午前10:12 北区西部区域 ノースウエストクラナガン貨物ターミナル パトロール事務所

サイノスは引き続き貨物列車の積み荷にリストの照合作業を行っていた
すでにベルカ州の石炭採掘場から運ばれてきた石炭を積載した貨物列車が入線していた
急いで積み荷に異常がないか大至急調べさせていた。
今は時間との戦いだ。10時30分にはここから沿岸部の工業コンビナートに貨物列車が出発する
時間がないことはサイノスはわかっていた。
確認作業ができないから延長してほしいという希望は不可能だ。
大急ぎで石炭貨物列車の積み荷チェックをするしかないのだ
もしかしたら表面に石炭功績が積み込まれているだけで、実際は何か隠しているものがあるのではないか
それを調べることに専念していた。もしかしたら麻薬を隠しているかもしれない
市内で麻薬の流通量が増加することは犯罪組織の資金源を増やすだけだ
そんなことはどんな理由を並べようと認めるわけにはいかない

「本当に忙しいね」

サイノスはパトロール捜査官からの報告で貨物列車の積載物について無線で照合作業を進めていた
できればスムーズに事を進めていきたい。だが数が多すぎるのは苦労している。
現場で貨物のチェックをしているパトロール捜査官や刑事たちはここにある膨大な貨物チェックに追われている
サイノスはうまく人員を手配して指揮命令系統でうまく動かすことが求められる
ここに入線してくる貨物列車や出発待機中の貨物列車はかなりの数になる
すべてを調べるには不可能である。ある程度は絞り込んでいくことはできるが

「SA25から北分署。ノースウエストクラナガン貨物ターミナルに入線してくる貨物列車はどうなっている?」

『現在ベルカ州から4本の貨物列車が向かっています。3本はベルカ州で生産された野菜などの食料です』

残る1本はベルカ州で生産された繊維製品である。衣服などが積み込まれている
もしかしたらそこに何か隠しているかもしれない。一通り調べるしかないのだ。
これもすべては麻薬や銃などの違法なものを市内に持ち込ませないためである

「時間がない」

『中央本部からSA25。応答を』

「こちらSA25。何かトラブルですか?」

『ベルカ州からノースウエスト貨物ターミナルに向かっている貨物列車ですが』

タレコミの情報が入り密輸物資が積載されているとのことだ
密輸物資とはもちろんマリファナである。ベルカ州では今では大幅な麻薬密造工場をつぶしてきた
聖王教会が自治していた頃には陰では承認されていた。見返りに金を納めることで
州政府に移行後は徹底摘発を実行している。件数は数か月で100か所以上になる
今も検挙数は増加の一途をたどっている。
立件する方も必死だが隠れようとする密造組織も必死である
麻薬は貨物列車に簡単に隠すことができる。
おまけにビジネスに成功すれば大きな利益を犯罪組織にもたらす
だから市内の犯罪組織は麻薬密売のために殺しをすることもある
必要なら脅迫してでも麻薬密輸に手を汚させる連中もいる

「この貨物ターミナルはとんでもない災いが詰まっている箱がありそうだね」

『ノースウエストクラナガン貨物管制から各員へ。1番線に野菜などを積載したコンテナ貨物列車が入線する』

ここからが本当の正念場だ。これからも続々と貨物列車が入線してくる
できるだけ素早く麻薬や銃などの摘発を行わなければならない。見逃しは許されない。
野菜が満載されている貨物列車にマリファナが積み込まれていることは十分想定できる
ただし、この貨物列車は70両近くにもなっている。
調べると口で言うのは簡単だが実行するのは楽ではない

「ノースウエストクラナガン貨物ターミナルにいるパトロール捜査官は貨物に不審なものがないか調査を」

サイノスはそう言うとこの貨物ターミナルに配置されているパトロール捜査官に調査を依頼した
今はどんな人物の協力が必要である。手段など選んでいる暇はない
捜査の関係で法的にはグレーゾーンの手法であっても実行せざる得ないなら、
リスクを覚悟してでもその道を歩むしかない

「本当に苦労するね」


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西区南部区域ヒルズボロ地区5番街5丁目10番地 地区パトロール事務所

エディは痴漢行為で逮捕されたヘンズ・ボードックの事情聴取ををしている刑事をマジックミラー越しに見ていた
自供をすることは素直に吐いた。目の前で逮捕されたのだから証拠としては十分だ
被害を受けた女性も被害を受けたことは認めているし間違いなく彼が痴漢行為をしたことを認めた
証拠も証言も十分である。性犯罪者はかなり厳罰で対応されることになる

「刑務所でしっかりと罰を受けさせてくれ。あとは任せていいか?」

エディは今後の捜査は西分署に任せることにした。
正確には西分署刑事課の担当になる。できるだけ早く送検して裁判にかけて刑務所に送り込む
裁判を受けるまでは市内にある拘置所で収監されている。もちろん個室である。
それも狭い個室で常に監視されている。自殺などをされては困るからだ
何としても罪の代償を払わせることが必要になる

『ピーピーピー』

「エディ・サンチェスだ」

『こちら中央本部。問題が発生しました。そちらの現場付近から通報電話を受電中。ピザを注文する内容です』

ピザを注文する内容の通報。
それは隠れて緊急事態を伝えるときに例え話で通報するときによく利用されている
通報者の電話番号と名前を照合したところ、過去に何度も暴力事案で通報されていた
つまりほぼ確実に緊急事態であることを証明することは間違いない

「住所は?」

『西区南部区域サウスウエストヒルズボロ地区1番街2丁目3番地にあるマンション。2104号室です』

「ヘリにスナイパーを乗せて待機させろ。最悪の場合は狙撃を許可する。ミスは許されない」

下手にサイレンを鳴らすとこちらの動きが察知される。穏やかに進める必要がある。
エディはすぐに宅配のピザ屋の服装を近くの店から借りてくるように指示した
被害者を安全に保護するためには必要なことだ。手段などどうでもいい
後で何とでも言い訳ができる。人命救助のためなら無茶をすることは当然である

『消防に連絡して消防隊員の服装を着用させて自宅に刑事とパトロール捜査官を手配します』

エディは急げよというとすぐに近くのパトロール事務所からピザ屋に向かった。
宅配をしている店から制服を借りて一気に強行突入するためである

「すまないな」

近くの24時間営業のピザ屋から出来立てのピザを購入。代わりに宅配サービス員の制服を借りた
ピザ屋はすぐに協力することを認めた。

「市内の治安が良くなってこっちはビジネスがやりやすい。クラナガン捜査局に頼まれたらNOとは言えないからな」

店員はそういうと気軽に制服を貸してくれた
エディはおまけに1万ミッド紙幣を渡した。制服のレンタル代の代わりだ

「それじゃさっさと決着をつけるか」

エディはすぐに通報してきた女性の住所があるマンションに入った
もちろんピザ屋のふりをしてだが

「SA38から中央本部。ピザ屋の制服を借りている。一気に突入を開始する」

『現在もたびたび通報電話を受電中。かなり危険な状況であることはわかっているので警戒せよ』

「了解」

この手の家庭内暴力、つまりはDV行為は時間が経過すればするほどリスクが高まるだけだ
急がないといけない。エレベーターで21階に到着する。
通報があった部屋に到着するとドアをノックした
腰に装備している銃をいつでも抜けるようにしながらもだ

「ピザをお届けに」

エディはドアをノックしてそういうと女性がドアを開けた。
こっそりとエディはバッジを見せると室内までお運びしましょうかと提案した
部屋の中に入り安全確保をすることが重要だからだ。
女性はお願いしますと答えたので気づかれないように慎重に室内に入ると酒で酔っている男性がリビングにいた
男のそばではおびえている幼い男の子がいた。これはかなり危険な状況だがこの手の解決法は決まっている

「何の用だ!?」

エディはあくまでも自然に対応した。
この手の対応方法はパトロール学校で覚えさせる。
穏便に事を解決させるためにだ。被害者を出さないで一気に解決する
それだけを考えて対応する

「ピザのお届けを。私どもは綺麗にカットできますので」

男はどこか少しほっとした表情を浮かべた。だがそれが命取りだ。
次の瞬間一斉にパトロール捜査官が突入してきた
エディは男性のそばでおびえている幼い男の子を即座に離した
パトロール捜査官はすぐに男性の身柄を拘束した

「中央パトロールだ!DV行為で逮捕する」

パトロール捜査官が5人がかりで一気に制圧。身柄を拘束した。
エディはこのマンションの室内に何か危険物がないか探すように指示した
安全確保が最優先である

「大丈夫ですか?」

エディはとにかく男を外に出して地区事務所に連行させた。
その後救急隊も駆けつけてきた。通報してきた女性と男の子に傷がないか確認を行った
表面上の傷はないが心理的なことも考えられるのですぐに医療センターに搬送するように指示した
心理的ケアを行うのは当然である。あとは室内の鑑識だ。
女性と男の子には間だった外傷はないが、内部で出血などをしているかもしれない
常に最悪の事態に備えて対応することで安全が確保されているのだ
もし内部で出血などをしていたら早急に治療が必要である
命にかかわることもあるのだから

「とにかく調べるか」

エディは鑑識作業に入った。室内に何か隠し事をしていないか
するとある絵画の裏に金庫を見つけた。ダイヤル式だったので聴診器を使って慎重にカギを開錠した
そこには1000万ミッドも入っていた。そこで携帯情報端末を使用して紙幣のシリアル番号を追跡した
するとある事件で使用された紙幣の番号と一致した

「冗談だろ。時空管理局地上本部が誘拐の身代金を建て替えた時の紙幣番号と一致か」

それは10年前の話だ。まだクラナガン捜査局の前身であるクラナガン捜査部もなかったころの話だ
10歳の男の子が誘拐されて身代金として1000万ミッドを要求した
当時の捜査を担当した時空管理局は金を用意した。誘拐された男の子の親は時空管理局員
身内には甘いと言わざる得ない。仲間だから金を用意するのはわかる
問題は事件のその後の決着だ。誘拐された男の子は殺されてゴミ捨て場に捨てられていた
体中に傷がついていた。あまりの悲惨なことを受けて両親は時空管理局を引退
今は心理ケアを専門としている医療センターに収容されている
実の子供の発見時の姿を見て、何もかも失ったのだ
珍しいことではない。子供を失うということはよくあることである
特に幼い大切な子供となるとなおさらだ。
エディは念のため当時の捜査情報にアクセスしようとした
だが機密扱いになっていた。ここではアクセスできない。
これでは何かあると疑ってくれと言っているのも同然である

