午前10:16 北区西部区域 ノースウエストクラナガン貨物ターミナル 1番線

サイノスがそこである貨物列車の確認作業を進めていた
その貨物列車の主な積み荷はベルカ州へ運ばれる農作物が積み込まれていた
不審なものを感じてサイノスは確認作業のため出発延期を命じた

『ノースウエストクラナガン貨物管制から各員へ。1番線の貨物列車の出発は当面延期』

今は調べることが最優先である。
貨物の積み荷として利用している会社などの情報をクロス検索したところ、ある企業がヒットした
ローレットコンサルタントという会社だ。
この会社は中央区を縄張りとしているマフィアのハルファスという犯罪組織のフロント企業。
積み荷は家電製品。冷蔵庫や洗濯機など、様々なである

「何かお宝があるかもしれないね」

サイノスはコンテナの中身を確認する。確かに家電製品が積み込まれている段ボールがあった
積み荷記録によるとコンテナ貨車10両に家電製品が積み込まれていた
全てを調べるのはかなり苦労するが、相手は犯罪組織、マフィアの関連企業。
連邦法の犯罪組織対策法でブラックリストに登録されている
連邦判事にすぐに令状を請求できる。それも簡単に。彼らもそんなことはわかっている
だからこそあらゆる手で法の網を抜けようとしている。組織は必死なのだ
多くの犯罪組織はJS事件以降、時空管理局と裏で黒い繋がりがあった
ところがだ。今は時空管理局の内部調査で様々な罪で犯罪組織そのものや幹部も逮捕されている
組織が崩壊するのも時間の問題というところもある。それだけに新たな資金源を獲得することに必死だ
おまけに時空管理局との黒い繋がりで捜査が入りブラックマーケットの規模は縮小している
裏の流通網も寸断されるケースも増加している。
麻薬の密売をしたいが肝心の麻薬が手に入らないということも。銃なども同じだ
どこも今の犯罪組織の維持に力を注ぐしかないのだ。必要なら関係があった時空管理局員を消している

『中央本部からSA25。状況報告を』

「現在ベルカ州行きの貨物列車の積み荷チェックを実行中。ハルファスのフロント企業が絡んでいる」

『了解した。慎重に対応を。何を仕掛けられているかわからない』

当然である。貨物列車のコンテナに何が積み込まれているはあらゆるものが想定される
銃や麻薬。もしかしたらロケットなどの兵器が積み込まれている可能性もある
もしかしたらここを吹き飛ばすことが目的として爆弾があるかもしれない
それだけにサイノスは結果ありきで捜査をしていない。あらゆることを考慮して対応している

『SA25へ。1番線の貨物列車の貨車から大きな物音がします』

「開封を許可します。コンテナ内の中身を確認せよ」

了解というと無線の相手がコンテナ扉を開封した

『トラブル発生です。コンテナ内に幼い女性を発見。かなり弱っています』

サイノスはすぐに救急隊を要請するように指示。さらに他も貨車も調べるように指示した
これ以上クラナガン市内から違法な物や人身売買目的の人を別の州に持っていかれることは許されない
何がなんでもここで抑えるしかない

「SA25から北分署。こちらの貨物ターミナルに増員手配はできるか?」

『現在は別件で動いている人員があるため、すぐの対応は困難と思われます。ですができるだけ努力します』

「了解した」

他に人員をまわしているため、こちらに人員をまわせないとなると少し面倒になる
この貨物ターミナルにはかなりの数の貨物があるのだ。貨物コンテナだけでも大量に存在している
それらをすべて確認するのは時間がかかってしまう。時間との闘いである
サイノスはすぐにそのトラブルがある貨車に向かうとコンテナには20人以上の女性がいた
彼らは衰弱している。人身売買が絡んでいることは間違いない
携帯情報端末でコンテナの積み荷記録を調べた。このコンテナの輸送を依頼したのはある人物だ

「コンテナの移送依頼をしたのはブラッド・マリンズだね」

この人物は退役時空管理局員である。現在は輸送会社の社長をしている
輸送会社が主に家電製品の輸送を扱っている。元々はクラナガン市内だけの営業範囲だった
ですが今は市内だけでなく近隣州に営業範囲を広めようとしていた。
財務情報によると昨年の売り上げは90億ミッドだったがJS事件後は大幅に売り上げが低迷した
銀行から20億ミッドも融資を受けていた。ところが利息の返済すらできない状況にあった

「金を稼ぐために違法ビジネスに手を出したのかもしれないね」

経営が行き詰ってしまえば汚い仕事も引き受けることは考えられる
銀行からの融資を受けたが、経営状況は改善することがなく悪化の道を進んでいるのかもしれない
だからこそリスクのある犯罪にかかわっても資金確保をしなければならないということは何かがあるのかもしれない
犯罪組織とトラブルがあるからそうする道を選ぶしかなかったと考えることはできる
サイノスはすぐにブラッド・マリンズの身柄拘束をするために令状請求をした。
だがすでに逃げ出している可能性は十分ある。
コンテナ輸送が止められていると知れば検査で中身の情報が漏れたと察知するかも

「とにかく令状請求をして確保しないと」

携帯電話を取り出すとすぐに検事局に連絡した。
令状を請求して住所に刑事を向かわせるようにと
住所は東区北部区域イーストボトトート地区1番街7丁目12番地
しかしだ。その住所の家は銀行が差し押さえをしていた。
借金の返済が遅れたので融資担保としていた家を差し押さえた

「資金繰りにかなり行き詰っていることは間違いない」

何が何でも金を稼ごうとしていることを考慮に入れて考えた。
おそらく銀行以外の高利貸しから融資を受けていたのかも知れない
彼らに金を返さなければ高利貸しはどんな手段を使っても融資した資金を回収する。
違法行為を行ってでも。だから人身売買の犯罪行為に関与したのかもしれない
今は仮説の段階だ。身柄を拘束すればわかると思うが、あまり希望的観測は持てないかもしれない

「本当に何がどうなっているのか。調べるにはかなり苦労しそう」


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部オペレーションルーム

『ベルカ州西部地方でのクーデターにより現地は混乱しています』

『今回武装蜂起をしたのは聖王教会過激派との情報が入っていますが詳細はまだ不明です』

『ベルカ州政府は港湾パトロールに安全保障協定に基づいて治安出動の要請に入りました』

オペレーションルームの正面スクリーンには数多くのマスコミによる報道内容が映し出されていた
シエルはため息をつきながらその内容を確認していた。どの報道番組はベルカ州のクーデター騒動を報道していた
ただし現地から報道されているものはない。今は限られた情報入手経路を使ってつかもうとしている
スクープを報道できれば視聴率は跳ね上がる。

「本当にマスコミの情報収集能力は高いわね。こちらよりも知っているメディアが出てくるかもしれないけど」

『連邦政府は次元世界連合安全保障理事会を急遽開催することを求めています』

次元世界連合に根回しをしないで部隊を動かすのは国際関係上問題が出てしまう

『今回のクーデターによりベルカ州証券取引所の平均株価は下落。ベルカ州知事は必要に応じて戒厳令を敷く準備をと』

ベルカ州内全域で戒厳令を敷くとなるととんでもない大騒ぎになる
ミッドチルダ連邦政府が直接権限行使を行えば連邦軍の派兵も可能だ
港湾パトロールと共同作戦を実行することで、素早い対応ができる。

「聖王教会が関与するかのように動くかどうかはこれからのクーデターを起こした連中がどの程度なのか次第ね」

シエルの言うとおりだ。聖王教会全体が動き出したら、もう止めるものは存在しない
次元世界連合も聖王教会に対して強制捜査と活動停止命令が発令されることも想定される
聖王教会は次元世界連合ではオブザーバーとして参加している
その参加権を取り上げることができるのだ。そうなれば国際機関としては認定されない
だからこそ厳しい監査体制がとられている。少しでも違法なことに関わっていたら活動停止命令を発令できる

「次元世界連合がどの程度動くかで事は変わりそうね」

「シエル首席。中央パトロール低軌道監視衛星をベルカ州西部地方に固定した」

中央パトロール低軌道監視衛星は高度600kmの位置を周回している
この衛星は全部で50基配備されている。この惑星を宇宙から監視している
メインは魔導師の行動監視に利用されることが多い。それらの情報は国防省にも伝わっている
今、正面スクリーンに衛星写真を出すとギブリは言うと映し出した
衛星写真で熱源などをメインに探知していた。
熱源の多さからどれくらいの人数がいるかを絞り込むことができる

「ギブリ。そのあたりの魔導師が放っている魔力波長を分析。どれくらいの人間がいるか確認して」

「了解。すぐに探知できます」

『ピッ』

「観測できた。どうやら100人ほどの魔導師がいるようだ。どうするつもりだ?」

「その情報を港湾パトロールと国防省。それと次元世界連合に通達して」

マニュアルに従って対応するようにとシエルは指示した
観測された魔力波長から魔導師のランクについても絞り込みを進めていった

「何が出るか楽しみね」

リンカーコアがある者は出生時に登録が義務付けられている
魔導師が犯罪を行った場合にすぐに誰が行ったかを割り出すためのシステムである

「思わぬ人物の魔力波長を確認できた。データベースと照合して最終確認する」

ヒットした人物の中にかなりの大物が存在した。聖王教会騎士団で以前幹部に属していた
名前はエリス・ファラド。女性騎士だ。魔法ランクはAAである。
個人記録を確認するとJS事件後はすぐに聖王教会騎士団を抜けて逃走していた
ベルカ州警察はある企業から裏金を受け取っていたことで追跡されていた

「なるほどね。少しは関与している人物がいるなら交渉次第で内部調査ができるかもしれないわね」

シエルはまるで大きな企みをしているような、そんな表情をしていた
あまり良い企みとは言えないだろうが。だが聖王教会を一時的に行動停止するには必要である
クーデターを起こした彼らも聖王教会本体が叩かれることを気づけば少しは歩みを止めるかもしれない
彼らも聖王教会本部に強制捜査のメスが入れば、
いくらクーデターを起こしても大本が立たれたら意味がない

「聖王教会調査委員会に話を持っていった方がよさそうね」

次元世界連合安全保障理事会の下部組織に聖王教会調査委員会がある
次元世界連合加盟国から20か国が調査委員会のメンバーとして構成されている
任期は2年。聖王教会のどんな些細な問題であっても委員会で協議が行われる
シエルはすぐに次元世界連合に連絡するように伝えるとオペレーションルームを退室した


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クラナガン自然保護区 中央区域 クラナガン自然保護センター庁舎 4階分署地域情報センター

エイミーはグレイ・キョラースの経歴をさらに掘り下げて調べていた
退役時空管理局員であるが、2億ミッドの借金を抱えている。
金融機関は早く返すようにと尻を叩いている。返済期日は間もなく迎えることになる
それが少しでも遅れることになればすべてを失う。すでにもう追い込まれているが
だから密猟というバカな真似をしたことは疑いようのない事実である
金を返すところがまともな金融機関なら自己破産をすればいいかもしれない
しかし犯罪組織から融資を受けていたら組織は何としても金を回収するはず
必要なら強盗などの犯罪行為を行っても融資した金を回収するはず
いつものことなので珍しいことではないが

「いったいどこから金を借りていたのか。犯罪組織に関する情報を集めないといけないわね」

犯罪組織の融資内容の情報を調べるのは簡単なことではない
どういった犯罪組織から融資を受けていたかを探り出すのは森の中から小さな葉っぱを探すのと同じ
つまり見つかる可能性はほぼ0に近いということだ

「何かを使って着火ラインに火を近づけないと」

犯罪組織に動揺させることで動きが見えるかもしれない
これで情報がつかめるかもしれない。エイミーはすぐにギャングやマフィアなど
犯罪組織対策法で登録されているすべての組織の財務状況を監視しなければならない
その監視は中央パトロール管制センターに任せるために彼女は連絡した

「悪いけど揺さぶりをかけてみてくれる?」

『できるだけ素早く対応できるように動きますが、時間が必要になるかもしれませんが』

それでもいいですかと聞いてきた。
エイミーは問題ないというと作業に取り掛かりますと返答してきた
あとは結果を待つだけ。グレイ・キョラースは事情聴取でほとんど喋ることはなかった
何か一つを喋れば危険であると考えているのだろう。まぁ当たり前と言えばそうだ。
密猟は重罪行為だ。仮釈放なしの実刑判決がほぼ確実である。
終身刑にはならないがしばらくは刑務所暮らしになる
刑務所内では安心かもしれないが外に出れば何をされるか

「証言が得ることができなければ拘留期限の48時間ぎりぎりまで粘るしかないわね」


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東区東部区域サウスクラナガン港 サウスクラナガン港分署ラボ棟 3階質量化学ラボ

ダイナは押収した麻薬、300kgのコカインの分析を行っていた
どこが製造したか。それとコカインの純度についても分析作業を進めていた

『ピッ』

分析装置での鑑定結果の報告書が印刷されてきた

「純度は90%か。かなり大手の物だな。末端の麻薬常用者は純度40%で手に入れるのが限界だろう」

麻薬は人の手が次々加わることで純度が下がってくる。
最終的に密売されるときには純度30%か40%もあれば良好な方だ
最悪の場合はかなり純度が低い場合も存在する。
麻薬中毒者はそんなものでは満足できないため、高純度の麻薬欲しさに犯罪を犯すことは珍しいことではない
しかし、最近は麻薬摘発が大幅に増加したことにより、密売価格はかなり上昇している
その結果は麻薬欲しさにより高額なお金を欲しさに危険な犯罪を起こしている

