午前10:02 中央パトロール本部庁舎 8階捜査部1係オフィススペース

フィリー・アクシオム捜査官はある事件の捜査報告書を作成していた。
ワンワールドバンクがクラナガン市内にある支店で起こしたトラブルに関するものだ

「ワンワールドバンクの不良債権がこんなに多かったら、証券取引委員会の捜査は苦労する事は確実ね」

ワンワールドバンクはミッドチルダ連邦だけでなく数多くの次元世界国に支店を持っているグローバル企業だ
それゆえに破綻の影響でかなりの大量と言えるほどの問題を抱えていることになっていた
銀行が破綻するというのは中小規模の金融機関でも経済的な影響は大きい。
まして、グローバル活動している金融機関が破綻すれば影響はかなり悲惨である
銀行に預けていた預金のうち利息が付く普通預金は1000万ミッドまでしか保護されない。
それ以上の資金を取り戻す事はかなり難しい。利息が付かない預金と当座預金は全額保護対象になる
仮に経営陣の責任を追及したとしても保証されることは必ずではないのだから
フィリーは破綻する前から違法な融資を行っていたことを捜査して刑事告発に踏み切った。
そこに追い打ちをかけたのはグループすべての企業の破綻だ。
ワンワールドバンクと付き合いがあった企業の財務状況は少しずつではあるが悪い方に転がっている
今後の事を考えると余計にだ。金融機関は預金保険機構に一定の額の保険料を払わないといけない
この預金保険機構では銀行などの金融機関から預かった資金を貯めておく。
特定の銀行が破綻した場合、その銀行が預金保険機構に預けていた資金から保護対象分の預金が顧客に戻る
だが1000万ミッド以上の預金に関しては戻る事はない。

「金を失った人間は最悪ね」

そう、生活に必要なお金が無くなれば人間と言うのはどんな手段を使ってでも確保しようとする
犯罪行為を行ってでも金を集めなければ自分達は生活することができないのだ
また時空管理局員は大量リストラで解雇された退役局員の中に時空管理局勤務時代に、
犯罪に関与していたことが立証され場裁判を受けて刑務所生活が待っている
刑務所に行きたいと望む者は存在しない。逃げ出そうとする者は多いだろう
逃亡生活には多額の資金が必要になる。だからこそ逃亡資金の確保のためにどんな行動をするかわからない

「フィリー。調子はどう?」

シエル首席捜査官が声をかけてきた。フィリーは順調に報告書を作成していますと答えた

「ワンワールドバンクの市内の支店で起こしたトラブルの報告書ができたら私のオフィスに」

そう言うとシエルは自分の執務室に戻った。フィリーは何かあるわねと思っていた。
ただ声をかけてきただけにしては言い回しが少しいつもと違った
彼女はシエルから何かとんでもないことを任されるのではないかと考えていた

「これで完成ね」

報告書はデータ保存と書類保存の2種類で保管されている
データだけではハッキングで改変される可能性があると懸念されて紙媒体での報告書も必要なのだ
報告書をプリントアウトすると最後に捜査担当者の欄にフィリーは自分の名前を記入した
それを持ってシエル首席捜査官の執務室に向かった

「意外と早かったわね」

「これも仕事ですから。ところで何か重要な話ですか?何か嫌な予感をするのですが」

「あなたには話しておくべきだと私は判断したの。これを見て」

シエルは1冊のファイルを渡した。そこにはある人物の顔写真と経歴が記載されていた
極めて事細かにである。

「なのは・高町を私の部下にしろと?」

そのファイルにはなのは・高町の個人情報が満載だった
プライバシーなど関係ないと言った感じで。

「本気ですか?私の過去を十分理解していますね」

フィリーは港湾パトロール海兵隊に入隊。
72年にある問題が発生した。時空管理局と軍事作戦において問題を起こしてしまった
当時はまだ時空管理局の力が強かったので、港湾本部長はフィリーを除隊させるしかなかった。
しかしそこに思わぬサポートが入ってきた。ユウ・ミズノ捜査長官が裏から手を回したのだ
港湾パトロール海兵隊を予備役兵にする形で籍は残して軍事部門から警察部門である中央パトロールに異動。
移動して最初の中央パトロールでの仕事は事務部の犯罪被害者救済担当官になった
さらに74年に中央パトロール本部捜査部に配置換えになった。
中央本部事務部に在籍していた頃に犯罪被害者救済担当課で数多くの犯罪被害者にケアをしてきた
そのため犯罪被害者の気持ちが理解していた。
特にレイプなどの性犯罪被害者の社会復帰のサポートに熱心だった
今も何人かとは連絡を取り合って話をしている。犯罪被害者の気持ちが分かれば捜査の大切さを理解できる
犯罪被害者にならなければその気持ちはわからない事は大きい

「私の古傷は分かっていますか。なのは・高町とトラブルになった事はシエル首席もご理解されているはずですよね?」

「ええ。だからあなたに任せたいの。厳しい風当たりに晒すことで生ぬるい体質から引き締める」

つまりシエルはなのは・高町がクラナガン捜査局に異動した時に相棒としてフィリーに組ませようと
そんな事はフィリーは必ず断りたいと思っている事は分かっている。
だが機動六課組をいつまでも時空管理局の部隊としておいておけば、
大きな問題の発生源となる事は政治的プレーを理解している者は分かっている
だからこそ時空管理局は機動六課組を切り離しをしたいと考えている事はフィリーもわかっている

「断る自由はあるのかお聞きしても?」

そんなものはないことは分かっている。
ワンワールドバンクの問題について捜査をするなら、今後は大きな問題になる事は確実だ
経済犯罪の捜査はかなり苦労する事は面倒なことに

「残念だけど、これは事実上決定している。私が上に排除を頼んでも強引に押し付けてくるはず」

今は我慢してもらうしかないわとシエルは答えた
つまり強制的にでも教導官役を引き受けさせられるという事だ
フィリーは大きなため息をすると貸しですよとシエルに伝えた

「わかっているわ。迷惑を押し付けることは理解しているから」

「それと私がなのは・高町をいじめているような強硬な態度をしても文句を言わないでください」

その言葉にシエルは分かっているけどほどほどにねと言うと退室を促した
なのはの個人情報が満載している人事資料に関してはそのまま預けられたままになった
シエルはフィリーが退室したのを見届けるとある人物に連絡した

『査察部のリズカス・ボーリンド首席査察官補佐です。シエル首席捜査官。何か緊急の案件ですか』

査察部は内部監査以外にも潜入捜査を担当するため、秘密が多い中央パトロールの部署である。
何名所属しているかだけでなく所属する職員の名前も機密扱いだ

「機動六課組の件についていくつか確認を。彼らを本当に捜査部で引き受けることに変更はないと?」

『もうすでに次元世界連合では決定事項です』

彼らも時空管理局に残り続けることは危険だと分かっていると思いますがとのことだ
時空管理局の暗黒に光を照らした機動六課組。
だが実態は多くの時空管理局員や関係者からかなりの恨みを買っている
それだけに慎重に慎重な対応が必要だ。