「10年前に身代金として支払われた1000万ミッドもどうしてここにあるのか突き止めないといけないな」

当時の情報によると誘拐事件は中央区の高級マンションが立ち並んでいるエリアで発生
誘拐された10歳の男の子の捜査を担当したのは時空管理局地上本部首都防衛隊とFBIだ
連携が取れていたのかと問われるとそれはなかった。お互いに情報の出し惜しみをしていた
つまりそれぞれ独自に捜査を進めていた。誘拐事件の場合24時間以内に解決しないと救出はほぼ不可能だ
必ず死体で発見されることが高まる。時間が経過すればするほど。
1000万ミッドのたどった経由を調べようとして連邦財務省のデータベースにアクセス
紙幣番号を入力して金の動きを探ったが、身代金が銀行などに入金された形跡はなかった
つまり銀行に預けることができないお金であることを知っていて金庫に入れていたのか
それとも何か事件について知っている関係者なのか。じっくりと調べていくしかない


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中央区サウスサーストン地区5番街付近 クラナガンシティバンクサーストン支店 現場指揮拠点

クラナガンシティバンクサーストン支店の立てこもりは今も長引いていた
シエナは今後の対応方法について、近くに設置された現場指揮拠点でいろいろと考えていた
交渉で解決すればいいが犯人にはもう失うものは何もない
下手をすれば10人の人質もろとも自爆する可能性もある
今は冷静な手腕が求められる時である

「どうするか考えないと」

シエナは支店の周囲にSWATの狙撃手を配置。だが銀行のガラスは防弾使用だ
簡単に貫通するとは思えない。対物ライフルを使っても1発で破壊は難しい
狙撃するのは1チャンスしかない。銀行などの金融機関はまさに要塞そのものである
立てこもられたら犯人は閉じ込められてしまう。こちらも打てる手はかなり限定されてくる
厄介なことではある

「マスコミへの報道管制はあまり効果は期待できないわね」

シエナは今後のことを考えながらアイデアを模索していた
問題は犯人たちがどこまでやる気があるかだ。

「マスコミへの報道管制も時間がないです」

いつまでもマスコミの報道を抑えることなどできるはずがない
素早く対応しなければ状況悪化につながる。

「仕方がないわね。報道管制について中央本部で調整してもらいましょう」

中央パトロールはこの手の事案の時には一定の間は報道状況を抑制することを協定と締結している
許可が下りたら好きに報道しても良いという条件で協定を結んでいた
だから中央本部が許可を出したらマスコミは自由に報道するだろう
そうなったときにもいろいろと対処法を考えていた。マスコミの報道を利用するのだ
銀行強盗をしている4人の家族に自首をするように説得を試みようというのだ
成功する可能性は極めて低いが。何事もやってみなければわからない
リスクのない仕事はないのだから

「マスコミによる報道を利用しましょう」


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中央区南部区域サーストン地区6番街2丁目 クラナガンセントラルバンク本店

銀行強盗犯はすでに逃走していた。覆面マスクを着用していたが犯人の人数は10人近くにもなる
ジャネットが現場に到着するころにはすでに鑑識作業が進められていた

「状況は?」

「盗まれたのは10億ミッド。人質の頭に銃弾を撃ち込んで5人が死亡。かなり荒っぽい連中だ」

セントラル分署刑事課の男性刑事の報告にジャネットはかなり派手な展開になっていることをすぐに理解した
5人を殺すとはなかなか根性があるといえる。捕まれば確実に死刑判決が待っている。
それを覚悟しているなら正気とは思えない。かなりクレージーな連中である

「かなり過激ね。金によっぽど困っている連中かもしれないけど監視カメラの映像は?」

「すでに解析に回しています。声紋情報から身元が割れるかもしれません」

DNAや指紋と同じで人が発する声紋もそれぞれ個人特定に十分採用できる証拠になる
過去に何かの犯罪を犯した者であれば登録されているはず
銀行内の監視カメラ映像に遠隔アクセス。犯人の音声を照合した結果はあまりいいものとは言えない

「かなり危険な連中ね。全員が聖王教会過激派のリストに登録されているなんて」

10人全員が聖王教会過激派のリストに登録されて、おまけに次元世界連合が国際指名手配をかけている
容疑はベルカ自治区時代の数多くの犯罪に手を染めていたことだ
かなり厄介なことになることは確実である。盗んだ金額は10億ミッド。
1人当たり1億ミッドだとしたら市内から逃げ出す方法を考えているはず
それだけのコネはまだあるはずだ

「金に困って銀行強盗。おまけに人も殺している。強盗殺人で間違いなく仮釈放なしの終身刑か死刑ね」

「ジャネット・パウワー捜査官。どうします?」

1人の男性刑事が今後の方針をどうするか質問してきた
ジャネットにはすでにプランはできていた

「包囲網を敷くしかないでしょ。中央本部に連絡して顔認証システムで検索。必要なら港湾パトロールにも協力を」

船を使っての逃走となると港湾パトロールの協力が必要になる
今はどんな助けでも借りたいところだ。殺された5人のためにも。
犯人は見逃さない

「本当に時空管理局と聖王教会の規模縮小に伴う影響は大きいわね」

『中央本部からSA15。クラナガンセントラルバンクの銀行強盗犯ですが、車を使って逃走していることを確認』

「行先は?」

『クラナガンハイウェイ4号線(東線)を東に向かっています。おそらくセントラルクラナガン空港が目的地と』

「空港パトロールに連絡して警戒態勢を引き上げさせて。対象の車の詳細な情報を東分署に」

確保が可能なら多少強引でも良いので押さえてとジャネットは指示した
逃がすわけにはいかない。強盗殺人犯を何としてもだ

『東分署から各員へ。車両ナンバー[クラナガンイーストZZA-2342]が暴走しているとの通報あり』

ジャネットは携帯情報端末で正確な位置情報を確認した。クラナガンハイウェイ4号線を西に向かっている。
車はSUVで車両登録情報によると退役時空管理局員のイエラス・ホージックが所有している
彼の記録を調べると時空管理局を大量リストラされたリストに登録されていた
おまけに時空管理局時代に犯罪組織から金銭のやり取りで時空管理局犯罪捜査局が捜査していた

「亡霊が現れたわけかもしれないわね」

イエラス・ホージックはベルカ州で1年前に死亡していた
死因は溺死とされていた。州警察の報告書を確認したところ、高所から飛び降りたとされていた
滝があるところからの飛び降り。遺体は見つからなかった。だが目撃証言から死亡宣告がされた

「保険金詐欺のつもりでもあったのかもしれないわね」

当時のこの自殺で保険会社から総額5000万ミッドの保険金を受け取っていた
受取人はイエラス・ホージックの子供だ。当時は14歳の男の子。現住所はベルカ州東部地方だ
現在は親族に引き取られている。

「5000万ミッドの保険金を受け取ることを目的とした保険金詐欺の可能性もあるわね」

とにかく動かないことにはどうにもならない。イエラス・ホージックの身柄を確保するしかない
問題は本人が死亡扱いになっていることだ。裁判所から令状を請求するときの内容で身元不明でというのは難しい
令状には拘束する人物の名前が記載されていないと効力は発生しない。
緊急事態であることを除けばであるが。今の状況ではハイウェイを猛スピードで暴走している
令状請求には少し力不足である。だが放置するわけにはいかない

「SA15から中央本部。車両ナンバー[クラナガンイーストZZA-2342]の車の安全確認令状の請求を」

ジャネットは応用を聞かせることにした。人物がだめなら車というわけだ
車で乗っていた人物が指紋かDNAで身元特定できればあとは何とかすることができる
すでに車は暴走している。スピード違反を理由に検挙する
あとは出たとこ勝負になるが

「うまく事を運べばいいけど」

ジャネットはうまく事が順調よく進むことを願いながらも、
今はここで起きた銀行強盗の捜査に専念することにした


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東区東部区域サウスクラナガン港 第23番埠頭

ダイナはSUVを止めて車内からある船がこの港に帰ってくるのを監視していた
小型漁船ではあるが以前から麻薬や銃などの違法物資の密輸をしているとタレコミがあったので張り込んでいた

「昼間から堂々と密輸行為をするとは呆れた連中だ」

むしろ昼間だから密輸行為が行いやすいのかもしれない。
真昼間にそんなものを密輸していると思う者は少ない

『港湾パトロールサウスクラナガン港分署から各員へ。タレコミで情報がもたらされた漁船が間もなく港内に』

令状はすでに発行済み。接岸したら一斉に強制捜査に踏み切る予定になっている
合図は現場の港湾犯罪捜査部の捜査官だ。
ダイナはあくまでも中央パトロールとの連絡担当と情報共有がメイン

「いよいよか」

ダイナはタレコミにあった漁船がサウスクラナガン港に入港してきたのを双眼鏡で確認した
港の作業員に服装で港湾パトロールのパトロール捜査官10名が一斉に踏み込む準備もできていた
一斉検挙するタイミングは難しい。もし誤ったときに踏み込んだら銃撃戦になるかもしれない
息を合わせた行動が必要になる。

『目標の漁船は間もなく第23埠頭に入ります。全準備は完了しています』

「SA20からサウスクラナガン港分署。漁船が接岸したと同時に一斉に踏み込め。銃撃戦になることも警戒を」

『了解』

漁船が港の接岸した瞬間、一斉に強制捜査に踏み切った

『港湾パトロールだ!積み荷の臨検を行う!』

港湾パトロールのパトロール捜査官が一斉に動いた
ダイナもSUVから降車すると漁船が停泊しているところに向かった
港湾パトロールサウスクラナガン港分署のパトロール捜査官たちは次々と臨検に入っていた
ダイナも船に乗り込むと漁船の船長に事情聴取を開始した

「何の容疑かはわかっているな?違法物資の密輸に関する調査で臨検を開始する」

ダイナが男性船長が何か危険物を持っていないか確認をすると小型リボルバーを持っていた
S&W M10を所持していた。銃の不法所持で逮捕することができる
ダイナはすぐに手錠を取り出すと船長を銃の不法所持で逮捕した

「違法物資がないか隅々まで確認しろ」

パトロール捜査官に漁船の船長を連れてサウスクラナガン港分署に連行するように指示
ダイナは刑事とパトロール捜査官と一緒になって漁船の隅々まで調べていった
パトロール捜査官の1人が船内からあるものを発見した。少し大きめの粉が入った袋だ
それも白い粉末状のものが入った袋である。ダイナは麻薬かどうかを試薬で確認した
結果はすぐに分かった。かなり純度の高いコカインである
麻薬識別の色がはっきりとしていることからかなり純度が高いことはすぐに理解した

「すごい量になりそうだ」

船のあちらこちらに隠されていた。全部で300Kgにもなるだろう
末端価格でかなりの金額になるはず。麻薬の流通量は市内では大幅に減少している
クラナガン捜査局が麻薬や銃の摘発に力を入れているからだ
麻薬常用者の中には犯罪をしてでも麻薬を買おうとしている者もいる
そういったことが原因で犯罪発生率は大幅に上昇していることは事実である

「いったいどうやって入手したのか調べるしかないな」

300kgのコカインとなると末端価格は極めて高い
裏社会の流通価格によっては犯罪組織は必死になるだろう
せっかく購入したのに途中で押収されたとなると組織の金を無駄遣いしただけだからだ
その分を補うためにどんな行動を起こすかわからない。慎重な捜査が求められる

