午前10:06 西区東部区域クルック地区1番街1丁目 次元世界連合本部庁舎 1階記者会見室

そこでは次元世界連合の事務総長をしているラビット・ボードが記者発表をしていた
議題はもちろん時空管理局債や聖王教会債の取り扱い。
おまけに時空管理局と聖王教会に対する内部調査についてだ

「時空管理局債の扱いについてどのような方向を向かっているのか。誰もが知りたい話題のはずです」

記者は早速ストレートに話を振ってきた。誰もが時空管理局債の扱いについて知りたいのだ
時空管理局は現在は次元世界連合の参加に籍を移した。
つまり次元世界連合にそれを償還するのではという噂はあった
だが実際のところ金融市場では時空管理局債の価格は額面の価格に対して、取引価格はすでに10%を切っている
だからこそ次元世界連合は低価格で大量の時空管理局債を購入している
すでに全体の9割を次元世界通貨基金が買い付けていた。
あとは時空管理局が各次元世界で持っていた基地の土地をすべて売却するだけだ
その売却で得られた費用で時空管理局債を償還する。今のところはシナリオ通りに事は進んでいる
問題があるとするなら、各次元世界国が時空管理局から予算のために財政上に大きな負担になっていた
それも今年から状況は変わる。時空管理局の予算は次元世界連合で審議されることになる
次元世界連合総会で決められた時空管理局予算を分担で負担する。これで時空管理局の予算は大幅カット。

「すでに工程表はできています。時空管理局の予算は大幅に縮小されます」

ラビット・ボードの答えに次々と記者はどういう経路をたどるかなどの質疑があった
上手く話を合わせて今後の方針について記者発表を終えるとラビット・ボードは退室した
彼女は事務総長執務室に繋がっている通路を歩きながら1冊のファイルを見ていた

「機動六課組の受け入れについて、捜査長官との協議は難航しそうだわ」

元々こちらから申し出ていたことだが、クラナガン捜査局はいろいろと条件を付けてくる
それを考えると苦労する協議だと感じていた。だが今機動六課組が消されるといろいろな意味でまずい
時空管理局の暗部を探り出したのは彼らだ。
それを公表した成果によって良い方向に進むかと思われたが、実際は真逆の方向に事態は進んだ
時空管理局の大規模縮小になった根っこを暴いたのだから。これを正義と見るべきか悪と見るべきか
時空管理局側から見ると機動六課は完全に敵対組織になってしまう
全てをオープンにすることで自らの首を絞めた自殺行為に入っているのだ

「クラナガン捜査長官との協議で機動六課組の受け入れを確かな事にしないと」

ラビット・ボード事務総長は自らの執務室に戻る。
すぐに今後行われる捜査長官との会議に使う資料を用意した
機動六課組を受け入れるとなると今後の対応方法次第では大きな影響が出る
まず受け入れ拒否はないだろう。ただし受け入れにはメリットな情報を提供しなければならない
ただ受け入れをしてほしいというだけでは難しいことは誰もが分かっている

「何か良い方法がないか考えないと」

ラビット・ボード事務総長は時空管理局長のジョセフ・ボナパルト局長と暗号回線の電話で話をした
現在の時空管理局内の状況を詳細に確認するためである

『今は静かな状況が続いている。いつどうなるかは検討もつかない』

嵐の前の静けさの可能性があるということである
荒らしの前に避難することが求められる。最悪の事態を想定して警戒しなければならない

「何か小さな異変を感じたらすぐに連絡を。時空管理局が再度暴走することは阻止しなければならないから」

ラビット・ボードの言葉に時空管理局長のジョセフ・ボナパルトはもちろんだと回答した
そして次にメインディッシュに入った。機動六課の取り扱いに関してだ
時空管理教会内部でもいろいろと問題を抱えているあの部署。
このまま時空管理局に籍を残すのはリスクがある
一時的にどこかに出向させる方が安全である。今ここでかじ取りを誤ると最悪になる
船でいうところの沈没することを示している。

「誰もが責任を押し付けあっていることは事実ね」

『時空管理局の地上部隊に所属していた局員の9割は大量リストラで解雇した。無駄な人員は余剰にしかならない』

ジョセフ・ボナパルト時空管理局長の言う通りだ。
余剰人員が多すぎた事が大きな無駄な人件費になっていたのは事実である

「切り捨てられた立場の人間にとっては悪夢ね」

『だがそれぐらいの断行をしなければ暗き闇を取り払う事はできない』

彼のセリフは確かに正論だ。
時には強硬な立場で厳しい方向性に向かわせなければならない時もある
正論ばかりではどうにもならないことはあるのだから

『機動六課組を切り離した方が今はそうするべきだ。それもできるだけ早く対応しないと連中は消される可能性が高い』

「私も同じ意見だから心配しないで。これからクラナガン捜査長官と協議をして最終受け入れに対して最終確認を」

『できるだけ早く動いた方が良い。彼らが消される可能性は高いからな』

時空管理局長として組織内の構造は分かっている
今まで局内にあったさまざまな派閥は完全に潰されてしまった。
特に汚職の原因になっていた事務部門については時空管理局の局員が直接手出しができないようになっている。
今は次元世界連合に時空管理局の幹部選任権限があると定められている
正確には次元世界連合総会で時空管理局の幹部の選任が行われる。
過半数の次元世界国の承諾が得ることができれば採用される
全ては透明性のあるクリーンな組織を目指しての対応からだ

「時空管理局を綺麗にするにはかなりの時間が必要になることは分かっているわよね?」

『今も時空管理局犯罪捜査局が必死になって調べている。今後の事を考えると対応に苦慮するがな』

時空管理局内部の犯罪捜査を行っている部署は今は最も忙しいのだ
今まで時空管理局内で数多くの不正に関わっていた時空管理局員がかなりいたことや、
さらに退役した時空管理局員たちの中にも多くの不正に関与していたことはかなりの件数になっている
捜査をする時空管理局犯罪捜査局はかなり苦労している。1人の捜査官が担当する事案はかなりの数になる
次元世界連合から不正は絶対に許してはならないという基本概念があるため徹底的に捜査をしている

「ごみ掃除はできるだけ素早く行わないといけないわね」

ごみ掃除というのは、犯罪や不正行為に関与した時空管理局員や関係者の摘発をするという意味だ
徹底的に行うことで時空管理局犯罪捜査局による捜査が厳しいことを示すことが重要なのだ
ラビット・ボードはクラナガン捜査長官と機動六課の扱いに関して最後の詰めを行うとを伝えた
そして彼女は時空管理局長との電話会議は終えた。あとは苦労する会議が待っているだけだ


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東区東部区域 時空管理局機動六課基地 基地庁舎 会議室

『時空管理局の権限が大幅縮小になった事により、地上の警察・消防救急などの幅広い管轄権は各次元世界国に返還』

『ジョセフ・ボナパルト時空管理局長は時空管理局の権限縮小は当然の流れだと記者会見でコメントを発表』

『今後のことについて時空管理局の管轄区域は無人次元世界と次元空間のみとなるも発表』

時空管理局の事をかなりメディアは叩いていた。
1つの悪事が分かるとほかにもあるのではないかということを探り出す
時には誤報というものもあるが、悪いニュースほど高値で売れるのだ
聴衆の関心を引き出しやすいから

「こんなに時空管理局が叩かれるなんて」

なのはは報道内容を見てあまり元気がなかった。それは機動六課の全局員が同じことを考えている。
自分達が災いが詰まったパンドラの箱を開けたことになった事が分かったためだ

「これから時空管理局はどうなるのかな?」

フェイトは今後のことについて深い憂慮の関係を持っていた
会議室にはなのはとはやてとフェイトの3人が集まっていた
今後の部隊運営に関して時空管理局本部からある命令文が通告されていた
一時的な出向をするようにとの指示である。
出向先はクラナガン捜査局中央パトロールにと伝えられていた