「時空管理局にいることで狙われる可能性はかなり高いの?」

『可能性としては十分考えられます。これは捜査部にしか頼めない事です。機密事項もありますので』

「本当に機動六課組の保護をする必要があると?時空管理局から狙われるならパージすれば良い話でしょ」

『そういうわけにもいかないのは理解していますよね?時空管理局の闇の部分の捜査には彼らの協力が必要です』

つまり完全に要請を拒否するような方策は失われているという事だ
彼らはそんなに注目されている事は知られていないだろう。

「機動六課組がJS事件に大きく貢献したことは把握しているし、時空管理局で問題を抱えているのは理解しているけど」

『とにかく保護する事は決定事項。シエル首席捜査官も嫌なのは分かっていますが』

「了解。何とか人選はしてみるけど、その代わりカーターには貸しよと伝えておいて」

分かりましたと査察部首席査察官補佐はそう言うと通話を切った
本当に厄介な問題である。予想よりも事の進むスピードが速いことは事実だ
今後の事を考えると対応に慎重さが必要になる。そこで情報端末を操作して経済専門チャンネルの番組に合わした

『世界最大のミーミルグループ企業の傘下にあるミーミルバンクがセントラルベルカバンクを買収すると決定』

セントラルベルカバンクは聖王教会の財政破綻に伴い破産寸前まで追い込まれていた
今は業務を引き継いでくれる金融機関を探していた。だがなかなか火中の栗を拾う金融機関はあらわれない
セントラルベルカバンクは聖王教会直轄企業だった。だが聖王教会が発行していた聖王教会債をかなり保有
その結果は言うまでもない。時空管理局差異が破綻したのと同じで聖王教会債も破綻した。
まだ破綻とは報道されていないが実質的には破綻状況と同じだ
連邦準備銀行は国内の金融不安のレベルを少しでも危険水域から下げるために
セントラルベルカバンクを買収してくれるところを探していた
ようやくそれがまとまったことで大きな影響は出ないで済むだろう
ミーミルグループ企業は数多くのグローバル企業の中でもかなり珍しく株式上場をしていない非上場企業だ
内情を調べるのはかなり苦労するが、決算の12月に決算報告書を公表していた
証券取引所非上場企業のため、決算報告をしたとしても金融市場への影響はそれほどない
また非上場株式会社という事もあり素早く買収などの決断をすることができる

『一方でセントラルベルカバンクにはワンワールドバンクほどでは無いが、かなりの不良債権が確認されている』

『ミーミルバンクは徹底的に不良債権を様々な形で債権を回収すると』

今にベルカ州内で大きなトラブルになるだろう。
セントラルベルカバンクは聖王教会関係者にかなりの金額を融資していた
融資を受けていた聖王教会関係者はセントラルベルカバンクから徹底的な財産差し押さえを食らっていた
その影響で融資を受けていた人物の財産は徹底的に押収していた
財産の差し押さえでセントラルベルカバンクが融資した金額の7割ほどしか回収できていなかった
つまり残りの3割が回収不能な債権という事になる。
3割に占められる債権は聖王教会債と時空管理局債を担保とした融資だ
融資を受けた人物は聖王教会債や時空管理局債の利息分を稼ぐためにセントラルベルカバンクから金を借りていた
しかしJS事件後に時空管理局債と聖王教会債の取引価格が大幅に値下がった
その影響は融資を受けた人物に直撃した。融資を受ける時の担保として債権を登録していた
しかし取引価格が下落したことによって担保不十分になっている。
おかげでセントラルバンクはかなりの不良債権を抱えることに

「ミーミルバンクは徹底的に締め上げることにするでしょうね」

セントラルベルカバンクから融資を受けていた人物の多くが自己破産を申請していた
破産が認められたら借金は帳消しになる。もちろんペナルティを受けることに。
それでも借金で動けない状況になるくらいなら破産申請をした方がまだ良い
シエルは再び経済専門チャンネルの報道を見ていた

『破産者の急増によってセントラルベルカバンクやワンワールドバンクの問題はかなり酷い状況になっています』

『また他の多くの銀行で同じようなトラブルが多発しています』

『連邦準備銀行はさきほど無担保コール翌日物取引に対して総額2京ミッドの資金を出すと表明』

無担保コール翌日物とは銀行などの金融機関同志の取引で行う時に使われる金融市場だ
翌日物という事だけあって、今日借りたら翌日には返済する。
金融機関が急に資金が必要になった時にここで資金調達を行う
通常時では連邦準備銀行が絡んでくることはない。
だが今はワンワールドバンクやセントラルベルカバンクの破綻。
それによって無担保コール翌日物の取引でも互いの金融機関の内情を危惧して、
資金の出し手がいないのが現状である。そこで中央銀行であるミッドチルダ連邦準備銀行が資金を出すのだ
いわゆる最後の貸し手の役割を果たそうとしている
コール市場を安定させるべきという判断から2京ミッドも資金を出しているのだろう

『ピーピーピー』

「首席捜査官のシエル・ミズノよ」

『届出受付センターです。お忙しいところ申し訳ないのですが捜査部に手が空いている捜査官はいますか?』

1階の事件事故の被害届を受け付けている届出受付センターからの電話だった
何かトラブルが起きた事は間違いない。そうでなければ捜査部の捜査官を呼ぶはずがない
いったい何があったのかシエルは詳細な情報を確認した

『男子中学生が被害届を提出に来たのですが。その事案内容にかなり複雑な問題が』

「性犯罪関係という事かしら」

『こちらにすべてを言わせないでください。ですが内容は当たっています。担当はどうします』

男子中学生はかなり怯えているのでとのことだ。
性犯罪でレイプされたら女性はかなり深い心の傷を作ってしまう
ましてまだ幼い子供に手を出すとは侵してはならない鉄の掟を破ったのだ
男性が被害者である男子中学生に性的嫌がらせをした場合、最低でも仮釈放ありの終身刑。
下手をすれば死刑が下される場合もあるのだ。また子供への性犯罪行為は犯罪者の中でも侵してはならない一線だ

「すぐに手配するから8階捜査部まで案内を」

了解しましたと届出受付センターの事務官は言うと通話は終わった。
シエルは執務室から出るとフィリーのデスクスペースに向かい事件捜査の担当を依頼した
彼女なら得意分野の捜査だ。犯罪被害者救済担当官をしていたのだから当然ではあるが

