の安全を守るためにも連邦政府機関に問題解決のためにはあらゆる協力をすると表明』

ミカは当然の判断だと感じていた。
豊富な鉱物資源が眠っているベルカ州で問題が発生すれば近隣州の経済に影響が出る
トラブル解決が州政府として求められる。
州内に存在する港湾パトロールの部隊による混乱の鎮圧が重要だ

「彼も大変ね。軍人という立場から政治家になるなんて。民主主義の政治だから軍事政権にはならないと思うけど」

アルス・トーシン州知事は以前は港湾パトロール海兵隊に属していたが州政府移行時に予備役兵に移行
州知事選で選挙に臨んだところ、港湾パトロールとの連携が必要だとベルカ自由党の支援を受けた
結局、州知事選挙ではトップ当選をしている。州知事には州兵を組織することが認められている。
ただし連邦法では軍事政権に州政府がなることは厳しく規制され、州兵の活動内容は連邦法で定められている。
主に警察権限ではカバーできないような出来事があった時、州政府は州兵の活動命令を出すことができる
州を超える州兵の運用は禁止されている。あくまでも治安維持と災害対応に関する活動しか認められていない

『トーシン州知事はアンナ・ランシング大統領と電話会議を行い、事態打開のためには州政府は最大限協力する』

『すでにベルカ州証券取引所の平均株価は2万ミッドまで下落。今後さらに下落することがあります』

ベルカ州内だけを主な企業活動をしている企業が上場している州証券取引所が大きく下落になれば州内の経済が悪化する
また州商品取引所で原油や石炭などのエネルギー資源の変動も好ましくない
安定供給を行うには価格の急激な変動は極めて危険である

「政治家は大変ね。トーシンもそのことは覚悟しているから州知事選に立候補して州知事に当選したのだけど」

政治的駆け引きができなければ政治家たちの対応に苦労する。
州内だけの問題に注目するのではなく近隣州の経済や政治の状況把握ができないと政治家にはなれない

『聖王教会の報道官はベルカ州の聖王教会本部への強制捜査を容認するという発言しました』

『聖王教会のすべてがクーデターに加担していないことを示すことを重要視しているのでしょう』

『ベルカ州上下院議会は聖王教会の活動の一時停止を求める議案の審査に入っています』

ベルカ州の州上下院議会の議席で最も多くの議席を持っているのはベルカ自由党という政党だ
ベルカ自由党は州政府設立前は反聖王教会として活動していた武装勢力と関係があった人物が設立した政党だ
州上院議会ではベルカ自由党が50議席の中で30議席を持っている
州下院議会では100議席のうち60議席を持っている。
ベルカ自由党は聖王教会とはかなりの敵対感情を持っている

『ベルカ自由党の党首は聖王教会が自治区時代から行ってきたあらゆる不正行為を摘発されることを考えている』

「ベルカ州も大変ね。州政府は聖王教会が過去に関係があったスキャンダルが証明されることを望んでいるとは思うけど」

ミカはベルカ州内の情勢を理解しているからこそ、難しいことも数多く発生する
そういう事が数件という単位ではなく何百件という単位になることが分かっているからだ
ベルカ州政府は聖王教会に危険分子がいなくなることを望んでいる
クリーンな聖王教会になることは歓迎できるが、
少しでも聖王教会の関係者に問題を抱えている人物が残るのは許さない
宗教団体としては問題行為に関与した人物はすべて裁判で審判を受けて罪を償わないといけない

「ベルカ州はもちろんだけど州内の主要都市はまさに危険地帯というわけね」

ミカはマスコミの報道番組などを見ながらベルカ州内の情勢を見極めていた
捜査をする過程で妨害工作が入れば証拠が抹殺されることも想定できる
証拠が抹殺されたら捜査ではかなり厳しい動きをとらなければならない
だからこそ関係者への事情聴取や証拠確保が重要なのだ

「問題が拡大しなければ良いけど」


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西区東部区域クルック地区1番街7丁目・8丁目 時空管理局本部庁舎 1階記者会見室

「大量リストラされた局員が在任中に不正行為を行った者は、いつの行為に関わらず罪の代償を払うことになります」

時空管理局犯罪捜査局の局長をしているウォーナン・ブームが記者会見をしていた
時空管理局犯罪捜査局は時空管理局員が関係した犯罪捜査を担当している
もちろん退役している局員であっても、在任中に不正行為に関与していたなら捜査対象になる

「退役時空管理局員はかなりの人数になると思いますが、例外は作らないという事でしょうか?」

記者は特定の人物を優遇するような操作を行うのかどうか知りたいのだろう
ウォーナンは例外は作らないと答えるとともにどれほど高い階級は戦歴を持つ者でも不正行為は必ず捜査を行う
時空管理局犯罪捜査局長であるウォーナン・ブームの発言を受けて記者たちは多くの次元世界国に放送していた

「旧機動六課に関する取扱いについてはどのような裁量が下るのでしょうか?」

「機動六課に属していた局員に関しても過去の犯罪行為に関与が確認されれば捜査を行います」

その発言に記者たちは驚いていた。
時空管理局を生まれ変わらせるきっかけを作った者であっても例外はないという態度にだ
少しでも安心感を与えないことが不正行為を行った人物にとっては重圧になる
もちろんクラナガン捜査局との証人保護の観点もあるが見逃すことは許さないという態度を突き付けることが重要である

「時空管理局内で不正行為を行った人物に墓なら罪を償ってもらうために我々は全力で捜査を行います」

会見は以上ですというと記者会見は終了した
記者たちは生中継などを終了させたが今後の捜査がどこまで進むかなどの記者たちは報道していた
一方記者会見を終えたウォーナン・ブームは今後の時空管理局犯罪捜査局の方針を決めるために会議室に向かった

「ウォーナン。調子はどうだ?」

ウォーナン・ブームに声をかけてきたのは時空管理局で人事・即応担当をしている次官のローガン・マッカイからだ
彼は旧第6管理世界、現在のはハワナス連邦にある大学で危機管理に関する教師をしていた
今は時空管理局長の補佐役をしている。ハワナス連邦政府で危機管理対応の諮問委員会で委員長を務めていた
時空管理局の次官になってからは素早く人員を少数精鋭でフル活動できる体制作りを行っている

「こっちは毎日戦争だ。不正行為と思われる事例があまりにも多すぎる。内部監査が機能していない証だな」

「それはこっちも同じ。どんなに優秀な人材を見つけても何かしらの形で不正行為に関与している」

厳しいチェック体制が本当に機能していない証だと厳しく評価をつけていた

「だが俺たちに与えられた試練を乗り切るしかない。必要ならどんな方法を使っても不正行為は立証する」

そのために時空管理局犯罪捜査局があるのだからなとウォーナン・ブームは言う。
そしてエレベーターを使って時空管理局犯罪捜査局のフロアまで上がっていった
ローガンとはエレベーターで別れると自らの執務室にある大量の報告書の決裁をしないといけないなと感じていた
時空管理局犯罪捜査局が捜査している案件は何度も言うがあまりにも多すぎる。
全ての不正行為の調査には膨大な時間と人員が必要になるが余裕があるわけではない
そのため厳しい戦いになったとしても努力するしかないのが現状だ
彼が自分の執務室に向かっている途中で男性捜査官が1冊のファイルを手渡した
そのファイルには時空管理局地上本部で上層部に近い立場にいた局員が関与した物資納入に関する密約が記載されていた

「4年前に地上本部が首都警備隊に物資を納めていた案件ですが。間違いなく立証できます」

納めていた物資は主に時空管理局で使用される車などの燃料である。
最終的にそれを納めたのはワンワールドカンパニーだが、この会社はほとんど業務をしていないペーパーカンパニー
ワンワールドカンパニーに燃料を納めていた下請けの会社は退役時空管理局員が経営に絡んでいた
通常の2倍の価格で燃料を納品していた。その代わりに時空管理局地上本部の幹部の天下りを引き受けていた
こういったことは時空管理局が本局と地上本部が統合された後、
事務方の部門や予算関係の権限が次元世界連合に移管されてからは不可能になっている
天下り行為そのものも禁止されることが次元世界連合が運用を開始した時空管理局運営規則で定められている
天下りを引き受ける代わりに高額な価格で物資を時空管理局に納品する
政治の世界では珍しいことではない。現在は時空管理局で天下りを引き受けた企業は物資納入禁止となる

「引き続き捜査を行え。身柄は拘束されているのか?」

「現在は西区のウエストクラナガン拘置所に収監されています。弁護士との接見はしているようです」

当然の権利だ。弁護士を雇う金がなければクラナガン市政府が雇用している当番弁護士が担当する
これはクラナガン市法で定められている法律だ。警察に身柄拘束された段階で弁護士をつけることは認められている
黙秘権の行使も同様に認められている。犯罪者にも何も権利がないわけではない
弁護士を雇わなければ裁判で対象者が不利になるし、
こちらが強引な自白を迫ったと証言されたらすべての証拠が裁判では証拠能力をなくしてしまう
だからこそ弁護士をつける権利と黙秘権の行使は認められている

「情報収集を継続的に行え。不正行為の関与が判明すれば裁判のための用意も行ってくれ」

その指示を聞いて捜査官は情報収集のために動き始めた
ウォーナンは執務室に戻ると報告書を再度入念に確認した。
天下りを引き受ける代わりに燃料を納品していた企業はかなりの利益を得ていた
金額にして10億ミッドにもなる。
ミッドチルダだけではなく他次元世界国でも活動している企業であった
現在は破産申請をしていた。時空管理局の規模縮小と同時に企業も倒産していた
この企業では5人の退役時空管理局員を引き受けていた。その代わり高額な取引を行っていた
大きな利益を得ることができていたのだ。あまりにも大きな利益を。
経営者は時空管理局の規模縮小と同じタイミングですぐに破産申請。
行先不明の逃走を始めているようだった。資産はすべて現金として口座から引き下ろしていた
かなり利口な人間であることは間違いない。時空管理局犯罪捜査局の捜査のメスが入る前にすべての財産を持って逃走
これが利口な人間でなければあまりにも偶然が良すぎる。
ちなみに天下りをしていた退役時空管理局員の身柄は確保されていた
全員企業の業務に参加することはなかった。ただの天下りだ
官僚らしいと言えばそこまでの話ではあるが仕方がない。
それを引き受けなかったら時空管理局から大きな仕事を引き受けることはできなかったのだから

『クラナガン市のノースクラナガン魔力精製炉発電所が機能停止状態にあります』

『これは発電所付近でAMF装置が設置されているためと思われます。警備部隊が大至急装置の捜索を行っています』

すでにノースクラナガン魔力精製炉発電所の出力は0になっている。
クラナガン市内が停電になっていないのはほかの発電所や近隣州にある発電所から電力供給を受けている
クラナガン市と近隣州に送電網を持っているミーミルパワー社は、
どのような状態になっても対応できるように備えをしている
いつ何が起きるかは全くわからない状況にあることは事実である。
最悪の事態に備えて対応準備をしなければならない

『ミーミルパワー社はほかの魔力精製炉発電所も機能停止になることを想定して臨機応変に対応できるように対策を実施』

それはつまり火力発電所などの運転を始めることである。
クラナガン市内だけでなく近隣州にある火力発電や水力発電の運用で電力の安定供給を目指す
クラナガン市はミッドチルダ連邦の首都であるクラナガン市で安全保障の問題が発生すれば危険地帯になる
すでに西区中央区域で停電が発生している。早急に復旧させなければならない
今はミーミルパワー社が送電網の運用復旧を目指している


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中央パトロール本部東館 2階事務部施設管理課 主任施設管理官執務室