「とにかく船の船長の経歴を調べて、背後関係についても詳細に調べ上げるか」

ダイナはそういうとサウスクラナガン港分署で詳細に調べることにした


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中央パトロール本部ラボ棟 1階検死ラボ 事務室

検死ラボのトップをしているリエ・ミズノ検死官は、
病院から不審死として搬送されてきた男性の検死を終えて報告書をまとめていた
中央本部の検死ラボの所属検死官は3人で彼らを補佐する検死官補佐は6人在籍している
ちなみに市内の各分署にも検死ラボが設置されている
中央本部ラボ棟検死ラボで検死を行われる場合は捜査部や中央本部の各部署が担当している事件のみ
各分署にラボ施設が設置される前は1日に多くの検死をしていた。だが今は状況が全く異なっている
ラボに分析官の配置が完了したことで状況は大きく異なっている
以前なら徹夜で検死を行っていた。今は定時で帰ることができる

「本当に暇になったわね」

彼女は市内の医療センターから突然死をした男性の検死を終えたが事件性はないと判断した
もし事件性があるなら刑事課や捜査部に操作することを要請しなければならない
声を出すことができない彼らの真実を調べるというのはいろいろと重要な仕事であることには変わりはない

「そうですね。以前は休む暇もありませんでしたから」

リエ・ミズノ検死官の補佐をしているフラシーナ・ドバイアスの言うとおりだ
中央本部には検死官は3人が配置されている。
彼らの補佐として1里の検死官に対して2人の検死官補佐が配置されている
彼らは以前は連日の激務が収まったことに少し安堵していた
仕事が減っただけでなく殺人などの検死が必要な件数が大幅に減少したからでもある

「そういえばソリオはまだ戻ってきてないの?」

リエ・ミズノ検死官の補佐をしているソリオ・フロンテ検死官補佐
今は南区にある医療機関に行っている。謎の突然死をしたと連絡があり確認作業を行っている

「そういえばまだですね。呼び出しますか?」

「彼も学校で勉強しているから応援が必要なら連絡してくるはずよ。待ちましょう」

「コーヒーを入れますね」

フラシーナの言葉にリエはお願いするわと伝えた
フラシーナはリエにある話題を振った。リエ主任検死官にも機動六課組のシャマルを研修生と受け入れろと
彼女ははっきりというと迷惑なものを押し付けられたと感じていた。
面倒を押し付けられることはわかっているからだ

「それにしても上は何を考えているんでしょうか。リエ主任に機動六課の1人を受け入れするようになんて」

「上の考えはわからないけど身柄保護が急務なんでしょ。中央本部は警備体制は厳しいから」

このラボ棟には出入りする者は常にIDチェックや危険物がないかの検査がある。
証拠品の銃や麻薬などはそれぞれのラボの分析官でなければ扱うことはできない
ラボ分析官は定期的にうそ発見器にかけられたりされている。安全であることは常に監視対象になっている

「本当に面倒なのはそうだけど、命令には逆らえないわ」

「リエ先生なら捜査長官と直に当たると思っていましたが」

「私は与えられた任務はこなすだけ。もちろん厳しく教育はしていくけど」

検死官というのは声を出すことができない被害にあった人々の最後の砦なのだ
声なき声を探り出して事件性があるかないかを調べる。それが検死ラボの任務なのだ

『ピーピーピー』

事務室の電話が鳴りだした。発信者は南分署検死ラボの検死官からだった

「中央本部検死ラボのリエ・ミズノ検死官よ」

『南区西部区域サウスオキーチョビ地区7番街7丁目と8丁目の間の通りに設置されているゴミ箱に遺体を発見』

詳しい情報を確認するため情報端末に関係する情報を送るように指示した。
遺体を撮影した写真などの画像情報によると遺体は男性で腹部に銃創らしき穴が複数確認されている
現場付近を調べたが銃は出ていない。そのため殺しの可能性が高いということである
念のため中央本部の検死ラボで対応してほしいとのことだ

「わかったわ。搬送して。わかっていると思うけど、証拠汚染がないように慎重に扱うように」

『もちろんです。わかっています』

通話を終えるとリエは仕事の用意を始めた
始めようとしたときフラシーナが見ていた報道番組にニュース速報が入ってきた

『次元世界連合は時空管理局機動六課の隊員の大部分をクラナガン捜査局に預けることを決断しました』

『この発表について次元世界連合報道官はあくまでも機動六課の身辺警護が目的と発表しています』

「機動六課はこれで時空管理局に戻る道は失ったわね」

リエの言うとおりだ。事実上の追放処分である。今後の道筋は良いものではない
時空管理局に戻る道は完全に失われたことは明らかな事実である

「ようやく時空管理局は機動六課を切り捨てたわね」

今度はこっちに面倒を押し付けて時空管理局は高みの見物のつもりなのかもしれないけどとリエは思っていた
ある程度は予想されていたが、面倒を押し付けてきた。
時空管理局は自分たちの立ち位置を守ることに全力であることは間違いない
機動六課組を切り離したくて仕方がない連中は多い
時空管理局の闇を知っているからとなるとなおさらである
闇を知っている者は消した方が自分たちにとって安全であると考えている

「そういえば機動六課組からは誰を引き受けるのですか?リエ先生」

「シャマル・八神医務官。表向きは医務官としてだけど実際は検死官補佐になってもらうわ」

フラシーナは私たちの部下ということですかと質問してきた

「その通りよ。かなり教育に苦労はするかもしれないけど」

検死官というのは難しい仕事である
声を出すことができない人々の最後を見ることが求められるからだ
ゴミ箱に遺体があったとなると検死ラボの空調を陰圧状態にしておき、
検死ラボ以外の他のラボににおいが漏れないようにする必要がある
遺体のにおいが他のラボにまで流れると分析官に不快感を与えるだけである
できるだけ冷静にそれぞれのラボで分析ができることが望ましい

「フラシーナ。私は報告書をまとめたら検死ラボに行くから用意をお願いできる?」

リエの要請に部下のフラシーナは大丈夫ですと答えると事務室を出て検死ラボに向かった
検死で使用する各種器具の用意するためである。リエは報告書を取りまとめるとフラシーナがいるラボに向かった

「それにしても検死ラボの予算って充実していますよね」

ラボの予算はある程度充実したものとなっている。常に最先端科学分析が必要であるからだ。
そのため新しい分析装置の開発や購入には予算は大目に割かれている
検死ラボでは検死のために血液検査など、様々な分析ラボとの連携が必要であることから
かなり充実したものが配置されている

「それだけ責任が重要であるということの証よ。死者の言葉を最後に聞いて真実を見つけること」

だからこそミスは許されないとリエはフラシーナに伝えた
最後にここで何があったのかを調べること。声なき者の最後の声を聴くのが検死官だ
ミスをすれば事件性があるのに事故だということで捜査が行われないこともある
あってはならないことなのだ。検死官に誤診というのは
常に全身全霊で声が出せない人々の最後を見届ける
それこそ検死官の役割である

「早く検死の用意をしないと」


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クラナガン自然保護区 中央区域 クラナガン自然保護センター庁舎 4階分署地域情報センター

エイミーは密猟行為をしていたグレイ・キョラースに関する情報収集をしていた
退役時空管理局員が違法な銃でハンティングするとはバカもいいところだ
魔法デバイスで狩りをするのに飽きているから違法なものに手を出したのかもしれないが
元々クラナガン自然保護区内の警戒態勢は高い
貴重な動植物があるからだ。それらを守るために自然保護区を管轄する分署が設置されている
密猟は一大ブラックマーケットになっている。何度も言うが珍しいものになればなるほど、コレクターは欲しがる
どれほど高い高価なものであってもだ。

「金に困っているのかしら?」

エイミーは金融情報に関して徹底的に調べることにした
結果は想像を超えるぐらいの危険指数を示していた
2億ミッドも金融機関から借り入れをしていた。返済の期日は今週の金曜日まで
もしくは利息分だけでも支払わなければあらゆる財産の押収が行われる

「退役時空管理局員でも企業年金を受け取ることはほぼできない状況はつらいところね」

時空管理局債を使った投資運用で失敗したのだ。まぁそんなことはどの次元世界国でもわかっている。
時空管理局債の取引価格は暴落。時空管理局はかなりの比率で時空管理局債を利用していた
また時空管理局債だけでなくワンワールドグループ企業が発行した社債や株式でも運用していた
そちらも社債や株式の取引価格は暴落した結果、時空管理局員が運用を任せていた厚生年金はほとんど失った

「始末が悪いわね。密猟行為をすることで少しでも金を得ようとするなんて。重罪行為だとわかっているのか」

クラナガン市法では密猟行為は重罪だ。クラナガン自然保護区の動植物の重要だから
クラナガン自然保護区では多くの絶滅危惧種の動植物がある。
一部の大学の研究者だけはクラナガン市政府が承認した動植物のサンプルを得ることが認められている

『ワンワールドバンクは不良債権額は少なくても数十京ミッドにもなることがわかりました』

『大部分は回収がほとんどできない債権であることから、破綻の影響は金融市場は大きいでしょう』

「ワンワールドバンクが破綻するニュースで影響は多いけど、どうなるかしら」

ワンワールドグループ企業の株価は破産申請をしたことで取引停止になっている
グループ企業の社債だけでも数百京ミッドにもなっている。
社債の返済が不可能になったことで多くの企業や金融機関。また金融トレーダーに大きな影響が出た
かなりの損失を出すことになったのだ。
ワンワールドグループ企業だけでなく、彼らと取引が多くを占めていた企業も問題を抱えた
連鎖的に破綻する道を歩み続けたことは疑いようのない事実だ
各次元世界国の中央銀行の中には金融緩和のために彼らの社債を買いオペを行っていた
金融市場にかなりの資金を流していた。各次元世界国の中央銀行でも多くの負債を抱えることに
ミッドチルダ連邦中央銀行は売りオペで多くの次元世界国中央銀行とは違っていた
売りオペをもう売るものがほぼ0に近い状況にあった。
ミッドチルダ国内は好景気であることから金融引き締めを続けている
売りオペができないから政策金利の引き上げなどを行っているのだ。
それでも好景気の抑制はうまくいっていない
他次元世界国の中央銀行が金融緩和で低金利で資金を出していることが大きな要因だ
低金利で他次元世界国から借りた資金を使ってミッドチルダで資金運用する
そういう構図が出来てしまっていることが最大の問題である
低金利の次元世界国の金融機関から資金を借りてミッドチルダで運用する
高金利を目指して資金が集まってしまう。経済の基本ではある
低金利で借りて高金利で稼ぐ。そんな当たり前がJS事件以降は連続している

「本当に金に困る連中は多いわね」

今はうまくいっているから良いかもしれないけど、
連邦政府が金融政策を変更すると市場に混乱が出るかもしれない
政策金利を上げすぎるとそれはそれで混乱を出すことになる。
今のミッドチルダ連邦政策金利は6%と定められている。
しかし政策金利だけで国内の経済をコントロールすることは難しい
為替介入で通貨のミッド高を抑制する方向で話を進めているともマスコミは報道していた
ただどの程度の効果が出るかはわからない。為替介入で効果を出すにはかなりの資金が必要になる
それも1つの次元世界国の通貨だけでなく多くの次元世界国の通貨への為替介入が必要になる
それによりミッド高をある程度抑制することができるだろうが時間稼ぎにしかならないこともある
難しい判断が求められるところである