「これは私達を保護するためだと局長は言っていたわ」

はやては裏の意味を分かっていた。下手をすれば自らが消される運命にあることを理解していた
マスコミは時空管理局の不正行為を次々と暴いて報道している
おかげで時空管理局員の大多数はリストラされた。それだけならまだ良い方だ
最も問題なのは時空管理局はその持っていた権限を悪用して犯罪組織と結託していたことだ
そこが最大の問題事項だ。犯罪組織とトラブルを起こしたとなれば、時空管理局犯罪捜査局の捜査対象に。
1つの不祥事が連鎖するかのようにして大きく広がっていく。
1件のトラブルが何千件ものトラブルにもなっている

「機動六課組はエリート部隊が多いから籍を変える形で残す方針というけど」

はやては詳しいことはまだ何もわかっていないとなのはとフェイトに伝えた
事実、はやてにも何も情報が入ってこない。今は基地庁舎内で待機任務するしかない
今はこの待機命令に従うしかないのだ。外に出ればいろいろと攻撃されるリスクがある。
これは機動六課の職員には伏せられているが港湾パトロールが人工衛星や無人偵察機で常時監視
何かあったとしてもすぐに対応できるようになっているのだ。

「とにかく今は静かにするようにとのことだから」

そう言うとはやて達は話し合いを終えた。
子どもの権利条約によってフェイトが親代わりをしている2人の子供、
エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエの2人の今後の実の動きについては、
次元世界連合が定めた子供の権利条約に基づいて戦闘部隊からは外すことは決まっていた
ただし動植物保護などの戦闘部隊ではない所に移動することで一時的に保留扱いになるとされている
正式な決定はまだされていないので、機動六課の局員の扱いの対応難しさに苦労をしていた


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東区東部区域 時空管理局機動六課駐屯基地付近 地区パトロール事務所 取調室

エルガ・ジャーニーは痴漢で出所後すぐに逮捕されたレスカル・コーロトの事情聴取をしていた

「お前もバカだな。我慢くらいできないのか?」

エルガは呆れながらそう話しかけるがレスカル・コーロトは欲求が耐えられない時があるのも事実だろと
確かに人間の欲求というのはコントロールするのは難しい。
だからと言って出所してすぐに性犯罪を起こすとはかなりのバカである
いったい何を考えているのか知りたいところだ

「お前には更生する道があったのにそれをまた失った。今度は重罪行為になるぞ」

クラナガン市法では犯罪行為について三振法が定められている
三振法とは軽い罪であっても3度も過去3年以内に連続して行った場合、
仮釈放なしの終身刑か死刑になるという制度。
これにより刑罰が軽い罪でも重い罪になりうるということを示していた。
今回は刑期を終えて出所して犯罪なので三振法には該当しないが、状況によっては極めて危険な賭けに近い
三振法で良くて終身刑。最悪の場合は死刑になるリスクを分かっているのに再犯に走る
面倒な奴であることは間違いない

「お前はようやく痴漢で捕まった。つまり性犯罪者になる意味を理解していないのか?」

性犯罪者は常に足首にGPS発信機が装着することが義務付けられている
性犯罪を起こした人物を即座に検挙するためだ
そのリスクを分かっていながら何度も犯罪を繰り返せば、
最悪の場合は刑務所から出るのは死体になってからになる

『ピーピーピー』

エルガの携帯電話に着信が入ってきた。彼は1度取調室を出ていく。
室内に見張りのパトロール捜査官の見張りをつけて電話に出た
発信者は港湾パトロール安全保障局の友人だ。所属部署は外事情報分析部の分析官だ
外事情報分析部は数多くの組織に関する情報収集を専門に行っている
そこでまとめられた様々な情報はミッドチルダ連邦大統領に報告されている
情報というのは生き物と同じで絶えず変化するものだ。だからこそ重要な部署である
そんな部署の職員からの情報となるとかなり危険なものかもしれない

「フレリーズ・ハロック。何か緊急の連絡か?」

『機動六課の敷地の外で不審人物がいる。基地の敷地に設置されている策で何か動いている』

何か不審な行動をしていると伝えてきた。
エルガは事務所にいるパトロール捜査官に身柄確保を指示した
急がないと何をしてくるかわからない。もしかしたら爆弾でも設置したのかもしれない
パニックを呼べばことはもっと悲惨になる。それを避けるためにも慎重な行動が必要に。

「どうしたら良い?」

『身柄を拘束してくれ。もし機動六課の指揮を仕切る柵に爆弾でも設置されたら状況は悪くなるだけだ』

エルガは分かったというと無線ですぐに情報を流して身柄拘束をするように指示した
小さなトラブルも見逃すわけにはいかない。何があっても安全確保が最優先である

『こちらEP4882。今、時空管理局機動六課の敷地付近に不審物を設置していた男性を確保しました』

EP4882は無線識別コードだ。
無線識別コードは中央パトロール学校を無事に卒業して正式な局員になったら割り当てられる。
パトロール捜査官から刑事にならない限りは無線識別コードは変わることはない。

「こちらSA12。そいつをこっちに連れてきてくれ」

『了解です。追加報告ですが、不審物は手榴弾です』

その不審物の画像が情報端末に送信されてきた。確かに見つかったのはMK3手榴弾。
もしこれが利用されたら機動六課基地の壁に穴は空ける事はできるだろう
手榴弾で穴をあけようとしただけならまだ良いが、
これが陽動作戦なら別に基地への襲撃をする連中がいるかも。

「街灯観測システムの監視カメラ機能で不審人物がいないか調べるしかないな」

エルガは再び地区パトロール事務所内の情報センターに行くと情報端末を操作。
次々と顔認証システムで時空管理局機動六課基地周辺にいる人物を顔認証システムで照合した
少しでも絞り込んで不審な人物がいれば身柄拘束に踏み切る態勢に入っていた

「急がないとな」

エルガは次々と情報端末を操作して顔認証システムで照合を継続した
どんな小さな異変も見逃すことは許されない。何か手掛かりがあればもっと楽なのだが
手榴弾を設置していた人物の名前については今は確認する暇はない。
平行して調べても良いのだが、機動六課基地に攻撃された後では意味がない
その前に不審人物をさらに発見して拘束しなければならない


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北区西部区域 ノースウエストクラナガン貨物ターミナル パトロール事務所

サイノスは今も貨物ターミナルの5番線に停車している貨物列車の積み荷チェックをしていた
10人の幼い女の子をコンテナで密輸するとは。すでに救急ヘリで最寄りの病院に搬送されている
搬送先には精神カウンセリングができる専門セクターがある病院になっている
長時間にわたって狭く暗いコンテナに監禁されていたのだ。当然の配慮である。

「それにしてもひどいね。コンテナに10人の幼い女の子。鉄の掟を破るだけの根性があるなら非情な組織」

いくら犯罪組織とはいえ、幼い子供に手を出したとなると最悪だ
連邦法で18歳以下の子供に対して性的行為を強制させたら一発で仮釈放なしの終身刑。
減刑はあり得ない。それだけ罪が重いし犯罪組織もそのあたりは分かっている
だから手を出してくる連中はかなり危険な覚悟をしていることになる
サイノスは時間をかけて調べる必要があると判断。
すぐにクラナガン市検事局に連絡して令状を手配してもらった
令状に関する書類情報がパトロール事務所の情報端末にメールで送られてきた
彼はそれをすぐにプリントアウトして令状として使用できるようにした
人身売買を見逃すわけにはいかない。だからこそすぐに判事もすぐに令状発行をしてくれた