中央パトロールの施設管理課のアルティス・ブーンは中央パトロールの施設運用について話し合いをしていた
西区中央区域を中心とした地区で停電が発生している
クラナガン捜査局の活動に影響が出るようなことはあってはならない
だからこそ最大限カバーできる範囲で対応するのではなく、あらゆる方法で穴を作り出さないことが必要になる

「西分署からの報告によると今のところはクラナガン捜査局が運用しているシステムに影響はありません」

アルティスの部下であるストーリア・ネイキッドが報告を行っていた
彼女以外にも通信で西分署の事務部施設管理課の事務官と協議をしていた

『西分署でも今のところは目立った混乱はありません。しかし停電が復旧したらどうなるかは正確にはわかりません』

西分署施設管理課の職員の発言は事実である。
行動を起こさない限りはわからないのは当然なのだから
携帯電話などの携帯情報端末はWi-Fiアンテナはクラナガン市内全域に整備されている
そのアンテナ基地局は外部電源がカット。つまり停電したとしてもバッテリーでしばらくは運用できる
携帯電話などの携帯情報端末を使っての通報に影響が即時出ることはないだろう
問題はどの程度の時間で復旧するのと、万が一長期化した場合に影響が出るかはわからない
最善を尽くしてできるだけ早めの停電復旧が求められる

「クラナガン捜査局のシステムに問題が発生したら即時報告をしてくれ。問題があれが素早い対応が必要だからな」

クラナガン捜査局のあらゆる通信などのシステム運用に必要な電力供給は通常の電力供給網とは別になっている
民間電力企業の系統は通常時は利用すればコストはそれほどかからないが、リスク管理の観点から独立しているのだ
クラナガン市内に流れている河川の堰に設置されている水力発電所からの供給を常に受けている
水力発電所であれば火力発電や魔力精製炉発電所と異なり安定供給が常にできる

「今のところ市内にある2か所の堰で行われている水力発電所からの電力供給系統には問題はないのだな?」

『問題は確認されていませんが、万が一に備えて西分署のSWATを派遣して対応しています』

クラナガン市内の堰の水力発電出力は2か所を合計すると8000万KWにもなる
この2か所で発電された電力はクラナガン捜査局だけでなく連邦政府機関や市政府行政機関の施設にも供給されている
また市内にある次元世界連合のすべての施設にも電力供給がされている
それだけに最重要施設とされている

「連邦政府や市政府はもちろんだが、次元世界連合関係の施設への電力協が停止すれば後始末は楽ではない」

アルティスは最大限の警戒態勢を敷くことを西分署の事務部施設管理課に通達した
今は行政機関・国際機関・軍関係機関の施設と設備に安定した電力供給が最も重要である
小さな穴が大きな穴になり、事態収拾が難しくなるような状態になることは避けなければならない

『わかりました。西区内に存在する重要施設への電力供給に問題が出ないように対応します』

そこで西区との調整は終了した。
残るは停電原因と危険な犯罪組織や反政府組織が関与していないかを確認する


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西区東部区域クルック地区5番街5丁目 中央パトロールクルック地区警備庁舎 3階分署地域情報センター

カレン・アリスト捜査官はクルック地区と近隣地区にトラブルがないか警戒態勢を厳しくする方向で話を進めていた
国際機関が集まるここでトラブルが発生すれば大きな問題になる
すでに現役時空管理局員が飲酒でトラブルを起こしている
幸いなことに派手な展開にはならなかったが今後の影響が懸念されてくる
この辺りでなにもトラブルが起きなければ最も理想的なことなのだが、
現実はそれほど甘いものではないのはわかっている

「本当にトラブルが増え始めたわね」

先ほどからクルック地区内で暴れていたりする人物が少しずつ増加している。
この辺りの地区を出入りするには検問所で安全が確認された者しか立ち入りはできない
鉄道の駅などもこの辺りにはないし、ましてや地下鉄なども整備されていない
もし地下鉄があった場合はそこで爆弾を設置されたりしたら混乱を招くようなものだからである
この辺りに立ち入りができるのはミッドチルダ連邦政府か次元世界連合が許可した者に限定されている

『WC6304からクルック分署。不審人物を確保。ノースイーストクルック地区7番街2丁目と3丁目の間の通り』

「こちらSA21。身元が分かるものを所持しているか確認せよ」

カレンがそう伝えると西分署のパトロール捜査官は退役時空管理局員であるという報告が入ってきた
名前はボークス・レデズ。47歳。最後の配属部隊は旧時空管理局地上本部クラナガン防衛隊であった
現在、時空管理局犯罪捜査局の捜査対象になっていた
この辺りに来たのは時空管理局犯罪捜査局から事情聴取を受けるためだ
捜査対象になった理由は防衛隊の物資納入業者から金を受け取っていたという容疑だ
こういう案件は珍しいことではない。
時空管理局に物資を納めていたあらゆる企業と納入に関することでもめ事を起こしているケースは増加
ミッドチルダ連邦だけでなく次元世界連合全加盟国でかなりの件数になっている
捜査をする立場としては迷惑な話だ。だからと言って不正行為を見逃せない。
すべて立件することが必要なのだ。不正行為があれば内部捜査を行いクリーンな組織に生まれ変わっていること。
それをアピールするのは重要である

「クルック分署に連行するように。念のため手錠をして対応を」

『了解』

カレンはため息をついた。トラブルが発生したからだ
できる事なら問題は発生してほしくない。下手に問題が発生するとこちらとしてもいろいろと大変だ
クルック分署は次元世界連合本部や関連国際機関の拠点がある。面倒なトラブルは速やかに排除
大事になる前に対処することが理想的である

『中央本部からクルック分署へ。警戒態勢を強化せよ』

何かトラブルになるようなことが発生したから無線連絡が来たのだろう
そんな連絡は欲しくはないが最新情報を確認して発生する前に対応することが望ましい

「何が起きるかわからないのは困るわね」

カレンの言葉に分署地域情報センターにいた管制官たちも同意見だ
誰もが問題発生を好んでいる者は存在しない。
むしろそんなトラブルが発生しないことを望んでいる
特にここクルック地区では国際政治のど真ん中だ。
面倒なことは起きてほしくないというのが本音である

「SA21から中央本部。警戒情報は入っているか?」

『緊急通報番号にテロを起こすとの犯行予告を確認』

「了解。警戒態勢を厳重にして対応する」

わざわざ犯行予告をしてくるような人物がいるとなると何が起きるかは想像したくない
穏やかに物事を解決することはあり得ないだろう

「クルック地区にいる関係者に警戒情報を。それと次元世界連合の警備部門にも連絡して」

次元世界連合などの国際機関の警備はクルック地区分署の局員が担当している
こちらの情報が素早く流れるようになっているのだ。
警備担当者は極めて優秀な人材が配置されている

「何も起きないというのは期待できないわね」

もしかしたら近隣地区でこちらの警備担当者を陽動作戦で引っ張り出すことも想定される
仮に陽動であっても対応しないわけにはいかない。

『WD554からクルック分署。不審人物をサウスクルック地区で確保。飲酒でまともに歩ける状況ではない』

西分署の刑事からの無線報告にカレンはため息をついた
問題が多すぎる。これからさらにトラブルが拡大する可能性が高いからだ
そんなことが起きないようにクルック地区と近隣地区の警戒態勢を引き上げている
どんな些細なことでも異変を感じたら連絡を入れるように指示が出されている

「まったく、大量リストラされた退役時空管理局員だったら面倒をかけてくれているわ」

退役時空管理局員は退職金も年金もほとんど受け取ることができない状態にあるので生活に困窮している
そんなことになれば彼らにだって生活をしていくためにお金が必要になる
また時空管理局債やワンワールドグループ企業から債権を購入して資産運用を投資ファンドに任せていた
しかし多くの退役時空管理局員は時空管理局債は安定した債券であるということを信じた結果、
それらの債権評価額が大幅に下がったことで退役後の生活に必要なお金がほとんどない状況に転落した
犯罪行為をしてでもお金を集めようと多くの退役時空管理局員は動いている

「退役時空管理局員が絡んでいる犯罪行為が多すぎる。天国から地獄に落ちたのだから困るのは当たり前だけど」

カレンの言う通りだ。
人間というのは必要なら時にはどれほど危険な行為であっても行う生き物。
そういうケースが数多くあることは疑いようのない事実である

『港湾本部からクルック分署へ。港湾パトロール安全保障局でトラブル発生の可能性が高いと思われる通信を傍受』

内容をクルック分署に転送すると港湾パトロールから送られてきた
港湾パトロール安全保障局が傍受した通信はシンプルなものだった。
聖王教会本部とベルカ州西部地方でクーデターを起こしている連中の通信である
内容はクラナガン市内でも騒動を引き起こす準備をしているということだ
ミッドチルダ連邦の首都であるクラナガン市でクーデターや武装蜂起をさせるわけにはいかない
次元世界連合があるクルック地区には聖王教会の支部が設置されている
ちなみに外交官特権は次元世界連合の総会や安全保障理事会で聖王教会は求めていた
しかしどちらも聖王教会に対する外交官特権を認めることはできないと全面賛成の判断が出ている
今も聖王教会は数多くの次元世界国で活動しているが国際機関というわけではない
そのため強制捜査などについては各次元世界国で法執行機関が強制捜査の令状を承認すれば簡単に実行できる
これは聖王教会に信用がないということである証である。
一部の次元世界国で外交官特権について定められた国際条約『外交官関係条約』を認めるべきではという論争はある
しかし次元世界連合加盟国では承認のために必要な各次元世界国議会で承認するかの審議で批判的な意見は多い
そのため、聖王教会に属するあらゆる人物には外交官特権は認められていない
外交官関係条約では外交官特権に関する内容が定められている
ちなみに外交官でも受け入れ国がスパイ行為などの犯罪を侵したら逮捕することが認められている

「時空管理局と聖王教会の関係者が行うもいくつもの問題行動に対応する私たちを考えてほしいわね」

本当に面倒なことを起こすことに慣れているのか聞いてみたいとカレンは考えていた
もめ事が起きなければ良いが。現実にはそんなことはあり得ない

「ワンワールドグループが破綻した影響は激しいわね。天下りに退役局員の生活費になるはずだった資産運用に失敗」

彼らが原因となったことはあまりにも大きいこと。
そして関係する企業や個人はかなりの数になっている
今後もさらに増加傾向にあることは多くの人々はわかっている。
犯罪発生率が急上昇することは法執行機関の人間なら誰もが覚悟している
不正行為の大幅な増加で何の罪もない人々の生活にまで影響が出る

「市内の重罪行為の犯罪発生率は一時的に下がったけど、窃盗や強盗事案の発生率はかなり高いわね」

カレンは携帯情報端末で退役時空管理局員が絡んでいるトラブルの件数を見ていた
お金がないから犯罪をしてでも確保しようと躍起になっている
時空管理局在籍時に不正行為に絡んでいたら刑務所行きは決まっているようなものだ
なら少しでも逃走資金を確保して逃げることに必死だ。彼らは銀行を使用することはない
ミッドチルダ連邦財務省が常に監視をしているからだ。金の流れを追跡すれば必ず見つかることはわかっている
退役時空管理局員も犯罪捜査の方法を知っている。追尾するための方法もわかっている
逃走資金を確保するにしても直接現金やり取りをして逃亡生活の資金確保を行っていく
だが銀行口座を持たないで逃亡生活をするのはかなり難しいがやるしかないのだ

