私は彼らにエサを与えた後。別館にある自室に戻ると金庫から手紙を取り出した

「いったい誰からの手紙なの?」

私のいつもの考え事だ。誰が?何の目的で?
別に脅迫するわけでもなければ何かをしてほしいというものでもない
ただ健康でいてほしいという事を願っているという事は分かる
でも一体何の目的で。ここにいることが分かっているなら直接会いにくればいいのに
住所が分かっているならできるはずだと。なのにいつも手紙だけ。
それも毎回消印は違う場所。差出人はたぶん女性だろう。字もきれいだし
手紙からは良い香りがするときがあった。香水の臭いかどうかまでは分からないが
私は別にそういうのには興味はない。服はいつもネット通販などで頼んでいるが
別に時代の最先端を行きたいというわけではないのでいつも少し地味目の服を着用している
その方がこの海岸の町では浮く事は無い。むしろこの町の空気が派手なものを嫌っているのかもしれない
まぁ、そんなことは別に私にはどうでも良い事なのだが
以前1度だけ海外からの郵便だったことがあるが。そこに手紙を書いたが宛先不明で帰ってきた
いったい誰からなのか。わからないままだった。
その日は悩んでも仕方がないと思って眠りにつくことにした。

「私ってなんで記憶がないのかしら」

それは私の中で時々出る悩みだ。何故記憶を失ったのか。なぜこの町に来たのか
眠っていると突然室内に設置されている電話が鳴った

「誰なの?こんな時間に」

基本的に別館の電話はそれぞれの部屋に個別の電話番号がきちんと割り当てられている
今まで私の部屋の電話はなった事がない。

「はい。水川カオリです」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・プープープー』

「間違い電話だと良いけど」

思わず私は金庫の方に目を向けた
もし手紙の差出人と関係があるならと思って発信者番号を見ると公衆電話だった

「気味悪い」

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翌朝、私は毎日と同じように午前8時に目が覚めた
目覚まし時計をセットしなくても、私は規則正しく起きることができる。当たり前かもしれないが
目を覚ますと私は電話を見た。その時留守番電話にメッセージが入っているのを見つけた
恐れを感じながら、聞くためのボタンを押した

『突然のお電話すみません。今日の昼にもう1度電話します』

メッセージはそれだけだったが女性の声だった。私はもしかしたらと思った
記憶を失ったときのピースが戻るかもしれないという希望を。その日は偶然にも日曜日だったため、
私は朝食も食べることなくずっと電話の前で待ち続けた。そしてお昼の正午ぴったりに電話が鳴り始めた
私は震える手を必死に抑えながら、受話器に手を伸ばした

「もしもし、水川カオリです」

『‥‥‥‥‥‥‥‥初めまして、私の事を覚えてますか?』

声は女性で私よりも年上の人のように感じられたが聞き覚えはなかった

「ここ半年、お手紙をくれた方ですか」

『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい』

「どうして」

『これからでも良いので1度お会いしたいのですが、お時間を作っていただけませんか』

突然の申し出に私は戸惑った。見ず知らずの他人に待ち合わせの要望があってもすぐには答える事はできない
でもその時、真相が分かるかもしれないと思って思わず良いですよと答えてしまった

「今日は会えますか?隣町にある駅で待ち合わせをしたいのですが良いですか。午後3時に」

私はこの旅館の隣町にある鉄道の駅を指定した。電話の相手の女性はすぐに大丈夫ですと答えた

「1つだけ質問をしても良いですか?どうして突然半年前にお手紙を?」

『その時にすべてお話します』

そう言うと彼女は電話を切った。私は今の両親に何も相談せずに答えたことに少し負い目があった。
でも相談はできないと思った。今更過去のことについて掘り返している事を気づかれたくなかったというのが少しあったからだ
それからすぐに私の部屋のドアがノックされた。私は思わずびくっと肩を揺らしながらもすぐにいつもの冷静な態度に戻す
立ち上がるとドアに向かった

「はい」

ドアを開けると、お母さんがたっていた。

「お母さん」

「ごめんなさい。悪いとは思ったけど。電話を聞いていたの」

「盗聴していたの!?」

「そんなことはしてないから。ただちょうどドアの前にいたの。ここのドアは薄いから」

聞こえていたのと呟くように言うとお母さんはそういう事になるわねと言った

「お母さん。たとえ、明日会いに行く人が実のお母さんでも、記憶の中にあるのは育ててくれたお母さんだけだから」

それに手紙を送ってきた理由を知りたいしと言って何とか正当化すると。気をつけてねと言うと私に車のキーを貸してくれた。
私も19歳だから免許は持っている。車の運転はできる。お母さんは私にお昼ご飯を手渡してくれた
それを受け取ると、お母さんは仕事に戻るねと言って戻っていった
私はとりあえず昼食を食べるために室内のテーブルに持ってきてくれた昼食を並べると食べ始めた
いつもならテレビでも見るところだが。今日はそんな気分にはなれなかった
むしろ緊張をしていた。食事を食べ終えると食器を持って食堂に行き、厨房のおじさんに返した
そして駐車場に行くと軽自動車に乗り込み私は隣町の駅に向かった