サイノスはさらにここの管理運営をしているノースウエストクラナガン貨物ターミナル管制センターに連絡した

「ノースウエストクラナガン貨物ターミナル管制へ。5番線の貨物列車の出発中止命令を。令状は発行済み」

『了解です。令状があるなら問題はないと思います。ただしできるだけトラブルは早急に片づけてください』

サイノスはそんなことは言われなくてもわかっている。できるだけ急がなければならない。
いくら令状があったとしても、時間的タイムリミットはそれほどない
多少は強引的な捜査を進めることは求められるべきである
5番線の貨物列車には60個のコンテナを積載している貨物列車である。
それだけの貨物の貨物列車なら動かすだけでもかなり力があるディーゼル機関車が必要になる
大量の貨物をけん引する貨物列車のディーゼル機関車は極めて頑丈な構造になっている
仮に踏切などでトラックと衝突してもディーゼル機関車の損傷は確認されないことで有名である

『中央本部からSA25へ。貨物列車を隅々まで調べるように。他に違法行為に繋がるものがないか調査を』

5番線の貨物列車に対する貨物列車の全てのコンテナ開封の許可が出たと連絡してきた
貨物列車の貨車に積載されている積み荷をチェックするのはできるだけ素早く行うように
貨物列車に積載されている貨物コンテを開封するとなれば、
時には積み荷の輸送を依頼している企業へ通達が必要なる
裁判所が強制捜査を許可しても企業でよっては企業秘密の物が積み込まれていたら抵抗するかもしれない
そのためできるだけ素早く対応しなければならない。

「SA25からノースウエストクラナガン貨物管制へ。5番線に停車中の貨物列車に対する対応は?」

『既に裁判所から動かすなという指示が来ています。指揮系統についてはSA25に任せると報告を受けています』

サイノスは最悪だと考えていた。今はベルカ州からは大量の貨物列車が運行されている
ベルカ州には豊富な鉱物資源が埋蔵されている。今まで聖王教会が自治区として保護していた
そのため資源開発をすることは認められてこなかった。
今はベルカ州政府が一定の環境基準を守れば問題ないと判定されている
ベルカ州ではレアアースなどの希少鉱物が豊富に埋蔵されている
それらの開発権は州政府が鉱区を設定して販売。
こうすることで州政府などの州内の様々な政府予算の歳入としていた
精錬工場でレアアースやレアメタルの精錬が行われて製品化されたものが5番線の貨物列車に積み込まれていた
珍しい話ではない。レアアースやレアメタルは半導体などの様々な製品製造に利用される
それだけに無人次元世界でも採掘が行われている。無人次元世界の権限は次元世界連合の管轄下にある
ただしそう言った世界での警察的権限は時空管理局に一任されている
もちろん活動状況を次元世界連合に報告することが義務付けられている

「探すのは苦労するね」

5番線の貨物列車だけとは考えられない
他にも10本ほどの貨物列車がこの貨物ターミナルに停車している。
それらに関しても最大限の人員を手配して確認している。
不審な積み荷リストと一致する物がないかを中心に

「何が出てくることになるか」

サイノスは空間モニタである報道番組を見ていた

『ノースウエストクラナガン貨物ターミナルで貨物列車の強制捜査をすることが公表されました』

『関係者の話によると貨物列車に幼い子供が監禁されていると情報が入っています』

サイノスはさすがはマスコミの力だと感心していた
どうやってここまで情報収集能力があるのか驚くべき程に

「人工衛星を使って監視強化が必要かも」

サイノスはすぐに中央パトロール低軌道監視衛星から熱探知の衛星画像の観測を行った
コンテナに何か熱源があればすぐにわかるはずだ。人のサイズとなるとすぐにわかるはず
人工衛星だけでなく無人偵察機を使って監視を強化することが求められる
すでにノースウエストクラナガン貨物ターミナルの上空では無人偵察機が展開していた
熱探知などで観測されている情報をサイノスは港湾パトロールと連携して対応している
港湾パトロールが運用している無人航空偵察機による熱源観測作業は進められている

『SA25へ。RQ-4[ 無線コード:グローバルホーク1 ]を展開しているが上空からは以上は確認されず』

港湾本部は念のため、引き続き警戒態勢を維持すると。それは良いニュースである。
上空から観測されていれば何か悪さをする時にすぐに察知される
問題はこのノースウエストクラナガン貨物ターミナルを封鎖できない事だ
いくら令状があってもできるだけ早期に摘発しなければならない
貨物列車に積載されているコンテナなどの輸送計画に問題が生じるからである

「5番線の貨物列車の全貨車のチェックはあとどれくらいで終了する?」

『もうすぐにです。少し待ってください』

時間がないのだ。何としても解明しなければならない
他にも危険物が積み込まれていないかを中心に。

『5番線の貨物列車のチェックは完了です』

「こちらSA25。了解。ノースウエストクラナガン貨物管制に連絡して出発させる」

『了解』

サイノスはすぐにノースウエストクラナガン貨物ターミナルの管理をしている管制センターに情報を流した
5番線の線路信号機が青に切り替わり貨物列車は出発していった

「遅れている貨物列車はあるのかな?」

『現在1本の貨物列車がフローレンス州からこちらに。この貨物ターミナルでは停車予定はなし』

ただし東区にあるミーミルクラナガン貨物ターミナルに向かうと。
ミーミルクラナガン貨物ターミナルは敷地が南北5km・東西4kmにもなる大きな貨物ターミナル
クラナガンミーミルコンビナートとセントラルクラナガン港コンテナターミナルへの貨物線が設置されている。
そのため1日の貨物列車運行本数はかなりの数になる。遅れはあまり許されることはない。
コンテナ船などの貨物船の入出港にも影響が出るから。もし調べるならできるだけ素早く行わないと

「何事もなければ良いけど」

彼はその貨物列車の積み荷などの情報を確認した
不審な貨物情報があれば一度ここで待機してもらうためである
何もなければ良いのだがと思いながらサイノスは貨物の情報を調べていった
少しでも不審な企業の積み荷があればここで開封して確認をするが異常は確認されなかった
次に来る貨物列車の貨車は45両にもなる。積み荷の大部分はフローレンス州北部で採掘されたリチウムだ
フローレンス州北部地方で高純度リチウムがかなりの量が埋蔵されている。
今の現代社会において多くの製品にリチウムを含むレアメタルは幅広く使用されている
それだけに安定的な供給が行われなければ鉱物価格は跳ね上がってしまう。

「ノースウエストクラナガン貨物管制へ。念のためこの貨物ターミナルで確認作業を行うように指示」

一応の確認作業をする事をサイノスは決断した。45両のうちリチウムが積載されているのは40両
残りの5両にはある機械が積載されていた。機械というよりノートパソコンなどの携帯情報端末だ
5両だけというところに引っかかった。通常ではあまり考えられない。
確かにフローレンス州北部地方に携帯情報端末製造工場はある
ただ、なぜ5両だけの貨物にしか積まなかったのか。そこが最もおかしなところである。
通常の貨物編成なら1度に大量のものを運ぶために運行されることがほとんどだ
そのあたりを念のため確認する事にしたのだ

『了解。この貨物ターミナルで確認作業をすると指令を出す』

ノースクラナガン貨物管制センターは先ほど開いたばかりの5番線、
そこに次に来る貨物列車を受け入れることを決断した
ノースクラナガン貨物ターミナル駅には数多くの路線が整備されているコンテナ積み下ろしヤードだけでなく、
市内へ鉄道で運ばれてきた貨物コンテナをコンテナだけをトラックに積み替えて市内に運び出す
逆に市内から市外へと貨物列車でコンテナなどの貨物を運んでいく。
積み下ろし作業が頻繁に行われているので、貨物ターミナルはかなり過密ダイヤとなっている
1つの小さな波が大きな波に変わってしまう。だからこそ対応は慎重に行わなければならない
ただし難しいのは鉄道ダイヤに影響を与えることを極力避けることが求められる
スピード感ある捜査と鑑識が求められる。時間は残されていないのだからしょうがない