「コカインの密売容疑で逮捕だな。あとはどこに卸すつもりだったのか絞り込まないと」

麻薬密売組織の活動資金を断つためや行動を抑え込むために必要な手順だ
それにしても海から麻薬を回収するとはいろいろと考えてきたなとダイナは感じていた
魚釣りよりも麻薬の密輸の方がかなりのお金を稼ぐことができる
もちろんリスクはある。海上で麻薬が入っている物を回収するまでは難しくない
問題はそのあとだ。港に戻ってきた後、どうやって密売人に渡すかである
港湾パトロールのクラナガン市内の港に設置されている分署では船の積み荷に対する調査を行っている
問題がありそうなことが少しでも確認されたら強制捜査を行う。
銀行記録などの情報を調べれば麻薬密輸に加担していたらそれなりの金の動きがあるはず
その金の流れを調べればより詳細な情報がわかる。
ダイナはすでに判事にレポズ・カースの銀行記録などの情報開示を求める令状を請求していた
金の流れを追えばいろいろと分かってくることがある

『ピーピーピー』

ダイナの携帯電話に着信が入ってきた。判事が情報開示令状を許可したとのことだ
その情報はすぐにダイナの携帯情報端末に送られてきたので、国内の銀行などに情報開示を求めた
銀行も判事が許可したのであれば問題ないとして銀行口座情報がダイナの携帯情報端末に届いた

「どんな感じになっている?」

情報を詳しく見ていると今年に入ってからかなり高額の振り込みが口座にあった
9000万ミッドも1度に振り込まれているときもあった。明らかに異常な金額である
口座に金を振り込んだのはショエル・バークス。JS事件で大量リストラされた時空管理局員の1人だ
どうやら犯罪組織に加わったことは明確である。そうでもなければ漁師に金を払うはずがない
300kgのコカイン、その末端価格はかなりの金額になる
もし監視網を突破して街で今回押収されたコカインが密売されていたらかなりの金額だ

「どこの犯罪組織が絡んでいるか調べないとな」

これだけの麻薬をさばくとなると小さな組織ではないだろう
300kgのコカインだ。それも純度が高い。ということは購入価格はかなり高いことになり、
今の市内の犯罪組織でそれだけの金を出せるところは限られてくる

「自白させるしかないな」

奴がどの組織に運ぶはずだったかを喋れば一気に下から上まで摘発できる
これからは時間との闘いである。組織が証拠を抹消するために情報を確保しなければ意味がなくなる

「ショエル・バークスを探し出すしかないな」

これは市内の街灯観測システムで顔認証システムを使って照合すればわかる可能性はある
高いとは言えないが何もしないよりかは良い方である

「中央パトロールに連絡してスーパーコンピュータで照合させるしかないな」

それでも時間がかかるなら港湾パトロールのスパコンを利用してでもと考えていた
時間がないのだ。麻薬の流通経路を調べ上げるしかない。
今回のコカインはどういう経路をたどる運命にあったのか
まずは銀行記録などの金融情報をメインに調べていけばある程度を絞り込むことができる
麻薬を犯罪組織が購入するときは前払いが基本である。
犯罪組織はこちらに気づかれないようにあの手この手で麻薬を購入のために必要なお金を支払う
その日にあった企業は翌日にはなくなるといったようなゴーストカンパニーはかなりの数になる
作る方も大変であるが追いかける方も苦労する。何としても金をかき集めて支払うしかない
そうしなければ犯罪組織の財務が悪化して組織の運営に影響が出てくる
ダイナは漁師の銀行口座に金を振り込んだショエル・バークスの金の流れを徹底的に調べた
ショエル・バークスに対して金を流した人物を調べれば、さらに詳細な情報がわかるはずだ
追いかけ続けた結果、ある犯罪組織の関係者が経営している企業から流れているがわかった
東区で活動しているギャングだ。正確にはイーストサイドというギャングの関係者が動かしている企業
そこから金が流れていた。問題は振込先である。そちらの方はかなり念入りにしているようだ
いくつもの金融機関を経由しているため、すぐにはわからなかった。
だが麻薬捜査課に捜査を依頼しておこうと判断した。
麻薬関係の捜査を専門に扱っている中央パトロールの麻薬捜査課の刑事なら突っ込んだ捜査ができるだろう
こちらが勝手に縄張りを荒らすようなことをするのは避けるべきだ
ダイナは麻薬捜査課主任刑事のセレース・ファレックに連絡した

「セレース、頼みがあるんだが。サウスクラナガン港で会場から投棄されて回収された麻薬の足取り関係を調べてほしい」

『港湾パトロールの管轄を超えろと?』

「そっちには俺から話をつけておく。連中が証拠を消す前に集めないとすべては終わってしまう」

『了解です。早急に対応して裏を探り出して見せます。捜査関連資料をこちらに送ってください』

ダイナは今から送るというと麻薬捜査課に情報を流した
あとは漁師をたたくしかない。それも徹底的にである
さらにどの船から麻薬を受け取ったかについても調べなければならない
市内に麻薬を流通させるには車か船か貨物列車が主流だが、貨物列車はチェック体制が厳しくなった
そのため市外から市内に輸送するトラックなどの車か貨物船。その方が安全である。
車は数が多すぎてすべてを調べることはできない。
船はどこで麻薬を引き渡したかを調べるのは簡単なことではない
密輸するには車か船だ。あとは港湾パトロールのレーダーで漁船と貨物船がクロスする場所を絞り込む
それでも膨大な数になるが何もしないよりかは良い方だ
ダイナはレーダー情報を確認するためにラボ棟の2階マルチメディアラボに向かった

「早く見つけないと逃げられる。できれば国内移動をメインとしている貨物船だと助かるんだが」

もし他次元世界国に向かう次元空間航行貨物船なら追跡するのは簡単なことではない
そんな結果が出るともうとっくにミッドチルダ連邦から出て他次元世界国に向かっているだろう
あとは向こうの他次元世界国の法執行機関か時空管理局に密輸船であることを伝えて検挙してもらわないと

「早く探らないとな」


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クラナガン市北区北部区域 上空1万メートル C-37[ 航空機形式:ガルフストリームG550 ]

ミカはベルカ州に向かっていた。
その間も殺されたエバスト・ヴォルートの状況について情報交換を行っていた
ベルカ州警察のハイディーツ・パラスティック捜査官によると拷問を受けた痕跡があるとミカに報告していた
機密情報にアクセスするためにセキュリティパスを知るために苦しめられた可能性が高い
だが今はあくまでも可能性であり、確定した事実ではない
だがそういうことも考慮に入れて行動しなければ何があるかわからない

「ベルカ州内の状況はどんな感じなの?」

『こっちはクーデターで騒ぎが激しい。かなり苦労する』

「現場は確保しているのね?」

現場はもちろん確保しているとのことだ。クーデター騒動でベルカ州内は大騒ぎになっている
港湾パトロールと連邦軍の部隊が派遣されて騒動が素早く収まればいいのだが
簡単に片付くとは思えないとミカは考えていた。
クーデターがベルカ州西部地方だけでなく、他の地方でも起きるのではないかと懸念していた
十分考えられることなので、港湾パトロールが通信傍受を行っている
犯罪組織対策法に登録されているブラックリストに登録されている組織と人物の通信、
それらを区別するのは難しい。港湾パトロール安全保障局や港湾パトロール防衛情報局など
港湾パトロールには5つの情報機関が存在する。5つの組織は常に連携して対応している
常に互いが持っている情報を共有することで新たなテロを防ぐことができる
そのために多くの諜報員が活動している。

「港湾パトロール安全保障局に連絡して情報を集めさせるわ。必要に応じてこちらにも情報共有も」

『情報機関との交渉はお任せします。こちらでは地元だからこそ抱えている情報を分析します』

ベルカ州内の治安維持などを担当している州の関係組織である州警察は独自に諜報活動をしている
彼らが独自に集めている情報は非常に有益なものになる

「エバスト・ヴォルートが所持していた携帯情報端末は回収できているの?」

『それどころか財布にも手を付けていません。財布には現金5万ミッドが入っていました』

つまり金目的の強盗の線はないということだ
では何を目的に犯行を起こしたのかを調べるのはかなり難航しそうだ

「検死については?」

『エバスト・ヴォルートの体内から銃弾を摘出。9mm口径の銃だろう。線条痕を照合中』

「結果はどれくらいかかりそうなの」

『少し時間はかかるがミカ主任がこちらに到着するまでには照合はできているはず』

ミカは結果が一致したらすぐに報告をするようにと伝えた
さらに血中から何か検出されていないかどうかを確認した

『血中から微量ですがシアン化水素を検知』

銃弾を食らっておまけに血中から毒物。何かあると考えるべきかもしれない

「エバスト・ヴォルートが担当していた案件をすべてリストアップ。彼が関係した事件の関係者の危険性を査定して」

つまり逆恨みで殺された可能性があると考えたのだ
毒物でじわじわ死ぬのを待つことができなくて銃に縋りついたという可能性は十分ある
しかし、それではすぐに犯行が過去の捜査に関連していると言っているようなものだ
短気なだけなのか。別の何かがあるかは調べる必要はある

「金銭関係でトラブルはないのね?身内を疑いたくはないけど」

『それはあり得ない。金よりもバッチに誇りを持っている。金をとるなら引退する。優秀すぎる捜査官だ』

バッジの誇りを汚す者は許されない。それはすべての法執行機関の職員
どんなに追い詰められたとしても汚してはならない

「だけど念のため確認作業を進めるように。私も彼が犯罪行為に関与していないことを願っているけど確認は必要」

保険をかけることは重要である。

『了解した。裏付け捜査を継続しておく。何もないとは思うが』

それはミカも同じである。何もなければ良いのだが
だがいつ何があるかわからないのが犯罪捜査なのだ。
常に情報収集を行うのは当たり前のことである。

「過去に扱った事件で犯罪組織や聖王教会過激派が絡んでいるケースは特に厳重に警戒」

聖王教会からはじき出された教会過激派はかなりの人数になる
ベルカ自治区の特権を失って、おまけに犯罪に関与したとして逃げだすしかないことも増加している
逮捕されたら確実に刑務所に収監されることがわかっている事案だけでも何千件にもなっている
ベルカ州警察や市警察などの法執行機関は必死になって追いかけている
必ず刑務所に放り込むためにである。

『ああ。わかっている。それに強力な助っ人が来てくれる。こちらに少しは分がある』

助っ人とはミカのことだ。彼女なら様々な情報機関や政府機関に貸しのある人物は多い
必要なら大統領を動かすことも可能である。連邦政府や連邦軍の幹部ともコネがある

「現場鑑識で何か成果は出ているの?もうある程度はしているとは思うけど」

『現場からかなり珍しいものが見つかっている。5.7x28mmの薬きょう』

かなり珍しい。普通は9mmなどだ。一般にブラックマーケットで流通しているものも含めると
一番多いタイプは5.56x45mmの弾が流通している。5.7x28mmの弾はかなり珍しい
この薬きょうが使用されるアサルトライフルはかなり限定されてくる
2種類の銃で殺された。どこか腑に落ちないところがある。
殺すのに2種類の銃を使うのはなぜか。何かのメッセージのつもりなのか
事件現場を見てから判断する必要がある

「現場保全は完ぺきに行っておいて。私も現場で何か新しい発見があるかもしれないから」

ミカの指示に分かっていますと返答すると通信は終了した
彼女は少し厄介な現場になることを覚悟した。鑑識作業は進めて良いが現場は保全するように
難しいことではあるがやってもらうしかない

『関係者からの話によると時空管理局から大量リストラされた退役局員も含まれると』

十分あり得る話だ。大量リストラされた退役時空管理局員は退職金はごくわずかしかもらえていない
おまけに資産運用に失敗して財産を大幅に失った。お金を失って今は日々の生活も大変な状況にある
だからこそクーデターに参加する連中がいるのは十分考えられる
問題はどの程度の規模であるかだ。大量リストラされた退役時空管理局員は日々の生活に困窮している
最も生活に困窮している彼らの中には生活保護でぎりぎりの状況である者もいる
次元世界連合加盟次元世界国は彼らが犯罪組織に参加することを抑えるために生活再建できるように支援を行っている
もし退役時空管理局員が犯罪組織に参加したら大問題になるからだ

『クーデターを起こした勢力が犯行声明を発表。ベルカ州西部地方にある魔力精製炉発電所を占拠したと』

魔力精製炉発電所は原子力発電所と構造が似ている。
原子力発電では燃料棒にウランを使うが魔力精製炉では魔石というものを使っている
2つの大きな違いとはウラン燃料は核のゴミを生み出してしまうが魔石にはそう言った問題はない
健康被害が出ることはほとんどないのだ。使用済み魔石燃料もプルトニウムなどがないため安全性は高い
おまけに魔力精製炉発電で燃料として使用される魔石は豊富な埋蔵量があるため、
化石燃料と違って魔石燃料は安価で入手ができるのが最大の理由だ
ミッドチルダ連邦を含む次元世界連合加盟国のすべてで魔力精製炉発電所が主電源として利用されていた
しかしAMF装置が開発されたことで火力発電や水力発電などの電力源の分散化が求められている
また太陽光発電や風力発電。地熱発電など化石燃料を使わない環境に影響を与えない発電所も増加している
ミッドチルダ連邦法では電力会社は住民が住んでいる場所に送電事業を行っている企業を選ぶことができる
環境に影響を与えない太陽光発電・地熱発電・水力発電を主力とする電力会社を選ぶことも可能。
電力価格は電力会社によってさまざまである。
ベルカ州は自治区時代から環境に影響を与えない魔力精製炉発電所がメインの電力源としている
今は多くの発電会社が建設されて新しく契約できる電力会社はかなりの数になる
発電会社は送電網は保有していないが、
連邦法で送電網を一定の手数料を送電網を持つ会社に支払うことで使用できる。

『ベルカ州西部地方では一部で停電している地域が存在していることが確認されています』

送電網を狙った攻撃となるとかなり危険だ。
送電網がターゲットならベルカ州だけの問題では済まない
近隣州にも影響が出てくることは確実になる。そうなれば法執行機関は対応するのに大きな障害になる
おまけに国防にも影響が出てくることも想定されてくる。どれほどの影響が出るかはすぐ割り出せない
ベルカ州では自治区時代は環境汚染を避けるために魔力精製炉発電所の発電割合が半分以上を占めている
今は火力発電所や水力発電所が一気に建設が進んでいるため、魔力精製炉発電の割合は下がりつつある
電源分散化が今は最も重要なベルカ州政府の課題でもある。