「国内だけではなく次元世界連合加盟国のすべてで経済的混乱により治安が悪化するわね」

そんなことになれば犯罪組織同士の抗争に発展する。
1度始まった抗争を止めるのはいくら法執行機関であっても簡単なことではない
何としても大規模紛争になる前に止めなければならない。いかなる手段を行使してもだ
そうしなければすべての人々が争いに巻き込まれる。内戦に発展すればどうなるかは想像もしたくない

「金に困って誰かに依頼をされたのかも」

自然保護区で貴重な動植物を採取してきたら報酬を払うからという誘惑に負けたのかもしれない
もしその話が的を得ていたら背後関係を調べ上げる必要がある。それも徹底的に
バックの大きな犯罪組織や密猟組織が絡んでいるなら特に
密猟行為を許すわけにはいかない

「とにかく事情聴取を見物させてもらいましょう」

エイミーは刑事課のオフィスに行くとマジックミラー越しに取り調べを観察していた
刑事はいろいろと証言を得ようとしているがうまくいくことは少ない
証言したら終わりと思っているのかもしれない。

「証言を引き出すのはかなり難しいわね。喋ったら終わりであることはわかっているみたいね」

エイミーの言葉は当たっている。もし喋ったら犯罪組織などから狙われる可能性は高まる
それを考えれば喋らず密猟の容疑で逮捕された方がまだいいと思っているのだろう
密猟なら終身刑にも死刑にもならない。長い刑務所生活になることは間違いないが


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東区東部区域港湾パトロール本部基地 中央区域 港湾パトロール基地別館庁舎 7階首席港湾犯罪捜査官執務室

港湾犯罪捜査部のトップをしているブランダ・ヴァレンティアは執務室で機動六課組の資料を見ていた
はっきり言ってしまえば彼女も受け入れそのものに反対していた
こちらの情報が漏れる可能性があるからだ。だが捜査長官の命令となると断れるはずがない
おまけに港湾パトロール本部長からも命令文書が届いている
機動六課組の隊員の受け入れについて。港湾パトロールの幹部職員は誰もが嫌がる話題である
賛成する者などいるはずがない

「私に部下を説得を任せるなんてリヴィナ・トラヴィック港湾本部長も無茶を言ってくれるわね」

捜査部と港湾犯罪捜査部は常にリンクして活動している
機動六課が入ったことによる悪影響が出るのではないかと危惧していた
連携操作でミスが生じれば状況は悪くなるだけだ。
それを止めるのがブランダ・ヴァレンティアの仕事である

『ピーピーピー』

「リヴィナ・トラヴィック港湾本部長。ヴァレンティア首席港湾犯罪捜査官です」

『あなた達の対応について確認をしておきたいけど』

「我々は直接受け入れをすることはないので影響は少ないでしょう」

ですが、私の部下との連携には問題が生じることはあるでしょうと答えた
港湾犯罪捜査部捜査官と捜査部捜査官の中は固い絆である
だが機動六課組の彼らに対して同じ立ち位置で見られるかどうか質問すれば、答えは『NO』になる
今まで敵対組織であった時空管理局といきなり仲良くしろというのは無茶な話である

『だが捜査長官はうまく連携だけでも取れるようにしろとの要請を受けているわ。その準備を』

「つまり責任を押し付けることがあると?」

『それについては上の考えることよ。私としても努力はしてみるけど』

「リヴィナ・トラヴィック港湾本部長。我々港湾犯罪捜査部は彼らとの連携はよほどの事情がなければ認めません」

ブランダ・ヴァレンティアの言葉は部下の捜査官の誰もが思っていることだ
誰が好き好んで時限爆弾を受け入れするものか。

『でもそれをやってもらわなければならないことも理解しているわよね?とにかく受け入れ後の態勢づくりを』

どうやら拒否権はないことは間違いない。
機動六課組が保有している数多くのJS事件の捜査資料は今後において時空管理局や聖王教会の改革に利用できる
次元世界連合が欲しがっているのはそれらの資料である。彼らからしてみれば欲しがるのは当然である。
次元世界連合だけでなく多くの次元世界国の法執行機関も同じ立ち位置だ

「次元世界連合はクラナガン捜査局に責任を押し付けて高みの見物ですか?良い御身分ですね」

『嫌みを言うのはあなただけではないわ。身辺警護の観点からの対応だということにはなっているけど』

クラナガン捜査局員のだれもが機動六課の受け入れに賛成することなどありえない
必ず拒否することはわかっている。無線で応援を要請しても見捨てられることが想定される
だからこそ、中央本部捜査部の捜査官の部下に配置されるのだ
捜査部捜査官まで見逃すわけにはいかない

「それも表向きで実際は飼い殺しにするためでは?」

『私には答えることはできないわ。あなたに任せるから』

説得は行うようにとの絶対命令が出されているのも同然である
何としても守り切らなければならない。いやな仕事だが任務遂行のためにも必要である

「部下には伝えることはしますがどうなるかは保証できません。そのことはよくご理解ください」

『あなたなら何とかしてくれることを期待しているわ。彼らの記録を見るとね』

ブランダは情報端末で機動六課組の人事資料を見ていた
はっきり言って押し付けるのは時空管理局にいれば殺される。
だからと言ってクラナガン捜査局と敵対状態である時空管理局員を受け入れを説得するのは苦労だ

「現場は混乱するのを嫌うはずです。私の命令だとしても従うかどうかについては保証できません」

特に闇の書事件で犠牲になった人々の家族の多くはクラナガン捜査局に入局している
時空管理局が闇の書事件の真相をすべて明らかにならないように隠し続けていた
その事実も次々と報道されている。かつての捜査担当官は多くの疑惑で捜査対象になっている

『あなたの手腕が試されるときよ。任せるわ。あなたの実力をね』

リヴィナはそういうと通話を切った。
ブランダは大きなため息をついた。問題が多すぎる。
部下への信頼関係に大きなひびが入りかねない事案だからである
問題解決のために早期に対応しなければならないこともわかっている
機動六課組が今のままでいればいずれは飼い殺しされる。
おまけにはやて・八神の立ち位置はさらに微妙である。彼女は聖王教会との関係もある
こちらとしては受け入れに難色を示すものはかなりの数になる

「どうしたものかしら」

『ミッドチルダ連邦政府は国内全域の警察組織の設置に必要な予算として特別予算案を提出用意に入っています』

『政府関係者によると最低でも50京ミッド近い予算を新たに連邦議会に素案として出すようです』

「連邦政府も国内の治安維持のために資金をばらまくつもりのようね。効果があればいいけど」

小さな町では最先端技術を導入する予算を組み立てるのは難しい
だから連邦政府が補助金として予算案を組み立てる。国内の治安を安定するには必要なものだ
国内の治安を守るためには州政府や群政府や市警察などの補助金を出すことは当たり前のことである
小さな風が大きな災害級の嵐になる前に止めなければ問題を抱えることに
国内の法執行機関も潤沢な予算を組めるわけではないのだ
だから連邦政府が補助金を出すことは当たり前である

「連邦政府も本気を出してきたみたいね」

国内の治安維持の目的のために最優先にすることで小規模な街で力をつけるようなこと、
マフィアやギャングだけでなく、反政府組織などが力をつけることを抑え込む必要がある
反政府組織はミッドチルダ国内には数多く存在する。
時空管理局の規模縮小と大量リストラでそういった組織に加盟することは増えている
力をつけることを抑えなければろくな結果にならない
今は病気で言うところのある程度の免疫作用が機能している状態だ
だが免疫機能が減少したり、失ったりすると反政府や犯罪組織は力を尽きることになる
免疫機能になる法執行機関に力をつけさせなければならない
そのためには何かと資金が必要になる。州政府が出せないなら連邦政府が出すしかない
人々を守るためには何かとお金は必要である。それにようやく安定してきた社会を壊すわけにはいかない
多くの人々が治安が改善された今の状況を望んでいる
おまけに反政府活動をしていた組織も抑えられたことも大きな影響である
多くの国民は今の平穏なこの社会を安寧であるとして臨んでいる

「平和は降ってこない。自ら勝ち取らないと」


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西区北部区域 地上出口 

雨水貯水トンネル(ウエスト地下貯水トンネル)から出てきたジャスティは西分署に向かうことにした
検死ラボで検死を行うことが必要だからだ。問題は水によって証拠はほとんどないことだ
水死体というのは捜査が難しい。事件解決率が低いので担当する者はいつも苦労する

「検死ラボには少し遅れると伝えておいてくれ。できるだけ早く向かうとな」

ジャスティはそういうと携帯電話を取り出すとある人物に連絡した

「頼みがある。ウエスト雨水貯水トンネルの監視カメラの映像を全て調べてくれ」

雨水貯水施設や雨水貯水トンネルには管理用の監視カメラなどの各種センサーが設置されている
その情報を解析すれば何か証拠が出るかもしれない。ジャスティはそう考えたのだ
今は集めることができる情報を徹底的にかき集めないといけない

『時間がかかりますがよろしいですか?』

「できるだけ急いでくれ。殺人が絡んでいる」

分かりましたというと彼らは情報を集める作業に入った
ジャスティはSUVに乗り込むと車載情報端末を操作してある情報を確認した

「時空管理局か聖王教会の暗部が動いているとなると面倒になる。さっさと片付ける必要があるな」

こちらの動きが間に合わないとなると事件解決は難しくなるだけである
早急に解決するためにもまずは遺体の身元を割り出すことが最優先課題である
身元が分からないとどういった連中から恨まれているかを絞り込むのは難しい
捜査は難航してコールドケースになる。以前なら簡単にコールドケースにするのは良いだろうが
今はそんなことを許すわけにはいかない。必ず事件解決のために全力を注がなければならない
犯罪捜査では時には対応に慎重が要するものがある。
時には事件性ありと思わせる自殺が増加している
自殺では生命保険を受け取ることはできないが他殺なら生命保険金を受け取れるから
追い詰められたら事件性があると思われるように自殺する者は多い
金に困れば何でもするのが人間というのだから

「今は共同溝管理センターの情報確認を待つしかない」

証拠としては水死体となった遺体だけだ。
遺体に少しでも証拠が残されているかもしれないのだ
それに賭けるしかない


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東区東部区域 港湾パトロール本部基地 港湾パトロール本部付近

レックスは死体が発見された現場に来ていた。
すでに港湾犯罪捜査官のダン・レアリーが捜査に着手していた

「久し振りだな。ダン・レアリー捜査官」

レックスがそう言うとダンも本当に久しぶりだなと答えた

「状況はどうなっている?」

港湾本部基地の近くを巡回していた港湾陸上パトロールのパトロール捜査官が第1発見者だ
市民からごみ箱に遺体が捨てられていることについて港湾パトロールに連絡したのだ
本来であれば中央パトロールの管轄だが、基地から近いこともあって港湾犯罪捜査部が担当している