「わかりました。事情聴取も女性の方が安心感を確保できますから」

性犯罪捜査はかなり突っ込んだ質問をしなければならないため、
パトロール部の女性刑事や捜査部の女性捜査官が担当することがほとんどだ
パトロール部とは刑事課・麻薬捜査課・路上犯罪課・組織犯罪課など、
様々な犯罪で特定の捜査に特化した専門部署の捜査を行っている。
中央パトロールでは各分署に設置されているパトロール課はパトロール捜査官が所属。
ただしすべてのパトロール捜査官を分署の広さ面積では確保されていないため、
地区パトロール事務所にパトロール捜査官が配置されている
刑事課や麻薬捜査課などパトロール課以外の部署は基本的には刑事という役職になる
性犯罪を担当する部署は基本的には刑事課になるが、
今回は中学生と言うことは児童ポルノに該当するかもしれない
こういったケースでは児童ポルノ捜査課が担当することもある。
男子中学生は両親と案内役の女性パトロール捜査官と一緒に8階捜査部フロアまで上がってきた
フィリーは事情聴取をする前にいくつかを確認する必要があったので両親に許可をもらうことにした

「捜査部1係のフィリー・アクシオム捜査官です。お子さんのお名前をお聞きして良いでしょうか?」

フィリーは優しく声をかける。
精神的ショックがあることが予想されるだけに慎重な聞き取りが求められる
こういう時に犯罪被害者救済担当課で少しでも勤務していたら、
被害者から事情の聞き取りに関して講習を受けることが求められる。
そして聞き取りに関して試験をクリアして初めて犯罪被害者救済担当課の正式な職員になれる

「私の息子の名前はレイス・コーリックです。今は中学2年生です」

フィリーの質問に母親が答えた。男子中学生は少しまだ怯えている様子があった
そこで事務部犯罪被害者救済担当課から職員をこちらに手配した

「ではこちらへ」

フィリーは子供と両親揃って事情聴取をするために取調室に向かった
捜査部のフロアには取調室が3部屋ある。部屋に入るとフィリーはレイス・コーリック君から話を聞き始めた
その話によると、今日の学校への登校途中に急に車に押し込まれて誘拐のような真似をされた。
車で倉庫のような施設に行き、そこで性的な嫌がらせを受けたとのことだ
酷いなんてものではない。性的被害を受けたまだ中学生に、事実を受け止めることなどできるはずがない
こう言った案件で最も難しいのはどういう行為を受けたのかを聞かなければならないところだ
ただでさえ精神的ショックを受けているのに、再度ほじくり返すような真似をしなければならない
嫌な犯罪ランキングベスト3に入る分類の事案である。その時取調室のドアがノックされた。
フィリーは子供と両親に少しお待ちくださいと伝えて、1度取調室のドアに向かった

「遅くなって申し訳ないです」

ドアをノックしたのは女性で事務部犯罪被害者救済担当課の救済担当官をしているクーレ・テイユだった
彼女は幼い頃に人身売買の被害者になりクラナガン市に密航させられた。港で偶然にも発見されて保護された。
その後、中央パトロールの犯罪被害者救済支援を受けてミッドチルダ大学クラナガン校の心理学部に入学。
卒業した後は犯罪被害者救済担当官として数多くの被害者のケアをしてきたプロだ。
フィリーは少し待っていてというと再びコーリック君から話を聞いた
だが声が明らかに震えていた。そのためフィリーは精神的ショックの方が強いと判断。
事情の聞き取りはここまでにしてクーレ・テイユに精神的ケアを依頼した
それと1階の医務室でコーリック君が来ている服をすべて証拠品として預かるように指示した
着衣に精液が付着していたらDNAが採取できる。
小児性愛は行動をやめることができないので前歴がある事は多い
彼も今着衣を着ている服を脱ぎたくて仕方がないはずだ。
『汚された』服を着用するのは嫌だと考えるのは当然の反応
DNAを採取できればすぐに犯人は見つかるだろう


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東区東部区域 セントラルクラナガン貨物ターミナルから港湾パトロール本部貨物駅

レックスが港湾パトロール海兵隊と一緒に警備している貨物列車は順調に港湾本部基地に向かっていた
警戒態勢はかなり厳重だ。人工衛星やヘリからの監視によって常に警戒されていた

「本当に爆弾と一緒は嫌だな」

命がいくつあっても足りない仕事ではある。おまけに給与は安い
だが使命感があれば、人々を犯罪から守るという使命感があるからこそ安月給でも頑張るのだ

『港湾本部から貨物列車警備チームへ。現在のところ異常は確認されていないが警戒監視を怠るな』

無線では港湾本部と呼ばれているが、正確には港湾パトロール統合司令センターから無線連絡が来る
港湾パトロール司令センターは港湾パトロール本部の中枢で、艦隊・海兵隊・飛行隊の指揮命令管理を行っている。
センター内には、正面に中央大型スクリーン・その左右に八の字の様に大型スクリーンが設置されている
中央スクリーンのレーダーマップは、レーダーサイト・各艦船レーダー・早期警戒管制機の情報等を合成して作成している
各管制官は担当区域の状況把握しながらパトロール艦等に指示、必要であれば民間航空機に対して注意・警告を与える。
貨物列車の警備についても一部を担当している。
基本的にはセントラルクラナガン貨物ターミナルまでは中央パトロールと港湾パトロールとの共同で行う。
だがセントラルクラナガン貨物ターミナルから港湾パトロール本部貨物駅の間は港湾パトロールに完全移管する

「何もなければ良いんだが」

セントラルクラナガン貨物ターミナルから港湾本部貨物駅間の鉄道路線には危険物センサーが設置されている
そのため常にこの区間は港湾パトロールが監視している。
それと線路は確かに基地内と基地外を繋がっているが、常に港湾パトロール海兵隊員が警備している
簡単に侵入する事はまずできない。海兵隊員はアサルトライフルで厳重警戒しているから
近くで写真を撮るだけでもすぐに職務質問を受けるほど厳しい監視下に置かれている

『中央本部からSA30。現在のところは問題はないか?』

「現状では異常は確認されず。引き続き警戒態勢を続けていく」

『了解した。警戒態勢を維持せよ』

警戒するのは当り前だ。爆弾と一緒に心中したくはないのだから。
それにまだ死ぬには早すぎる。スリルのある楽しい『人生』を過ごすのは最高だ

『港湾本部から中央本部捜査部のSA30へ。応答せよ』

「こちらSA30。港湾本部へ。何かあったのか?」

『護衛協力に感謝します。港湾本部貨物駅まで警備を。積み荷の安全確認についても協力していただけますか』

「そちらの指揮下に入る。再度報告。SA30は港湾本部の指揮下で動いている」

レックスは無線交信をしながら警戒態勢でいた。
H&KG36をいつでも発砲できる状況にいた。貨物列車は時速70kmで走行していた
コンテナを乗せることができる貨車は全部で30両ほどある。
ディーゼル機関車が引っ張っていた。コンテナには大量のミサイルや銃火器が積み込まれている。
その他に基地内にあるショッピングセンターで販売する様々な商品も積み込まれていた。
軍事物資から生活物資まで様々なものが貨物線を使って運ばれている
港湾パトロール本部貨物駅に到着したらすぐにコンテナを降ろす作業に取り掛かる

