午前10:26 中央パトロール本部庁舎 8階捜査部オペレーションルーム

シエルはそこで正面スクリーンに映っているラジェットが乗り込んでいる車、
それを港湾パトロール飛行隊のRQ-4(グローバルホーク)によって撮影されている映像で確認していた
RQ-4(グローバルホーク)はパイロットが乗り込んでいない無人偵察機なので狩りに攻撃されても人的損害は生じない
ただし機体は失うのでその分の損失は覚悟しないといけないが、それでも人的損害は出ないので問題ない
人的損害が出たら大きな問題になってしまうことは容易に想像できる
事態がこじれる前にその問題を早期発見・摘発・問題解決をしなければならない

『中央本部からSA11。人工衛星を使って監視活動を継続中。今のところ問題は確認されていないが、備えは忘れるな』

『こちらSA11。了解した。緊急事態が発生したとしても即時対応できるようにスタンバイを行う』

「ギブリ。人工衛星と対空レーダーで監視を。ただし強引な割込みはしないで。利用できないなら別の方法で対応を」

シエルの指示を受けて捜査部オペレーションルームの管制官をしているギブリは了解したと返答した
無理に回線をこじ開けて捜査部以外の活動に支障が出るようなことはしたくない
問題になることはわかっているからだ

「シエル。中央パトロール支援衛星から情報ではクラナガン市内では大きな反政府組織などの動きはない」

ギブリはあくまでもクラナガン市内だけの話ならと伝えた。
問題はベルカ州西部地方である。今後の展開は全く予想できない。
いつ何が起きるかわからないということはさまざまなことが懸念されてくる。
犯罪はもちろんだが経済的な問題にまですでに発展している。
ミッドチルダ連邦の安定化のためには早く問題を解決しなければならないのだ

「ベルカ州の問題は早急に解決したいけど、楽に進む事はないわね」

シエルはクラナガン捜査局が管轄している州などの領域内で唯一の問題であるベルカ州、
そこのトラブル対策についてかなり懸念をしていた
クラナガン市にも影響が少しずつ出始めていることはわかっている
どこまで巻き込まれるかはまさに本丸を叩かない限り分からない

「問題が解決するのにどれだけの時間が必要になるかが大きな課題になりそうね」

解決に必要な時間が短ければ短いほど、安全を守ることは簡単である
しかし現実には机の上の計算通りに事が進む事はあり得ない
早期解決のために中央パトロールは直接関係ないかもしれないが、市内の聖王教会施設の監視は重要。
犯罪やトラブルというのはどういう関係で起きるか予想するのは極めて難しい
だからこそ常に予防注射と同じで警戒することは重要なのだ
まして反政府活動をしているクーデター勢力と関係がある組織の施設の警戒だと余計に

『速報です。ミーミルエネルギーがクラナガン市とマリネット州を結んでいるパイプラインを使って原油を供給すると』

クラナガン市と北隣にあるマリネット州の間にはどちらかが原油先物価格で急激な値動きを抑制するため、
南北間に原油や天然ガスのパイプラインが設置されている。
さらにクラナガン市と南隣にあるラクロス州との間にも原油と天然ガスのパイプラインが存在する
そのほかにクラナガン市と西隣のフローレンス州を結んでいるパイプラインがある
急激な州商品取引所で取引価格に大きな値動きがあった場合は使用される
これらによって安定供給と急激な値動きを抑制することができるのだ
全ては究極の危機管理をするために運用されている

『マリネット州議会はエネルギー資源の安定供給のためにあらゆる対応をすると発表しました』

マリネット州はベルカ州から石油や天然ガスのやり取りをするためにパイプラインがある
マリネット州でも豊富に石油や天然ガスなどのエネルギー資源が豊富に埋蔵されている
今は資源開発が活発に行われている。
以前は電力の大部分を魔石燃料を使った魔力精製炉発電が大きな割合を占めていた
しかし今は電源分散化で火力発電や水力発電。他にも太陽光発電などさまざまな形で電力供給を行っている

『マリネット州議会は州知事に経済的安定を図るための議案作成に参加を求めました』

『マリネット州知事はクラナガン市長やベルカ州知事。また連邦政府に迅速な問題解決に動くことを発表』

その報道を見てシエルは大きなため息をついた

「政治家も大変ね。元々ベルカ自治区時代から影響が多くあったから当然だけど」

シエルの指摘は確かにその通りだ。
マリネット州は西隣が今はベルカ州だが、ベルカ自治区時代の時には聖王教会の影響が受けやすかった
しかし今年の選挙で州議会や州内の郡議会や市議会で大きく流れが変わった
時空管理局や聖王教会の影響を受けていた議員の大部分は落選した
新たに当選された州議会や郡議会や市議会の議員のほとんどが反時空管理局や反聖王教会の立場を表明している
時空管理局や聖王教会にいろいろと難題を押し付けられてきたことからの反発している。
今は時空管理局や聖王教会とはかなり距離をとるか、全く関係を持っていない
マリネット州政府はJS事件までは時空管理局からかなりの予算を求められていたことから、
州の財政はギリギリの状態だった。しかし今は大幅な財政黒字に転換した。

「そういえばマリネット州警察から情報はないわよね?退役時空管理局員が暴れるようなことは嫌だから」

「今のところは問題はない。だが港湾パトロール安全保障局とは常に情報交換を続けている」

ギブリはもしもの場合に備えて機密情報も含めて確認している。
何かあればすぐに対応できるようにしないとトラブル解決は対応時間が早ければ早いほど安全である

「ギブリ、何かあればすぐに対応できるようにスタンバイを。それとラジェットはどうなっているの?」

はやて達の移送を担当しているラジェット達の安全確保のために最優先で取り組むことは重要だ

「今のところは安全だ。港湾パトロール海兵隊が護衛している。それに無人偵察航空機も動いている」

ギブリは不安になりそうなことはないだろうと評価した

「だがこちらでも人工衛星や無線中継基地で受信している通信を解析を行う」

クラナガン市内の様々な所に携帯電話や携帯情報端末で利用される無線通信基地局が設置されている
国家安全保障上に問題がある場合は裁判所に通信傍受の令状を請求して通信傍受が認められている
これは連邦法で定められているのでミッドチルダ連邦国内ならすべての州で適用されるのだ
もちろん通信傍受をする条件は国家安全保障上に問題が生じた時だが、
クラナガン市はミッドチルダ連邦の首都なので、他の都市より比較的容易に通信傍受の令状請求ができる

「ギブリ。必要ならなんでも頼んで良いわよ。私には大切な部下を守る義務があるから」

「シエル首席捜査官を敵に回す人物がいたら会ってみたいものだ。敵に回したらどうなるか」

シエルはあらゆる犯罪組織から危険視されている。捜査部を敵に回すということはシエルを敵にするということだ
そんな道を選ぶものはどのような犯罪組織や反政府組織にはあまりいない
それだけ彼女を危険視している。仮に抹殺するようなことができても他の幹部を敵に回すことになる
そんな道を選ぶような人物はかなり少ない。シエルを敵に回すということは殺されることを意味している
まだ刑務所に入った方が安全だ。その方が安全である。いろいろな意味で

「私の大切な部下に手を出したらどうなるかはしっかりと分からせないといけないから警戒態勢は厳重に」

シエルはそういうと捜査部オペレーションルームを退室した。問題は今後の対策方法だ。
常に最悪の事態を想定して動くことが求められるのが指揮官としての役割であり、
さまざまの機密情報を扱う管制官の仕事でもある。

『連邦準備銀行は資金吸収オペレーション、売りオペの実施を決定。景気過熱を抑え込むためとしています』

『一部関係者からは政策金利の引き上げだけでは対応できないことから早急に景気過熱を抑え込むための措置だと』

売りオペ、それは中央銀行が保有している様々な手形や国債などを金融市場に流すことで通貨供給量を減少させる。
これはバブル経済になることを阻止するために実行される金融政策だ

「連邦政府もバブル経済になることを何とかして止めようとしているが簡単には進まないだろうな」

ギブリは管制官として様々な情報を見てシエルやほかの捜査官とともに状況判断をしてきた
それだけに状況判断能力は極めて高いことで知られている。
それはクラナガン捜査局に属する管制官なら当然である
常に最新情報を得て、情報分析を行うことで安全保障を維持してきたのだ
判断能力がない者には務まらない極めて過酷な任務なのだ。管制官とは。
1つの情報分析をミスをするだけで仲間の命を対価で支払うことになるのだから当然である


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東区西部区域 クラナガンハイウェイ4号線(東線) 西行

ラジェット達は間もなくクラナガンハイウェイ12号線(外環状線)に入るところだった
12号線の時計回り路線に入るとそれほど時間がかからず中央パトロール本部に到着する
そんなことは敵もわかっているはず。攻撃するチャンスはそれほど残されていない
ある意味では最後に攻撃できるエリアになるのだ。警戒を厳重にするのは当たり前だ
もしここで攻撃されて誰かが死んでしまったら中央パトロールは守ることができない無能な組織と認定される
それを阻止するために護衛がしっかりついているのだ。
攻撃されることはどんな方法を使ってでも防がなければならない

『クラナガン市内にある魔力精製炉発電所は現在AMF装置の影響を受けて発電できていない状況のようです』

『ただし、市内の送電網を持っているミーミルパワー社は自社が保有する火力発電所を動かすことで問題はないと発表』

ラジェットは携帯情報端末でニュース専門チャンネルで報道内容をチェックしていた
今は何が起きるかわからないので情報収集を行うのは当たり前である

『聖王教会教皇に着任したカリム・グラシアは聖王教会全体がクーデターに関与していないと記者会見で回答』

『しかしベルカ州政府はすべてを信用することは無理であるとともに次元世界連合が承認した聖王教会への強制捜査』

これが行われて完全にクリーンである事が確認されるまでは確実ではないという声明を出していますとのことだ

「相変わらず流れを読むのが上手だな」

ラジェットはベルカ州政府が懸念していることは事実だろうと思って発言したのだ
今の聖王教会に信用などはほとんどないに等しい状況である
仮に信用する次元世界国の政府があったとしても、それは何らかのメリットがあるから発言したと思われるかもしれない
それでは国際政治においてあまりにも邪魔な発言である
聖王教会という存在そのものを認めていない政府機関は数多く存在する。
認めている政府機関などほとんど存在しないのだ。今の段階では特に

「我々、港湾パトロール海兵隊員でも同じだ。いつも責任を押し付けられるのはこちらだ。迷惑な話ではあるが」

助手席に乗り込んでいた港湾パトロール海兵隊員の言葉は真実だ
機動六課に酔って暴かれた時空管理局と聖王教会の闇の影響で大きな迷惑を感じている
今後の対応でうまく事を進めないと大きな事案に発展することは間違いない

『中央本部からSA11。最大限の警戒で行動しろ。そちらに向かって退役時空管理局員が保有している車が向かっている』

中央本部からの情報によると車の所有者となっている退役時空管理局員は機動六課組に恨みを持っていた
JS事件の後でラジェットが乗り込んでいる車に向かっている退役時空管理局員は最終階級は1等陸佐。
最後の所属部署は時空管理局地上本部ミッドチルダ連邦首都防衛隊の事務部門だった

「こちらSA11。迅速な情報提供に感謝するとともに警戒レベルの引き上げを要請する」

ラジェットはさらに状況が悪化するのではないかと警戒をしていた
影響が出てしまっては遅すぎる。そうなる前にトラブルを解決するしか道はないのだ

「SA11から中央本部。万が一に備えて発砲許可を求める」

『発砲許可を容認する。ただし的を外すな』

要するに誤射はするなということであるがそんなへまをするようでは銃の所有許可は下りない
それに捜査部捜査官のほとんどの捜査官は港湾パトロールで一時期軍事部門に在籍していた
そのため鍛え抜かれているので誤射をする可能性は極めて低い
状況判断と誤射をするようではクラナガン捜査局員としては失格である

『港湾本部から中央本部へ。フローレンス州東部地方に向かって魔力精製炉発電所で使用される魔石燃料を輸送を開始する』

『輸送は鉄道貨物を利用して輸送します。安全確保を最優先にして対応せよ』

魔力精製炉発電所で使用される魔石燃料はウランやプルトニウムを使う原子力発電所と異なり、
放射線を出して人体や自然環境に悪影響を出すことはない安全な燃料だ。
また魔力精製炉で使用される魔石はミッドチルダを含む次元世界連合全加盟国で多くが埋蔵されている。
そのため豊富に資源があるがAMF装置の影響で他の燃料資源開発が最近になって本格的に行われている
元々石油や天然ガスや石炭などの化石燃料の資源開発はそれなりには行われていた
しかし今は電源分散化などの影響で資源価格が大きく上昇。商品取引所ではJS事件前よりも高値で取引されている
今後も高値で取引されることは間違いないとされている。また火力発電所も数多く建設・運用されている
それでも現在は環境に安全である魔力精製炉発電がベース電源として使用されるのは当然の流れである

「これから魔石燃料の輸送か。何もトラブルが起きなければ良いんだが」

もちろん魔力精製炉発電所で使用される魔石燃料の魔石純度は20%以下。
だが純度を上げることができれば核兵器と同様の威力がある魔力爆弾を作り出すことができる
核兵器と違って放射能汚染などを生み出す汚染物質を出すことはない
核兵器と異なりクルーンな大量破壊兵器である。
製造時は大量の魔石燃料と濃色度の機材と運用する電力が必要に。
そのため次元世界連合全加盟国政府は常に調査が行われている。

『フローレンス州東部地方にあるイーストフローレンス魔石燃料処理施設は当面の間は運用が停止されることを発表』

『この発表を受けてフローレンス州商品取引所で取引されている魔石燃料価格が大きく値上がりを見せています』

『ミーミルマジックパワー社は一時的な操業停止はイーストフローレンス魔石燃料工場の一時的な点検であると』

ミーミルマジックパワー社では魔石燃料の製造や使用済み魔石燃料の再処理が行われている
それはクラナガンミーミルコンビナートにあるクラナガン魔石燃料工場でも同様の運用がされている
すぐに影響はでないだろう。しかし点検が長期間にわたって行われたら大きな影響が出てくる

『イーストフローレンス魔石燃料工場の一時的な点検が行われても長期間に影響は出ないとされています』

「本当にそうであれば良いがな。こちらに迷惑をかけられるのは困るんだが」

それはクラナガン捜査局員の誰もがわかっている。
もし魔石燃料工場が長期間にわたって操業停止が行われたら大問題になる。
イーストフローレンス市には石炭を燃料としている火力発電所がある。
最大発電出力は4000万KWになる。燃料の石炭はフローレンス州東部地方で採掘されている
それもかなりの量の高純度の石炭が埋蔵されている。
安定供給ができるように採掘された石炭は鉄道貨物で輸送されている
ミッドチルダ連邦国内では貨物輸送は陸上貨物輸送では鉄道貨物を利用した貨物輸送が主な輸送方法になっている
その方が環境汚染は少なく、少ない人員で大量の貨物輸送ができる。つまり効率の良い貨物輸送が可能だ

『ミーミルパワー社のイーストフローレンス魔力精製炉発電所の発電に大きな影響はないとのことです』

『一方でフローレンス州商品取引所ではフローレンス原油先物価格が大きく上昇。1バレル6800ミッドに』

『さらにフローレンス州東部地方で採掘されている石炭先物価格も上昇中』

そこで採掘される石炭は極めて高純度である。
もちろん化石燃料を使用した火力発電所で排出される二酸化炭素や大気汚染物質は、
排出ガス除去フィルターの使用することでほとんどの惑星汚染物質を出されることはない
それだけに惑星汚染物質を排出されることは基本的にはないと言える
今は電源分散化のために火力発電所の大量建設や発電設備の運用などで、
魔力精製炉発電がAMF装置の使用することで国内の電力安定供給でトラブルが出ることはほとんどない

「本当にスカリエッティの連中が起こしてくれた騒動と装置の影響をまともに受けているな」

ラジェットは大きなため息をついてしまった。そのような考えは多くの人間が感じていることである。
もし彼らがAMF装置を開発しなかったらこんなに問題が複雑になることはなかったはず
だが現実はそう簡単に進んでいることではない。
そんなことになる前にトラブル対応をしていればJS事件はなかった

「負の遺産を引っ張ってくれている」

ラジェットは大声で愚痴るようなことはしなかったがため息はついてしまった
問題が大きいことと多すぎることは疑いようのない情報であることは事実だ

『東分署から各員へ。東区西部区域のクラナガンハイウェイ12号線(外環状線)時計回り路線で問題が発生した』

『問題はクラナガンハイウェイ2号線の東部エリアで交通事故が発生。片側6車線の内2車線を封鎖する』

渋滞が発生する可能性が極めて高いとのことだ。それはラジェット達には迷惑な話になる
そこを走行予定にしているからだ。こちらへの妨害工作であれば問題になりかねない
避けるため通行路線を変更するべきかをラジェットは考えた

『西分署から各員へ。西区北部区域の停電は間もなく解消されます。送電設備に一時的なトラブルとのことです』

「ようやく市内の停電が復旧か。もうトラブルを起こさないでほしいな」

ラジェットの発言は多くの人物が考えていることだ。停電はさまざまな影響が出てしまう。
被害を最小限にするために市内のライフラインにはほぼ全てバックアップのための予備回路がある
すみやかに復旧ができるようにである。予備も損傷したとなれば復旧には少し時間が必要になる
ただ停電エリアを最小限にするために動くことが必要になるが。
そうしなければ大問題になるのだから当然である。電力というのは供給されないと極めて困るライフラインだ
もし一時的とはいえ供給されなくなると日常生活やほかのライフラインにまで影響が出てくる
そういうことを避けるために様々な対応ができるように毎日のように訓練をしているのだ
できないのならそれは無能でしかないと評価されてしまう。何としても早期復旧が求められる

「復旧するまで時間がかかりすぎだな。もっと早くしないと意味がない」

ラジェットは辛口の評論をした。
常に命を投げ出して捜査をしているのだから当然と言えばそうかもしれないが

「こちらSA11。中央本部。中央本部へのルート変更は必要か?」

『現段階では問題はないと思われるが万が一に備えて対応することが必要かもしれない。ルートを変更するか?』

「現在検討中、2分待ってくれ」

ラジェットは携帯情報端末を使って検索をかけた。そして決断した

「SA11はクラナガンハイウェイ10号線と11号線を使って中央本部に向かう」

『了解した。警戒態勢を速やかに展開する。展開完了までは5分以内』

ラジェットの要請に中央本部は迅速に警備体制の展開を指示した
迅速に判断しないと素早くトラブル対応をすることができなくなってしまう
それとラジェットは警護対象者が機動六課組であることから危機意識を持っていた
元々ラジェットは機動六課組の受け入れに関してはある意味では否定的な立場を取りたかった
だが捜査部の幹部としては自らの感情で組織を強引に動かすような、
組織の意思決定を出すわけにはいかないことは理解していた
そのため中立的な立場から広い視野でみることが求められている

『クラナガン市上院議員が新たに養殖漁業に関して補助金を出す議案を審議することを市議会に提出しました』

『この方針について税金のバラマキ政策になりかねないと多くの市議会議員が発言しています』

無駄な予算を使うことは許してはならないのは多くの市議会議員はわかっているはずだ
それを無視してまで議会で審議することは認められるはずがない
そもそも本議会で審議される前の委員会を通過することがあるとは思えない

『クラナガン市準備銀行は市内の金融機関に不安材料が出てきた場合に備えて金融市場に資金を出すと』

『無担保コール翌日物に対して最大10兆ミッドの資金を流す準備をしているとのことです』

『この発表を受けてクラナガン証券取引所では金融機関の株価の値下がりが止まりました』

ラジェットは市内の安全保障に影響が出るようなトラブルがないかを確認したかった
もし問題があれば何が起きるか想像できない。最悪の事態に備えて対応しなければならない
特に金融機関で立てこもり事案が2件も発生している。その影響がさらに起きないことを願っている。
しかしどうなるかはまったく予想することは難しくなる。
優秀な捜査官は捜査能力だけでなく政治関係の駆け引きを知っておかなければ任務遂行は難しい
政治関係の調整は簡単にできないし、利害関係はいろいろと複雑なのだから

『クラナガン捜査局は独自で運用している財務基金から犯罪被害者救済のために予算を出すことを要請しました』

クラナガン捜査局犯罪被害者救済基金は現在1000京ミッド近い金額もある
このお金は犯罪組織を摘発した時に犯罪組織が保有していた資金を押収や差し押さえした時のものだ
これらの押収した資金の一部は金融市場でも運用されている
クラナガン市政府や連邦政府などに大量の予算要求を行うことがないように使用されている
もちろん現在もクラナガン捜査局の予算はクラナガン市政府やミッドチルダ連邦政府に歳出してもらっている
しかしさまざまな軍事物資を調達などを行う時に、かつての時空管理局のように無茶な予算要求をしない。
そのためにクラナガン捜査局財務基金の資金を使うことで政府機関に危険すぎる予算要求をしていないで済んでいる

『クラナガン市内の魔力精製炉発電所はAMF装置の影響で機能停止中であるが市内の電力供給に影響はないと』

『安全確保を行い発電の運転再開に全力で対応するとクラナガン市政府とクラナガン捜査局が声明を出しています』

魔力精製炉発電は最も安価な燃料で極めて多い発電出力を実現している
それが止まっているということは火力発電で補って発送電の維持を行っている
しかし火力発電で必要な石油や天然ガスや石炭などの化石燃料はクラナガン商品取引所、
各州にある州商品取引所で頻繁に先物取引が行われている
AMF装置が一般に出回ってからは魔力精製炉発電に頼るのは危険であることから、
石油や天然ガスや石炭の先物価格はJS事件前と比べると高値で先物取引がされている
つまり電気料金の引き上げが行われることが想定されているのだ。
そしてここからは経済犯罪に該当することだが、インサイダー取引やテロに利用されることが大幅に増加。
捜査を担当する法執行機関は以前に比べると捜査件数は大幅に増加しているので対応に苦慮している

『クラナガン市とフローレンス州を結んでいるパイプラインでフローレンス州から石油と天然ガスの供給が決まりました』

『これを受けてクラナガン商品取引所では原油と天然ガスの先物価格が大きく値下がり』

クラナガン市からはミーミルエネルギー社が石油と天然ガスを、
北隣にあるマリネット州にパイプラインを使って輸送されている
マリネット州はベルカ州から供給されていた石油と天然ガスの供給が止まった影響で州商品取引所で高値で推移していた
だがいつまでもその供給が止まっているのでマリネット州商品取引所の石油と天然ガスの取引価格が上昇したからだ
マリネット州でも原油や天然ガスの採掘が行われているのでベルカ州からの供給が滞っても基本的には問題はないはず
でも商品取引所の取引が思惑買いの影響を受けているのでそれを最小限にするためにクラナガン市から供給されいるのだ
するとクラナガン商品取引所でマリネット州に供給しているのでそのしわ寄せが出ている
1つ問題が発生したら玉突き事故のように連動するのが先物取引の1つである
ヘッジファンドなどの投資家は時には些細な噂1つで相場を大きく動かそうと大量の資金を投入する
だからこそ金融市場の相場安定には貢献しなければならない

『石油については1バレル4000ミッドまで急落』

『今日1日だけでも乱高下する石油価格に多くの投資家は変動幅が大きいと評価しています』

『また破産したワンワールドグループが保有していた株式や債券取引価格も大きく乱高下を繰り返しています』

ワンワールドグループは不良債権の金額を減少させるために様々な金融商品を売却していた
少しでも不良債権を減らすことができれば企業の経営責任が少しは軽減することができる。
ワンワールドグループではかなりの不良債権を持っている。
経営者はその不良債権を生み出したことで経済犯罪に問われることになるのだ
だからこそ少しでも負債を減少させるために必死になっている

「証券取引委員会は今頃慌てているだろうな」

金融商品に関する事件捜査を行う連邦行政機関の証券取引委員会は、
強制捜査でワンワールドグループに関連する情報収集と調査を行っている
それはミッドチルダ連邦の証券取引委員会だけではない。
次元世界連合に加盟しているあらゆる次元世界国の証券取引委員会も同じである。
多くの次元世界国とワンワールドグループ企業は金融取引をしていたので、
各次元世界国では金融事件として捜査を行っている。

「本当に迷惑な話だ。自ら自爆行動を招いたからここまでトラブルが拡大することになったんだが」

ラジェットは自らがパンドラの箱を開けて、迷惑を周りに配りまくっていると発言した
それは誰もがわかっていることである。法執行機関なら特に

『時空管理局と深いつながりがあったワンワールドグループの破綻に伴い大量の時空管理局債の取引価格は大下落』

『すでに価値は全くないと評価され、金融商品格付けを行っている企業も投資する意味なしとランク決め』

『金融機関に融資担保として預けていたケースでは金融機関は債権回収のために財産差し押さえを実行』

「お前たちは正義を貫いたのだろうが結末は最悪だな。腐敗している時空管理局にも問題はあるがな」

ラジェットの言葉通りだ。はやてたち機動六課組は正義を貫いた
だがそれによって時空管理局に隠されていたあらゆる闇と真実が暴かれたことによってすべて崩壊した
今まで時空管理局という名前だけで様々な『不法行為』を起こしてきた。
時空管理局の利益につながるなら管理局の権限が通用するすべての次元世界国の政治などに関与した
そして自らの組織に都合が良いように利用してきた。だがJS事件ですべての『真実』が多くの人々に知れ渡った
それによって時空管理局というわがままな組織はさまざまな法によってしつけがされる組織に転換することに
今では時空管理局の権限有効範囲は大幅に縮小されることになった
過剰な人員と予算要求は大幅に縮小された。今の時空管理局の予算は以前に比べると数パーセントしかない
そのためその予算の身の丈にある人員と給与水準になった
ラジェットの言葉にはやて達は正直なところは複雑なのだろう
自分たちの正義を貫いた結果がこれでは良い気持ちになれないことは事実である

「時空管理局はどうなるんや?」

はやての質問にラジェットは大部分の局員がリストラされると回答した
リストラの時に支給されるはずの退職金と年金についても大幅に減額されるとも伝えた
それは確かだ。JS事件前なら1000万ミッド以上の退職金を受け取ることができていた
大量リストラ時ですら数百万ミッドも出ないケースもある。
ひどい場合には数十万ミッドでもらう事ができなかった
退職後の生活費になるはずだった年金も大幅に減額されることにもなり、退職後も仕事をしないと生活できない
しかし退役時空管理局員であるという事実だけで、再就職をすることは難しくなっている
もちろん退役時空管理局員だったという理由で差別することは人権違反と罰則が連邦法で違反と定められている
それでも機密情報を扱うような仕事などの場合において、
情報漏洩を危惧して様々な名目や理由などを使って採用しないことが多い
そのため犯罪組織や反政府組織に参加する者が多く存在している。
時空管理局の幹部の役職にいた退役局員にはさまざまな疑惑で事情聴取を受けたりしている
時空管理局内に新たに設置された時空管理局犯罪捜査局や次元世界連合の時空管理局調査委員会、
そのほかにも各次元世界国の捜査機関によってあらゆる疑惑について捜査を受けている
全ての真実を明らかにするまでこの歩みが止まることはないとマスコミでも報道されている
真実を明らかにして時空管理局の暗い闇をなくすことが最優先課題であるのだ

「組織の闇を暴くのはハイリスクハイリターンだ。その組織の影響力が大きいなら余計にトラブルを起こすものだ」

巨大な組織の闇を暴くときにはかなりの覚悟が必要になる
とんでもない数の災いが降りかかってくる。だからこそ大変なのだ

『中央本部からSA11。クラナガンハイウェイ10号線と11号線の安全確保作業中。完了は5分以内』

「こちらSA11。大至急安全確保の作業を最優先で行ってくれ。我々の任務を妨害されることは避けたい」

ラジェットは警備配置につくまでの時間が長すぎると思っていた
もっと迅速に行動しなければ何が待っているかは全く持って想像できない
攻撃を受ける可能性が最も高いのは機動六課組なのだ。
そんな彼らの護衛と移送を引き受けているラジェットはもっと素早く迅速に動いてもらわないと困ると思っていた

「こちらはいつでも襲撃が行われることを計算して行動をしている。中央パトロールも迅速に対応せよ」

ラジェットにとって今の任務は最も重要と言えるものなのだ
妨害されることが疑われるならどんな手段を使ってもそれに対応しなければいけない
今は小さなトラブルでも大きなものに発展するかもしれないのだ
リスク回避のために全力で行動するのは当然の行動である

『こちら中央本部。了解した。何としても3分以内に部隊を配置する』

「そこまでする必要があるのですか?」

フェイトが質問してきた。
ラジェットは常に最悪の事態を想定できなければ司令官になれないと返答した
司令官などの部隊指揮命令を担当するならあらゆる事態に迅速に素早く適切な処置ができなければ、
任務遂行を的確に行うことができないとフェイトに回答した

「俺たちの仕事は1つのミスを起こすと命という代償を払うことになる」

それだけ難しい職務なのだと思っている

「任務遂行だとしても法律というルールは守らなければならない。時空管理局が法律を捻じ曲げてきたこととは違う」

クラナガン捜査局は法律は守りながらも人々を守ることが求められる
そこが時空管理局とは異なるとラジェットは話した。確かにその通りである
法律を侵して事件やトラブル解決をするのは許されない

『旧時空管理局の機動六課が解体されてクラナガン捜査局に保護されるという話題が入っています』

『時空管理局の暗部から守るためであるとされていますが、JS事件を解決したことで時空管理局から守るためと』

ラジェットはもう報道されていることにため息をついた。
機動六課組が自らの保護下に入ることが報道されるのはもう少し後の方がよかったがと感じていた

『港湾本部から各員へ。緊急行動指令に関する情報を発表する』

『ベルカ州西部地方でのクーデターに関して中距離弾道ミサイル発射の訓練を行う』

この時ラジェットは今の状況下で訓練をするのはおかしいと感じていた。
何か別の意味があるのではないかと考えていたのだ。問題はその真相が何かがわからないことである
今の段階ではという話だが。真実というのはわかるのに時間が必要になる

『ベルカ州からマリネット州に原油や天然ガスのパイプライン供給を受けると公表して原油価格が安定しつつある』

『マリネット州商品取引所では先物取引の流れが一瞬で変わりました』

『これはマリネット州のエネルギー安全保障に関する安全を守るためだと発表しました』

「本当にベルカ州の案件のおかげで経済は振り回される。トラブルを起こすような人物が多すぎる」

ラジェットと同じような考えを持っている人物はあまりにも多いことはわかっている
時空管理局や聖王教会は今は国際組織として機能しているかの審査が次元世界連合で審査されている
時空管理局が保有していた様々な権限と権力行使に関して大幅な縮小されている

「本当に機動六課組はある意味では救われているな。殺されるかもしれない立場であり、時空管理局を追い込んだ」

時空管理局の利権を握っていた時空管理局幹部や関係企業の連中からは恨まれることは当然だ
クラナガン捜査局に『保護』という形で安全が確保されている。
その安全が確保されることがなければ機動六課組は抹殺されていたことは確実である
生きていられるだけでもまだ幸運であると評価される。

『こちら港湾本部。緊急行動指令を発令する。ベルカ州のクーデター騒動がクラナガン市に飛び火する可能性が高まった』

その無線を聞いて港湾パトロール海兵隊員とラジェットは最悪だとすぐに考えた
最悪のシナリオが想定される。中距離弾道ミサイルを使っての攻撃があるかもしれない

『こちら中央本部。クラナガン市で大規模停電が予想される。停電に備えて道路交差点で交通整理を行え』

停電が発生して道路交差点の信号機が停止した場合に交通事故が多発するかもしれない
それを阻止するために交差点の交通整理を速やかに行うようにということ
停電が発生すると他のライフラインにも影響が出る。上下水道や都市ガスの供給にも問題が発展する
クラナガン市内にどれだけの被害が出るかは全く想像することができないのが今の段階での判断だ

「もし本当に大規模停電が発生したら都市機能はマヒすることは間違いない」

ラジェットは次に発生するであろうトラブルを考え始めた
電気が止まるということは優先での通信回線の安全にも影響が出る
有線通信が停止すると携帯情報端末を使用した無線通信に通信が集中してくることははっきりとしている
混乱を抑えるために民間企業が運用している携帯情報端末の無線通信にも運用規制をかけることもある
運用規制とは携帯電話や携帯情報端末の無線通信回線の優先格付けをクラナガン捜査局や消防救急に割り振る
こうすることで一般人が使用する無線回線の通信を一時的に減少させる
もしもに備えて対応しなければ何が起きるか想像もできないのだから当然だ

『中央本部からSA11。クラナガンハイウェイ10号線と11号線の安全確認が完了した』

クラナガンハイウェイ10号線と11号線と一般道路の接続ポイントには警備のために人員を配置したとのことだ
これで安全性は確保することができたというが、問題はすでに何かを設置しているかもしれないことを想定する
予想が的中した場合を考えた上でリスク管理はするようにとの指示も入ってきた。
ラジェット達にもそんなことはわかっている。
問題が発生してから対応していたら対処を行うためにかかるわずかな時間でトラブルが大きくなる

『セントラル分署からSA11。クラナガンハイウェイ11号線を走行する場合は警戒態勢を厳重にせよ』

「こちらSA11。何かトラブルの発生する可能性があるのか?」

中央区を管轄エリアとしているセントラル分署から連絡してきたということは何か問題が発生したことが疑われる
もしもの場合に備えて情報確認を行うのは当然である。危険回避行動をするには情報確認は通常のことだ

『クラナガンハイウェイ11号線で不審車両が確認された。警戒されたし。現在安全確保のためにパトカーが急行中』

ラジェットは問題が発生することを考えて今からルートを外すことを検討した
このままのルートを選ぶのはあまりにも危険すぎる。
リスクを少しでも減らすためにはルート変更は最も有効な方法だ
しかしそれを狙った陽動作戦の可能性もある。
あらゆる可能性を検討して問題が起きにくいプランはないか検討した

「どうする?」

助手席に乗っていた港湾パトロール海兵隊員の質問にラジェットは少し考えさせてくれと回答した
しかし時間がないことはわかっている。早急に判断した結果はルートの変更はしないことを選択した
下手に変更しないことが良いだろうと判断したのだ

「SA11からセントラル分署。こちらはクラナガンハイウェイ10号線と11号線で中央本部に向かう」

『了解した。こちらで不審車両が確認できるなら早急に行う。SA11も警戒は行え』

ラジェットは無線交信を終えると携帯情報端末を使ってニュースをチェックした
捜査官なら世界情勢を常に把握しておかなければ、世界で何が動いているのか確認することが重要だからである
少しでもミッドチルダ連邦に直接的な影響は出なくても間接的に影響が出ることも考えられる
そういった情報を把握することで捜査方針を考える上では大きな情報源になる

『ミーミルパワー社は4月に改訂される電力価格について発電の燃料価格が急上昇したことを受けて電気代の値上げを発表』

ちなみにクラナガン市内の電力供給はミーミルパワー社だけではない
クラナガン市と近隣州の送電網に関してはミーミルパワー社の所有物だ
だが発電を専門に行っている電力会社もあるので、送電網を発電専門の電力会社が使用料を支払う。
それによって発電だけを専門に行う電力会社はミーミルパワー社の送電網を利用して電力供給をしている

『今日クラナガン市政府に電力価格の上昇について審査を要請しました』

電力会社の値上げは地元政府が定めている電力上限コストの上限を越えなければある程度は値上げができる
また値上げの際に根拠のない値上げが認められないので州政府の審査が義務付けられている
クラナガン市の場合はクラナガン市が州政府のようなものなので市政府が容認すれば値上げが認められる
電力価格の改定は基本的には1年間に4回までとなっている。1月と4月と7月と10月の4回
これは天然ガスと水道料金も同じである。その中でも電気代はかなり特別である
電力代はJS事件前は主な大規模発電は魔力精製炉発電で賄っていることが多かった
燃料となる魔石はほとんど値動きをしないため安定した価格電力供給ができていた
しかしAMF装置が開発されて流通してからは火力発電所がかなり設置された
燃料となる原油や天然ガスや石炭は商品取引所で燃料取引価格の変動が激しい
そのため電力価格は少しずつ今年から電力価格は上昇している
1月に1度値上げをしたのだが、4月も値上げすることになった。
もちろん不当な値上げをすることが認められないので州政府が審査を行う
州政府の審査で問題ないことが確定すると値上げが完了するのだ
今までは急激な上昇はなかったが、JS事件以降は値上げが連続値上げがされている
火力発電所の増加を受けて石油系の燃料などの価格は大きく上昇している
石炭価格も商品取引所で大きく上昇した。これで電力価格が毎回審査の時になると上げざる得なかった