「SA25からノースウエストクラナガン貨物ターミナルにいるパトロール捜査官へ」

サイノスはまもなく5番線にリチウム鉱石を積載した貨物列車が来ると
貨物ターミナル入線と同時に素早い確認作業に入るようにと指示した
対応は素早く行うことが求められる。進行方向から40両目まではリチウム鉱石が積み込まれていた。
問題は41両から45両の貨車だ。そこを調べる必要がある。

『SA25へ。これより41両から45両の貨車の中身を調べます』

サイノスは慎重に行動するようにと伝えると報告を事務所で待っていた
すると4両の貨車に大量の袋が積み込まれていたことが分かった
輸送時に申請している内容と全く異なっている。つまり違法行為だ。
調べても問題ないということを意味している

『SA25へ。白い粉が積み込まれていました。試薬検査をしたところメタンフェタミンです』

麻薬が大量に積み込まれていた。これは大問題だ。
貨車の内部を撮影した画像がサイノスの携帯情報端末に届いた
軽く見積もって10トンほどの量が積み込まれていた。
これが全部麻薬なら末端価格はかなりのものだ。
新しい新興勢力ができたのかもしれない。犯罪組織の・・・・
全部押収するように指示した。見つかったのなら問題ない。
麻薬であるならすべて押収してラボで詳細な分析が必要になる

「ノースウエストクラナガン貨物管制へ。5番線の貨物列車は進行方向から40両までの貨物列車の出発を許可します」

問題になっている41両目から45両目までの貨車だけで押収できただけでも良い
これで犯罪組織などに大きなダメージを与えることができるかもしれない
同時に麻薬を引き取ることができなかった犯罪組織の暴走に繋がる可能性もある
極めて危ういバランスを保つしかないのだ
麻薬を金を払って入手したのに途中で大量に摘発されたらどこも危険な方向に話を進める
払った分以上の利益を出すはずが0どころかマイナスになればなおさらだ
問題はどこにこれだけの麻薬を持ち込むつもりだったのか。
市内であることは間違いないがどこが絡んでいるかを調べるのは時間が必要である

「これだけの麻薬をどうするつもりだったのか」

そもそも機械部品の貨物に乗せられていたのだ。
その貨物を運送する業者に麻薬を運ばせるつもりだったのかもしれない
背後関係を徹底的に調べるしかなかった。サイノスはすぐにその貨物をどこに運ぶ予定だったのか調べる
結果は5両のコンテナ貨物はすべてある運送会社の倉庫に行く予定になっていた
行先は東区北部区域イーストグーチランド地区3番街2丁目3番地にある倉庫だ
倉庫の持ち主はグーチランド倉庫という会社だ。昨年の売り上げは2000億ミッド
ところがだ。今年に入ってからはかなり売り上げは落ちていた。今年の売り上げは30億ミッド
理由は簡単だ。FBIから捜査のメスが入っていたからだ
時空管理局から物資の中継倉庫として以前はかなり頻繁に利用されていた
しかし時空管理局の規模縮小と地上部隊の閉鎖によって利用される回数は大幅に減少
今年の売り上げについては倉庫の整理に使われただけで6月で契約は打ち切りになる
借金関係の記録を調べると経営者は200億ミッドも借りていた。複数の金融機関から
しかし返済は滞り、資金繰りは行き詰まっていた
200億ミッドも金を借りていた理由は時空管理局債の取引に使っていた
だが持っていた時空管理局債の取引価格は暴落。資産があっという間に負債に変わった
不良債権になってしまい200億ミッドもの借り入れは返済不可能だ
金融機関はおそらく不動産物件を押収することで少しは返済に充てる方向でいるだろうが
全てを回収することは難しい。実際のところ、融資した200億ミッドに対して回収できるのは半分ぐらいだろう
つまり100億ミッドは不良債権になる。金融機関にとっては致命的なダメージだ
ただでさえ自己破産の申請でクラナガン市民では数多くの自己破産者が発生している
自己破産で最も多い理由は金融機関から借り入れていた融資額の返済に行き詰ったことだ
借入時に銀行など金融機関の審査が甘かったから起こってしまった事なので自業自得である

『連邦準備銀行はさきほど自己破産者がかなりの人数になっていることについてコメントを発表』

『自己破産者の増加は金融機関からの融資で時空管理局債やワンワールドグループの債権購入が多いです』

『すでにワンワールドグループ企業の破綻が分かっている事から取引価格は暴落。事実上のデフォルトです』

そんな事は誰もが分かっている。問題があるのは今後の対応についてだ
ワンワールドグループ企業の破綻により、グループ企業の金融部門。
銀行・証券会社・投資ファンド・保険会社の4つの企業について大きな影響が出ている
すでに無担保コール翌日物については事前に危機管理がされていたことから、
コール翌日物での焦げ付けは今のところ確認されていない。
ただしミッドチルダ連邦の中央銀行である連邦準備銀行は他の金融機関に影響が出ないように、
コール市場に資金供給の用意があることを発表している
そのため、特に目立った混乱は今のところ確認されていない
今のところはだが。だがワンワールド保険に加入している人物や企業へのダメージは少しずつ出ている
ワンワールド保険が最もトラブルを抱えている理由は、
時空管理局債や聖王教会債などの様々な債権の償還保証のために投資家は保険料を納めているからだ
つまりワンワールド保険の経営が破綻するということは債権保証を受けることができない
おまけに時空管理局債や聖王教会債の取引価格が暴落したことで保証ができない。
それが余計にワンワールド保険の経営が行き詰った最大の要因だ

「破綻するのは自業自得だけど。関係者は辛い状況になるね」


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西区東部区域クルック地区5番街5丁目 中央パトロールクルック地区警備庁舎 3階分署地域情報センター

カレン・アリストはクレスタの到着を待っていた。
すでにクルック地区にある聖王教会関係施設[ 西区東部区域クルック地区9番街3丁目 ]の警戒態勢は厳重。
聖王教会だけでなく時空管理局本部庁舎がある西区東部区域クルック地区1番街7丁目・8丁目にも最重要警備だ

「本当に何も起きなければ良いんだけど」

カレンは静かな時間が流れてほしいと思っていた
しかし現実は極めて厳しい物である。何か小さな火花で爆弾が爆発するほどに
それもかなり大きな爆弾ではあるが。今は何が起きるかわからないことがもっともな課題である
カレンはクルック地区と周辺地区にいる人々の顔認証システムで照合を行っている
少しでも異変があればすぐに摘発するつもりである。必要なら聖王教会施設内の強制捜査も視野に入れている
聖王教会の問題はクラナガン市内に持ち込むわけにはいかない。市内には数多くの聖王教会施設はある。
見張りとして地区パトロール事務所の情報センターや私服パトロール捜査官が警戒監視をしている
些細なトラブルも持ち込ませるわけにはいかないのだ。

「何もなければ良いけど」

『ピーピーピー』

カレンの携帯電話に着信が入ってきた。発信者はクラナガン水道局からだ
上下水道などの管理を行っているところだ

「カレン・アリストよ。緊急の案件かしら?」

『クルック地区の近くで水道の供給が止まりました。万が一に備えて対応してください』

クルック地区の上水道供給が止まると大きな問題だ

「消火用の水の供給はどうなっているの?」

クラナガン市内では一般飲料の上水道と消火栓などに供給される水は切り離されている
消火用の水も一応は浄化処理されているが上水道の基準と比較すると少し下がる

『今のところは以上は確認されていません。元々消火栓の水供給と上水道の水供給はシステムが別なので』

「ハッキングでもされたの?」

『現在確認作業を行っています。外部からかなりの量になるデータが送り込まれています』

データを大量に送られてきているのはクラナガン市共同溝管理センターだ
そこでは共同溝にある上下水道・消火水管・雨水排水管の管理もしている
つまり管理するためのシステムに対してハッキングがあるということだ
穏やかに話が済む事ではない。