『引き続き警戒監視を行うように』

了解と返答する直前に急ブレーキがかかった。
貨物をけん引しているディーゼル機関車のブレーキだけでなく貨車のブレーキも作動した
よほどのことだ。

「こちらSA30。何があった?」

『前方で子供が』

瞬時に判断した。罠であると。

「衝撃に備えろ!」

次の瞬間、レックスの前方から爆風が来た。
何かが爆発した。それだけは事実だ。

「SA30から中央本部。港湾本部基地行きの貨物列車に攻撃を確認。大至急応援を寄越してくれ」

『了解した。すでに上空で見張りをしていた海兵隊員が降下している。貨車を守れ!』

もし貨車の弾薬まで爆発したら被害はこの辺りに爆心地ができる。
そんな事をさせるわけにはいかない。その時前方から銃声が聞こえてきた。
どうやら完全に的にされている。このままでは危険だ。
そこに港湾パトロールがメインで運用しているMH‐60R(シーホーク)が4機も上空で旋回している

『これより港湾パトロール海兵隊を降下させる』

「下は危険だ。降下中に狙われる可能性がある」

『その貨物列車のコンテナには我々にとっては重要なものが含まれている』

あとはこちらで処理すると強硬姿勢でヘリに乗っている海兵隊員が伝えると素早くロープで降下
スムーズに現場を制圧した。さすがは歴戦の兵士だ。動きに無駄がない

「こちら中央本部SA30。港湾本部。今後の指揮管制についての判断を要請する」

レックスは誰の指揮下で動けばいいのかと聞きたいのだ。
今は現場に指揮権を持つ者が多くいる。対応は慎重にしないといけない

『こちら港湾本部。指揮権は現場にヘリで到着した海兵隊の隊長に委ねる。中央本部SA30は海兵隊隊長の指揮下に入れ』

「了解した」

港湾本部の指揮下に入って行動せよとのことだ
これは警察権ではなく軍事的対応にある事を示していた


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西区中央区域 中央パトロール西分署庁舎 7階未成年犯罪課オフィス

クレスタ・ヴァンガードがここに来ていた。ある子どもの面会に来たのだ

「ヴァンガード捜査官。もう少しお待ちください」

クレスタはあるファイルを見ていた。
そのファイルには身元保護者に関する情報が記載されていた

「またトラブルを起こしたな」

子供の名前はカール・フォラス。14歳。両親はどちらも刑務所に収監されている
クレスタがカールの両親を逮捕したのだ。カールの目の前で。両親は麻薬密造をしていた。
麻薬に品質などあるのかと評価されると難しいが。両親は1か月に50万ミッドも稼いでいた
密造していたのはメタンフェタミン。そして両親も常用者だった。
両親が逮捕された当時は12歳。両親は共に懲役5年の刑罰が決定した
カール・フォラスは民間のミーミル財団が西区で運営しているティアイエル保護孤児院に。
クレスタは毎月1回は面会している。だが両親を失ったことで、反発的な行動をすることがかなりあった

「今回はスリか。いい加減にしろ」

しかしカールは悪気が全くなさそうだ。
クラナガン未成年犯罪法では7歳未満の子供が起こした犯罪は法律上の責任はない
8歳以上から14歳未満の子供が犯した犯罪行為は家庭裁判所で裁かれる。
罪状がつく刑事訴追とは少し異なる経過をたどる
14歳以上で17歳以下の子供が犯した犯罪で軽犯罪行為者かあるいは初犯の場合は罰金刑で済む
しかし、重犯罪行為者は刑事訴追として裁かれる。また初犯ではない者も同じように刑事訴追になる
刑事訴追された子供に関しては最長でも21歳までは収監される
21歳まで刑務所で収監されて22歳になった者は釈放になる。
ただし数年の執行猶予などのペナルティはついている。
出所後、また犯罪を侵したら今度こそ重い刑罰が科せられる
カールに当てはめると今回ばかりは罰金刑では済まない。初犯ではないからだ
刑事訴追されることになる。

「今回ばかりは刑事訴追だ。刑務所で暮らすことになるからな」

クレスタがそう言うとカールは好きにすれば良いと。
態度から見てまるで自暴自棄になっている。両親が刑務所にいるからだろう
両親を逮捕した時にカールの血液検査をしたところ、微量のメタンフェタミンの成分が検出された
まだ当時12歳の子供が麻薬に触れる環境下にいたことそのものが大きな問題だ

「別に俺は刑務所に行ったところで変わらない」

少しでもまともな道になってくれたらよかったのだが。
状況は良くない方向に進んでいることは間違いない
刑務所に収監されるだけの度胸があるならもう止めたところで無駄だ
個室でじっくりと頭を冷やしてくるんだなと言うしかないのだ。
刑務所はすべて完全個室だ。生きた状態で外に出るのは裁判所に行く時、もしくは釈放・保釈された時だけ。
そして最後の1つは死刑になって棺桶で送り出される。このとき以外は基本的に外に出ることはない

「少しはまじめに考えろ。刑務所で数年間は個室で暮らす。自由はないんだ」

「俺はもうどうなっても良い!」

カール・フォラスは完全に自暴自棄の状況にあるようだ。親が逮捕されて嫌な目で見られてきた。
学校に行っても犯罪者の子供だという冷たい視線が子供の心には辛いところだ

「俺が弁護士をつける。有能な弁護士だ。俺ができるのはこれが最後だ。後の人生を良く生きるか。悪事に走るか」

それはお前の決断次第だと言うと面会を終えた。
あとの決断はカール・フォラスが決めることだ。悪事を続けて犯罪の道を歩むか
それとも少しは態度を改めて犯罪を犯すことなく生きていくか。
クレスタは西分署庁舎から駐車場棟を結んでいる連絡通路に向かった。
駐車棟に止めているSUVに乗り込み中央本部に戻りながらパトロールもする
クレスタは車に乗り込むとエンジンキーを始動させる。
発車すると車棟から出ていき周囲を警戒しながら走行していった
近くにあるクラナガンハイウェイ8号線(西線)東行きに入る。
スピード違反車両がいないか確認しながら走行していった
クラナガンハイウェイの最高制限速度が時速120kmなので、
これを超えるほどのスピード違反車両はほとんどいない
それ以上の速度を出しての走行になると事故を起こすか、
あるいは誘発する事をドライバーはよく理解している

「平和だな」

クレスタはそう言いながら無線にも耳を傾けてクラナガンハイウェイ8号線を走らせていた

『西分署から各員へ。西区東部区域クラナガンハイウェイ8号線東行きで事故情報を受電中』

無線に耳を澄ましながら運転も維持していた。
事故車両はタンクローリーとのことだ。それも軽油を積み込んでいる。
もしタンクローリーに火がついたら吹き飛ぶ可能性がある
クレスタはすぐにワーニングライトとサイレンのスイッチを入れた