「州全域に停電騒動にならなければ良いけど。それとも魔力精製炉発電所を使っての爆破も」

魔力精製炉で使用されている魔石燃料の割合は魔力爆弾を製造に使われる濃縮度よりも大幅に低い
つまりいきなり大爆発する可能性は低い。
それに発電所の近くでAMF装置を起動させたら発電出力は少しずつ下がる
魔力爆弾のような爆発はほぼ0と言っても良い
だが発電が止まることで停電する可能性は十分あり得る話だ
だからこそクーデター派が制圧した魔力精製炉発電所からの送電を止めて代替え手段をとるべきである

『州政府はクーデターを起こした組織が制圧した魔力精製炉発電所と州内の送電網をカット』

州内の電力供給については問題は起こらないと発表していますとのことだ
これも様々な種類がある危機管理マニュアルに従った対応である。今は穏やかに解決するべき状況である。
クーデターを起こした者たちに追い詰められていることを知らせればあきらめるかもしれない
完全に追い詰められたと察知すれば抵抗をやめるかもしれない。
時間的余裕がどの程度あるかわからないのが難点であるが


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ベルカ州中央地方ベルカ市 郊外 港湾パトロールベルカ基地 基地管制センター

レパーズ・サットン統合軍司令官はベルカ基地から出発した無人航空偵察機から送られてくる偵察画像を見ていた
今後の軍事的オプションを作成するためである。情報がなければ何も作戦を組み立てることはできない
今はどんな些細な情報でも良いので最新情報を集めなければならない

「現在、クーデターを起こした者たちが占拠している魔力精製炉発電所の上空に偵察機が到着」

管制官がそう報告するとすぐにレパーズが扱っている情報端末に最新画像と映像が送られてきた
彼らが何をするつもりなのかを見極めることが求められる
本当に自爆攻撃をするつもりなのか。それとも何か別のたくらみがあるのか探り出さなければならない
今のところは急激な熱反応は確認されていない。それどころか魔力精製炉の炉の部分の温度はかなり下がっている
発電をしていない可能性が疑われる。もしかして使用済み魔石燃料を奪って魔力爆弾を作るつもりか
だがそれには高濃縮魔石燃料が必要になる。一般の魔力精製炉発電所で使用されている低濃縮魔石では難しい
高濃縮魔石を作るにかなりのお金と設備と電力が必要だ。国内でそんなことを少しでもしたらすぐに察知される
宇宙から人工衛星で監視を行っているのだから。魔導師の活動はもちろん、魔力精製炉発電所の監視も行っている
その情報はミッドチルダ連邦政府と国内の州政府にも提供されている
国際条約でリンカーコアを持っている魔導師はその魔力波長の登録が義務付けられている
これと同じようなものを国際条約で定める前は時空管理局が行っていた
国際条約で明文化したのは各国が秘密主義にならないようにするためである
魔導師を一つの次元世界国に密集させることを避けるためにというのが国際条約での体裁だが
実際は魔導師が犯罪を起こした場合はすぐに魔法粒子から身元を特定できるようにするためである

「無人航空機での監視は継続して行え。どんな些細な変化も見逃すな」

レパーズの指示に管制センターにいる管制官たちは了解と返答した
自分たちが管轄しているエリアでトラブルを起こされるのはかなり嫌な話だからである
もし阻止することができなければ、ここに基地がある意味がない
聖王教会や時空管理局を監視するためにベルカ州にも港湾パトロールの基地があるのだから

「クーデターを仕掛けてくるか。本気でベルカ州の権力を取り戻したいのだろうな」

自治区時代の権力に酔いしれているから、奪われて追い詰められている人物は多い
そういった人物はJS事件以降はすぐに聖王教会から離脱して逃げている
ただし今はFBIや州警察など、様々な法執行機関が追跡をしている
絶対に見逃すことはしないようにしている

「魔力精製炉発電所を爆弾の代わりにされることは許されない。AMF装置を投下するか」

戦闘機に対置AMF装置を透過すれば魔力精製炉発電所の安全は確保できる
保険としては十分だ。それにあちらに対する圧力としても使える
こちらはいつでも攻撃することができるというはっきりとしたメッセージに
レパーズ・サットン統合軍司令官はすぐにベルカ州西部地方の上空にいる戦闘機の状況を確認した
情報端末によると第702戦闘飛行隊に属しているF/A-18Eが3機展開していた
対空・対地・AMF装置弾頭を装備していた。つまりいつでも攻撃ができるということでもある
問題があるとするならそのミサイル投下の指揮権は今はミッドチルダ連邦大統領にあることだ
こちらが強引にするわけにはいかない。港湾本部長と捜査長官。
さらに連邦大統領と連邦国防省にも情報を流さないといけない
手順に従って行動しなければ指揮命令系統の統率は成立しない


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西区北部区域 クラナガンハイウェイ14号線( 大外環状線 ) 反時計回り路線

ジャスティは西分署に向かっていた。
地下雨水貯水トンネルで発見された遺体に事件性があるか判断するために
確認作業を行い事件性があるなら殺人事案として扱う。
遺体が発見された地下雨水貯水トンネルに遺体が到着するのは通常ではありえない
地下雨水貯水トンネルにつながっている配管では人間のような大きさが通り抜けることはできないからだ
そのため、どこからか誰かが貯水トンネルと地上がつながっている水門を経由しない。
共同溝などに設置されている雨水排水官は最大時間降雨量が80mmまではカバーできる
ただしそれは雨水だからと言って浄化処理をしないで河川に放流することはしない
必ず汚水処理施設でしっかりと浄化を行ってから河川に放流する
ただし処理施設だけで対応できなくなり場市内の数多くに設置されている雨水貯水施設で貯水される
雨が収まってから浄化施設に運ばれて処理を行った後に河川放流が行われる
遺体の身元がわかなければ捜査はかなり困難になる。交友関係を絞り事が難しい
遺体は地下雨水貯水トンネルにあったことから通常の雨水排水官を使って流れ着いたことは考えられない
つまり誰かが直接に地下雨水貯水トンネルに遺体を沈めた。そう考えればある程度は納得できる

「問題はそこまでしてまで遺体を処理しようとしたかを調べるのはかなり難航しそうだ」

クラナガン市内の本土側には道路の下に共同溝が埋設されている
共同溝は常にクラナガン市政府が管理しているので市政府の許可なく立ち入ることは難しい
おまけに各種センサーがあるので人が共同溝にいれば各種センサーで探知される
人だけでなく共同溝内で発生する様々なトラブルを感知するためのセンサーがある
小さな異変が確認されたら市政府の共同溝管理センターと中央パトロール管制センターなどに情報が届く
もちろん市内にある各分署の分署地域情報センターにも連絡が通達される
すぐに身柄確保することと手順が決まっている。共同溝に立ち入れる人間は限られた者だけ
許可なく侵入したらテロ行為として処罰される場合もある重罪行為だ

「今は殺された被害者の身元を割り出すしかないな」

指紋が難しいならDNA鑑定で割り出すしかない。失踪人届が出ているか
もしくは犯歴者か公務員ならデータベースに登録されているだろう
あまり希望は大きくないがこれに賭けるしかない

『西分署から各員へ。クラナガンハイウェイ14号線反時計回り路線で暴走車の集団を確認』

至急安全確保のために動くようにとのことだ。
ジャスティは位置関係を確認するために緊急避難体で停車。
暴走車の集団の位置を確認すると広報5㎞地点にいることが分かった
これならまだ狙えると判断して無線のハンドマイクを手にした

「SA32から西分署。近くにいるので暴走車両集団の事案に対応する」

『こちら西分署。協力支援に関する。そちらの車載情報端末の情報を送る』

車両ナンバーなどの情報が情報端末に送られてきた。
暴走車両集団は時速170kmで走行していた。
クラナガンハイウェイの制限速度は最大で時速120㎞
50㎞のスピード違反になっている。
この場合はクラナガンハイウェイに設置されている無人速度監視システム、
それを利用することで無理な追跡をしてのスピード違反の取り締まりをする回数は大幅に減った
だが、ある程度は実際に速度違反を計測。その場で違反であることをアピールする必要がある
こちらが何も手を出さないというメッセージをしない。
しっかりと検挙のために動いているという態度を示すために
こちらが何も手を出してこないという態度を見せれば好き勝手にされてしまう
それはいろいろと問題になる。ある程度は手動で速度違反の検挙が必要だ
しばらくするとエンジンの爆音が聞こえてきた。ジャスティは車を出発させた
そしていつでも追跡できる体制に入った。
暴走車両は追跡されていることがわかるとさらに速度を上げた
危険行為になる前に速度測定を行った。
彼はすぐにワーニングライトとサイレンのスイッチをオンにした
もうこれ以上の暴走行為を避けることが最重要課題だ。
彼らにこちらはいつでも監視していることをアピールすることは重要である

「前方を走行中の車。次のクラナガンハイウェイインターチェンジで一般道に降りるように」

拡声器用のハンドマイクで支持すると暴走車両はスピードを急激に下げた
こちらの指示に従って、次のインターチェンジで一般道に降りた
ジャスティは一般道に降りるとすぐそばの位置に安全が確保された場所に車を停車させた
ここで交通違反切符を切るのだ。ジャスティは安全を確認しながら追跡していた車に向かった

「中央パトロールだ。免許証と自動車登録証を」

運転手は20代の若者だ。車そのものも高級車であることから金持ちの可能性が高い
免許証と車の登録書を確認するのは通常の手順である。盗難車であるかを確認するためである。
携帯情報端末で免許証と車のデータを確認した。盗難車ではなかった
だがこの運転手はスピード違反の常習者だ。過去に7回も違反を繰り返している
問題が1つだけあった。過去7回の交通違反はすべて不起訴処分になっていた
理由は簡単だ。家族に時空管理局員がいたのだ。今は退役しているが。
家族が交通違反のもみ消しを行っていた。こういう事例は珍しいことではない
今はあらゆる事案が再捜査されている。もみ消した案件もすべて掘り返しているのだ

「スピード違反だ。50㎞も違反ならわかっているな」

「俺はすぐに釈放される」

男はまだ権力があると思っているようだ。もうすでにその道はないのだが
車を運転していた人物の名前はデレク・パーツス。27歳。両親ともに時空管理局員
以前は地上本部に属していた。両親とも階級は1等陸佐。
しかし情報を確認すると今は次元世界連合や時空管理局犯罪捜査局の捜査を受けていた
捜査を受けている理由は事件のもみ消しを行った容疑だ
もう少しシンプルに言うと息子のスピード違反をもみ消した
だから免許取り消しになっていないのだ。本来ならもう取り消し処分になっている

「SA32から西分署。こちらの現在位置にパトカーをよこしてくれ」

『すでに急行中。到着まで数分以内』

ジャスティは手錠をするとSUVの後部座席に乗せた
その間に暴走に使っていた車を調べることにした。車内に何か危険物がないか調べるには認められている
すると車内の香りですぐに察しがついた

「マリファナだな」

マリファナのにおいがかなり充満していた。
そこで吸い残りがないか調べるタバコ状になっている巻紙を見つけた
捜査キッドを取りに戻り麻薬検査キッドで確認した。見事に反応が出た

「SA32から西分署。暴走車両の車内からマリファナを確認。現行犯逮捕する」

『こちら西分署。了解した。マリファナ所持での逮捕ということで間違いないか?』

内容その通りというと無線交信を終えた
さらに車内を調べた。後部トランクを開ける。そこに何かあるかもしれない
車内でマリファナを使うような人物だ。ほかにも隠し事をしているかもしれない

「何が出るか」

後部トランクのロックを解除。中を確認した
後部トランクにはかなり量の草が入っていた。麻薬検査キッドで確認するとマリファナと合致した
量は30Kg近い量になるだろう。よくもこれだけため込んだものだ
どこかで密造しているところがあるのだろう。それについても調べなければならない
これだけのマリファナをどうするつもりだったのか

「末端価格でかなりの金額になるだろうな。どこで密売するつもりだったのか調べる必要もある」

麻薬密輸ルートを調べないとただのモグラたたきにしかならない
検挙するならすべてを摘発するしかない。市内で密売するつもりなのだろう

「麻薬密売で立件するか」

クラナガン市法では麻薬類所持罪は懲役5年と定められている
今回ばかりは逃げることはできない。確実に刑務所に収監できるだろう
司法取引をすれば少しは刑罰は減るかもしれないが、よほどの良い情報でなければ取引はあり得ない
それに司法取引を持ち掛けられても犯罪組織の情報をネタにして取引をすれば危険な立場になる
安全は完ぺきに確保することはできない。だからこそ黙秘権を行使する可能性は極めて高い
何かを喋ればすぐに犯罪組織からヒットマンが送られてくることは容易に想像できる

「どこで密造しているのか調べるのは大変だが。この件は西分署の麻薬捜査課に任せるか」

麻薬捜査のエキスパートに任した方が良い。彼らもいろいろと情報を持っている
密売ルートを全て調べるとなるならかなりの時間が必要だ。専門職に任せる方が良好だ
こちらは地下雨水貯水トンネルから遺体を確保したのだ。殺人かどうかによって今後の対応は異なる
それまでは彼らに任した方が良い。