「指紋で身元は分かった。退役時空管理局員で首都防衛隊に属していた経歴ありだ」

遺体の身元はネラバ・クインス。最終階級は三等陸佐だ
首都防衛隊の中でも物資調達部門に属していた。時空管理局犯罪捜査局が捜査をしていた
物資調達で業者から金を受け取っていた嫌疑があったのだ

「この情報は外部には漏らすな。中央本部で捜査する。もし港湾犯罪捜査部まで巻き込むと裏があると思われる」

裏というのはバックに危険な組織があると思われるということだ
もし背後関係で危険な組織が絡んでいるとなると捜査はFBIも絡んでくる
捜査の指揮命令系統が難しくなることは確実だ。連邦捜査機関が絡んでくるといろいろと面倒なことが多い
影響は最小限にするためにも港湾犯罪捜査部が絡むのは最後の方がいい
元々港湾犯罪捜査部の担当事案は港湾施設などで発生した事案に関する事件が専門だ
基地内なら彼らの管轄だが、この現場は基地を仕切るフェンスの外側である
管轄権は中央パトロールに優先権がある

「情報は逐一回す。上司にはそう伝えておいてくれ」

「了解した」

問題はなぜここで死体が放置されたかだ。
警戒が厳重なところで死体を捨てるのは私が犯人ですと名乗っているのと変わらない
基地の周辺には各種監視センサーが設置されている。異常な動きがあればすぐに探知される

「時空管理局犯罪捜査局に連絡はしておくか」

レックスは携帯電話を取り出すと時空管理局犯罪捜査局に連絡した
チャンスは限られている。事をスムーズに進めるには組織間連携が重要になる

『港湾本部から各員へ。港湾本部基地近辺で新たに女性の遺体が確認された』

『聖王教会騎士団に属していたフラスーリ・ハザポール。34歳。ベルカ州警察とFBIが指名手配をかけている』

つまりかなりの問題を抱えていることは間違いない。
携帯情報端末で身元情報を確認すると3000万ミッドを聖王教会騎士団の予算から横領していた
横領容疑で摘発されるはずだったが、その直前に金をすべて引き下ろして逃げ出した
現在の足取りは全く捕まっていない。遺体が発見された先ほどまではだが
彼女にはかなりの借金があった。しかし横領した日付の翌日に全額返済していた
融資を受けた理由は時空管理局債を購入するためである。
時空管理局債で利息を得ようとしていたが債券取引価格が暴落したことにより切羽詰まっていた

「正面からあたるとなると少し問題になるかもしれないな。聖王教会騎士団に圧力をかけてもらうか」

聖王教会騎士団ではかなり内部監査が厳しい状況にある
退役騎士が数多くの不正に絡んでいることは次元世界連合や多くの法執行機関の捜査で分かっている
かなり厳しいのは現状である。聖王教会は資金面でも問題を抱えていることも大きな要因だ
何とかして自分たちに影響が出ないようにしようとしていることは間違いない
痛みを抱えている組織内部を探られたくないというのは当たり前だ
好き勝手に組織内部の監査や捜査が行われていることで痛い腹を探られたくはない

「聖王教会が揺さぶりをかけてみて乗るでしょうか?」

中央パトロール捜査官の言葉にやってみるだけの価値はあるとレックスは答えた
何も動かないよりはましである。揺さぶりをかけて何か行動を起こせば怪しさ満点である
そこがねらい目でもある。動いてくれればそれはそれで、こちらにはチャンスに。

「聖王教会に潜入しているスパイを利用しよう。こちらの情報を流してやるんだ」

「良いのか?そんなことをして」

ダン・レアリーは今後の諜報活動に影響が出ることを懸念したがレックスには別の狙いがあった
こちらが流した情報で聖王教会や時空管理局の動きを探ろうというのだ
動きが根深いところまで浸透すれば大きな動きになるかもしれない
ならチャンスになることは間違いない。監視することで指揮命令系統の調査ができる
表向きは情報収集という形をとる

「聖王教会内は今はいろいろとトラブルがあるからな」

港湾パトロールに所属しているスパイからもたらされている情報、
それに捜査部捜査官がアクセスすることはそれほど難しいことではない
こちらもいろいろと情報元を持っているのだから
お互い持ちつ持たれつの関係である

「とにかく聖王教会と時空管理局の情報にアクセスが必要だ」


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部オペレーションルーム

シエルはそこでベルカ州内の偵察衛星画像を見ていた

「シエル首席捜査官。昔の長官の言葉を思い出します。時には仲間に注意しろと」

オペレーションルームに入ってきたのは捜査部1係のアリスト・ヴィッツ捜査官である
アリストという文字が入っている捜査部の捜査官はカレン・アリスト捜査官もいるが彼女とは血縁関係はない
そもそもアリスト・ヴィッツ捜査官はクラナガン市出身ではない。
ウエストミッドチルダ大陸北部地方出身だ。
彼女はある町の自警団をしていたが時空管理局に追い出されてクラナガン市に移住
市内で私立探偵をしていたが、その時に様々な調査能力を買われてクラナガン捜査部にスカウトされた。
捜査部捜査官としては極めて優秀である

「あなたに任せたい仕事があるの。機動六課の構成メンバーと関係している組織のメンバーを再調査を」

ラジェットが一通り確認しているがもしものために保険をかけておくことにしたのだ。
捜査部にトラブルを持ち込まれるのはいろいろと面倒になる
保険をかけておくしかない。

「わかりましたが。どの程度深堀を?」

「彼らが生まれてから今までの記録をすべて調べ上げて。必要なら港湾パトロールと連携して」

つまり時空管理局にいた頃の記録を含めてすべてということである
シエルははやて達が信頼している聖王教会の関係者との関係を疑っていた
もしかしたら彼らにこちらの情報が洩れるのではないかと懸念していた

「本気で言っているのですか?裏でこちら独自に調査をしたことが査察部に発覚したら困ると思いますが」

「その時は圧力をかけてもらうわ。友人からね。私は政治家に友達が多いから」

確かにシエルには友人は多い。彼女にコネがあると人物は
連邦議会の議員だけでなく数多くの次元世界国の政府関係者にもだ
それに再度調査をすることにはあることが理由にある
上からのただ与えられた情報だけでなく仲間が調べた結果により、
安全な身元情報であることを再確認してもらうためだ
捜査部の中の捜査官の関係を少しでもいい方向に進めるために必要であるということである
仲間同士でもめ事を避けることは捜査部のトップとしても避けたいところである
トラブルが起きたら仲間の間で疑心暗鬼になる。そんなことを絶対に許すわけにはいかない
捜査に大きな影響が出る。

「これは特別な手当てがつきますか?」

身内のことを探るのは誰も良いとは思わない
恐ろしいことを避けるためには信頼関係構築が求められている

「調査を徹底的にしてくれるなら多少の問題はこちらでカバーするから」

シエルはとにかく念入りに調べるようにアリストに伝えた。アリストはわかりましたと。
機動六課の職員の中に不正に関与している者がいればこちらには大きな痛手になる
そんなことは避けなければならない

「できるだけ詳細に記録を調べてみます」

アリストはそういうと捜査部オペレーションルームを出ていった
彼女は捜査部1係にある自分のデスクに戻るとすぐに機動六課組に関する情報を収集していった
何か不祥事に加担することをしているのではないかということを念頭に入れて調べていた

「何かあるか楽しみね」

そういうと機動六課組の各隊長と聖王教会との関係についてを入念に調べていた
はやて達の時空管理局での活動情報が必要であるため港湾パトロールの機密情報にもアクセスした
もちろん正式な許可を得てからの手順を踏んでいるので問題はない
様々な記録を調べていくと聖王教会のカリム・グラシアとはかなり近い立場であることが再確認された
それはそれで問題である。聖王教会では今は内部抗争が起きている状況下だ
おまけに財政的にもかなり問題を抱えている。こちらの情報が彼らにもれたら大問題になる

「本当にカリム・グラシアとの関係は大きな問題。監視リストに登録していろいろと情報収集と分析が必要ね」

監視リストとはクラナガン捜査局内にある多くの情報機関に対して監視をしてもらうのだ
通信傍受から機密事項に関する情報などさまざまである
必要なら身柄拘束も考えなければならない。それだけ慎重な対応が必要である

「本当にいろいろと関係が密着しているから警戒は必要ね」

はやてやなのはやフェイトたちが極めて密着した交友関係があることは十分警戒しなければならない
もしかしたら最悪の場合はこちらの機密情報の閲覧ができないようにしなければいけない
アリストは受け入れ時の警戒レベル判定を捜査部独自で行うことが必要であると判定した
万が一に備えて対応しなければ、クラナガン捜査局の組織体制にも影響する
今の聖王教会のカリム・グラシアは教会内ではある意味では微妙な立ち位置にある
聖王教会内では主導権争いが頻発している。
おまけに汚職関係などの捜査を受けているので、人材を自由に動かすことができない
聖王教会の内部では汚職を撲滅するために徹底して不祥事をすべて吐き出さなければならない
汚職が1つでもあれば捜査対象者になってしまう
次元世界連合の聖王教会調査委員会によって捜査が行われている
さらにベルカ州警察や連邦捜査機関も聖王教会や教会関連企業を調べていた
ベルカ自治区から州政府に移行後は厳しい警察活動で様々な罪状で関係者を逮捕している
最悪の事態に備えて、ミスがないように慎重に捜査をすることが求められているのだ

「ベルカ州警察に連絡してみましょう」

中央パトロールで教導を受けた刑事や捜査官が、現在は国内や他次元世界国の現場で指導を行っている
それだけにコネは各捜査官はいろいろと持っている
ベルカ州警察にももちろん中央パトロールで訓練を受けた人物がいる
それにクラナガン市と近隣州にある様々な警察組織とは連携捜査の協定を締結している
だからこそ素早い情報共有ができる仕組みが整備されている
アリストはベルカ州警察の知り合いに連絡した
ベルカ州警察では聖王教会関係のトラブルを専門に扱う捜査部門が設置されている
教会が数多くの汚職に絡んでいたことはすでにかなりわかっている
それらに対して法的に問題があるかどうかを徹底的に調べ上げて必要であれば関係者を拘束
法律違反が確定すれば裁判にかけている。すでに1日当たり100件以上の事案に対応している
聖王教会関係の周りではかなりの犯罪行為が確認されている。
麻薬密造を認める代わりに教会に寄付を求めるなどといった悪質行為が多い
ベルカ自治区時代ではそういった犯罪組織から金を受け取って麻薬密造がかなりの件数にもなっている
多くの聖王教会関係者がそれらにかかわったとして1000人以上の身柄が拘束されている
裁判を行うにはいろいろと裏付け捜査が必要であることから時間がかかっている
実際に裁判をするにはかなりの裏付け捜査を行って証拠も固めなければ、途中で妨害される可能性がある
それだけは避けなければならないのだ。
そのためベルカ州の警察組織が担当している事案はかなりの数になっている

