私の名前は水川カオリ。この海辺にある小さな町にすんでいる19歳の女性だ
ただ私には記憶がない。16歳より前の。私はこの海岸の町で3年間生きているが記憶が戻る気配はない
でも今はそれでいいと思っている。今の私には大事なものがあるからだ
記憶を失って放浪していた私を引き取ってくれた大切な今の両親だ。
両親以外にもこの町に住んでいる写真家の男性。そして、私がすんでいる旅館で住み込みでお仕事をしているみんな
私にとってはそれだけで幸せだった。それ以外は今の私には必要のない者だった
たとえ記憶が無くても良い。それでも今の私は幸せだ。
この町で平和に生きていけるならそれでいい。でも時々夜寝ている時に夢でうなされる時がある
まるで何かに追いかけられている夢だ。私は必死に逃げているのに彼らは追いかけてくる
どこに隠れようとずっと追いかけてくるのだ。私を獲物にしているかのように
だから、そのたびに私は飛び起きてしまっている。そのたびにお母さんが眠っている部屋に行ってベットに潜り込んでしまう
初めから一緒に寝ればいいと思ったりもしたけど、19歳にもなって恥ずかしいという感情はある
私は浜辺で夕陽を見ていた。いつものことだ。旅館で必要なお酒などを注文するために家から15分ほど離れたお店に注文に行く
電話でも良いかもしれないがそれでは私が家から一歩も出ない事を両親は知っているのかいつも私の担当
私にとっては家族のためになるなら別に気にする事ではないのでいつもお酒の注文をして昼から浜辺で海を見たり
防潮堤で釣りをして時間を潰した後、自宅がある旅館に戻るのが日課となっていた
これがいつものあたりまえの光景なのだ。たとえ記憶が無くてもそれでもいい
私は今を生きているのだから。幸せな家族と一緒に。
たとえ血縁関係が無くても、家族と思っているなら家族なのだから
だからそれでいい。私は今日は浜辺で夕陽を見ていると写真家の男性で旅館とは反対側の丘に住んでいる相葉ユウさんが声をかけてきた

「カオリちゃん。今日もお散歩かな?」

「はい。いつもの事ですけど」

わたしにとってはこれはいつものことだ