「本当に時空管理局に関わったことがある関係者は苦労するわね。追跡するこっちも大変だけど」


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東区東部区域 クラナガンハイウェイ4号線(東線) 西行

レックスはクラナガンハイウェイ4号線の交通事故処理の最終段階に入っていた
すでに事故車両は東分署に向けて搬送を終えていた。
残る作業は道路規制解除のために路上にある事故車両の細かな部品の回収と路面清掃だ
路面清掃を行わないと別の交通事故を誘発することになるためである
今は6人のパトロール捜査官と一緒にレックスたちは箒を取り出して清掃作業を行っていた
掃除作業が終了したらすぐに車線規制を解除する。いつまでも車線規制をしているような暇はないのだから

「本当に忙しいな」

レックスは愚痴を小さくつぶやいた。交通事故処理で最も面倒な作業なのだ
少しでもきちんと掃除をしないと再度事故を誘発する原因になるから
そのため交通事故の後始末の中で最も重要な作業の1つでもある

『東分署からSA30。応答を』

レックスの無線機に東分署から無線交信を要請する音声が聞こえてきた
彼はすぐに無線機で何かの呼び出しかどうかを確認した

『東区東部区域にある中学校から子供が転落したとの救急無線を傍受。転落した子どもは以前にいじめ被害について通報を』

いじめによる自殺は悲しい結末を迎えることになることが多い
確かにいじめをするのはいけないことである。
大人にとっては些細なことであっても子供には大きな問題なのだ
転落しただけでは自殺かどうかはわからないが調べることは必要である
クラナガン捜査局では未成年犯罪捜査課が設置されている。いじめは立派な犯罪である
もちろん刑務所行きになることは少ないが全くないということではない
いじめの内容がひどい場合には未成年を専門に収監している刑務所に行くことがある
いじめは大きな罪と連邦刑事法で定められている。
子供は些細なトラブルでいじめを受けると、そのことを誰にも相談できないことだと思ってしまう
誰かがどうしたらいいのか相談を受けていれば、自殺という最悪の道に進む前に止めることができる

「こちらSA30。中学校の場所はどこだ?」

『東区東部区域ハリーファックス地区1番街7丁目です。現場では救急隊が現着。最寄りのERに搬送する』

レックスはすぐに現場の中学校に向かうと東分署に伝えた。
事故現場の清掃はほとんど終了していた。あとはパトロール捜査官に任せて中学校に急行した

「SA30から東分署。これより中学校に急行する」

『中学生の転落、もしくは自殺行為に関する情報で以前にいじめ相談をしてきた男子中学生と判明』

今年に入ってから6回も相談を受け付けていた。いじめの原因は両親が退役時空管理局員であったことだ
こういう事例は時空管理局で大量リストラにあった退役時空管理局員の子供にかなりの件数に入っていた
もちろんいじめは立派な障害、もしくは死者が出てしまうと殺人という罪になることもある
それでも親が時空管理局員だった時に、子どもが親の権力を利用して他の同級生に対して高圧的なことをした
それが今は全くの逆転している。時空管理局員の親を持つ子供がいじめの対象になっていた

『SA11からSA30。応援が必要か?』

ラジェットからの無線が入ってきた。
レックスはラジェットが機動六課組の移動任務に入っているため応援は後回しにしてからでも良いと返答した
ラジェットの応援要請はできれば断りたくない。
いじめ問題については総動員で取り組むことが求められるからだ。
誰が加害者でどのような行動を起こしたかを入念に調べなければならない
真実を明らかにしていじめ行為を許してはならないのだ。子供たちが安心して生活できるようにするために
たとえ親が犯罪者であっても子供には何の罪がなければしっかりと生活支援をする
子供が安全に大人の年齢になるまでは守られるべき存在なのだから

「SA11は機動六課護衛任務の継続を。こちらは自らで担当する。支援が必要な場合は東分署の担当部署と連携する」

『了解した。頑張ってくれ』

ラジェットの言葉を聞くとレックスは彼との無線交信を終えた

「SA30から東分署へ。過去に相談を受けた内容についての情報をこちらの携帯情報端末に送信せよ」

『こちら東分署。すぐに送ります。なお現在トラブルが発生した中学校ですが、マスコミが少し集まっている』

メディア対応については慎重にせよとのことだった
マスコミは好き勝手に報道する。事実ではないような情報でも彼らにとっては気にしない
騒ぎ立てるのが大好きなのがマスコミである

「マスコミが誤報を流さないように警戒を。いじめ当事者以外の生徒に教育上影響が出ないように対応を」

下手にマスコミに騒がれるのは真実が明らかになってからならまだ良いが
こちらが捜査に着手していない段階で騒ぎ立てられたら混乱を招くだけだ

『了解した』

レックスは緊急走行で現場に向かった。

『東分署からSA30。転落した男の子ですが、死亡が確認された。殺人と思って捜査を開始するように』

「検死官はどうなっている?」

レックスは検死ラボから検死官がどちらに向かっているのか知りたいのだ
殺人や事故死であっても検死ラボで検死作業を行わないと事件と事故判断をすることはできない
検死官がしっかりと調べないと事件性があったとしても証拠能力がないと判断されない
だから検死官による検死はあらゆる事案に関して行われる
たとえ病死でも遺族が医療ミスを訴えた場合は検死が行われる

『東分署からすでに急行中。現場到着は10分前後で現着』

「当該事案は殺人事案として捜査を行え。SA30も現場に急行している」

『こちら東分署。対応は事件性ありとして対応する』

「転落死した男子中学生の両親に連絡して家族を東分署で事情聴取を行え」

これも当然のことだ。被害者家族からも話を聞くことは捜査手順に定められている
いじめは重罪行為だ。特にいじめ被害者が死亡すれば殺人事件として扱われる
ただしいじめが原因とする殺人事案の捜査は慎重に行わなければならない
もし間違った方向で捜査を進めると関係のない生徒にまで影響が出てくる

『次元世界連合は来年の時空管理局の予算を協議するために編成作業に入りました』

『昨年までは地上警察業務も関わっていたので数十京ミッドになっていました』

JS事件までは地上警察業務も主に時空管理局の地上部隊が担当していた
今はその権限は各次元世界国に返還された。そのため時空管理局の予算は大幅カットされた
今後さらにカットされることになるのは間違いない

『しかし今年から管轄区域は次元空間に限定されたことから大幅カットになりました。そのため予算も大幅カットに』

『人件費や物品購入費が大幅削減されたことで来年予算は5000兆ミッドになると』

『一方で退役時空管理局員の多くが年金受取額が大幅カットされた影響で除隊後も再就職して資金稼ぎを行わないと』

大量リストラされた退役時空管理局員たちはかなり生活に困窮していた
窃盗や強盗というような犯罪が各次元世界国で増加している
各次元世界国ではそういう事をいつまでも許すわけにはいかないので徹底的に捜査を行っている
不正行為を1つでも確認されたら、すぐに取り調べなどの捜査を行われている

「まったく困ったものだな」

時空管理局にも退役時空管理局という行政機関がある。
こちらは退役した時空管理局員の情報収集を行っている
退役時空管理局員の生活状況などの情報を集めて分析している
現在、時空管理局に属している者は退役後に受け取るはずの年金資金の運用についていくつかの選択肢がある
民間金融機関に将来受け取るはずの年金資金の資産運用を任せる。
もしくは時空管理局に新たに組織された次元医療厚生局に任せるなど
どのような選択をするかは局員に任せられている。見極めることが重要である
民間金融機関と次元医療厚生局のどちらに任せても見極めることがしっかりできないと
退役後に年金を受け取れるかどうかはわからない。絶対に受け取ることができるとは決まっていない
だからこそしっかりとした見極めが重要である
クラナガン捜査局では局員の退役後に必要な資金運用はクラナガン捜査局年金基金で行われている
年金基金の資産運用は株や商品市場で運用されている
もちろん運用に失敗をすればクラナガン捜査局員でも退役時空管理局員と同じようなことになる
クラナガン捜査局が運用している年金資産はしっかりとリスク分散されて運用されている
株式や社債など特定の銘柄に年金基金の資産運用はしていない。
リスク分散のためにあらゆる金融市場で運用されている

『退役時空管理局員がミッドチルダ連邦裁判所に訴えを起こしました』

『訴えの内容は退役時空管理局員であっても人権は守ってほしいと』

もちろん退役時空管理局全員がすべて悪というわけではない。
任務をまじめに実行していたが時空管理局の大規模縮小によって大量リストラされた
退役局員には何の罪もないのに再就職について支援がないことは人権を軽視していると訴えていた
何の不正行為に関与していない退役時空管理局員が差別的なことを受けるのは人権侵害になる
しかしいつどこで不正行為に手を出していなかったのか。それがが再雇用をすることが難しくなっている。
今後の時空管理局犯罪捜査局で捜査を受けてトラブルがないクリーンである事が立証できれば何とかなるはず
ただし今は退役時空管理局員が不正行為に関与したという情報が1つでもあれば、不安になるのは当然である
これらの問題が解決されるには長期間の時間に必要になってくる。簡単に話を進めることはできない
徹底的に調べて問題がないことが分からないと一般企業への再雇用は簡単にはいかないのが現実である

『同様の訴えは次元世界連合に加盟している多くの次元世界国で発生しています』

『各国は企業に対して再就職で差別意識を持たないように行動するようにと指導していると発表』

『しかし多くの次元世界国の企業ではリスクを抱えたくないためなのか、再就職への協力意識は低いです』

「マスコミはスキャンダルなネタが好きだな」

どんなに小さなものでも、以前は時空管理局から圧力をかけられていた。
時空管理局を悪とするような報道は許してこなかったからだ。
今はむしろ時空管理局に関係するスキャンダルを好き勝手に報道している。
彼らにとっては視聴率を稼ぐ面白い情報なのだから当然であるが
今後の展開が恐ろしいものだ。

『ワンワールドファンドは預かっていた資金の現段階での評価額は最も多い時に比べると4割ほどしかないと発表』

元々時空管理局債で運用していたことが多かったのだ。その債権価値がほぼ0になったのだ。
企業の株式や社債や次元世界国が発行した国債などしか評価できるものはない

『ファンドは金融市場で売却できる金融商品をすべて市場で売りに出したことも発表』

『資産運用を依頼していた投資家に預かっていた資金の割合に応じて返還するとのことです』

今後の展開はレックスにも簡単に想像できる。
ファンドそのものがすでに破産申請をしているので倒産するだけだ
銀行預金と異なり投資ファンドや証券会社の財産は保護対象に該当しない
運用を依頼していた人物は財産のほとんどを失うことになる

「バカな連中だな。もっとまともな投資ファンドを探していればここまでひどい目に合うこともなかったのに」

レックスの言う通りだ。
時空管理局債がJS事件後に返済できるめどがつかないとわかった時、
多くの投資ファンドや投資銀行は売却を一斉に開始した
影響を最小限にするためにはそれしか道がなかったのだ。
中には以前から空売りを仕掛けていたかなり利口な投資ファンドなどがあった
そういったところに資産運用を任せていた資産家は莫大な利益を得ることが出ていた

「まぁ危険なものからさっさと手を引いたところが多かったのは事実だがな」

時空管理局の評判が少し悪くなっただけで売却して損失を最小限にしたところもある
資産運用は運用元がどれほど金融市場の空気を読むことができるかが腕の見せ所だ

『中央本部からSA30。東区東部区域ハリーファックス地区1番街7丁目の中学校で死亡した生徒ですが』

いじめをしていたのは時空管理局地上本部で幹部の息子であるとの報告が入ってきた
悲しいことではあるが子供というのは親の影響を受けやすい。
親が家族のトラブルのもみ消しを行っていたという不正行為はかなり存在する
中にはもみ消しというレベルを超えて高圧的な態度で対抗していたケースもあった
これは次元世界連合の時空管理局調査委員会で大きな問題になっている
親の力を利用して好き勝手していたのだ。もちろんこの行為は立派な権力の乱用に該当する
そのようなことをした人物は現在次々と逮捕されている。
悪質な場合は立件されて刑務所に収監されることになる

