温室に到着すると、室内は極めて暖かい。
暖房魔法によって温室の温度は26度に保たれている
そんな温室を散策するのはちょっとした散歩コースだ
時にはここでお茶をしているお母様と鉢合わせになるが
今日はそんなことはなかった。
ここの維持管理は温室担当の係官とお母様がじきじきに行っている
お母様の自分の研究のためだといっていた
どんな研究なのかは聞いたことはないが
温室に置かれているテーブルとイスに座るとアリスが

「何か用意させましょうか。紅茶でも」

だが、私はただイスに座って周りの光景を眺めたかっただけだ
何か飲み物がほしいとは考えていなかった。
そんななか、温室に来客が訪れたようだった

「なんだ。リリアか」

入ってきたのはフェンリルだった。
彼は人の姿をしていた。
フェンリルは人の姿に変身できる守護精霊みたいな存在なのだ
ただし頭には狼耳がついていたが
無愛想な態度に私は慣れっこだ
フェンリルはいつもこんな無愛想な態度だから仕方がない
彼が笑みをこぼしているところなど見たことがないのだから

「そうですよ。リリアですよ。それにアリスもいますよ」

「アリス、雛鳥はしっかり守れよ」

雛鳥。それはフェンリルが私につけたあだ名だ
私にとってはこそばゆい物であったが、嫌いではなかった

「雛鳥は雛鳥らしくしてますから安心してくださいね。ねぇ、アリス」

私がアリスに同意を求めると苦笑いで返してきた。
彼女の私のことを雛鳥と時々呼んだりする

「リリア様は私がお守りをしていますからフェンリル様は城内の警備に集中してください」

アリスの反撃にフェンリルはそうかとだけいうと温室を出て行った

温室で数時間を過ごした私達は夕食の時間を迎え始めた
そのため、温室から出て私の私室に戻っていった

「アリス、今日の夕食は私の部屋で取るわ」

その言葉にアリスは驚きの表情を浮かべていた

「よろしいのですか。お父様やお母様がお怒りになられますが」

「たまには駄々っ子のお願いくらい聞いてくれるわ」

そう、私は今まで良い子でいつ続けた
たまには駄々っ子になってもいいだろう

「わかりました。ユリアーナ様にはそのようにお伝えしておきます」

「お願いするわ。私は部屋で日記でも書いて料理が来るのを待っているわ」

「すぐにお持ちいたします」

私の言葉にアリスは私の私室から出て行った
私は私専用の執務机に座ると、日記帳に日記をつけ始めた。
今日はなにをしたかなどたいした事はないが
日記をつけるのは習慣化になっていった
そこにドアがノックされた。アリスが帰ってくるには早い。
私は少し警戒しながらどうぞというと入ってきたのは人型のフェンリルだった

「なんだフェンリルだったの。警戒して損しちゃった」

「お前、俺に警戒するほど怖いのか」

「怖いのはこのお城の人たちよ。アリスからいつも言われているもの」

そう、アリスから城の人たちに良いように利用されないように警戒は怠るなと

「お前はまだ子供だろう」

「子供でもお姫様に生まれた以上仕方がないことよ」

そう、私は割り切っていた。仕方がないことだと
そこにアリスが戻ってきた料理を持って

「これはフェンリル様、我が主に何かご用件ですか」

アリスはフェンリルのことを良く思っていない。
それは過去に何かあったそうなのだかららしいが
詳しいことは私も知らない

「いや、ただの見回りだ。それじゃあな」

フェンリルは部屋を出て行った