「クルック地区以外で他にハッキングでの攻撃対象の地区は?」

『現在確認作業を進めています』

早急に確認作業を優先して行わなければならない
ハッキングで市内全域の上下水道がストップすれば大問題になる。
今は被害を最小限にすることが求められる時である

「とにかくシステム復旧をさせて。大至急」

『もちろんです』

システムを大至急復旧させなければ、とんでもない事態になる
今は上水道のシステムだけだが電気・ガス・通信などの他のライフラインシステムにまで影響が出たら、
クラナガン市は沈黙する。そんなことは避けなければならない

「早く復旧すれば良いけど」

ちなみにクラナガン捜査局のシステムは民間システムとは独立してる
そのためハッキング攻撃での影響が出る可能性は低い
それでも警戒は必要である。もしこちらのシステムにまで影響が出たら大問題だ
そうなる前に押さえこむことが必要になる。カレンはある人物に連絡した
ネットワーク犯罪捜査課で特別パトロール捜査官をしているフォーリア・ミクシムに連絡した
彼女は極めて有能なネットワーク犯罪捜査能力がある
本来であればネットワーク犯罪捜査課のリーダーになれるが現場での業務を望んだ。
そのため特別パトロール捜査官という役職で毎日業務を行っている

『カレン。こちらでもハッキングをしてきた連中を追跡中』

すでに市政府からの報告を受けてネットワーク犯罪捜査課は動いていた
今後もトラブルが起こされる事を避けるためにも最重要課題となる
何度も言うがライフラインが止まれば大きな問題になる。それは何としても止めなければならない

「どれくらいの時間が必要なの?」

『今逆探知をしているけど、敵もなかなかのやり手ね。こちらの動きがどこかで察知されている可能性があるから』

つまりスパイがいるかもしれないということだ
考ええたくはないがこちらの手の内が漏れているなら対抗策が必要になる
手段を選んでいる暇はない。どんなに些細な疑惑がある人物がいたなら、
査察部による内部調査をしてもらわなければならない

「こちらの通信関係に問題は出る可能性はあるの?」

クラナガン捜査局の通信は独立したシステムである。
民間ネットワークで障害が出ても問題がないはずだが絶対という保証はない。
常に予備のプランを練っておくことが求められる

『今は確認されていないけど』

「港湾パトロール防衛情報システム局にも連絡して、クラナガン捜査局の通信網の監視を」

港湾パトロール防衛情報システム局は通信設備・通信システム管理・戦闘支援情報処理、
情報管理・コンピューターウィルス対策・ハッキング対策を行っている。
港湾パトロール本部だけでなく、クラナガン捜査局全体の通信設備と通信システムの管理運営を行っている。
クラナガン捜査局内の全通信を監視するということは、軍事的戦略が必要になるかもしれない

「国家安全保障局の知り合いはあなたはいない?」

カレンは連邦行政機関に働きかけるために知り合いがいないか確認した

『いるけど、どうするつもり?』

「大統領を守るために大統領府の地下にあるオペレーションルームにと」

クラナガン市中央区にある大統領府(ホワイトハウス)の地下には国内全域のあらゆる警察や軍隊、
彼らに対する指揮命令ができるオペレーションルームが設置されている
つまり戦時下において使用されることが多い

『そこまでする必要があると?』

「私の友人がよく言っていたわ。バックアップをしておかないと計画はとん挫する」

『国家安全保障局と国防省に連絡をしておくわ。他にリクエストは?』

今はここまでよと言うとカレンはフォーリアとの通信を終えた
彼女はため息をつくと今後の展開について頭痛の種になりそうだと感じていた

「穏やかに事は片付かないでしょうね」

穏やかに片付く事がないのは事実だ

『ピーピーピー』

カレンの携帯電話に着信が入ってきた。番号は非通知設定だ。
つまり身元を明かされたくない人物からの発信である

「またトラブルの予感がするわね」

彼女はため息をつきながら電話に出た

「捜査部のカレン・アリスト捜査官よ」

『ある情報をくれてやる。30分後に時空管理局から大量リストラされた退役局員が暴れようとしている』

話は以上だというと通話は終わった。いったい何の目的で情報をもたらしたのか
正確な情報なのかどうかもわからないが警戒するべき情報である
市内でテロを起こされたら最悪な結末になりかねない。そういうことをされたこちらの立場がない

「30分後というのはあまりにも時間がないわね」

このあたりで何か大騒ぎをするつもりなのかもしれない。そういうことを考慮して動く必要があった。
ここには次元世界連合本部庁舎がある。さらに周辺にも次元世界連合と関係が深い国際機関。
おまけに時空管理局本部庁舎が建設されている。
退役時空管理局員が強襲するならここをメインにしてくるだろう
それを考えると、攻撃するならこのクルック地区とその周辺地区だろう

「絞り込んでいくしかないわね」

カレンは分署地域情報センターからこの近隣地区を含む歩いている人々の顔写真を照合することにした
1人でも怪しい人物を見つけたら職務質問をすれば良いだけの話である


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中央区南部区域ウエストサーストン地区1番街3丁目と4丁目の間の通り

捜査部2係のシエナ・アルフォード捜査官がSUVで待機していた。
サーストン地区と周辺地区は金融街として有名だ。
クラナガン証券取引所やその他の金融商品取引所などがある。
その他にも様々な金融機関の支店が集まっている。まさにミッドチルダ連邦経済の要とも言われている
それだけに中央パトロールによる警備態勢は厳重となっている

『連邦準備銀行は政策金利を5.5%から6%に引き上げ。利上げの影響で為替市場においてミッド高に』

『クラナガン商品取引所で売買されているクラナガン原油価格は1バレル6000ミッド前後で推移』

原油価格の上昇はかなりのものになる。
以前は魔石でのエネルギー源がメインだったがAMFにより魔力精製炉発電が難しくなってから、
原油価格はJS事件までは1バレル1500ミッドだった。
今は6000ミッドまで上昇して2倍から3倍にまでかなり上昇している。

『クラナガン証券取引所での平均株価は2万5千ミッド前後を推移』

連邦準備銀行の連邦公開市場委員会は景気過熱を抑えるために利上げを行った
今後の方針次第では更なる政策金利の引き上げが求められる。
国内の経済でインフレになる事を押さえ込むのは最重要課題である
シエナは車内で経済専門の報道番組を見ながら待機していた。ミッドチルダ国内の経済はかなり好景気だ。
連邦政府と連邦準備銀行はバブル経済になる事を抑えるために利上げを続けてすでに6%になっている
その他にも連邦準備銀行は公開市場操作で売りオペ(資金吸収オペレーション)を実施している
売りオペとは名前の通り中央銀行である連邦準備銀行が保有している手形や国債など市場に流して資金を吸収する
今のミッドチルダ連邦政府が発行している国債は30兆ミッド
今の連邦政府の財政状況なら国債に頼ることが必要はないのだが、
長期金利基準として30兆ミッドほどの国債を償還しては発行している
今回も去年の12月に30兆ミッドを償還して今年の1月に30兆ミッドを発行していた

『連邦準備銀行は急激な為替変動にも対応するとして為替介入に踏み切る可能性があると表明』

「景気が良すぎるのも問題ね。それでも犯罪に走る連中がいるのは悲しいけど」

通常、景気が良い時は犯罪発生率は下がる傾向にある
だがワンワールドグループ企業が破綻したことで、一部限定的ではあるが景気は落ち込んでいる
ただし大不況になったわけではないので難しいところではあるが

『ワンワールドグループ企業の破綻に伴い多くの関係会社への影響も大きいです』

ワンワールドグルールと関係していた企業はかなりの数になる。
それらが連鎖的に破綻する事で影響は出ている。
一方で時空管理局の競争入札によって新しい企業が生まれて求人率も上がっている
つまり職種を選ばなければ再就職はそれほど難しいことではないということだ
現実なことだが、デスクワーク中心の仕事をしていた人間がいきなり肉体労働に移るのは難しい
今後の事を考えると国内で大きな経済・政治・安全保障の分野で脅威になるだろう