『西分署からSA32。西分署麻薬捜査課の刑事が急行中』

それまでは監視体制を強化するようにと指示が出てきた
ジャスティは麻薬捜査課の刑事が来るまでにある程度の鑑識を行うことにした
他にも何かを隠しているかもしれないからだ。何か些細なことでもトラブルを見つければ再逮捕できる
三振法で仮釈放なしの終身刑か死刑が待っている。
時空管理局犯罪捜査局もデレク・パーツスの両親が行った事件のもみ消しに関して捜査をしている
デレク・パーツスの両親には重罪行為を行った記録があったからだ。それもかなりの事案について
幼い子供を戦場に投入したということだ。今は時空管理局犯罪捜査局が捜査をしている
10人以上の未成年者をリンカーコアがあるとして鍛えて戦場に投入
全員が無事に帰還したことはなく数名は死亡した。それも切り捨てた行為だ
仲間を裏切る最悪の行為をしたのだ。子供は幼い時は学校に通うなどするべきだ。
何も知らないところで戦場に投入するなど許されることではない
それはそれで重罪である。事件捜査をしないで圧力をかけることで事実を闇に葬った
時空管理局でもかなりの件数にもなる事件のもみ消し、
そういった行為に関与した現役局員や大量リストラされた退役局員にも捜査のメスが入っている
数があまりにも膨大であるため時間はかかることはわかっている
だが見逃すわけにはいかない。クリーンな時空管理局を多くの人々の見せるためにも
時空管理局を『クリーン』な組織に変えるために数多くの事案に対して再捜査をしている
特に内部監査は重要だ。汚職などの行為は許されない。おまけに幼い子供を戦場に投入する行為は許されない
今は次元世界連合が全加盟国で締結した子どもの権利条約によって未成年者は戦闘部隊から離している
今後の彼らの道は子供が自らの意思で将来を決定できるようにサポートするために各次元世界国が動いている
そこにパトカーが2台到着した。ジャスティは現場確保の作業を任せる
SUVの後部座席に乗っているデレク・パーツスに事情を聴くことにした
すでにマリファナ所持で現行犯逮捕できている。あとは後部トランクに積み込まれていた大量のマリファナだ
個人で使う場合はある程度は情状酌量と判断されて執行猶予になることが多い
だが密売目的で所持している場合は重罪として裁かれる
情状酌量が得られるケースはかなり少ない

「どこであれだけのマリファナを入手した?」

「・・・・・・・・・・・・」

デレクはジャスティの質問にだんまりだ。喋ったら刑務所で殺されるかもしれない
沈黙の掟があるのだから。犯罪組織を裏切ったらどうなるか

「ここでお前は運命の分かれ道だ。喋れば協力の意思があったと検事に話す。話さないなら少しは刑務所暮らしだ」

そこまで追求するがだんまりだ。証言することは断固避けたいようだ
証言すれば刑務所で殺されることを分かっているのだろう。
仮に生き抜いても出所後にヒットマンが差し向けられる
どちらにしても証言したら殺される運命は決まっている
だからこそ何も証言をするつもりはないのだろう。何か喋ったらすべては終わり
家族も巻き込んで関係者全員が殺される運命に近いことは事実だ

「証言するつもりはないか。良いだろう。刑務所で長い刑期を過ごしてくるんだな」

ジャスティはデレクを後部座席から降車させてパトカーに移動させた
パトカーの後部座席に乗せて、西分署の移送を依頼した。こちらは現場の鑑識を行うためである
大量のマリファナ。軽く見ただけでも10Kgはあるだろう
誰がどう見ても密売目的の所持であることは明らかである
重罪行為に該当する。密売目的となると麻薬所持と密売の2つの容疑で裁かれるからだ
最低でも5年。長い場合は10年の刑務所暮らしが待っている。
あるいはさらに1つを積み重ねると三振法で仮釈放なしの終身刑か死刑になる
マリファナの密売は増加傾向にある。大掛かりの機械がなくても育てることによって生産できるからだ
ただし生育するには大量の電力が必要になる。そういったことはクラナガン捜査局はお見通しだ
電力の大量使用しているところは常に監視している。クラナガン市政府と一緒に連携しているのだ
もちろん連邦政府機関ともである。電力の大量使用者リストがある
マリファナを大急ぎで育てるにはかなりの電力消費が必要になる
栽培では24時間常に照明をつける必要が求められるからだ
パトカーの後部座席に乗せても尋問を行った

「どこで栽培している?」

ジャスティは市内の電力大量使用量や車の走行ルートからある程度は絞り込める
犯罪組織は栽培場所からすぐにすべてを回収して証拠隠滅をすることはわかっている
麻薬密造ルートを潰されるわけにはいかないのだから当然の判断だ
だからこそこの男から証言を引き出さなければならない。すべての真実を見つけるために

「お前には2つの道しかないんだぞ。司法取引して少しは刑が軽くなるか。それとも一生組織に狙われるか」

どっちが良いと選択をさせることにした。どちらを選んでもいつかは組織に殺される可能性は高い
司法取引でどこか市外の、他の州に逃げた方がまだ生き残るチャンスはあるかもしれない
ただし時空管理局犯罪捜査局がこの男が犯した様々なトラブルのもみ消しをしていることは捜査中だ
それは大きな獲物を釣るのに餌として利用する価値は十分ある
時空管理局犯罪捜査局を説得するだけのことは難しいことではない。
だからこそここで究極の選択を迫った。選択と言っても命の保証が確実ということはない
チャンスというのはどこかにある。すべてを防ぐことは難しい

「俺は何も証言することはない。刑務所にさっさと送れ」

よほどの覚悟があるようだ。これでは証言を期待するのは難しい
刑務所でじっくりと過ごしてもらうしか道はないようだ

「刑務所でじっくりと罪の重さを考えて後悔するんだな」

犯罪のもみ消しは重罪扱いだ。仮に本人が依頼したわけではなくてももみ消しは重罪だ
もみ消しのために動いた人間などの関係者も処罰されることは決まっている
司法取引などは対象外とされているが、それには手順と保護するだけの価値がある証人だという評価が必要になる

「こいつを西分署に。麻薬捜査課にマリファナを大量所持とも伝えておいてくれ」

ジャスティの指示にパトロール捜査官はわかりましたと返事をした
あとは車をレッカーで運ぶだけだ。他にも何か隠しているかもしれない
それを詳細に調べ上げる必要があるからだ。今の時点でできることを行うことにした
車内に何かほかに違法な物がないかどうかを詳細に調べていった
マリファナ以外にも何か隠しているのではないと疑っている。
後部トランクにマリファナがあったということは他にも何かを隠している可能性が高いからだ

「何があるか」

彼はラテックスの手袋を着用して車内を調べていった。
ダッシュボードにリボルバーの拳銃が隠されていた
S&W M27が隠されていた。かなり奥が深いかもしれない
麻薬所持に銃刀法違反。おまけに犯罪のもみ消しの容疑がある
三振法を狙える可能性は十分にある。
三振法が適用されたら仮釈放なしの終身刑か死刑が待っている
もう逃げるところはどこにもない

「西分署のラボで線条痕を照合してみるか。まだ続きがあるかもしれないな」

このリボルバーを使って犯罪を犯していたらデータベースに登録されているはず
照合すればすぐにわかるだろう。もうこうなったら死刑になる可能性は極めて高い
証言をしないならこちらへの捜査協力は一切しないとして厳罰になる

「拳銃が出るとはな。相当危険人物かもしれないな」

ジャスティはそういうと銃を証拠として保管する箱に収納した
ラボで指紋や線条痕で過去に使用されていないかを早急に割り出しをしないと
仮にこの銃で誰かが殺されていたら証拠が確保されたとどこかの犯罪組織が知ると証拠を抹殺する可能性は高い
組織を維持するためには必要なことなのだ

「麻薬に拳銃か。前があるだろうな」

ジャスティはこの時点で押収したリボルバーに前歴があると想定していた
確信できた理由は銃から火薬の燃えカスのにおいを感じたからだ
新品の銃ならそんなことはないはず。燃えカスのにおいがあるということは発砲したことを示している

「線条痕の照合が楽しみだ」


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中央区南部区域サウスサーストン地区5番街付近 クラナガンシティバンク サーストン支店 現場指揮拠点

シエナは銀行強盗犯たちが立てこもっている支店の状況監視を行っていた
今も有効な解決方法は何もない。立てこもっている強盗犯が暴れだしたら大変である
慎重な対応が必要なのだが、その結果は有効な対応策がないことも意味している
強盗犯たちもいつまでも立てこもっているわけにはいかないことはわかっている
最悪の場合、自爆をするかもしれない。本当に面倒なことになっている
すでにマスコミも集まってきている。彼らも情報を集めて視聴率を稼ごうとしている

『クラナガンシティバンクの支店での立てこもり事案ですが、現在も膠着状態が続いています』

『立てこもり犯は元時空管理局員であるとの情報も入っていますが詳細はまだ不明です』

マスコミは本当に好き勝手に報道してくれる。こちらの苦労など知らない
彼らが好き勝手にしてくれるとこちらの動きが漏れることは十分にあり得る話だ
だから早くけりをつけたいのだが。今のこの状況ではまるで手を出すことは難しい

「何か有効な攻略法が必要ね」

相手は魔導師だ。こちらの動きはわかっているはず
あちらも下手に行動することができない状況にあることはシエナはわかっていた
お互い動きが取れないことは十分に理解していた。今はこの辺りは立ち入り制限をかけている
マスコミに情報漏れが出ることをしないための対策だ
彼らに何もかも報道すると次の一手を打つことができない
それはそれでまずい。そうなる前に何とかしたいが現状は膠着状態である

『中央本部からSA24。SWATの配置は完了。ただし銀行の窓は防弾仕様となっている』

それはどの銀行の支店でも同じだ。銀行はセキュリティのために防弾仕様にするのは当たり前だ
今はAMF装置も設置されている。魔法行使も通常ならできない。
しかし、この店舗を襲撃した強盗犯は装置を切っている。つまり魔法を使うことはできる状態にある
シエナはSWATに無線連絡を入れた

「狙撃銃は何で狙っている?」

『バレットM82で狙っている。しかし防弾ガラスとなると厳しいが』

対物ライフルであっても簡単に防弾ガラスを1発で突破することはできない
防弾仕様のガラスを突破するにはかなりの弾を撃ち込むことが求められる

「引き続き照準を外さないでスタンバイせよ。こちらが何らかの合図を出すまで待機」

『了解した』

今は警戒監視を選択するしか道がない。こちらからの攻撃オプションはいまだに限定されている
どのような道を選択するべきなのかが重要な課題である

「かなり困ったわね。このまま黙っているわけにはいかないし」

そう、いつまでも膠着状態が継続することは好ましくない
何とかして対応する最良の手法を早急に見つけることが重要な課題である

『中央本部からSA24。現状は膠着状態が継続中か?』

「内容その通り。今はどのように身柄確保を行うか計画中」

計画中といっても今のところ何も優良な方法はない
時間が経過すればするほど銀行内にいる人たちは追い詰められていく
ストレスがかかりすぎると何を仕掛けてくるか想像もつかない
計画性がないこの案件は改善に進む事はない。銀行強盗犯もこのままでは殺される可能性を危惧している
状況は完全に身動きが取れないことから、両者ともどうにもならない
立てこもり犯が自爆するようなことをしないことは死ぬつもりはないのかもしれない
あくまでも推測の段階であるが

「銀行支店の建物設計図を見て何かすきを生み出せないか確認するしかないわね」

シエナはすぐに建物の設計図のデータベースにアクセス。何か抜け穴がないか検討した
この銀行の支店は5階建て。おまけに屋上から侵入されないようにするためふさがれている
エアコンの機材があるだけだ。人が抜けるにはあまりに小さすぎる。
しかし催眠ガスを流すことはできる。ただそれにも問題がある
犯人たちがその状況に気づいたらどんな行動をするか想像したくない
大暴れをして人質が殺されるかもしれない。証拠もすべて消されてしまえば事件捜査はどん詰まりになる
自爆行為に走る前に事件解決につながる大きな一手が欲しいところなのだが、
現実にはそんなものが簡単には見つかることはほとんどない
だがそんな小さなチャンスでも良いので今はそれに賭けるしかない

「マスコミは集まってきているけど、今はベルカ州のクーデター騒動に注目が行っているから」

彼らがこちらの状況を確実に報道するような状況になる前に片づけたい
ベルカ州のクーデターのマスコミ報道は多くのマスコミが扱っている
この銀行強盗についての報道はあまりないが、いつまでそれが持つかは何度も言うがわからない

『セントラル分署からSA24。銀行立てこもり案件は早急に対応を求める』

「現在は膠着状態が継続中。即時解消は難しいと思われます」

『それでも何とかして対応するように』

相変わらずのことだ。上はさっさと対応して事件解決を望んでいる
今はどうしようもないのだ。こちらが何かアクションを起こせばどうなるか
想像もしたくない結果になることは容易に想像できる

「苦労するわね。上はこっちのことなんて気にしてないからなおさらね」

シエナはため息をついた。
問題解決のためには究極の一手が何としても確保しなければならない
彼女は建物の図面を見ながら引き続き、戦略になりそうな方法を考えていた。
その時ある場所を見つけた。銀行の隣の建物だ。そこは今は高層ビルの建設現場だ
今は基礎を打つために掘り下げられている。そこを利用できないか確認した
銀行とビル建設現場は壁一枚だけだ。問題は銀行の建物は頑丈であることだ
銀行の建物が外部から簡単に侵入できるようなものなら、それは安全管理ができていない
かなりの厚さのコンクリートで隔てられている。だがそこしかチャンスはない

「陽動作戦が必要になりそうね。部隊を集めるしかないわ」

正面に人員を過剰に配置して少しは視線をそちらに向かわせることをとるべきかと彼女は判断した

「SA24から中央本部。パトカーを10台手配して。それとパトロール捜査官もセットで」

注目させるにはそれが最も有効策として作れる。

『すでに現場に向かって5台のパトカーが急行中。さらに手配する』

「急いで。彼らにこちらの行動が知られたくない」

『了解した』

あとは銀行支店の隣の場所の壁を破るだけだ。
簡単なことではないが、それを行うしか道はない

「時間稼ぎをしないと。強盗犯も状況はわかっているはず」

『セントラル分署からSA24。銀行支店の電源を切るというのはどうですか?』

電力供給を切れば何らかの動きを見せることはあるだろう。
犯人がパニックを起こさなければ良いが。混乱を起こせば人質の命が危険になる
シエナはあらゆる方策を練っていた。何か有効な対策があれば最高に良いのだが