『クラナガン市政府や近隣州政府でも値上げ審査を求めることになると』

『一方で電力会社と契約している需要者や企業では新たに以前とは別の電力会社との契約を検討しているところも増加』

『今後どのように値動きするかがわからない状況にあります』

「値上げがされたら困るんだがな」

クラナガン市では家庭用電力価格は1KWh:15ミッドである。
それと家庭用や産業用電力料金を10ミッドの値上げを行う。
つまり1KWh:25ミッドと産業用電力料金:1KWh 20ミッドに引き上げるように申請していた。
一気に約2倍になるのだ。審査はかなり長時間かかることは間違いない。
1か月ほど、クラナガン市政府の市議会やクラナガン商務庁の審議会で審査が行われる
これらは通常なら1週間ほどで終了する。しかし今回は簡単に進む事はないだろう
1度に15ミッドから25ミッドへの値上げとなると簡単ではない

「クラナガン市政府も大変だな。近隣州政府だけでなく、ミッドチルダ連邦のすべての州も同じだがな」

ラジェットは今後の対応次第では電力安定供給に影響することは確実であると考えを少し行った
確かにその通りである。今後のことを考えるとかなり審査には時間が必要になることは間違いない
多くの電力会社は新たに火力発電所を24時間ハイペースで建設して魔力精製炉発電を主要な電源にするのではなく
数多くの様々な物を燃料として発電を行う火力発電所の増設工事を行っている
また火力発電だけではなくダムなどを建設して運用する水力発電所もかなりの数が建設されて運用されている
水力発電は発電に使用するのは水なので火力発電と比較すると燃料コストが必要がない
つまり急激な電力供給コストの上下幅の影響があまり大きくない

『マリネット州では州内に数多くの山などのダムが建設されているので水力発電所が数多く存在する』

マリネット州西部地方には数多くの山の山脈があるので大規模ダムの数はかなりの数が存在している
それにそれらのダムには数多くの水が供給されているので電力価格はかなり低コストで発電ができる
マリネット州内ではそのダムの水を利用して水力発電所が整備されている
火力発電やほとんどなかったがAMF装置が開発されてからは火力発電の建設ラッシュになっている
そのため失業率は極めて低い。火力発電所の建設が大幅に増加して建設業が人手不足に気味である

『そのためマリネット州での電気代の変更はしばらく行われることはないとされています』

『一方でベルカ州の発電と送電網を管理運営しているベルカパワー社は州政府に値上げのための申請を提出』

『ただし値上げ幅は1KWhで5ミッドほどになるとのことです。急激な値上がりを避けて電力安定供給に最善を尽くすと』

他の発電を専門にしている電力会社も電気代の値上げを行うと申請をしていた
火力発電で使用する石油系燃料や天然ガスに石炭の調達コストが上昇したことが大きな理由である
発電に使用する燃料コストが上昇すれば電気代の値上げをするのは当然である
常にコストカットをしているので電力会社は余計なコストに関する部分を削れるところはあまりない
燃料代が上がれば電気代の引き上げは普通である

「これで商品取引所で原油価格関係の取引が大幅に増加するだろうな」

ラジェットはそれらのニュースを見てそう発言した
これからは経済事件が発生するかもしれない。インサイダー取引などの経済事件だ
経済事件を捜査するには経済の仕組みを知らなければ担当できない

「迷惑をこうむるのは現場の我々ですか?」

助手席の港湾パトロール海兵隊員の言葉にラジェットはいつも苦労するのは俺たちだと不満気味の声で発言した
確かに上はただ物事を計画して責任はすべて押し付けてくる
これほど迷惑な話はない。今後のことを考えるといろいろと考慮しなければならないことは多い

「いつものことだ。まぁそんな幹部といつもつらい会議をしている立場の俺が言うのも問題だがな」

ラジェットは捜査部では重要ポストに在籍している幹部である
駆け引きについては詳しくわかっている。幹部になると政治的駆け引きの重要性が十ナノはわかっている
駆け引きの方向性私大によっては組織運用にも影響が出てくる。
政治的駆け引きの上で重要なのは幹部の痛いところを知っていることだ
急所になるところがわかっていると駆け引きの最中に味方してくれる。
もちろんこちらの弱みを知られるとこちらの立場を利用されてくる。
重要な情報を常に把握して幹部会議でその部分をうまく利用しなければ組織を動かすことはできない

「問題が拡大しなければ良いが」

『中央本部からセントラル分署へ。中央区の警戒レベルを最高レベルに引き上げろ』

『中央本部から連邦施設警備担当部門に通達。不審な行動をするものが1人だとしても職務質問で確認作業を行え』

「中央本部は焦っているのは確実だな。もしかしたら何か危険情報を見つけたのかもしれない」

ラジェットはやはりルートを変えるべきかもしれないと考えた
この状況を考えると危険な気配があるところを通過するのはリスクが高すぎる
トラブル回避のためには何か手を打つことが必要かもしれない

「港湾パトロールが警戒しているから危険はないと思うが」

ラジェット達が乗り込んでいる車にすべて港湾パトロール海兵隊員が警戒のために乗り込んでいる
もちろん機動六課組を守るための護衛措置である。攻撃されて護衛ができなければ大きな問題に発展する
そんな事態になれば信用問題になることはクラナガン捜査局員なら誰もがわかっている
たとえ担当する任務が嫌な任務でも真実を明らかにするために任務遂行が必要だ
そして組織を守るのではなくクラナガン捜査局員は罪なき人々を犯罪に巻き込まれないようにすることが使命である
組織が間違った方向に進んでいるなら、それを止めるために告発する
もちろん告発をすればその告発の影響を受ける人物から恨まれることは確実にあるだろう
だがそういう厳しいいばらの道であっても歩むことが必要なのだ。
自浄作用がしっかりと機能していることで組織の腐敗を阻止できる

「時空管理局には自浄作用となるはずの部署があってもその部署の人間が腐敗していたら機能しないのは当然だな」

自浄作用の要となる部署に属する人間が腐敗に関与していたらシステムが機能しないのは当たり前である
クラナガン捜査局にはさまざまな自浄作用として機能する部署が存在している
1つではなく複数の部署が存在しているので自浄作用として機能することは確かだ

「クラナガン捜査局では内部告発者には賞金がもらえるからな」

何人もの腐敗したクラナガン捜査局員告発されている
賞金はその腐敗したクラナガン捜査局員の財産を押収してその一部などの一部を使って支払われている
そのためクラナガン捜査局では腐敗行為をすれば重い罰則が科せられるのだ
最も多い場合にはその腐敗で得た財産などはすべて没収されて刑務所に収監される
短くても懲役5年以上になる。あまりにも悪質な腐敗の場合には終身刑になる
だからこそ腐敗する行為をする人物はまずいない。そこまでのリスクを背負うことが危険すぎるからだ
だから不法行為をしてほしいと依頼された場合は捜査部門に報告がすぐに飛ぶ
依頼した人物はその不法行為の内容によって刑罰が変わるが懲役5年以上になる
仮釈放はない。懲役刑が終わるまでは刑務所暮らしだ

『中央本部からSA11。国土安全保障省から通達あり。機動六課組への攻撃を行うという内容の通信を傍受したと』

国土安全保障省はミッドチルダ連邦国内の安全保障に関する部署の統括などを担当している
傘下の組織には情報機関が配置されている。常に国内で犯罪組織や反政府組織などの監視を行っているのだ

「了解した。引き続き何か新しい情報があれば即時報告を」

ラジェットはそう答えると中央本部は些細なトラブルであっても報告すると伝えてきた
どんな小さなトラブルも見逃せないことはこれではっきりした
護衛大将の機動六課組に負傷者などが発生したら最悪だ
クラナガン捜査局が無能扱いされる。そのためにも最優先で対応しなければならない

「問題が増えたな。コース変更を戻すことも考えないとな」

陽動作戦を展開していることもシナリオで想定することを考えた
ラジェットは任務遂行を安全に行える選択がないか考えていた
僅かな可能性であっても危険につながるならそれを避ける道を通らないといけない

「ラジェット。クラナガンハイウェイから降りるか?」

クラナガンハイウェイは全線高架道路だ。
攻撃されるリスクから行くと道路に地雷が設置されているかもしれない
そこまでのことをやるにはかなり強力な情報源がなければできない
機動六課組の移送に関しては最高機密扱いになっている。簡単に情報にアクセスすることはできない
ある程度の機密情報アクセス権がなければできない。それも事前に知らなければ。
そして移送作業が開始することがすぐに漏れなければ爆弾を設置することなどできないはず
もし設置されているならの話だが。それでも危機管理を考えるなら当然攻撃があることは容易に想像できる
だとしたら戦闘態勢がすぐに展開できるようにしなければならない。

「中央本部には伝えるな。クラナガン捜査局員が運用している無線は暗号処理されている。傍受される可能性は低いが」

傍受されていることを考慮に入れて無線連絡をしない方が良いと判断した
ラジェットは携帯電話で中央パトロール管制センターに直通連絡した
クラナガン捜査局員が使用している携帯電話も無線と同じで暗号処理されている。
仮に傍受できたとしても素早い暗号解読はできないはずだ
あくまでも『はず』ということだ。絶対に安全ということは存在しない
どこかに必ずリスクがあることは考慮に入れて計画を練ることが重要である

「これからは一般道だが、サイレンとワーニングライトを使って緊急走行で向かってくれ」

ラジェットは運転手役の港湾パトロール海兵隊員に指示を出した
クラナガンハイウェイよりも逃げ場の確保が行いやすい一般道の方が安全と言えばそうだ
どの道を使うかの選択肢はかなりの数になるので定められていない一般道を使えば安全性は高まる

「トラブルがなければ良いのですが」

助手席の海兵隊員の言葉にそれはクラナガン捜査局に属する者なら誰でもわかっているはずだとラジェットが答えた。
この移送作業に関わっているものなら特にこの任務の重要性を理解している
ミスが絶対許されないのだからなおさらだ。どんなトラブルがあっても無傷で中央本部に向かわなければならない

「自衛権の行使を進言する必要があるかもしれないな。ただし専守防衛の範囲でだが」

ラジェットの言葉に海兵隊員は難しい対処方法ですと
確かに専守防衛というのは難しい。こちらから先制攻撃をするわけにはいかない
専守防衛をするということは攻撃されることが確実になったことを証明しなければならない
もし専守防衛の範囲でないと審査結果が出ると過剰防衛ということになる
港湾パトロールの部隊運用はあくまでも専守防衛であると定められている
港湾パトロールの基地がある州内で安全保障上の脅威が確認された場合は部隊展開を行う
ただし部隊展開を行うには州内で反政府組織などによる攻撃で州内が危険になることが予測できた時だが、
実際はそうなる前に敵対勢力を制圧して、事後承諾を得ることの方が圧倒的に多い
同じようなことが港湾パトロールが設置されてから何千件とある
だからこそ港湾パトロールの基地がある州政府との関係が密接なものになる
基地がある州政府管轄区域の軍事的安全保障対応を行っていることは事実だから
撃たれる前に攻撃するしかないときもある。苦渋な決断であるが仕方がない
罪なき人々を守るためには時には必要になっている

『サンディ・マウントクラナガン市長が緊急記者会見を開きました』

『市長は大量リストラされた退役時空管理局員について生活保護などで一時的に保護するか』

『その判断過程で不正行為に関与していない退役時空管理局員は生活保護対象に容認するべきか市議会で議論を』

これは苦渋の決断であることははっきりしていた。
市長が市議会の議論をしないで一方的に許可を出すと支持率に影響すること考えての判断だ

『クラナガン市内の魔力精製炉発電の発電は現在停止状態が継続していることで市内の電力供給に影響はない』

『代わりに火力発電所をフル稼働させて問題が出ないようにしている』

『魔力精製炉発電が停止していることを受けて火力発電所で使用される資源価格が上昇しています』

『クラナガン商品取引所では原油先物価格が少しずつ上昇しているが安定供給に影響はないと』

原油先物価格が上昇するならばそれなりの対応をするとのことですと報道されていた
エネルギー資源の安定供給は重要だ。急上昇すれば景気が悪化する。微妙なバランス維持が求められる

『中央本部から各員へ。第1ウエストクラナガン火力発電所と第2ウエストクラナガン火力発電所をフル稼働させると』

どちらの発電所も燃料は天然ガスを使用している。
それぞれの最大発電出力は4000万KWだ。2つを合計すると8000万KWにもなる
クラナガン市の電力供給に重要なポイントである。現在は少しずつ出力を上げているのだ
まもなく最大出力になることは確実。市内の電力供給には慎重な対応が必要になる

「クラナガン市内の電力供給が不安定になることは避けたいが難しい課題になりそうだ」

ラジェットはそう発言すると携帯電話で再度中央パトロール管制センターに連絡した

「こちらSA11。こちらは現在クラナガンハイウェイの予定コースを変更して一般道を通行している」

「それと緊急走行で向かっているから警戒のために先導のバイクを用意してくれ」

『了解した。速やかに手配をかける。時間はそれほどかからないはずだ』

「急いでくれ10秒でも早く警戒態勢を敷いてほしい」

中央本部は緊急警報を発令するかと質問をぶつけてきた
緊急警報。それは発令されるとあらゆる部署の人間を使って警戒に当たらせることだ
もちろんそんな警報を発令すると外部に情報が漏れることは間違いない。
しかしすぐに警戒態勢を維持することはできる。素早く警戒指令を出すには緊急警報を発令するには有効だ
どうするべきかラジェットが考え始めた。機動六課組の移送作業についての作戦指揮官はラジェットである
彼の判断はこの任務において最も最優先レベルで対応することが決まっている
それにラジェットという名前だけで無理な要求でも必要ならあらゆる部署に通達を出して素早く対応される
彼の指揮命令系統がかなり上層部にあることは間違いない

「相変わらず無茶な要求だな。緊急警報を発令したらどうなるか」

護衛の海兵隊員の言葉に必要なら俺はどんなことでも要請を出すとラジェットは返答した
確かにその通りだ。必要ならどんなことを要求してでも任務遂行が求められるのだ
どんな障害物があったとしてもそれを破壊して機動六課組を無事に移送できるようにすることが彼の任務である

『港湾本部よりベルカ基地へ。港湾本部基地に設置されている中距離弾道ミサイル発射の用意を開始する』

中距離弾道ミサイルサイロは港湾パトロール艦隊の17,000t級魔力精製炉潜水艦に24基が搭載されている
17,000t級魔力精製炉潜水艦は港湾パトロール艦隊には全部で6隻がある
それと港湾パトロール本部基地にだけ設置されているミサイルサイロには10基の中距離弾道ミサイルがある
中距離弾道ミサイルが発射されたら最後である。発射命令が出せるのはミッドチルダ連邦大統領だけ
これは首都防衛の最後の砦なのかもしれない

「中距離弾道ミサイルが発射されたらどうなるかは想像したくないな」

連邦大統領が弾道ミサイル発射の許可を出すには国内政治や国際政治などの承認が得られることが条件になる
連邦議会や国際政治で政治的駆け引きを行うことで弾道ミサイル攻撃を認められなければならない

『連邦魔法規制委員会はクラナガン市の魔石燃料工場で使用済み魔石燃料の再処理で製造した混合魔石燃料の審査が終了』

混合魔石燃料とは魔力精製炉で使用していた魔石燃料の使用済み魔石燃料からまだ未反応魔石燃料を抽出、
新たな未使用の魔石燃料棒と再処理されて製造された魔石燃料を混合したものだ
ちなみに使用済み魔石燃料は各廃棄物と違って有害な放射性物質を出さないので人体や環境に影響はない
完全に使われた使用済み魔石燃料はただの石になるので汚染することはない
だからこそ原子力発電で使用される核燃料と異なり安全とされていたが、
AMF装置によって魔力精製炉の運用に極めて大きな支障が出るようになった
だからこそ新たに火力発電所や水力発電所などの増設が急ピッチで行われている
電力の安定供給は必ず行わなければならない。少しでも発電が停止して電力供給できなければ大きな問題になる
停電になれば電力だけでなく通信にも影響が出てくる。最小限にすることがライフラインの運営企業が求められる

『ただ、クラナガン市内の魔力精製炉発電所は機能停止状況にあることから、当面の間は火力発電で供給すると』

『さらに問題になっているのがクラナガン市内で武装した銀行強盗事案が発生していることです』

『犯人は退役時空管理局員という情報が関係者から流れているが、正確な情報はまだ発表されていません』

『中央パトロールは人質が立てこもり犯と一緒にいることから慎重な対応をしているようです』

『退役時空管理局員が事件を起こす案件はクラナガン市やミッドチルダ連邦国内だけでなく、他次元世界国でもあります』

『時空管理局に在籍していた時に様々な企業から裏金を受け取っていたことでその金を使ってサイドビジネスをしていた』

との情報が入っているとのことだ。
時空管理局の規模と人員が大幅縮小されたことで大量リストラが行われた
その結果がこれであることが大きな問題だ。

『市内の魔力精製炉発電所では魔石燃料プールの冷却は魔力精製炉発電所の発電が停止しても問題はないと安全宣言を』

『他の発電所から供給されている外部電源は正常であるため魔力精製炉発電所の燃料プールの冷却は問題ない』

もし燃料プールにあるまだ未使用の魔石燃料や使用済み魔石燃料の冷却に問題が発生すれば大きな影響が出る
もし燃料プールの冷却システムが停止すれば魔石燃料の冷却ができなくなる。
それだけではなく、魔石燃料で生じている熱の冷却ができなくなることで魔石燃料が自壊する
核燃料と違って放射能汚染はないが、魔石燃料プールにある燃料が溶け出して使い物にならない
魔力精製炉発電所の運営会社の経営に大きな影響が出ることは確かだ
ミッドチルダ連邦国内の発電所は発電出力が大きい。
また発電効率もかなり良好であることと国内の送電網はかなり充実している
よって発電所で作られた電力の安定供給は仮に1つや複数の発電所が機能停止になっても、
すぐに他の発電所からの送電が速やかに実行されることになっている。
だから国内で停電の発生確率はかなり低い。
通信回線や電力送電網の整備や運用は連邦通信委員会や連邦電力供給委員会が民間企業と常に審査を行っている
少しでも通信回線や電力送電網に影響が出た場合は関係政府機関と企業などによる会議が開催される
その会議で問題ポイントについて改善策を協議するのだ

『連邦電力供給委員会は電力の安定供給に魔力精製炉発電に頼るのは極めて危険』

様々な種類の発電所の建設増強を促すとしていた。
もちろん民間企業の電力会社単独でそれらを行うのは難しい
連邦政府や州政府などが補助金を出すことで支援することが決定しているとのことだ

『クラナガン市政府は市政府が保有しているノースクラナガン堰とクラナガン堰にある水力発電所の運用を増やすと』

2つの堰はクラナガン市にとっては重要な市政府が保有する施設だ
堰の上流には多くの浄水場が整備されている。堰の下流には数多くの下水処理施設が設置されている
2つの堰は水道事業の運用にとって重要なのだ。海からの海水が逆流してくることを抑えるために必要に。
この2つの堰には大出力の水力発電設備が設置されている。
2つの堰に設置されている水力発電設備の最大出力は合計すると8000万KWにもなる
惑星汚染物質を出さないクリーンな発電所であり燃料代などが必要ないのでかなりの収益がある
クラナガン市政府は売電で得られた収益は低所得者の人々へのさまざまな生活支援に利用されることが多い

「クラナガン市政府も必死だな。元々時空管理局地上本部があった。その影響を最も受けている」

時空管理局は次元世界国の警察や国防などの権限を数多く握っていた。
地上世界の権限は地上本部に権限が集中していた。しかし今は各次元世界国政府に権限が返還された
そのため人員整理をすることが必要だった。そのことを知った幹部は退職金を多額にもらえるうちに退役した
急いで退役した時空管理局員の中には不法行為に関与していたことは疑いようのない事実である
今は次元世界連合や時空管理局犯罪捜査局が捜査を行っている。
退役した時に得た退職金の差し押さえが次々と実行された

「退役時空管理局員の中にはとっくに逃亡した人数はかなりの人数だが、完璧に逃げることなどできるはずがない」

ラジェットのセリフは事実である。捜査網から逃げることは不可能だ。
逃亡生活にはかなりの金が必要だが、銀行などに預金することは無理だ
預金をすればかなら記録が残ってしまう。なら逃亡生活に必要なお金は現金で持ち続けることが絶対条件になる
大金を持っていたとしても逃亡生活にはかなりのお金が必要になる。
定期的に金を得ることができるはずはあり得ない。いつかは金を失って捕まることは間違いない

「時空管理局関係の問題を押し付けられるこっちのことを考えてほしいな。1日に難十件ものトラブルだ」

中央パトロールが管轄しているクラナガン市内の警察権限で事件捜査を行う事案の中で、
時空管理局が絡んでいるケースはかなりの数になってしまう。
それだけ数が多いということは対応する人数もそれなりにそろえることが求められる
だが現実は都合よく動くことはない。捜査部に属する捜査官は1人でかなりの件数の事件捜査を行っている
時には休暇の時でも休んでいるような暇があるなら少しでも担当事件の捜査を進めることが求められる

『中央本部からSA11。そちらにパトロールバイクを向かわせている。到着は数分以内にできる』

一般道を緊急走行しているのだ。進行方向の信号機は最優先で青になるはず。
最優先で対応しなければならない。

『中央本部からSA11。現在児童信号切り替え装置で信号操作中。問題があればすみやかに報告せよ』

信号操作というのは緊急走行しているクラナガン捜査局の車に搭載されている信号変更装置で、
緊急走行中は自動的に変更される。赤信号だったのがすぐに青信号にする
パトロールカーや消防車や救急車はサイレンなどを鳴らしての緊急走行をしているときは、
進行方向の信号機が自動的に青になるように変更する変換装置が搭載されている
そのため現場に早急に向かうことができる。それも安全に緊急走行できる
安全に向かうにはこれが最も有効な手段であることは間違いない


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ベルカ州南東部地方 上空1万メートル C-37[ 航空機形式:ガルフストリームG550 ]

ミカはF/A-18Eの警護されながらベルカ州中央地方ベルカ市の空港に向かっていた
今のところは問題はないがいつ何があるかわからない。最大限警戒することで安全に飛行できる

『こちら第702戦闘飛行隊。現在問題は確認されていないが警戒態勢は維持する』

第702戦闘飛行隊はベルカ基地に配備されているF/A-18Eの戦闘機のチームだ
無線識別コードはドルイド1と2である。2機の戦闘機護衛でベルカ市に向かっている
かなり厳重な飛行であることは疑いようのない事実だ。もし問題があるなら護衛を行われることはない
今のベルカ州内はまさに危険と隣り合わせの状態にあるのだ。一瞬の隙で何が起きるか見当もつかない

『聖王教会本部に強制捜査が入りました。聖王教会は時間的余裕を求めていましたが法執行機関は強制捜査を実行』

『もし1つでも不法行為に聖王教会本部が加担していた場合は聖王教会の行動制限をかけると』

行動制限が命令されたら簡単に聖王教会騎士団の活動が難しくなる
次元世界連合による調査が行われている今の状況でも教会騎士団の活動は規制されている
しかしそれ以上に抜き打ちで監査が入るということになる

『連邦政府が筆頭株主のミッドチルダエネルギー社は石油などの資源採掘事業を増加する方向で動かすと発表』

『連邦政府はエネルギー資源価格の安定供給のために他次元世界国や無人次元世界での資源開発も実行する』

無人次元世界とは人が誰も存在しない惑星での資源開発を行うことは次元世界連合の承認が得られると許可が下りる
無人次元世界にある惑星での資源開発を行う場合は次元世界連合に一定の開発権の資金を納める定めになっている
資源開発を行う場合はその惑星の環境汚染をしてはならないと厳しく国際条約で決められている
条約を守ることが出ればすべて問題なく資源開発ができる
無人世界の惑星での資源開発県という形で次元世界連合に収められた資金は次元世界連合の予算になる

『またクラナガン市政府が運営しているクラナガンシティエネルギー社も備蓄している原油や天然ガスの放出する』

クラナガンシティエネルギーはクラナガン市に必要な石油や天然ガスや石炭などの資源備蓄を行っている
クラナガン市政府が資金を出しているので株式全額を保持している非上場企業

『クラナガン商品取引所の取引価格が下落するのは一定の範囲で効果はあるとしながらも大きな値動きに影響は少ない』

つまりそれほど原油取引市場に与える影響は極めて少ないと言える
それでも対応措置をすることで市民に安定供給のために努力しているとアピールはできる
何もしないで完全に市場任せにするのは問題であることは間違いない

『スタントン州政府は今年度の予算について州議会に予算案の審議のために必要な予算案を提出しました』

『昨年まで時空管理局からかなり多額の負担金要求があったため、州債を発行してきました』

スタントン州政府が発行した州債は、現在40兆ミッドになる。
しかし次元世界連合の傘下組織に時空管理局が変更されると共に、予算要求はほぼ0になった。
そのため新たな州債の発行は必要なくなった。財政赤字の状態から黒字に大きく変わった
今はできるだけ早期に州政府が発行してきた州債の返済に力を注いでいくとのことだ
同じようなことはミッドチルダ連邦の国内にあるあらゆる州で起きているほかに、
次元世界連合に加盟国の多くで発生している。できるだけ早く債権の返済を行っていくと発表している

「スタントン州政府も州債の償還に忙しいみたいね。州知事のレイス・トーラット知事も大変ね」

スタントン州知事をしているレイス・トーラットは州知事になる前は港湾パトロール海兵隊に所属していた
州知事選挙に出馬するために海兵隊の予備役兵に異動した。最終階級は中尉。
安全保障などについてはよくわかっている。それだけに指揮能力は極めえて高い
それは州知事になってからも明らかだ。さまざまな無駄な州政府の歳出をカットした
おかげで多くの無駄な歳出はなくなった。財政健全化は次元世界連合全加盟国で同じ
無駄な予算をカットして必要なところに歳出していく。無駄な予算歳出が多かったのだ
特に時空管理局からは数多くの無茶な予算要求を受けていた。
多くの次元世界国政府は時空管理局からの要求を撥ねつけようとしていたが難しかった
彼らが活動することで次元世界国内の治安が維持できていたことは確かな事実だ
それだけに無茶な予算要求をされてきたのだ。今は状況は大きく変わっている
時空管理局の規模と人員の縮小。さらに管轄できるエリアも大幅に減少した
だからこそ時空管理局の予算は大幅に圧縮することができた
JS事件までは時空管理局が要求していた予算は数十京ミッドになる
しかし事件後、5000兆ミッドにまで圧縮されることができた。
時空管理局は大きな改革が求められている。給与水準や組織のスリム化。
管轄するエリアの大幅縮小で過剰に抱えていた局員の大量リストラ。
すでにかなりの人員の削減を行った。次元世界連合はさらにリストラするようにと指示を受けている
その時、ウルから通信が入ってきた

『ミカ。そっちは大丈夫かな?』

「ウル。今のところは生きているけど、対空ミサイル攻撃を受けるかもしれないという危機意識を持っているわ」

その言葉にウルは本当に面倒な案件だねと回答した
彼の言う通りだ。今は何が起きるか想像もできない。いつどんな攻撃を受けるかは全く想像できない
だからこそ安全確保のために戦闘機がついているのだが。それでも完ぺきという言葉は存在しない
もしかしたら数秒後に死ぬ覚悟を持ってベルカ市に向かっている

『ベルカ基地からE-767がスクランブル発進させたよ』

早期警戒管制機を投入した。すでにベルカ州内では2機が監視任務に入っている
ベルカ基地には4機のE-767が配置されている。
さらに1機が支援のためにスクランブルしたということはいつ何があっても対応できるようにである

「ずいぶんと手回しが良いこと。本当に戦場であることは事実ね」

F/A-18Eが2機も護衛についている。それだけに何が起きるかわからない今はかなり危険である
もしミサイル攻撃があれば戦闘機がチャフなど使用して守備をするが絶対に大丈夫という保証はない
つまりミカがいつ死ぬかは誰にも予想することはできないのだ

「クラナガン市内にある魔力精製炉発電所は完全に発電は止まっているのよね?」

『そうだね。今はあんなバカなことをしてくれた連中を探しているところだよ』

魔力精製炉発電所が機能停止である現状では少しずつ歯車が狂わされて、
経過時間が長引けば大きな問題になってくる。
港湾パトロールが管轄しているクラナガン市と近隣州では発電所警備に港湾パトロール海兵隊が配置。
特に魔力精製炉発電所は厳重警備対象になっている。
1つの魔力精製炉発電所には10人以上の隊員が配置されている

「港湾パトロール海兵隊は今は忙しいでしょうね。自分たちが警備しているのに問題が発生したのだから」

魔力精製炉発電所に警備として配置されていたのに安全確保に素早く動くことができなかった
それは敵に攻撃することができることを見せつけることになる。大きな問題になることは明らかだ

「港湾パトロールは今後のことを考えることが求められてくる可能性は高まる」

『すでに対応マニュアルの改訂作業に入っているようだよ。追加で警備担当を増強することも含めて』

ウルはあらゆる角度から検証して、速やかに問題が二度と起きないようにするつもりだよとミカに伝えた

『港湾本部から各員へ。魔力精製炉発電所と関連施設の警備チームの増強を手配する』

このまま魔力精製炉発電が復帰しなければ影響がさらに広がることは間違いない
トラブルを早期に解消しなければ電力安定供給に影響が広がる。
ミッドチルダ連邦国内では多くの発電設備は魔力精製炉発電所によって発電されている
今は火力発電所の建設が急増している。
AMF装置によって魔力精製炉発電所での発電ができなくなった場合は大きなダメージになる
魔力精製炉発電所が機能停止になった場合に備えて火力発電所や水力発電所などの建設ラッシュになっている
魔力精製炉発電にすべてを頼るのはあまりに危険すぎる。電源分散化は重要である
今の技術では火力発電所の運転時に発生する惑星汚染物質の排出をほぼ0にすることができる
そのため温暖化ガスなどの排出はほぼ0に近い。だから火力発電所の増設が続いている
魔力精製炉発電による電力源を頼ることは極めて危険と判断されているので様々な発電所の建設が大幅に増加している

『ミカ。何か問題が発生したらこちらから連絡を入れるよ』

ウルの言葉にミカはお願いするわというと通信を終えた。
次に何が起きるかは全く予測するのは難しくなる。今の状況では何が起きるかわからない
最悪の事態を想定して行動しなければならない

「本当に危険である状況は変わりないわね」

今は何が起きるか全く想像することができないことは間違いない
いつどんなトラブルが発生するか本当に予測することは難しい
何が起きても対応できるように用意しておくことで常に体制作りが求められる


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南区北部区域ハーディー地区5番街5丁目10番地 地区パトロール事務所

ユラザーク・ギャスシーが立てこもっているワンワールドバンクの支店ではいまだに膠着状態が続いていた
今は何が起きるか全く予測することはできない。もしかしたら自爆することもあり得る
それに備えて避難命令も出すことをアルシオーネは考えていた。
銀行強盗犯のユラザーク・ギャスシーも今後何をしてくるか

「ユラザーク・ギャスシーは何を仕掛けてくるかを予測しないとリスクがあるから苦労するけど」

アルシオーネは立てこもりをしているユラザーク・ギャスシーが何を仕掛けてくるかは全く予測できない
最悪のことを想定して行動しなければ、危険な状況で迅速な対応ができない
ワンワールドバンクから時空管理局員はかなりのお金を借りていた
だからこそ、ワンワールドバンクが破綻したことで融資をしていた顧客の企業経営が健全であればが、
新たに別の金融機関が融資先を引き受けている。しかし問題のある企業の融資を引き受ける金融機関はなかった
そういう企業の融資については打ち切られたことによって倒産したところは多くある

『連邦準備銀行はワンワールドバンクが融資先としていた企業経営が行き詰っている場合の新規融資引受先はないと発表』

つまり連邦準備銀行が無駄な企業経営を行っている場合は引受先の調整先を確保しないという意思だ
ワンワールドバンクが行っていた『無駄な融資先企業』の経営再建のために動かないという事でもある
そういった企業に対する追加融資のために連邦準備銀行はほかの民間金融機関に審議を求めない
その企業が倒産することになる。残る課題は融資資金の回収のためにあらゆる財産を差し押さえる
少しでもワンワールドバンクが融資をしていた資金の回収をしなければならない。
ワンワールドバンク関係ですでに何万件もの融資先企業は破産して資金回収のために徹底的に差し押さえしている

『連邦上院議会で予算委員会で時空管理局関係の歳出は昨年に比べるとかなり低額になりました』

『今後は次元世界連合が時空管理局の予算編成を担当。予算については次元世界連合加盟国の規模に応じた歳出額になる』

『ミッドチルダ連邦の予算委員会は大幅な予算カットに成功することは間違いないとしています』

『連邦下院議会の運輸インフラ委員会で魔力精製炉発電所が停止による電力安定供給ができないことを想定』

『火力発電所や水力発電所や地熱発電所の新規建設のために補助金を出すべきか審議を行うと』

魔力精製炉発電にすべて頼るはAMF装置が流通したからは危険であるため、
リスク回避のために様々な分類の発電所の設置が必要である
そのためミッドチルダ連邦国内では数多くの発電所の建設ラッシュである意味ではバブル経済のような状況だ
本当にバブル経済になってしまうと、バブルがはじけた時に大きな損失を抱えてしまう
だから連邦準備銀行は利上げを繰り返している。連邦準備銀行はさらに利上げを行う用意に入っている
利上げをすることで金融機関からの融資には高い利息がとられるため、経済を引き締めることができる
今は7%だが、さらに引き上げる方向で連邦準備銀行は用意をしている
急激な利上げはミッドチルダ連邦国内の経済に大きな影響が出てくる
それでも景気過熱を抑えるためにも必要なことである。
今後さらに利上げをするなら7.5%以上にすることが必要になる

『ワンワールドグループの破綻で現在も状況は極めて悪いことは事実です』

特にワンワールドグループにあった銀行や証券会社などの金融企業の破綻はかなり大きな影響を出している
元々ワンワールドグループは時空管理局債を大量保有していた。
今まで値崩れをすることなく安定資産と評価されたが状況は一変した
今後どうなるかは想像したくもない。実際に大量保有していた時空管理局債は価値はなくなった
影響はかなり広がっていることも事実で、
ワンワールドグループと取引があった多くの企業は倒産になるケースも多い
どれくらいの規模になるかは今も想像できない状態である。
影響が広がり続けることはあまり好ましいことではない。

「ユラザーク・ギャスシーも追い詰められている。行動予測はかなり難しいわね」

アルシオーネの言う通りだ。ユラザーク・ギャスシーは完全に追い詰められている
そうでもなければこんなバカげたことを仕掛けてくることなど考えられない
自らリスクが大きい犯罪を犯しているのだ。自爆することも十分考えられる
常に最悪のシナリオになることを想定してアルシオーネは動いている。
それでも行動予測は極めて難しい。やけになって自爆することもあり得る

『中央本部からSA33。現状は変わらないか?』

「現在は膠着状態が継続中。素早い対応は現在は不可能の状況である」

アルシオーネは無線でそう答えた。このまま時間が経過するのは好ましくないことはわかっている
相手がどんな行動してくるかの予測ができなければ極めて難しいことは関係者なら誰もがわかっている
対応したくても難しいのだ。立てこもり事案というのは特に