『セントラル分署から各員へサウスサーストン地区5番街にある銀行が襲われていると通報あり』

サーストン地区には数多くの銀行がある。
中央パトロールではパトロール捜査官を常時警戒にために配備するシステム運用が行われている
万が一、襲撃があってもすぐに対応できるようにだ
シエナはすぐに現地に向かう事をセントラル分署に通達した

「こちらSA24からセントラル分署。サウスサーストン地区付近にいるため急行する」

SUVのエンジンを始動させるとワーニングライトとサイレンのスイッチを入れて緊急走行で現場に向かった
襲われている銀行は主にクラナガン市内を営業範囲とするクラナガンシティバンクの支店である
狙いはおそらく銀行にある金だろう。これだけ厳重な警戒態勢であると分かりながら襲撃したらかなりバカだ

『セントラル分署から各員へ。クラナガンシティバンクの支店を強襲人物は全部で4人。現在銃撃戦が展開中』

銃撃戦をするということは徹底抗戦の構えがあるということだ
かなりの気合が入っている犯人たちであることは間違いない
できることなら早期終了に動きたいが、いずれは膠着状態になる可能性は高い
今の時間はまだ店内にお客がいるかもしれない。いや、いるだろう
それを考慮に入れると慎重に対応しなければならない

「SA24からセントラル分署。クラナガンシティバンクのサーストン支店内に人質はいるのか?」

『現在のところ10人ほどの人数がいることが確認されています。そのため、下手に強行突入はできない』

「犯人の素性は分かっているの?」

シエナの質問にセントラル分署地域情報センターの管制官は大量リストラされた退役時空管理局員だと
金に困っていることは確実だ。そうでもなければ銀行強盗などするはずがない
強盗犯とされている4人について顔認証システムで照合をしたところ、
全員が自己破産した退役時空管理局員である事もわかった。
今後の事を考えると良い方向に話が進むことは考えられない
自己破産した最大の理由は時空管理局債の大量買い入れである
4人とも平均して数憶ミッド分を購入している。それも銀行から融資を受けてである
つまり借金で時空管理局債を購入して運用していた。利息を目的としていることは明らかだ
安定債権であったが今はその価値はない。借り入れてきた数億ミッドの返済も滞り自己破産した
そんなところである。そういったケースはかなりの数になる
できるだけ早く調べなければならない

「問題は何をしでかすつもりか。そこが最重要な課題ね」

融資をした銀行がクラナガンシティバンクだったのだ。
もしかしたら自暴自棄になって自爆するかもしれない。
一家心中させるわけにはいかない。
大きな理由として彼らは人質を巻き込んで自爆行為をする可能性が高いからだ

「金を借りておきながら返済できないなら一家心中なんてひどい話ね。逆恨みとして問題あり」

彼らは自分達の利益に繋がる事を想定して金を借りた
なのに返済できないなら大きな騒動を起こしてしまおう
何を考えているのかわからない連中である

「彼らの要求は何かわかっているの?」

『現在、交渉人が探り合いをしています。ですがおそらく借金棒引きが狙いかと推察されます』

セントラル分署からの無線を聞いたシエナは当り前のことねと感じていた
銀行で立てこもっているということは、何かを強力にメッセージとすることがあるからだ
4人に多額の融資を行ったのはクラナガンシティバンクだ。
当時は時空管理局というバックがあったことから容易に融資が行われた
しかし時空管理局債の取引価格が大幅に下落。
担保の時空管理局債の価値が下がったことで融資した資金の早期返済を求めていた
これは多くの時空管理局債を担保として融資をしていた数多くの金融機関に当てはまる
影響があまりにも多すぎて、多くの銀行は不良債権になる事を阻止するためあらゆる手段を使って回収をしている
不良債権になれば自己資本比率に影響が出てしまう。追い詰められると金融機関の資格が失ってしまう
自己資本比率は金融機関では一定の比率を確保しなければ多くの次元世界国で金融機関の資格を失う
金融機関にとって金融機関の資格を失えば破綻するのと同じだ
基本的に次元世界連合傘下の国際機関である次元世界通貨基金では
金融機関の自己資本比率は最低でも8%を確保することが求められている
もし8%より下がった場合は金融機関としての業務に影響が出てくる
各次元世界国の政府機関が金融危機対応会議などを開くなどを行い、
公的資金の投入などを計算に入れて行動を開始する。
もし公的資金の投入が決定すればそういった金融機関の株価は大きく下落
最悪の場合は国有化などになったりすることが想定される。
だからこそ金融機関は少しでも不良債権になる前に資金回収に動くことが多い
グローバル活動している金融機関においては自己資本比率で大きな影響が出ることは避けるべきだ

「時空管理局債の問題は根深いわね。他のリストラされた退役時空管理局員にまで影響が出ることを考えると」

シエナは今後の展開を想像しながら現場に到着した。
念のため彼女は車内に搭載されているH&KG36を手にした
アサルトライフルを利用した一気に攻め込むことを計算に入れての行動である

「SA24からセントラル分署。現在クラナガンシティバンクサーストン支店の現場に到着」

『了解。現場にはセントラル分署のSWATが急行中。指揮権はSA24に委ねたい』

「こちらは問題なし。ただし多少の建物に対する損害は面倒を。人的被害はできる限り出さない計画で行う」

シエナは建造物に対する損害はセントラル分署で対応してほしいと依頼したのだ
それはつまり建物に何か損傷が出るような作戦を行うことが想定されるプランを実行する
そういうことである

『後始末は任せてください。人命が守られるならどんなことでも対応する』

シエナは保証を得ることができた事で少しぐらいなら、強引な選択肢を取る確証が得られた
問題はどの程度の事を選択するかである。
酷い場合には建物の構造物に少し大きな損傷を与えるプランもある
そういった選択は他の緩やかなものが通用しなかった場合にしか発動しないつもり。
予見することは十分に重要である。
現場に到着するとすぐに1人のパトロール捜査官が近づいてきた

「どうします?」

現場で統制をしていた地区パトロール事務所のパトロール捜査官が行動目標を訪ねてきた

「とにかく周辺地区にまで影響が出ないように警戒網を。逃走経路を作られることを避けるために」

シエナは次々と指示を出していった。
マスコミ対策として規制線の外で待機や記者発表を求めてきた時には会見の時間を作るとも
中央パトロールとマスコミとの関係は良好である。
そのため児童誘拐などの犯罪情報緊急放送を流す関係作りもしてきた
素早いマスコミ対応があるのでそういう時に役立つ

「マスコミには事件解決するまで規制線の外で待機させておくように」

今は人質救出を最優先にすることを最優先にしなければならない

『セントラル分署からSA24。マスコミ対応はどうする?』

「こちらで対応するわ。ただし今は規制線の外で待機するように連絡を」

マスコミによって人質事件の解決に妨げられるわけにはいかない
シエナはマスコミ対応のことであるプランを検討していた

『こちらセントラル分署SWAT。クラナガンシティバンクのスコープに捕らえた』

つまりいつでも狙撃ができるとのことだ。できれば生きた状態で身柄を確保したい。
もしかしたら何か良い情報を持っている可能性があるからだ。
取り調べでいろいろと喋るかもしれない。
彼らにとっては仮に刑務所に収監されたとしても安全は保証されない
もしかしたら時空管理局の暗部であるHRから抹殺される可能性がある
HRにとってリスク回避のためなら人命などどうでも良いと思っている構成員は多い
自分が刑務所に放り込まれるならすべての証拠を抹殺する方を選ぶだろう
もう損得で動く段階ではないのだ。自己保身のためにはどんな行動を行っても

「しばらくは状況観察をするしかないわね」

シエナは今はSWATには待機命令を発令した。重要な証拠を持っているかもしれないのだ
目の前に置いている極上の料理を前に簡単に殺して事件は終了では済まない
全容解明が求められる事は間違いない

「警戒態勢を維持して待機せよ。粘るしかない」


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東区西部区域 上空2000m UH-60(無線識別:BH6)