「SA23から西分署。大至急交通規制を展開。事故現場の手前のハイウェイ出口から一般車両を地上道路へ降ろせ」

『すでに展開中。事故現場の指揮権を預けて問題はないでしょうか?』

クレスタは問題ないと答えた。

『了解。現場指揮権はSA23に移管する。現在救急車が4台向かっている』

「魔導師消防隊の手配をかけてくれ。緊急で要請する。タンクローリーが爆発する前に安全確保したい」

魔導師消防隊とは時空管理局の地上部隊で消防救急などの分野で活動していた部隊で構成されている。
もちろん正式に入隊するには過去に違法行為をしていなかったことが条件である
消防や救急などの人間はほとんど不正行為に関与していないとして消防隊や救急隊に雇用されている
しかし防衛に関する部門の隊員に関しては余剰人員が過剰であったことは否定できなかった。
また国家安全保障の観点から各次元世界国の国防に関与する事はほとんど認められていない
そう言った人材が再就職が難しくて、生活苦になっている。
元時空管理局員というだけで良い目では見られることがないのが現実だ

『こちら西分署。魔導師消防隊の派遣を消防局に要請します』

正確にはクラナガン市消防局という。
クラナガン市消防局の下部組織として各区にそれぞれ消防本部が1カ所設置されている
それとは別に火災捜査を専門に扱っている火災捜査本部が設置されている。
クレスタが現場に到着する直前では大きな問題が発生した。
タンクローリーの前方から煙が出ていた。危険指数は一気に悪化した

「SA23から西分署。タンクローリーから煙が出ている。周辺に警戒ラインを敷いてくれ」

『直ちに警戒ラインを設定する。現場での消火対応は消防隊に任せるように。魔導師消防隊は3分で到着』

3分間の間に問題が拡大しなければ良いのだが。
だが状況はかなり悪化の方向に進んでいることは間違いなかった
タンクローリーの運転席部分から小さな爆発が起きた
エンジンに火がついたようだ。このままでは状況は悪くなるだけだ。
何か手を打たなければ大きな問題になる事は確実だ

『西分署からSA23へ。タンクローリー火災現場付近の交通を完全にシャットアウト。魔導師消防隊はまもなく到着』

そこに飛行魔法を使った魔導師消火隊が到着。タンクローリーのタンク部分を中心に氷漬けにした
燃料に引火しなければ爆発する事はないだろう。そこにヘリでレスキュー隊が到着した

「SA23から西分署。クラナガンハイウェイ8号線の事故現場への民間人と民間車両の立ち入り規制を」

今は氷漬けにされているがいつ火がつくかはわからない。
もし1度でも火がつけば燃料タンクに積載されている軽油で大爆発を起こす
そんな事態を起こさせるわけにはいかないのだ
現場ではタンクローリーの運転手と思われる男性がパトロール捜査官から事情聴取を受けていた
クレスタも現場に到着すると車は完全に氷漬けになっているので爆発はないだろう
だが運転手から事情を聞いて確認作業をしなければ危険だ

「捜査部のクレスタ・ヴァンガードだ。タンクローリーはどこに運ばれる予定になっている?」

パトロール捜査官が事情聴取をしている運転手に確認した。
結果は西区東部区域にあるガソリンスタンドであった
ミッドチルダ連邦では自動車や工場などで発生した大気汚染や水質汚染など、
さまざまな惑星汚染物質の除去フィルターが汚染物質発生源の場所に設置が義務とされている。
このフィルターによって自動車や中小工場から大規模工場から排出される惑星汚染物質、
惑星温暖化物質・惑星汚染物質をほぼ全部が排出されないようにすることができる
この除去フィルターを使う事で石油や石炭などの化石燃料を使っても、
惑星温暖化物質・惑星汚染物質が排出されないシステムになっている
今までは石油・天然ガス・石炭などのエネルギー資源価格はそれほど高くはなかった
しかしJS事件後になってAMF装置が開発された。
これにより魔力精製炉発電所に大きな影響が出ることが発生した
そのため、発電所設備が魔力精製炉発電の1種類に限定することが多かった各次元世界国
これはミッドチルダだけでなく他の他次元世界国でも同じだ。
今は様々なリスク分散のために火力発電所が建設された。
そのためエネルギー資源価格が上昇した。
国内の各州にある商品取引所では原油やそれを製油する過程で発生したガソリンなど、
石油精製製品の取引価格は原油価格が上昇すると連動して上昇する傾向にある
事故が発生した経過を確認したところ、走行中に急に変な音がしたので路肩に退避
その直後エンジンルームから煙がかなり出たので通報したのだ

「SA23から西分署。タンクローリーに積み込まれている軽油を別のタンクローリーに移したい」

『了解。できるだけ素早く対応できるように手配します』

「SA23から中央本部へ通達。テロ警戒の査定を行うように要請する」

クレスタは西分署との無線から中央本部との無線に回線を切り替えた

『本気ですか?』

テロ警戒となると状況はあまり好ましくない
あくまでも査定されて許可が出れば、テロ警戒を発することができる。査定とはその審議を求めたのだ
正式なテロ警戒情報を発信するには基準を超えているかどうかが重要である

「確認のために実行をするべきだ」

『中央本部からSA23。直ちに審議に入る』

「できるだけ早く判定してくれ」

『ピーピーピー』

クレスタの携帯電話に電話がかかってきた
発信者はFBIの友人の知り合いのボリス・カトーンからだ

「ボリス。調子はどうだ?」

『こちらは毎日寝る暇もないくらい忙しい。時空管理局が関与したと思われる犯罪捜査が1日に何件あると思う?』

「10件か」

『1日で100件も増える。それも本当に事件なのか確認するのかに手間取る。苦労するのはわかるだろ』

そいつは大変だとクレスタは返事をするとさっそく内容に入った。
わざわざ連絡してくるくらいだ。何か協力かそれとも事件の移管手続きか

「それで何か動いてほしいとは言わないだろうな?」

『そこが肝心なところだ。ある案件について調べてほしい。こちらが表立って捜査をすると勘づかれる』

「FBIが手を出して問題がある事案とは具体的にはどんなケースだ」

FBIとクラナガン捜査局は連携して捜査をすることはかなりの数になる
彼らのほとんどはクラナガン捜査局の前身組織であるクラナガン捜査部時代にユウ・ミズノ捜査長官と捜査をして、
今はFBIで教導捜査官として活動している者が多い。
そのためクラナガン捜査局との関係は良好なものを維持しながら捜査に取り組んでいる