『できるだけ素早い対応を求める。これ以上長引くことは避けたいことは理解しているか?』

そんなことは指摘されなくてもわかっている。だが問題はどのような方法をとっても難しいのだ

「わかっているけど行動不可能な状況は継続している。下手に手を出すと人質にまで被害が出る可能性は高い」

彼女の発言は的中している。
何か大きな問題に発展する前に対処したいのはアルシオーネもわかっている

「何か良い方法でも思いつかないと。これ以上長引かせるわけにはいかない」

アルシオーネもいつまでも放置する状況がよくないことはわかっている
何か一発逆転の方法でもないと状況は変わらない


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中央区南部区域サウスサーストン地区5番街付近 クラナガンシティバンク サーストン支店

シエナもアルシオーネと同じ状況にいた
4人の立てこもり犯は今は支店内ではどのように行動するのか悩んでいるのだろう
かなり困惑した行動をしていた。もし何かあればすぐに突入できる用意は完了している
ただし射殺は認められていない。生かして確保するようにと命令が出ている。
そこが最大の問題である。射殺するならまだ少しは楽だが、生け捕りとなると話は大きく変わってくる

「SA24からクラナガンシティバンクサーストン支店の包囲を行っている者へ。今は何も手を出さないで」

シエナは冷静な判断をしなければいけないことや不用意な接触は危険度を高めるだけである
今は静かに待機することが重要なのだ。少しでも判断を誤ると大きな影響が出てくる

『中央本部から各員へ。聖王教会の過激派が行動する可能性がある。それについても不審な動きがあれば即時報告を』

「面倒ね。時空管理局と聖王教会。問題の規模が大きすぎることも考えると厄介な事にならなければ良いけど」

シエナは最悪の事態を想定して行動しなければならないことを理解している
それだけに影響を最小限にすることも重要だ
シエナは報道番組のチェックなども同時に行っていた。
どんな些細な出来事も見逃すことはできないのだ。
何かをきっかけとして大きく現場の状況が変わることもある
だからこそ、常に最新情報を把握することは極めて重要。

『クラナガン証券取引所では現在多くの金融機関の株価が下落。さらに大きく下落する可能性があります』

『連邦準備銀行が政策金利を7%からさらに引き上げることが想定されることから無担保コール翌日物の金利も上昇』

『連邦準備銀行はある程度の上昇は問題ないとの判断をしています。また準備預金率の引き上げも検討していると』

準備預金とは金融機関が持っている預金などの資金を預ける金額。
つまり準備預金率を操作することで市場に流れている資金の量を調整している
これにより過剰な好景気になることやバブル景気になることを抑制することができるのだ

『政策金利がどれくらい利上げがされるかによって国内にある証券取引所の平均株価が大きく変動する』

各州に設置されている証券取引所や商品取引所の平均価格は利上げによって大きく変わることになる
それだけに慎重な判断が求められてくる

『国内の原油採掘量は1日9000万バレルから8000万バレルに減産することが決まったと発表されました』

ミッドチルダ連邦では石油や天然ガスや石炭などのエネルギー資源の開発を行ってい企業と連携している。
急激な資源価格の急上昇に備えて常に商品市場を警戒している
JS事件後は原油や天然ガスや石炭の価格が大きく上昇したことで国内の資源開発企業とは常に協議をしている

『これにより各州の商品取引所の原油価格は大きく上昇。また自動車燃料の先物価格も大きく上昇』

「大きく問題になるかもしれないわね」

『今後、商品取引所の原油先物価格が大きく上昇することはできるだけ抑えることが必要だと連邦エネルギー省が発表』

しかし過剰に流通すると大きく値崩れをしてしまう。
うまくバランスを保つことが求められるのだが、簡単なことではないことは事実だ
需給バランスの調整は極めて難しいことなのだから

『連邦議会は国債の発行について大筋で連邦上下院議会で承認することを決めました。発行予定は300兆ミッドになります』

ミッドチルダ連邦の連邦法で国債を発行する時は連邦上下院議会で承認されなければ発行はできない
現在はミッドチルダ連邦国債の残高は30兆ミッド。それを一気に300兆ミッドの新規国債を発行する
今のミッドチルダ連邦は好景気であり税収もかなり多いので国債に頼る必要はない。
だが長期金利を決めるにあたって一定の目安が必要であったこともあるので30兆ミッドを発行していた

『これにより国内の通貨流通量の一時的な減少になると見られています』

通貨流通量が減少すると物価が下がってデフレになる

「ますます国内の経済に大きな影響が出るわね」

金融事件などの捜査は難しいのだ。
面倒ではあるが1つ1つ可能性を潰していかなければならないことも多い
あらゆる手段を考えた上で、それがどれほどあり得ないことでもこれしかありえないということもある

『証券取引委員会はワンワールドグループの金融部門の会社の破綻処理には数年もの時間が必要とすると公表』

『連邦政府は退役時空管理局員の再就職支援について議会で協議を求めました』

このまま何もしないでおくと大きな問題になることははっきりしている。
それだけに被害を最小限にすることが求められてくる。
国内で退役時空管理局員はさまざまな犯罪を犯すことを止めなければどうなるか
影響はかなり広がることは確実になるのだ。
それを抑制するために少しは議論をしないと国内で反政府活動が活発になるかもしれない

「退役時空管理局員は最悪ね。魔導師となるとどんな魔法行使をしてくるか想像できないから」

でももう強行突入に踏み切ることを決断しようとした。
時間的余裕は残されていない。人質になっている人たちも心理的に影響があることは確実だ
もし人質が緊迫した状況の継続に耐えることができないならどんな騒ぎになるかわからない

「SA24から中央本部。こちらは突入を開始する」

『犯人は生かして拘束することを優先で。ただし人質に心理的な影響が出ることも問題なので許可する』

「こちらSA24。了解したが保証はできない。安全確保のためなら射殺を許可すること要請する」

シエナは念のために再度射殺を承認してほしいため、再度確認を行った
すると中央本部は人質の安全確保のためなら最後の手段として許可するとのことだ

「これより強行突入に入る」

シエナはそのように中央本部に返答すると銀行の近辺で警戒しているSAWT、
彼らに突入準備ができたら報告するように指示した
SWATと一斉強行突入。もうこれ以上時間をかけることはダメだ

『中央本部からSA24。強行突入を開始せよ。ただし素早く対応も行え』

強行突入は認めるが人質救出を原則的に優先するようにとのことだ
いつものことではあるが面倒になるような注文をしてくる。
素早く対応して4人の犯人を確保。人質になっている彼らの救出を優先も必要と言っている

「SA24からクラナガンシティバンクのサーストン支店を警戒しているパトロール捜査官と刑事は突入準備を行え」

シエナは現場で警戒しているパトロール捜査官と刑事に突入時に速やかに応援に入るように指示した

「突入開始は15秒後。スタンバイして」

シエナは現場にいる局員に突入のカウントダウンを始めた
そして15秒後、その瞬間が訪れた。強行突入が開始されると銃声が響いた
とっさに生け捕りは無理と判断したが、状況は全く異なる方向に進んでいた
SWATが4人の立てこもり犯である魔導師を拘束していた。作戦は見事に成功した
見事なものだ。人質にも体には傷はついていなかった。これで事件は解決。
残る仕事は立てこもり犯の事情聴取と現場鑑識だ

「SA24から中央本部。クラナガンシティバンクのサーストン支店での立てこもり事案は解決。現場鑑識チームの派遣を」

『了解した。すでに現場鑑識チームはそちらに向かっている。到着は10分前後と思われます』

シエナはとりあえず事件そのものは解決したが真相を調べるのはかなり苦労する

『ミーミルバンクはセントラルベルカバンクの財務調査をした結果、5000億ミッド程度の不良債権を確認』

『不良債権の大部分は聖王教会の関係者で構成され、ミーミルバンクはあらゆる手段を使って不良債権処理を行うと』

不良債権処理のために最優先で回収できるなら少しでも徹底的に回収しなければならない
問題は不良債権になっている債務を抱えている人物や企業や組織は聖王教会関係者は関係人物がほとんどだ
5000億ミッドの不良債権となると大きな問題になることは確実である
不良債権を少しでも回収することが最も重要である。必要ならありとあらゆる財産を差し押さえる
今はセントラルベルカバンクが抱えている不良債権の正確な金額を確認することが重要になる

「多すぎるわね。バカな連中であることには変わりないけど」

シエナの言う通りだ。5000億ミッドの不良債権処理は楽に進む事はない
債務者に対してミーミルバンクは徹底的に財産の差し押さえを行って回収する
それも徹底的に。1つの逃げ道をあるということがないことを見せつけるほどに

「きっと困る人物や組織や企業は多いわね。まぁ自業自得だけど」

『ミーミルパワー社は魔力精製炉発電所で使用された使用済み魔石燃料をクラナガン市内の再処理工場に運ぶことを発表』

使用済み魔石燃料の中にはまだ完全に反応していない魔石燃料がある
魔石燃料は核燃料と異なり放射線などの環境汚染になるようなことはないが、魔力爆弾を作る原材料だ
それだけに魔石燃料の取扱いは極めて厳しい規則が定められている
基本的に魔石燃料などの輸送には警察組織化あるいは軍の警備課で行われなければならないと連邦法で定められている
小さなミスがとんでもない事態になることを想定しての対応である。
使用済み魔石燃料は魔力精製炉で3年ほどを使用した後に魔力精製炉発電所の燃料プールで1年間を冷却
その後、魔石燃料工場に移送されて再処理工場でまだ未反応の魔石燃料を取り出す
それを再度、魔力精製炉発電所で使用するために混合魔石燃料棒になる
ミッドチルダ連邦国内では混合魔石燃料を魔力精製炉発電所の70%で使用されている
完全に魔石を使い終わるとただの石になる。放射性物質と異なり放射線など、有害物質を生み出すことはない

『具体的にいつ運ぶかについては機密事項としていますが、早急にクラナガン魔石燃料工場に運ぶとのことです』

早急に運ぶということは魔力精製炉発電所の燃料プールに大量に保管されているのかもしれない
だからこそ早急に再処理工場に運ぶ必要があるのだろう。そうでなければそのような発表することはないはず

「今から使用済み魔石燃料の移送をするなんて、本当に無茶な計画を実行するわね」

クラナガン市内には魔力精製炉発電所が4か所設置されている
魔力精製炉の数は全部で40個もある。今まで使用済み魔石燃料の移送はかなりの数が行われていた
時空管理局が警備を担当していた。しかし今は時空管理局にその権限はないのだ
今は連邦エネルギー省や連邦軍や港湾パトロールの部隊に警備を行って移送警備を担当している

『港湾本部から全部隊へ。使用済み魔石燃料の警備は港湾パトロール海兵隊が行う。輸送は貨物列車を利用する』

ちなみに魔石燃料の輸送はクラナガン市内だけなら港湾パトロールと中央パトロールが連携して対応
共同警備と監視化のもとで行われることが原則となっている。
近隣州で港湾パトロールの管轄区域なら地元の法執行機関と港湾パトロールの監視の中で行われる

「今から輸送するの?本当に無茶なことをするわけね」

今はクラナガン市内はいろいろと問題を抱えているのに、
それでも輸送するのは燃料プールが満杯になるからなのかもしれない
そうでなければ危険な今の状況下で使用済み魔石燃料の輸送をするはずがない

『ノースクラナガン魔力精製炉発電所の燃料プールに保管されていた使用済み魔石燃料を再処理工場に輸送する』

ノースクラナガン魔力精製炉発電所には10基の魔力精製炉が設置されている
この発電所は何者かによってAMF装置が作動しているため、発電そのものができない状況にある
ただし魔力精製炉と燃料プールの冷却は外部から送られてくる外部電源によって問題はない

『今回の使用済み魔石燃料集合体は全部で20個になる。港湾パトロール海兵隊員が10人の警備で輸送を行う』

『中央パトロールも輸送時の安全確保のために動くように』

クラナガン市内には数多くの鉄道路線が整備されている。
ただし踏切は設置されていない。踏切を利用したテロ行為の実行させないために高架路線になっている
それでも万が一ということも想定されるので警備体制は厳重にしなければならない
安全確認で少しでも問題が起きる可能性がある場合はすぐにトラブル解消のために動かなければならない

『中央本部から各員へ。東区東部区域セントラルクラナガン空港付近にあるカジノ施設で問題発生』

クラナガン市の市法でカジノ営業ができるのは空港近隣地区でしか認められていない
市内には大型航空機が運行できる空港は全部で4か所設置されている
市法では空港近隣地区でしかカジノの経営や運営を認めていない
ちなみにクラナガン市近隣州ではカジノは州法で禁じられている
それだけにクラナガン市にカジノをすることをメインの観光で訪れる観光客は多い
クラナガン市政府の歳入でもカジノ関係での税収はそれなりの割合を占めている
もちろんカジノ経営をするにはクラナガン市政府の監査を毎年受けることが条件になっているのだ
もし少しでも違法行為があるとカジノ運営は禁止される。カジノ運営は厳しい規則が定められている

「カジノでのトラブルはいつものことだけど」

カジノで遊んでいたギャンブラーがカジノで負けた結果、トラブルを起こすことはいつものことである
1日で十数件のトラブルを起こすので珍しいことではない

『東分署から各員へ。トラブルを起こしたカジノはフロンティアカジノです。近隣にいる者は迅速に対応せよ』

東区東部区域セントラルカジノ地区1番街にフロンティアカジノがある
カジノでのトラブルは状況が悪化すると大きな騒動に発展。対応時間がかかればより大きなトラブルになる
素早い対応が求められるのだ

「東区は厳戒警備をしないと、どうなるか想像したくないわね」

市内にあるカジノがある施設には警戒監視のためにパトロール捜査官が配置されている
トラブル発生時には素早く対応できるようにするためである。
ただし配置されているパトロール捜査官は5人ほどだ。トラブルが発生すると追加人員を派遣されることに。
それでも問題が1日で何度も発生する。ギャンブラーはカジノで負けると酒をたっぷり飲むことが多い
酔っ払いになってトラブルを起こすことは珍しいことではない。
この手のトラブルはクラナガン市ではかなりの件数が発生している。
それに市内では違法なカジノ店の営業をしている犯罪組織がかなりの数になる
そういった危険な組織から金を借りてぎゃんぶるにのめりこむ結果、大騒ぎを起こしてしまうのだ
もちろんクラナガン捜査局は闇カジノ店の摘発を毎日行っている
しかし1つを潰してもすぐに新しい闇カジノ店の店を作る
モグラたたきのような状況にあることは事実なのだ。そのトラブルもクラナガン市内ではかなりの数になる

「本当にカジノ関係のトラブルが多すぎるわね」

少しは減ることを願っているけどうまくいかないものである
シエナもそんなことはわかっている。問題解決のために全力で対応しなければならない
小さなトラブルが大きなものになる前に対応しなければならないのだ

『連邦準備銀行はセントラルベルカバンクを買収したとミーミルバンクから報告を受けました』

『セントラルベルカバンクが抱えている不良債権の金額について、現在も調査が続いています』

『ミーミルバンクはセントラルベルカバンクの不良債権を少しでも回収するために徹底的に回収を行うと』

『ベルカ州証券取引所ではすでにセントラルベルカバンクの株式取引を中断させています』

ミーミルバンクが買収したことでとりあえずベルカ州証券取引所でセントラルベルカバンクの証券取引を中止するのだ
ミーミルバンクはすでにセントラルベルカバンクの株の7割を低価格でTOBした
これは連邦証券取引法で定められている証券取引所での株取引の規則に抵触するからだ
連邦証券取引法では証券取引所で売買されている株数が法で定められている数よりも少ないと取引を一時的に停止する
企業買収のためにその企業の株式の大量保有をする場合は連邦証券取引委員会などに報告することが義務付けている

「セントラルベルカバンクの問題がクラナガン市内にまで影響しないことを願いたいけど」

現実問題としてあちらの問題がクラナガン市にまで影響することは十分考えられる
それだけに対応する用意をクラナガン市政府と連邦政府と次元世界連合は用意を始めている
聖王教会の問題が拡大することは好ましくないが少なからず影響があることははっきりしていいる
特にクラナガン市の安全保障に強い影響があるクラナガン捜査局は問題の早期対応を用意するのは当たり前だ

『EP371から東分署。現在フロンティアカジノでの騒動ですが、暴れていた人物を確保しました』

無線コードでEPとは東分署に配属されているパトロール捜査官だ。
素早い対応だ。当然と言えばそうかもしれないが。
クラナガン市内にある空港4か所のうち、3か所は東区の海沿いにあるのだ
すみやかに対応できるのはいつものことである

『SA11から中央本部。現在一般道を利用して中央本部に向かっている。優先通行の承認してほしい』

優先通行が承認されたら優先通行を求めている車両を最優先で通行させるために信号機などを操作する
そうすることで交差点で減速や一時停止をしないようにする
さらに護衛のためにパトカーやパトロールバイクで通行支援を行う

『こちら中央本部。SA11に対して優先通行を承認する用意に入っている。承認が出たら速やかに通達する』

優先通行の申請をするのは特に珍しいことではない
しかしラジェット達が乗った車となれば話は大きく異なる
彼が護衛している機動六課組に攻撃があれば大きな問題になる
仮に攻撃を受けて機動六課組が死亡するようなことが起きればクラナガン捜査局の信用問題に発展していく。
そんな事態になることは許されない。問題解決のために徹底的な対応が必要になってくる
現在はヘリによって彼らの行動支援を行っている

『中央本部からSA11。優先通行を許可する。警備のために人員を手配する。完了まで5分以内』

中央本部が優先通行を許可するとパトカーなどによって交差点を一時的に止める
安全に走行させるために動くことが規則で定められている


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西区中央区域 中央パトロール西分署ラボ棟 1階検死ラボ

ジャスティはそこで雨水貯水トンネルで発見された男性の検死を検死官と一緒に確認していた
まだ身元はわかっていない。DNA鑑定はすでに行っている。しかし照合するにはそれなりの時間が必要になる。
膨大なデータから割り出すのは簡単なことではない

「水死体は身元確認が大変から好きじゃないんだ。指紋で身元確認することができないからな」

ジャスティの言う通りだ。水死体は水に存在したことで指紋がふやけるから確認が難しい
仮に成功するとしても確認には時間が必要になるのだ

「指紋で身元確認ができるならもっと楽なんだが」

ジャスティの言葉に検死官は仕方ないと回答した
DNA鑑定で身元確認には少し時間が必要になる。犯歴者や公務員ならある程度の時間で分かる
もし両方のどちらにも該当しないならかなり苦戦することは間違いない
だが今は何としても最優先で確認することをしなければならない

「それは言えている。西分署のスパコンを使っても時間がかかることは間違いない」

中央本部と各分署にはスーパーコンピュータが設置されている
それに港湾パトロールのスーパーコンピュータを使うことを捜査部捜査官が承認を得るのは難しくない
ジャスティはそのように話しながら携帯情報端末で情報確認を行った
クラナガン市内や近隣州で何かトラブルが発生していないかを中心に確認したところある情報が気になった

『中央本部から各員へ。サーストンペトロリアムのフローレンス州のガス田から供給される天然ガスの増強される』

サーストンペトロリアムにはフローレンス州中央区域で資源開発している油田とガス田がある
そこで採掘された原油と天然ガスはフローレンス州からクラナガン市の間を結んでいるパイプラインで輸送されている
パイプラインで輸送するのは設備の工事にはかなりのお金が必要になるが完成すれば低コストで供給できる
そのため安価で原油や天然ガスの供給が可能である。
フローレンス州西部地方にはドッジエネルギー社がウエストフローレンス油田と天然ガスの開発を行っている
ドッジエネルギー社もフローレンス州とクラナガン市の間を結んでいるパイプラインが存在している
両社はエネルギー資源の安定供給を維持するために常時連携している
原油や天然ガスの安定供給が途絶えると大きな問題になる。
フローレンス州で資源開発しているからと言ってクラナガン市に影響がないというのはあり得ない
エネルギー資源開発はその州だけでなく近隣州や国内全域に大きな影響が出てくる
だからこそ連邦エネルギー省は常に連携会議を定期的に開催している
さらに次元空間を使った原油や石炭などのエネルギー資源の輸送があるので、
次元世界エネルギー機構という国際機関が組織されている。
穀物の輸送も行われていることから次元世界穀物安定機構という国際機関もある
常に需給バランスの安定のために連絡会議が行われている
ジャスティはその情報を確認して大きなため息をついた。
もしかしたら何か別の大きな経済犯罪が発生することが想定されるからだ
例えばインサイダー取引などだ

『今回の増強はクラナガン市内で発電に使用される天然ガスの安定供給のためである』

ちなみにパイプラインのそばにはいくつかの火力発電所が設置されている
天然ガスを燃料とする火力発電所がいくつもある。
クラナガン市内にある大部分の火力発電所は海岸沿いに存在する
地震で津波が発生したら海沿いにある火力発電所の機能が停止すればクラナガン市内の電力安定供給に影響が出る
クラナガン市内の発電所がすべて停止しても近隣州の発電所からの電力供給を受けることができる。
そのためクラナガン市内の全電源喪失になっても問題はない
だからと言って最悪のシナリオが想定されるならいつでも対応できるように設備投資をすることが求められる

『ミッドチルダ連邦国防省はスタントン州にある連邦基地に配置されている空母艦隊を訓練という形で展開すると発表』

クラナガン市の東隣にあるスタントン州には連邦軍の基地が設置されている
本来では港湾パトロールの部隊も配置されることになるはずだったのだ
しかしスタントン州の州上下院議会は港湾パトロールの部隊配置案を廃案にした
州議会の過半数を持っている平和党は本来であれば承認する方向で調整したが否決された
ただしスタントン州内に通信中継施設やレーダー施設の設置は承認された

『スタントン州上下院議会は新たに提出された連邦軍関係予算について過半数の賛成を得たことで州議会を通過』

『連邦軍の予算は時空管理局時代の物に比べると大幅に縮小されたので問題ないと判断されました』

『スタントン島の北部と南部にある油田や天然ガスの採掘量について州政府は一定の生産量調整を発表』

各州政府にはエネルギー資源の採掘量などの調整する権限がある
もちろん理由もなく突然原油や天然ガスや石炭などの採掘量の調整を認めることはできない
何かの理由で生産量の調整をすることは認めている。
エネルギー資源生産をしている企業には独自の生産量の調整をすることは認められている

『連邦軍が運用する空母をクラナガン市と境界付近に展開して警戒監視に入るとのことです』

スタントン州に配置されている空母はオルトリンデ級航空母艦 [ 艦船形式:ニミッツ級航空母艦 ]であり2隻が配置。
現在、もう1隻の空母の建造がほとんど終了している。
オルトリンデ級航空母艦には魔力精製炉が2基配置されている
連邦国防省はスタントン州の基地に3隻配備する方向で動いている
つまり現在建造されているもう1隻の空母の配属が完了することで、
スタントン州配置される予定の部隊は艦船の建造は終了する。
戦闘機などの航空部隊はすでにすべてが配置されている
今後は定期的な艦船の検査などを中心に使われることに設備が整えられている。
正規空母の建造ができるのはさまざまな技術がなければできない。
特に時空管理局によって多くの権限があった時代には連邦軍の創設はほとんどできなかった
しかしクラナガン捜査局が組織されて港湾パトロールが創設されて少しずつ時間をかけて下準備をしていた

『中央本部から各員へ。SA11の優先通行のために警戒態勢に入れ。緊急行動指令の発動を念頭に動いている』

緊急行動指令。それは連邦大統領の身に与えられている弾道ミサイル発射など、
ミッドチルダ連邦国内の安全保障に大きく影響してくることもある
確かに機動六課組の安全確保は何よりも優先されることだ
どんな手段や方法を使っても安全確保のために優先しなければならない
そのように定められている国内で極めて危険な状態になった時に発動されることなのだ

「状況は最悪か。ラジェットが無事に中央本部に到着できれば良いが。それができないととんでもないことになる」

緊急行動指令が発令されるとクラナガン捜査局は最優先でその指令に従って行動する
任務達成のためにはあらゆる妨害工作の排除もしなければならない
問題解決には最優先で行動するのだ。

「ラジェット達の安全が確保されるのはまだしばらく時間がかかることは確かではあるがな」

『クラナガン商品取引所で原油先物価格が1バレル8300ミッドまで上昇傾向にあり今後の市場状況の注視が必要です』

『また天然ガスの先物価格についてもクラナガン商品取引所で上昇傾向にあります』

『クラナガン市に近隣州から供給される原油や天然ガスは増量されていますが価格安定には少し時間が必要かと』

実際に商品取引所で資源価格の上昇を抑えるためには供給能力の増量が確認されなければあまり意味はない

『クラナガン商品取引所で原油や天然ガスなどの資源価格の上昇。国内全域の商品取引所で平均価格は大きく上昇』

『一方でリサイクルのために出された廃棄ペットボトルのプラスチック取引価格は大きく上昇』

ミッドチルダ連邦ではペットボトルなどの廃棄プラスチックはリサイクルすることが義務付けられている
そのため新規の原油精製で製造される新しいプラスチックの生産量が調整されている
ただ石油精製においては産油地域によって重質油と軽質油の2種類に大きく分類される
2つの原油の性質によって原油精製時に生じる石油製品の量に違いが出てくるのだ
そのため国内の石油備蓄基地では軽質油と重質油の2種類をうまくブレンドすることで、
国内のすべての石油精製所で同じ原油タイプのものを使用できるようにしている
ミッドチルダ連邦では連邦政府が国内で1日に使われる原油の量から考えて、最大で200日分を備蓄している
ちなみに民間のエネルギー資源開発企業も最大で200日分の石油備蓄をしている
これらの石油備蓄は突然のトラブルで石油調達に問題が出た時に素早く供給不足分の穴埋めに利用される
もちろん穴埋めで放出された後で、供給に問題が無くなれば放出した分の穴埋めを行う
エネルギー資源の安定供給ができないと国内経済に大きな影響が出るのだから当然である
備蓄しているのは原油や天然ガスや石炭だけではない。
その他にレアメタルや穀物など、国内経済に大きな影響が出る物資の備蓄も行われている
安定供給することで市場にトラブルを生み出さないことが重要なのだ

「金融市場は大騒ぎだな。元々ワンワールドグループの影響が大きかったことが追い打ちになっていた」

ワンワールドグループは時空管理局や数多くの次元世界国で活動していた
それだけに経済的な影響が極めて多くて規模や金額も多い不正行為に関与していた
ワンワールドグループが破綻してしまったことで時空管理局に様々な影響が出た
時空管理局が持っていた様々な権限などが最も大きい。
彼らは自らの利益がでるように権限を好き勝手に使って法整備をさせてきた。
だからこそ時空管理局とワンワールドグループが事実上の消滅に近い状況に落ちた時の影響は大きい
自業自得ではあるが。

『中央本部から各員へ。クラナガン堰で行われている水力発電の一部を停止する。トラブルを予告する通信を傍受ため』

クラナガン堰ではクラナガン市政府が管理している水力発電所が設置されている
最大発電出力は4000万KWにもなる。クリーンで発電である。火力発電や魔力精製炉発電と異なり燃料が必要ない
つまり燃料コストはほとんど必要としない。
クラナガン市政府はクラナガン堰とノースクラナガン堰の2つを管理運営している
これらの発電所の最大出力をすべて合計すると8000万KWにもなる。
安定供給ができることや売電で得られた収益は市政府は低所得者への支援のために補助金という形で歳出している

「クラナガン堰の水力発電の一部が停止になると影響が出るかもしれないな」

クラナガン堰にある水力発電所で発電された電力は基本的には一般向けには供給されていない
クラナガン隻とノースクラナガン堰の2か所に設置されている水力発電所で発電された電力。
基本的にはクラナガン市政府と連邦政府の施設に最優先で供給されている
さらに民間送電網とは独立しているので民間送電設備に問題が生じても問題が出ないように構築されている。
クラナガン捜査局も政府機関なのですべてのクラナガン捜査局施設にも独立送電設備として接続されている。
連邦政府と市政府施設で使用される電力需要の消費量と水力発電での発電出力を比較すると、
水力発電の設備をフル稼働させると需給バランスで供給量は供給過多気味にある
つまり発電出力の方が多いということになる。
堰の水力発電所が破壊されない限りは連邦政府と市政府機関の運用が可能である

「堰の水力発電設備がすべて停止することにならなければ良いがな」

ジャスティは問題が大きなことに発展しないことを願いたいと思いながらもそういう事は甘いことはわかっている
危険性が高いリスクがあることを想定して行動しなければならないことは事実なのだ
クラナガン市内の安全保障の維持のためには電力安定供給は重要だ
電力供給が途絶えるようなことになれば大問題に発展する。
そうなる前に対応するのがクラナガン捜査局などの法執行機関の使命である

『クラナガン堰の水力発電の停止は取水口で問題が発生した事との情報が入っています』

その取水口のトラブルの影響で一時的に一部の水力発電の設備停止に踏み切ったのだ
クラナガン堰の水力発電に使われるタービン発電設備は20個存在する
1つのタービン発電設備の発電量は200万KWになっている。
それがクラナガン堰には20基設置されている。つまり発電量は最大4000万KWになる

『クラナガン堰の取水口の問題について情報報告。取水口に男性が流れ着いている。念のため全取水口の封鎖許可を』

もし遺体であるなら一時的ではあるがすべての取水口を閉じる必要がある
そうでもしなければ確保することはできない。それに鑑識活動もできない。安全確保は最も優先される。
しかし水力発電設備のすべての取水口を閉じるとなると電力の供給などの調整が必要だ
異変があるからといって何も根回しもなく取水口を封鎖するのは電力供給に影響する
電力供給に関する調整を行わないと難しいこともある。
連邦政府施設とクラナガン市政府施設の電力供給を民間の電力網に接続するなら、
政府施設に供給している電力の需給バランスを慎重に見極めながら接続しなければならない
ちなみにクラナガン捜査局で使用している信号機は各種設備の電力供給はさらに別の発電所を保有。
港湾パトロール本部基地に火力発電所が複数建設されて運用されている
そのためクラナガン捜査局の電力系統は何十もの予備回線が確保されている

『中央本部から各員へ。連邦政府施設とクラナガン市政府施設などへの電力供給の調整が必要になる』

何か問題が発生するような状況になる可能性があればすぐに無線連絡を指示してきた
当然の反応と言えばそうである。もし再度電力供給に影響が出てしまい、一部区域でも停電になれば影響は大きい
そうなることの可能性がある限り、警戒するのは当然の動きである
何かトラブルが起きる前に対応方法を考えておけばすぐに対応できる

「SA32から中央本部捜査部へ。現在の状況報告を頼む」

ジャスティは中央本部捜査部のオペレーションルームに無線連絡を入れた
ギブリがすぐに無線に応答した

『ギブリだ。こちらも情報収集を行っている。何かわかり次第即時報告を出す』

「どんな些細な情報でも構わない。何かつかめたらすぐに頼むぞ」

ギブリはわかっているというと無線交信を終えた
まだ情報は集めていないことはわかっているが、何かあればすぐに連絡するように依頼するのは当然だ
今は捜査部捜査官に何が起きるかわからない状況なのだから。特にラジェット達に影響が出るかもしれない
最新情報を集めることは極めて重要である

「何かトラブルのようですね?」

検死官の質問にジャスティはかなり危険な状況になるかもしれないと伝えた

「検死結果の報告書は俺の携帯情報端末に伝えてくれ。俺は西分署の分署地域情報センターにいる」

ジャスティはそういうと西分署の検死ラボを退室した
検死官は捜査官は忙しいなと思ったが口には出さなかった
余計な詮索は良いことがないのはよくあることだ。知らない方が幸せなこともあるのだから
ジャスティは検死ラボを出るとその足で西分署庁舎の3階にある分署地域情報センターに向かった
あそこなら機密情報を扱える。情報漏洩の心配はほとんどない。
機密情報のアクセス権がある有能な管制官が担当区域の最新情報を集めて分析もしている
捜査部捜査官も機密情報取り扱い資格を持っているのでいろいろな情報を確認しても問題ない
今はどんな些細な情報であっても見逃すことはできない

『中央本部から各員へ。クラナガン堰で発見された男性の情報はわかり次第随時送る』

クラナガン堰で発見された男性について現場検証などの捜査を行うのは口で言うのは簡単ではある
何度も言うが水力発電に水を入れている取水口で発見されたということは、
水力発電設備に水送る取水口のゲートを閉鎖しなければならない。
その作業を行うには電力需給バランスなどの調整に少し時間が必要になる

『クラナガン第1水力発電所とクラナガン第2水力発電所の運営停止は10分前後ですべての作業を完了させろ』

クラナガン第1水力発電所と第2水力発電所はクラナガン堰に設置されている水力発電所だ
ただし設置場所が川の北側と南側なのかを区別するために分かれているのだ
一時的に水力発電設備の運用をやめるということはその水力発電の電力を別の発電所から調達しなければならない
それはそれで難しい判断が求められることであることは間違いない。
すでにクラナガン市と近隣州の送電網を管理運営をしているミーミルパワーが動いている
元々クラナガン市内にある魔力精製炉発電所の4施設は発送電が停止している
これだけでも2億4000万KWの電源がない状態だ。つまりそれを補うために近隣州の発電所から電力調達をしている
さらに別の発電所を探すとなるとかなり苦労することは間違いない
ミーミルパワーはフローレンス州とベルカ州の発電所の新たな増強が発表された

『フローレンス州で水力発電所と魔力精製炉の試験をクリアしたので追加発送電を開始』

『ベルカ州で水力発電所と魔力精製炉発電所を増強。運用試験をクリアしたため発送電を開始する』

これらにより3億KW以上の発電出力が増強されることは確実である
ミーミルパワー社はその増強された水力発電所や魔力精製炉発電所から緊急融通することで供給するのだ。
送電網も新たに予備送電線を複数も追加して1つの送電線がトラブルが起きてもすぐに切り替える。
安全確保を何重にも確保することで安全第一にする
電力の安定供給を維持するために様々な対応を取ることは極めて重要なのだ

『今回のミーミルパワーの発電所の増加と発電出力の増強により安定供給がかなり安心できるとされています』

クラナガン捜査局では最新情報として局員が持っている携帯情報端末に送信していた
電力流通で需給バランスの調整ができたことは良いことだ。
クラナガン市や近隣州の電力安定供給が確保されているので経済的な影響は最小限で済む
問題が小さいなら少しくらいなら時間を稼ぐこともできる。
それに経済的ダメージの影響はあまり出ないことになる

『市内を中心に展開している鉄道会社は電力供給が不足すれば一時的な運行停止をしなければならないと発表』

『すぐに運行停止になることはないとのことですが万が一に備えて対応する用意をしているとのことです』

クラナガン市内だけを運行範囲の旅客鉄道会社は8社ほどある
この8社が運行管理をしている鉄道はすべて電化路線であるため、電力不足になれば鉄道運行をすることはできない
電化路線だから、これだけは仕方がない。
ちなみにウエストミッドチルダ大陸全土にわたって整備されている鉄道路線は非電化路線が多い
電化路線はいろいろと鉄道路線管理に様々なコストが必要になることから非電化路線の方が管理運用を行いやすい
そのため大都市内だけを運行範囲としている鉄道会社の多くの路線は電化されているが、
大陸全土にわたって整備されている鉄道路線は非電化路線の方が多いのも現実である
電化路線は非電化路線と比較した時に鉄道列車に電力胸腔を行うための送電網の維持管理に莫大なコストがかかる
GPS装置によってかなり正確な座標を絞り込むことができるので、
非電化路線の場合は一定区間ごとにセンサーの設置だけなどで済む
だが電化路線は電力供給網の管理運営にかなりのお金が必要になる
鉄道運行会社にとって電化路線は非電化路線の維持コストを維持するには、
大都市などの鉄道利用者が多くなければコストが多すぎて赤字だ
コストがかかりすぎて問題になるだけである。
ミッドチルダでは貨物列車は1編成では100両近い貨車を引っ張っていることは日常的だ
1度に大量の貨物を輸送するには当然ではあるが。
貨物列車のコンテナに違法な銃火器や麻薬などが積載されていないは常に貨物駅でチェックされている
監視は極めて厳重に行われている。今までも貨物列車に違法な物が積み込まれていることがあった
しかし時空管理局から各次元世界国政府に地上警察や国防権限が返還されて、
それからは大量の違法物資の輸送に利用されていることが分かっている
クラナガン捜査局はもちろんではあるが連邦行政機関の貨物コンテナの確認作業が進められている
お互い常に連携して確認作業をしているのは当たり前である