『ピーピーピー』

「シエナです。シエル首席、あなたまで急いでトラブルを解決しろと?」

『人質の安全が最優先よ。強引に事件解決を望んでいるわけではないから心配しないで』

シエルはシエナの判断の認めるものであった。バックアップが確保されていることの証だ

「シエル首席。何か良い時間稼ぎの方法はありますか?こちらは手の打ちようがない状況なのですが」

『大きなアクションは今は起こすべきではない。人質の生命に被害を出すわけにはいかない』

シエル首席もそのあたりは十分把握しているようだ。
10人の人質に、犯人サイドには4人の退役時空管理局員。AMF装置は銀行の支店内で展開されている
そのため魔導師として活動するのは難しいことはわかっている。だからこの膠着状態が継続している
もし魔法が使える状態なら立てこもり犯はとっくに逃げだしている。
それができないからこちらにも多少はチャンスはある。

『セントラル分署からSA24。応援のパトカーは間もなく到着する。指揮権はそちらに移管する』

つまり責任をすべて押し付けるということだが、それは覚悟できている
今は急激な事態悪化を避けることに集中しないといけない


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南区北部区域ハーディー地区5番街5丁目10番地 地区パトロール事務所

アルシオーネはワンワールドバンク支店での立てこもりに関して時間稼ぎをしていた
シエナと同じような案件である。こちらも退役時空管理局員。
年齢は60歳。ユラザーク・ギャスシーということは把握している
こちらの方がより状況が深刻なのは爆弾を身にまとっていることがわかっていることだ
自爆する可能性が極めて高い。もうどうにでもなれと思っている相手こそ困る
いつ起爆させるかわからない。強行突入はできない。
ユラザーク・ギャスシーを刺激しないように銀行の周囲は封鎖
アルシオーネは地区パトロール事務所で交渉していた。穏やかに解決できる道を見つけるためである
クリー・ヴランド刑事は立てこもりが起きている銀行支店の近くで情報収集を行っている
シエナと同じでどんな小さな希望の光で良いのだ。そのチャンスを手にすることができれば対応は行いやすい

「SA33から中央本部。狙撃許可を」

それは最悪のプランが必要になったときに素早く対応するために事前に許可を取っておく
急いでいるときに時間的余裕があるとは思えない。狙撃は最後の手段。
そうならないことを願いたいが、ラストチャンスになるかもしれない
人質救出のためにはこちらも驚くような手法が求められる

『狙撃許可は行うがそれは最後の手段とせよ』

アルシオーネはそんなことはわかっている。できれば生かして逮捕したい
何か証言が得られるかもしれないからだ。時空管理局の闇について
今はあらゆる法執行機関が時空管理局の闇について調べている
根深すぎることと件数が多すぎるので調べるのにかなりの時間が必要なのだ
それでも見逃すわけにはいかない。ミッドチルダ連邦国内の法執行機関だけでなく、
他の次元世界国の法執行機関も必死になって知らべている
ワンワールドグループ企業と時空管理局の関係についても詳細に調べている
ワンワールドグループ企業は時空管理局との取引が全体9割近くあった
実質的には時空管理局はワンワールドグループ企業のみしか取引をしていなかった
今は競争入札によってさまざまな企業が時空管理局に物資納入している
競争入札によって大幅なコスト削減につながっている
だからこそワンワールドグループ企業は破産したのだが

「退役時空管理局員は企業年金を受け取れなくなってさぞかし困っているわね」

だからこそどんな方法を使ってでもお金を稼ごうとしているのだが
違法行為であってもだ。人間は追い詰められたらどんなことでもしてしまう
たとえ人殺しや自殺でもだ。だからこそこういう後先考えていない犯罪者の対応は苦労する

『南分署からSA33。現在も状況は膠着中か?』

「内容その通り。現在も状況は膠着中であり変化なし」

『通信遮断を行って、立てこもり現場の銀行支店を隔離するか?』

通信遮断をすることで犯人が好き勝手にマスコミにアクセスすることを遮断する
こちらの想定外の行動をとられることを抑えるためには必要かもしれないが

「今の状況下でアクションを起こしたら混乱する可能性があるので待機を継続する」

今は強引な突入することは避けるべきだ。仮にも犯人は魔導師だ。おまけに爆弾を所持している
自爆という最悪の結果は避けなければならない。
マスコミはベルカ州のことに注目が行っているがいつこちらに向かうかはわからない
できるだけ時間を稼ぐことで交渉して血が出るようなことも避けたい
人質の安全第一はもちろんだが。立てこもり犯の身柄を確保するため努力している

『クラナガン市政府上院議会は退役時空管理局員に対する再就職先の確保のために関連情報を提供する部局設立を提案』

クラナガン市上院議会の最大政党はクラナガン捜査局を退役した局員が創設した平和党という政党だ
上院議会では議席200の中で120議席を平和党は確保している
下院議会では議席600の中で360議席を確保している。上下院とも過半数を獲得している。
さらにクラナガン市長であるサンディ・マウントは政党には属していないが、平和党とは連携している

『マウント市長は退役時空管理局員に対する再就職先の紹介のために新たな部局設立を議会に申請』

これは以前から問題になっていることだ。リストラされた退役時空管理局員は再就職に苦労している。
市内の求人率は低いわけではない。むしろ人手不足で多くの業界で求人募集をしている
だが退役時空管理局員というだけで差別的な扱いを受けている
情報漏れが出るのではないかと警戒しているのだ。多くの企業にも企業機密というのは存在する
それらを勝手に見られたりされた経営に大きなダメージが与えられてしまう
それだけに退役時空管理局員の雇用に積極的ではない。どの企業もリスクは背負いたくないのだ
当然の考えではあるが。

『この退役時空管理局員の民間企業への再雇用を紹介する部署の設置に関して市議会は荒れています』

『一部の議員からは過去に違法行為に関与した退役時空管理局員がいるリスクを排除するのは難しいのではと提言』

そんなことは誰もがわかっている。だが何も手を打たなければ暴れられてトラブルのもとになるだけだ
そういったリスク排除は当然行うべきことである。

「まったく困った案件ね。退役時空管理局員の対応については」

次元世界連合全加盟国では共通の悩みを持っている
あまりにも数が多すぎるので対応するのに時間が必要なのだ
退役時空管理局員の多くは犯罪に関与していない。
一部の限られた権限を持った幹部が指揮権で命令する
部下は自らが犯罪に関与していないと思っているが上の指示通りに動いた結果は最悪になる
幹部は自分に責任がこないようにしている。汚い仕事は部下に行わせて甘い蜜だけを得る
長期間にわたって汚職に関わっているならやり方は心得ているだろう
実際に動いた部下はトカゲのしっぽだ。すべて責任を押し付けられて刑務所行きだ
幹部は金を受け取り時空管理局を退職。さっさと高飛びする
その幹部も時空管理局犯罪捜査局が追跡捜査を行っている
どんな小さな罪であっても見逃すわけにはいかないのだ

「退役時空管理局員の再就職はかなり大変でしょうね。身元がクリーンであることが確認されないとブルーカラーの仕事」

ブルーカラーの仕事はつまり肉体労働が中心ということだ
ホワイトカラーである事務系の仕事にいきなりつくことはないだろう
ホワイトカラーの業務になると企業機密を扱うことが少なからず存在する
そのためそんなことをいきなり引き受けるわけにはいかないのだ。
ミッドチルダだけでなく次元世界連合全加盟国の政府は退役時空管理局員の身柄の扱い方について、
次元世界連合でも調査を行っている。安全保障理事会の時空管理局監視委員会が常に監視している
少しでも時空管理局が怪しい動きをすればすぐにその不審な活動に中止命令を出す
活動内容を検証して問題ないことが確認されるまでは動くことはできない
退役時空管理局員の中には過去の栄光を忘れることができなくて、ブルーカラーの仕事をすることに抵抗感がある
そういう事例は数多く存在することは事実なのだ。
現状ではプライドを壊さないといけないぐらいに追い詰められている
次元世界連合全加盟国政府は一時的な生活保護などをしているが、長期にわたることは想定していない
最長で半年をめどに生活保護を打ち切ることで次元世界連合の総会で一致した意見だ
いつまでも生活保護を受けさせることは税金の無駄遣いだ。
できるだけ早期に再就職先を見つけてもらう必要がある

『中央本部からSA33。状況に変化があればすぐに報告を』

アルシオーネは了解というと監視体制を継続することにした


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中央パトロール本部庁舎 8階捜査部1係オフィススペース

フィリーは小児性愛者と思われるログラス・バーボックの追跡を行っていた
すでに顔認証システムを使っての照合作業は進められている。一致するかどうかは市内にいるかいないかの違いだ
市内にいれば街灯観測システムの監視カメラ映像に記録されているはず
膨大な映像データを解析するのは簡単ではないが、
クラナガン捜査局が運用するスーパーコンピュータを使うことで少し早くできる
少しでもヒットがあればいつでも身柄確保ができるように指名手配もかけている

「市外に逃げている可能性はかなり高いわね」

フィリーは少し希望的観測で判断するのは難しいと考えていた
状況証拠としては良いところは何もない。バックアップのプランを練りたいところだが簡単にはいかない
仮に市外に逃げているなら、FBIや州警察に追跡を任せるしかない。
もちろんこちらでもいろいろと捜査に介入することはできる。連携捜査は日常的に行われているからだ
クラナガン捜査局と近隣州の法執行機関では常に情報交換を行っている

『ピーピーピー』

フィリーの携帯電話に着信が入ってきた。
発信者はクラナガン市の北隣のマリネット州警察連絡調整部門からだ

「中央パトロール本部捜査部のフィリー・アクシオム捜査官よ」

『そちらが手配していたログラス・バーボックの身柄をサウスマリネット市で拘束しました』

グッドなニュースだ。ようやく見つけることができた
フィリーはどのような状況で身柄確保されたのかなどの詳細情報を求めた
ログラス・バーボックは時速100kmで走行していた。
州警察のパトカーが不審に思い、職務質問をしたところ大当たりを引いたとのことだ
さらに車の後部トランクには複数のボストンバックがあり、かばんにはかなりの量の紙幣があった
総額で2億ミッドほど。どうやってそれだけの資金を手に入れたのかぜひとも知りたい
フィリーは身柄を中央本部に移送してもらえないか交渉した
あちらはすぐに手配してくれて、逃走車に関しては証拠車両運搬車で移送すると

「証拠の欠損がないようにお願いするわ」

その言葉にマリネット州警察の捜査官はもちろんですというと通話を終えた
証拠が汚染されたら裁判では証拠能力がないと判断される可能性が高い
それだけに事件事故の証拠の保管には厳しいルールが定められている
ミッドチルダ連邦では解決した事件であっても、解決後も100年間の保管が義務付けられている
もし再捜査になったときに証拠がなくては意味がないからだ
クラナガン捜査局では時空管理局からクラナガン市内のすべての事件事故の証拠を引き継いでいる
クラナガン市内の様々な事件の証拠は中央本部と各分署の近くで証拠保管庁舎を設置して保管している
また新暦よりも古い事案に関する数多くの証拠物もクラナガン捜査局が保管している。
証拠が処分される時は事案について完全に終結したことが認められて裁判所が処分を承認したことが必要である
裁判所が承認しなければ証拠を処分することが承認されることはあり得ない。
証拠の保管に必要な建物や設備に必要な予算はミッドチルダ連邦では連邦政府が予算を提供している
連邦法では事件事故の証拠は事案が解決してから100年間は保管することを義務付けている
もしかしたら冤罪の可能性があるからだ。
だからこそ事件解決した場合でも100年間の証拠保管が義務付けられている

「見つかったことは幸運ね」

それにしても市外に逃げていたとは、どうやって包囲網を突破したのか調べるしかない
こちらの包囲網を突破してマリネット州にどうやって逃げることができたのか
同じようなことを再び起こさせるわけにはいかないので、
逃走するときの抜け道があるならそれを潰さなければならない

「どうやって市外に逃げたのか調べないと。自白するような奴じゃないことは決まっているし」

フィリーの考えは事実だ。
逃走ルートを確保しているということはコネがあるということを示している
車で逃げたならどうやって逃走することができたのかを調べ上げなければならない
第2第3の同じような逃走ルートとして利用されることを排除するためには当然のことだ

「とにかくサウスマリネット市に向かうすべての道路に設置されている通行車両監視システムを調べましょう」

時間がかなりかかることはわかっているが、やらないわけにはいかない
抜け道があるならそれにも包囲網を展開しなけれいけないのだ
犯罪者たちにそこを使えば簡単に逃走できるというメッセージを見せないことが重要である
彼らもしないが逃げ出すのにそのルートを使って逃走することが増えてくる
いくら市内の警戒態勢を高めても逃走ルートがあり、簡単に逃走できることがわかると困る

「絞り込んでいくしかないわね」


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西区東部区域西区東部区域クルック地区1番街2丁目 安全保障理事会フロア

そこでは聖王教会に対する監査を行うべきか再び議論をしていた。クーデター騒動が大きな議論の中心だ
今月の安全保障理事会議長はミッドチルダ連邦だ

「聖王教会に対する活動停止命令を発令することが必要です」

ミッドチルダ連邦政府の次元世界連合大使は、
これ以上聖王教会が暴走するようなことを阻止することを提案した
それは誰もがわかっている。国際組織として次元世界連合にオブザーバーとして加盟しているのだ
次元世界連合には指揮権が存在する。安全保障理事会が承認すれば強制査察を行うことができる
ミッドチルダ連邦大使の発言に他の大使も同意した。唯一聖王教会のオブザーバー大使だけは少し時間をと求めた
今はそんな時間を与えることはダメである。証拠隠滅される前に強制捜査に踏み切ることを審議に入った
結果は全会一致で強制捜査の承諾だ。これで大義名分はできた
国際政治で形だけでも強制捜査に必要な理由がなければ大きな問題になる
全会一致で聖王教会に対する強制捜査が可決された。ミッドチルダ連邦政府はベルカ州にある聖王教会本部
他次元世界国政府は各国にある聖王教会関係施設への強制捜査を行う
一斉強制捜査でなければ意味がない。聖王教会に時間的余裕を持たせてしまうと証拠が消される可能性は高い