『今タンクローリーの交通事故を起こした人物をすぐに拘束してくれ』

「理由は?」

『国家安全保障上で重要な人物だからと。とにかく確保してくれ。令状はこっちで用意する』

それでは身柄拘束するには少し状況が弱い。そこでボリスはある法を適用するようにと提案した
その法とは犯罪組織対策法。連邦政府が指定した犯罪組織と個人に簡単に通信・銀行口座の調査が認められる
現在国内外問わず1000近い組織と個人が犯罪組織対策法で指定され、リストに載せられている。通称[ブラックリスト]
リストはネットで公表されており、不当である場合は連邦裁判所に申立が可能となっている
その法を適用するという事は国家安全保障上において重要な人物という事はよほどの人材なのだろう
裏で大きな活動をしている時空管理局の暗部であるHRの幹部か
あるいは聖王教会関係か。もしくは反政府組織の幹部。どれにしても国家安全保障上重要な人物だ

「貸しだぞ」

『わかっている。身柄は中央本部に移送しておいてくれ。後で俺が引き取りに行く』

「頼むぞ」

クレスタはそう言うと通話を終えた。パトロール捜査官にとりあえず身柄拘束するように指示
犯罪組織対策法のブラックリストに登録されている組織と個人なら正式な令状がなくても拘束できる

「お前を逮捕する。罪状は犯罪組織対策法に基づくものだ。詳しい事は中央本部に連行してから聞き取る」

パトロール捜査官に連行を指示してパトカーの後部座席に乗せた
そして中央本部に連行させた。その後の身柄の扱いに関しては中央パトロール管制センターに連絡
身柄引き渡しに備えるようにとも指示した

「あとはなぜ火災が発生したかだな。テロの前兆でなければ良いのだが」

火災捜査にはクラナガン市消防局の下部組織である火災捜査本部の担当だ
だがテロなどの発生が予想される場合は火災捜査本部とクラナガン捜査局。
その他にもFBIなどの連邦捜査機関とも共同捜査になる
テロなら管轄権でもめている暇などはない。管轄する専門に特化して捜査を行う
そうすることで安全保障の確保を行い、国民の生活を守るのだ

「それにしても軽油をこれだけ大量に爆薬として使われたら最悪だな」

それが実行計画にあったなら止めることができたのはラッキーだとクレスタは思った
都会のど真ん中で給油所を使った爆発テロを起こされたら末路は最悪だ
仮にそれが実行されるつもりでなくても、何かを押さえることができれば儲けものだ
とりあえず事故対応に関していくつかを確認するためにクレスタは車に戻った
車載情報端末を利用していろいろな情報を確認した
その中でワンワールドバンクのニュースが報道されていた

『ワンワールドバンクが破綻したことにより、当該銀行預金の預け引き出しが停止されました』

『今後の事を考えるとワンワールドバンクと結びつきが強かった企業にも影響が出ることは事実です』

本当に経済的に追い詰められているのは現職の時空管理局員や退役時空管理局員だけではない。
時空管理局と取引があった物資納品企業や天下り先として利用されていた企業にまで影響が出ている
状況は最悪とも言える。すでにいくつかの企業からは時空管理局から随意契約で物資を収めていた企業、
そういったところではその通常よりも高い金額の一部を時空管理局に隠し金で還元させていた
酷いなんてものではない。時空管理局財務部門はそう言った還元によって裏金を作り続けてきた
次元世界連合時空管理局調査委員会の調査で裏金の総額は数千兆ミッドにもなっている
全ては自らの私腹を肥やすためや時空管理局権限強化のためにそれらの裏金は利用されていた

「どこの組織も金があれば暗い汚点のいくつかはあるものだな」

歴史がある組織と言うのは厳しい自浄機能が効かなければ、必ずどこかで腐敗してくるのだ
それを阻止するために強制力のある内部の調査を専門とする部門がなければならない
時空管理局にもあるにはあったが、あまり効果としては薄いことは事実だった
それでは意味がないのだ。時には毒薬という名の強硬策が必要なのだ
ちなみにクラナガン捜査局には数多くの内部調査を担当する部署が設置されている
中央パトロールと空港パトロールと港湾パトロールには査察部。
さらに別の内部調査を担当をする部門の部署があり港湾犯罪捜査部や陸上パトロール課などがある

「腐りきった組織はどうしてなくなる事がないのだろうな」

1つだけでも良い。組織でも正常化する部署があれば少しは状況が変わったかもしれない
でもその正常化するための組織があったとしても機能していなければ意味がない
ただの形だけの部署になら組織として機能しない
しっかりとした強制力がある内部監査部門でなければならない
難しいことは誰もが分かっているがそれをしなければ組織は腐敗する
全ては組織健全化を保つためにあるべきなのだ。クラナガン捜査局では厳しい内部監査が行われている
少しでも不正行為の関係者は監査対象になる。ただし何事にも例外はある
司法取引等裁判所や潜入捜査で仕方なく必要な事であれば『ルール』を守ればすべては問題ない
厳しいルールではあるが。ルールに違反していないなら問題はない

『ピーピーピー』

発信者は中央本部査察部のトップ、カーター・ブレイン首席査察官
中央パトロールの全ての査察部の最高責任者だ。身元はすべて第1級機密事項だ

「カーター。何か不満な事はあるのか?」

『FBIから仕事を押し付けられたようだな。それにもう1件も抱えることになる事も知っているぞ』

もう1件とは機動六課組に関する事だ。その情報は捜査部捜査官なら誰もが把握している
できるだけことを穏やかに話を進めているようだが、実態はそういう関係はない
クラナガン捜査局と時空管理局は犬猿の仲だ。いやだったと言える
時空管理局の組織規模と権限が大幅に縮小されてからは時空管理局は一応静かになった

「機動六課に関する話か?連中は口封じにされる。このままいればな」

時空管理局を大きく縮小される菊花になった彼らを見逃すはずがない
何としても消そうと動くことは確かだ。その前に身元を保護することが求められる
だから中央本部捜査部で身柄を保護するのだ。表向きはそうなっている
実際は時空管理局の悪事について話してもらうことになる

「結末への道はまだ決まっていないが嫌なものになるだろう」

『相変わらず察しが良いな。だが機動六課組の受け入れに反対する者は多い。クラナガン捜査局員ならなおさらな』

「それは俺達も同じだ」

誰も不良債権の様な塊を押し付けられるなんて嫌がるに決まっている
でも任務だというならしぶしぶ納得するしかないのだ。常に忠実に忠誠を
ただし組織が腐敗しているなら正す事が求められている
正義を果たされなければ人々が安心して過ごすことができるはずがない
『正しい正義』とは人々が安心して犯罪に巻き込まれないように生活することである

『正義が実行されるには必要な事だ。違うか?』

「必要悪とでも言いたいのか?そんなものは言い訳にもなっていない。俺達が守るのは罪人じゃない。罪もない人々だ」

『正論で話をしたところでそれが通るわけではない。これくらいのことが分からないわけないだろう』

「それは理解している。仕方がないな。穏やかに事を進めるんだな。どうせラジェットには話は通っているのだろ?」

シエルに対して話が進んでいることは分かっている
捜査部ナンバー2のラジェットに話が通っているなら、捜査部の誰かが反論したところで無理なのだ
とにかく穏やかに話を進めているなら捜査部捜査官の多くは反論できるはずがない