「市内の貨物ターミナルも忙しいだろうな。サイノスは頑張っているだろうがいろいろと大変なことは間違いない」

ジャスティの発言通り、サイノスは忙しく貨物ターミナルでかなり忙しく活動している
クラナガン市内からウエストミッドチルダ大陸にある州に向かって、
麻薬や銃火器などの違法物を運ばれるのは阻止しなければならない
元々クラナガン市には大規模港湾設備があるので他の大陸から違法物が、
ウエストミッドチルダ大陸にある各州に運ばれることは日常的に確認されている

「クラナガン市内の港や貨物ターミナルの積み荷確認を最優先で行わせることが必要だな」


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北区西部区域 ノースウエストクラナガン貨物ターミナル パトロール事務所

サイノスは貨物ターミナルでの貨物列車の貨物やコンテナのデータで確認していた
何か不審なものが含まれていないか。入念に調べ上げていた。どの貨物がどこに向かって積載物が何なのか。
そのほかに輸送依頼をしてきた企業や人物に犯罪組織などが絡んでいないか
何か引っかかるものがあればすぐに積み荷確認を最優先で実行させていた

『北分署からSA25。現在の状況はどうなっていますか?』

「こちらは現在ノースウエストクラナガン貨物ターミナルで貨物チェック作業を行っている。何か緊急の事案か?」

『そちらに向かってベルカ州から貨物列車が向かっている。積載物はウエストベルカ鉱脈で採掘された石炭』

ベルカ州には聖王教会が資源開発を禁じていたことから数多くの鉱物資源が眠っている
ベルカ州政府が成立して以降は環境破壊をしないことなどを条件に資源開発が容認された
今は数多くの鉱物資源開発が行われている。そのためベルカ州内ではある種のバブル経済並みの好景気だ
さらにベルカ州に移住をしてくる人々がかなりの人数になっている。
聖王教会が自治権を持っていた時と比較すると何十倍にまで州内に住んでいる人は増加
その結果電気・ガス・上下水道・通信設備などのライフラインへの公共投資も大幅に増加
道路や鉄道や空港などの公共工事もかなりの数になっている
つまり州内の経済は好景気どころかバブル経済の状況に近いくらいの状況である

「了解。念のため貨物列車の積載物が情報通りか確認をしたい。許可を求めるが?」

サイノスの質問にすでに市裁判所から承認を得ているとのことだ
つまり貨物列車の積載物の確認作業を行うことはできる。ただし短時間で行うようにとの指示だ
そんなことはわかっている。今はこの貨物ターミナルを出入りするすべての貨物チェックを実行している
何かに備えて対応するしかないのだ。不審な積み荷があればすぐに確認をしないといけない。
クラナガン市内に危険が持ち込まれる可能性は十分考えられる
最悪の事態を想定して行動することも重要である

「本当に面倒になりそうだね」

ベルカ州からここに入ってくる予定の貨物列車は50両の石炭が満載された貨車を引っ張っている
クラナガン市内にある火力発電所に向かうことになっている。
サウスクラナガン火力発電所で石炭を燃料とする発電所に向かうのだ

『連邦準備銀行は政策金利の引き上げを発表。ミッドチルダ連邦の景気の異常ともいえる過熱を抑えるためであると』

現在政策金利は7%。それをさらに1%を引き上げて8%にすることを決断した
あまりに景気過熱が大きな影響になることは確実だ。
1日で何度も政策金利を引き上げるのは通常ではありえない
今の国内経済の異常ともいえる景気過熱を抑え込むために政策金利の引き上げ、
それについて経済アナリストの多くは予想していた。通常なら0.25%ずつ引き上げる。
しかし今回は1度に1%も引き上げは予想していた者は少ない。
だがバブル経済になるのを阻止するにはこれしか方法がないことも確かなことである

『この発表を受けてクラナガン証券取引所では平均株価が大きく上昇。また通貨ミッドもミッド高の状況にあります』

『またミッドチルダ連邦政府の国債や州政府が発行している州債の金利に変動が始まりました』

連邦準備銀行が政策金利を上げれば、次に発行される国債や州債の金利が求められる
また住宅ローンの金利も変動金利なら動きを示すことになる
固定金利ならそれほど問題はない。しかし変動金利なら話は別になる
連邦準備銀行が政策金利を引き上げるとそれらの金利も引き上げないと債券を買ってくれない
ただし今のミッドチルダ連邦では連邦政府はもちろんだが、
国内のほとんどすべての州政府も債券などの発行は必要ない
それだけ好景気である証でもあるのだ。連邦政府は新たに国債の発行をするつもりでいる
ただしこれは国内の通貨供給量を引き下げるための一時的な対応である。
今後の国内の経済政策の影響次第はもっと強力な動きを見せることも必要になることは間違いない

『中央本部からSA25。そちらの貨物ターミナルの出入りする貨物列車の荷物はできる限り調べるように』

市内に持ち込まれることは認めるわけにはいかないし、持ち出されることも認めるわけにはいかない
何がなんでも違法な銃火器や麻薬関係の物を摘発しなければ危険である
この貨物ターミナルはベルカ州との間を結んでいる鉄道路線があるため、
ベルカ州内が発展すると連動するように貨物の出入りは大幅に増えた
ベルカ州からは石炭などの鉱物資源が入線してくる。
一方ではベルカ州に向かってベルカ州内で使われるさまざまな貨物などが運ばれている
クラナガン市とベルカ州をつながっている鉄道路線は単線の区間がほとんどである
今はその路線の複線化のための鉄道網の工事が進んでいるのだ
ベルカ州とクラナガン市を結んでいる鉄道路線はすでにギリギリの状況である
単線路線なのに1日の運行本数は連邦法で定められている安全規則水準を超える時も存在している
安全規則水準とは鉄道路線の保守管理の工事などの時間がしっかり行われているかなどが定められている
その安全規則水準の数値を超えると連邦法違反になってしまう

『ノースウエストクラナガン貨物管制からSA25へ。出入りする列車の安全確認を速やかに行うように』

今は最優先で貨物確認を行ってもかなりの時間が必要になる。
全て確認することは難しいことはサイノスはわかっているが、
トラブル発生を予測されるので何としても確認作業なければならない

「時間的余裕は全くないことはわかっているけど、任務を押し付けられるのはいつものことだね」

サイノスは捜査部捜査官として任務遂行を決められた時間までに行わなければならないことはわかっている
少しでもトラブルになりそうなことが確認されたら迅速な対応が求められてしまう

「こちらSA25。作業は迅速に行うけど、不審物発見時の対応に関しては時間が必要になる」

彼の言う通りだ。もし些細な事でも問題が発生したとんでもないことに発展する
クラナガン市内で犯罪が増加したり近隣州に違法な銃火器や麻薬が流通することにもなる
それを食い止めるためにサイノスは確認作業を迅速に行っている
クラナガン市から犯罪の道具にされるようなものが運ばれたら複雑な問題を生む事にもなるのだから
それを阻止するために誰もがこの貨物ターミナルで活動をしている

『クラナガン金融債権取引所では利上げの影響で取引される金額が大きく減少』

『これにより一部の金融機関で無担保コール翌日物を使った資金のやり取りに問題が出るとの指摘があります』

『連邦準備銀行は民間金融機関の無担保コール翌日物での取引が減少した場合に備えて、資金供給を行う方向で動くと』

無担保コール翌日物の取引で問題が生じれば国内の金融機関に影響が出る
もしコール市場の取引で問題が出ればどれほどの影響になるかは簡単に予想できる
被害を最小限にするためにも必要な場合には連邦準備銀行も取引に参加するしかない
しかしあくまでも一時的な措置であり、問題が生じれば状況は一気に変化する
例えば銀行間同士の取引で課した資金の返済ができなくなれば無担保コール翌日物の取引で大きな金融危機になる

『金融政策について連邦政府と協議を行うことを想定しているとのことです』

「ワンワールドグループの破綻でいろいろと困っているところは多いだろうね」

サイノスの言う通りだ。ワンワールドバンクが無担保コール翌日物で3兆ミッドの資金を調達していた
その資金の返済ができなくて一時的にトラブルになった時もあった
しかし今は証券取引委員会がワンワールドバンクの資産を押収。
全体の7割を回収してコール市場で返済をしていた
残りの3割ほどの無担保コール翌日物で借入していた資金は焦げ付くような事態になった
連邦準備銀行がその分の資金を供給した。実質的な公的資金の注入だ
もちろん連邦準備が注入した3兆ミッドの資金を可能な限り回収する。
方法はワンワールドバンクが抱えていたお金になりそうな債権の売却や1000万ミッド以上の預金を押収する
現在までに回収できたのは1兆7000万ミッド。さらに回収作業を行っている
注入した資金の全額回収は極めて難しい。ある程度は覚悟が必要になる

『ワンワールドバンクに預けられていた預金の内1000万ミッド以上の預金は保証されないことになります』

『ベルカ州商品取引所ではベルカ州産原油価格が1バレル8000ミッドに。今後の状況次第で大きく動きがあるでしょう』

『またマリネット州商品取引所の原油価格は現在は安定しています』

『しかしベルカ州とはパイプラインで接続されているので動きがあることは確実です』

ベルカ州の東隣にあるマリネット州には原油や天然ガスをパイプラインで供給している
マリネット州でも原油や天然ガスが豊富に埋蔵している
そのため資源開発が数多く行われて、マリネット州やクラナガン市などの近隣にも供給されている
今や原油や天然ガスは新たな金融商品として、各州に設置されている州商品取引所で売買されている

『一方でベルカ州西部地方で武装蜂起をしたテロ組織ですがインターネット上で声明を発表』

『ベルカ州政府を解体して自治領に戻すことを要求。さらに奪われた財産の返却を要求しています』

セントラルベルカバンクには数多くの聖王教会の財産があった
それらの大部分はセントラルベルカバンクの破綻に伴って1000万ミッド以上のものは返されなくなった
今後の動きがどうなるかはわからないが大きなものになることは確実である

『クラナガン市とマリネット州のパイプラインで原油と天然ガスが供給しているので不足することはないでしょう』

『ミーミルエネルギー社はもしもに備えて最大1日300万バレルの原油の供給を行うとしています』

クラナガン市とマリネット州の間には原油パイプラインだけでなく天然ガスもトラブル発生時には供給できる
州商品取引所で大きな値動きがあれば、資源価格の高騰で問題が出ないように対応している

「本当にベルカ州関係でのクーデター騒動が他の州に影響しなければ良いけど」

サイノスは常に危険予測をして調べていた。問題が1つでも発生すればどうなるかは想像したくない

『ベルカ州とクラナガン市を結んでいる鉄道路線ではほぼ全線での複線化工事が終了するという報道もあります』

『この報道を受けてベルカ州証券取引所で州内で資源開発をしている企業の株価は大きく急上昇』

主にサーストンペトロリアムとドッジエネルギーの株価が急上昇したのだ
業界最大手の企業の株式急上昇で多くの投資家は買い注文を入れていた
またベルカ州内での建設関係や交通関係の企業の株価も上昇していた
道路網の整備も大幅に進んでいる。州政府は大幅な公共工事を増加させて工事を行っている。
州内を基本の移動となる道路網は州政府の管轄になる。
それだけに公共工事の大幅な強化は建設会社は競争入札で参加している。その企業の数ははかなり多い
それらの公共事業に必要な費用は連邦政府が拠出してベルカ州政府と一緒に設立した金融機関、
ベルカ開発銀行から州内にある郡政府や市政府などに低金利で貸し付けを行っている
現在は2000兆ミッドを貸し付けている。ベルカ州政府はさらに必要になるとして州債を発行する用意に入っている
ただ連邦準備銀行が政策金利を引き上げているので発行する州債のお金をどれくらいかを協議している
政策金利が8%ということは州債を発行する場合は同一金利。もしくはさらに引き上げることが求められるのだ
金利が8%となるとかなり多くの利子を支払うことになるのだ。政策金利が上がるならそれは仕方がないことである

『クラナガン金融債権取引所ではベルカ州政府が発行すると想定される州債に買い注文が多く確認されました』

『ベルカ州内で発送電を行っているベルカパワー社は新たに2兆ミッドの社債発行に踏み切ることで調整しています』

『これはベルカ州内で新たな送電網の構築や燃料調達のために使用するという事です』

ベルカ州内の主な送電網はベルカパワー社が保有している。
最近では電力需要が大きく上昇したことで、送電網の拡充が必要になってきた
だからこそ社債を発行して資金を確保。ベルカ州内の送電網の拡充が必要になってきた

『ミーミルパワー社はベルカ州内の火力発電所に問題ないが、西部地方にある魔力精製炉発電所が機能停止中である』

実はその影響はあるところで起きていた。
ベルカ州商品取引所で原油や天然ガスなどのエネルギー資源価格の上昇だ
ミーミルパワー社が運営しているウエストベルカ魔力精製炉発電所の発電が行われていないということは、
別の発電所で電力を調達しなければならない。もし州内の他の魔力精製炉発電所が機能停止になることから、
火力発電所を停止している者を一時的に稼働させることで足りない電力を調達しなければならない
そのために火力発電所で使用される石油系燃料や石炭の価格が上昇する

『この影響でミーミルパワー社の顧客への電力供給を一時的な措置でベルカパワー社の発電設備を借りています』

ベルカ州西部地方にあるウエストベルカ魔力精製炉発電所の2か所の発電所はAMFの影響で機能停止中だ。
そこには20基の魔力精製炉があり、最大で1億2000万KWもある
ミーミルパワー社が保有する発電所の中でもかなり発電能力が高く、
基本的にはベルカ州内の送電網はベルカパワー社の所有物なので、
発電所運営を専門にしている電力会社はベルカパワー社の送電網を利用している
もちろんいくつかの電力会社がお金を出資して、ベルカパワー社に頼らない送電網の整備を行っている
最も多くの出資をしたのはミーミルパワー社だ。
発電専門とする電力会社が出資した中で4割ほどをミーミルパワー社が出資していた
これによりベルカパワー社の送電網が7割に対して発電専門会社が独自に整備した送電網が3割になっている
電力供給契約をした時にベルカパワー社と単独契約をする事もあれば、
発電専門電力会社と契約している所は発電専門電力会社との単独契約ではない
発電専門電力会社と契約を結ぶときにはベルカパワー社とも電力供給契約をする
発電専門に行っている電力会社だけとの契約では万が一、その電力会社が保有している発電所の電力出力が停止した時、
電力の安定供給を受けることができないからだ。電気代は主契約は発電専門会社の電力会社に支払う。
もちろん発電専門電力会社から請求される電気代は安いことはあり、金額は少ないこともある
しかしその電力会社が発電できないときにはベルカパワー社からも電気代の請求も受ける
この時の電気代は高い場合があるため、契約時にしっかりと確認しなければ支払う電気代が高いことがある

「ベルカ州に関連するトラブルはどこまで増えることになるかは想像できないよ」

サイノスはここを出入りする貨物列車を入念に調べ上げていった
鉄道会社に提出している貨物列車の積み荷記録を入念に。するとある1つのコンテナに不審さを感じた
そのコンテナはクラナガン市のある工場からベルカ州南部地方に向かって運ばれる予定になっていた
記録では積み荷は機械部品とされていた。さらに確認したところある企業が送り出したものだった
その企業というのはクラナガン市東区に工場を持っている。製造しているのは自動車製造工場で使われる部品。

「ベルカ州に今度新規開設予定のダグラスモーターズの工場で使われる部品か」

サイノスは念のためコンテナの中身を確認しようと裁判所に令状を手配した
令状請求にそれほど時間は必要なかった。不審な貨物などを調べるのは連邦法で合法とされている
特にコンテナにはいろいろなものが入っていることは日常的なことだ。
市内にある多くの貨物ターミナルではパトロール事務所があるので不審な貨物などが確認されたら確認作業を行っている
リスクを少しでもなくすためには当然なのだ。
今までにコンテナなどの貨物の調査経験があるなら誰もがわかっている
実際に麻薬や銃火器などが満載されているケースや人身売買のために、コンテナ内に密航者がいたこともある
だからこそ貨物の確認作業は極めて重要なのだ

「今のクラナガン市は破裂する直前のポップコーンだね」

『中央本部から各員へ。ベルカ州で大きなトラブルが発生する方向に進んでいる』

中央本部はベルカ州で発生しているクーデター騒動の影響が波及してくるかの危機管理を行えとも通達があった
当然と言えばそうかもしれないが。ベルカ州で聖王教会の過激派が動いているのだ
こちらにどんな騒動が持ち込まれるかは全く予測することは難しい
仮に何か情報を察知したら速やかに関係する部署や組織などに情報提供しなければならない
被害を最小限にすることが求められるのだから当然と言えばそうかもしれない

『港湾本部から各員へ。現在ベルカ州西部地方に向かって港湾パトロール海兵隊が向かっている』

『さらに反政府活動を行う際にそれを陽動として利用される可能性もある。少しでもリスクがあるようなら報告せよ』

『北分署からSA25。警戒活動を実施しながら貨物確認作業は迅速に行え。遅延は最小限にするように』

サイノスはその連絡に迷惑な話だと感じてしまった。無理なことを要求されるのはいつものことだ
対応するこちらの状況など関知しないで任務を優先して対応することを過去にも何度も受けている
だがそれはすべてクラナガン市と近隣州の安全を守るためである。
こればかりは苦情を言ったところで意味は全くない

『クラナガン捜査局から全局員へ。緊急行動指令を発令する。弾道ミサイルによる攻撃準備指令の待機命令を出す』

港湾パトロール艦隊が保有して運用している潜水艦、
17000t級魔力精製炉型潜水艦[ 形式:オハイオ級原子力潜水艦 ]にいつでも攻撃できるようにするためのものだ
中距離弾道ミサイル攻撃が出せるのは連邦大統領だけである。
しかし命令を受けたらいつでも弾道ミサイル発射ができるようにすることは重要だ

「本当に弾道ミサイルが発射されるかもしれないね。もし発射が承認されたら最悪の展開になるかも」

『SA01からSA25。応答を』

シエル首席捜査官からの無線だった。サイノスはすぐに応答した。
何か緊急の無線内容かもしれない。捜査部のトップであるシエルから直通無線となるならなおさらである

「こちらSA25。何か問題でも発生しましたか?」

『10分後にそこからベルカ州南部地方に軽油を満載した貨物列車が入線する。待機時間は10分。待機理由は時間調整』

時間調整というのは簡単に言えば単線区間で正面衝突が起きないように運航に必要な路線の確保のことだ
この時間調整を取ることで単線区間でも事故防止のために運用されている。
単線区間がある鉄道路線では珍しいことではない。頻繁にあるのだ
何度も言うがクラナガン市とベルカ州を結んでいる鉄道路線はまだ完全な複線化工事が完了していない
だからこそ待機できる場所で線路が安全になるまで待つ必要があるのだ

『入線後に貨物チェックを行うように。貨物列車は自動車燃料を満載したタンク貨車が60両連結されている』

つまり爆発する可能性があるかもしれないということをシエルは警戒しているのだ
確かにそこに興味を引くのは当然のことかもしれない。もしかしたら新たな問題発生するかもしれない
クラナガン市とベルカ州を結んでいる鉄道路線にタンク車に爆弾が取り付けられている可能性があるからだ
この路線は今は最も重要な鉄道路線であることはしっかりと理解している
だから反政府活動をしているテロリストもこの路線の重要性を十分に理解している
この路線を破壊すればベルカ州とクラナガン市を直接結んでいる鉄道路線はない
仮に破壊されたならクラナガン市の北隣のマリネット州を経由してベルカ州に行く。
もしくはクラナガン市の西隣にあるフローレンス州を経由してベルカ州に向かう
結論から言うとどちらの路線を使っても時間が通常の倍以上かかってしまう。
これらの経路をたどってベルカ州に行くには運行ダイヤの管理も大変である
輸送コストも大きく値上がりすることで商品価格の上昇にも影響してくる
ベルカ州は今は好景気だがもし物流の流れが一時的とはいえストップすると州内の経済的影響は大きい
そういったことを起こさないために、この貨物ターミナルで行っている作業は極めて重要なのだ

「了解。自動車燃料を運送している貨物列車の確認作業を行います。何か追加で情報があれば連絡を要請します」

『わかっているわ。サイノスも警戒するのよ。もしタンク貨車に爆弾が設置されたら想像できないこともあるから』

誰もが予測している。爆弾が設置されていたら被害の規模はどれくらいに拡大するかはあまり想像はしたくない
この貨物ターミナルに入線してくる貨物列車が運んでいる自動車燃料のタンク貨車の確認は重要である
ベルカ州でも石油・天然ガス・石炭などのさまざまなエネルギー資源だけでなく、
レアメタルなどさまざまな鉱物資源が眠っている。資源開発でベルカ州内で動いている資源開発会社は多い
ちなみにそういった鉱物資源の開発を行う場合は州政府が定めている資源開発をすることができる鉱区の購入、
その他にも資源開発を行う時は開発前にあった自然環境の配慮が義務付けられている
その条件が満たすことができて初めて鉱物資源開発に必要な鉱区の購入を州政府に申請できる
正規の手順を守らずに違法な資源開発を行った企業には厳しい罰則が待っているのだ

「ですがなぜクラナガン市からベルカ州に自動車燃料を運ぶ必要があるのですか?」

ベルカ州にも数多くの場所で豊富な石油埋蔵が確認されている
今は数多くのエネルギー資源開発企業が採掘を行われている
そして石油化学コンビナートも数多く設置されている。
わざわざクラナガン市から燃料を運ぶ必要などないはずだ
ある意味では無駄な行為であるということは間違いない

『それにしては今は確認しているからわからないけど、ベルカ州商品取引所で原油価格が上昇したかもしれないわね』

ベルカ州商品取引所で原油価格が上昇したから比較して安いクラナガン商品取引所の原油価格を買い付けた可能性はある
大幅に原油価格が商品取引所で上昇したら他の州商品取引所から調達
可能性としてはかなり高い。ベルカ州には大規模石油コンビナートがある工業地域が3か所存在している
ベルカ州北部地方のノースベルカ工業地域。西部地方にはウエストベルカ工業地域。
東部地方にイーストベルカ工業地域。石油化学コンビナートがあるため、自動車燃料を州外から持ち込む必要はない
ただしベルカ州商品取引所での原油価格が急激な上昇がなければの話だ
今はある意味では原油先物価格が上昇したことと並行して様々な石油製品の取引価格も上昇している
州内での先物価格が急上昇すれば州外の安い物を買うことは当たり前だ

「了解です。できるだけ短時間で対応を行い貨物列車を出発させます」

サイノスはそういうとシエルとの無線交信を終えた。あとの問題はこちらだ
今後の対応方法次第ではベルカ州に与える影響は大きくなる。素早い対応が求められることもわかっている
それだけに最も重要な確認作業が必要であることも同時に把握した

「本当に忙しい。さらに貨物列車入線が6編成。ここを通過する貨物列車は12編成。少し多すぎるような気はするけど」

『ノースウエストクラナガン貨物管制から各員へ。まもなくベルカ州行の自動車燃料を積載した貨物列車が入線する』

「こちらSA25。ノースウエストクラナガン貨物管制へ。不審物がないかを確認するため10分ほどの時間を求めます」

『クラナガン捜査局から指示に従うようと連絡を受けています。ただし時間は10分以内で行ってください』

「速やかに確認作業を行い、列車運行への影響を最小限にする」

迅速に行うことが求められることはサイノスは十分なほどに分かっている
時間的なタイムリミットを考えるとなおさら。素早い任務遂行は捜査部捜査官としていつも心掛けている
時間がかかりすぎればすぎるほど解決するのが難しくなるからだ
事件や事故の証言はそれが発生してから3日以内にあらゆる情報を集めなければ記憶から抹消してしまう
こればかりは仕方がない。人間は完全に記憶できるのはそれくらいが限界だ
忙しい人間ならさらに記憶していれる時間は短くなってしまう
記憶が新鮮なうちに証人から証言を得ることはかなり重要なのだ

「ノースウエストクラナガン貨物にいる各員へ。入線する自動車燃料タンクを連結している貨物列車の貨物チェックを」

サイノスはそのように命令した素早い対応をしなければならないことはわかっている
鉄道運行ダイヤに影響が出たりすれば大変なのだ

『ミーミルレールウェイはクラナガン市とベルカ州を結んでいる鉄道路線の複線化が完了するのは来月の予定でした』

『しかし早期複線化の開通をクラナガン市とベルカ州政府に要請を受けたことで作業ペースを速めると発表』

つまりはクラナガン市とベルカ州を結んでいる鉄道路線で許容範囲を超える状況をを危惧しているためだ
実際に運行本数はかなり頻繁でいつ事故を起こすかという状況なのは専門家でなくても把握している
すでに1日の安全運行範囲本数の制限値を超える日もあるから
だからこそ複線化事業や待機区間の信号場も数多く設置されている
事故を起こすわけにはいかない理由で最も重要なのは事故を起こさないためだ。
もし鉄道事故を起こすと事故の原因や改善策がしっかりされない限り、その鉄道路線を使っての鉄道運行は禁止される
連邦運輸安全委員会が事故に対する問題改善が行われているか綿密に行われる
仮に鉄道事故や航空機事故が発生した場合は最低でも1週間の運行は許可されることはない
だからこそ運輸企業は安全運行に関する予算を用意して事故対策のためにあらゆる方策で整備しなければならない

「今回の問題でベルカ州に入る貨物列車はもちろんだけど、ベルカ州から州外に出る貨物列車も警戒しないと」

サイノスは貨物列車のコンテナに何が積み込まれているか調べるのはかなりの時間と人員が必要になると感じた
だが彼の予感は当たっている。今は何が起きるか全く想像できない。
もしかしたら貨物列車内に大量の違法物資が積み込まれているかもしれない
銃火器や麻薬などはもちろんだが、人身売買の被害者なども存在しているかもしれないのだ
そんなものを国内で流通されるわけにはいかない

『今日はクラナガン市とベルカ州を直接結んでいる原油と天然ガスのパイプラインの正式運用が開始』

このパイプラインはエネルギー資源開発企業で最大手のミーミルグループのミーミルエネルギーが整備したものだ
この事業で円滑な原油と天然ガスの輸送が可能になることは確実である

『これによりクラナガン市とベルカ州を直接パイプラインで接続されてエネルギー資源の円滑な輸送が行われます』

今までクラナガン市とベルカ州を直接接続されていた原油、もしくは天然ガスパイプラインはなかった
どこかほかの州を経由しての供給は行われていた

『またクラナガン市とベルカ州を結んでいる超高圧送電設備の運用も正式に開始されます』

超高圧送電設備はミーミルグループ企業傘下のミーミルパワー社が整備して運用も行っている
これはベルカ州への電力供給やベルカ州から電力の供給など、
クラナガン市とベルカ州の間の電力流通のために使われる
今は正式運用が発表されて大急ぎで正式運用を開始したのだ
もし少しでも遅れていたらベルカ州内でブラックアウト、つまり大規模停電になっていたかもしれない
それを防いだというところから見ても今回の緊急対応に問題はなかったとも言える
ミーミルグループは現在ベルカ州で様々な事業を展開している
資源開発から上下水道の整備まで。州政府や郡政府などの公共事業の競争入札にそれなりの担当している
もちろん他の企業が競争入札で勝ち取って事業展開しているところもある

『パイプライン施設と送電ラインの運用開始で今後のベルカ州での商品取引所の影響は大きくなるでしょう』

ベルカ州から近隣州への原油や天然ガスのパイプライン輸送にはベルカ州から南隣と東隣の州だけだった
クラナガン市への直接供給ルートの確保でベルカ州商品取引所や近隣州の州商品取引所の取引に大きな影響がでる
ベルカ州から他州にパイプラインで原油と天然ガスは直接接続されているのはベルカ州の東隣にあるマリネット州。
南隣にあるフローレンス州だけだった。新たに整備されたクラナガン市への直接供給するためのパイプライン
これによりベルカ州で産出された原油や天然ガスの供給ルートの整備で大きく動くことになる

『このパイプラインの運用開始の発表直後、クラナガン商品取引所とベルカ州商品取引所の原油先物価格が大きく下落』

『一部の経済専門家は当面は値上がり基調の原油先物価格は大きく値下がる方向で動くと見られていると』

『クラナガン市政府とクラナガン市上下院議会は市債を5000兆ミッドを発行する方向で動くと』

5000兆ミッドの市債を発行する理由は市内中心部から離れた郊外の地区整備を行うため、
その公共工事の資金を確保するためだ。クラナガン市の郊外には未整備のクラナガン市政府が保有不動産は多くある
今はクラナガン市内はある意味では不動産バブルのような状況になっている。
ちなみに都市設計はクラナガン市政府のクラナガン都市開発庁が担当している
電気・ガス・上下水道・通信回線を地下共同溝を建設してそこから各種ライフラインの建設が行われる
乱雑に各種ライフラインの整備が起こさせないためにも共同溝にライフライン全てを設置する方が管理が行いやすい
ちなみに建物の建設許可を出すのはクラナガン市政府と市上下院議会の管轄だ。
クラナガン市政府とクラナガン市上下院議会が許可しない限りは認められない
これは不動産バブルを抑え込むためである。サイノスがいる北区の郊外にも未開発地区が存在している
貨物列車を使ってそこで使われる多種多様な建設資材の輸送が行われている

『東区のセントラルクラナガン貨物ターミナルから木材などの建設に必要な材料が積み込まれた貨物列車の出発を確認』

それらの貨物列車には建物で使用される建設木材やコンクリート材料が大量に満載されているとのことだ
その建設資材は北区郊外の建設現場で使われることになっている。貨物列車は40両ほどのコンテナ貨車で編成。
到着にはしばらく時間が必要だ。だがここに到着するとトレーラー車両にコンテナを積み替えて、
建設会社や建設現場に運ばれることになっている。建物の建設などで必要な物資であり重要なものである
クラナガン都市開発庁はまずは郊外のまだ未開発地域が残っている場所に道路網や地下共同溝の建設を行っている
不動産開発会社が都市開発を行うのは道路網と地下共同溝の建設などがすべて終了してからだ
そうしなければ何かトラブルが発生した時に早期解決するは難しくなるだけである
クラナガン市政府は都市開発のために資金が必要であったことから市債の発行をする方向で動いていた
クラナガン市政府はかなりの金額にもなる資金を確保している。新規で市債などを発行する必要性はない
発行の方向で議論が進んでいるのはバブル経済になることを抑制するために必要があるかもと考えたからだ
問題があるとすれば市債を発行した時の金利である。今日だけで連邦準備銀行はかなりの利上げを行った
つまり市債を発行する時は政策金利を採用しなければ、
買い注文を入れる金融機関がいないかもしれないという事態になる

『金融関係の分析会社は最低でも連邦準備銀行の政策金利をつけるしかないことから難しい判断になると評価を』

『ただし新しい資金運用先として利用することは十分に考えられるとの評価をつける専門家もいます』

ワンワールドグループの企業が発行していた株式や債券などで資金運用をしていた投資家や資産運用会社。
それらの投資関係企業は新しい資産運用先を探していることは事実だ
国債や市債などの政府機関が発行した債券なら比較的に安定しているともいえる
ワンワールドグループの株式や社債よりかはかなり安全であることははっきりしている

『この報道が流されたすぐにクラナガン商品取引所ではクラナガン原油先物価格が大きく下落』

『ベルカ州から原油が直通ルートを通して供給されることが大きな要因であることは間違いないようです』

「本当にベルカ州の問題は厄介だね。ベルカ州にも数多くの石油化学コンビナートがあるのに」

サイノスの言う通りだ。
ベルカ州商品取引所の原油先物価格が上昇したからだとしても、
クラナガン市から石油製品を購入するのは輸送コストの方が高いはずだ
それでもクラナガン市で石油製品を購入して貨物列車で調達するのはコストがかかるだけだ
石油製品調達コストなどの効率を考えた時にはあまりにも無駄な方法であることは事実である
ベルカ州商品取引所の取引価格よりもクラナガン商品取引所の価格の方が安いなら、
そちらを買い付けるのは当たり前のことである。
その量が多くなればなるほどクラナガン商品取引所の石油製品の先物価格も上昇していく
それが需給バランスというものなのだから仕方がないことである。
次第にベルカ州商品取引所で取引されている石油製品先物価格と似たような価格になれば、
クラナガン商品取引所への買い注文は減少する。まさに需給バランスの調整が機能していく

「現場の苦労を考えてほしいね」


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港湾パトロール本部基地の沖合800km リッチモンド島南部区域 リッチモンド基地 基地管制センター

「こちらリッチモンド基地管制。クラナガンエアライン347便へ。針路変更を指示する」

リッチモンド基地管制の管制官は民間航空機に対して現在の飛行コースから一時的に外れるように命令を出した
クラナガンエアライン347便がこの後通過するコースでは危険な予兆があることを考えての判断だ
こちらがもし対空ミサイルで攻撃した場合に巻き込まれないようにするための措置である
もし民間航空機を撃墜したなどが起きればとんでもないことになる
そんな事態を避けるためにも一時的に着陸させるか。あるいは飛行コースの変更が求められるのだ
クラナガンエアライン347便はミーミルエアクラフト社が製造している大型旅客航空機である
ミーミルエアクラフト747-8[ 形式:ボーイング-747-8の同型機 ]で大型旅客航空機である

『クラナガンエアライン347便からリッチモンド基地管制へ。針路変更を行うので航空管制を要請』

「針路80度に取り、高度1万mまで上昇せよ。リッチモンド基地管制区域を出るまではこちらが航空管制を行う」

リッチモンド基地の敷地の中心部から半径30kmは民間航空機の航行は禁止されている。
さらに半径60km、高度8000mまでは、リッチモンド基地レーダー管制センターが航空管制を担当
つまりリッチモンド島にある民間航空機の航空管制の大部分はリッチモンド基地が行っている
リッチモンド島にあるすべての空港には港湾パトロール飛行隊の隊員が派遣されている
何か問題が出た時もすぐに航空管制に関して情報共有をするためだ
民間航空機の管制よりも軍事関係の航空管制が優先される。
リッチモンド島と周辺空域に問題が起きた時はすみやかに航空管制はリッチモンド基地管制に移行する

『クラナガンエアライン347便からリッチモンド基地管制へ。そちらの航空管制下で行動を開始する』

クラナガンエアライン347便はリッチモンド島の北部にあるノースリッチモンド空港に針路を向けた

「クラナガンエアライン347便へ。ノースリッチモンド空港に着陸してこちらが許可するまで待機を」

現在はリッチモンド島のほとんど全域の航空管制をリッチモンド基地管制センターが行っている
ちなみに航空管制だけでなく船舶関係の船舶管制も行っている
リッチモンド島を入出港するすべての船舶管制とリッチモンド島の周辺海域の船舶管制も行っている

「こちらリッチモンド基地管制。リッチモンド島の港を利用した入出港は認めない」

つまり、リッチモンド島の付近の海域に関する船舶航行すら認めないという事でもある
もし入港予定の貨物船に関しては島から一定の距離を保つ形で停泊させることを指示することにした
安全を守ることはリッチモンド基地があるからであることを証明するためになる

「リッチモンド基地から航空機と船舶に通達。当面の間はリッチモンド島への船舶と航空機の出入りをすべて禁止」

リッチモンド基地統合軍司令官のスカール・ホルト大将が指示した
この島の安全保障の脅威対象の出入りをすべて停止することが重要であることを司令官はよく理解していた

『クラナガン市政府は市政府が株式すべてを保有しているクラナガンシティエネルギーの原油備蓄が可能と発表』

クラナガンシティエネルギー社はクラナガン市政府がすべて出資して始めた企業だ
企業の目的は原油や天然ガスや石炭などのエネルギー資源価格の急激な変動を少しでも緩和するためのものだ
高騰時には備蓄物を放出。価格が暴落時には安値で買い注文を入れる。
こうすることでエネルギー資源の安定供給をしている。