「いじめの加害者に関する情報を携帯情報端末に送ってくれ」

『了解した。すぐにSA30の携帯情報端末に関係する情報を送ります』

子供が犯した犯罪について裁判ではクラナガン市法で未成年犯罪法で定められている
7歳未満の子供が犯した犯罪については法律では責任は子供にないと判断されている
しかしその加害者の子供の親には民事裁判で損害賠償請求を受けることになる
7歳以上で14歳未満の子供に関しては家庭裁判所で審理にかけられる
14歳以上に関しては重犯罪行為に関しては刑事訴追の対象になる
14歳以上では犯罪が初犯で軽犯罪の場合は罰金刑だけになる
初犯でない場合は刑事訴追を受けることになる
仮に刑事訴追された場合は21歳までは少年刑務所に収監される

「ひどいな」

レックスは路肩に1度車を止めて携帯情報端末の情報を確認した
明らかに親の名前を利用したことで今はトラブルを起こしていた
子供の親である時空管理局地上本部で幹部だった親はかなりの問題を抱えていた
数多くの不祥事を抱えたことにより、時空管理局犯罪捜査局で捜査対象になっていた

「親も親なら子供も子供か」

完全に親の権力を利用してかなり問題行為を起こしていたことでクラナガン児童局が調査を行っていた
クラナガン児童局は17歳以下の子供でトラブルがあれば、中央パトロールと連携して調査をしている
しっかりとした子供に教育を受けさせて問題行動を起こせば罰せられることを教えなければならない
現時空管理局で幼い子供が戦闘部隊には配属されていなくても、
自然保護など死ぬ可能性が低い部隊に在籍していた場合は彼らに一定の選択肢を用意する
子供を戦闘に巻き込むことは絶対にあってはならない。
次元世界連合の全加盟国で締結している国際条約で定められている
今は少しずつ状況を変えるように慎重に時空管理局から切り離そうと動いている

『現在その子供の両親は捜査対象になっているので対応は慎重に行うように』

レックスはその連絡でため息をついた。
あまり騒ぎ立てるようなことはしないようにしろとの命令である


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東区南部区域キャロル地区1番街2丁目 建設現場

エルガは不発弾がある建設現場の周囲に避難命令を出して安全が確保の作業を行っていた
不発弾は何が原因で爆発するかわからないのだ。慎重な対応が必要になる
爆弾の種類によっては大きな被害が出るかもしれない
信管が除去されるまでは仕方がないのだから

「SA12から東分署。不発弾発見現場と近隣地区の避難状況はどうなっている?」

『すでに大部分の住民が避難している。現場付近には立ち入り禁止エリアと設定している』

「マスコミはどうなっている?」

エルガはマスコミが立ち入り制限エリアに入ることを危惧していた
もし1つでもトラブルになると不発弾処理に影響する。不発弾の信管などの除去作業中に妨害は困る
それだけに警戒しなければならない

『立ち入り規制ラインの外で待機させています。報道官を通じて警戒情報も発令中』

「了解した。警戒は怠るな」

マスコミによる妨害は今は抑えなければならない。問題はここにある不発弾だった
不発弾の種類はすぐに分かった。通常爆薬の物ではなかった

「焼夷弾か。かなり厄介だな」

焼夷弾。それは扱い方を間違えると最悪の結果になるかもしれない
解体するにしても慎重な対応が必要になってくる

「SA12から東分署。不発弾は焼夷弾のタイプだ。退避エリアの拡大を行え。処理チームだけの立ち入りに限定しろ」

『了解。警戒エリアをさらに拡大して対応する。不発弾は動くようなことはないか?』

「焼夷弾そのものに傷はない。しかしいつ火がつくかわからない。港湾パトロールの爆弾処理チームはどれくらいかかる?」

爆弾なら中央パトロールの爆弾処理チームで対応はできる
不発弾が焼夷弾などの軍用向けの兵器となると話は変わってくる
中央パトロールの爆弾処理チームも確かに優秀であるが兵器となると状況が大きく変わってくる

『現在ヘリで向かっている。到着は5分以内』

「立ち入り禁止区域の拡大と避難を迅速に行えるように現場で対応にできるように人員に指示を出せ」

エルガは最悪の状況になっても対応できるような準備作りをしている

『東分署からSA12。不発弾との距離は規定通り以上の距離をとって安全確認はできているか?』

「安全確認はできている。問題があれば東分署と中央本部に通達する」

しかしいつどうなるかわからないことは最も恐ろしいことである
不発弾となっている焼夷弾に何か爆発するような要因がないかを常に監視することが求められる
常に安全を確認しながら状況をこの辺り警戒しているパトロール捜査官と刑事たちに伝えなければならない
エルガの指示1つで仲間の命が犠牲になるかもしれないのだから

『EP20135から東分署。不発弾による封鎖エリアでトラブル発生。不審な男性が規制エリアの内側にいるのを確認』

『こちら東分署。不発弾処理が終わるまでは規制エリア内へ入ることは容認できない。身柄確保を』

エルガはその無線を聞いてため息をついた。問題が発生したからだ。
規制エリアに民間人を入れるわけにはいかない。安全が確認されるまでは特に
マスコミを通じて近隣住民には避難指示は出ている。それを無視するのは違反行為に該当する
それからすぐに身柄確保をしたとの無線が聞こえてきた

「今はトラブルは起こしてほしくないな」

問題が発生したら不発弾処理にいろいろと手間がかかってしまう
不発弾処理にはさまざまな部署との連携が重要になってくる。
1つの組織や部署だけでは片付く問題ではないのだ。
複数の部署が関係してくるトラブルを、問題を解決には素早い対応が求められる

「何もないことを願いたい」

『東分署からSA12。不審人物の身柄を拘束。規制エリア外に移送する』

「作業が完了したら連絡してくれ。それと第92爆発物処理団はどれくらいで到着する?」

不発弾野対応を行うのは港湾パトロール艦隊第92爆発物処理団が主に担当している
もちろん港湾パトロール海兵隊にも同様の部隊が存在する

『もう間もなく到着する。SA12はどうする?』

「俺は監視のために現場にとどまる」

『中央本部からSA12。危険であることはわかっているな?』

「もちろんだ。それに現場対応を行う人間は必要だろ。こちらは爆弾処理チームとの情報交換を担当する」

エルガは問題が発生した場合に備えて待機することにしていたのだ
何かあればすぐに対応するための指揮命令を行うことが求められることが必要であることが十分把握している
最悪の状況になったとしても対応できるように備えている

『何か問題があればすぐに中央本部に無線連絡しろ』

了解したとエルガは答えると無線交信を終えた
彼はマスコミの報道について確認を始めた

『クラナガン商品取引所でクラナガン原油価格は1バレル5000ミッドまで下落』

1バレル8000ミッドから5000ミッドまでの急激な下落
3000ミッドも急激な価格減少というのはあまりにも影響が大きく出るのは間違いない
投資ファンドがかなりの損失を持っているかもしれない。

『大幅な下落の要因は備蓄原油が市場に投入されたことが原因によるものが多いでしょう』

『近隣州での州商品取引所の原油価格も大きく下落しました。ベルカ州商品取引所でも大幅な原油先物価格が下落』

『ベルカ州では港湾パトロールと連邦軍が投入されたことが原因かもしれません』

つまり2つの軍隊が派遣されたことで安全確保が保たれると思われているのだろう
クラナガン市と近隣州の安全が保たれたことが安定化したことが大きな要因であるだろう

『ワンワールドファンドが抱えていた株式や社債が金融市場に売却されると思われるため銘柄の価格が少し下落』

『ただし下落した金融商品の中には優良銘柄も含まれているため、急落はしないとされています』

「ワンワールドファンドは必死だな」

エルガは状況がどうなっているかを十分わかっていた。
捜査官であることは世界情勢を分かっていないと務まらない
常に世界の流れや政治的な動きを理解していないとさまざまな問題に対応ができない

『ミッドチルダ連邦国内の証券取引所では10%も株価が下落』

『連邦準備銀行はワンワールドファンドが保有していた株などを証券取引所で売却したことが要因と』

『今後も一部の企業の株価が上下することは十分考えられると思われます』

「ワンワールドファンドが放出した金融商品の銘柄は大きく動くな」

ミッドチルダ連邦国内だけでなく他次元世界国の証券取引所の株価は大きく上下に値動きをしている
今後の見通しはどうなるかはわからない。各次元世界の中央銀行は金融引き締めを行い始めている
それはミッドチルダ連邦準備銀行も同じである。ミッドチルダでも引き締め政策をとっている
国内でもあまりにも景気が良い状況にあるのは誰の目から見ても明らかだ
そのため連邦準備銀行は金融引き締め政策をあらゆる行動で示している
政策金利を大幅に引き上げしている。現在のミッドチルダ連邦の政策金利は7%である
連邦準備制度理事会はさらに金利引き上げに動くことを視野に入れている
特にクラナガン市内では不動産開発が大きく進もうとしている
しかし市政府が建設許可を出さないため、簡単に新たな不動産開発を進めることができない状況にある
クラナガン市政府は不動産バブルになることを避けるために市内の建設許可に一定の制限を設けている

『クラナガン市政府は不動産開発によるバブル経済になることを阻止するためにあらゆる政策を実施する』

このような問題はクラナガン市だけでない。ミッドチルダ連邦国内のあらゆる州で起きている。
各州政府でも同じように不動産バブルになることを避けるためにいろいろな政策を実施している
特にベルカ州ではかなりの不動産開発に関する許可申請が州政府に要請されている
ベルカ州政府はすべてを認めていないわけではないが、ある程度の不動産開発を認めている
しかしすべての不動産開発を容認すれば州内の経済でバブル経済になるかもしれない
うまくバランスを保つことが求められるのだ

『中央本部からSA12。不発弾に変化はないか?』

「今のところ問題は確認されないが、不発弾の無力化は最優先で行わなければならない」

『了解した。現前立ち入り規制エリア内の侵入については厳しく監視中』

立ち入り禁止エリアに民間人がいればすぐに避難してもらわなければならない

『港湾パトロール飛行隊の第171無人航空飛行隊のRQ-4が展開中』

RQ-4は戦闘機と違って無人航空機だ。
遠隔操作で対応できるので最大40時間は継続的に展開できる
港湾パトロール本部基地に2機が配備されている。この航空機は港湾パトロール飛行隊は8機を保有。
またMQ-9という無人航空偵察機も8機を港湾パトロール飛行隊は保有している
つまり無人航空偵察機は16機を保有している。クラナガン市では常に1機が上空に展開している。
市内で何かのトラブルが起きた時の対応としてである。そんなことは無い方が良いのだが
保険をかけておく方が何かと好都合である。備えがなければどうなるかはわからない

「港湾パトロール飛行隊には万が一に備えて行動するように待機命令を出してくれ」

『すでに指示は出している。さらに問題が発生した場合には、臨機応変に対応ができるように手配をかけています』

「了解した。何らかの懸念情報があれば即時連絡を行うことを求めるが承認できるか?」

つまり警察権限での活動ではなく軍事組織が動くような大ごとになっても、
こちらのサポートをしてくれるか確認したかったのだ

『多少の無茶はこちらで面倒を見る。今は不発弾が爆発しないように最大限の警戒を行うように』

「協力感謝する」

エルガはそういうと今は爆弾処理のために安全確保作業を継続した


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ベルカ州中央地方ベルカ市郊外 港湾パトロールベルカ基地 基地司令センター