「とにかく州警察に連絡してみましょう」

アリストはベルカ州警察教育担当部長をしているハイディーツ・パラスティックに連絡した

「ハイディーツ。久しぶりね」

『アリスト・ヴィッツ捜査官。お久しぶりです。何かトラブルですか?』

「大至急調べてほしいことがあるの。それも内密に。お願いできるかしら?」

アリストがそう伝えるとご希望は何ですかと聞いてきた。
ハイディーツ・パラスティックに現在の状況を伝えるとすぐに探らせると答えた。

「わかっていると思うけど、聖王教会には内密にお願いね。それとFBIにもね」

『つまり極秘調査ということか?』

「そういうことよ。機密事項が絡んでいるから信頼できる人にしか内容は話せないことも覚えておいて」

『ならこちらが直接動く。教導だけでは飽きてくるからな』

よろしくお願いするわというとアリストは受話器を戻した
ベルカ州内のことを把握している州警察には依頼はできた。
残るは諜報機関にも担当してもらわなければならないことである
港湾パトロール安全保障局にも依頼をかけなければならない。表向きの理由はただの調査ということにして。
こちらの状況が漏れるのは好ましいことではない
いくらクラナガン捜査局でうえがつながっているとはいえ詳しい事情までこちらは探られたくない。
トラブルになることはお断りしたいのは当然であるのだから
だからこそ何としても完全にトラブルを壊しておかないといけない

「港湾パトロール安全保障局のデータベースを調べてみましょう」

アリストは自分のIDとパスワードを使ってデータベースにアクセスした
港湾パトロール安全保障局のデータベースには多くの機密情報が含まれている
時空管理局や聖王教会の構成員や退役職員の情報をかなり持っている
彼らの情報をもとに機動六課組と関係する人物を調べ上げようというのだ
膨大なデータから探し出すのはビーチで落とし物を探すのと同じくらい難しい作業である
それでもやるしかないのだから仕方がないのだ

「まずい情報があれば面白いんだけど」

まずい情報。それは機動六課組へ不祥事に関わるようなネタである
それがあれば利用価値は十分にあるかもしれない。アリストは膨大な情報の確認作業を行っていた。
何かあれば良い時もあれば悪い時もある。難しいところが迫られるケースがある

「何か面白い情報があれば楽しみなんだけど」

アリストは港湾パトロール安全保障局が傍受している様々な通信情報を確認していた
時空管理局内の通信や聖王教会関係の通信を徹底的に傍受しているのが港湾パトロールの様々な諜報機関である
できるだけ早く通信内容の確認作業を進めえるしかない。
残された時間はあまりないので、通信解析をアリストだけで担当するのは簡単ではない
通信の中に不審なものが1つでもあればいろいろと調べることができる
多くの機密情報を1つ1つ確認作業を行っている。些細な情報であっても見逃すことは許されない

「今のところ怪しい記録はないわね」

問題ははやて・八神と聖王教会のカリム・グラシアとの関係だ。
そこが最大の問題になっていた。何かあれば責任を押し付けられるのは捜査部だ
そういうことを即時に判断しなければならない

「カリム・グラシアとはやて・八神たちとの関係は密接のようね。不穏な動きがなければ問題はないけど」

世の中、完全にクリーナ人間は少ないに決まっている
必ずどこかで問題を抱えていることは当たり前のはずだ。
その問題をあぶりだして身辺調査報告書を作成しなければならない
アリストはいろいろと調べたところ、ある情報を見つけ出すことができた
それは機動六課組と聖王教会の密接な関係の中で金銭のやり取りが行われていることだ
財務記録を詳細に分析していくと、聖王教会から機動六課にかなりのお金が渡っていたのだ
そのこと自体に不正行為と判断するのは難しい。でも1つの問題が大きな問題になることがあるはずだ
より詳細な情報を調べあげると旧時空管理局本局との関係が密接があった
旧時空管理局本局と地上本部の間で会計上に問題があることを見つけた
聖王教会との連携のために旧時空管理局本局と不正と思われる資金のやり取りがあった
金額にすると300億ミッドにもなっている。聖王教会がその資金を用意して時空管理局本局に寄付していた
300億ミッドの出所を調べるとセントラルベルカバンクが聖王教会債を発行して集めていた
いったい何の目的で教会は本局に資金を流したのか。そこが最も重要なところである
何としても資金の流れを徹底的に調べるしかない。聖王教会が次元世界連合に公表した財務記録を確認した
300億ミッドの提供の理由は聖王教会が時空管理局本局からあるものを譲るために支払いをしたのだ
財務情報を深く確認すると、時空管理局本局が聖王教会に譲り渡したのは聖王教会の歴史書だ
古代ベルカ時代の貴重な記録を見つけ出したことから、それを聖王教会に返還した
返還というよりも売りに出したということである。
時空管理局本局は300億ミッドを受け取るとあるものを聖王教会にその商品を売りに出した

「何を売り出したのか調べないと」

時空管理局から聖王教会に売りに出したのは、10冊の本だ。
正確には歴史の本である。聖王について様々な情報が書かれている歴史本
10冊で300億ミッドを出すとはかなりの貴重な本であるといえる
本はデジタル化されていないので聖王教会が保有しているならそれを押収するしかない
内容が何かを調べなければならない。アリストはあることを疑っていた。
本局から聖王教会に売りに出した聖王に関する歴史本は偽物であることを考えていた
そんなに簡単に聖王の歴史本を売りに出すとは思えない。
もしかしたら聖王教会が時空管理局に何か別のものを手に入れるために金が必要だったのかもしれない
300億ミッドは大金だ。たかが歴史本にそれだけの値をつけるとは考えられない

「時空管理局本局の財務記録を調べないと。時間がかかりそう」

時空管理局本局の予算はかなりの金額になっている。JS事件後は大幅に時空管理局の予算は縮小されている
次元世界連合によって以前よりもかなりの予算が圧縮されている
大幅リストラで人件費の削減も行われている。これにより時空管理局の給与水準も大幅に下落
また指揮命令系統はしっかりと定められている。例えばミッドチルダ連邦内で大規模災害が起きた場合、
ミッドチルダ連邦大統領は次元世界連合を通すことで時空管理局部隊の出動を要請できる
ただ、ミッドチルダ連邦を含む次元世界連合加盟国では各次元世界国政府は警察組織と国防部隊の編成ができる
今のところ多くの次元世界連合加盟国では国防組織と軍隊の編成が行われている
時空管理局は多くの次元世界国に駐屯部隊を配置しているがそれはあくまでも最終手段だ
通常時は各次元世界国の警察や消防救急組織。
そして国防のための軍事組織が編成されているので時空管理局への災害対応支援要請は大幅に減少している
あくまでも時空管理局に災害対応支援部隊を求めるのは最後の砦である
時空管理局への部隊派遣要請がされた場合は各次元世界国政府に部隊運用指揮権が委ねられている
ただし時空管理局に応援要請をする件数は大幅に減少している
各次元世界国の警察や消防救急や軍隊が集められていることが大きな理由だ
自国のことは自国で対応するというのは一般説になっている
誰も好き勝手に時空管理局に横から割り込まれるのは好きなことではない
問題解決には各政府機関が編成したさまざまな部隊だけで間に合っている

「大きな金を動かしているわね」

300億ミッドもどうするつもりだったのかを調べないといけない
時空管理局の財務記録を調べるのは膨大な数字があるので簡単なことではない
しかし金額が多すぎることも考慮すると探り出すしかないのだ
金というのは誰もが欲しがるものである。規模の大きい組織になると財務管理の監査は難しいことになる
1つの部隊に対してかなりの金額の財務情報があるのだ。
それをすべて監査するのは簡単なことではない。問題はそれを簡単に解消することはできない
膨大な財務記録を調べるとなるとアリスト単独で行うのは難しい
そこですぐに彼女は港湾パトロール安全保障局に連絡して裏付け捜査を依頼した
彼らなら独自に情報を持っていることはわかっている。そのために存在しているのだから

「300億ミッドをどうするつもりだったのか」

最大の疑念はそこである。わざわざ聖王に関する本で10冊のためにあれだけの金を聖王教会は出した
かなり怪しい取引であることは明確である
300億ミッドにもなる金の流れを追跡調査したところ、時空管理局のある部署に流れていた
本局が聖王教会から受け取った300億ミッドのうち200億ミッドは地上本部首都防衛隊に流れていた
元々聖王に関する本を集めていたのは時空管理局の旧地上本部だ
その情報を聖王教会と旧本局に流して金の流れを作り出していた
誰もが金欲しさに動いたことは明確である
地上本部が受け取った200億ミッドの大部分は新技術開発予算に回されていた
本局の100億ミッドの流れはそこで途切れていた。つまり金が動いているのを確認できたのはここまでだ。
ここから先の金の流れを追うなら時空管理局の財務情報を解析しなければならない
今は時空管理局犯罪捜査局がそういった金の動きを調べている
彼らに任せるしかなかった。別に正式な捜査許可をもらうことでより詳細に時空管理局を調べることが可能だが
手続きはかなり複雑であり、すぐに捜査許可が出ることは保証されない
よほどの疑惑に関する証拠がなければ要請することは難しい。

「とにかく時空管理局犯罪捜査局に捜査を依頼するしかないわね」

知り合いである時空管理局犯罪捜査局の捜査官に捜査を依頼した
彼らは素直に承諾したので、その後の捜査は彼らに任せることにしたが
捜査情報に関する提供も同時に要請するとあちらはすぐに承諾した

『こちらでできるだけ調べとく。調査がわかった内容は逐一情報を入れておく』

「感謝します。何のために300億ミッドの資金が必要であったことと資金の流れを徹底的に調べて」

そのお金が不正に流用されていることが確認されたら危険なことになるかもしれない
時空管理局の暗部であるHRが犯罪組織と絡んでいることは周知の事実である
時空管理局が権限拡大のためにそう言った犯罪組織を利用していたことは疑いようのないことである
今は時空管理局の管轄エリアが大幅に減少した。
時空管理局から警察権限が返還された各次元世界国政府は独自の警察組織による摘発が大幅に増加している
ミッドチルダでもそれは同じである。クラナガン市内だけでもかなりの数の犯罪組織やテロ組織や反政府組織がある
それらは時空管理局という後ろ盾がなくなったことから大幅に活動が活発にしている


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部3係主任捜査官執務室

ウルは書類の決裁に追われていた。3係に属している部下からの報告書はかなりの数になる
それをすべて目を通して確認しなければならない。主任捜査官は帰宅する時間はあまりない
処理するべき報告書の数が多すぎるため、毎日大変である

「本当に書類が増えているね。機動六課組が本格的に配属されるともっと増えるかも」

書類といっても事件報告書だけでなく、部下からの配置換えを求めるものが想定されている
できるだけ頑張ってもらうしかないのが現状である。文句を言いたいところを耐えてもらうしかない