『クラナガン金融債権取引所でクラナガン市政府が発行するクラナガン市債に多くの買い注文があるようです』

『またベルカ州政府が発行する予定のベルカ州際にも多くの買い注文があるようです』

それらの安全性の高い債券価格は大きく下落基調にあった。
債券価格というのは金利と逆相関にある。金利が上昇すれば債券価格は下落
逆に金利が下がれば債券価格は上昇する。ミッドチルダ連邦の国内景気は極めて良好だ
だからこそ債券価格は大きく下落することは間違いない。ただしこの流れは『正規の債券』であればの話だ
時空管理局債や聖王教会債の場合も同じような影響になるかと言えばそうはいかない
2つの債権は紙くず同然の価格になっている。またワンワールドグループの企業が発行している社債も例外だ
これら3つの債権は紙くず同然の状況にある。確実に投資をして利益が出ると思っている市場関係者はいない
むしろリスクが大きすぎて投資をしても、それに似合うだけの利益が出る保証はほとんどないのだから

『ミッドチルダ連邦準備銀行は金融引き締め政策をさらに継続すると発表しています』

『今日だけでも政策金利が大幅に上昇した影響は大きく出ています』

『銀行などの金融機関は融資時の利息が高まることから金融機関の融資は厳しくなると思われます』

『今後の金融機関の動きによっては大きな影響が出ることは間違いないです』

『ベルカ州債が発行された場合には州債取引価格への影響は間違いなく出るでしょう』

ベルカ州政府が発行予定のベルカ州債は今の見積もりで60兆ミッドのベルカ州債を発行する予定である
ベルカ州内のさまざまな予算を捻出するためにはかなりの資金は必要なのだ
だが今のベルカ州政府には予算を厳しく見極めている。
今のベルカ州政府財政状況では州内の電気ガス水道などのライフライン整備にかなりの資金が必要だ。
それをすべて捻出するにはかなりの苦労が必要になる。
必要な資金確保のために借金というのはわかっているが州債を発行するのだ

『ベルカ州政府は50兆ミッド規模の州債を発行するとしていますが』

ベルカ州政府が本当に州債を発行するとそちらに流れる資金はかなり多くなるだろう
時空管理局債やワンワールドグループの企業が発行していた株式や社債が暴落して、
新しい運用先としてベルカ州政府が発行予定のベルカ州債に買い注文が殺到するかもしれない

『ベルカ州政府財務省は今後の州内の経済規模に適用する範囲で州債の発行を行うとしています』

『クラナガン市本土の沖合にあるリッチモンド島で航空機と船舶の出入りを港湾パトロールが制限すると発表』

すでにリッチモンド基地が動いていることについて報道がされていた
港湾パトロール本部が情報提供することでクラナガン市民はもちろんだが、
近隣州の人々も安心できるように開示できる情報は公表するのは当たり前である

『聖王教会は自身が発行した聖王教会債の9割を回収したことを確認しました』

1京ミッドの内、9000兆ミッドを買い入れたことは聖王教会は、
あることを恐れているから必死であることを意味していた
それはつまり聖王教会が保有する財産を差し押さえられることを恐れているのだ
だからこそ何としても聖王教会債の回収を最優先課題にした
聖王教会の財産を差し押さえを避けるためには聖王教会債の回収が必要であったのだ
もし少しでも金融市場で聖王教会債が残った場合には聖王教会財産の差し押さえが行われる
それを避けるには金融市場にある聖王教会債を回収するしかないのだ
仕方がないことだ。聖王教会も自らが保有している財産を差し押さえの影響を受けることを、
そういう事態になることを避けるために最優先で取り組んだはずだ
もし財産が差し押さえられたら聖王教会の今後の行動に大きな影響が出ることは確実だ
聖王教会の幹部は誰もが影響する範囲があまりにも大きすぎることはわかっている

『ベルカ州政府が現在発行しているベルカ州際にかなりの買い注文が入っています』

『新しい投資先として州政府が発行する州債やミッドチルダ連邦政府が発行する国債にもかなりの買い注文があります』

『時空管理局債や聖王教会債。ワンワールドグループ企業の株式や社債から安全運用できる債券に買い注文が殺到』

ベルカ州政府が発行する予定の州債だけでなく、
ミッドチルダ連邦政府が発行する国債の予定の300兆ミッドの国際にもかなりの買い注文が入っている
今後どのような動きがあるかは想定するのはかなり難しい。
格付け企業が決めているミッドチルダ連邦政府国債とベルカ州債の金融商品債の格付けは最上級の『AAA』だ
これは事実上の必ず安全というランクであることを示している

『ミーミルパワー社はクラナガン市とベルカ州がつながり、緊急時には電力融通を行うための送電の運用を始めたと発表』

『クラナガン市側からベルカ州に対して最大8000万KWの電力を送電していると』

クラナガン市とベルカ州を直通して設置された送電設備は4月に運用開始されたばかりの高圧送電網だ
今後のことを考えて、さらに送電設備の増強を行う予定でいる
クラナガン市とベルカ州の間の送電網の最大送電出力は現在1億6000万KWになっている
現在は大部分の設備設置は終わっている。
それも運用が開始するとクラナガン市とベルカ州への送電設備を3億2000万KWになる

『またフローレンス州とベルカ州を結んでいる送電設備を拡充。これにより1億6000万KWも増強になるようです』

ベルカ州内にある発電所がすべて停止した場合は近隣州政府から緊急の送電が行われる
州内の完全ブラックアウトを避けるために最大限の動きをすることになっている
ベルカ州が聖王教会が自治権を持っていた時は電力や通信ケーブルは充実していなかった
だからこそ聖王教会の自治権から新たにベルカ州政府が発足すると膨大な数と金額の公共工事が行われている
その公共工事はすべて競争入札で行われている。
州内では毎日何百件もの電気・ガス・水道・通信回線の設置工事が行われている
公共工事の数があまりにも多いので州内では数多くの労働者が仕事をしている
しかもライフラインの建設は州内の産業発展のためには重要なライフラインである
それだけにベルカ州政府や州内にある市や比較的小規模な町であっても工事が行われている
リッチモンド基地には直接関係があるわけではないのだが、軍事指揮系統の運用のためにはあらゆる情報を把握する
軍事部隊の指揮命令系統の把握と国内政治や国際政治情報を把握することでなければならない

『ベルカ州内の電力供給は一部地域で停電している状況にあるとベルカ州政府が発表』

『停電はベルカ州西部地方に限定されていると。州内の他の地方では通常通りの電力供給が行われています』

「ベルカ州警察は大変ね。警察だけの物量だけでは対応できないことは間違いない」

反政府活動をしているのだ。つまりかなりの武装をしていることは間違いない
それの対応するのに警察でカバーすることはできないことは確かなことである

『ベルカ州政府は連邦政府と協議を行い、港湾パトロールの軍事部隊と連邦軍が派遣されています』

『今後、どのようなことになるかは全く想像することは難しいでしょう』

リッチモンド基地統合軍司令官のスカール・ホルト大将は今後の動きがどうなるかは全く想像することはできない
もしかしたらベルカ州西部地方での聖王教会過激派とみられる構成員は何を仕掛けてくるか
予想ができないこと、それは極めて危険なことになることが考えられるということである
できれば何事もなければ良いのだが。現実はそんなに簡単に片付くことではない
最大級の警戒態勢と戦闘部隊の派遣が必要になる

『港湾本部から各員へ。ベルカ州でのクーデター事案だが、州の別の地方や他の州でも起きる可能性がある』

つまりこれ以上のトラブル発生は何としても防げと言いたいのだろう
そんなことは国家安全保障を理解している者なら誰もがわかっている
同じようなトラブルを他の場所で起こされたら事態の収拾が難しくなってくる
クラナガン捜査局がすでに対処のために動いているのに飛び火して被害が拡大したら評判に傷がつく

「本当にクーデターなんて起こしても今更何も戻ることはないのに」

聖王教会の組織そのものに不信感を感じていることは誰もがわかっている
彼らは自らの現在のベルカ州内で自治権を持っていた時にはさまざまな犯罪に関与していた
もちろん常に頑張っていた者もいたが、腐敗した幹部がかなりいたことは事実である


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部3係主任捜査官執務室

ウルはある情報を確認していた。

『ベルカ州商品取引所ではベルカ原油取引価格が大きく上昇。1バレル9800ミッドまで上昇』

『一方でワンワールドグループ企業がすべて破産申請をした影響は極めて深刻です』

ミッドチルダ連邦はもちろんだが、次元世界連合の全加盟次元世界国の金融市場でもかなり大きな値動きをしている
1つの国で対処できるレベルではない。ワンワールドグループ企業はさまざまな次元世界国で活動していたからだ
次元世界連合全加盟国では対処法について様々な議論が行われている
また各次元世界国の金融市場にもかなりの影響が出ている。それについても議論をしなければならないとされている
あまりにも大きすぎる企業だからこその問題であることは間違いない
だが救済を行えばかなりの金額のお金が必要になる。そんなことを各次元世界国の国民が容認するはずがない
ワンワールドグループの銀行や証券会社や投資ファンド。
さらに保険会社が運用していた財産はすべて差し押さえられている。
元々企業が倒産した時にはそれらの企業が保有するすべての財産は凍結される
これはどの次元世界国でも共通しているルールだ。
ただしワンワールドグループが大きすぎるので対応はかなり難しい
グローバル企業として数多くの次元世界国で活動しているのだ
もし企業が比較的小規模ならまだ何とかなったかもしれないが現実はそれほど甘くなかった
次元世界連合の経済社会理事会で今後の対応について議論している
多くの次元世界連合に加盟国での金融市場に与える影響は極めて大きい
後始末をするにも様々な利害関係が絡んでいるだけに簡単な破産処理というわけにはいかない
今後の議論次第ではどのような方向に向かうかは全く予想できない

『ワンワールドグループ企業が抱えていた様々な企業の株式や社債を少しずつ売却することで、不良債権処理に充てる』

『ワンワールドバンクやワンワールドファンドが所有している多くの企業の株式や社債の正確な数字を割り出すと』

つまり、ワンワールドグループ企業が抱えているあらゆる金融商品の売却に集中していくのだ
不良債権を少しでも減らすためには必要である。不良債権の総額だけでもかなりの数字になる
膨大な焦げ付いた負債を抱え続けると国際経済に大きな影響が出てしまう
それを最小限にするためにはたとえどんな強引な方法であろうと選択を迫られる

「本当に迷惑ばかりを押し付けてくれるね。ワンワールドグループ企業は」

すでにすべての次元世界国に破産申請をしている。
どのような展開になるかは全く想像することができないのは事実である
グローバル企業の最大の難点は破産をした場合に管轄する国が大きいことだ
ワンワールドグループ企業は次元世界連合全加盟国で企業活動をしていたので影響は極めて膨大になる

「彼らが時空管理局とかなり密接した関係にあったことから影響はどうなるか」

全てが決着するには数年という長い時間が必要になることは間違いない
もしかしたら長期間になるかもしれないことから各次元世界国政府は対応に苦慮することは間違いない

『ミーミルパワー社はクラナガン市とベルカ州を結んでいる送電設備を利用して電力供給を開始』

『仮にベルカ州内で西部地方の発電所だけでなく、他の地方でも発電が止まった場合を想定して電力融通を行うと』

確かにその通りだ。今はベルカ州西部地方にある魔力精製炉発電所が機能停止
その他にも送電網が切断されているため、通常なら州内の他の発電所から発電された電力供給するだけなのだが。
西部地方につながっている変電所が機能停止の状況であることから送電そのものもベルカ州西部地方にできない
今は携帯電話などの無線通信基地局はバッテリー機能で正常に作動している
しかしいつまでもバッテリーで機能することはあり得ない。
バッテリーで蓄電されている電力もなくなれば無線や有線通信網にも影響が出る

『ベルカ州西部地方では有線通信回線はすでに機能停止。無線中継基地局はバッテリーで稼働していますが』

それもいつまで持つか全く見通しが立たない状況にあるとマスコミは報道していた
もしこのまま事態が悪化し続けると影響はかなりひどくなるのは間違いない
何とかして問題解決のための方法を見つけるしかないのだ。

「クラナガン市にも何か影響が出るかもしれないね。聖王教会や時空管理局関係となると余計に」

ウルは最悪のことになることを想定していた。
つまりクーデター騒動がベルカ州だけでなくクラナガン市にも出てしまうことだ
そんなことは避けなければならない。トラブルが発生したらすぐに国際問題になる
それはあまりに危険すぎる行動になってしまう。問題解決にはさまざまな手段が必要になってくる
すでに市内では銀行で立てこもり事案が発生している。ほかに飛び火することは十分にあり得る話だ

『中央本部から各員へ。クラナガン市内の電力供給は現段階では問題なし。ただし停電事案を確認すれば報告を』

「今は何が起きるか本当にわからないね」

クラナガン市内の電力供給は今のところは問題ない。
しかし市内にある魔力精製炉発電所では発電ができないところもある。
つまり電力供給に問題が出るかもしれないことは誰の目から見ても明らかだ

『フローレンス州東部地方で雨雲が発生している。事件事故捜査は迅速に行え』

雨の影響で証拠品が流れることを避けるために雨が降っているときは素早い対応が必要になってくる
証拠品が雨の影響で流されたり証拠能力として使えなくなるからだ
だからこそ証拠品確保のために素早い対応が必要になってくる
ウルは気象レーダー情報を確認するとクラナガン市の方向に向かっている
途中で雨雲が消えたとしても上流側になるフローレンス州東部地方で降った雨水が河川に流れ込むことで、
クラナガン市に流れている河川の水量が増加していくことはわかっている
つまり上流で降った雨水で増量した河川水量で水難事故も発生するかもしれない
警戒するのは当然のことである。

『中央本部からSA11。警戒態勢を厳重にして対応せよ』

ラジェット達が護衛している機動六課組のメンバーに危害が加えられることを避けなければならない
クラナガン捜査局の立場が脅かされるため、厳重な監視下で中央本部まで護衛が必要なのだ

『こちらSA11。現在警戒態勢を最大限にして対応中』

不審な行動をするような人物や車両が確認されたら即時報告をするとラジェットは答えていた
彼が任務遂行のために全力で対応している。もしもの場合に備えて警戒態勢を維持しなければならない

『連邦国防省は連邦海兵隊と連邦空軍をベルカ州に派遣。ベルカ州西部地方で起きている問題に対応すると発表』

『またこの作戦には港湾パトロールとも連携して対応するとしています』

「連邦軍がどこまでやる気があるかで大きく変わるかもしれないね」

『連邦準備銀行は国内の景気過熱をさらに止めるために方針固めをしているとの話題もあります』

「本当に経済への影響は難しいね。おまけにワンワールドグループが破綻してからなおさら」

ウルはある報告書を読み始めた。
それは港湾パトロール安全保障局が幹部にのみ読むことができる機密事項報告書だ
報告書はワンワールドグループが破綻して今後の動きがいくつかの想定でまとめられたものである

「金融トラブルは大きな展開になることは間違いないね」

『ミッドチルダ連邦準備銀行は政策金利を9.5%に大幅引き上げを決定。連邦準備銀行は金融引き締めと発表』

『これにより国際為替相場では通貨ミッドへの買い注文がかなりの金額になっています』

『通貨ミッドが大幅な通貨だがの展開になっていることから今後の展開はまるで予想することが難しいです』

基軸通貨である通貨ミッドは国際貿易で市張られる通貨であり、通貨ミッドの安定は最重要である
政策金利を次々と引き上げていったことで通貨ミッドへの買い注文は大幅に増加
連邦準備銀行や連邦財務省では通貨取引介入に踏み切る可能性が極めて高まっている
ただし通貨ミッドが多く使用されているため通貨介入するにはかなりの資金が必要になる
小規模な国際為替介入では全く意味がない。必要であるなら1度の大量の通貨取引介入が最も重要なことなのだ

『連邦準備銀行は引き続き金融引き締めをすると会見で発言。ただし必要に応じて国際為替介入の用意もすると』

為替介入に踏み切るにはある程度の条件がなければ難しい
特にミッドチルダ連邦で使用される通貨は『ミッド』なのだ
そのため為替介入を行えば、国際経済だけでなく国内経済にも影響が出てくることは間違いない
慎重な対応が求められることは当然である

『南分署から各員へ。南区北部区域イーストハーディー地区から通報を受電中。複数の車両が関与した交通事故』

玉突き事故の可能性があることから慎重に対応するようにとのことだ。
詳細な情報がどのようなものであるかは今はわからない。とにかく現場に行って対応せよと

『中央本部から南分署へ。ハーディー地区と周辺で発生したトラブルに最優先で対応するように指示を出せ』

中央本部はハーディー地区でトラブル発生をできれば0にしたいことは明らかである
トラブル事案が増加すれば影響が広がることを危惧しているのだろう
そんな事態になることは容認されるはずがない

『連邦準備銀行が政策金利を何度も利上げをしているため、ミッドチルダ連邦の金融市場では難しい状況になっています』

『国内経済の過熱を抑制されるために必要であればさらなる金融引き締め政策を実行すると発表』

金融引き締めをしなければミッドチルダ連邦内の経済が好景気どころかバブル景気になる
バブル経済になればコントロールするのは簡単なことではない
これ以上のバブル経済になる前にブレーキになるような金融政策をあらゆる手段を使って実行することが重要だ

『ミッドチルダ連邦財務省は為替介入の用意はできていると発表。金融市場安定化基金から必要な資金を供給すると』

金融市場安定化基金は国内の金融市場安定のために使われるために積み立てている
現在は7000京ミッドが金融市場安定化基金にある。そこにある資金を使って外国為替市場に介入を行う
金融市場安定化基金の資金を使って各次元世界国政府の通貨に買い注文を大量にすることで通貨ミッド高を抑制する
それが最も行いやすい為替介入である

「本当に連邦政府も大変な仕事を任されている」

ウルはミッドチルダ連邦は次元世界連合安全保障理事会で唯一の常任理事国だ
それだけに国際政治の調整役として様々な働きが求められてくる

『経済専門家からは為替介入をしても、単独でミッド高の抑え込みは厳しいのではないかという意見が出ています』

単独での為替介入はグローバル経済では厳しいところは大きい。
それにミッドチルダ連邦準備銀行が政策金利の引き上げを何度も行っている
金利が引き上げられると、その通貨に買いが入るのは自然な流れだ

『ミッドチルダ連邦国債を10年後に償還される国債を300兆ミッドを発行。金融市場に流れているのを確認』

『多くの金融機関はミッドチルダ連邦国債に買い注文が入っています』

国債の金利は10%に設定されていた。ミッドチルダ連邦政府に対する評価は極めて高い
デフォルトになることはあり得ないとして信用性は極めて高いと評価されている
だからこそ買い注文が極めて多い。国債の金利は長期金利と同じである

『金利が10%の国債が発行されたことからこの国債への買い注文が殺到しています』

『ミッドチルダ連邦政府は今回の国債発行は通貨供給量を減らすためだとしています』

今の国内の通貨供給量はかなり多い。好景気だからこその影響が極めて高い
バブル経済にならないようにするために連邦政府機関や連邦準備銀行も動いている
そのためには政策金利などの金融政策のさまざまな方法で対応しなければならない
これには連邦政府と連邦準備銀行との連携して対応することが重要であい、いろいろと対応に追われている
とにかく今は国内経済の引き締め政策が重要だということは間違いない

『セントラルベルカバンクの不良債権額の予想金額は7200兆ミッドになります』

大量の不良債権を抱えた最大の要因は聖王教会が発行していた聖王教会債の取引失敗
それに聖王教会関係者や関係企業に担保に似合わない融資を行っていたこともある
つまり万が一焦げ付いた時のために詰めて建てておく資産確保ができていなかったことも原因の1つだ

『これらの不良債権は回収できるようなものがあればすべて財産押収で不良債権処理に充てたいとしています』

セントラルベルカバンクは聖王教会の直轄金融機関だった。しかし現在は完全に民営化されている
ミーミルグループ企業の1つであるミーミルバンクが驚くべき安値で買収。債務整理を行っている
ベルカ州内ではトップであった預金総額の金融機関だったが、すべての財産が破産で凍結されている
つまり1ミッドも動かすことはできない状況にあることは間違いない

『国内の住宅ローンの金利は大きく変動しています。固定金利は年率7%から8.5%に上昇』

しかし今回発行しているミッドチルダ連邦国債の金利は10%で発行している
住宅ローンなどのさまざまな金利に関してもさらに引き上げられることが想定される

『政策金利の利上げで、今後どのような動きになるかは全く想像することが難しいです』

政策金利の引き上げは今後の国内のあらゆる金利に影響する。
住宅ローンや車のローンなどにもだ。だが何も動かない状況になるとバブル経済になってしまう
それを止めるためには連邦政府と連邦準備銀行は歩調を合わせた金融政策が必要になる
金利の引き上げだけでは好景気が過熱した結果に生み出されるバブル経済になることを止めるのは難しい
他にもあらゆる手段を使って通貨供給量の減少を行って市中に流れている資金を抑えることが求められる
今のミッドチルダ連邦政府は国債を新たに発行することで一時的に市中に流れている通貨供給量を削減する
それしか打つ手があまり残されていないのも現実である。何としても抑え込まなければならない

『連邦政府は満期が1年後の短期国債を新たに発行することも検討しています』

満期が1年後の短期国債も発行する方向で動いている
もちろん金利は極めて高いことが課題になってくることは容易に想像できた
300兆ミッド分の10年物の国債金利は10%だ。
あまり金利が低いものは買ってくれる金融機関などは少ないかもしれない
ただし、逆に高金利をつけて短期国債を発行すれば支払う利息も大きくなる
それに短期金利が長期金利を超えるようなことになれば、それはそれで問題になる
経済のかじ取りというのは簡単に1つの政策だけで成立するものではないのだ

『連邦政府が国内の通貨量の調整のために大幅に国債発行をすれば国内経済に影響が出ることは確かでしょう』

しかし、リスクがあることはわかっていても今の好景気がバブル経済にならないようにするためには、
国内で流通している資金を減らすことがもっともな有効策であることは事実かもしれない。
ウルはそこで別の報道を見るために別のテレビ局のニュースを見た

『クラナガン市内にある魔力精製炉発電所状態にあることを受けてクラナガン商品取引所では原油先物価格が上昇』

『電力会社は火力発電所をフル稼働させていることや火力は水力発電を稼働させているので停電などはないと』

『しかし原油・天然ガス・石炭などの商品取引価格は大きく上昇しています』

「経済事件が起きなければ良いけど」

ウルにはわかっている。インサイダー取引などの経済犯罪に関連する事件捜査は極めて難しい
それだけに対応には苦慮するのだ

『SA12から中央本部。東区南部区域キャロル地区1番街2丁目の建設現場で発見された不発弾の安全確保まで待機する』

エルガが言った安全確保とは不発弾の信管取り出しが完了するまでのことだ
安全確保のために最優先で求められることであり近隣住民の避難活動についての支援もする
重要な活動である。不発弾を少し離れている所から監視しているエルガの安全確保は極めて重要なのだ
少しでも異変を感じたら即時撤退をしなければいけない
その監視任務ができるのは不発弾などの爆弾の詳しい知識がなければできない仕事である

『中央本部からSA12。安全確保を最優先で行うように。もし少しでも異変があれば即時撤退を』

『こちらSA12。了解した』


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東区南部区域キャロル地区1番街2丁目の建設現場 不発弾発見現場

エルガは中央本部と無線で連携しながら近隣住民の避難で空き巣事案が起きることを想定して動いていた
住民が避難しているということは空き巣被害を行いやすい。
だからこそ、こういう時には通常よりも多いパトロール捜査官が警戒のために巡回している

『東分署からSA12へ。緊急行動指令の発令を検討中。必要であれば迅速に審議を行う』

緊急行動指令が発令されるとその指令が出されている地区と近隣地区が完全に封鎖される
もちろんその方が不発弾の処理は楽ではあるがリスクが高い
もし間違って緊急行動指令が発令するとその地区と近隣地区の道路や鉄道路線の運行、
それらについて一時的な運行停止指令が出ることになる
クラナガン市では多くの市民が鉄道を利用している。
その運行を止めるということは鉄道による市民の移動が制限される

「今すぐにはその要請を出すつもりはない。現状では今の状態で対応は問題ないと判断する」

エルガは緊急行動指令の発令はないと判断していた
不発弾に目立った動きはない。この辺りの地区は封鎖している
簡単に侵入することはできないはず。

『東区の建設現場で不発弾が発見されたことから、現場と周辺地区の住民に避難命令を発令しました』

彼はそのニュース番組を見てため息をついた。影響が拡大すれば大きくなるからだ。
ミッドチルダ連邦国内では1日に何千個の不発弾が発見されている。
クラナガン捜査局管轄エリアではクラナガン捜査局港湾パトロールが解体処理している
他の地域では連邦軍が不発弾の解体作業を行っているのだ。

『中央本部からSA12。まもなく不発弾処理チームが到着する。解体作業を見守ることはできるか?』

「こちらは問題ない。処理チームとは常に連携を取り対応を行う」

不発弾はいつ信管が起動するかわからない。
特に古い不発弾となれば少しの振動で信管が爆発することが想定される
だからこそ不発弾処理ができる者は限られているのだ。
任務遂行の責任は通常の任務以上よりも厳しいものになってくる

『港湾本部から中央本部捜査部のSA12。まもなく処理チームが到着。現場到着後はすぐに処理を行う』

いつまでも地区の立ち入り封鎖を続けるわけにはいかない
不発弾の信管除去作業を素早く行うことで避難命令の解除ができる

『東分署から各員へ。東区南部区域キャロル地区の避難命令は不発弾処理が完了するまでは継続する』

『クラナガン魔石燃料工場から再処理された魔力精製炉発電所で使用される燃料棒の輸送が行われる』

再処理された魔石燃料とは1度は魔力精製炉で使われた魔石燃料棒の中からまだ未反応部分を取り出し、
もう1度魔力精製炉で使用される燃料棒に加工された魔石燃料である。
この魔石燃料のことを混合魔石燃料棒と呼ばれている。
国内で運用されている魔力精製炉の魔石燃料棒の全体の7割で使用されている
クラナガン市と近隣州では魔力精製炉で使用される魔石燃料工場はクラナガン市とフローレンス州東部地方。
そしてベルカ州西部地方に魔石燃料工場が存在している。
魔石燃料工場の運営と運用には連邦法で厳しく規則が定められている
1つでもルール違反を行うと工場運用が認められなくなる。
連邦政府だけでなく次元世界連合の傘下の国際魔力エネルギー機関からも監督官が配置されている
それだけ厳重な監視下に置かれている。
国際魔力エネルギー機関には魔力精製炉で使用する魔石燃料工場へ抜き打ち査察を行う権限がある
それだけ魔石燃料工場への監視は厳重警戒態勢がとられている
また魔石燃料の原材料になる魔石採掘を行う場合には次元世界エネルギー機構でも監視が行われている

『クラナガン魔石燃料工場からフローレンス州に向かって魔石燃料棒の輸送は行われている』

今のところは問題はないとのことだ。
魔石燃料工場の警備には港湾パトロール海兵隊が行っていることもわかっている
もしもの場合に備えて様々な監視警備が行われている

『クラナガン魔石工場では使用済み魔石燃料棒の再処理作業が行われている。今後の魔石燃料警備は厳重警戒で行え』

魔石燃料工場を襲われたことは過去に1度もなかったがもしもに備えて行動しなければならない
もし魔石燃料工場が強襲されて魔石燃料が強奪されたら、魔力爆弾が密造されることが想定される
だからこそ警備が厳重に行われている
何かあればすぐの警備隊の状況などの対応がすぐにできるようになっている
エルガはニュース専門チャンネルで報道状況を確認していた
今のニュース専門チャンネルでは経済に関する報道が中心になっていた

『時空管理局債の価格暴落の影響はワンワールドバンクなどのグループ企業だけでなくほかの企業にも出ています』

『ワンワールドグループと関係がない金融機関でも保有していた時空管理局債の価格暴落で不良債権化が進んでいる』

元々時空管理局債の発行金額が大きかったことが大きな影響が出ているのだ
時空管理局債を抱えていた金融機関の動向がどうなるかは全く想像することができない
もしかしたらほかの大手金融機関も破綻するかもしれないのだ。
最悪の被害を想定して行動しなければならない

『次元世界通貨基金は急激な通貨為替レートの変動が大きい場合は協調介入することで動くことがあるかもしれないと』

次元世界通貨基金は次元世界連合全加盟国が参加している国際機関だ
通貨為替の動きに注目している。大きな動きがあれば緊急会合が開催される。必要であれば市場介入を行う。
次元世界通貨基金では参加している次元世界国政府から毎年分担金を集めている
その分担金を少しずつ集めることで国際為替の市場介入する資金にする
現在次元世界通貨基金の積立金は5京8500兆ミッドになる。その資金を使って為替介入に踏み切るかもしれない
ただしすぐに決断はできない。単独為替介入なら次元世界通貨基金の加盟国との交渉は必要ない。
しかし協調介入をするには加盟国で協議を行い、為替介入に問題がないか審議が必要なのだ

『クラナガン市内にある建設現場で不発弾が発見されたことが分かりました』

『安全確保のために避難命令を発令しました。また不発弾の無効化のために爆弾処理チームが派遣されたとのことです』

『鉄道駅やバス停や空港の運用に問題ないと発表されています』

『不発弾が発見された東区南部区域キャロル地区では市民に避難命令とともに、一般車両の進入も禁止中です』

当然のことだが、市民には少しでも安全確保に全力で対応していることを周知しなければならない

「近隣住民が今のところは避難場所に避難してくれているのが完了していればいいが」

『ベルカ州で発生しているクーデター騒動ですが、現在の州政府を解体することを要求しています』

『州政府は権限を明け渡すつもりはない。連邦政府と連携して州内の安全保障上の脅威をなくすと発表しています』

ミッドチルダ連邦準備銀行の政策金利は9.5%になっている
ベルカ州で安全保障上の問題があっても他の州ではそういう事は起きていない
そのため通貨ミッドはミッド高の状況にある。
ベルカ州だけの問題なら為替レートに対する影響は限定的だ
もし国内全域に広がれば通貨ミッドに大量の売りが入る。
今のこの状況だけではそれほどの影響はないと考えられるが警戒だけは怠るわけにはいかない

「聖王教会もバカなことをしている。今更流れを変えることなどできるはずがないのに」

過去の栄光に固執していることは間違いない。
だがすでに流れを変えることはできないことは国際政治に詳しい者なら誰もがわかっているはず
政治的駆け引きができなければ政治家や指揮官を務めることはできない

『クラナガン市内で発生している金融機関の立てこもり事案ですが、現在は膠着状態が継続しています』

『立てこもりをしているのは退役時空管理局員との情報がありますが、正確な情報なのかについてはわかりません』

『中央パトロールは人質の安全のためにも話し合いを続けると。しかし人質の精神的心労を考えると早期解決が重要です』

それは事実だ。人質にも忍耐というものはいつまでも持つかはわからない。
できるだけ早期に事件解決が求められる。
犯人が錯乱でも起こして自爆という名の最悪の結末を迎えることを避けるためにも。

『クラナガンセントラルバンクは融資をしていた時空管理局関係者へ返済を要求のために財産の差し押さえを行うと』

クラナガンセントラルバンクは主にクラナガン市内を営業範囲としている銀行だ。
もちろん近隣州にも数は少ないが支店があるので、近隣州の住民などへの融資を行っていた
退役時空管理局員の多くは返済がほぼ不可能である状況のため、不良債権となっていた

『不動産への融資を規制する総量規制の実施を国内で営業している金融機関に行うことを想定していると』

総量規制の実施が本当に行われると国内の不動産を担保とする融資を規制する
バブル経済にならないようにあらゆる金融政策の実施で連邦政府と連邦準備銀行は動いている

「バブル経済にならないように規制だろうがどれほどの影響が出るかはわからないな」

エルガは融資を厳しく規制するのは景気過熱にストップをかけることはできる
だがその影響がどれくらいになるかは実際に総量規制を行ってみないとわからない

『総量規制が実施された場合、急激に国内経済に影響は大きな規模になることが想定されています』

『しかし国内経済の急激な加熱に少しでもブレーキを効かせるという意味では効果があるかもしれません』

簡単に言えば実際に総量規制という金融政策を行ってみないことには流れを読むのは難しい
そういう事もあるのは仕方がない。政策を実行してみないとどれほどの効果が出るかは憶測でしかない
結果がどうなっているかなどの見通しは経済をうまくコントロールすることは簡単にはいかない

「本当に今は好景気だがいつになったらどうなるか。時空管理局債と聖王教会債の影響を最小限にするのは難しいが」

どちらの債権も紙くず同然の値打ちしかないのだ。
そんな債券だからこそ、次元世界連合はほとんど資金を用意する必要もなく2つの債券を買い取った
一方で紙くず同然の債券を持っていた人物は借金で破産申請をするケースが大幅に増加
個人だけでなく企業の中にも会社の財務記録が大赤字になっているところは極めて多いのも事実だ
現実というのは極めて厳しい。時空管理局債と聖王教会債による大赤字で企業も財務諸表が破産する段階である

『聖王教会が次元世界連合安全保障理事会に強制査察に全面的な協力をするという声明を発表』

『ただし機密事項に関しては査察対象から外してほしいと要請を出しました』

『この提案について安全保障理事会は容認はできないと即時返答。強制査察で何もかも包み隠すことは認めないと』

エルガは聖王教会は甘い考えをしていると感じていた。
今更そんなことが認められるはずがない。強制査察で聖王教会のすべての真相を明らかにする
そのための強制査察であるのだ。もし機密事項を強制査察から除外すれば真実を暴くことができなくなるかもしれない
そんなわけにはいかない。すべての闇をなくすまでは改革は続けられなければならない

「まだ隠し事ができると思っているなら、間抜けだ」

『中央本部から各員へ。クラナガン市内に存在するすべての聖王教会関係施設に張り込みを行え』

少しでも異変があれば即時連絡をするようにとの指示が入ってきた
これも当たり前である。クラナガン市内に存在する聖王教会関係施設で何か危険なことをするようなら、
その行動を行われる前に止めなければならない。市内の安全保障の観点から言っても当然の判断だ

「真実から目を背けさせようとしているの同じだな。かつての時空管理局と同じで」

エルガの言葉は当たっている。真実を闇で隠し続けた。
そしてスカリエッティを生み出して自分たちの利益になるように動き続けてきた
結果は見事に最悪な方向に進んで時空管理局の影響はJS事件前と比較すると大きく縮小した
おまけに次元世界連合という飼い主に首輪でつながれてしまった。自らを破滅に向かわせた
それだけは疑いようのない真実である

『中央本部からSA12。不発弾に動きはないか?』

「現在は異変はない。熱探知で爆弾を確認する」

エルガは熱量感知機械を使って不発弾の状態を確認した。
今のところは何も目立った反応はない。いつどうなるかは全く想像できないのも事実だ
警戒態勢の維持は当然だと返答した。不発弾にある火薬に少しでも熱が発せられたら起爆することになる
本来であれば近くから監視するにはあまりにも危険すぎるがそれを行うのも任務である
危険がない法執行機関など存在しない。常にリスクがあるため、自ら修羅場に突入することもある。
これは人々を守るためには必要なことである。
任務遂行のためにはさまざまなことを犠牲にしなければならないときもあるのだから

『ベルカ州政府が運営しているベルカ開発銀行は新たに100兆ミッドの貸し付けをベルカパワー社に行うと発表』

ベルカパワー社はベルカ州政府が筆頭株主の電力会社だ。
州内には数多くの発電所や送電網を持っている。以前は聖王教会系の企業だった
しかしJS事件後は聖王教会が資金不足になりそうであったことから新たに発足したベルカ州政府に株式すべてを売却
現在はベルカ州政府がベルカパワーの株式の6割を保有している。
残りの4割に関してはベルカ州内にある郡政府などが保有している
実質的にはベルカ州政府が筆頭株主となっている。つまり州政府の株主提案がすべて採用される