『州商品取引所でベルカ州で生産された小麦の取引価格が大きく上昇しています』

『大きな要因として聖王教会関係のトラブルの影響が大きいと専門家は見ています』

『ベルカ州政府は穀物の安定供給に最善を尽くすとしていますが、州商品取引所の先物価格は急上昇』

その情報を経済ニュース専門番組で見ていたのはベルカ基地に配置されているベルカ統合軍司令官だ。
レパーズ・サットン統合軍司令官にはベルカ州を守るためには全力で部隊を動かさなければならない
ただし今はベルカ州西部地方で起きているクーデター騒動の対応をメインでしている
彼らの制圧が完了すれば州商品取引所や州証券取引所の多くの銘柄は安定するだろう
しかしそこまで持っていくのにかなりの複雑な利害関係が絡んでくる

「さすがはヘッジファンドだな。利益が出ると思えば手段を選ばない。生活に必要なものでも金になれば気にしない」

レパーズはため息をついてしまった。ベルカ州の主産業は農作物の生産だ。
特に小麦などの穀物生産はベルカ州だけでなく近隣州にも影響してくる
生産された穀物が州外に供給されないような事態になると近隣州で生活している人々に大きな影響が出る
だからこそベルカ基地では安全確認作業を進めている。ベルカ州内の鉄道網に問題がないかなどを中心に
無いとは思うが鉄道路線や道路網に爆弾が設置されている可能性があるなら安全確認をしなければならない

『港湾本部からベルカ基地。州内の交通網に障害物がないかを最優先で確認せよ』

港湾パトロールにとっても基地がある州の安全保障に全力的な対応が求められる
州商品取引所で売買される穀物などの農作物・金や石油などの鉱物資源の先物取引が行われている
ここでの現物や先物の市場価格は州内はもちろんだが近隣州にも影響が出てくる

「現在確認を行っているが少し時間が必要になる。時間的余裕がないという事か?」

『ベルカ州近隣と結んでいる鉄道や道路に対して攻撃予告などが出ていることを確認している』

つまりどこかの反政府組織がテロ攻撃を仕掛けてくることが考えられるという意味をレパーズはすぐに察した
もし本当に攻撃を受けたら影響はかなりひどいことになってしまう。
最悪の状態になる前に止めるのが港湾パトロールの存在意義。全力で対応するとレパーズは港湾本部に報告。
さらに州内で警戒に当たっている各部隊に警戒情報を流すように基地司令センターにいる管制官に伝えた

「ベルカ基地から港湾本部。安全確保のために最善を尽くして対応する」

『問題が発生したらこちらにすぐ連絡を。ベルカ州内のクーデター騒動は早急に決着をつけるように対応しろ』

今はベルカ州西部地方で発生しているクーデターを抑え込む
そのためにはさまざまな手段を行使して行わなければならないのだ

「できるだけ対応できるように備えを開始する」


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部3係主任捜査官執務室

ウルは部下から提出された報告書を確認して承認できるものは決裁したとしてサインをした

「機動六課組を受け入れるのは本当は誰も嫌だと思うけど」

警戒しなければどんなトラブルが発生するかわからないのだ
機動六課組の受け入れは時空管理局で暗部と呼ばれているHRに殺されないようにするための対策だ
HRは時空管理局の組織が大幅縮小されて影響力は大幅に減った。
むしろ今は風当たりが強く、マスコミが小さなスキャンダルであっても派手に報道している
その影響はHRにはかなり厳しい状況を作っている。
それに次元世界連合の時空管理局調査委員会や時空管理局犯罪捜査局の捜査などで、
HRの規模はほとんど組織として機能しない状況にまで追い込まれている
今後の展開次第で腐敗しきった時空管理局の暗い闇はなくなるかもしれない。
そこまで捜査を行うにはかなりの時間と労力が必要になる。
いつまでにすべてが終わるかなどはどうなるかはわからない

「時空管理局犯罪捜査局も大変だね」

時空管理局犯罪捜査局も大量リストラで退役した時空管理局員が関与していた不祥事の件数は毎日増加する
捜査担当部門では1人の捜査官が同時に10件以上の捜査を行っている
さらにあまりにも不祥事が多すぎることと規模も大きな不祥事があるので対応に苦慮している
彼らにとってはここが踏ん張りどころであることはわかっている。
それでもどこかで限界を迎える可能性がある。
時空管理局犯罪捜査局単独では難しい案件もある。
だから次元世界連合加盟国にある法執行機関との連携も重要だ

『ランシング大統領は次元世界連合安全保障理事会が決議した聖王教会本部へ国内の法執行機関を動かすと表明』

『またベルカ州西部地方で発生しているクーデター騒動を抑え込むために軍を動かすことも発表』

『この発表で通貨ミッドに大量の売り注文が入りました。今後の外国為替の動きで必要に応じて介入することも発表』

ミッド高から一気に逆転して通貨ミッドに大量の売りが入った。
それはそれで望ましいことだ。元々通貨ミッド高であり対応に苦慮していたのだから
通貨安になるならある程度は容認できる。
通貨ミッド高の傾向にあり、今後の金融政策で対応するつもりでいろいろと用意をしてきた
それが少しでも緩和できればこちらとしても安心できる。
金融市場というのは良きものと同じで値動きは些細な噂だけで大きく相場が動く
だからこそ金融市場が休みの日などは存在しない。常に相場は動き続けている
変化を予想することがトレーダーにとって最も難しいことだが、
それを見極めることができれば大きな利益が出る時もあれば大きな損失が出ることもある
ただ経済が安定していないと犯罪発生率が増加する。法執行機関はそんなことになることを好む者はいない
犯罪が少ないということは人々が安心して生活できる。逆に犯罪が多いと人々の生活に大きな影ができてしまう。
難しい課題なのだから努力するしかない

『中央本部から各員へ。東区東部区域の不発弾処理はしばらく時間がかかる。万が一に備えるように』

「市内にいったいいくつの不発弾があるのかわかっていると助かるんだけど」

ウルは思わず迷惑な存在であることを理解しているからそう愚痴るかのように呟いてしまった
その時ウルの携帯電話が着信を告げていた。発信者はカザーナ・ステージア港湾パトロール安全保障局長だ

「カザーナ。そっちは大変だと思うけど、何か緊急の知らせかな?」

『ウル主任。ラジェットが警護している機動六課組に対して青信号が出ています』

青信号とは暗殺指令が出ているということを示している
邪魔者は抹殺した方が良い。おそらく時空管理局の暗部であるHRからの指令だ
彼らから見れば機動六課組は迷惑な人材だ。こちらの闇をよく知っている
闇の情報が洩れたらHRは完全に破滅する道を選ぶことになる
そんなことは避けたくて仕方がないはず。手段を問わずに抹殺してくることは確実だ

「予想はしていたけど、どれほどの勢力が動いているのかな?」

『現在こちらで把握している情報によると30人ほどの魔導師が。常に通信を傍受して監視を行っています』

港湾パトロール安全保障局は情報機関である。
だから犯罪組織対策法に登録されている組織や個人の通信傍受は連邦法で認められている
港湾パトロール安全保障局からの情報は裏社会の構造を理解するうえで重要な判断材料になる
捜査部も市内の犯罪組織の動向を常に把握している。
互いに情報交換をすることで最悪の惨事になる前に止めることができるのだ

「ベルカ州のクーデターについて何か最新情報はあるかな?」

『クーデター騒動を起こしている人数は70人ほどです。ベルカ州西部地方にある魔力精製炉発電所も手に入れています』

魔力精製炉発電所で使用される魔石燃料の濃度は魔力爆弾を作るほどではない
しかし、ライフラインを断つことでベルカ州で混乱を生むことはできる
クーデターを実行することで重要なのは生命線を断つことだ。
例えばライフラインを断つことで大きなダメージを敵に与えることができる
以前取り締まる側にいた関係者ならわかっている。電力は最も効果的な戦略だ
電力供給が断たれると通信を断つこともできる。地上回線は使えないので人工衛星を介した通信に限定される
そうなると確かに通信はできるが1度に大量の通信は難しい。
敵に反撃する時間を少しでも先延ばしをすることができれば、それだけでも大きなダメージを与えることが可能になる

「利口な人間がついているようだね。それに戦略も実に練られている。こちらの情報が洩れている可能性はどうかな?」

『それについては確認作業を行っています。ですが中央パトロールも警戒を』

ウルはわかっているよと答えると彼女との通話を終えた。
こちらが警戒しないといけないことは十分わかっている。
機動六課という爆弾を抱えようとしているのだ。しっかりとした警備が求められる
特に教導官の役目を担当する部下には厳重警戒をさせないと巻き込んで抹殺される
捜査部に属する捜査官は誰もが受け入れについて肯定的に思っているわけではない。内心では拒絶したいところもある。
今まで時空管理局に捜査を行っている途中に横やりを入れられたことがあるからだ
だからこそ心の中では拒絶したいと思うのは当然の流れである
上司から任務として任されたら、簡単に断るわけにはいかない
嫌なことでも任務遂行する。それがプロである

「仲間は誰もが納得していないけど、仕事ということでしぶしぶ納得するしかないのが現状かもしれないね」

どれほど嫌な任務だとしても遂行することが求められている。

「でもみんなには苦労を掛けることになる」

時空管理局から勝手に押し付けられたのだ。自分たちでは対応できないから
もし時空管理局在籍中に暗殺を受けたら時空管理局としても不名誉だ
嫌なものを押し付けてくるのはいつものことだ。今回のことも誰もが納得していない
それでも任務遂行のために全力で対応しなければならない

『SA11から中央本部捜査部へ。応答せよ』

ラジェットからの無線交信を求める内容だ。
ウルはすぐに自分の執務室から出るとシエルも執務室から捜査部オペレーションルームに向かっていた
ウルはシエルが行くなら別に気にすることはないのだが、ラジェットが担当している任務を考えた
もしかしたらウルも捜査部オペレーションルームに行ってシエルと共同で通信に出た方が良いと判断した
2人がオペレーションルームに入るとすでに管制官のギブリが正面スクリーンに地図情報を表示
ラジェットがいる場所にいる人員などの情報を表示させていた

「ラジェット。シエルだけど何かあったの?」

『警戒情報を確認してほしいんだが。俺がここでアクセスすると手続きが必要になった時に困る』

ラジェットははやて達の前で機密情報を扱うのは危険である事と規則に反することを分かっていた
だからこそ遠回しでも良いので捜査部オペレーションルームに連絡してきたのだろう

「了解。港湾パトロール安全保障局のデータベースにアクセスして気になる情報がないか探ってみるわ」

『できれば危険な情報がないことは期待したくないが、万が一に備える必要があるからな』

ラジェットも直接攻撃を仕掛けてくるようなことが無い方が良い
シエルはギブリに港湾パトロール安全保障局の情報にアクセスさせた
そこから特に問題になりそうな情報がないか確認させた

「何かある?」

ギブリはさまざまな情報をアクセスさせて確認作業を行わせた
彼らが何か不審な情報がないかを入念に

「今のところは何も入っていない。他のデータベースにアクセスしてみるか?」

「アクセスして。あとでお詫びの電話を入れるからとにかく安全確認を最優先にして」

シエルはほかの情報にもアクセスした。結果は大当たりだ
ある情報がヒットした。名前はゴラード・サレズ。年齢は37歳。
退役時空管理局員で大量リストラでミッドチルダに配備されていたがリストラされた
最後の階級は2等陸佐。問題はどうやって絞り込むかである