「3係にはシグナム・八神だけしか配属されてこないから、それほど問題ないとは思うけど」

シグナムを担当するのはカリー・ドーラン捜査官になっている
彼女はかなり納得していないが、任務の1つであるとしぶしぶ承諾しているのが現状である
与えられた任務には文句は言わない。
港湾パトロールで訓練を受けていた時に指揮系統が重要なのはわかっている
たとえどんな形であっても1度でも仲間に入ったのなら信頼できるならともに歩んでいく

「本当に苦情が多いね」

ウルの執務机にある情報端末には3係の捜査官から苦情が殺到していた
苦情といってもメールでストレートには記載していないが、遠回しでは受け入れるのは難色を示していた
面倒なのはそういうことである。誰だって捜査部に部外者を入れるのは好きになれるはずがない
証人保護のためには仕方がない。守る必要があるのは理解していても納得しろというのは無理な話だ

「本当に部下の信頼関係が崩れそうなのに任される方になってほしいよ」

ウルはそういうとシグナム・八神の経歴書を読んでいた。
機密情報も含まれる内容ばかりだ。闇の書事件の最重要関係者だ
闇の書事件の関係者であることが漏れたら問題になる。
今までは時空管理局で実力を積み上げてきたから何とかなっていたが今は状況は異なる
時空管理局の幹部は汚れた過去を消すために闇の書事件の真実を公表するかもしれない
局内のスキャンダルのネタになりそうなことを何とかしようとする。
機動六課組の局員は主要メンバーはトラブルを抱えている。時空管理局にこのままいれば殺される
今は証人保護のためには必要である措置を行う。納得してなくてもあらゆる情報を吐かせるしかない

「本当に嫌な話だね」

シグナムの経歴を見ながら闇の書事件に関する様々な情報が身元調査報告書に記載されていた
それもかなり細かく詳細な情報が。新暦より前からの情報も多く記載されていた
夜天の書になってからも様々な情報も含まれていた
闇の書事件以降でも彼らのことについて嫌がっているところがあると記載されていた
それはこちらと同じ理由だ。犯罪者を簡単に受け入れるには並大抵のことでは済まない
なのに時空管理局に所属することについて受け入れがスムーズにされたのは上層部との関係が大きい
コネがなければ犯罪者扱いされることは確実なのだ。
時空管理局の旧本局では能力が高ければ司法取引で大きな犯罪を犯した者であっても所属が認められていた
超法規的措置といったところである。戦力が欲しい時空管理局としては自らの利益につながれば、
それであとは良いと思っていたのだろう

「シエルが文句を言うのは当然だね。受け入れに大きな利益があれば別だけど。今回はそれがない」

こちらに利益は少しくらいはあるが、メリットとデメリットを天秤にかけた時、明らかにデメリットの方が大きい。
損得勘定の基本としてデメリットが大きい人材を受け入れるのは嫌な話だ
もう誰もが信頼できるはずがない。クラナガン捜査局にとって仲間は最も重要だ
もしもの場合には切り捨てることを簡単に選択する者もあらわれることは想像できる
誰だって身内にトラブルを持ち込まれることは嫌である

「本当に今度こそ問題発覚するかもね」


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南区北部区域ハーディー地区5番街5丁目10番地 地区パトロール事務所

ステラとマイアはトレーク・エミズの取り調べを眺めていた
彼は何も証言するつもりはないことは明白である。完全に沈黙を守っていた
黙秘権があるのは告知済みだ。だからこそ何も証言しなければ何とかなるだろうと考えているかもしれない
だがこちらには時空管理局犯罪捜査局から送られてきた資料には数多くの資料があった
トレーク・エミズはかなりな悪党である。今、捜査しているのは700万ミッドの横領だが
背後にはかなりの悪行があることが記録されていた。
最大数億ミッドの時空管理局の予算を利用して不正な取引をしていたのだ
不正な取引とは株などの金融商品の取引である。それもインサイダー取引ぎりぎりの内容だ
疑惑だけでも総額10億ミッド以上の取引が存在していた。これが事実なら最悪の結末を迎えることに
おまけに借金もかなり抱えていた。金融取引で1億ミッド近い金額になっている
金をあちらこちらから引っ張ろうとするのは当然だ
その金を貸したのがマフィアの関係企業であることが分かったからだ

「彼らなら必死になって回収しようとするでしょうね。もしかしたら見返りに情報提供でもするかも」

密輸の抜け道を提供することで、それを対価に借金は減額か帳消しにすることはあるだろう
犯罪組織は今は金欠気味である。資金確保のために利用できるものは何でもしてくることは容易に想像できる
麻薬に武器の密輸。犯罪組織にとって最も大きな利益になるのは麻薬の密売だ
あれは簡単には抜け出すことはできないのだ。だからこそ犯罪組織は数多くの麻薬密売を行っている
史上最悪の状況であるのは事実だ。時空管理局に金を渡して捜査が入らないようにしていたが今は状況が異なる
数多くの犯罪組織が麻薬密売などの容疑で逮捕されて麻薬製造工場が抑えられている
これではビジネスができるはずがない。工場だけでなく犯罪組織に対する強制捜査は大幅に増加
次々と組織の金を押収されている。犯罪組織が金欠状態であることは誰の目から見ても明白だ
ここまで追い詰められたら何をしてくるか想像もしたくない

「多分吐かないでしょうね」

汚職を自供したら長い刑期が待っている。なら沈黙を守る方がいい
それに金の流れを追えば犯罪組織との関係についても捜査される
それは犯罪組織にとっても良いわけではない。組織も自分たちの内情を探られたらろくなことにならない
なら暗殺することを選択するかもしれない。金の流れは口座を閉じるなどして追跡できないようにするためだ
ステラはマイアに金の流れを追いかけるように指示していた。
もし不正な金の流れを確認することができれば何か新しい発見があるかもしれない
犯罪組織の摘発につながることができれば、さらに大きな組織摘発をすることができる
それは良いことである。だがトレークが自供することは考えられない
刑務所に入れば様々な刑罰を受けて仮釈放なしの終身刑は確実だ
司法取引ということも考えられるが、完ぺきに守るのは簡単なことではない
証言をすれば犯罪組織や反政府組織から一生追いかけられることはわかっている
誰がそんな道を選ぼうとするか。黙って刑務所で過す方がまだ良いと考える人間は多い

「自供しますか?」

「マイア。自供したらあいつは最後よ。どこかで必ず殺されることはわかっているから簡単には自供しないでしょう」

ステラは吐かせるのはよほどの材料がなければ難しいことはわかっていた
今のこちらのカードではそれは難しい。何か驚くようなジョーカーがなければ自供はしない

「マイア。何か良い方法がないか調べあげて。奴の家族関係を念入りに」

あまり良い方法ではないが脅しとしては有効策だ
家族が何かを知っているのではないかとステラは考えていた
そのカードを利用できれば大きな成果を得ることができるかもしれないと

「今は証拠固めをするしかないわね。時空管理局犯罪捜査局に連絡して詳細な捜査報告を要請しましょう」

報告書の中に新しい事実が含まれているかもしれない。
それを手掛かりに事情聴取をして攻めようというのだ。
スムーズに事が進むわけではないが、追及するにはもってこいの話題である
ステラはすぐに時空管理局犯罪捜査局の捜査官に連絡して情報開示を要請した
何か些細な情報があれば、大きく動きがあるかもしれないからだ
そこが最大のねらい目だ。痛いところを突かれたら逃げようとして喋る可能性はある
死刑判決が待っていることになれば減刑を求めてくるかもしれない
犯罪組織や反政府組織の情報を入手することができれば大きなメリットにもなる
ステラは取調室に入ると、ストレートに話を始めた

「あなたは黙秘権を行使するのは良いかもしれないけど、刑務所の中も安全は保障されないわよ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「ここがあなたの潮時。喋ればイーストミッドチルダ大陸にある刑務所に移してあげる」

こちらのウエストミッドチルダ大陸を超えてまで追いかけてくる連中はかなり限定されてくる
追跡するのはそれほど難しいことではない。完全な隔離室に押し込めておけば安全はある程度保証できる
『YES』か『NO』の答え次第で大きく状況は変わってくる

「悪いが何も証言するつもりはない。刑務所に入れたいならそうしろ」

よほど怖がっていることは間違いない。
いったいどの犯罪組織が絡んでいるのかはかなり興味が出てきた
そこで奴が持っていた携帯情報端末の情報を調査することにした
携帯情報端末に何か詳細な情報があれば大きな獲物を吊り上げることができる
ステラはすぐに身柄拘束時に確保した持ち物の中に携帯情報端末を調べ始めた
地区パトロール事務所の情報センターで分析を始めた
通信内容などを詳細に調べたらある組織の名前が登録されていた
南区を主な活動範囲としているマフィアであるグレモリーのフロント企業の情報が詰まっていた
フロント企業はゲリマスコンサルタント登録されている
主な事業は多くの企業に対するコンサルタントである。簡単に言えばアドバイスをすることだが
実際には麻薬や重火器の密輸・密造・密売だ。さらに裏カジノ場の運営である
普通のカジノと異なるのはそのレートの違いである。普通のカジノよりも賭博性が高いものだ
そして最も多いのはそういったカジノにのめりこんだ人物への融資だ
もちろん非合法であり、利息もかなり高いものである。今は陰でこっそりとしている。
摘発が大幅に増加しているからだ。おまけに公営カジノ施設が誕生したことも大きな理由だ
わざわざ危険なところで賭けをする理由がない。だからこそ多くの犯罪組織は運営資金に困っている

「グレモリーに金を借りるほどカジノにめりこんでいるみたいね」

彼らは貸した金を回収しようといろいろな手法で圧力をかけてくる
最も悪いケースでは殺しに来るだろう。彼に安全な場所は存在しない
それだけは確かだ。もしどうしても生き残りたいならクラナガン市や近隣州にいるべきではない
どこか遠いところに逃げないと抹殺される

「生き残る道はかなり限定されてくるわね。まぁ汚職に絡んでいるなら自業自得だけど」

ステラの言うとおりだ。汚職をしなければ追われるようなことはなかった
まさに自業自得である。あの男は殺されても文句を言えない状況下にある
救いたいと思う人間は限られる。ただの利用価値がある人間としてしか見ないような連中を除けばだ

「とにかく時空管理局犯罪捜査局に連絡しましょう。それと次元世界連合にも」

時空管理局が絡んでいるなら彼らにも通達が必要だ。
情報共有の観点から当たり前のことであるが。もちろん時空管理局の暗部であるHRを摘発するためにだ
彼らが深い闇でかなり動いていることはわかっている。摘発するといってもいきなりトップを検挙はできない
まずは小物からから始めてじわじわと大物を狙っていく。
いきなり上をたたくとこちらの想定外のことが起きるからだ


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西区東部区域クルック地区5番街5丁目 中央パトロールクルック地区警備庁舎 3階分署地域情報センター

カレン・アリスト捜査官は現場の安定化のために多くのパトロール捜査官を投入していた
今は混乱を起こすようなことを避けるべき。必要なら報道管制を実施する準備にも入っていた
ただし報道管制の効力は1時間が限界だ。それまでに処理できなければ最悪の結末になる

