旅館に戻ると私はすぐに自室に引きこもった
今更だ。3年間という長い時間の中で思っていたのはお金だけなのかと
お金なんてどうでも良い。そんなものよりも会いに来てほしかった。
そして真実を知りたかったのにわざわざ他人にさせるなんて許せなかった
それだけはどうしても

『トントン。カオリ。大丈夫?』

「・・・・・・・・・・・ごめんなさい。今日は外には出れないの」

『‥‥‥‥‥‥何かあったの?』

お母さんに尋ねられても私は会わせる顔がなかった。どうして良いかもわからなかったし私は今は1人にしてと伝えた

『わかったわ。でも何か相談したいことがあるなら、いつでも良い私の部屋に来てね。あなたは私の自慢の娘だから』

そう言うとお母さんは私の部屋の前から去っていった。
私はドアの前で崩れてしまった。何もかもが嘘のように感じられた
お金なんて欲しいとも思わない。ただ、愛していたと伝えてほしかった
なのにこんなのはあんまりだった。そのとき電話が鳴った。恐る恐る電話機に近づくと公衆電話ではなく固定電話からだった

「もしもし」

『‥‥‥‥‥‥ごめんなさい。お話は聞きました。突然の事で「そんなのどうでも良いです。どうして、どうしてあなたが来ないんですか?!」』

「本当に探してずっと会いたいと思っているならどうして」

『あなたに会って拒絶されるのが怖かったの。今更家族ずらするなんて図図しいにもほどがあるのは分かっていたので』

「でもあんなに手紙をくれるならどうして!」

『あなたと会うのが怖かったの。あなたは今は別の人生を生きている。でもあの人が残してくれたたった1つの忘れ形見。だから」

「だからって、お金だけで解決するつもりだったんですか!私はお金なんて欲しくない!ただ、ずっと探していたし愛していると直接言われたかった!なのに!」

そう、ただそれだけでよかったのだ。たったそれだけの事なのに
それがとてもつらかった。

『ごめんなさい。私には今はそれしか言えないんです』

そう言うと電話は切れてしまった。私は感情的になった事に少し後悔しながらも、それでも仕方がないと思った
これが事実なのだから。たった一言だけで良かったのに。
それから私は部屋にあるパソコンで本当の自分の名前について調べてみた。すると驚いた。
情報提供者には1億円の謝礼金を払うと書かれていた
ただ、写っていた写真は当時は短髪だった私の姿で。今は私は腰まであるロングヘアだ。
知らない人にはすぐにはわからないのも無理はないかもしれない
でも探偵に調べさせたならわかったはずだ。その時に会いに来てくれたら。まだここまでの感情を持つ事は無かったかもしれない。
私はホームページをずっと読んでいくと小さなメッセージを見つけた

『私達はあなたの事を忘れません』

そう記載されていた。私はポケットにしまった名刺を取り出すと電話をかけた

「水川カオリです」