『ある政府関係者からの話によると時空管理局機動六課に属するメンバーをクラナガン捜査局で保護すると』

『これについてクラナガン捜査局は事実であると表明。次元世界連合から要請を受けたことが大きな要因とのことです』

ウルは空間モニタでニュース専門チャンネルの報道番組を表示していた
確かに機動六課組の受け入れは次元世界連合によることは事実だ
次元世界連合事務総長からの要請を受けて引き受けた。もしそうでなければそんなことはしなかった
爆弾を自ら抱えるようなことをするはずがない。

『一方でクラナガン市内に電力供給ですが、クラナガン市沿岸部に設置されている魔力精製炉発電所が1施設機能停止』

『ほかの魔力精製炉発電所にも影響が出ることが懸念されています』

『これにより市内の電力供給に影響が出ると近隣州にも影響が出ることが懸念されています』

クラナガン市の沿岸で発電された電力はフローレンス州などの海と接していない近隣州に供給されている
近隣州にまで影響が出ると問題になるのでフローレンス州では州内で使用電力は州内で発電するとしている
フローレンス州にも魔力精製炉発電所がいくつも存在している。
そのほかにも水力や火力などさまざまな電力供給減を確保している。
クラナガン市からの電力供給が断たれても問題は発生しないとされている
しかし経済的な影響が全くでないということはない。
フローレンス州商品取引所や州証券取引所で値動きが激しくなる

『フローレンス州商品取引所で石油・天然ガス・石炭などの先物価格が大幅に上昇。また農作物の先物価格も同様に上昇』

フローレンス州でも数多くの種類の農作物の生産が行われている
それらはクラナガン市などの大量消費を行われる大都市に送られる
ベルカ州と同じでフローレンス州はクラナガン市にとっては重要な農作物の供給元である

「本当に困ったものだね。ヘッジファンドは今はかなり手広くビジネスをしている」

ウルはため息をつきながらそう言った。確かに時空管理局債や聖王教会債が債務不履行になった。
その後は新たな資産運用先として商品取引所で集めた資金運用を激しく行っている
国内にある各州の州商品取引所で先物価格が上昇すれば、物価の高騰を招くことになる
物価が上がればそれを何とかするためにはかなりの苦労することになる
インフレになることを抑え込むために連邦準備銀行は自らが抱えている各次元世界国が発行した国債を金融市場に流す
それにより資金吸収オペレーションをして、過剰なインフレになることを抑制するのだ
連邦準備銀行だけでなく連邦政府も外貨準備として他次元世界国の国債を保有しているので、
それらを金融市場に売却することでインフレを連邦準備銀行と共同歩調にすることで抑え込む

「まったく、クラナガン市民を飢え死にさせるつもりでもあるのかな?」

ウルはどこの州でも農作物が値上がりすれば農家に入ってくる利益は大きいことはわかっている
だからこそ少しでも農作物が値上がりすれば好ましいと思うところもあるだろう
あまりそういうのが過激に行われると影響は大きなものになりかねない
うまく天秤にかけることが重要なのだ

『南分署から中央本部。南区南部区域イーストハイランズ地区9番街8丁目13番地702号室から緊急通報を受信』

『内容は家宅侵入の上にレイプ行為をされたと通報者から連絡あり』

家宅侵入だけでなくレイプをするとは最悪だ。
レイプをされたということはある検査をしなければならない
被害者からレイプ犯の精液のサンプルを確保しなければならないからで
こういった事件は女性が担当すると規則で定められている
性犯罪の被害者対応を男性がすることは被害者に心理的にさらに傷をつけることもある
だからこそレイプや痴漢などの性犯罪被害者の担当捜査官は女性がすることになっている
ウルはすぐに支持を出すために南分署の分署地域情報センターとの通信を始めた

「中央本部捜査部から南分署へ。捜査部から女性捜査官を派遣する。被害者は速やかに医療機関に搬送を」

『こちら南分署。了解しました。被害者を医療機関に搬送する準備に入ります。担当捜査官は誰になりますか?』

「SA03が割り振りのために動いているので少し待機を」

『割り振りが完了次第連絡を要請します。なお被害者ですが、以前からストーカー被害を申請していました』

その情報について南分署から被害申請の情報が送られてきた
ストーカーの被害があるとして2月に南分署に捜査願を出していた
捜査願とは被害者がトラブルに巻き込まれた際にクラナガン捜査局に捜査を依頼することだ
ちなみに被害者でなくても被害者に含まれる家族などからの申請を受け付けしている。
捜査願を引き受けると担当部署の刑事が調査を行う。
ストーカー行為が確認された場合は被害者と捜査を担当した刑事や捜査官が話し合いを行い、
裁判所に接近禁止命令などの申請手続きに入る。
接近禁止命令が発令されて被害者から一定の距離をとらないで接近した場合は逮捕することができる

「被害者はエレナ・ヴィスコム。24歳。1人暮らしだね。ストーカーの加害者はグラブ・デラン。32歳」

『内容はその通りです。被害は女性が別れ話を切り出してからです』

グラブ・デランは大量リストラされた時空管理局員だ。
おまけに退役した後に分かったことだが、時空管理局に物資を納めていた業者と密着していた
業者から賄賂として受け取った金額は95億ミッドになる。
そんなに金を受け取っていたのに時空管理局犯罪捜査局が捜査を開始した
しかし銀行口座にはわずか10万ミッドしか残っていなかった。
95億ミッドはさまざまな銀行の口座を流れてわからない状況になっていた
つまりどこかに隠していることは間違いない。しかし追跡することはほぼ不可能の状況だ
ストーカー被害を受けていた女性は一部のお金を受け取っていた
しかしそのことを罪であることだと知った時に受け取っていたお金について、
すべて時空管理局犯罪捜査局に情報提供を行い返金もした。返金した金額は3億ミッドになる。
さらに資金の流れについてもかなり詳しく時空管理局犯罪捜査局に情報提供
これにより時空管理局犯罪捜査局の捜査が大きく動くきっかけになった

「時空管理局犯罪捜査局に連絡して情報を集める。被害者のケアのために犯罪被害者救済担当課に支援要請を」

性的犯罪を受けた場合は、被害者に心の中で大きな傷跡を残すことになる
その恐怖心を少しでも改善できるように被害者救済と担当している事務部犯罪被害者救済担当課との連携は重要になる

『ストーカー行為をしていたグラブ・デランですが、セントラルベルカバンクに銀行口座を開設していた時期があります』

今はミーミルバンクに買収されていろいろな調査を受けているセントラルベルカバンク。
そこに口座があったということはそこを経由した資金の流れがあったかもしれない

「セントラルベルカバンクに最も多いころの預金はどれくらいになっている?」

『こちらで連邦財務省に問い合わせたらすぐに連絡がありました。最も多い時には100億ミッドが預金されていたと』

だがJS事件を受けて預金をすべて別の金融機関に送金していた。
その後、頻繁に送金を多くの金融缶を経由して送金していたので追跡することはかなり困難になっていた
おまけにワンワールドバンクの銀行口座を経由していることで、当時の記録が失われているケースも確認されている
潰れてしまった金融機関では財務記録を調べるのはかなり大変になっている

「追跡するのは大変だね。それにしても95億ミッドも業者から賄賂でもらっていたなんて羨ましい話」

ウルの言う通りだ。
今までは時空管理局の予算は次元世界政府に権限はないので、必要だと判断すれば好き勝手することができた
しかし次元世界連合が時空管理局が上部組織になるので予算についても時空管理局に権限はない
以前のように時空管理局が好き勝手に予算申請をして簡単に通ることはない
厳しい予算申請の審査がある。おまけに時空管理局の管轄できる場所は次元空間だけだ。
次元世界連合に加盟している次元世界国内の権限はすべてその次元世界国政府の管轄になる

「念のために時空管理局犯罪捜査局には僕の方で情報提供に関して要請しておくから」

ウルは今はグラブ・デランの捜索に最善を尽くすように指示を出した
クラナガン市内から逃げられることを考えて市内の空港や港の警戒レベルを上げるように根回しをしておくと
南分署にそのことを伝える。あとはうまく事を進めるだけだ。

『西分署から中央本部へ。クルック地区の警備体制の強化に伴い立ち入り制限をさらに厳格に行う』

西分署からの無線はクルック地区でトラブル発生の確立を最小限にするために必要なことだ
クルック地区と近隣地区には数多くの国際機関や次元世界連合に加盟している次元世界国の大使館がある
警備を厳重するには十分な理由である

「シエル。クルック地区の警備体制を強化しないと最悪の結末になるかもしれないね」

ウルはあることを恐れていた。
もしクルック地区か近隣地区にテロ行為があれば守っていないと思われかねない
そんなことになれば同様の犯行が増加することは容易に想像できる

「クルック分署に通達を。それとワンワールドグループの破綻で金融市場にどれぐらいの影響があるか」

金融市場の混乱がどれくらい出るかの調査をすることも重要である
ウルはすぐに自分のオペレーションルームの情報端末を使って情報にアクセスした
ワンワールドバンクの破綻によってミッドチルダ連邦の各州にある州証券取引所では平均株価が下落していた
売り注文で下落するときもあれば買い注文も入ったりして大きな値動きの展開となっている

『クラナガン証券取引所でも大企業の株価も大きく値動きをしています。一方で債券市場や外国為替市場でも激しいです』

クラナガン証券取引所は各州にある州証券取引所と異なり、
国内全域で活動している企業の証券が売買されている。
各州にある州証券取引所に上場しているものは、主に州内だけで活動している株が売買されている
商品取引所も各州に1つあり、石油や石炭などの鉱物資源・穀物などの農作物が売買されている

『一方で、各州にある州証券取引所の平均株価は下落基調にあります』

『ワンワールドグループが保有株の大部分が売りに出されたことが主な影響だと思われます』

「国内の証券取引所は大きく値動きしているみたいだよ。シエル」

「ワンワールドグループ企業の影響は大きいみたいね。まぁ、とりあえずは大企業の1つだったから当然だけど」

ワンワールドグループは多くの資金を利用して株や債券の売買をしていた
破産したことを受けて次元世界連合全加盟国政府ではワンワールドグループの支社が保有していた資産を差し押さえた
ミッドチルダ連邦政府も多くの財産を証券取引委員会が差し押さえを行った
ワンワールドグループ企業が保有していた資産の総額や数百京ミッドになっている
それらの資産はすべて証券取引所や債券市場などの金融市場に売却を行う。
それが原因で多くの次元世界連合にある金融市場では株や債券の銘柄で値動きが大きくなっている

「ワンワールドグループにはかなりの財産があったみたいだね」

ワンワールドグループで最も多かった金融商品は時空管理局債が中心だったと思われていた
実際のところは時空管理局債だけでなく多くの企業の株や債券を持っていた
また次元世界政府が発行している国債も多く保有していた。
それらの次元世界国政府の国債価格は金融市場で売却されたことで値段が大きく上下している

『一方で鉱物資源である金の価格が大きく上昇。これは時空管理局予算の大幅カットによる影響が大きいと』

時空管理局債が価値を失ったっことにより、
機関投資家などの投資ファンドの多くが他の金融市場で売買を行う場所を探していたことが大きな要因の1つである
投資家たちは常に利益を得るために国内の各州にある州証券取引所や州商品取引所。
国外の証券取引所や商品取引所で売買される数は大きく増加している