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中央パトロール本部庁舎 10階捜査長官執務室

『聖王教会が次元世界連合安全保障理事会の再考などを求めました』

『安全保障理事会で唯一の常任理事国であるミッドチルダ連邦は棄権を行い、他の理事国に審議を求めました』

『結果は聖王教会からの要請には応じられないと決議が採択されました』

「聖王教会は必死だね。国際政治だからかもしれないけど」

聖王教会も今や政治的な駆け引きをしなければ組織の維持が難しい状況である
今までそんな駆け引きの必要性はほとんどなかったが、JS事件後は大きくその流れは変わっている
とりあえずは次元世界連合のオブザーバー参加組織として、国際機関という扱いを受けている
だがそんな彼らは慣れない政治的駆け引きが簡単にできるはずがない。
クラナガン捜査局も聖王教会と同じでオブザーバー資格で次元世界連合に参加している
オブザーバーの組織には次元世界連合総会や安全保障理事会で投票権はないが議論に参加はできる
投票権がないということは政治的駆け引きを行ってうまく事を進める必要があるのだ
簡単なことではないことはユウ・ミズノ捜査長官はわかっている。
クラナガン捜査局も次元世界連合のオブザーバーなのだから政治的駆け引きを円滑に行う必要がある
捜査長官執務室には対外対応補佐官であるローザ・キャンターがいた
彼女はクラナガン捜査局と関係している外部組織との交渉などを行うのが職務である
つまり、様々な組織とクラナガン捜査局との連絡調整を行っている

「次元世界連合安全保障理事会での審議はしないという発表後に総会で再度審議を要請しているようです」

ローザの報告にユウ・ミズノ捜査長官は次元世界連合総会で審議が行われるのかと質問した

「総会でも安全保障理事会で審議再考はないという決議が出ているので反対多数で審議は行われないようです」

「聖王教会も必死だね」

「長官ならわかっていたことではありませんか?それにこのようなことになることはわかっていたのではありませんか?」

それは確かなことだ。元々次元世界連合で審議再考を訴えてきた時の行動シミュレーションはできていた
だからこそ素早い判断ができるように情報収集が行われていた。

「聖王教会の財務状況はどうなっているのかな?」

「聖王教会債の返済のために必死ですが、債務の償還に必要な資金確保はできていないようです」

聖王教会債はすでに金融市場では紙くず同然だ。
1京ミッド分の債務の返済に必要な資金は自らが保有していた様々な資産売却で確保しようとしている
ただし現実はそれほど簡単なことではない。
不動産などの財産では足元を見られて良い条件での売却はできていない
聖王教会は急いで資金確保に動いていることを関係者はわかっている
だからこそ安値で買いたたくことができると思っている人間は多い
市場価格を知る者が少なければ都心の一等地を安値で買い取ることができる

『ベルカ州内で聖王教会が保有していた不動産の販売価格はかなり低価格で買い取られています』

ベルカ州内には多くの不動産を聖王教会は保有していた。
今はかなり安値で買いたたかれている現実もあるのだ。
そんな行為をしてでも資金確保に動いていることは間違いない

「資金確保のためには必死だね。すでに金融市場で流通している聖王教会債は教会が自ら確保しているみたいだね」

ユウ・ミズノ捜査長官の執務机には聖王教会債の流通量などについての報告書があった
内容は金融市場で流通している聖王教会債の残りについてだ
1京ミッドにもなる聖王教会債の大部分は自身が金融市場から安値で買い取った
残りの一部についても買い取る方針で聖王教会の財務部署は動いている
問題はその買取金額についてである。
それらの聖王教会債を保有しているのは一部のヘッジファンドだ
ヘッジファンドの中でも甘い見通しをしていたところが保有していた
今さら金融市場で売却をしたくても紙くず同然の価値しかないため、
ヘッジファンドも今になって急に聖王教会債を売却できていないのだ
不良債権となった聖王教会債は何の価値もない紙切れと同じである
だからこそ、金融市場の流れを読み切ることができなかった金融機関は経営状態が危険水域になっている
今後の流れがどうなるかは全くわからない。
聖王教会は自らが発行した聖王教会債を金融市場から徹底的に回収している
そうしなければ財産の差し押さえを食らうことは誰の目から見ても明らかだ

「本当に聖王教会関係のトラブルは大きいね」

「事前に我々はそういう事になった場合に備えての対応マニュアルを用意していました。今はそれに従って行動中です」

『連邦準備銀行は金融引き締めとして、連邦準備銀行に預金させる準備預金比率を引き上げる政策を実施すると発表』

さらにクラナガン市政府が運用しているクラナガン市準備銀行も市内の金融引き締めをするため、
連邦準備銀行と共同歩調をとる方向で動いている。クラナガン市内では不動産価格が大きく上昇している
不動産バブルを阻止するために徹底的に金融政策を連邦準備銀行と行うと発表していた

『クラナガン市準備銀行は市内を動いている金融機関ヘ貸し出す資金量を制限するとのことです』

『連邦準備銀行は無担保コール翌日物に資金供給に参加する回数を減らすことで市中の資金供給量を減らす』

無担保コール翌日物取引で流れている資金量を減らすことで金融引き締めを行う
中央銀行である連邦準備銀行が資金量を減らす政策を実施すれば、比較的大きな金融引き締め政策になる
しかしやりすぎると経済活動が急激に落ち込んで景気が一気に悪くなることも想定される
それだけに影響範囲がどれくらいになるかを見極めることが極めて重要。

「時空管理局債の状況はどうなっているのかな?」

「すでに金融市場に流れていた時空管理局債の大部分は次元世界連合が紙くず同然の価格で確保しています」

つまり時空管理局債を売りに出していた金融機関や企業では大きな赤字になっている
国際情勢を見極めることができなかったのだから仕方がない。これも宿命である
問題回避のために力を注いでこなかった結末がこれでは、
時空管理局債を保有していた民間金融機関や企業は甘く見すぎていた
そういうことになる。

「国内の一部の金融機関では時空管理局債の影響を受けて自己資本比率が悪化しています」

その情報が金融市場に流れて自己資本比率が悪化した企業の株価は値下がり基調にある
ちなみに少しでも利益を得るためにヘッジファンドや投資銀行は一時的な下落の企業の株を購入しようとしている
株価は寝下がっても経営にそれほど影響が出ないとされる企業の株をすぐに購入して利益を得ることは当然だ
損をする企業があれば得をする企業もある。経済の流れなのだからそんなことはわかっている

「連邦国防省はベルカ州の北と西の州から連邦空軍と連邦海兵隊を派遣されています」

派遣されている連邦空軍は爆撃機が6機。戦闘機は20機。早期警戒管制機が2機となっている
地上戦闘が可能な連邦海兵隊の兵員は9000人。かなりの数になっている
今後はさらに増派の可能性があるとローザ・キャンターは報告した
もしクーデター勢力が激しく抵抗すれば最悪のシナリオも想定しなければならない

「連邦軍も必死だね。何をするつもりなのか想定するのは難しいから特に」

ユウ・ミズノ捜査長官の言う通り、ベルカ州内でのクーデター勢力が何をするつもりなのかはわかっている。
ベルカ州政府の消滅と聖王教会にベルカ州内の政治権限を戻せと主張している
ローザはさらに問題があると報告した。ワンワールドグループの1つ、
ワンワールド保険会社の破綻の影響は大きい。時空管理局関係で数多くの保険サービスを行ってきた
保険契約数では数多くの保険会社の中で常に上位5位以内に入る大企業だった。
しかし時空管理局の規模が縮小すると同じように、契約者がワンワールド保険から他の保険会社に切り替えた
その影響によりワンワールド保険は業績が悪化していった。
保険契約をしていた個人や企業からの保険料が大幅に減少したのが致命的なダメージとなった
ワンワールド保険は破産することになった。JS事件前までは多くの保険契約をしていたが
事件後は保険契約の解除が乱発して破産を申請時の経営状況は安定していた時と比較すると9割以上も契約が無くなった
最終的には保険契約を解除した時に契約者に返却する資金もない状態だった。
そのため保険契約をしていた個人や企業から違約金に関する訴えが数多く生じた。
ただ、訴えられても何も抵抗することはできなかった。
ワンワールド保険の資産は訴えが多発した時には全くない状態だったのだから

「クーデターを起こした勢力のメンバーはなりふり構っていられない状態なのは間違いないね」

「影響がベルカ州だけならまだ良いですが、他の州や他次元世界国にも影響が出たら、どんなことになるか」

ローザの指摘は確かにその通りだ。今はミッドチルダ連邦だけで済んでいる。
だが他の次元世界国にも影響を与えたら最悪の爆弾に火をつけたのと同じである。とんでもない大騒動に発展する。
次元世界連合が自衛権の行使で各次元世界国政府の軍隊を動かすことを容認したら状況は大きく変わってくる

「次元世界連合による世界秩序が今の流れなのに」

ユウ・ミズノ捜査長官の言う通りだ。次元世界連合に夜新しい国際秩序は極めて重要になる
今まで時空管理局が多くの次元世界国で活動していた。
もちろん正義のために仕事をしていた者もいれば、
裏で犯罪組織と手を結んで法執行機関としては侵してはならない法律を無視して保身に走るものも多く存在した
時空管理局は組織として大きくなりすぎていたからこそ暗い闇が存在した
今はその闇に関係することを暴くために各次元世界国政府が新たに発足させた警察組織や国を守るための軍組織もある
各次元世界国政府の法執行機関は犯罪を摘発するために忙しく任務に就いている
全ては罪のない人々を犯罪から守るために行動している

「時空管理局の幹部の多くが身柄拘束中です。犯罪を防ぐために正義を貫いた者もいれば犯罪に手を染めた者もいます」

今は次元世界連合の時空管理局調査委員会によってあらゆる経歴が調べられている
少しでも犯罪に関与した可能性があるなら、徹底的に捜査。
真実を明らかにするために入念な捜査が行われている

「連邦政府の意向はどうなっているのかな?」

「安全保障理事会の常任理事国として、時空管理局のすべての暗やみを明らかにすることを最優先で対応すると」

まぁ当然の流れだねとユウ・ミズノ捜査長官はわかっていた。
安全保障理事会で唯一の常任理事国として次元世界連合加盟国の安全保障に貢献することが試されている。
それがミッドチルダ連邦の外交政策でなければならない

「とにかくベルカ州のクーデター騒動が収まるまでは警戒態勢を強化して対応するようにと」

捜査長官の命令を聞いてローザは了解ですと返答して長官執務室を退室した
彼はローザが捜査長官執務室を退室してから1冊の報告書を見ていた。国家最高機密と記載されている報告書だ

『為替市場で通貨ミッドが大量に売りになり、ミッドチルダ連邦が市場介入したようです』

「利上げで通貨ミッドに買いが殺到している。それを止めるために連邦準備銀行と政府は頑張るしかない」

通貨ミッドは基軸通貨なのであることから、ミッドチルダ連邦政府1つの国だけでない。
為替取引が行われている多くの次元世界国にも波及していく。
コントロールは極めて難しいのは誰もがわかっている。
何とかしたいが簡単に市場介入するわけにはいかない。それでも市場介入したのはもう限界の証なのだ

『連邦財務省は記者会見を開きました』

『市場介入に金融市場安定化基金から700京ミッドを使って様々な他次元世界国の通貨に買いを入れました』

『これにより通貨ミッドがミッド高の急激な流れを少し緩めていくことが目的としていますとのことです』

『この市場介入でミッドチルダ連邦政府が保有している外貨は4300京ミッドの価値になります』

『急激な為替変動を阻止するためには必要なことであるとしながらも今後の展開が全く予想できません』

ユウ・ミズノ捜査長官はため息をついた。急激な為替変動は国内の景気に影響する
さらにクラナガン市には数多くの石油化学コンビナートなどの大規模工業施設があることから、
急激な為替変動は経済に大きな影響が出ることが想定される。
経済のコントロールを行うのは連邦政府などであるが、景気な変化は犯罪発生率が高まったり低くなったりする
それだけに1つでも問題が発生するとトラブルの連鎖するかのように発生してしまう
コントロールするのは極めて難しいのも事実なのだ

『ミッドチルダ連邦政府が国債の発行を受けて、債券市場では連邦国債に大量の買い注文があります』

連邦政府が300兆ミッドの国債発行にで安全資産であるため購入しようと取引が極めて増加している
元々は30兆ミッドの国債しか発行していなかった。
あくまでもミッドチルダ連邦での長期金利についての判断材料として利用するためのものだ

『現在のミッドチルダ連邦政府の財政状況では国債の償還は問題がない優良債権なので安全資産とされています』

しかし国内に流通している通貨量の調整のために一気に300兆ミッドを発行するのだ
金融市場ではミッドチルダ連邦国債の買い注文が殺到して、債券価格が大きく上昇している。
つまり金利に換算するとそれが大幅に落ち込むことになっている。
300兆ミッドを発行した時の金利は10%とされていたが、債券市場では買い注文が殺到して債券価格は上昇
金利に換算すると大幅に減少した。今の取引価格で計算すると300兆ミッド分の国債金利は5%まで減少した
今後はさらに新規発行された国債の金利は下がってくることは確実になる

「ミッドチルダ連邦国債の取引量は大幅に増加。安全資産だから当然だけど」

『トントン。シエル・ミズノです。入室をしてもいいでしょうか?』

捜査長官執務室のドアをノックしたのはシエルからだった
ユウ・ミズノ捜査長官はすぐに入室を許可した。

「失礼します。長官。何か緊急の案件でしょうか?」

「シエル。君の部署で預かってもらう予定の機動六課組に関する報告をしてもらえるかな?」

「現在ラジェットが港湾パトロール海兵隊員と一緒にこちらに向かっています。今のところは何も問題ないと」

シエルは現状を素早く報告した。

「ラジェットが警護についているなら安心はできるね。彼は優秀だから。それにシエル、君の一番のお気に入りだから」

ユウ・ミズノはシエルがラジェットのことは信頼していることはよくわかっている
シエルは主にデスクワークなどの管理職をしている。
そして捜査部の指揮命令系統でラジェットが実際の現場監督などの実務を担当
ラジェットがいなければ捜査部の実質的なナンバー2の席を決めるのは極めて大変だ
誰が好きで重責の任務にはなりたくないと考えるのは当たり前なのだから

「ラジェットは捜査部にとって最も価値あるものです。それを失いうようなことは避けるようにはしています」

シエルはラジェットがいなくなれば捜査部の影響力にも大きく影響が出てくることを理解していた
彼は犯罪組織とコネがある。市内で活動している多くの犯罪組織の幹部ともつながりがある
もちろん汚職行為などを行うようなことはしない。
だが彼が捜査部にいることで一定の犯罪発生率を抑え込む事には利用できる

『連邦政府は1年物の短期国債を100兆ミッド分の発行も決断。短期金利として8%として発行するとのことです』

短期国債の上限は1000兆ミッド分までしか発行できないと連邦法で定められている
通貨ミッド高が進んでいる勢いは少し弱めることができるかもしれないということを狙っての動きだ
市場介入によって一時的にブレーキは効いているようだが、状況はそれほど甘くない
今後の動き次第では影響が拡大することは間違いない
できれば派手な動きにならない方が良いのであるが、為替レートの激しい変動は抑え込む必要がある

「ワンワールドグループに関して何か経済事件に関係する情報は入っているかな?」

「現在確認作業を進めています」

ワンワールドグループ企業が抱えていた売却可能な金融資産は証券取引委員会が次々差し押さえを行っている
それらの資産は徹底的に抑え込むことが優先されるものなのだ。
ワンワールドグループの不良債権を少しでも減らすことを目的に動いている
不良債権が残れば金融市場に対して大きな影響が出ることは間違いないのだ
それだけに急がなければならないことはわかっている

「金融事件に関しては証券取引委員会の管轄ですが捜査協力の要請は受けています」

シエルの発言は経済犯罪についてこちらが捜査を行っても問題ないことを示しているのだ
もし証券取引委員会が捜査介入を認めなければ、越権行為になる可能性がある
事前に根回しをしておくことで迅速に捜査を行うことができるのだ

「ワンワールドグループの企業に関して捜査部では何か情報をつかんでいるのかな?」

「多くの幹部は拘束されていますが何も話すつもりはないようで、だんまりを決め込んでいます」

喋ればすべてを失って刑務所に放り込まれることが分かっているからだろう
たとえ黙秘を貫いたとしても良いことは何も存在しない。黙秘を続ければ凶悪犯だ
喋れば捜査協力をしたということで、少しは量刑が軽くなるかもしれない
ただし多くの人物から恨みを買うことは間違いない。暗殺されるかもしれないのだ

「ですが彼らもバカなことをしました。自らの利益になるなら後始末がどんな形になっても問題ないと思っている」

シエルの言う通りである。
元々ワンワールドグループの企業は時空管理局幹部の天下り先として機能していた
今は天下りが全面禁止されて彼らが抱えていた大量の時空管理局債の影響であらゆる財産を失った
全て破滅の道を歩んだのだから自業自得であることは間違いない

「問題は今後の流れです。いかがしますか?」

「我々の使命は人々を守る。それが任務なのだから。組織を守るのということではない。わかっているね。シエル?」

「もちろんです。ですが事前に申し上げていたことについて答えをお聞きしたいのですが」

「君が言っていた捜査部の権限についてだね」

捜査部は一応殺人や強盗などの重大犯罪を主に担当を専門とする部署だった
今は捜査部捜査官は必要であれば介入することはできていた。もちろん非公式ではあったが
だがそれでは捜査の初動捜査に参加することは問題があると上層部の会議で何度か議論がされていた
シエルは機動六課組の受け入れを認める代わりに一定の裁量権限の拡大を要請していた

「捜査部の権限拡大のことだけど、それは何を狙っているのか教えてもらえるかな?シエル、君は権力は欲しくないはず」

「私は権力は求めていません。1つでも小さな事件であっても解決したいのです。すべては罪なき人を守るため」

「だからと言ってなぜこんなものをクラナガン市政府に提出を求めたのかな?」

シエルはあるものを市政府に要望書という形で申請書を出していた
政治に介入する行為をしたことに捜査長官は驚いた。
表向きはシエルではない第三者を経由させて直接介入したことを伏せて市政府に提出していた
それは捜査部に本来割り当てられる予算増額について正当性があることを認める報告書だ
通常の手順では事務部が予算の正当性があるかの審議と議論を行って決定される
だがシエルは特別支援予算という名目で申請を行っていた。もちろん彼女が直接関係したということは伏せてだ
事務部門が行うことに関して実働部隊が直接介入することは厳禁としている
それが当たり前のことである。にもかかわらずシエルはその規則無視を行って予算申請を行った
クラナガン捜査局のトップである捜査長官としてはしっかりと話を聞く必要があったのだ

「どうしてこんなことを求めたのかな?それも捜査部に追加で10億ミッドもの予算割り当てを」

「我々捜査部は常に命を張って職務遂行にあたっています。しかし突然の必要経費が生じることを分かっていただきたい」

「捜査部にも独自で運用している基金はあるはず。にもかかわらず市政府に直接要請する必要はないと思うけど」

捜査部にも独自に運用している基金は存在する。
ただしそれを使用するには事務部の承諾を得なければならない。
極めて難しい問題になる。利害関係の調整や使用目的に関する審査を受けなければならない
現在の捜査部基金の残高は2500億ミッドにもなっている。
その基金からお金を出すのは事務部の審査を通過しなければ認められない
承認を得ないで基金のお金を使ってしまうと使用した資金を戻すことが要求されてくる

「君は裏金でも作るつもりなのかな?」

「私は必要経費であることから要請をしたいのです。ですが事務部に知られるのは後回しにしたい」

それだけですとシエルは言った。ユウ・ミズノ捜査長官は何か急いで資金を使う必要があることを理解した
今ここでお金の利用目的を説明することをそれ以上、求めることはなかった

「わかったよ。シエル。捜査部にはこれから迷惑をかけるから、今は何も追及するようなことはしない」

でも少しでも多くの罪なき人々を対価とするようなことをした時には責任を取ってもらうよとシエルに話した
彼女ももちろんわかっていますと回答すると捜査長官執務室を退室していった
クラナガン捜査局は罪なき人々を犯罪などから守るために活動している
そのルールは絶対に侵してはならないのだ

「まったく、シエルも無理なことを考えているね」

彼が見ているのは1冊の報告書だ。シエルのここ数か月の動向に関する詳細な記録が記載されていた
内容はかなり危険なものだ。彼女がある犯罪組織と接触していたことを示す証拠が出たと
しかし、シエルもある情報をつかむために利用しているとも記載されていた
時空管理局の暗い闇の部分を知っている人物の足取りを追いかけていたのだ
その人物は今は次元世界連合によって重大指名手配犯として次元世界連合全加盟国で追跡されている
シエルがその人物を追いかけ続けるのは大事な仲間を殺されてしまったから
自らの判断に基づいて潜入捜査を行っていたことから極めてハイリスクの任務であったが、
潜入捜査を行っていた仲間をシエルは何よりも大事に思っていた
シエルは自らの部下になった者は何よりも大切な仲間だから守るのは当然のことだといつも思っている
だからこそシエルは誰からも尊敬されている。部下のことを必ず守ろうとする
自らが命じた任務で死者が出ると誰よりも謝罪をしている。遺族となった家族に
例えば死亡した部下に妻や子供がいればあらゆることでサポートをしている
実際に部下が死亡した後に残された遺族のために最大限の支援を行っている
遺族に生活に必要な資金となる遺族年金や子供がいれば進学などの相談に乗るなどさまざまなケアを行っている
本当に仲間を大切にしていることはクラナガン捜査局員なら誰もがわかっている
だからこそシエルに対する信頼は絶大なものなのだ。問題があるとするなら、のめりこみすぎるということだ
1つの事件に関係するあらゆる疑惑が無くなるまで徹底的に捜査を行う
だからこそ時空管理局や聖王教会との関係が極めて険悪であった。今もそれはあまり変わっていないが

「本当に部下のことを何よりも大切にしているね」

シエルが追いかけ続けている人物。名前はセロルド・ピーケット。時空管理局本局で特別捜査官をしていた
しかしいろいろと暗い過去があることで知られている。

『ピーピーピー』

ユウ・ミズノ捜査長官の執務机上にある電話機が着信を告げていた
発信者はミッドチルダ連邦政府で国家安全保障問題担当大統領副補佐官をしているエドワーズ・メイウッドからだ
彼は補佐官になる前まで港湾パトロール安全保障局に所属していた。
有能な人材であることは彼の洞察力を知っている者なら当然である

「君から電話とは穏やかな話題ではないのかな?」

『捜査長官。現在連邦国防省では連邦空軍と連邦海兵隊の派遣人数をさらに増派する方向で動いているようです』

彼の言葉にユウ・ミズノは大きなため息をついてしまった。問題が大きすぎるからだ
すでにベルカ州の北側と西側の州にある連邦軍基地から多くの兵士が派遣されている
さらに増派になればいろいろと苦労することは間違いない。
それだけに慎重な判断ができる捜査長官に連絡してきたのだ
クラナガン捜査長官として職務を行っているからこそ、利害関係をよく理解していた

「ベルカ州内はポップコーンみたいだから。州内で得られるものは農作物や様々な鉱物資源開発もあるからね」

さらにレアメタルなどが豊富に埋蔵されている。その資源開発に多くの企業が参入している
だからこそベルカ州政府には多くの税収があるのだ。それに失業率もほとんど0に近い
それどころか、労働者は少ないため人材確保のために多くの企業は必死なのだ
少しでも他社よりも良い条件。つまり給与などを高めに設定することで多くの労働者が仕事をしている
だからこそ今のベルカ州内の経済はバブル景気並みになりそうなのだ。
ベルカ州政府はバブル景気にならないようにコントロールしようと必死である
連邦準備銀行と協議を頻繁に州政府は行っている。
政策金利の引き上げはベルカ州だけでなくミッドチルダ連邦国内すべてに影響が出る
ベルカ州政府が運用しているベルカ開発銀行が電力会社のベルカパワー社に100兆ミッドを貸し付けている
州内の電力供給送電網や発電所の新たな建設を行うために使われる

『ベルカ州でトラブルが発生したら州証券取引所や州商品取引所では取引が盛んなので』

ベルカ州内での混乱が拡大すればパイプラインを経由で近隣州に供給されている
石油や天然ガスなどのエネルギー資源の取引価格にも変化が出る
上昇すれば企業としては売り上げが上がることから良いというところもあれば、
安定供給に影響が出ることで取引価格上昇で様々な物価高騰にもつながる。
資源供給に関しては極めて難しいバランスが必要になってくる

「ベルカ州西部地方のクーデターに関係する情報が必要ということかな?」

『ベルカ州内に港湾パトロールの基地がありますし、港湾パトロール安全保障局も情報を集めていると考えたので』

つまり港湾パトロール安全保障局から機密情報の提供を求めている。
簡単に言ってしまうと隠さずすべて情報を引き出せと言いたいのだろう。

「ベルカ州の安全保障はこちらの管轄。港湾パトロール安全保障局が保持している機密情報はアクセスできるけど」

機密情報の取り扱いが難しいことはよくわかっているよねとエドワーズに伝えた
彼は港湾パトロール安全保障局に在籍していた経歴があるのだから、
機密情報の取り扱いには注意しなければならないことは理解している。
あれらの情報には多くの組織に影響する利害関係の詳細が記載されている。

『できれば長官の方から圧力をかけていただけますか?』

「僕がアクセスすることはできても君に開示できるかどうかは今の段階では何も返答できない」

その言葉に分かっていますとエドワーズは理解を示した。
いくら大統領の補佐官役をしてもすべての機密情報にアクセスすることがすべて叶うことができるとは限らない

「大統領の補佐官として他にも気になることはあると思うけど。リクエストはあるのかな?」

『さすが捜査長官ですね。聖王教会についてあらゆる情報を知りたいのですが』

彼が知りたいのは今の聖王教会にどれくらいの力があるかについてだ
それを知りたいと思っているのは彼だけでなく、ユウ・ミズノ捜査長官も同じ
ベルカ州西部地方でクーデター騒動を起こしているのは聖王教会の過激派なのだから当然である
今後の動向については詳細な情報を知らなければ、この次の手を打つのに情報確認を行うのはわかっている

「できるだけ努力はするけど、すべて開示してくれるかどうかについては保証はできない」

クラナガン捜査局のトップである捜査長官にもアクセスすることが難しい機密情報があることはわかっている
いくら組織野トップであってもすべての機密情報にアクセスが自由にできるはずがない
もし好き勝手に機密情報にアクセスすることができてしまうと組織としては機能しないも同然である

『もちろんです。アクセスが問題なくできる範囲で良いのでお願いします』

ユウ・ミズノ捜査長官は努力はするよと返答すると通話を終えた
彼は受話器を戻すとため息をついた。連邦政府もベルカ州のクーデター騒動を抑え込もうと必死なのだ
それもできるだけ早く問題解決に結び付けたいのだろう。仕方がないことではあるが

「ところで次元世界連合安全保障理事会で聖王教会はどれくらいの影響力はあるのかな?」

『聖王教会にかつてほどの影響力はありません。今は犯罪組織扱いを受けているようなものです』

当然と言えばそうかもしれない
聖王教会と時空管理局は次元世界連合への正式加盟組織ではない
あくまでもオブザーバー扱いになっている。ちなみにクラナガン捜査局もオブザーバー参加を行っている
次元世界連合には聖王教会調査委員会や時空管理局監視委員会が設置されている
次元世界連合は2つの国際組織に対して徹底的に監視を行っているのだ

「次元世界連合にとってはお荷物ような組織だね」

『ミッドチルダ連邦政府としても同じです。大統領も問題を抱えているのはトラブルにならなければ良いですが』

次元世界連合に正式加盟組織ではないが、
オブザーバーとして加盟していることは内部調査をする上では必要なことではある
だがそんなにことが素早く解決することではないことは誰もがわかっている。
問題があるとするならミッドチルダ連邦政府は安全保障理事会で唯一の常任理事国だ
慎重な対応が求められる重責なのだ。特に聖王教会本部があるミッドチルダ連邦政府は慎重な外交政策が必要である

「連邦政府も大変だね。数多くの問題を抱えているのだから」

ミッドチルダ連邦国内には聖王教会の本部だけではなく時空管理局本部も存在している

『大統領は次元世界連合安全保障理事会に対して連合治安支援部隊(ASAF)の編成を要請しました』

連合治安支援部隊は次元世界連合加盟国内で急速に治安悪化をした国に派遣される部隊だ
派遣に関してはあくまでも治安回復であることから武装などについては細かな規定がされている
さらに危険な状況が発生すれば平和維持軍の派遣に入る。
次元世界連合平和維持軍が派遣されると本格的な戦闘が行われることになる
ただし平和維持軍の派遣を行うには次元世界連合安全保障理事会での承諾を得なければならない
承諾を得ないで独断で派遣すれば経済制裁や軍事制裁を受けることになる
経済制裁の主な内容は他次元世界国との貿易を停止する。軍事制裁は武装した部隊を派兵することになっている
どちらにしても制裁を受けた次元世界連合加盟国には大きな影響が出る
だからこそ国際外交は極めて重要なのである。その国際外交は次元世界連合で行われることが普通だ

「大きな国際問題になることは確実になりそうだね」

『大統領はできるなら外交交渉で対応したかったようですが、彼らにその意思はないようです』

つまり絶対に降伏することはない。
聖王教会の権限を戻さない限り、クーデターをやめるつもりはないと

「連邦政府もとんでもないお荷物を背負ったものだね。クーデターを起こした勢力が聖王教会過激派となるなおさら」

『それは我々も同じです。それにクラナガン市内には数多くの聖王教会が管理保有している施設があるのもまた事実』

ユウ・ミズノ捜査長官は現場にすべてを押し付けてしまうのは難しい任務を与えるのと同じである
そのことはよくわかっていた。それでも任務遂行を求めなければならないことは事実である
それが法執行機関の職員なら任務なのだから仕方がない。
もしその任務に従事している人間が死亡すれば、責任を持たなければならない
例えば責任を取るために辞職ということを選ばなければならない

「とにかく情報開示ができるかどうか港湾パトロール安全保障局に問い合わせておくよ。君もあそこのことは詳しいよね」

元々彼は大統領副補佐官になる前は港湾パトロール安全保障局に在籍していたのだ
手続きなどの工程についてはよく理解している。だからこそ強引に情報を引き出すつもりはなかった
あくまでも正式に大統領副補佐官として情報開示を要請するだけにした
直接介入することはできるが、そのことが発覚すれば今後の組織間同士の関係に影響することはわかっている

『もちろんです。強引にこじ開けるつもりはありません。もしするならCIAに問い合わせますので』

大統領の直轄管轄行政機関であるCIAには簡単にアクセスすることはできる
だが情報の多さを比較するとどうしても港湾パトロール安全保障局の方が豊富に保有している
時空管理局や聖王教会に潜入調査を行っていた回数は極めて多いからだ
確かにCIAも独自に行っていた。それでも港湾パトロール安全保障局に比べるとどうしても差が出てしまう
それだけに港湾パトロール安全保障局との協力関係は極めて重要なのだ
連邦行政機関にとっては特に。大統領にすら開示されることが難しい情報も含まれている
それだけ豊富な情報を保持している。

「それじゃ、あとはこちらで対応するよ」

ユウ・ミズノ捜査長官はそういうと通話を終えた
連邦政府にはいくら権力があろうとすべての機密情報を開示されることはあり得ない
国家最高機密に該当する情報については大統領であっても見ることは許されないケースもあるのだ

「本当に苦労するね。僕の上司は国家最高権限を持っている大統領に仕える組織のトップに過ぎないけど」

そういうと港湾パトロール安全保障局に連絡した


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西区南部区域ウエストハーニー地区2番街2丁目と3丁目の間の通り

エディは幼い男の子が倒れて発見された現場に到着した
死亡した男の子はブラート・ズシック。
親はすでにクラナガン市本土から沖合に向かっている航空機に乗り込んでいる
港湾パトロールを通じて身柄確保を要請している。問題は素直に降伏するかである
親が搭乗しているノートンエアライン3208便は現在リッチモンド空港に向かっている
もちろん戦闘機による厳重な監視体制ではあるが
もしノートンエアライン3208便がハイジャックされたことが確実なら撃墜をしなければならない
多くの人々を守るためには犠牲にしなければならないことが存在するのは仕方がない
それが国家安全保障で優先されることなのだから。
リッチモンド島の島民を守るためには選択肢がないことは多い

「子供を見捨てるとは最低の親だな」

エディに限らず大人として子供を犯罪に利用することは許されることではない
児童虐待は最悪の場合は死刑になったり仮釈放なしの終身刑という重罰が待っている
それだけに何が何でも捜査を行い事件解決が求められるのだ。
犯人を見つけて刑務所に放り込まなければならない

「親は確保されたのか?」

『現在リッチモンド島の空港に緊急着陸するところまで向かっています。機内の従業員によると問題はないと』

エディは港湾パトロール統合司令センターと情報交換をしていた
親はまだ機内にいる。何をしてくるか全く予想がつかないのでもしもに備えて警戒するのは当然である

『港湾本部から中央本部へ。ノートンエアライン3208便はリッチモンド島の空港に着陸する』

空港施設内の警察業務を担当している空港パトロールのリッチモンド空港分署と連携するとのことだ
今後のことを考えると最悪のシナリオも想定して行動しなければならない。
もしもの緊急事態が発生した時には越権行為になるようなことを実行すると
リッチモンド島の大部分の航空管制は連邦航空局の担当ではない
港湾パトロールリッチモンド基地の管轄になってくる
リッチモンド基地が担当している航空管制区域は基地から半径60kmと高度8000mになっている

『リッチモンド基地管制からSA38へ。ノートンエアライン3208便は順調にリッチモンド島内の空港に向かっている』

「警戒監視のために戦闘機が張り付いているのか?」

『もちろんだ。F/A‐18Eが2機が警戒している。最悪の場合には対空ミサイルで攻撃することになる』

そんなことは誰もがわかっている。最悪の場合には何百人を守るために攻撃することが必要になる
最悪のシナリオを想定して行動しなければならない。
できれば何の罪もない航空機に乗り込んでいる人たちを犠牲にはしたくない
だからと言って放置することは極めて危険であることは軍事関係などを理解している者ならわかるはず
リッチモンド島に特攻攻撃するような人物ならリスクがありすぎる。
少しでもリスクを減らすために、島民を守るためには必要になってくる

「ノートンエアライン3208便の機長との連携はできているのか?」

『今のところは問題ないとの報告を受けている。無線交信はこちらで行っているが今のところは問題ないとのことだ』

今は安全であることは良いが、機内に乗り込んでいる子供の親が異変を察知、
ハイジャック行為をすることが想定される。そんなことになればどうなるかはわからない
相手に察知されないためには戦闘機は少し距離を取って監視任務を行うことが必要であることはわかっている

「相手にこちらの動きを知られないように行動してくれ。連中が何をするかわからない」

エディはそのことをリッチモンド基地管制センターに伝えた
もし旅客航空機を利用した大きな事柄を起こすことは抑え込まなければならない
今は相手に気づかれないように身柄確保のために動くことが求められる。
連携作戦をする場合は阻止機関同士の連絡が常に密に行われていることが重要。
今回の場合は港湾パトロールと空港パトロールとの連携に該当する

『空港に着陸後に素早く身柄を押さえる。すでにリッチモンド空港分署に連絡している』

連携体制は万全であることは良いことである。もし危険な方向に話が進むようであれば問題になってくる
その危険な方向に向かう前にストッパーとして機能しなければ、法執行機関として意味がない。

「もし立てこもるようなら警戒態勢を厳重にしてくれ」

『もちろんです。すでに港湾パトロール海兵隊をリッチモンド空港に派遣している。もしもの場合には即時行動ができる』

相変わらず素早い部隊の運用である。最悪の事態を想定して港湾パトロールは動いている
罪なき人々を守るためには必要なことなのだから当たり前だ
そこで港湾パトロールリッチモンド基地管制センターの無線交信を終えた
あとはあちらの担当だ。腕の見せ所であることは間違いない