『それはこれは機密事案だが機動六課基地の上空からは無人偵察機と人工衛星を使って監視をしている』

「港湾本部の意向ははっきりしていることは間違いない。機動六課への攻撃準備か防衛準備だろう」

『さすがは捜査部捜査官だな。よくわかっている。その通りだ』

港湾パトロールは時空管理局と聖王教会は仮想敵組織の扱いをしている
常に緊張感を持った対応するために必要な事である

『港湾本部港湾犯罪捜査部から中央本部SA23。緊急案件で対応してほしい』

港湾本部港湾犯罪捜査部から連絡とはかなり珍しい。何かまずい事案が発生したのかもしれない
港湾犯罪捜査部とは港湾パトロール関係者が関与した事件捜査を担当する部署。
またノースクラナガン港・セントラルクラナガン港・サウスクラナガン港等の港湾地区の警備
イーストフローレンス高度研究都市のパトロール・犯罪捜査などを担当している。
イーストフローレンス高度研究都市はクラナガン市の西隣にあるフローレンス州東部地方にある街だ
ここでは様々な最新技術開発が行われている

「内容を。無線周波数に関しては暗号回線で行ってほしい」

ここには大勢のパトロール捜査官がいる。彼らに聞かれるとまずい内容ならこうするべきだ

『わかった・・・・・・・・西区東部区域クルック地区にある聖王教会関係施設に関して攻撃予告があった』

西区には次元世界連合に出席するために多くの次元世界国の大使館が建設されている
彼らには公館不可侵権・公館課税免除・通信不可侵・国旗掲揚権・公館内治外法権が与えられている。
つまり大使館敷地内はミッドチルダ連邦の領土ではあるが、その大使館の国家の領域でもある
ただし聖王教会にはそれらの権限は認められていない。そのため令状1つを取れば簡単に立入捜査ができる

「令状はどうなっている?」

『すでにクルック分署に対して警報を出した』

クルック分署は西区東部区域にあるクルック地区とその近隣地区を管轄する中央パトロールの分署
国際政治のど真ん中にある次元世界連合のさまざまな施設警備も担っている

「すぐに向かう」

クレスタはそう言うと西分署に通告。
ここの現場指揮にはほかの担当者を手配するようにと

『こちら西分署。了解した。すぐに交通捜査課の刑事を派遣する』

交通捜査課は自動車事故はもちろんだが、そのほかにも航空機・船舶・電車など
交通事案の事故調査を連邦運輸安全委員会と行う交通捜査のスペシャリスト
こういう時は彼らに捜査指揮を任せる方が効率的である

「それとクルック地区の警備態勢はどうなっている?」

『現在クルック分署はさまざまな人員調整に入っている。SA23もそちらに向かうと?』

「内容その通り。現場引き継ぎ次第、クルック地区に急行する」


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西区東部区域クルック地区5番街5丁目 中央パトロールクルック地区警備庁舎 3階分署地域情報センター

捜査部2係のカレン・アリスト捜査官は分署地域情報センターでクレスタがこちらに来ることを知った

「クレスタも来るわけね」

『ああ。そこで頼みがある』

カレンにもクレスタに届けられた情報と同じものを把握していた
カレンは一体どこの連中が動いているのかクルック地区を中心に確認していた。
国際政治のど真ん中で爆発などを起こされるわけにはいかない。
それだけに安全確保は最優先で取り組む必要がある

『中央本部からクルック分署。警戒レベルをコード2に変更する』

コード2という事は特定の事案について、応援対応が必要なことを示すコード
もしコード1が宣言されると特定の事案について、大至急対応が必要なことを示すコードになる
今はコード2だ。それだけでも危険であることは間違いない

「仕事が忙しくなってくるわね」

クルック地区と近隣地区の警戒態勢は一気に高まる
それだけこの辺りで小さなトラブルであっても見逃すわけにはいかないのだ
どんなに些細な事であっても問題解決のために全力で対応しなければならない
ことを上手く運ぶためには必要ならどんな人物や組織も利用する
そのために大量の恩を売ってきたのだから。
次元世界連合が抱えている最大の問題は時空管理局債だ
時空管理局債の負債総額は100京ミッドだ。
それだけ大量の債務をどうやって処理するかが最大の課題だ
すでに金融市場取引価格は額面額に対して10%まで下落している
誰が債務の責任を背負うかが大問題である。まさか次元世界連合がすべてを背負うわけにはいかない
そこである考えが次元世界連合で議論する形で進んでいる。
時空管理局が保有する各次元世界国の基地を閉鎖した後に基地の不動産を含むの土地を売却することで、
時空管理局債の償還をしようというのだ。
時空管理局の各次元世界国にある旧地上基地には多くの優良物件とされる土地がかなりある
さらに市場取引価格が値下がった時空管理局債を次元世界連合が金融市場価格から買収
そうすることで少しでも時空管理局債の償還費用を安くしようというのだ
低価格で時空管理局債を金融市場から大量に購入。時空管理局債を旧地上基地の不動産を売却する事で償還する
上手く旧時空管理局地上基地の売却が進めば利益にもつながり次元世界連合の運営予算に組み入れることができる
今まで時空管理局は自分達が必要なお金が必要だからと言って、
何度も各次元世界国政府に好き勝手に予算歳出を求めていた。
今ではそういった事は認められていない。時空管理局の予算は次元世界連合で審議と決議される
今年の時空管理局の予算は大幅に圧縮。昨年よりも5割は運営費は削減された
最大の圧縮要因は人件費の大幅削減である。高給取りだった時空管理局員の給与水準を大幅に削減
さらに時空管理局へ物資を収める時には競争入札を行う。過去のように随意契約での物資調達は行ってはいけない。
競争入札をほぼすべての物資調達に切り替えたことでコスト削減にかなりの貢献をしている

「私達は安月給なのに毎日必死になっている。使命感がなければできない任務だけど」

クラナガン捜査局にし属するすべての人々は給与が安くても人々を守っているという使命感がある
だからこそ任務遂行ができるのだ

「それにしても面倒な案件になりそうね。この国際政治のど真ん中でテロでも起こされたらこっちに大きなダメージ」

カレンの言う通りだ。問題が拡大する前に止めなければならない
だがそれほど時間的余裕がないことも事実だ。
もしテロをするつもりならテロリストは警備が厳重だろうと行動する
自らの力を固持するためにも、明確な態度を示すことで問題解決の時間的余裕を与えない
そう考えているかもしれない

「とにかく今はこのクルック地区と近隣地区を守らないと」

ここを守らなければ国際政治に大きな影響が出る。
そういった多くの国家の行く末を決める次元世界連合の建物。
関係庁舎の建物を守らなければ、ミッドチルダ連邦としてのプライドが傷つけられたも同然だ
それだけにクラナガン市内にある次元世界連合の関係施設を守るのは当り前のことである