『経済アナリストによりますと、多くの次元世界政府が発行してきた国債の残高が多いためとみられているとの指摘が』

これはつまり各次元世界国が国債の償還ができないのではないかと不信になり金の買い注文が入っている
そういう可能性が極めて高い。時空管理局が多くの権限を握っていたJS事件前まで、
各次元世界国政府は時空管理局の予算を捻出するために国債を大量に発行していた
しかし時空管理局の規模縮小に伴って多くの次元世界国は国債の発行の必要がない状態になっている
現在は今まで発行してきた国債の返済に追われている。その時、緊急指令が港湾本部から発せられた。
緊急行動指令は弾道ミサイルなどの様々な軍事行動を行う時に発令される

『港湾本部から全職員に通達。緊急行動指令を発令する。弾道ミサイル発射を行う可能性がある』

「シエル」

この無線メッセージはクラナガン捜査局員であればだれもが受信することになっている
最悪の事態を示すものだ。軍事的活動をする時には必ずこの『緊急行動指令』が出されることになっている
シエルはすぐに緊急行動指令が発令された理由を探るために動くことにした
港湾パトロールが運用している中距離弾道ミサイルの発射が想定されているのかどうかを確認した
もし弾道ミサイルが発射されることが事実なら状況は極めて危険である。

『港湾本部から中央本部へ。緊急行動指令の内容はベルカ州西部地方に対する弾道ミサイル発射の準備である』

「恐れていたことが現実になったわ。大統領が決断したらすぐに発射を行うわね」

シエルは状況の危険性を分かっていた。
中距離弾道ミサイルの発射になればクラナガン捜査局が発足以来、最も危険な状態になる
中距離弾道ミサイルは港湾本部基地と17,000t級魔力精製炉型潜水艦[ 形式:オハイオ級原子力潜水艦 ]にしか存在しない
17,000t級魔力精製炉型潜水艦は港湾パトロール艦隊の中で6隻しか運用されていない
潜水艦には1隻あたり24基の中距離弾道ミサイルが搭載されている。
弾道ミサイル発射はミッドチルダ連邦大統領にしか発射指示を出す権限がないことになっている
もちろん弾道ミサイル発射は重要なことである。
実際に発射を行うには次元世界連合総会や安全保障理事会の承認があった方が良い
もし攻撃について行うべきではなかったという結果になれば外交上で障害になるかもしれない
安全保障理事会で唯一の常任理事国である立場を失うかもしれない。
ミッドチルダ連邦政府として特別な立場をなくすわけにはいかない

「連邦政府は次元世界連合安全保障理事会の承認を得る作業に入るかもしれない」

事前に次元世界連合に承認を得ることで攻撃に関して正当なものであると納得してもらうことが重要である
もし安全保障理事会で事後に承認が得られなければミッドチルダ連邦政府の外交に悪影響が出る
クーデターを起こしている連中が犯罪組織や反政府組織であることが分かれば、
攻撃についても承認も得やすいことは政治的駆け引きで重要だということが分かっている者なら理解している

「国内の経済に影響が出るのは確実ね。ベルカ州証券取引所の平均株価が下落基調は継続してくるわ」

クーデター騒動を起こしている連中がベルカ州にいることが無くなるまでは州証券取引所の株価は下がり続ける
どこまで下がり続けるかが最大の課題であることはシエルもウルもわかっている
州証券取引所の平均株価は今は2万ミッドまで下がっている。
一方で州商品取引所の小麦などの農作物の先物価格は上昇している
それはクラナガン商品取引所でも農作物や鉱物資源などの商品先物価格も上昇している
クラナガン原油についても1バレル5000ミッドから上昇していた

『ベルカ州の問題の影響でクラナガン商品取引所の原油先物価格が1バレル5000ミッドから7500ミッドまで上昇』

『ベルカ州でのクーデター騒動が落ち着くまでは商品取引所で取引されている様々なものが大幅に上昇するでしょう』

ウルはそのニュースを見てため息をついた。市内に経済的な問題はできれば持ち込みたくないからだ。
エネルギー資源価格が急上昇したら大きな問題になる。
クラナガン市内の自動車燃料価格の上昇が見込まれるからだ
また経済犯罪も発生してくる。例えばインサイダー取引といった行為も行われるかもしれない
捜査部では経済事件を担当することもある。常に経済情報などの様々な話題を知っておくことが求められる

『ピーピーピー』

シエルの携帯電話が着信を告げていた。
発信者は内国歳入庁連邦法人税取締部の捜査官をしているティーナ・サックスだ

「あなたからコールなんて珍しいわね。何か出てきたの?」

『シエル首席捜査官。ワンワールドバンクの財務記録を調べたところ、800億ミッドの入金が2年前にあった』

その入金をした企業はワンワールドカンパニーからだったと連絡を受けた
800億ミッドも入金はあまりにも多すぎる。なぜそれだけのお金を入金したのか調べる必要がある

「入金は何が原因で行われたの?」

それほどの金額の入金の流れを調べることでいろいろと分かってくることもある
金の流れを追うことで背後関係を調べることができる。

『ワンワールドカンパニーからだが、あそこが実際にはほとんどペーパーカンパニーであることはわかっていますよね』

ワンワールドカンパニーは企業としては登録されているが実態はほとんど何もしていない
時空管理局の幹部が退役したときのペーパーカンパニーだったことは法執行機関の関係者なら誰もが知っている
ワンワールドカンパニーに表向きは物資を納めていた企業はその物資が時空管理局に収められることはわかっていた
ペーパーカンパニーと同じ状態だったワンワールドカンパニーは書類上存在しているだけであったことから、
そのまま高値で時空管理局にワンワールドカンパニー名義で時空管理局に収められた。
それも通常よりも高い値段で。高い値段で時空管理局はワンワールドカンパニーに支払いをすることで、
退役した時空管理局員の幹部たちは簡単に天下り先の確保ができていた
時空管理局とワンワールドグループ企業が密着した関係であったことが立証できていた
しかし多くの次元世界国の警察などの法執行機関は幹部たちの身柄を拘束しようとしたが逃亡。
さまざまな証拠になる金の流れを追うのも簡単なことではない
あまりにも金額が多すぎるのと関与した企業や個人が多すぎる
それだけに追跡することは極めて難しい状況にあったのが現実である

「こっちで調べてみるわ。港湾パトロール安全保障局に協力を打診して深く掘り下げてみるから」

諜報機関なら情報を持っていることはシエルやウルは十分わかっている。
ただし彼らから情報を引き出すのは簡単なことではない。
諜報機関が簡単に情報を横流ししていたら彼らの活動にも影響が出るからだ
だが中央本部捜査部とは常に連携しているので、ある程度は簡単に機密情報にアクセスすることはできる
だからこそ捜査部も絡んだ方が良いかもしれないとシエルは判断したのだ

『協力に感謝します』

通話を終えるとすぐに港湾パトロール安全保障局にアクセスした
残る道はこれしかないというなら選ぶしかない

「ギブリ。港湾パトロール安全保障局に連絡して。情報提供を要請するのよ」

港湾パトロール安全保障局の情報にアクセスして確認することはそれほど難しいことではない
捜査部オペレーションルームなら機密性も保たれている。情報閲覧を行うには問題ない

「あっちが簡単にアクセスさせてくれるかどうかはわからないよ。シエル」

ウルの私的にシエルは問題ないわと回答した。
彼女のコネを利用すれば国家機密に関係する情報にもアクセスできる
もちろんアクセスするということは、その時に問題がないかが問われることもあるが

「相変わらず無茶が好きだね。シエル」

「市内の安全保障にかかわるならこっちとしても対応するのは当然のことよ。それにクーデター騒動で経済に混乱する」

クラナガン捜査局はミッドチルダ連邦の首都であるクラナガン市と近隣州の安全保障に大きな責任がある
それを全うするためには時には手段を選ばず行動することが求められるなら嫌でもどんな状況でも進み続ける
シエルはそういうと機密情報にアクセスした。港湾パトロール安全保障局はすぐに承認してくれた

「ギブリ。ワンワールドカンパニーの財務記録を照合して。800億ミッドもの資金が動いたルートが知りたいから」

ギブリはすぐにワンワールドグループ企業の財務記録から800億ミッドの金の動きを詳細に調べ上げた
少しでも大金の金が動いていたことから選別して確認作業を。
検索システムにかけたらある程度は簡単な資金の流れをつかむことができた
800億ミッドにもなると財務記録を調べるのはそれほど難しくない

「10社以上の金融機関を経由して金を動かしているが最後はワンワールドバンクに流れている」

よくある話だ。多くの金融機関を通すことで追跡を困難にしようと企んでいたのだろう
こちらを甘く見られたものだ。諜報機関を利用すれば追跡は比較的可能にできた

「最終的にはある銀行に振り込まれている。口座の名義人はザラート・ポデット」

ギブリはその人物についての情報にもアクセスしてどんな人物なのか調べた
ザラート・ポデットは退役時空管理局員。年齢54歳で最後の階級は2等陸佐
最後に配置されていた場所は時空管理局本局事務部の物資調達課。2年間、課長の役目をしていた
個人資産は1000億ミッドだ。この人物も時空管理局犯罪捜査局の捜査対象になっていた
現在はクラナガン市内の拘置所に収監されている。物資納入業者から賄賂を受け取っていた

「シエル。その情報をどうするつもりなのかな?」

「もちろん調べるのよ。それも徹底した内容を知るために」

ウルの質問にシエルはそう答えた。
ワンワールドバンクを含むグループ企業全体を調べて何か出ないかをと

「まぁ深く掘り下げるのは簡単ではないけど、やるべきことをやるだけ」

やるべきことをやるだけというのは簡単ではない。
それでも最大限の努力を行って実行するだけである

「本当に楽なことではないわね」

シエルの発言にウルはそうだねと答えた。機密関係の情報というのは取り扱いが難しい
仮に犯人が逮捕されたとしても機密情報を裁判の証拠として取り扱うことはかなり無理に近いことである
だからこそ他の情報を集めることが重要なのだ。捜査をした組織が独自に集めた情報が

「どうしてやろうかしら?」

『SA11から中央本部捜査部へ。何か新しい危険情報は入っているか?』

ラジェットから情報確認の無線が入ってきた。
先ほど情報確認の無線連絡をしてきたのでもう集まっているのではないかと確認をしてきたのだ
ギブリが無線に出ようとしたときにこっちに回してとシエルが答えた

「ラジェット、シエルだけど今は大丈夫なの?」

『今のところ問題は確認されていないが、何か危険な情報が入っていたら困るからな。それでどうなんだ?』

「今のところ何か不審な情報は入っていないけど、何か警戒することが必要な情報があればすぐに連絡を入れる」

彼は待っていると返答すると無線通信を終えた
ラジェットは一緒にはやてたち機動六課組への攻撃がないか想定していたのだ
だからこそ情報の確認作業を要請した。そうでもなければ情報提供を求めるようなことはしない
安全最優先で対応している

「本当にラジェットも苦労しているね」

ウルの発言にシエルはラジェットは優秀だから心配はないわと答えた
彼女はすぐにラジェットが乗っている車の上空にいる港湾パトロールのヘリチームから映像を提供してもらった
何か危険な動きがないかを確認するためである。
少しでも何か異変があれば上空から確認することができるかもしれない


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中央区東部区域セントラルパーク 中央区域 パトロール事務所取調室