「うまく事が進めばいいのだが」

エディがいる場所では男の子が死亡したところでは現場鑑識チームが証拠採取を行っていた
西分署検死ラボの検死官が検視を行っていた。本格的な検死は西分署の検死ラボで行われる
今は現場でできる範囲での遺体の情報を確認する作業をしている

『ベルカ州のウエストベルカ魔石燃料工場では、警備に派遣されている港湾パトロール海兵隊が警戒中』

『時空管理局が発行していた100京ミッドになる時空管理局債の取引価格は暴落している』

『現在、金融市場で取引されている100京ミッドの時空管理局債の取引価格は額面の5%に』

つまり時空管理局債をすべて購入には5京ミッドになる
ただし今後も時空管理局債の取引価格が下がる可能性はかなり高い
そんなリスクがある金融商品を買うものはかなり限定されてくることは間違いない
それだけに警戒は必要になってくる。だから空売りが殺到しているのが現状であることは事実だ

『クラナガン金融債権取引所では時空管理局債の取引価格は額面の5%の価値しかないとされています』

『次元世界連合では安値で大量購入したことを発表。購入量は発行済みの時空管理局債の9割』

『これを受けて時空管理局債の大部分は次元世界連合が金融市場を通して購入。償還を行うとしています』

『一方で大量の時空管理局債を保有していた金融機関などの企業では自己資本比率に大きな影響が出ています』

そんなことは誰もがわかっている。金融機関は安全な資産運用先として時空管理局債を使っていた
しかし今はそういう状況ではない。時空管理局債は完全に不良債権扱いである
それだけに保有していた金融機関や企業だけでなく個人にも大きな影響が生じている
今後の展開はかなり危険であることは間違いない

『一方でミッドチルダ連邦準備銀行の政策金利が10%によって、金融機関の融資金利も大幅に上昇』

『金融機関では融資件数が今後減少することは間違いないという意見がかなり存在します』

こればかりは当然の流れだ。特に融資の中で不動産を担保とした融資では厳しい審査が求められる
JS事件前までは簡単に金融機関から融資を受けることができていた
今はその流れは全く異なる状況になっていることは明らかである。
金融機関による融資金額が大幅減少することで金融引き締めになる
つまり政策金利の利上げに見合った効果が出ることは間違いない
政策金利の引き上げが行われると金融機関が行う融資契約で金利も高くなってしまう
だからこそ金融引き締めに効果がある。もし機能しないなら金融業界に大きな影響があるのも事実。
死亡した幼い男の子であるブラート・ズシックの両親の情報を携帯情報端末で確認すると危険な金融状態だった
多くの金融機関から融資を受けていた。借りていた金額は20億ミッド。
ワンワールドバンクはセントラルベルカバンクの2企業の銀行からだ
ちなみにすでに破産申請をしていた。20億ミッドも資金を借りた理由は投資目的である
だが投資に失敗して聖王教会からかなりの横領行為をしていた疑惑があった
結果から言うと最悪だ。最後にお金になるものとして実の子供を売り飛ばしたのかもしれない
人身売買行為をしてでも金を作らなければという状況なら、犯罪組織から非合法の金を借りていたのかもしれない
どの道をたどったとしても最悪ではあるが

「不良債権になってあらゆる資産は差し押さえらた。残った高値で売れるものは子供しかない。大バカ者だな」

半分は自業自得であることは間違いないことは事実ではあるが
自らが招いたことなのだからそれはそれで仕方がないことであることはわかっている
『普通の生活』をしていたらここまで追い込まれることはなかった
でもそんな危険な道を選んだということは自己責任。
その代償のために子供を利用するとはあまりにひどすぎる

「実の子供を借金返済のために差し出すとは最悪の親だ。そんなことをして喜ぶのは小児性愛者だけ」

犯罪者の中にも鉄の掟が存在する。
幼い子供を性的興奮を得るために利用する小児性愛者はほかの犯罪者より重い罪状が待っている
それだけでなく犯罪者の中でも幼い子供を利用した小児性愛者に対する感情はかなりひどい
クラナガン市内にある刑務所はすべて個室だから襲われることはないが、
少しでも油断があれば他の犯罪者から殺されるような運命をたどることは多い
そこまでしてでも逃げるということはかなり危険なことをしていたことを示している

「小児性愛者も許されないが、そんな人物に自分の子供を引き渡す奴も最低な人間だ」

どんなに金に困っていたからと言って人身売買を行うことは絶対に許される罪ではない
窃盗や強盗などとは大きな違いがある。小児性愛者に彼らの欲求を満たすだけのために子供を売り飛ばす
そんなことが許されるわけがないのだが。その欲求から耐えることができないことが難しいのだ
小児性愛者の中には性的行為を行っても自らが逮捕されることを避けるために、
小児性愛者の射精官のパイプカットをして簡単には見つからないようにする者もいる。
そこまでするくらいということは過去に小児性愛行為で捕まっていることが多い
証拠を残さず自分の欲求を解消するためなら手段を選ばないのだ
パイプカットをすればその行為を行った人物の遺伝子サンプルの回収は難しい
いろいろと大変であることはわかっている。それでも小児性愛の欲求は消えることはない
何が何でも性犯罪をしてくる。だからこそ小児性愛者は仮釈放なしの終身刑か死刑になる
どちらの選択肢になっても刑務所から一生出ることはない。逮捕されたらの場合ではあるが
彼らはクラナガン市だけでなくミッドチルダ連邦のすべての州法で小児性愛行為を行った者は終身刑か死刑である

「親を逃がすなよ。刑務所でしっかりとその罪の代償を払わせなければならないからな。死刑になるかもしれないが」

それでもこれ以上の小児性愛者行為や人身売買を行った連中の確保が重要だ
裏にどんな犯罪組織が絡んでいるかなどの情報を集めなければならない
簡単に小児性愛者を見つけることはできない。おそらく仲介役をした人間がいるはず
その人物を逮捕して刑務所でしっかりと罪の重さを理解させなければいけないのだ

『中央本部からSA38。ブラート・ズシックの両親が搭乗している航空機はリッチモンド島の空港に着陸する』

中央本部は着陸したら、空港パトロールのリッチモンド島空港分署の刑事に逮捕させるとのことだ
無事に事が進めば良いが、もし子供の親が暴れたら強硬手段に踏み切るかもしれないとのことだ

「空港パトロールにはいろいろと迷惑をかけることになるかもしれないが、対応は任せるしかないな」

空港パトロールはクラナガン市内にある空港施設内の警察業務を担当している
将来的には空港パトロールは中央パトロールと統合されることになっている
実際に統合するに空港パトロールと中央パトロールの指揮命令系統の統一に時間が必要になってくる
元々空港パトロールは担当している業務はミッドチルダ連邦政府機関と連携を取っている
例えば空港での違法な密航者屋密輸品の押収を行っている。
連邦国土安全保障省の下部組織である航空保安局や移民税関執行局が連携して対応している

『中央本部から各員へ。市内に存在するすべての空港の周辺で密航者や密輸行為の警戒を厳重にして対応せよ』

何が何でも空港を利用した密輸などを阻止しなければならない

『クラナガン証券取引所の平均株価は29,000ミッドまで上昇。国内の証券取引所では株価の乱高下が継続中』

「株価は乱高下。こういう時に証券取引を利用する金融犯罪が起きるからな」

株価の急激な乱高下こそ、豊富な資金を持っている金融機関などの機関投資家の動きが激しくなる
だからこそ証券取引を利用した金融犯罪が発生する確率は極めて高い
インサイダー取引が最も発生しやすいのだ。
運用資金を大量に抱えている機関投資家がその手の金融犯罪が何度もしていた
もちろんミッドチルダ連邦政府の行政機関である証券取引委員会が常に監視を行っている。
少しでも違法性があるのではないかという取引を見つけると捜査対象になる。

『ピーピーピー』

エディの携帯電話に着信が入ってきた
発信者はFBI(連邦捜査局)の友人であった。

『エディ、頼みがあるんだが』

「FBIにいるそっちが直接かかわりたくないという案件とはなんだ?」

連邦捜査局にいれば好き勝手に捜査をすることができるはず
連邦捜査官としての権限を使わないで協力要請をしてくるのは表立って捜査が行われていることは知られたくない
そういうことは珍しいことではない。連邦行政組織が動いていることが知られることを避けるためによく利用される
中央パトロールが調べているということは連邦行政機関には知られていないと思わせることができる
少しでも時間稼ぎができれば良いということもあるのだろう
こちらもよく使う方法だ。表立って捜査されていることに気づかれることを後れさせるため、
その事案とは関係のない別件で動いているようにする。こうすることで少しは時間稼ぎができる
少しでも良いので時間稼ぎができれば問題はないのだ
その間に集めることができる範囲で最大限の情報収集を行って、捜索令状が出るに値する証拠を集める

『ワンワールドバンクが破産申請する直前に保有していた多くの企業の有価証券を売却したのは知っているだろ?』

ワンワールドバンクは破産する直前に当面の資金確保のために、保有していた様々な企業の株式や社債などを売却。
当時のレートで計算すると100兆ミッド以上になる。それでも資金は足りなくなったことから破産申請をした
ワンワールドバンクは破産前に預かっていた顧客預金の半分しか用意できなかった
返すことができなかった預金はペイオフの影響で1000万ミッドまでしか保証されていない
預金をしていた顧客の中にはかなりのお金を引き出すことができなかったこともあった
本来であれば最後の貸し手となる中央銀行が救済することはある
しかしワンワールドバンクにはいろいろと黒い内情がある。
それに中央銀行がいくら大企業であるワンワールドバンクが破綻すれば多くの次元世界国の経済に影響が出る。
それが分かっていても中央銀行が行う最後の貸し手として使われる資金は各次元世界国民が政府に収めている税金だ
簡単にその資金を使うのは問題がありすぎる。国民の税金を使って1企業の救済は許されない
特に時空管理局や聖王教会関係の企業となるとなおさらである。

「報告書は見ている。ワンワールドグループが保有していた株式や社債などの有価証券を市場で売りに出していると」

『その関係で金融市場で売りに出されている有価証券の売りの流れを調べたい。だが正面突破すれば証拠が消される』

ワンワールドグループの企業には次元世界連合全加盟国政府が調査を行っている
少しでもおかしなことがあれば関係者の身柄を拘束して情報収集をしている
だがその関係者もすでに逃走した後のことが多いので調査が難しくなっている。
帳簿は押収できても証人の確保ができない。これでは真相解明そのものができない状況になっている

「港湾パトロール海兵隊の知り合いに話をしてみるが保証はできない。機密情報になればなるほど開示は厳しい」

エディは港湾パトロール海兵隊で特殊部隊に所属していた
4年間も港湾パトロール海兵隊で常に鍛錬を行って新暦74年に中央パトロールに異動した
76年に入ってからは中央本部捜査部に異動した。優秀な人材だったので港湾パトロール海兵隊には多くの仲間がいる
友人には港湾パトロール海兵隊の独自の情報機関に所属している隊員もいる
それだけにいろいろと機密情報にアクセスすることができているのだ

「捜査部捜査官となるとさらにそちらに渡すことが認められる情報はあまり少ないが。それでも良いんだな?」

『無茶は言わない。できるだけで良いのでな』

何とかしてみるというと通話を終えた。
彼はすぐに港湾パトロール海兵隊にいた頃の上官に連絡した

『久しぶりだな。エディ。何か緊急の話か?』

「大佐。実はお願いが」

エディはありのままの状況を伝えて開示請求できる情報を知りたかった
些細な情報でも良いのでいろいろと開示できるものがあれば閲覧したいと

『相変わらず無茶な注文だな。簡単に機密情報の閲覧許可が出るとは限らないぞ』

そんなことはわかっているが開示できる情報があるなら確認したいと伝えた

『努力はしてみる。ただし少し時間がかかるぞ。上に開示請求を求めなければならないケースもあるからな』

エディはわかっていますと伝えて通信を終えた。あとはあちらの管轄だ。
こちらがあれこれ口出しするのはあまりにもリスクがありすぎることはよくわかっている
縄張り争いというのはそれなりにある。しかしそれで犯罪阻止や犯人が逃亡されたら意味がない
何が何でも見つけ出すしかないのだ。

『クラナガン市内に存在する魔力精製炉発電所では発送電が再開されたことが分かりました』

クラナガン市の沿岸部には4施設の魔力精製炉発電所が存在している
その中で2施設の魔力精製炉発電所の運転が再開されたのだ。残りの2か所についても発送電の再開が見込まれる
1施設の魔力精製炉発電所には10の魔力精製炉が設置されている。1施設の発電設備には6000万KWにもなる
4施設のすべての運転停止から2施設の運転が再開された。つまり1億2000万KWの発送電が行われている

『これをうけてクラナガン商品取引所では原油先物価格が大きく下落している』

それは当然である。発電の燃料として石油や天然ガスの使用量が増加すれば燃料価格が上昇する
しかし魔力精製炉発電所の運転が再開されたら大きく情勢が変化するのは確実だ

『専門家は今後も値動きが大きくなることは間違いないとしています』

「本当に迷惑な話だ。石油関係の燃料価格が上昇すれば車の燃料価格も上昇するからな」

国内で運用されている自動車の燃料は少し石油由来のものが含まれている
そのため原油価格が上昇すれば自動車燃料も上昇してしまう。
それを抑制するために備蓄燃料施設が設置されている。
クラナガン市政府の関連企業であるクラナガンシティエネルギー社は原油や天然ガスや石炭などを備蓄している
原油や天然ガスや石炭などのエネルギー資源価格の値動きがあれば、急激な価格変動の調整を試みる

『魔力精製炉発電所の発電出力減少は発電所の運営をしているミーミルパワー社はAMFの影響であると公表』

『JS事件以降はAMF技術によって魔力精製炉に発電出力を偉人するのは極めて危険であるとしています』

今は多くの電力会社は火力発電所や水力発電所などの建設が進んでいる
電力会社はその発電所建設費の確保のために社債発行にかじを切ろうとしているのだ
JS事件まではミッドチルダ連邦国内だけでなく、
数多くの次元世界国では発電施設では魔力精製炉発電所が主流だった
しかしAMF技術によって魔力精製炉発電に頼るばかりでは様々な問題が発生してきた
だからこそ数多くの電力会社は火力発電や水力発電。
そのほかにも太陽光発電や地熱発電など発電設備の分散化が求められた
今は火力発電が建設が大幅に増加。」これは他の水力発電や地熱発電施設ができるまでの時間稼ぎのためである
火力発電所が急激に増加している最大の理由は建設コストが他の発電設備に比べると低いことだ
使用される石油系の燃料である重油や天然ガス。その他にも石炭などは多くの次元世界国内で豊富に埋蔵されている。
燃料調達コストが高価ではない。火力発電で排出される惑星汚染物質の除去フィルターの管理が重要
フィルターを使うことで惑星汚染物質はほとんど排出されることはない
そういった環境汚染除去技術が確立されているからこそ、火力発電所の建設が増加している

『金融市場では多くの電力会社が発行した社債の購入額が大幅に増加しています』

『機関投資家の新しい資金運用のために社債購入の増加が大きくなることは間違いないと思われます』

投資家にとって電力会社は簡単に倒産することはないと思われているので、
多くの機関投資家は大きな投資運用先としている

「本当にワンワールドグループの影響は大きくなっている」

ワンワールドグループへ数多くの投資を行っていた機関投資家は資金運用先として、
以前とは大きく方針転換を行い、時空管理局や聖王教会と関係がなかった企業に投資が行われている
その中でも資源開発会社や電力会社に投資が大幅な増加傾向にある
実際に資源開発会社や電力会社の株価は大きく上昇しているのは明らかだ

『国内の資源開発会社の中でも石油や天然ガスや石炭などのエネルギー資源開発会社の株価は急上昇しています』

『資源開発会社・銀行・保険会社などの極めて手広くビジネスを行っているミーミルグループの昨年の利益は増収している』

資源開発・電力・金融機関・製造業・運送業・建設業・電気ガス水道通信のライフラインの運用
あらゆる業種で企業活動をしている世界最大の企業ともいわれているミーミルグループは非上場企業だが、
組織の透明性と業績に関しては情報公開をすることで企業イメージを維持するために開示されている
誰でも簡単に経営状況に関する情報はインターネットや多くの次元世界国政府機関に公開している
政府に経営情報を公開しているのは、社員に脱税行為を行わせないためである
またミーミルグループ企業の内情を公表することで透明性が保たれていることを報告するためだ

『ミーミルグループの企業は非上場企業ではありますが、各次元世界国政府に軍艦や戦闘機の販売で莫大な利益を獲得』

ミーミルグループにはさまざまな軍事技術を持っている。クラナガン捜査局とは様々な技術開発で連携を取っている
だからこそ多くの次元世界国政府は自衛権や警察組織の組織立ち上げの際に多くの物資を購入している
そのため、売上高は右肩上がりだ。それも急激な増収になっている
今年の総売り上げは過去最高を軽く更新することになるとされている
多くの投資家は証券取引所に上場してくれないかと思っている。
しかし、証券取引所に上場する必要性は全くないとして、
証券取引所に上場することは全く予定に入っていないとしている

『ミーミルグループ企業と関係があり証券取引所に上場している企業の株価は大きく上昇中です』

ミーミルグループ企業と関係があり、製品の部品になるものを納めている企業の中には証券取引所に上場企業は多い
それらの企業の株価はミーミルグループ企業の業績が高まるとまるで連動するかのように株価が上昇している
ある意味ではミーミルグループ企業の株価の指標のような扱いにされているケースは多い
ミーミルグループと取引がある工場を持つ企業収益はミーミルグループと取引が大きく占める場合がよくある
その手の企業の株式が上場しているとミーミルグループの影響で収益が変わることは珍しいことではない

「ワンワールドグループが破産。入れ替わりにミーミルグループが大きく成長。まるで物々交換だな」

エディの言葉は的を外した意見ではない。実際にワンワールドグループが破綻した。
その代わりとして新たにミーミルグループが大きく成長するきっかけにはなった。
違う点で言うとワンワールドグループは時空管理局や聖王教会とべったりとした関係だったが、
ミーミルグループは多くの民間企業との関係が広くて情報公開も常に行われている
少しでも不審な会計処理が確認されたら、第三者調査委員会や行政機関からの検査を素直に受け入れる
まともな企業であることは間違いない。しっかりと法律に従って対応しているのだから

『ニュース速報です。ワンワールドバンクの破綻直前に1300兆ミッドの資産が別の金融機関に移管されていたと判明』

ワンワールドバンクだけでなくワンワールドファンドの資産も破産申請する直前に移されていた
ワンワールドファンドの資産も移された金額を計算すると2000兆ミッドになる
合計すると3300兆ミッドに近い多額の資産が退役時空管理局員が設立した金融機関に移されていた

「相変わらずあそこはトラブルを起こし続けている」

ワンワールドグループの銀行・証券会社・投資ファンドは多額の資産を持っていた
その中でも証券会社や投資ファンドは時空管理局債の半分近くを保有して運用していた
しかし時空管理局の規模縮小と金融引き締めで軸管理局債の償還が難しいのではと、
金融市場で話題になった影響で大幅に取引価格が下落した。
おかげで売却するタイミングを見極めが甘かったことでかなりの負債を抱えた
投資家から預かった資金の返還ができない状態になってしまった

『中央本部から各員へ。クラナガン市内に存在する旧ワンワールドバンクの警戒態勢を最高レベルに引き上げろ』

クラナガン市法では銀行などの金融機関の警備のためにパトロール捜査官が派遣されている
銀行強盗などを1件でも防げるようにそのような警戒態勢が敷かれているのだ
ちなみにすべてのワンワールドバンクやワンワールドファンドなどの資金引き出しはできない
ワンワールドグループが破綻したのが一番の理由である
金融機関が破綻した場合、銀行の時には預金口座の中で1000万ミッドまでは必ず返却される
無利息口座や当座預金口座についても預けていた預金は無利息口座にい該当するので全額が保護対象である
しかし証券会社や投資銀行や投資ファンドに預けていた資金が戻ってくることは保証されていない
それらの金融機関に預けていた資産は保証対象外になっている
金融機関が保有していた様々な金融商品を市場で売却することである程度は返却されるかもしれないが、
全ての預けていた資産が回収できる保証はない。
それらの金融機関が保有していた様々な金融商品を売却後、売却益から預金口座金額と比例して返却される

『ワンワールドバンクのCEO(最高経営責任者)は記者会見開き、マスコミに現在のワンワールドバンクの状況を発表』

『ワンワールドグループが保有していた金融商品を売却、顧客から預かっていた資金返却の資金を確保すると』

すでに返却できる金額は預かっている預金などの全体の半分以下になっている
ワンワールドバンクを含むワンワードグループの傘下にある各金融機関部門の破綻はあまりにも規模が大きい
それに1つの次元世界国で解決することではないことが最も大きな要因である
ワンワールドグループは時空管理局が治安部門を掌握していたすべての次元世界国で企業活動をしていた
だからこそ破綻による影響は極めて多いのである。
しかし各次元世界国は国民の税金でその穴埋めをすれば国民からの信用を失う
救済をするわけにはいかないのだ。救済がないのは影響がどこまで出るかは全く想像できないことでもある
今後の展開は長い時間をかけて処理していかなければならない

「あそこは問題ばかりを大量に生み出してくれる。こっちがは対応するのに必死だが預金者も命懸けだからな」

ワンワールドバンクに多額の預金をしていた人々は必死なのだ
何としても多くの預金が返ってくることを祈っている。
現実は極めて難しいことはわかっていても金がなくなると思うと不安になって仕方がない

『西区北部区域ベンド地区にあるワンワールドバンクの支店で群衆が集まっている。混乱状態になっているので警戒を』

予想していたことが発生した。
預金者は必死だが、今は連邦証券取引委員会などの調査中であるため、預金の引き出しができない
仮にできたとしても預金の中で1000万ミッドまでしか保証されない
それ以上の預金は引き出しをすることは許されない。それがミッドチルダ連邦法の企業破産のプロセス。

「早速取り付け騒ぎか。まぁ自分の金を守りたいのは当たり前のことだがな」

誰だって自分が預けていた資産を取り戻そうと必死なのだ
1000万ミッド以下の預金しかない顧客なら焦る必要はない
1000万ミッド以内なら預けている預金は全額保護される。
それ以上のお金を預けているなら命がけで何としても金を取り戻そうとする
もちろん今更手遅れであることは間違いない。
すでに裁判所が1000万ミッド以上の預金については差し押さえがされている

「本当に困った連中だ」

『無担保コール市場でワンワールドバンクが100兆ミッドを他銀行から借りていましたがそれが返済できない事態に』

もし無担保コール市場で金融機関同士という本来であればかなり安全とされている取引だ
それが資金繰りに行き詰ってショートするとかなり状況は危険になってくる
なぜならそのお金を貸した銀行も大きな影響を受けるからだ。
無担保コール市場で銀行同士の取引で資金ショートをしてしまうと影響は広がってくる
つまりワンワールドバンクに100兆ミッドを貸していた銀行はその穴埋めをどこかでしなければならない
しかし金額が多いので簡単に穴埋めするのは難しい

『中央本部から各員へ。市内の金融機関の警戒を注視せよ』

取り付け騒ぎがさらに発生することを避けるためである。
ワンワールドバンクが市場から借りている100兆ミッドを返済しないと問題は継続することになる

『連邦準備銀行はコール市場で信用収縮が起きる前の対応策としてコール市場に200兆ミッドの資金を投入すると発表』

緊急的な措置である。もし信用収縮が起きるとミッドチルダ連邦国内の金融市場に大きな影響が出る
それを一時的な先延ばし策として金融市場に資金提供するのは当然であるが、あくまでの一時的な措置だ
連邦準備銀行がコール市場に提供した200兆ミッドをあとで回収することが求められる。
もしミッドチルダ連邦の中央銀行である連邦準備銀行がコール市場に供給した資金を回収できないと赤字になる
国の中央銀行が赤字になるということは国内経済の流れを考えた場合は好ましいことではない

『東分署から中央本部。東区内にあるワンワールドバンクの支店に人々が集まっている。応援を要請する』

『南分署から中央本部。南区内にあるワンワールドバンクの支店に人々が集まっている。応援を要請する』

他のクラナガン市の区を管轄している分署からも次々と応援要請が入っていた。
やはり、銀行での信用不安が発生していることは間違いない
このまま状況が悪化すれば国内経済への影響が拡大して国際経済にも影響してくる
影響はそれ以上になることも想定される。証券取引所の株価などさまざまな金融市場に波及するのだ
それを未然に防ぐために動くことは当たり前のことである

『クラナガン市準備銀行は金融市場に1000兆ミッドの資金を投入することについて検討中と声明を発表』

連邦準備銀行だけでなくクラナガン市政府が運用しているクラナガン市準備銀行も動き出せば大きな流れを生む

「まったく経済というのは苦労する案件だ。規模が大きくなればなるほど事件が起きた時の影響は拡大する」

エディの言う通りだ。経済犯罪は規模が大きなものになればなるほど影響は短期で終わることはない
下手をすれば数年という長期間にわたって物事が動くことになる。影響する範囲を大きなものになるだけだ
それは迷惑な話である。

『中央区南部区域サーストン地区の警戒態勢を厳重に行え』

中央区南部区域サーストン地区と近隣地区にはクラナガン証券取引所やクラナガン商品取引所などが設置されている
金融街として数多くの金融機関の拠点があることから警備体制は常に厳重に行われている
この辺りで少しでもおかしな動きをする人物や車などがあれば即座に職務質問などが行われる



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中央パトロール本部庁舎 2階首席事務官執務室

そこでは事務部の最高責任者であるリーザ・コンパーノがある報告書を見ていた
報告書の内容は機動六課組に関する詳細な個人情報だ
あらゆる情報が報告書に記載されている。極秘事項に該当するものではあるが、
事務部のトップである彼女には機密情報取り扱い資格を持っているので問題はない

「ひどい話ね。機動六課のメンバーは正義を貫いて時空管理局の組織をすべてつぶしたようなものなのだから」

つまり時空管理局に1度でも在籍した経歴を持つ局員から恨みを買っている
そういうことである。だからこそこちらに身柄保護のために引き取り要望が出されたのだ
時空管理局が再度暴走することを少しでも抑制するためには彼らを一時的なのかどうかは別にして、
切り離す必要があったのは間違いないことである
首席事務官執務室にはリーザ以外にも2人がいた。

「人事管理課のトップであるミラ・クオーレはどう思っているの?」

1人は人事管理課のミラ・クオーレだ。彼女は中央パトロールの人事を統括している
もう1人は中央パトロールの予算などの財務状況を統括しているビーゴ・アバンザの2人がいた

「人事管理課のトップとして機動六課組という爆弾を抱えることには反対したいわ」

でもあのまま時空管理局にいたら殺される運命になることはクラナガン捜査局の幹部ならわかっている
だからこそ時空管理局内でのトラブルが解決するまで機動六課組のメンバーを引き受けたのだ
そこまでしないと機動六課に関係する人物は闇で消される可能性は極めて高い
様々な状況に対応できるシナリオを作り、今後の対応協議を行うことは極めて重要である

「財務管理課としてはどうかしら?」

リーザの質問にビーゴ・アバンザは必要な措置であることは理解できるとしながらも、
あまりにもリスクの方が高すぎると評価した
人事管理課と財務管理課が懸念としているのはこちらの情報が漏れるのではないかということだ
今も時空管理局と聖王教会に潜入捜査をしている捜査官は存在する
その潜入捜査官の名前が漏れるのではないかと危惧しているのだ
もしそのような機密情報が漏れたら影響は大きくなる

「次元世界連合からの見返りはあるのですか?捜査長官がリスクになる人材を無償で引き受けるとは思えないのですが」

ミラの言葉にさすがは人事部門の責任者だと感じた
当然である。中央パトロールの人事部門のトップが正常な舵取りができなければ掌握はできない
それだけに何か情報を得ることが求められてくる。
危険物を引き受けるのだから何かこちらにも見返りを期待するのは当たり前である
その質問にリーザは驚く発言をした。その発言で2人は大きく動揺することになった

「次元世界連合はクラナガン捜査局のオブザーバー資格を利用した情報開示協定を締結する方針よ」

次元世界連合のオブザーバー資格をクラナガン捜査局は持っている
それだけに次元世界連合内での国際政治の情報を入手できるのは、いろいろな意味で利益になるかもしれない。
現在でも情報開示を次元世界連合加盟国に要請することはできるが、
最終的に判断するのは開示要請先の次元世界国政府の判断だ
あちらが許可しなければ開示は認められることはあり得ない
今はミッドチルダ連邦政府がバックにいなければ難しいのはわかっている
次元世界連合が後押ししてくれるなら、加盟国に情報開示を要請時に大きな支援をしてくれるかもしれない

「港湾本部長の意向はどうなっているの?」

「リヴィナ・トラヴィック港湾本部長は次元世界連合のオブザーバー資格をより密接なものにしたいのでしょう」

ミラは港湾本部長が反対することはないということである
港湾本部も次元世界連合との連携強化は必要だと思っていることだ
今後の国際政治や国内政治の状況によっては大きな変更になるかもしれない。それは重要である事は間違いない。
国の安全保障問題に関係する部門である港湾パトロールは多くの次元世界国政府や次元世界連合など、
国際組織との連携を重要視するのは当たり前だ。市内には次元世界連合や多くの国際組織の本部が設置されている

「とにかく、今は国内だけでなく他次元世界国政府の法執行機関との連携強化を最優先に行うように」

何が起きるかわからないのはわかっていることは間違いないのだから当然の配慮だ
クラナガン市と近隣州の安全保障に深く関わっている港湾パトロールは、
軍事組織として常に管轄している州の安全保障を行ってきた
だからこそ今の『とりあえず』の平和が保たれている。そうでなければ連邦政府の政治政策にも影響する
国内政治はもちろんではあるが次元世界連合安全保障理事会で唯一の常任理事国という立場にもかかわってくる
国際政治にもかかわる重要な組織であることは多くの人々がわかっている。

「それと市内で停電がまた起きる可能性があるから、すぐに動けるように市内全域に人員配置マニュアルの作成を」

何事も早め早めの対策が重要である。
問題が発生する前にできれば止めたいが現実はうまく事が進む事はあり得ない
何か問題が起きてから対応方法を決めるのではない。事前にプランを練ることが極めて重要なのだ

「停電が発生した場合は市内で動いている電化鉄道路線に大きな影響が出ることも忘れないで」

クラナガン市内だけを営業範囲とする旅客を主に扱っている電化鉄道路線に供給されている電力がストップすると、
鉄道運行は停電が復旧するまで動くことはない。市内の公共交通は市内のバス路線に影響は間違いなく出る
電車と異なりバスの運行可能範囲の市民移動には限界があることになるのは確実になる
旅客鉄道路線が復旧するまでは市内での移動手段はかなり限定されることと移動人数をすべてカバーすることは難しい

「残る問題は退役時空管理局員関係ね。どうすれば大量リストラされた退役時空管理局員の再就職ができるか」

以前に時空管理局に在籍していたという経歴があるだけでも大きな問題になっている
最先端技術を開発研究している企業では社内でも限られた者しか扱えない機密情報が漏れたら困る
だからこそ退役時空管理局員はホワイトカラーの仕事から肉体労働などの肉体労働しか残されていない
その肉体労働であってもかなり低変な扱いになってしまうことは珍しいことではない

「これを見てほしいの」

リーザ・コンパーノは1冊のファイルを2人に渡した
ファイルの題名には『時空管理局内部の疑惑と改革の必要性』と記載されれていた。
さらに機密文書であることを示すスタンプがされていた
つまりこの情報にアクセスできるのはかなり限られた人間によるものだということになる

「内容は過激なものだな」

財務管理課のビーゴ・アバンザの発言は的中している。確かに過激な内容であることは間違いない。
改革の必要性は重要だ。時空管理局にあるあらゆる疑惑はすべてオープンにしなければならない
そうしなければ大きな問題になるのだ。
しかし時空管理局内に存在する様々な疑惑を解明するには長い時間と難しい調査になる
調査と言っても証人になりそうなものはすでに行方不明になっている
今後の展開次第ではどうなるか全く予想することは難しい。
調査をしている間に証拠を消されたり、証人が逃げてしまって真実を明らかにすることが困難になる
難しいことはわかっていたとしても何とかするしかないのは確かな話である

「時空管理局にとっては機動六課はただのお荷物だと思っている以前から権力を持っていた幹部からは思われているから」

リーザの言うことは正論であった。今までの時空管理局が多く握っていた権力がすべてとは言わないが、
大部分は失われることになってしまった。その影響は以前から権力を握っていた時空管理局の財務などの権限、
それらの関係する部署にいた幹部職員は権限がすべて失われるとすぐに逃亡するかのように退役している

「真相を知るには退役して行方が分からないならどんな手段を使ってでも見つけ出すしか道はないわ」

リーザのセリフに執務室にいた2人はその案件に関してはどの部署が統括するのか質問した
本来であれば捜査部の担当になるのが通常の手順になる
しかし捜査部には機動六課組が編入することになっている。
彼らに自ら在籍していた組織のあら捜しをさせるというのはあまりにも危険すぎる
いくらこちらが情報漏れのために動いても完全に制御できる保証はどこにもない
常に最悪の事態を考慮して行動する。それが最も重要なのだ。機密情報の取り扱いなどをする場合には特に

「人事管理課としては捜査部捜査官に捜査をさせることは必要だと思いますが。問題は彼らの扱い方です」

中央パトロールの人事関係全てを管轄しているミラ・クオーレの意見は確かなものだ
機動六課組にできるだけ自らが少し前までいた時空管理局の内部捜査をさせるのはリスクが高すぎる
それに今の時空管理局には内部捜査を専門にしている時空管理局犯罪捜査局があるのだ
あちらとの連携のことも考えると人選は少し時間が必要になってくる
そうでなければ苦労することになるのはわかっている

「そして最後の問題はワンワールドグループの破綻ね。銀行・証券会社・投資ファンド。あそこには経済犯罪が大量よ」

ため息をつくのはリーザだけではない。
クラナガン市内の治安を守っている中央パトロールの全員がわかっている
トラブルがあまりにも多すぎることは誰の目から見ても明らかだ。
真相究明には長期間の時間が必要だ。おまけに時空管理局とはべったりと関係している
おまけに時空管理局の幹部にとっては天下り先でもあったのだ。今は破綻処理に追われている
天下りをした退役時空管理局員はすべて身柄拘束を各次元世界国政府の警察組織が行っている
時空管理局の内部情報を得るためにあらゆる方面から事情聴取を行って捜査をしている
必要ならどんな権力を持つ人物に対しても事情聴取を行い、全容解明を行っている真っ最中である

「ひどいなんて話では済まないわね。真実を完全に暴くことができるかにどれほどの時間が必要になるか確認しないと」

リーザ・コンパーノは今は機動六課組の受け入れのために準備にするように指示した
指示を受けた2人はわかりましたと返答すると首席事務官執務室を退室していった
2人の退室を確認するとリーザは本当にため息をついて執務イスに深く腰掛けた
問題は機動六課組の受け入れをクラナガン捜査局の全職員が納得しているか。
そんなことをアンケートで情報を集めてみたら答えはわかっている。
だれがあんな犯罪者の組織の面倒を見なければいけないと誰もが同じことを言いたいだろう
だが言わないのはそれが必要なことだと何とか割り切っているからだ

「問題は山積状態。決着がつくにはどれくらいの時間が必要になるかを見極めるのは簡単にはいかないわね」

時空管理局の権限が様々な政治的権限が時空管理局から各次元世界国政府に返還されたことは良いことだ
民衆による政治家が選挙で最も支持を受けた議員によって議会政治が行われる
民主主義としてしっかりと機能すれば政治家はそれぞれの国の政治や経済などをコントロールできる
時空管理局が自由に法整備を行ったり、民衆を操作することはできなくなる
議会制民主主義がしっかりと機能すればまともな方向に進む事になることは確かではある


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南区北部区域ビューロー地区1番街3丁目 クラナガン市政府第3合同庁舎 61階クラナガン市長執務室