「予測される反政府組織に対しての行動警戒を発令して」

中央パトロールでは反政府組織が様々な活動をしたことに備えてのマニュアルがある
さらに定期的に訓練をしているので問題はない。
警戒指令が出たら反政府組織等への警戒レベルも引き上げられる
守るべきは罪なき人々である。そのためにはあらゆる行動を実行する

「良いのか?そんなことをすると後が怖いぞ」

「私を誰だと思っているの?金庫破りの達人であり、ハーディー地区出身よ。汚れた社会を見て育ってきた」

必要ならどんなことを使っても問題解消するとカレンは少し自信があった
港湾パトロール海兵隊で2年間訓練を受けて最後の階級は少尉。今は予備役兵
海兵隊で多くの資格を得た。戦闘機やヘリのパイロット資格も持っている
港湾パトロール海兵隊で鍛えられているので状況判断能力も高い
素早い決断が罪のない人々を救うことになる

「とにかく今は任務遂行が最優先よ。何としてもクルック地区の安全を守らないと」


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クラナガン自然保護区 中央区域 クラナガン自然保護センター庁舎 4階分署地域情報センター

クラナガン自然保護区は市の南西部にあり、ラクロス州・フローレンス州との境界になっている。
ミッドチルダ環境保護庁・クラナガン自然保護庁・中央パトロール本部が共同で管理している
新暦65年まではクラナガン市内とされていた保護区面積は[ 東西10km×南北10km ]しかなかった
それまではラクロス州・フローレンス州にもまたがっていた。
しかし、山脈で実質的には隣州とは切り離されていた。
そこでラクロス州・フローレンス州・クラナガン市政府が協議し、州域再検討委員会で山脈を州境として制定した。
保護区を取り囲むようにには3000m級の山々が聳えている。
ただし区域北東部、本来のクラナガン市側の面積分には山脈はない。
保護区内には[ 湿原・草原・森林地帯 ]があり、数多くの野鳥・クマ・オオカミ等の動物が生息している。
温泉が湧き出している場所が100以上あり、地熱の影響で平均気温は少し高い。
冬でも凍りつくことはない。さらに自然保護区内にはいくつもの地熱発電所が設置されている
発電の時に必要な燃料は基本的には無尽蔵に供給されてくる。
安定した熱源供給源さえ確保されているので、再生可能エネルギーである。
必要コストは発電設備維持の費用だけ。安価で安定的な供給される発電所
自然保護区には地熱発電所が3カ所ある。1ヵ所当たりの発電能力は4000万kw。
それが3つにもなるのだから自然保護区内にある地熱発電所の発電能力は1億2000万kwにもなる。
そんなクラナガン自然保護区にある分署は他の分署とは少し任務が異なる。
自然保護区分署は貴重な動植物の保護のために毎日のように密猟行為をする者から守っている
そこに捜査部3係のエイミー・ドンラック捜査官が来ていた。
ある植物の密猟が行われているとのタレコミがあったのだ
もちろん匿名のタレコミなのでどこまで正確なのかはわからないが確かめる必要はある

「本当にこんな警備体制ばっちりのところで密猟するなんてバカな事を考えたわね」

自然保護区内には数多くの街灯観測システムが設置されている。
ちなみにこの自然保護区にある街灯観測システムは太陽光発電設備が組み込まれているので送電線は必要ない
送電線を整備するとこの自然保護区にある動植物に影響が出るためである
街灯観測システムで観測した情報は人工衛星を経由する形で多くの部署に送られる
全ては貴重な動植物を守るためである。珍しいわけではない。密猟という行為は
1日で何件も確認されている。動物だけでなくこの自然保護区だけにしか生育していない植物も、
彼らにとっては貴重なもので高値で売り飛ばすことができる。
ただの金のなるものにしか見えていないのだ

「エイミー。こんなところに何か用事でもあったか?」

自然保護分署刑事課に属しているカール・カッソンヌ刑事が話しかけてきた
彼は自然保護分署を自ら志願して配置換えを求めた
彼の妻が自然保護区で仕事をしている。共に歩もうと誓った
だからこそあえて自然保護分署刑事課に異動する道を選んだ
妻と共に生活する時間を少しでも取りやすいようにここまでするとは見上げた心持ちだ

「タレコミがあったのよ。密猟をすると」

「いつものことだろ。偽情報をつかまされたんじゃないか」

こんな昼間から密猟をするようなのははっきり言うとほとんどいない
捕まったら終身刑になる事も。それだけ密猟は規制が厳しい

「タレコミをするくらいよ。何かあってから対応していたら後手に回るだけ」

エイミーの発言は当たっている。事が起きる前に動きを止めて問題解決することが必要だ
警戒をしておくことが重要なのだ。
自然保護区分署地域情報センターでは自然保護区内から観測された各種データを管制官が解析していた
どんな些細な情報も見逃せない。ミスをすれば貴重な動植物は密猟されるのだから
自然保護のためには全力で対応しなければならない
保護区内で危険な行為をするのはかなりバカだと思わないかとカール・カッソンヌ刑事がは質問してきた

「密猟をする者はスリルを味わいたいだけよ」

エイミーの意見は当たっている
密猟行為をする者は誰もがスリルを味わいたいだけの連中だ。
猟行為を行う者を比率の計算をすると大部分がそうなる

「それは言えている。ただのスリルを味わうために密猟をするのは事実だしな」

『ピーピーピー』

その時自然保護区内で銃声がなった事を示す警報音が分署地域情報センターに鳴り始めた
すぐに正確な位置関係を割り出すことにした。
どこで銃声が鳴ったのか分かればすぐに密猟者を摘発できる
ここからは時間との戦いだ。素早く対応しなければ密猟者に逃げられる

「自然保護区の入出検査を強化するように通達を」

自然保護区内に立入に入出時に厳しい荷物・積み荷検査が行われている
それでも狩りをしたいあまりに隠して入ろうとする
自然を守る事は重要だが、経済活動のためにもさまざまな資源開発がしなければならない
石油や石炭や天然ガス。その他にも数多くの鉱石の資源採掘をしなければならない
資源開発をしながら環境を維持するのは簡単な事ではない
だが連邦政府が定めた連邦法では環境保護や維持を行いながらであれば、
資源開発を行うことが可能であると定められている。つまり環境保護活動は義務付けられている
ちなみにここクラナガン自然保護区はクラナガン市にとって重要な電力源だ
安定的に地熱で高温高圧の蒸気が得られる。
石油や石炭や天然ガスと違って燃料費を計算する必要はほとんどない
設備維持コストを計算するだけで良くて、自然にも優しいとなるとなおさらである

「わかった。すぐに指示を出す」

エイミーの指示にカール・カッソンヌ刑事は任せてくれと言うと作業に入った
自然保護区の出入りを管理するためにゲートの警備厳重にすることは日常的にある
少しでも不審な行動があればよく警備が厳重にすることが特別珍しいことではないのだ