「本当に顔認証で照合しているけど、要注意人物が多すぎる」

カレンはクルック地区と周辺地区にいる人物を徹底的に照合していた
犯歴者やクラナガン捜査局のブラックリストに登録されている人物を識別していた
それでもこの辺りには軽く100人近い人物がいる。彼らに職質をかけるのは簡単なことではない
何としても照合しなければならないのだがかなり難しい

「もっと中央本部に頼んで人員をまわしてもらわないと」

現場ではクレスタが対応している。しかしあまりにも数多いので対応にはかなり苦慮していた
元々国際政治のど真ん中なのだ。事が簡単に進むはずがない
多くの外交官が存在する。この地区を含む近隣地区へ立ち入りするには専用の身分IDが必要
検問所が設置されているので簡単に不審人物は入れないはずなのだが、いろいろと方法はあるのだ
完全にストップすることは不可能に近い。少なからず穴は存在する

「退役時空管理局員が暴れるために計画を練るなんてかなり危険なプランなんでしょうね」

いったい何をするか想像もしたくない。
何かを動かす前に抑えたいところだが、現実にはそうはいかない
マスコミの報道管制はかなり崩れつつあった。状況はかなり危険である

「汚職に絡んでいる時空管理局員はあまりにも数が多すぎるってところも問題ね」

汚職に絡んでいる局員はあまりの数になっていることと大量リストラによって足取りが途絶えた人物は多い
次元世界連合の関係組織では指名手配をかけている。見つかればすぐに逮捕できるように手配が出されていた
数が多すぎることが捜査の大きな妨げになっている

「時間がないのに」

その時、クレスタからカレンの携帯電話に着信があった

「クレスタ。何かあったの?」

『問題発生だ。検問で爆弾を車のトランクに積み込んでいると叫んでいる奴がいる。かなりまずい状況だ』

「車両ナンバーは?」

『クラナガンセントラルAQER-0025。所有者はレンタカーだ。今、運転手を顔認証で照合している』

「絶対に車を通さないで。守り切るのよ」

『わかっているが、簡単に近づくわけにもいかない。すでにマスコミが集まって生放送をしている』

状況は最悪であるとクレスタは答えた。マスコミの前で強引な方法をとるわけにはいかない
きっちりと法令を守りながら対応しなければならない
通話を終えるとカレンはため息をついた。もう止めることはできない
今後のことについて対応するにはいろいろと問題が出てくるかもしれない
カレンはテレビ番組を見る様々なチャンネルで車に爆弾を積み込んでいるところが報道されていた
このまま飛び火しなければいいのだけどとカレンは思っていた

『クラナガン市準備銀行は市内を主な営業範囲としている金融機関に対して緊急融資の用意に入っています』

『この情報を受けてクラナガン証券取引所では銀行などの金融機関などの株価が上昇中』

「いったいどうしてこのタイミングで融資を行う必要があるの?」

今のところ市内の金融機関で大規模な問題があるようなところは確認されていない
なのに緊急融資をする必要があるとは思えない。何か裏事情が隠れているのかもしれない

「調べてみる価値はあるかもしれないわね」

カレンはすぐにデータベースにアクセスした。
クラナガン市準備銀行が動く必要背があるような事案があるかどうか
中央パトロールの経済犯罪課のデータベースで確認したところ、いくつかの銀行に問題を抱えていた
原因は言うまでもない。時空管理局債の運用で失敗したことが原因だ
その影響で自己資本比率に影響が出ていた。このままいけば銀行は公的資金の注入が待っている
どの銀行もそれだけは避けたい。もし公的資金の注入になれば、その企業の幹部は訴追されることが高まる
誰だって刑務所に放り込まれるのは嫌になるのは当然。だからこそ資金確保のために徹底的に動いてくるだろう

「怪しい銀行はどこか?」

カレンは調べたところハーディーバンクが資金的に問題を抱えていることが確認された
100億ミッドもの不良債権を抱えている。もしこれが事実なら金融市場に影響が出る
こういう事例は初めてではない。数年前にも時空管理局債の取引で10億ミッドもの被害が出ていた
連続しての時空管理局債の取引で大きな痛手で影響自体も大きい
預金者からリスクがあるとわかれば預金の引き出しが慌ただしくなる
そこからさらに悪循環が出てくる。金融機関は信頼が命だ
それがなくなれば取り付け騒ぎになることは当然である

「ハーディーバンクはもともと低所得者向けに融資をしていたから危険な融資をしていたのかもしれないわね」

『クラナガン市長はスタントン州知事と電話会議を行い、安全保障協定をより踏み込んだものにしようと提案』

「嫌な予感がプンプンするようなことにならなければ良いけど」

『これについてスタントン州知事は州には連邦軍の基地があることからこれ以上の安全保障協定には否定的です』

当然と言えば当然である。
州の安全保障についてさらに複雑にするのは嫌なことくらい誰だって想像できる
ただし連邦軍でもお手上げのような事案になれば話は異なってくる
今はそういう状況ではないので問題はないが
ただし首都であるクラナガン市を守るという名目で対空レーダーや通信センターは設置されている
彼らにとってそこは首都を守るためには必要なことではあるとは認めている
そこまでは妥協できても、部隊の駐屯基地がおかれるのは好ましくないと考えているのだろう

「まぁ当然よね。いきなり答えなんて出すことができないことはわかっているはず」

スタントン州議会の与党は上下院のどちらも平和党という政党だ
世界の人々に平和をもたらすために、貧しい人々への支援サポートを標語としていた
平和党はもともとはクラナガン捜査局に属していた局員が生み出した政党だ
時空管理局にも退役局員や現役局員が支援している次元管理党があった
今は次元管理党としての活動はしていない。
次元管理党に属していた多くの議会議員は不祥事になり、多くの次元管理党関係者が逮捕・捜査が行われている
多くの次元世界政府の議会で次元管理党は活動していたが今は完全に活動停止中だ
今は民主党・共和党・平和党の3つの政党が国内で活動している。
今年の3月の選挙でクラナガン市と近隣州は第1党として平和党がトップだ
もちろん民主党や平和党もそれなりに議席を確保している。

「クラナガン市政府は何を考えているのか探りが必要ね」


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南区北部区域ビューロー地区1番街3丁目 クラナガン市政府第3合同庁舎 61階クラナガン市長執務室

市長であるサンディ・マウントは市長補佐官を集めて協議に入っていた
東隣であるスタントン州は重要である。首都防衛において東側からの攻撃を阻止するためだ
妥協案として各種レーダーや通信傍受のアンテナなどを含めた様々な設備が配置されている
唯一異なるのが港湾パトロールの実戦部隊が配備されていないということだ
スタントン州はあくまでもミッドチルダ連邦軍の管轄区域と定められている
もちろん時には連携して対応することはあるが、それは限られた時にだ
連邦軍では対応できないような緊急事態になった時が条件である

「レイス・トーラットは退役港湾パトロール海兵隊員だからうまくいくかと思ったんだけど」

世の中そう簡単に事が進むことなどありえない
状況を動かすにはそれなりの手順が必要だ
それに安全保障協定の正式な締結には州議会の議案可決が求められる
スタントン州でも上下院のどちらも平和党が第1党だが、議員によっては反対の立場に回るものもいる
議員にも政治信念があるのだ。強制的に可決に回すのは許されることではない
そこで有効なのは飴とムチの使い方だ。反対に回る議員に可決することでメリットがあると
難しいことではあるが必要なことでもある。慎重な対応が必要になる

「スタントン州知事には念のため港湾パトロールの活動に関して事後承諾でもいいから許可を取って」

サンディ・マウント市長の言葉に市長危機管理補佐官のゴギー・ビックはできるだけプッシュするべきだと
港湾パトロールが活動できる限界区域まで空母を中心とした遠洋警備軍の派遣について思案していた
クラナガン市長にも一定の範囲で港湾パトロールの部隊展開を要請することができる権限がある
クラナガン市だけでなく港湾パトロールの基地がある州の州知事にも部隊展開要請ができる
表向きは災害対応という名目だが、州内の安全保障のために権限を行使できる
つまり拡大解釈をすれば治安維持を名目に州内の港湾パトロール基地へ派遣要請が可能

「とにかくクラナガン市内で不穏な動きがないかは常に監視を。問題が起きることが予見できればクラナガン捜査局に」

市内の治安を守っているのはクラナガン捜査局だ。
クラナガン捜査局からは常に最新情報が提供されている
課題は山積しているが1つ1つ対応していくことが求められる
何としても首都の安全保障を守ることが必要なのだ
もしミッドチルダ連邦の首都であるクラナガン市に大規模攻撃が起きたら事は簡単に片付かない
後始末には膨大な時間と資金が必要になる。そうなる前に手を打たなければならないのが現状である

「本当に困った課題ね。各州にも利害関係があるから対応するのは簡単ではないけど」

州知事にはいろいろと課題がある。時空管理局の地上での警察権限がほぼはく奪されたミッドチルダでは特にだ
クラナガン捜査局でしっかりと共同を受けた捜査官や刑事やパトロール捜査官は国内だけでなく、
多次元世界国の警察機構の教導任務にあたっている。それだけにクラナガン捜査局とは深い関係がある
連携をとるのはそれほど難しいことではない。
次元世界連合の関係組織である次元世界警察機構にもこちらで教導を受けた者は多い
次元世界警察機構は次元世界連合加盟国で発生した犯罪情報を共有するための組織。
各次元世界国に対して犯罪情報データを治安組織に提供するのが主な業務。
内部部局には全次元犯罪情報センターが設置され、犯罪者・武器・密輸・盗品・犯罪構成員の情報を提供している
次元世界間移動記録・各次元世界車両登録情報などがデータベースとして運用されている。
次元世界をまたがった犯罪者の追跡業務も行っている
サンディ・マウント港湾パトロール海兵隊で鍛えられた兵士だ
そして部隊の指揮官を務めていたことから組織の動かし方をよく理解している
まずは最初に探りを入れて少しずつ圧力をかけていく。
いずれは水がたまりすぎたダムと同じでいずれは放流しなければならない。
つまり情報提供をしてくれる人材が集まる

「とにかく近隣州を含めて警戒を。何かあればホットラインで報告して」

サンディ・マウント市長の言葉に室内にいた複数の市長補佐官は了解ですと返答した
彼らが市長執務室を退室すると彼女は大きなため息をついた
問題が管轄権でもめることは確実であることが明白だからだ
連邦案件になると連邦行政機関との調整が必要になる
今のところはそういう事案にはなっていないが

「本当に市長に当選してよかったのかしら」

市長になるということはクラナガン市民を守ること。
それだけでなく市内はもちろんだが近隣州政府などの政治的交渉も任される
ミッドチルダ連邦の首都であることからそれは仕方がない
おまけにクラナガン捜査局の取り扱いは連邦行政機関でもあり市政府行政機関でもある
複雑な利害関係が絡んでいるため取り扱いには慎重さが求められる