ラジェットが搭乗しているヘリは機動六課基地に向かっていた
彼はシエルに面倒を押し付けられたと感じながらも、
自分が人事資料をまとめたのだから仕方がないと言った感じだ

「管理職は苦労する」

ラジェットは一応捜査部1係の主任補佐官だ。
実質的には1係には主任捜査官がいないので彼が主任捜査官を兼任している

『港湾本部から中央本部BH6。応答を』

港湾本部からの無線交信だ。
ラジェットは交信はモニターしながらも通信はパイロットに任せた

「こちらBH6。何か緊急の用件ですか?」

『機動六課基地で警戒態勢を敷く必要性が出てきた。要注意して対応せよ』

「まずいな」

ラジェットは無線交信を聞いて危機感を感じた。
時空管理局機動六課基地の監視状況を確認も行った
基地の沖合には港湾パトロール艦隊の9500t級巡洋艦[タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦]が1隻警戒していた

「港湾パトロールに警戒態勢を引き上げるように要請を出すか」

『港湾本部からBH6。針路を方位93度に向けよ』

その無線に回答しようとしたヘリパイロットに対してラジェットが割り込んだ

「中央本部SA11から港湾本部。レーダー監視の強化を。人々を守るためにも必要な事だ」

『了解した』

「それと機動六課基地の警備体制を強化。こちらの絶対防衛ラインを突破させるな」

絶対防衛ラインとはクラナガン捜査局が定めているラインである
港湾パトロールが管轄しているエリアの中でも特に重要施設がある所に線引きされているラインだ
ここを攻撃されると特に大問題になる位置である。
機動六課組がクラナガン捜査局へ保護受け入れされるのは時空管理局や次元世界連合の幹部は把握している
根回しは重要だからである。

『了解。機動六課基地庁舎の上空には24時間交代で監視体制がとられている』

ただしそちらのリクエストで警戒レベルを引き上げると返答があった
これで少しは安心できると思った時、緊急ニュース速報が入ってきた

『先ほどベルカ州南部地方で地下魔力爆弾爆発実験が行われたとの速報が入ってきました』

魔力爆弾とはミッドチルダ連邦だけでなく次元世界連合全加盟国で豊富に埋蔵されている魔石鉱物だ
この魔石を利用した発電方法を通常魔力精製炉発電と呼ばれている
原子力のウランやプルトニウムを利用した原子力発電とは異なり、放射性廃棄物が出ない
反応が完全に終わった魔石はただの石になる。環境汚染に出るようなことにはまず考えられない
だがAMF装置が開発されたことから、石炭や天然ガスなどの火力発電や水力発電所の増設が求められている
火力発電所で本来排出される惑星温暖化物質や惑星汚染物質は排ガスフィルターで9割近くが浄化
水力発電所では火力発電のように惑星温暖化物質や汚染物質の排出されることは最小限で収まる
だからこそミッドチルダ連邦がある惑星の環境汚染は必要最小限ですむ。

『港湾本部から全クラナガン捜査局員へ。デフコンレベルを5から3に格上げする』

デフコンレベル。防衛準備態勢のランクであり最も平穏な時はレベル5
戦争状態に入るとデフコン1が発令される。デフコン3というだけでもことは大ごとになる。
通常より高度な防衛準備状態。警備に当たる艦船・航空機が増加で警戒態勢の強化を呼び掛ける。
ラジェットはすぐに携帯情報端末でベルカ州南部地方で観測されている情報を確認する
確かに魔力爆弾の地下爆発実験をした時に出る魔力波長が観測されていた。
これはとんでもないことになる。もう迷っている暇は1秒も残されていない
瞬時の判断が警戒態勢で求められる。マスコミにはすぐに発表される
デフコンレベルの判断は連邦政府の大統領と国防省の判断だ。

「ベルカ州で魔力爆弾の地下爆発実験をするとは愚かな連中だ」

状況をただ危険に晒している事を理解していないということになる
ただのトラブルで事は片付かない。ベルカ州で魔力爆弾を使った爆発実験をしたのだ
影響はかなり大きなものになることが想定される。政治的・経済的など様々な分野に
最も大きな要因は聖王教会の扱いについてである。聖王教会の過激派がいることは知られている
JS事件で聖王教会の教会騎士団に大きい暗い部分があったことはかなり有名である
だからこそ聖王教会騎士団の活動には数多くの制限がかけられているのだ
もし彼らが直接的、あるいは間接的に関与していたら国際組織としての立ち位置を完全に失う

「かなり危険だな」

特に今は聖王教会の上層部はほとんどがベルカ州警察によって身柄が拘束されている
彼らが自らが定めたベルカ自治区時代の頃のルールに違反する行為をしていたのだから
幹部の身柄が拘束されるのは当然の流れだ。聖王教会の現時点でのトップはカリム・グラシアだ
彼女が聖王教会の再編成にしている。マスコミには次々と不正行為が暴かれて対応に苦慮している

「聖王教会の監視を強化させるしかないな。カリム・グラシアははやて・八神友関係があったからな」

はやてだけでなくフェイトやなのはとも関係があった。
それが機動六課組の受け入れにおいて大きな問題になる。
そんな事はラジェットも人選をした段階で確実になっているは重々承知している
それでも何とかしなければならないのが現実で、最大の問題事項である
できるだけ機動六課組と聖王教会との関係は絶たせなければ情報漏れが起きてしまう
こちらの手のうちが漏れるようなことは避けなければならない

「苦労しそうな案件になるな」


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南区北部区域ハーディー地区5番街5丁目10番地 地区パトロール事務所

アルシオーネはファラス・ギレットの取り調べをしていた
聖王教会騎士団の団員であり彼が聖王教会の活動を名目に違法行為にタッチしていた
もしくはその可能性があるからこそ身柄確保の指示が出ているのだ
FBIに引き渡すということはおそらく次元世界連合の聖王教会調査委員会がバックで動いているはず
FBIは身柄拘束の代行をしているのに過ぎないのであることは想像できている
そこにFBI連邦捜査官が入ってきた

「アルシオーネ。元気そうだな」

ガルード・ケッス連邦捜査官が現れた。
アルシオーネは1度取調室を出ると内部に1人のパトロール捜査官を見張りにつけ連邦捜査官と話をした

「ガルード。あなたも面倒な案件を押し付けられたわね。聖王教会の内側に迫るなんて楽しい捜査になることはないから」

アルシオーネの言葉にそんなことは分かっていると回答した
聖王教会の不祥事を暴くことができれば昇格への道筋を作ることが容易になる

「それでFBIはどうやって今後の話を進めるつもりなの?」

「次元世界連合聖王教会調査委員会と連携していく。聖王教会の問題はミッドチルダだけでは済まないからな」

聖王教会の影響があった次元世界国は時空管理局が関係を持っていた次元世界国とほぼ同じだ
今の次元世界連合加盟国は全部で150もの次元世界国が加盟している
オブザーバーとして聖王教会と時空管理局も含まれる。
時空管理局については少し扱いが微妙で次元世界連合傘下の組織でもありオブザーバー組織でもある
ただし、クラナガン捜査局は正式なオブザーバー組織となっている。
時空管理局や聖王教会とは異なり多くの国際機関や次元世界国と連携できる方法は複数も確保している

「まぁ良いわ。今回はあなたにはいづれしっかりと利息をつけて返済してもらうわ」

アルシオーネはそう言うとファラス・ギレットの身柄を引き渡すことにした
あとは彼らに任せることにしてアルシオーネはハーディー地区の警戒を再開した。
今度は別に何か特定な目的があるわけではない。
だが迷惑なトラブルを阻止するためには手段は選べない
このハーディー地区と周辺地区はあらゆる犯罪組織が毎日抗争事案を起こしている
対応するのは楽な仕事ではないが、この場所はクラナガン市にとっては掃きだめのような場所だ
街には必ずと言って良いほどのつきものである。
大勢の人々が住めば住むほど掃きだめのような場所は必要なのだ
この辺りには高利貸しを行っている非合法組織が数多く存在する
クラナガン市ではカジノは合法とされている。
カジノにのめりこんだ者には通常のカジノのレートでは我慢できず、
市政府が認めている合法のカジノから非合法カジノ運営している場所に通う者は増加しつつある。
そういった非合法のカジノは多くの犯罪組織が数多くのが関与している