「我々聖王教会は次元世界連合の調査に全面的に協力しますので強制捜査は」

オブザーバーとして参加している聖王教会の外交官は時間的余裕を稼ごうとしている
だがそんなものを認めるわけがあるはずない。速やかに実行しなければどんなことをしてくるかわからない

「議案はすでに可決。聖王教会本部及び次元世界連合加盟国の聖王教会関係施設への強制捜査を行います」

ミッドチルダ連邦大使はそう言うと理事会は終了するとともにすぐに強制捜査に踏み切ることが公表された
次元世界連合安全保障理事会が承認したのだから、各次元世界国の裁判所の強制捜査令状は必要ない
安全保障理事会の決議は次元世界連合総会の可決と同じで強制力がある
強制捜査が行われることになるとかなり忙しくなってくる
この決定がされてすぐにマスコミは発表を行った。ここからがまさに時間との戦いだ
1分1秒の隙を与えることなく抑えなければならない。重要な証拠は特に

「ではこれにて安全保障理事会を休会とする」

ミッドチルダ連邦大使がそう言うと理事会フロアから理事国大使が退室していった
ここからがまさに正念場だ。聖王教会の証拠をどれだけ差し押さえすることができるか
それによって大きく情勢は変わってくる。何度も言うが証拠を抹消される前に確保しなければ意味がない


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中央パトロール本部庁舎 9階統合管理官執務室

エリはマスコミの報道を見ていた

『次元世界連合安全保障理事会で加盟国ににある聖王教会の施設に対して強制捜査が発令』

『今後、新たな火種になる可能性は極めて高いと思われます』

『聖王教会本部は教会が犯罪行為に関与していたことは認める声明は出しましたが強制捜査は控えてほしいと』

誰が見ても時間稼ぎにしか見えない。彼らも必死なのだ
過去の汚点があったことは事実だからこそ、できるだけ被害を最小限にしたい
聖王教会は聖王教会債を発行して運用することで比較的簡単に資金運用ができていた
それが今では全くできない状況にある。聖王共催の債券取引価格は大幅に下落
紙くず同然の物でしかない。あまりの危険さにヘッジファンドも手を出してこない
時空管理局が発行している時空管理局債は次元世界連合が大幅に格安で購入
購入費用は次元世界連合全加盟国の地上基地の不動産売却で対応している

『聖王教会も時空管理局と同じで多額の負債を抱えています』

『返済の見込みはかなり厳しいことから聖王教会債の取引価格は暴落。財政再建のために大きな動きが想定されます』

「まったく、返せる見込みがない債券を発行して金融市場にばらまき続けた結果がこれって最悪ね」

エリは1冊の報告書を見ていた。
聖王教会の財務状況について詳細にまとめられているものだ
状況は時間が進めば進むほど悪くなるばかり。誰が最後の貧乏くじを引くのか
今は誰なのかは想像もつかない状況にある

『聖王教会債の発行残高は1京ミッドですが、取引価格は暴落してすでに紙くず同然です』

エリが見ている報告書の今後の聖王教会債の扱いについてヘッジファンドですら手を出さない
彼らでもリスクが高すぎるものなので扱わないのだ。あまりに危険すぎる
だからこそ時空管理局債も聖王教会債も全く取引価格がつかないのだ

「あれに手を出した人間はすべてを失ったも同然ね」

2つの債券で年金のために積み立てていた資金の運用を任せていた関係者の顔色は最悪だろう
だが逆に一部関係者は好機と見た連中も存在する。空売りを仕掛けて大儲けをしたトレーダーだ
高値の時に2つの債券の空売りをした者は大きな利益を得ている
損をする者がいれば得をする者がいる。世の中見極める段階によって大きく変わってくる

『ミーミルパワー社から連絡があり、クラナガン市内に設置されている魔力精製炉発電所にAMF反応を感知』

それに伴って魔力精製炉の出力が徐々に低下しているとのことだ
魔力精製炉には低濃縮魔石燃料があり、それらが共鳴することで熱を発する
それにより発生した蒸気により蒸気タービンが回転して発電される
AMF装置が設置されて機能すると炉の過熱反応量が大幅に低下する
それにより徐々に発電出力も低下するのだ。発電出力が低下すると別の発電所が運転を始める
またクラナガン市の近隣州とも連携をとることで安定的な電力供給ができるのだ
エリは市内にある1つの魔力精製炉発電所でAMF装置によって発電出力が低下していることに危機感を持った
今後、どうやって展開してくるかがわからないことが最大の懸念材料だ
今はクラナガン市内で何が起きるかわからない。
クラナガン市内でもクーデター騒動が起きるのではないかと危惧している
それだけに小さなトラブルでも見逃すことは一切できない状況にある

『ピーピーピー』

エリの携帯電話に着信が入ってきた
港湾本部長であるリヴィナからの連絡だった

「リヴィナ。エリよ。何かトラブルかしら?」

『今のところはクラナガン市内は穏やかだけど、ベルカ州は最悪ね。クーデター騒動の影響がかなり出ているわ』

ベルカ州証券取引所ではほとんどの株の銘柄が売りに出されていた
ベルカ州商品取引所では石油や石炭だけでなく、穀物などの銘柄にかなりの買い注文が入っているとのことだ
ベルカ州はクラナガン市にとっては大切な穀物な農作物の供給元だ
そこが止められると州内で栽培されている農作物の先物取引価格が高騰することはわかっている
ベルカ州は自治区時代からクラナガン市や近隣州へ多くの農作物を供給していた
その供給ルートが止まったらベルカ州商品取引所での取引価格が高騰すれば大騒動になることはわかっている
ヘッジファンドはもちろんだが、多くの投資会社は激しく売買を行って稼ごうとする

「供給が止まる可能性は高いの?」

『今のところは問題はないはずだけど、いつどうなるかはわからないわ』

それは当然だ。金融市場の動きをコントロールするのは簡単なことではない
クラナガン証券取引所でもベルカ州を主な拠点としている企業の株式の取引が大幅に増加している
主に売り注文が主流な流れとなっている。聖王教会の傘下に入っていた企業の大部分は民営化
聖王教会の財政を維持するために参加企業の株式を売却してとにかく財政歳入を増やそうとした。
そのために教会傘下の企業の株をベルカ州証券取引所に上場している
それでも聖王教会の財政が大幅に改善したとは判断できていない。まだ聖王教会の財政は赤字になっている。
聖王教会債の償還のためには1度はデフォルトする必要があると多くの金融関係者は見ている

「今回のクーデター騒動で魔力爆弾が使われる可能性はあるの?」

魔力爆弾は原爆や水爆と違って放射性物質を生み出すことがないクリーンな大量破壊兵器と言われている
しかし国際条約で研究開発製造することは禁止されている。
もちろん原子爆弾や水素爆弾の開発研究製造も禁止されている
魔力爆弾は魔石の濃縮レベルによって爆発の規模が調整可能であり極めて危険なことになる
魔石を最大濃縮をした魔力爆弾を使用すると最悪の場合は惑星を破壊する威力がある
魔石の採掘や運搬。魔石の加工工場は国際組織の国際魔力エネルギー機関が監査をこなっている
魔石の採掘や加工工場には常に監査を行う職員が常駐している

『今のところはないわ。人工衛星で魔力波長は常に監視。その魔力波長の数値を見ても魔力爆弾はないはず』

今の段階ではと。だがいつどうなるかわからない。
常に警戒を怠るわけにはいかない。どういう展開になるか想像できないのだから

「とにかくクーデターを起こした連中の監視強化はお互い連携して情報把握を」

今は喧嘩しているような暇はない。
被害を最小限にするためには組織間抗争でもめることは許されないのだから
特に今は縄張り争いなどをしている余裕はない。必要ならどんな組織とも連携して対応する
人々を守るためには関係が悪い行政機関とも合同で対応しなければならない

『すでに港湾パトロール支援衛星で監視をしているわ』

港湾パトロール支援衛星は高度700㎞で周回している人工衛星だ
この人工衛星は700基も配備されている。どんな些細な動きも漏らさないように宇宙から地上を監視している
常にミッドチルダ連邦の魔導師だけでなく反政府組織やテロ組織といった危険なグループを監視している
以前はミッドチルダ連邦政府も共同で運用していた。今は彼らも独自の人工衛星を運用している
そのため港湾パトロールが単独で運用している。中央パトロールも独自に人工衛星を保有している
中央パトロールは中央パトロール低軌道監視衛星を50基。高度600kmを周回している
さらに中央パトロール支援衛星が700基ほど運用している。
これらの人工衛星により港湾パトロールに依頼をすることなく独自に情報収集を行える
クラナガン捜査局はあらゆる安全保障に関係する情報収集が必要である
クラナガン市近隣の州だけでなく他次元世界国から次元空間を航行する次元空間貨物船、
それを使ってクラナガン市内の港湾施設に入港する船舶もある。
あるいはクラナガン市があるウエストミッドチルダ大陸だけでなくイーストミッドチルダ大陸、
セントラルミッドチルダ大陸の港からくる貨物線を使って密輸をするような貨物船もあることは事実だ
そういった船舶の監視と警戒は常に必要である

「とにかく警戒監視を継続して。ミスは許されないから」

『それはこちらもよく理解している』

「ところでベルカ州の方はかなり危険ということで間違いないの?そっちなら通信傍受もしているから」

通信傍受をするには判事の許可が必要だ。
裁判所が認めていないのに通信傍受をすれば証拠能力はない

『連邦判事に通信傍受の令状を請求したわ。すぐに承認してくれたから港湾パトロール安全保障局が分析中』

ある程度情報整理ができたらすぐにそちらにも報告するからとリヴィナは答えた
中央パトロールのトップであるエリと港湾パトロールのトップであるリヴィナ、
2つの組織のトップであることから常に情報共有することが大切だ
些細なトラブルでも市内の治安に影響が出るからだ。港湾パトロールは港湾区域の警察業務を担当している
港を経由する形で重火器や麻薬のような違法な物が動くことは止めなければならない
鉄道を使ってウエストミッドチルダ大陸に持ち出すことはできる。
ただし貨物コンテナではすべてのコンテナの中身を調べることは難しい。
クラナガン市からウエストミッドチルダ大陸のあらゆるところに運ぶとなるとコンテナの数は膨大なコンテナになる
絞り込むことはかなり困難になるのが大きな欠点だ。つまり抜け道はあるということ。
本当ならすべての貨物を調べたいがそんなことをしていたら輸送に時間がかかる
物流の流れを遅らせたり止めることになるのでそんなことをするにはよほどの絞り込む材料が必要。

「何か市内の治安に影響が出るような情報があれば、どんなに些細な情報でもこちらにも提供して」

『ええ。もちろんよ。港湾パトロールと中央パトロールの連携は重要だから当然ね』

リヴィナは何か情報が入り次第すぐにそちらに回すわというと通信は終了した
クラナガン市内でも何が起きるかは想像もつかない
もしかしたらとんでもないような事態が起きるかもしれない
市内で退役時空管理局員が反乱を起こすといったような案件だ
それだけに警戒しなければならない

『クラナガン商品取引所でクラナガン原油先物価格で1バレル6000ミッドまで上昇。さらに上昇する可能性があります』

クラナガン原油とはクラナガン市本土の沖合で採掘される原油をクラナガン商品取引所で売買される価格だ
クラナガン沖油田では1日の最大採掘量は400万バレル。サウスクラナガン油田では300万バレルになる
ミッドチルダ連邦国内の原油価格の大きな指標となっている
ただしミッドチルダ連邦国内では数多くの原油・石炭などの数多くの鉱物資源が埋蔵されている
そのため、今は資源開発がかなりの件数になっている
1日にクラナガン商品取引所で売買されるクラナガン原油価格はかなりの金額になる
多くの投資銀行や投資ファンドなどの金融機関が頻繁に売買しているので1日の取引量はかなりの量である

「経済的な影響が出なければ良いけど」


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東区東部区域港湾パトロール本部基地 中央区域 港湾パトロール基地別館中央庁舎ラボ棟 1階検死ラボ

港湾パトロール基地別館中央庁舎には港湾パトロールの警察部門が配置されている
港湾パトロール本部庁舎が軍事部門ならこちらは警察部門に該当する
レックスは港湾本部基地の近くで発見された聖王教会騎士団のフラスーリ・ハザポールと、
退役時空管理局員のネラバ・クインスの検死の検死に立ち会っていた
検死を担当していたのはクレア・ゴールウェイだ
彼女は中央パトロール本部検死ラボのリエ・ミズノ検死官の教え子だ
検死能力は極めて有能である。

「クレア。どんな感じだ?」

レックスの質問にクレアはあまり良い状況ではないわねと答えた
検死の結果、胃からあるものを摘出することができたからだ
ネラバ・クインスの胃には銃弾と小さな小袋が複数があった。
銃弾はかなり珍しい銃弾であった。小袋の中身はすぐに察しがついていた

「5.7x28mmか。あまり流通していない弾だな。使用される銃はかなり限定されてくる」

「そうね。港湾パトロールでも特殊部隊しか使うことはないわね。小袋はおそらく麻薬ね」

クレアの言うとおりだ。港湾パトロールで使用されるアサルトライフルはH&KG36がメインだ
使用される弾は5.56x45mm弾だ。5.7x28mmで運用される銃を使うことはほとんどないと言ってもいい
何か大きなことを企んでいるのかもしれない。

「それで死因は?銃弾を受けたことによる失血死か?」

「それは血液検査をしてみないと判断できないわ。それと小さな小袋の中身は麻薬だから過剰摂取かもしれない」

胃から摘出したのは小さな粉が入った袋だ。
レックスは捜査キッドから麻薬検査キッドを取りに行った
袋から微量のサンプルをとると麻薬検査キッドに入れた。結果は大当たりだ