サンディ・マウント市長は市長危機管理補佐官であるゴギー・ビックと会議をしていた
執務室にはクラナガン市政府機関のクラナガン財務長官のイオスコ・マコーム、
さらにクラナガン市準備銀行の市準備銀行長官のヤレベーク・ブロイドがいた。
さらにクラナガン行政調査局長のウォーレン・ロウアーも。
4人が議論している内容は市内で営業活動している銀行を含む金融機関に、
ワンワールドグループにあった銀行などの金融機関の破綻が影響が出ないか議論していた
ウォーレン・ロウアーがその件には関係ないが市政府に時空管理局が潜入させた諜報員がいないかの報告のためにいた

「すでに市内を主な営業活動範囲としている金融機関の一部で無担保コール市場を通じての資金調達に問題が」

クラナガン市準備銀行長官であるヤレベークの言葉に市長は状況が、
かなり危険であることは間違いないことをはっきりと理解することができた
このままことが進めば本来であれば最も信頼性の高い銀行間の取引に大きな影響が出る
だから連邦準備銀行とクラナガン市準備銀行は一時的な延命措置のためにコール市場に資金を供給している
それもいつまで持つのか全く想像することはできない。
影響が広がれば好ましいことではないことは誰の目から見ても明らかである

「銀行長官としての意見を聞きたいわ。今後、クラナガン市内で金融不安が起きる可能性はあるの?」

金融不安。それは銀行などが資金不足によって顧客が預けている預金、
それらの引き出しができなくなる場合を想定していることだ。
ワンワールドバンクだけでなく、『真面な金融機関』に影響が拡大すると大問題なる

「今のところはコール市場に影響はない。連邦準備銀行と我々クラナガン市準備銀行が助け舟を出す」

だがそれも一時的な対応である。今後の動向次第では大きく動くこともあり得てくる
もし連邦準備銀行とクラナガン市準備銀行が無担保コール市場に流した資金回収ができなければ影響は大きい
最悪の事態では連邦準備銀行とクラナガン市準備銀行が金融市場に流した資金が回収できなくなること
もしミッドチルダ連邦の中央銀行でそんなことになれば基軸通貨としてあまりにも不名誉の証である
できるだけ速やかにワンワールドグループ企業が保有している様々な財産を差し押さえて、
金融市場に流した公的資金の回収をするしか道はないのだ。

「今は金融機関同士のコール市場の動きを注視して、少しでも問題があればすぐに対応会議を開くように」

クラナガン市政府はほかの州政府とは大きく異なるのは経済対応が連邦政府と常に連携することが重要なのだ。
国内で最も大きな証券取引所・商品取引所・外国為替取引所・金融債権取引所があることだ
上記の取引所の取引量は次元世界連合加盟国の次元世界国にある取引所とは比較にならない。
それほどの大きな取引額になるのでクラナガン市政府は極めて特殊で重要な行政機関なのだ
クラナガン市政府の政策はミッドチルダ連邦国内だけでなく、国際政治や経済とも密接である

「退役時空管理局員の多くが再就職が苦労していることは失業率の影響に出ています」

退役時空管理局員を計算に入れないで失業率を計算するとほとんど0に等しい
求人が大量に出ているので人手不足の状況である。
ところが退役時空管理局員だけに限定して失業率を算出すると、かなり失業率が高い
仮に就職が決まってもホワイトカラーの仕事ではなく肉体労働などのブルーカラーの仕事しか限定されている
退役時空管理局員の中には少ない求人をつかもうと必死である
彼らにも生活が懸かっている。何としても生活費が必要になるので選んでいられる状況であるのも確かだ。

「退役時空管理局員の動きに警戒を。差別をすることは許されないけど機密情報が漏れることも問題だから」

企業にもいろいろな特許などの機密情報があるのだ。
退役時空管理局員がそういう機密情報にアクセスできる状況の部署に配置されて情報が盗まれたら大変である
だからこそ、退役時空管理局員の雇用に多くの企業はあまり良い顔をしていない
時空管理局の闇があまりにも深いことが大きな影響であることは間違いない

「問題は生活保護申請者が多いことね」

時空管理局をリストラされて退役局員になった者たちは生活保護の視線をミッドチルダ連邦国内だけでなく、
次元世界連合全加盟国で同じような状況になっているのだ
クラナガン市法では生活保護の適用は特別な事情がない限り、連続で36か月が上限となっている
つまり3年間は生活保護の受給できるが、それ以降に関しては再度審査が行われる。
審議で継続適用に問題がないと判断が出れば再度36か月間の生活保護の受給が可能になる

「クラナガン市内では4万人近いリストラされた退役時空管理局員が申請を出しています」

数があまりにも多すぎるので審議会での調査に時間がかかっている。
本来な1週間で審議結果が出る。しかし今は1か月近い時間が必要になっている
申請をした人物に財産がないか調査が追い付かない状況なのだ。仕方がないと言えばそこまでの話ではあるが
調査をして少しでも価値ある財産を持っているなら生活保護の認可は下りない

「今は何としても生活保護審査をクラナガン市法に間に合わせるために全力で対応して」

申請者が多いからと言って審査が遅れていることは許されない
そして最大の課題は市内の電力や通信回線の一時的な機能停止が再発するかだ
今は市内にある魔力精製炉発電所ですべてが稼働を始めている。
魔力精製炉発電所は原子力発電所と同じで1度運転が停止、
あるいは停止状態になるといきなりフルパワーで運転をすることはできない
少しずつ魔力精製炉に入っている制御棒を抜いていき少しずつ発電出力を上げていく
発電能力をフル稼働させるには24時間ほどの時間が必要になってくる
フル稼働になれば火力発電所の稼働率を下げることができる
それはつまり発電に使われる燃料コストが下がっていくことにつながっていく
顧客が電力会社に支払う料金も下がることになるのだ。

「都市開発庁ではどう考えているの?」

都市開発庁。正式にはクラナガン都市開発庁のことである。
市内にある電気ガス上下水道が設置されている共同溝などの建設・管理を行っている
また道路などの整備なども行っているクラナガン市内の都市開発を統括している行政機関
クラナガン都市開発庁は最も調査の数が多いことで有名である
調査の主な内容はクラナガン市政府が行う数多くの都市開発で必要な公共事業、
それらに不正があったのかの疑惑を調べるためだ。
内部調査や捜査を行うのはクラナガン捜査局はもちろんだが、弁護士などの第三者調査委員会が組織されて行われる。
もちろんクラナガン市政府が設置した行政調査局や会計調査局があり、
この2つの組織は市政府職員が不正行為に関与していないか、あらゆる角度からチェックしている

「時空管理局関係者との接触があった市政府職員の洗い出し作業を進めています。今は行政調査局長が調査を継続中」

クラナガン行政調査局長のウォーレン・ロウアーはクラナガン捜査局の前身組織、
クラナガン捜査部時代から捜査官をしていたベテラン捜査官だ
数多くの不正を明らかにしてクラナガン市政府から不正行為をした公務員を摘発していた
まさに内部調査をさせたらベテランと言ってもおかしくない実績を持っている
クラナガン行政調査局長という管理職に移ってからも数多くの不正行為の捜査を仕切っている

「時空管理局と接触があって汚職に関与できる人間から優先して調査を行って。必要なら身柄拘束のために令状請求」

迅速な対応をしなければいけない。少しでも隙を与えてしまうと逃亡されて真相は闇の中になる
それは何としても避けなければならないことなのだ。
何があろうと不正を見つけ出してダメージを与えることは最も重要になってくる

「今はクラナガン市内の電力供給と通信網の監視を最優先で行ってトラブルを阻止しなければならない」

サンディ・マウント市長の言葉は確かなことである
ミスが許されない職務であることは当然であることもわかっている
市内の魔力精製炉発電所が出力最大限までになるまで、火力発電所や近隣州の発電所からの供給を受ける
しかし火力発電で使用される重油や天然ガスや石炭の燃料コストが大きく影響してくる

「クラナガン市内に電力供給を担っているミーミルパワー社は魔力精製炉発電所がフル稼働させるまでは対応できると」

クラナガン市財務長官のイオスコ・マコームは現状では電力供給が完全に途絶えることはないと報告した
本来であれば財務長官の管轄ではない。通常なら都市開発庁の担当になる
もしくはクラナガン市長直轄市政府機関であるクラナガン緊急事態管理局の担当だ
しかし今は縄張り争いをしている余裕などはない。とにかく最優先で対応することが求められる
管轄争いなどはしている余裕は存在しない

「今は市内の電力供給がストップすることのないようにあらゆる策をしないで活動している電力会社に要請を」

停電が起きれば大きな問題になることは誰の目から見ても明らかである
ライフラインで最も重要な電力供給が滞るとあまり好ましい状態にはならない
今後のことを考えるとなおさらである


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中央区セントラルサウス地区1番街6丁目 ミッドチルダ連邦準備銀行 1階記者会見室

ミッドチルダ連邦準備制度理事会議長のマイズス・ソレットクが今後の政策金利などに関する記者会見を行っていた

「我々が保有している数多くの次元世界国が発行した国債の売却を始めます」

公開市場操作で資金吸収オペレーション(売りオペレーション)が行われることになる
これによって国内で流れている通貨供給量を減少させることにつながるのだ
金融市場に売りで出された連邦準備銀行が保有している他次元世界国の国債の総額は8000兆ミッドになる
とりあえずこれは第1弾であり、今後さらに売りに出されることは間違いないことだ
金融市場に流れる通貨量は大きく減少することになるだろう
景気過熱でバブル経済になることを阻止するにはこれしか方法がないのも事実だ

「連邦準備銀行はさらに政策金利の引き上げはあるのでしょうか?」

「政策金利は国内経済が過熱しすぎる動きがあることから引き上げについては金融市場の状況次第になります」

マスコミにとってはミッドチルダ連邦準備銀行が国内の政策金利をさらに引き上げるようなことになれば、
経済に対して大きな影響が与えることを考慮に入れて質問したのだ
もちろん連邦準備銀行の理事長もそのことは理解している。
だからこそ慎重に注視するとしかコメントをしないのだ

「通貨ミッドがミッド高の状況になっていることについて、今後どのような動きをするのか質問は良いですか?」

「我々は通貨ミッドの為替動向は常に監視下にあり、必要であればミッドチルダ連邦政府と協議を行い市場介入の実施を」

記者からの質問にマイズス・ソレットクは悩むような事をしないで即回答した
少しでも返答に時間がかかるだけで通貨為替レートに影響するだけにあらゆることを想定して記者会見を行っている
だからこそあらゆる質問に即答することができている

「つまり通貨ミッド高をあまり容認しないということですか?」

「それは国内経済の動向を見ながら必要に応じて対応するということです」

「ワンワールドグループのワンワールドバンクなどの金融機関などに最後の貸し手として動くことはあるのですか?」

中央銀行には最後の貸し手として動くことがある
銀行などに対して預金者などの程のために最低限の資金を無担保で融資をするのだ
連邦準備銀行の議長はその予定はないとしていると。
金融犯罪に関係しているとなるなら中央銀行としての活動として最後の貸し手で融資は危険すぎる
連邦準備銀行の行動によっては国内の経済に大きな影響力がある。それだけに慎重な対応しなければならない。
少しでも疑念を生むような発言や態度を記者会見ですれば金融市場に影響する

「現在ミッドチルダ連邦政府とは常に連携を緊密に行い、為替相場に関する情報を収集中です」

市場介入が必要になればすみやかに実行することで急激な為替レートの動きに対応しますと議長は発言。
とりあえずここで記者会見は終了した。会見が終了するとすぐに金融市場に影響が表れた

「連邦準備制度理事会議長の発言を受けて為替相場は急激なミッド高が一時的に収束しているようです」

「ミッドチルド連邦政府が発行している国債の価格が大きく上昇している。長期金利も下落しています」

国債に買い注文が多いということは国債の長期金利の下がるということである
政策金利は10%になっているのだ。今後の値動き次第ではさらに長期金利は下がることが考えられる
1年物の短期国債を100兆ミッドを発行しようとしている。金利は8%で発行する
一方の長期国債を新たに300兆ミッドを発行する予定だが。これは10%で発行している
しかし金融市場で取引されている国債の金利では大幅に金利が下がっている
ミッドチルダ連邦国債にかなりの買い注文が大幅に増加している。
債券価格は金融市場で買い注文が急増すると金利は下がることになるのだ
発行価格の段階では10%の金利が設定されていた。
しかし現在の金利は国債に買い注文がかなりの量になるので大幅に下落している
ミッドチルダ国債の長期金利についての取引金利は4%まで下がっている。
今後もさらに国債に買い注文が増加すると専門家は見ている
それに連動するかのように通貨ミッドにも為替で買いが入っている。
ミッドチルダ連邦準備銀行による金融引き締めい政策で少しは買い注文は減少している
完全に流れを変えることは難しいことは現状であることは金融市場に詳しい者はわかっている
それでも少しは流れを変えることは成功しつつあるのは確かであるが

「連邦準備銀行が国内で活動している銀行に対して準備預金率の調整については何も発言はなかったですが」

金融引き締めのために準備預金率の引き上げを検討していることを金融専門家の多くの人々はわかっている
今後はどの程度の動きをするかは大きく変わってくる


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西区東部区域クルック地区3番街3丁目 次元世界通貨基金 1階会見室

「時空管理局が発行していた時空管理局債の99%を金融市場を経由して大量保有したことを報告します」

その発言にメディアの記者たちは驚いていた。
時空管理局が発行していた時空管理局債の中で99%を金融市場で購入
これで時空管理局債の償還はほぼ少ない費用でできる。次元世界連合にとっては大きな意味で良い方法だ。
もし時空管理局債を利用した資産凍結を債券保有者が行えば状況はさらに複雑になることは明らかである
その状態になることを阻止することができればいろいろな意味で利益をもたらすことになっていく
今後の時空管理局に対して行われる改革などの面についてもだ
大きな方針転換になることは間違いない。それだけに状況を常に監視しなければならないことはわかっている

「回収に使われた資金についてはどれくらいかかったのですか?」

記者の問いかけに報道官は時空管理局が発行していた時空管理局債の額面金額は100京ミッドになる
しかし金融市場では時空管理局債の取引価格は大幅に暴落したことによって、
安価で次元世界通貨基金は時空管理局債を購入することができた
次元世界通貨基金が購入した時は額面金額に対して1%の価格で金融市場から購入。
つまり1京ミッドでほとんどの時空管理局債を購入することができた

「時空管理局債を買うために使用された資金はどのようなルートから得た資金ですか?」

「これは時空管理局が内部でかなりの金額のお金が未使用であったので、それを使って金融市場から時空管理局債を購入」

その回答に記者たちは驚いていた。時空管理局がかなり過剰な予算獲得をしていたことは知られていた
わかっているだけでも数千京ミッドになるとされていたが真相究明を最優先で行っている
時空管理局という組織が設置されて頃、つまり初期段階ではまともな組織であったのだろう
だが組織というのは時間が経過すればするほど汚職関係が多く発生することは誰もがわかっている
そして腐敗した影響によって過剰な予算・過剰な人員・過剰な権限を与えてしまった
今はそれらの権限は1度すべて切り離して次元世界連合という鎖で自由にできないようにさせている
これからの時空管理局の活動に関しても次元世界連合がすべてを監視して汚職がないか徹底的に調べられる
以前の状況である時空管理居に好き勝手な活動をさせることはあり得ない

「時空管理局債について債券購入者から損害賠償を求める裁判を起こされた場合にはどのように対応を行いますか?」

「投資家からそのような訴えを裁判所に賠償金などの支払いを求められたとしても我々は応じるつもりはありません」

投資家が行った債券購入なのだ。リスクがあることは当然のことである
だからこそ金融市場で常に数多くの金融商品や商品取引や証券取引が行われている
リスク管理が甘いから不利益を得たことなのだから、すべてはその債権を購入した投資家の自己責任である
投資とは自らが判断を行う。損失が出たからその損失分を補填はバカというしかない

「聖王教会債についてはどのような動きをするのですか?」

聖王教会が時空管理局と同じ独自の債券を販売していた
時空管理局債と同じでかつては安定した価値ある資産の扱いだが取引価格は暴落
今や額面の金額に対して1割ほどの値打ちしかない。

「時空管理局債と同じで投資というのはリスクがあることはわかっているはずです。すべて自己責任です」

次元世界通貨基金の報道官の言う通りだ。金融商品などの取引はすべて自己責任である
見抜けないから損をするのだ。これも仕方がないことだ

「今回はこれで記者会見は終了します」

報道官はそういうと記者会見を終了。マスコミは今の記者会見の内容について報道を始めた
この記者会見によって金融市場には大きな動きがあった。まずは時空管理局債の取引が一気に急増した。
市場に今も残っている時空管理局債に大量の買い注文が入ることで時空管理局債の取引価格は一気に上昇
額面上での償還ができるということは暴落した時空管理局債を買うことで高い金利収入が得られるのだ


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中央区中央区域セントラル地区2番街 大統領府(ホワイトハウス) 大統領執務室

『次元世界通貨基金の報道官による記者会見が終了すると同時に時空管理局債に大量の買い注文が殺到』

『すでに発行されていた99%の時空管理局債は次元世界通貨基金が買い入れているので取引値がつかない状態に』

『一方で聖王教会債に関しては全くの逆でさらに聖王教会債の取引価格は値下がりを継続中』

「危険な流れになりそうね」

ミッドチルダ連邦大統領のアンナ・ランシングの言葉は確かなものである
いきなりほとんど取引価格がつかないほどに下落していたのに、
時空管理局債の取引価格が右肩上がりになるというのは危険になるかもしれない

『旧第17管理世界、現在のハバーランス王国は国内に存在する時空管理局の支局に対する調査を要請しました』

ハバーランス王国は次元世界連合安全保障理事会の理事国であり、特別理事国でもある
特別理事国とは通常の安全保障理事会の理事国は任期が2年だが、特別理事国は任期が4年と長いのだ
この安全保障理事会での特別理事国は次元世界連合加盟国の中で4か国にだけ割り当てられている。
安全保障理事会で唯一の常任理事国であるミッドチルダ連邦。任期が4年の特別理事国が4か国
任期が2年の通常理事国が10か国。安全保障理事会で審議が行われて、賛成が9か国以上であれば可決される
それ以下では否決されるのだ。可決議案は強制力があるので従わなければ次元世界連合条約により制裁を受けることに。

『次元世界連合安全保障理事会は急遽開催されて議論が始まっています』

ちなみにこのようなことは初めてではない。
次元世界連合が発足してからは加盟国の多くが自国内にある時空管理局支部の調査を求めてきた
この手の議論が特別珍しいことではないので、ほとんどの場合で可決される
安全保障理事会で議論されて、時空管理局の支部への調査を行うのは頻繁にある
ただし、各次元世界国政府はしっかりと国際政治の流れを見届けている
政治関係の問題は複雑になることはよくあるのだ。
特に次元世界国や国際組織の外交関係になると慎重に動くことが求められることは多い
政策を急激に変更すると様々な所に影響が出てしまう。
もちろん良い方向に動くときもあれば悪い方向に向かって動くこともある
急激に悪化すれば政府のメンツをつぶすような事にもなるので政策変更は慎重に行わなければならない

『大統領はこの案件についてどのように考えているのですか?』

大統領であるアンナ・ランシングは次元世界連合大使のスコット・メイソンと電話会議をしていた
次元世界連合大使は特定の省庁に属しているわけではない。大統領直轄人事になっている
次元世界連合で議論を行うために職務に就いている

「どの次元世界国政府も今後同様のことを要求してくるはず。適切な業務が行われているかどうかの確認なら認めないと」

時空管理局がまたしても大きな組織になって暴走するリスクを考えると、
それを避けるために必要に応じて対応することが求められてくる

『では安全保障理事会で賛成投票をするということですか?』

「そうね。賛成票を入れて」

アンナ・ランシング大統領はそういうと電話会議を終了した
残る課題は4月から電気代の基本代金の引き上げを行うというものだ
ミッドチルダ連邦法や各州の法律で電気ガス水道などのライフラインの料金プランについて、
地元政府の承認を受けなければならないと定められている。定期的な料金改定は1年に4回までになっている
1月・4月・7月・10月となっている。これは連邦法でもしっかりと定められている。
料金に変動について連邦政府機関や地元州政府で審理が行われて許認可がでれば改定ができる
ちなみに電力料金はその州によって異なる。電力供給構成や発送電設備などによって電力会社の電気代計算は異なる
それだけに慎重な判断が行わなければならないのだ
電力料金が異なるのは契約している電力会社の発電設備や送電に必要経費が違うからだ
ちなみに連邦政府や州や郡や市政府によって電力料金が変わるのは設備維持の経費が異なる
もちろん不当に電力料金を高めに設定することは連邦法で禁止されている
しかしJS事件後は電気代は上昇傾向にある。主な理由は今までは魔力精製炉発電所が国内に数多くあり、
そこから安定的に低価格のコストで発電を行うことができていたからである。
だがAMF装置が開発されてブラックマーケットで流通してしまうと魔力精製炉発電だけに頼るのは危険であると、
電力会社は判断を行ったことで火力発電などの他の発電設備や送電設備の増強のために多くのコストがかかってくる
そのため電気料金が上昇する傾向にあるのだ。今後もさらに電気料金は上昇する思われている
多くの電力会社は発電設備や送電設備の拡充のためにかなりの社債を発行して金融市場で取引されている
国内だけでも電力会社が発行した社債の総額は1京5000兆ミッドになる。
大量の社債が発行されたことで金融市場では多くの電力会社が発行した社債の取引量はかなり多い
電力会社の場合は他の企業とは異なり、多くの資産に該当する設備を持っている。
そのためである程度は社債の返済には問題がないと考えられているため安定資産と思われることも多い
それ以外にも電力会社の多くにはエネルギー資源開発を行っている企業と密接な関係があることから、
エネルギー資源開発企業からの社債が担保されていると考える投資家もいる
元々好景気である国内経済のため、多くの投資家たちは投資先を探していた
だからこそ電力会社が発行した社債にはかなりの買い注文が入っている
大統領執務室に経済政策担当大統領補佐官のバドレンク・イースレズがいた
国内の経済政策に関して大統領に様々な提言をすることが職務である

「大統領。電力会社はかなり多くの社債を発行しています。金融市場で行われる取引量は大幅に増加」

「当然ね。投資家たちは新しい投資先を探している。電力会社の社債なら安定的な収益が得られると考えるはず」

アンナ・ランシングの言葉に補佐官はその通りですと回答した
多くの投資家は新しい投資先を見つけることに必死なのだ
電力会社の社債は今の国内経済ならデフォルトにはならないと思われている
それだけに安全投資先として考えられている。電力会社はライフラインである
つまり電力会社の契約数によって多少の変動はあると思われているが、
大きなものになるかどうかと聞かれたら答えはそれほどないとされている
これで国内経済から一時的とはいえ金融市場から資金が減少する
つまりある程度の通貨供給量が減少することで利上げと同じ効果である金融引き締めの効果がある
どこまで動くかは正確な数字は出ないが、今後の金融政策や経済政策に影響が出ることは間違いない

「魔力精製炉発電所の稼働状況はどうなの?火力発電や水力発電や太陽光発電などの新規発電所の建設状況は?」

「AMF装置が開発されて魔力精製炉発電に頼ることは危険とされて火力や水力や太陽光などの発電所建設が800地点で」

魔力精製炉発電に頼ることの対する危機から石油や天然ガスや石炭系の化石燃料、
それらを使った火力発電所が多く建設されている。
ダムなどで貯水した水力発電は火力発電に比べると時間的には短時間で建設できる
それだけに化石燃料の取引が行われる各州にある商品取引所ではかなり激しい値動きをしているのだ

「クラナガン商品取引所では原油先物価格の変動幅がかなり大きいです」

クラナガン市内にあるクラナガン商品取引される原油価格はクラナガン市だけでなく、
国内のあらゆる州の原油価格の基本となるため影響も大きい

「ベルカ州の状況はどうなっているの?クーデター騒動はできるだけ素早く解決しないと国民は納得しないことは」

わかっているわよねとアンナ・ランシングの言葉に補佐官は当然ですと回答した
国内の別の州でもクーデター騒動が起きるようなことになれば大きな問題になる
連邦政府ができる、今最も優先することが求められるのは国内の安全保障に万全な対応だ
それができなければ大きな問題になることは間違いない
その時大統領執務室のドアがノックされた。アンナ・ランシングは入室を許可する
国家安全保障問題補佐官のマディソン・ビュロと連邦軍のアレストル・ハンパース大将が入ってきた

「既に連邦海軍と連邦空軍には警戒態勢の維持を伝えています」

アレストル・ハンパース大将は大統領執務室に入室するとすぐに現在の状況を報告した

「連邦空軍と連邦海兵隊がベルカ州西部地方に展開中です。港湾パトロール飛行隊と海兵隊とも連携して対応中」

今はできるだけ素早く対応することが求められる
聖王教会過激派が起こしたクーデターであることはわかっている。
できるだけ素早く対応することは当然である。何がなんでも問題解決しなければならない

「クラナガン市と近隣州の電力供給は問題ないのね?」

ベルカ州は基本的に州内送電網の大部分をベルカパワー社が保有している
ただしベルカ州にある発電所でトラブルが起きることを警戒して近隣州と送電網を運用している
もちろんこれを使うのは最後の手段ではあるが。だが非常時にそんなことは言っていられない
ちなみにクラナガン市とベルカ州を結んでいる送電網があるので万全な対応方法を用意しているのだ

「今の停電をしている場所はベルカ州西部地方です。ですが電力会社に緊張感を持って対応するようにと」

マディソンは国家安全にかかわる重大事案の対応を行うために様々な角度から情報収集を行っている
さらに連邦空軍はあることについても用意をしていた。連邦軍基地の弾道ミサイルで攻撃である
もちろんそれは最後の選択である。できるだけ生かして反政府勢力の身柄拘束が重要だ

「できるだけ生かして反政府勢力のメンバー確保を続けるのと」

もしクーデターに関与している勢力の人間から証言が得られなければ大きな問題になる
真相を闇の中に葬るわけにはいかない。真実を暴かなければならないことを誰もがわかっている
常に最悪のシナリオを想定して行動することが求められることはわかっている
安全確保のために影響は最小限にして対応する。今求められていることはそういうことである

「できるだけ早くベルカ州西部地方での騒動を止めないと」


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部3係主任捜査官執務室

ウルは情報端末を使ってある報道番組を見ていた。
その番組はクラナガン市内の近隣州の出来事を専門に扱っているニュース情報専門チャンネルだ

『クラナガン市政府は退役時空管理局員の生活保護申請について保護対象の枠組みに適合するなら承認すると発表』

『また、市内の新たな地下共同溝などを建設して郊外住宅や商業地区の都市整備を行うとも発表』

「公共工事が増えるね」

クラナガン市内にはまだ未開発地区が数多く存在している。
市内の郊外地域には数多くの都市整備ができる地域があるのだ
都市整備を行う上で電気ガス上下水道や通信設備に関わるライフライン設備、
つまり共同溝の建設は最も重要になってくる

『市政府は共同溝や各種ライフラインの他に道路整備などの建設費として70兆ミッドの財政支出をすると』

もちろんこのために使われる市政府の財政については市議会の賛成が必要になってくる
それだけに慎重な判断が求められてくるのだ
公共工事を行うことはしないで大きな経済的にいい方向に進む。
しかし少しでも読みが浅いとクラナガン市民が納めた税金の無駄遣いになることもある
慎重な対応が必要になることは誰もがわかっている。
今のクラナガン市政府は財政面では沈没することなどありえない
それほどまでに財源には十分な余裕があるのだ

『次元世界連合に存在する時空管理局調査委員会は時空管理局の黒い闇について徹底的に調べると発表』

時空管理局調査委員会は時空管理局の今までに活動した内容で大きな問題が起きていないかを確認する。
それを徹底的に調べつくすことが求められる

「本当に時空管理局の調査を行う彼らは大変だね。僕たちにもいろいろと関わることもあるけど」

捜査部にいれば少しは時空管理局や聖王教会に関係するトラブルに対応することが求められる
もしもに備えていつでも対応できるように捜査部捜査官は手順を理解している
時空管理局関係の中で最優先されるトラブルは汚職関係である。
以前から時空管理局の高官はかなりの汚職に絡んでいる事案はかなりの数に。
だからこそ次元世界連合は時空管理局関係のトラブルを対応することが必要だと考えている
必要なら次元世界連合に設置されている調査委員会、
あるいは各次元世界国政府の法執行機関とも連携することが求められる

「大きすぎる組織と権限の多さは問題だよね。しっかりと首輪を使って暴走することを止めないと」

彼の言う通りだ。組織というのは大きくなりすぎると暴走する
多くの権限を与えることは組織を大きくさせて腐敗の原因にもなる
だからこそ冷静な監視体制が必要になるのだ。そうしなければ再度組織は肥大化して暴走する
コントロールをする立場はしっかりとしつけをしないといけない

『ピーピーピー』

ウルの携帯電話に電話をかけてきたのは港湾パトロール安全保障局のカザーナ・ステージア局長からだ
彼女から直通の電話はかなり珍しいことである

「ウル・ミズノだけど、カザーナから連絡なんて珍しいだね」

『実は動いてほしい案件がありまして』

港湾パトロール安全保障局がこちらに依頼をしてくるなんて珍しいことだ
何か裏で大きな策略があるかもしれない。それを考慮して行動しないと極めて危険である

「何をしたらいいのかな?」

『ウル主任なら次元世界連合にコネはありますよね?』

そんなことはもちろん当たり前である。コネならたっぷりとある
捜査部3係のトップであるウルなら様々な所に人脈を持っている
連邦政府はもちろんだが。そのほかにも次元世界連合などの国際機関にもコネはある
時には国家最高機密にさえアクセスして調べることも可能だ

『闇の書事件の真相に関する報告書がどうなっているかはどうですか?』

そんなことなら問い合わせる必要すらない。すでにこちらには情報が提供されている
提供元は時空管理局の内部から漏らされた情報によるものだ
簡単に言えばスパイをしている潜入捜査官からである。今は時空管理局内には潜入捜査官はいない
聖王教会でもJS事件までは潜入捜査官が派遣されていた。JS事件後はすべて引き上げしている
こちらがわざわざ手を出さなくても、次元世界連合による調査が行われているので隠れて調べる必要などない

「その情報ならこっちにもう回されているから、すぐに提供するけど」

『さすがは捜査部ですね。シエル首席ですか?』

ウルは少し笑いながらもそれは秘密だねと伝えた。
それはつまりシエルが入手した情報であることを示している。
あえて名前を答えないのはトラブルを避けるためだ

「とにかく関連情報を含めてそちらに提供するよ。暗号回線で送るから解析はいつもの手順で」

ウルはそういうと情報端末を操作して関連データを港湾パトロール安全保障局に送信した


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中央パトロール本部庁舎 3階・4階中央パトロール管制センター

「市内にある魔力精製炉発電所は少しずつ発電出力が上がっています」

市内に存在する魔力精製炉発電所の発電出力は少しずつ上昇している
最大発電出力で発電されるには1日はかかる。時間との闘いである
水力発電所であれば最大出力になるまでは短時間でできるが、
火力発電や魔力精製炉発電は24時間ほどの時間をかけて出力を上げていかないと設備に影響が出る
管制センターの最高責任者であるフィガロ・アルマーダは魔力精製炉発電所の発電出力が回復しても、
何が起きるかは全く予想ができないことから警戒態勢を維持するように指示した

「本当に何が起きるか想像することができないな」

また魔力精製炉発電所の出力が急激に低下すれば大きな影響が出てくる
それについても警戒しなければならない。魔力精製炉発電所で発電される電力コストは極めて安い
それと水力発電所も低コストで発電できるが、火力発電所は燃料によっては発電コストは大きく変動する
それだけに警戒はしなければならない

『クラナガン市議会は上下院で同時進行という形で公共工事を行うために必要な財政支出について審議を開始』

5000兆ミッド規模の公共事業を行うのだ。市議会の上下院で審議を行い許可が出ないと予算捻出は難しい
市長といえどもしっかりとした民主主義による審議が必要である

『多くの市議会議員は賛成の立場を取りながらも、公共事業の内容について慎重に審理を行っています』

公共事業を行えば市内で多くの労働者の労働力が必要になる。
土木工事となると様々な職務に分かれて労働者が必要になることは間違いない
そして公共事業が行われるということは、一時的とはいえ仕事をする人材が必要になるのだ

『クラナガン市政府が運営しているクラナガン市準備銀行は金融市場に9000兆ミッドの他次元世界国の国債を売却』

『さらに売りオペが行われるのではないかという予想が金融市場では考えられています』

売りオペ、つまり資金吸収オペレーションにより金融市場内の通貨供給量を減少させる
景気の異常な加熱を押さえることに必死なのである。だから国内の通貨供給量を抑制することは重要だ
連邦準備銀行もそのために動いているがどこまでの効果があるかはわからない
ちなみにクラナガン市準備銀行が抱えている国債などの債券は10京ミッド相当になる
9000兆ミッドの他次元世界国の国債を売却しても問題はない。
クラナガン市政府の財政に与える影響は大きくはない

「金融市場ではまさにポップコーンだな。何が起きるかわからない。緊急事態に備えて対応しなければならない」

フィガロ・アルマーダの言う通りで、いつでも対応できるように行わなければならない
クラナガン市と近隣州で発電専門の電力会社であるクラナガンキャピタルパワー、
その企業では新たに600兆ミッドの社債を発行することになっている
社債発行の大きな理由はクラナガンキャピタルパワーが運営している火力発電の燃料調達だ
石油や天然ガスや石炭などの燃料調達コストが大幅に上昇したことから資金確保のために動いたのだ
また新たに水力発電所とダム建設のために使われる
魔力精製炉発電所だけに頼るのではなく分散型電源にすることが今最も求められている
分散をはかることで大停電になることを抑制することができるのだ

『南分署から中央本部。南区北部区域サウスイーストハーディー地区6番街で銃声がするとの報告あり』

その報告はハーディー地区のパトロール事務所から南分署に報告されたものであった
すぐに管制官が指示を出した。

「こちら中央本部。ハーディー地区事務所はすみやかに人員を配置して対応に当たれ。トラブル内容を大至急確認せよ」

『了解。迅速に対応するとともに臨機応変に状況に応じた方法で安全確保を行う』

市内で今はトラブルを起こされることはできれば最小限にしなければならない
何かあれば大きな問題になることはわかっているからだ
銀行などで立てこもり事案が発生していることから、他にも類似する事案が発生すれば対応に苦労することになる
そんなことになるだけは止めなければならない。小さなトラブルが時間経過に伴って大きな問題になってくる
それだけは阻止することが求められてくる

『ハーディー地区事務所から中央本部。サウスイーストハーディー地区に3名のパトロール捜査官が急行中』

派遣されたパトロール捜査官によると銃声は引き続き発生しているとのことだった
これはかなり危険な状態であるかもしれないとして、
中央パトロール管制センターは警戒して現場に向かうように命令した

「ハーディー地区の警戒レベルを最高レベルに引き上げて対応しろ。これ以上暴走されたら混乱が生まれる」

フィガロの指示に管制センターにいる管制官たちは了解と返答するとすぐに指示を出した
彼の言う通りである。市内でこれ以上危険な流れが生まれることは好ましいことではない。
状況が悪化するまでの問題解決をしなければトラブルがさらに発生することになりかねない
どんな手段を使ってでも問題解決を急がなければならない

『ハーディー地区事務所から中央本部。現場からの報告によるとアサルトライフルを乱射している者がいるとのこと』

「できるだけ生かして身柄拘束を行いように命令を出せ。最優先で対応することも同時に伝えろ」

フィガロは何としても生け捕りにするように指示した。
何かバックに大きな影響がある組織が絡んでいることを考えての判断だ
銃の乱射をすることになれば民間人の被害が出るかもしれない
被害を最小限にしなければ大きな問題に発展することも考えられる

「できればサウスイーストハーディー地区でのトラブルが最小限で済めば良いが」