エバック・アリオン捜査官はセントラルパークで身柄確保されたブディス・サコイルの取り調べを継続して行っていた
過去に3回も逮捕されてもすぐにどこからか圧力を受けて釈放されていたが、今回はそれは期待できない
以前釈放された時は時空管理局からの圧力からだったからだ
すでに時空管理局にそんな権限がないということは答えは簡単である
性犯罪者として長い時間をかけて罪を償うことになる。犯罪行為の代償を高くなるだけだ
それに犯罪者の中でも絶対に踏み越えてはならない一線というのが存在する
幼い子供に対する性犯罪行為である。幼い子供に性犯罪行為は絶対に許されない
拘置所や刑務所はすべて個室なのでいじめにあうこともない。
しかし出所後に他の犯罪者からとんでもない騒動に巻き込まれるyことは頻繁にあるのだ
性犯罪者の中でも幼い子供に対する犯罪は許されないのだから

「このままだとお前は消されるぞ。その覚悟があるのか?」

「・・・・・・・・・・・」

ここまで圧力をかけて何も証言するつもりはない。喋らなければ立件されないと思っているのか
もしそうなら甘い考えである。過去に身柄拘束後すぐに釈放されていた件で訴追できるかもしれない
どのような勢力とコネがあったことを探ることができればなおさらである

「良いんだな?刑務所で殺される覚悟を持って苦しめ」

最終通告をするとあとはセントラル分署のセントラルパーク警備課の刑事に身柄を移管した
セントラルパーク警備課はセントラルパークで発生する犯罪捜査を担当する部署だ
この公園は広いので多種多様の犯罪捜査を行っている。必要に応じて他の部署と連携している
セントラルパークでは多くの犯罪が起きている。小児性愛者が性的犯罪を行うために見ていることもある
そういう不審者がいるならすぐに身柄を拘束する。情報確認を行う
必要なら家宅捜索などを行う。性犯罪者は常に監視することが求められる
些細なことを見逃した結果は子供が誘拐されたりするのだ
子供だけではなく女性に対しての性犯罪を行う性犯罪者も多くあらわれる
だからこそセントラルパークなどの広い公園の警戒を厳重にするのは当然なことなのだ

『セントラル分署からセントラルパーク事務所へ。犬が死んでいるとの通報を受電中』

動物が死んでいる。その無線を聞いてエバックはすぐにセントラルパークの場所を確認した
公園の南側であるとのことだ。犬が死んでいる理由が何かを調べるのも仕事である
クラナガン市法ではペットとして飼っている動物にはマイクロチップをつけることが義務付けられている
つまり犬の飼い主はすぐに調べればわかるのだ。
特に犬が死んでいるということは大きなことが絡んでいるかもしれない

「SA39からセントラル分署。こちらがセントラルパークにいるので犬が死亡している現場に急行する」

『死亡した犬はゴールデンレトリバー。検死官が向かっている。それまでは現場確保を行い汚染のないように』

犬が死亡した原因が何か毒物であることを懸念しての対応だ。これは規則で定められている。
公園に殺鼠剤がまかれていることで犬を含む、多くの動物が死亡することは毎日起きている
もちろんこういう行為は犬や猫であっても動物虐待行為と認定される
立派な犯罪であることはクラナガン市法で規定されている
エバックは公園内を車で走行するわけにはいかないので捜査キッドを持って現場まで走っていった
セントラルパークの南側で死亡しているゴールデンレトリーバーがいる場所に到着すると、
パトロール捜査官によってすでに規制線が展開されていた
現場で毒物が検出されることを恐れてある程度離れた距離を封鎖していた

「SA39からセントラル分署。現場隔離を行い安全確保を最優先にして対応を」

毒ガスなどの物ならここにいるだけで危険である。
殺鼠剤などの食べるといった行為で効果が出る毒物のタイプならそこまでの警戒は必要はない
だが何が原因かわからないならそれなりのリスク管理をして対応しなければならない

『こちらセントラル分署。セントラルパークの南側の立ち入りを規制する。警戒態勢を展開する』

エバックの指示にセントラル分署はすぐに実行した。
無線でセントラルパーク内の南側を中心とするエリアの立ち入りに規制をかけた

『中央本部から各員へ。西区西部区域で雨雲が接近しつつあり。事件事故発生時は速やかな現場保全作業を行え』

雨によって路上で行われる交通事故や様々な犯罪行為が確保できなくなることを想定して連絡がされるのだ
雨はいろいろと迷惑な存在である。事件事故が発生した時に雨が降ると証拠がだめになってしまう
解決することができればまだ良いが、証拠が流された影響でコールドケースになることはある程度の件数になる

「雨がこっちにまで影響しなければ良いが」

雨が降った場合は空間魔法装置を使って現場の証拠汚染を最小限にすることが規則となっている
ただし空間魔法装置を使うと魔導師が持っている魔力粒子による識別に関する証拠能力は失われる
できればこの魔法装置を使うのは避けたいが、他の物的証拠の確保のために必要なら使うしかない
物的証拠で事件や事故の原因を解決に進むことはかなり多くある
現場にエバックが到着すると犬が横たわっていた。捜査部捜査官はあらゆることを知っていることが求められる
人間の体だけでなく数多くの動物や植物の情報も知っておかなければ務まらない任務である
あらゆることを知らなければ任務を全うすることができないのだ

「犬の口に粘土状の物があるな」

エバックは捜査で使用するラテックス手袋を着用して現場写真を撮影。
またそこに存在するあらゆる物体についても記録をとった。
あらゆることを記録しなければ裁判で証拠として採用されないケースはかなり頻繁にある

『第2ノースクラナガン魔力精製炉発電所付近にもAMF装置があると思われる』

第2ノースクラナガン魔力精製炉発電所の発電出力が徐々に低下しているとのことだ
この発電所の最大発電量は6000万KWにもなる。クラナガン市にとっては重要な発電所である
ノースクラナガン魔力精製炉発電所の出力もAMF装置の影響で下がっているのに、
さらにもう1か所の重要電源での発電出力の低下は大きな問題である
今後のことを考えるとクラナガン市内に大きな影響が出ることは間違いない

「市内の電力供給へ影響が出ることは間違いないな」

市内だけでなく近隣州の電力供給にも影響が出ることは想像するのは簡単である
近隣州にも数多くの発電所があるので少しぐらいなら影響が出ることは考えられない
しかしいつ何が起きるかわからないのが世界というものだ。時にはとんでもないことが発生する。
ライフラインを運用する企業や組織にとっては難しい判断が迫られる時もある

「またトラブルか。まったくどこの組織が発電所に対して攻撃するとは」

魔力精製炉発電所には魔力爆弾の材料になる低濃縮魔石燃料棒がある
もちろん一般の魔力精製炉発電所で利用される魔石燃料は魔石の濃縮度は低濃縮の物だ
魔力爆弾を作るためには魔石を高濃縮しなければ製造することはできない
もし低濃縮魔石燃料の強奪に成功しても高濃縮魔石にするには大量の電力や設備が必要になる
ミッドチルダ連邦エネルギー省や国土安全保障省が監視をしているので簡単に魔力爆弾を作ることはできない
大量の電力消費は連邦政府はもちろんだが、州政府も監視している
異常な電力消費が確認されたら法執行機関が捜査を調査・捜査をしているのだ
だから魔力爆弾を製造することはほぼ不可能に近い。
独自に発送電と工場を持っているなら魔力爆弾を作ることができると思う者もいるかもしれないが、
銀行などの金融機関の資金の流れも国土安全保障省や連邦財務省が異常な金の流れを監視している
そんな難しすぎる関門を通過して密造できるのは不可能に近い。
他次元世界国で製造してミッドチルダ連邦の次元空間貨物船などを使って輸送してくることも想定されている
こういったルートに関しても連邦政府機関は港などの監視を行っている。
また宇宙から人工衛星で魔力爆弾から発せられる魔力波長を観測している
魔力爆弾になるまで濃縮された魔石からは高い魔力波長が出るので人工衛星から監視できる

『イーグル1が移動を開始する可能性がある。クラナガン市内の警戒レベル引き上げを念頭に作業に入れ』

イーグル1。それはある人物を示す暗号名だ。
ミッドチルダ連邦大統領は無線交信の暗号名で『イーグル1』と呼ばれている
副大統領は『イーグル2』と。

「大統領府で何かが起きるかもしれないな」

エバックはその無線を聞いてため息をついていた。
連邦政府が市内の治安維持に口出しをしてくるかもしれないからだ。
もちろん連邦行政機関とクラナガン捜査局は密接な関係があり、
常に互いの情報を共有することで国内の安全保障に貢献している
お互い持ちつ持たれつの関係を維持しているのだ

『セントラル分署から中央区中央区域の警戒レベルをレベル1まで引き上げる。厳戒態勢をとれ』

レベル1が発令されると一気に警戒レベルは厳重になる
これが発令されると指定された地区にはクラナガン捜査局員が総動員で警戒を行う
しかし問題も発生する。最も重大なことは市内の経済に影響が出てくることだ。
内戦状態に入ることが組み込まれているためであり、
クラナガン証券取引所の株価が下落する可能性が高まる

『なお発令に関しては通常は時間制限を付けた上で行うとしていますが終了時刻は現段階では不明』

つまりいつ何があるかはわからないということだ。
かなりの危険性が高いミッションがあるかもしれない。
おまけに時間制限がないということはかなり危険なことがあるのかもしれない
最悪の事態を想定して動くことが求められることはエバックは理解できた

「まったく上は無茶な話を押し付けてくる。まぁそれは俺もそういう指示を出すことがあるから否定できないが」

『中央本部からSA39。応答せよ』

「こちらSA39。現在中央区のセントラルパークにいる。何か問題かトラブルか?」

『そちらに向かって不審人物が逃げている。顔認証では性犯罪者として登録されている』

エバックの携帯情報端末に関連データを送るとのことだった
データはすぐに送られてきた。内容はかなり過激なものだ
性犯罪者であり、ターゲットとしている年齢は幼い男の子である
過去に2回すでに男の子を盗撮していた。最後の犯行は4年前だ
三振法の対象からは除外されるが、かなり重い刑罰になるかもしれない
なら奴も必死のはずである。何を仕掛けてくるかわからない
その時彼は緊急報道番組を確認を行った。何か最新情報が入っていないか確認することが重要なのである

『外国為替取引で通貨ミッドがミッド高からミッド安に急激に変更。また国内の各州にある証券取引所の平均株価も急落』

『クラナガン証券取引所では2万ミッドまで下がりつつあります』

『今回の急落について関係者はベルカ州でのクーデター騒動の影響があると専門家は話をしています』

『もしこのまま緊迫した状況が続き地上戦闘に直結した場合は最悪の状況になることが想定されます』

「今回は簡単に解決することはないな」

エバックは脅し程度で片付くことでないことはわかっていた
本当に地上戦が開始されたら最悪の結末が待っていることは容易に想定できた

『フローレンス州の魔力精製炉発電所で出力が低下していることが分かりました』

フローレンス州内には2施設の魔力精製炉発電所が設置されている
1施設当たり6000万KWも最大発電することができる。2施設の合計で1億2000万KWになる
フローレンス州内にある発電所で魔力精製炉発電所は州内の電力で50%ほどを発電している

「フローレンス州も電力不足にならなければ良いがな」

もしエバックが想定している電力不足になると最悪の事態になる
クラナガン市だけの問題ではない。フローレンス州はさらに別の近隣州にも影響が出るかもしれない
問題が次々と発生していくだけなので解決するにはかなりの苦労があることはわかっている

『ミッドチルダ連邦国内の電力供給が断たれるのではとクラナガン証券取引所や近隣州の州証券取引所の株価も下落』

『影響がどこまで拡大するかについて経済専門家の意見は大きく異なる意見が存在します』

今のこの状況は経済専門家であっても読み切ることは簡単なことではない。
危険なことを想定することはできるが正確な意見を当てることは極めて難しい状況であることはわかっている
難しいことだが何とかするしかないのだ