「ヘロインか。いくつある?」

胃の中にはまだいくつかの同じような袋が入っていた

「15個もあるわ。過剰摂取かもしれないから血液サンプルを調べさせておくから」

麻薬の運び屋をしていたのだろう。
金に困ったからリスクがあることはわかっているが麻薬の運び屋として動いていた可能性は高い
体の中に麻薬が入った小袋を隠すのはかなりリスクがある。
最悪の場合、体内で袋が破けると過剰摂取で死亡する
だがこれは犯罪組織にとっては都合がいい。
死んでしまうと証言をとることができないので組織を潰されるリスクがない
麻薬密売組織にとってはかなり好都合な運び方だ

「ヘロインの純度を調べたら末端価格がわかる。かなり荒稼ぎができていたかもしれないな」

運び屋が死んでしまった以上、どの犯罪組織に麻薬を持っていくつもりだったのかを割り出すのは無理だ
銀行などの金融機関の情報を使っての金の動きがなければ追跡するのはかなり難しい
元々犯罪組織に利用されるような人物となると組織に借金があることが想定される
借金を返済させる代わりに麻薬の運び屋をさせられていたとも考えられる

「ヘロインの成分で何か珍しい不純物があれば追跡することができるかもしれないが」

レックスはあまり望み薄であった。
摘出された小袋に入っているヘロインの不純物を調べるしか今は証拠はない

「血液検査はあらゆる項目で調べてくれ。どんな些細な情報でも貴重だからな」

クレアは了解したわと返答。レックスは3階の質量化学ラボに向かった
そこで小袋に入っているヘロインの不純物成分を分析してもらう。
麻薬のデータベースで照合すれば過去に同じ不純物で押収された物と一致すれば、
どういったルートを使ってクラナガン市内に入ってきたか絞り込むこむことはできるかもしれない
レックスは3階の質量化学ラボに到着すると分析官が忙しそうに動いていた
こちらも急ぐ案件なので優先順位を上げてもらうことにした
質量化学ラボの分析官はわかりましたと答えると分析装置にヘロインのサンプルをセットして分析をかけた
その結果、意外な成分が検出された。純度は90%のヘロインで不純物でケタミンが含まれていた
ケタミンもう麻酔薬として利用される。もちろん使用することは取り扱い許可を思った者でなければ違法になる
ヘロインとケタミンのミックスとなるとかなり強力な麻薬である
ブレンドとしてはかなり珍しいタイプだ。通常なら2種類の麻薬を混合する必要はない
コストがさらにかかるからである。2種類の麻薬を混合調合していることは少ない
だからこそ過去に押収された麻薬成分をデータベースで照合すれば類似するものがあるかもしれない
質量化学ラボの分析官はすぐに照合した。結果はあまりにも恐ろしいものがヒットした

「2年前にスタントン州で大量に押収されたものと不純物が一致しています」

押収したのは時空管理局地上本部スタントン州警察部隊で押収量は600Kgとなっていた
末端価格に換算するとかなりの金額になっていただろう
押収したものは一部はサンプルとして保管した後は焼却処分されていた
しかし不純物の成分がここまで一致しているということは、当時押収したのはすべてではないことを示している
麻薬成分が完全に同一なものを製造するのはかなり大変である。
というか、完全に不純物が同一の物を製造することはほぼ不可能である
ちなみに今の時空管理局が担当している管轄区域は次元空間に限定されている。
地上治安維持部隊は新たに組織された州警察や軍警察や市警察の担当。

「2年前に押収したのはすべてではないだろうな」

当時押収した600kgのヘロインよりも多くの摘発されなかった物があることは間違いない
スタントン州警察に連絡して、当時の捜査資料を確認するべきだ
どういった経緯で摘発されたのか捜査資料を詳細に確認しなければならない

「それにどうやってスタントン州からクラナガン市内に麻薬を運んだかを調べないとまずい」

スタントン州で当時どれだけの麻薬が押収されずにブラックマーケットで流れているのか
それを調べるのにはほぼ不可能であることはわかっている
それでも調べるしかないのでスタントン州で押収された時の捜査報告書を確認することにした
スタントン州警察に連絡して捜査記録を開示してもらうように手配をかけた
勝手に捜査記録を見るのは法的に問題が出る場合があるので事前に許可を得る必要がある

「時空管理局から移管された捜査報告書を見るしかないな」

当時の捜査記録を見ることで不正捜査があったのなら追求しなければならない
麻薬をすべて押収しないで一部を犯罪組織に引き渡すことで裏金を受け取っていた
そういうことが考えることができる。時空管理局員の多くはまじめに任務に就いていた
しかし一部の幹部は犯罪組織と関係を持つことで組織から金を受け取っていたことは珍しいことではない
そういった腐敗した幹部の多くはすでに時空管理局犯罪捜査局の捜査対象になっている
数があまりにも多すぎるので時間はかなり必要になる
時空管理局犯罪捜査局だけでなく、多くの法執行機関があらゆる容疑で捜査を行っている
必要に応じて時空管理局犯罪捜査局と連携している。時には共同捜査も行っている

「港湾犯罪捜査部の情報端末を使わせてもらうか」

港湾犯罪捜査部なら様々な機密情報もアクセスすることができる
中央本部捜査部でも同様な機密情報にアクセスすることができるためである
機密情報にアクセスするには専用の情報端末を使うというのが規則が定められている
もし認められていない情報端末で機密情報にアクセスすると処分対象者に該当する
機密情報の取り扱いには慎重な審査が必要になってくるのだ
少しでも問題を抱えているようならアクセス許可は認められない
例えば様々な捜査で犯罪者に対して便宜をするような行動があれば懲戒処分に該当する場合もある
組織というのはどこにでも『汚れた経歴』を隠している組織構成員は必ず存在する
そういった組織構成員の摘発は中央パトロールでは査察部が常に動向を監視している
不審な行動を見つけることができれば捜査を行い、
どういったことに関わっていたかを調べなければならない

「当時の時空管理局の捜査部門がすべて押収できていたかを確認しないとな」

レックスは2階にあるマルチメディアラボに向かった
麻薬押収に関する捜査記録を確認するためである
マルチメディアラボに向かう道中、彼の携帯電話に着信が入ってきた
発信者は港湾犯罪捜査部の捜査官をしているダン・レアリーから連絡をかけてきた

「ダン。まだ正式な結果は出ていないからな。それと遺体から麻薬が見つかった」

レックスは今わかっている情報をありのままに報告した。
麻薬の不純物の成分から1年前にスタントン州で押収されたものと合致したとも

『市外から麻薬を持ち込んだという事か?』

「嫌な考え方をすると、スタントン州で当時600kgもヘロインが押収されていた。だがそれがすべてではなかった」

そう言う事だろうと伝えるとダン・レアリーはそれはかなり問題だなと話した
確かに問題であることは間違いない。
スタントン州で強制捜査を踏み切ったときにいったいどれだけの麻薬が押収されなかったのか
それらの摘発を逃れた麻薬がクラナガン市内でどのように流通しているのかが大きな懸念事項だ
市内で拠点を持っているギャングやマフィアなどの犯罪組織に麻薬が流れていたら穏やかな話ではない
何としても流通している物を摘発しなければいけないのだ
犯罪組織にとっても貴重な収入源であり、麻薬密売の資金を使ってさらなる危険な犯罪に関与してくる

「今は当時のスタントン州で押収された時の捜査資料を確認する。何か情報をつかんだらすぐに伝える」

『そうしてくれ』

通話を終えるとちょうどマルチメディアラボに到着した
分析官は席を外していた。休憩でもしているのだろう
レックスは自分のIDカードでセキュリティロックを解除してラボの情報端末を使用した
まずはスタントン州での麻薬押収についての捜査報告書を閲覧した
事件捜査報告書によると麻薬密造組織の1つであるアガレストいう組織だ
国内の麻薬密造シェアは3割ほど。さらにこの組織は銃などの密造も行っている
かなり派手に活動している犯罪組織である。国内では麻薬や銃火器の密造組織は4つの組織がある
4つの麻薬や銃の密造密売組織は自分たちの組織に利益が流れるように時には対立する組織間抗争を起こしている
AMF機能を組み込んだ銃弾が作り出せるようになってから銃火器の密造密売はかなり増加している
AMFが組み込まれた銃弾が流通していることによって、
国内だけでなく次元世界連合加盟国では犯罪発生率が大幅に上昇している
取り締まる法執行機関も魔法では防御できないので警察業務の職員の負傷率が上昇している

「市内でどれだけの麻薬が流通しているかを調べるのはかなり苦労する」

麻薬密売はミッドチルダだけでなく多くの次元世界国でも問題になっている
時空管理局から大量リストラされた退役時空管理局員が自分たちの今の状況を見て悲観的になったことで、
麻薬に手を出すケースが大幅に増加しているのだ。
犯罪組織にとっては麻薬は多額の資金稼ぎができる重要なビジネスになっている
さらに麻薬欲しさに犯罪に走る退役時空管理局員も増加。
取り締まる法執行機関はあまりの事件の増加に対応が後手に回っている

「まったく、クラナガン市内でどれだけの麻薬があるか」

見当もつかないなとレックスはそう言うと港湾犯罪捜査部のオフィス、
港湾パトロール基地別館庁舎の7階に向かった。
そこでは港湾犯罪捜査部のオフィスがあり捜査部と同じでオペレーションルームがある
機密情報の取り扱いができる専用の区画があるのだ
彼が7階に到着すると港湾犯罪捜査部のトップであるブランダ・ヴァレンティアのオフィスを訪ねた

「久し振りだな。対面して会うのは」

「レックス。元気そうね。私たちが担当しているところは比較的穏やかだけで捜査部は市内全域」

苦労する部署ねと彼女は話した
港湾犯罪捜査部は主に基地内や港湾区画など、中央本部捜査部よりも管轄エリアは限定される
だが命のやり取りをしていることには変わりがない
法執行機関の人物はいつ死ぬかわからない任務に就いているのだから

「スタントン州警察に知り合い入るか?」

「まぁ知り合い入るけど、どうするつもり?」

「スタントン州で行われた時空管理局による麻薬押収事案に関する情報開示を要請してほしい」

「レックス。わざわざ私に頼まなくてもできると思うけど」

捜査部捜査官なら難しいことではない。
なのになぜそれを港湾犯罪捜査部に依頼するのかブランダは疑問視していた

「中央本部がこの件に動いていることを今は知られたくない。特に麻薬密売をしている連中にな」

「なるほどね。港湾犯罪捜査部の連絡事務所がある私たちに頼みたいわけね」

スタントン州の連邦軍基地には港湾パトロールの部隊は配置されていないが連絡担当官は配置されている
彼らを通すことで時間的余裕を生み出そうとレックスは考えていたのだ

「仕方がないわね。こちらから連絡してもスタントン州警察がすべてを開示してくれるかは保証できないわよ」

それぞれ管轄というものがある。素早い情報開示は簡単なことではない
手続きをしている間に数日もかかるケースがある。
ブランダはそれは覚悟のうえでの判断米とレックスに伝えた

「そんなことはわかっている」

レックスはこちらが直接動くと市内の犯罪組織にも影響が出ると話した
証拠が消される前に情報収集するためには港湾パトロールに依頼をした方が良い

「仕方がないわね。問い合わせはしてみるけどすぐに開示してくれるとかはあまり期待しないで」

「港湾犯罪捜査部のトップからの依頼なら断る法執行機関は少ないだろ。時間は必要かもしれないが」

レックスの言うとおりだ。時間はかかることはわかっている。
だが港湾犯罪捜査部のトップから要請を受けたらよほどの事情がない限り断る法執行機関はない
彼はブランダに依頼をした後は中央本部に戻ることにした


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中央区南部区域サーストン地区6番街2丁目 クラナガンセントラルバンク本店

ジャネットはすでに強盗犯の10人とも指紋からほとんど全員の身元確認はできていた
聖王教会騎士団の騎士団だったが聖王教会が規模を縮小するにあたり退団した騎士である
次元世界連合の指名手配が行われている人物たちだ。
10億ミッドも強盗するとはかなり金に困っているのだろう
そうでなければここまで派手に動くことは考えられない
次元世界連合か10人を指名手配している理由はベルカ州の前身である自治区時代にかなり犯罪組織と関わっていたからだ
主に麻薬密造の時に場所を提供していたのだ。
マリファナを栽培するための場所を提供するとともに摘発されないように捜査情報を流していた
他毛で犯罪組織はかなりの麻薬関係でビジネスが成功していた。
多くの犯罪組織がベルカ州内の法執行機関で摘発されている
それでも州内では今もかなりの麻薬密造場所があるとベルカ州政府は発表している
あまりに多すぎることから調べるのもかなり大変なのだ

「聖王教会騎士団時代にかなりトラブルを抱えていたことは間違いないわね」

銀行強盗をしているがかなり連中は手慣れていることはすぐに分かった。
10億ミッドも強盗する連中だ。動きに無駄がない。5分以内に強盗を行って素早く撤収している
洗練されていることは間違いない

「それにしても10億ミッドとなると1人1億ミッドも大金を持って市外に逃げだす」

問題はその金をどうするつもりかである。銀行預金に預けることができないもの
つまりどこかに隠す必要がある。犯罪組織に借金があってそちらに支払いをするつもりなのかもしれない

「銀行強盗犯10人の身柄を早急に確保しないと市内から逃げ出される」

ジャネットはあらゆる逃亡手段を考えていた。
身柄を確保するためにもできるだけの情報収集をしなければならない
もし車をどこかで乗り換えられたり貨物列車に隠れて乗りこまれたら追跡するのはかなり困難になる
一応逃走に使用している車は追跡させているがどこかで乗り換える可能性はかなり高い
車を乗り換えられたりされたら捜索は難しいことは事実だ
ジャネットは銀行の窓口担当の社員に事情聴取をしていた