「本当に昼間から過激な連中がいるわね」

アルシオーネはSUVを運転しながら警戒態勢を維持していた
退役時空管理局員や退役聖王教会関係者から狙われる可能性が高いことは百も承知だ
だからこそ慎重に動いて、なおかつ冷静な判断能力が必要である
多くの犯罪組織の構成員はこちらが運用している車の情報を把握している
だからこそ下手に手を出すことはしない。
クラナガン捜査局と全面対決するということの恐ろしさを分かっているからだ
中央パトロールと敵対するだけでも危険なのに捜査部に手を出すということは、
さまざまな連邦行政機関が動き出すかもしれない。捜査部捜査官に恩がある奴は大量にいる
恩返しということで身柄引き渡しに協力してくることも想定される
捜査部捜査官には恩があると感じている者は多い。それは犯罪者の中にもだ
だからこそその恩を返すために協力どころか、犯人を差し出してくる場合も考えられる
こちらの車両が分かっているということはバカな真似をすることはまずないだろう
例えば目の前で麻薬売買などと言った行為である。
居なくなれば商売を再開するだろうが、それまでは大人しくしているはず

『中央本部からSA33。応答を』

「こちらSA33。何かトラブルでも?」

『ワンワールドバンクのハーディー地区支店から通報です。爆弾を身に着けた人物が店内にいると』

破綻したワンワールドバンクのハーディー地区支店。いろいろと暗い話が多いことで有名である
時空管理局債の購入のために数多くの融資をしていた。それが破綻する最大の要因だ。
1つの金融商品に手を出したがためにリスク管理ができず、
最終的には金融危機という名の爆弾が爆発するなどをしてしまった。
各次元世界国が時空管理局の影響下に強くあったことが政策決定に鈍らせたことが大きな要因である

「相手の要求は?」

『要求はシンプルです。ワンワールドバンクのトップを連れてこいと』

アルシオーネは仮に要求に従った瞬間、相手がボタンを押すことは容易に想像できた
追い詰められているとなるとなおさら。ここは引き延ばすしかない。
時間を稼ぎながらも説得をさせる。それしか方法はないのだ
ワンワールドバンクのトップは現在クラナガン市内の拘置所に収監されている
24時間常に監視対象になっている。ちなみに監房は個室となっている

「立てこもっている人物の名前と背後関係を徹底的に調べて」

『すでに対応しています。SA33の携帯情報端末に情報を送信。安全確認を行った後で情報を見るように』

当然である。車の運転中に見るわけにはいかない。捜査官が事故を起こすわけにはいかないのだから
ミイラ取りがミイラになっていたら市民から信頼されているその証であるバッジを持てない

「中央本部。こちらSA33。現場ではどれくらいの局員が集まっている?」

『パトカーが5台とパトロール捜査官が11名。ヘリによる監視も強化中』

「了解。引き続き警戒態勢を維持。立てこもっている人物の確認はどうなっているの?」

『名前が出ました。ユラザーク・ギャスシー。60歳。退役時空管理局員です。金銭関係ではかなり大きな問題あり』

その情報も携帯情報端末に送られてきた。
念のため無線連絡で内容を聞くことによるダブルチェックをした
ユラザーク・ギャスシーの最後の階級は時空管理局本局での中将をしていた
5年前に退役した。退職金で5000万ミッドを受け取っていた。おまけに高額な年金の受給を受けていた
ただし退職金をワンワールドグループ企業のワンワールドファンドに運用を依頼。
運用方法について選んだ中でワンワールドカンパニーが発行していた金融商品で運用を任せていた
しかしワンワールドグループ企業が破産申請をした段階でほぼ株式や債券の勝ちは失われた
簡単に言えば紙くず同然になってしまったから自暴自棄になっているのだろう
今年に入ってからの収入はミッドチルダ国民年金だけである。
国民年金に上乗せされる形で支給される企業年金は受け取れていない。生活に困窮するのも納得だ。
元々ワンワールドバンクから融資を受けていた資金で、
さらなる利益を出そうとヘッジファンドに運用を任せていたのだから
そのワンワールドファンドも破綻して資金を失った。
ミッドチルダ国民年金だけでは生活は難しいのが現実だ
だから銀行に爆弾を持って立てこもっている

「近隣の避難指示を。こちらは現在急行中。到着は5分以内」

『すでに避難は開始中。問題は店内をどうするかです』

防弾ガラス仕様であることが最重要問題だ。簡単に狙撃などで対応する事はできない
対物ライフルでも貫通は簡単にはいかない
今の次元世界連合加盟国の全金融機関ではAMF装置がすべての店舗で設置されている
魔導師による経済犯罪を押さえ込むためにである。ミッドチルダでは特に厳重態勢が敷かれている
AMF装置の設置にはその国の許認可を求めなければならないと定められている次元世界国が多い
むやみやAMF装置が設置されると問題が出ることがあるからだ
そういった装置の設置には政府組織の許可が必要になる
魔力精製炉発電所付近でその装置が作動すると魔石燃料の発熱反応が大幅に減少。
発電出力が徐々に低下していき、最悪の場合は魔力精製炉にある魔石燃料の発熱反応が停止
1度でも完全に発熱反応が停止した魔力精製炉を再起動するにはかなりの時間が必要になる
発電などを行っている電力会社やその電力の恩恵を受けている人々の生活が行き詰まる
そうなることを守ることが求められる。クラナガン捜査局の管轄内の魔力精製炉発電所の警備は担当している
クラナガン捜査局管轄圏外にある魔力精製炉発電所は連邦軍と警察組織がガードに入っている

「金に困ってリスクは大量に降り注いでいる。守るべき者がいないならどんな手段を使っても金を集めるか自殺ね」

アルシオーネは愚痴りながらもワンワールドバンクのハーディー支店立てこもり現場に無事に到着した
彼女は車から降車すると現場指揮をしている刑事に話をするために向かった

「アルシオーネ。忙しいようだな」

現場を指揮していたのは中央本部刑事課のクリー・ヴランド刑事だ
彼は中央パトロールに入局する前は時空管理局地上本部で捜査官をしていた
彼は数年前に時空管理局の内部犯罪を告発した。それも中央パトロールにだ
時空管理局の監査を担当する部署にも同じことをしたが時空管理局は動かずだ。
正義感が強かったため、独自に捜査を行い続けたが。
だがその行為は彼にとって時空管理局で自殺行為になることは分かっていた
それでも正義の実行を求めて活動し続けて逮捕して裁判にかけるところまで必死になっていた
裁判が行われる直前になってその人物は自殺した。クリー・ヴランドは時空管理局から半ば強制的に退役
その時に捜査においては犯罪者摘発のための執念を評価されてクラナガン捜査局がスカウトした
今は中央パトロール本部刑事課に属している。腕は確かだ

「クリー。状況は?」

「腹に爆弾を巻き付けている人物だ。何をするかわからない」

「お金の恨みは怖いってことを身に染みるほどわかるわね。自棄になったら自爆もありうるし」

起爆ボタンを押すようなタイプならまだ何とかなる方法はある
ただし無線による遠隔爆弾を使用された場合は妨害無線を出した瞬間に起爆するかもしれない
リスクがない事件解決法などないがこれは危険すぎる。となると長丁場になることは間違いない
時間をかけて犯人にゆっくりと説得するしかない。問題を解決するにはそれが最善の策である

「しばらく様子を見るしかないわね」