「犯人を追跡することは可能ですか?」

「お金を入れるように命令されたバックには携帯型の位置情報発信装置を入れています」

それは銀行の社員にマニュアルとして定められていることだ。
人工衛星による衛星測位システム機能がある発信装置を犯人に何とかして入れることが定められている

「追跡番号を」

ジャネットは衛星測位システムとリンクしている位置発信装置のシリアル番号を確認
その番号を追跡用のシステムで確認すれば位置がすぐにわかる。装置が捨てられていなければの話だが

『ピッ』

結果は今も衛星測位システムの発信装置は機能していた
現在位置は東区中央区域にいた。より正確な位置を確認するために装置をリンクさせた
クラナガンハイウェイ4号線(東線)東行きを走行していた。このまま港か鉄道の駅に向かう可能性が高い
大至急、逃走車を確保しなければ10人全員の身柄確保は難しくなってしまう

「SA15から中央本部。クラナガンセントラルバンク本店を襲った犯人がクラナガンハイウェイ4号線で逃亡中」

『こちら中央本部。了解した。すでに手配をかけている。身柄確保ができ次第連絡する』

さらに犯人の逃走先になりそうなところの警戒監視の強化も要請した
空港だけでなく船舶が接岸できる港や貨物ターミナルのパトロール事務所にも警戒を呼び掛けた
少しでも市外に逃走することに利用できる交通手段を断つことが求められる

『港湾パトロールにも呼びかけをしておく。他次元世界から入港している次元空間航行貨物船にも確認させる』

次元空間を航行できる貨物船を逃走手段として利用されるとミッドチルダ連邦国外に逃げられる
そうなると身柄確保するのはより厳しくなってしまう。
国外に逃げられることは絶対に許すわけにはいかないのだ

「パトロールはこちらが逃走位置をつかんでいることを察知させないようにして」

もしかばんに入っている発信機からの信号が途絶えたら追跡するのは簡単なことではない
こちらが完全にマークしていることを気づかれないようにと伝えると無線交信を終えた
今はすぐに位置情報がわかっていることが知られたら、最悪の場合には逮捕することが難しくなる

「できれば穏やかな事件解決を目指したいけど難しいかもしれないわね」

ジャネットは銀行内で発砲して壁にめり込んだ銃弾を回収した。
店舗内で数発の銃の発砲があった。弾は7.62x39mm弾だ。
この銃弾を使われる銃で最も多いのはAK-47だ。銃の整備が簡単であること。
低価格で製造できることからブラックマーケットで流通している量はかなり多い

「AK-47ね。まあ、監視カメラの映像を詳細に調べればすぐにわかるはず」

あとはライフルマークを照合して過去に使われた事案があるなら、
その事件についても調べなければならない

「ラボで調べないと」

今回の銀行強盗犯は素早い動きをしていた。窓口の店員に銃を突き付けて金を要求。
店員も逆らえば殺されることはわかっている。抵抗するのはあまりにもリスクがある
それでも緊急通報システムのボタンを押すことはできる。
また銀行の店舗には警備のためにパトロール捜査官を営業時間内は配置している
これも銀行強盗の数を少しでも減らすためである
現在は大幅に減少しているし、仮に強盗に入っても素早く強盗犯の身柄確保ができている

「FBIが乗り出してくることになりそうね」

次元世界連合が指名手配をしている人物による銀行強盗なのだから当然と言えばそうだ
クラナガン市内だけでなくほかの州でも犯罪を行っていたらFBIも関わってくる
さらに次元世界連合も捜査状況を常に知りたいと思うのは当然である

「次元世界連合の聖王教会調査委員会に連絡しておかないと」

ジャネットはすぐに次元世界連合にいる聖王教会調査委員会委員長に連絡した

「ノーザン・テリトリー聖王教会調査委員長。中央本部捜査部のジャネット・パウワーです」

『ジャネット。久しぶりだな。聖王教会騎士団過激派が銀行を襲ったことについてはもう連絡を受けている』

状況はかなり危険な様子みたいだなとジャネットに返答した
さすが聖王教会調査委員会のトップをしているだけの情報収集能力を持っていますねと彼女は伝えた

『ベルカ州でのクーデター騒動でこちらは苦労しているがな。聖王教会に関係する情報は常に最新のものが必要だからな』

「聖王教会本体がクーデターに関わっているのかどうかについてはわかっているのですか?」

聖王教会が自らの権益を取り戻すために組織ぐるみでクーデターに絡んでいたら大問題になる
教会はあくまでの国際機関だからである。政治を担っている組織ではない。

『聖王教会の動きに関してはこちらでも常に監視している。必要なら安全保障理事会に対して強制査察に踏み切る』

安全保障理事会が承認すれば強制査察はできる。
もし何も不審な事実が見つかれば証拠隠滅のためにいろいろと動き出す。
組織のメンバーも殺すこともありえる。組織を守るためにはどんなことでもしてくる
証人が消されてしまうと証明することができなくなる

「聖王教会が組織全体で動き出したら連絡を。市内の聖王教会施設の警戒レベルを引き上げておきますので」

クラナガン市内にも数多くの聖王教会の施設はある。
医療機関や学校が数多く存在している。以前なら活動については詳細に報告する必要はなかった
しかし次元世界連合が発足してからは活動内容を報告することが義務付けられている
不正行為を起こさせないようにするためである。
それに聖王教会の財務記録についても監査を受けることが義務付けられている
少しでも不審な聖王教会活動費用があれば、次元世界連合で問題提起をすることができる

『クラナガン市内の聖王教会の活動監視は中央パトロールの方が得意だからな』

ジャネットは警戒監視のためにクラナガン捜査局が聖王教会や時空管理局の施設の監視をしていることを知っている
彼らが暴走してクラナガン市内で反乱を起こさないように常に監視している

「クラナガン市内の関係施設の監視はこちらで手配をかけておくわ。ベルカ州の状況については何かわかったら連絡を」

わかっているというと通信は終えた
あとは銀行強盗を起こした10人を追跡して確保すること
それが捜査の最優先事項である。見逃すことは許されないのだから

『東分署からSA15。そちらが手配している銀行強盗犯が使用している車を発見。現在秘匿追尾中』

秘匿追尾ということはパトカーではなく覆面パトカーで追跡している
ジャネットは安全に配慮しながらも身柄拘束のために動くように東分署に要請した

『了解。行動を起こすのは安全が担保されてからとする』

クラナガンハイウェイを走行しているということは制限速度の時速120kmで走行している可能性が高い
不用意にアクションを起こすと大きな事故につながりかねない。
犯人が死亡したら真実は永久に聞くことはできない。
聖王教会の内部構造などの真相を調べるためにも生け捕りにすることが求められる

「あまりことはうまく進むとは思えないけど、東分署の刑事やパトロール捜査官の腕の見せ所ね」


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西区東部区域ウエストクルック地区3番街3丁目と4丁目の間の通り

クレスタは警戒していた。まだ何か大きなことを隠れているのではないか
また爆弾事案が発見されたらその場所に向かって爆弾の解体を行う
ただ時間的に間に合えばの話である。気づいたころには手遅れになるかギリギリということが多い

「何が起きても今は不思議に思わないな」

クルック地区で爆弾事案が現時点で見つかっている
つまりまだ続きがあるかもしれないということだ。それを調べなければならない

『ピーピーピー』

発信者はクルック地区分署の爆弾ラボからだ。
クレスタが解体した爆弾について分析を依頼したその結果を報告してきたのだろう彼は考えた

「爆弾の製造元はわかったか?」

『はい。爆弾に指紋が付着していました。名前はゴーズ・シェレスタ。32歳。退役時空管理局員です』

退役時空管理局員が爆弾を使ってここに設置するとは何を考えているのか
何か不満を抱えているのかもしれない。だから爆弾を作ったと考えられる
そうでもなければここに爆弾などを設置するはずがない
重要なのはどういう考えで爆弾を製造して設置したかだ
クルック地区は国際政治の中心地だ。そんなところで問題を起こせばどうなるかわかっているはず
にもかかわらず複数の爆弾を設置している。いったい何を考えているのか想像できない
もしかしたら時空管理局からリストラされたことについて恨みがあって行っている可能性はかなりあるが
しかし断定するにはまだ時期は早すぎる。爆弾を製造したゴーズ・シェレスタの身柄を確保しなければ
この人物の記録を携帯情報端末で確認すると時空管理局地上本部に在籍時に不正行為に関与したのではないか、
そのことについて時空管理局犯罪捜査局の捜査対象になっていた
不正行為の内容は時空管理局に物資を納品していた業者からかなりの金額の金を受け取っていた
こういう案件は珍しいことではない。
多くの時空管理局の幹部は業者から金を受け取ることで便宜を図っている
物資納品業者は安定的な収入源を確保できる。
さらに高値で物資を納めることができるので高額な利益を得る
お互い不正という名の歯車がうまく連結されている。
時空管理局の規模が縮小したことで、物資納入も随意契約から競争入札に全面変更
これで物資調達費は削減することに成功した。
時空管理局と随意契約で納入していた企業の倒産が相次いでいる
競争入札では納入競争で負けることが続いているからだ

「時空管理局本部に攻撃をしかけるつもりかもしれないな」

クルック地区には時空管理局本部が設置されていて、事務方部門はここに集約されている
彼らの活動は次元世界連合が監視、必要なら監査を行っている
ベルカ自治区時代と同じような自由に活動することは認められない
全て次元世界連合の承認が必要である。時空管理局も多くの権限を次元世界国に返還
今の管轄できる区域は主に次元空間と無人世界に限定されている
それらで活動するにもすべて時空管理局は次元世界連合へ報告することが義務付けられている
好き勝手に活動することが認められているというわけではない
今までは時空管理局があらゆる意味で自由に活動するとともに、
そのための費用を各次元世界国に強硬に拠出することを求めていた
現在の状況は一変しているため時空管理局員や退役時空管理局員はかなり危険地帯にいる状況なのだ

『クルック分署から各員へ。クルック地区3番街で不審な行動をする人物を確認。至急職質を行え』

3番街には次元世界司法裁判所・次元世界通貨基金・無人世界管理機構の本部が設置されている
次元世界司法裁判所は次元世界連合憲章に基づいて、争っている次元世界同士を武力による争いでなく、
裁判という平和的な解決をするための組織である
ちなみに裁判に関係する当事者は必ず対応することが義務付けられている
無視という不参加することは絶対に許されない
そんなところで不審人物がいるということは何か危険な行動をするかもしれない

「SA23からクルック分署。クルック地区3番街に急行する」

『了解。安全確保を最優先にして行うように』

その指示は当たり前だ。不審人物が何をするかわからない
そういった人物に職務質問をするのは高いリスクがあるのだから

『顔認証システムでの照合作業が完了。退役時空管理局員で名前はアレクシ・ボーイック。女性。年齢は38歳』

クルック分署からの無線報告に危険な気配をクレスタは感じた
退役時空管理局員が何をするためにこの地区に来たのか。
もし何らかの攻撃のために動いていたら大きなトラブルになる

「SA23からクルック分署。対象者に暗い過去があるのか確認できるか?」

クレスタは時空管理局に所属していたころに職務違反行為があったのかを確認したかった
もし1つでも違法行為があると逆恨みで何かを仕掛けてくることがあるからでもあった

『時空管理局犯罪捜査局に問い合わせたが現在は不審な経歴は確認されていない』

不審な経歴がないというニュースは良いことだ。
ただ、まだ完全に調査が終わっていないだけということも考えられる
もしもの場合に備えておく必要がある。

『BP58001からクルック分署。対象者の職質を行いましたが、飲酒の影響でろれつが回らない状況と思われます』

酒に酔っているとなれば、アルコール中毒で倒れる可能性がある
念のため医療機関で診察を受けさせるのが規則になっている

『クルック分署からBP58001へ。すぐに救急隊を手配します。命の危険性はあるのか?』

『かなり酒が入っていると思われます。アルコオール中毒に近い状況と思われます。至急ERに搬送することが必要と判断』

クレスタはそれらの無線交信を聞きながらも現場に向かっていた

「SA23からBP58001へ。念のため危険物を所持していないかの確認を行え」

『了解。直ちに行います』

まずはどうしてここに来たかの理由を探るためにも所持品の確認は行わなければならない

『BP58001からSA23。いくつかの錠剤が入ったパケを確認。エクスタシーの可能性があるのでラボで分析をさせます』

麻薬所持疑惑で身柄拘束するための条件は整った。
錠剤がエクスタシーなどの麻薬なら麻薬所持で逮捕することができる
ただし麻薬とお酒を同時に摂取するのはかなり危険なカクテルだ。
ショック死をすることも考えられる。病院で血液検査をしてどういう状況であるかを確認しなければならない
麻薬の過剰摂取は極めて危険なことである。今はアレクシ・ボーイックを近くの医療機関に搬送して検査が必要だ
クレスタは身柄確保された場所に急いで向かうしか今は手の打ちようがない
現場にいるパトロール捜査官や刑事に対応を任せても問題ないが、
どういう目的でここに来たのか確認は必要になる
クルック地区で近隣地区は国際政治の中心地なのだから、警備が厳重にしないといけない

『クルック分署からSA23。さらに不審動きをする男性を確認した。クルック地区1番街です』

クルック1番街には次元世界連合本部庁舎と会議室や議場がある別館ビルなどがある
最も警戒レベルが高いところである。そんなところに不審人物にいるのはあまりにも危険すぎる
身柄確保を行ってそこから離さなければならない。もし人間爆弾などのために動いていたら大きな問題である
人間爆弾。簡単に言えば体に大量に爆弾を巻き付けている。自爆と言ってもいいだろう

「了解した。そちらの現場に進路を変更する。現在そちらに警備担当のパトロール捜査官はいるのか?」

『包囲網を展開しています。まもなく身柄拘束を行います』

「スタンガンなどを使っての行動静止は控えておけ。もし人間爆弾の場合、身に着けている爆弾が起爆する」

雷管に少しでも衝撃が伝わった瞬間に体に爆弾を身に着けていたら起爆することは容易に想像できる
そうなれば多くの人々が死ぬ可能性も出てくる。そんなリスクを考慮に入れて対応するのは当たり前である
クレスタはとにかく急いで現場に向かった